※この作品はR-18です。

花塵   作:天城 悠理

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<上>

 桔梗の部屋に辿り着いたはいいが、なかなか声をかけることが出来ず、襖の前で茫然と立ち尽くすことおよそ15分。

(早く何か言わないと……。僕はいったい何しにここまで来たんだよ……!)

 そう思いはするものの、やはり何も言葉に出来ずに、やはり出直そうかとまで考え始める。

(や、やっぱり……もうちょっと気持ちが落ち着いてから……。あ、いや、でも……桔梗さんを傷つけたままでいいわけがないよな……。早く謝らないと……)

 ゴクリと息を飲み込み、「あの……」と、勇気を出して声を出す。

「……はい?」

「さ、さっきはその……すみませんでした」

 一度しゃべり始めると、意外とスルスル言葉が出てくるようで、鬼太郎は続けて話しかけていく。

「体調がもういいようでしたら、一緒に川遊びに行きませんか?」

 そう尋ねると目の前で、音もなく襖が開く。

「…………」

「あ……」

 泣いていたのだろう。

 桔梗の目が赤く、そして睫毛が濡れている。

「桔梗さん、あの……僕、本当に――」

「……ご覧になったのでしょう?」

 すみませんでしたと続けようとしたところで、声を遮られる。

 そのせいではないのだが、答えに窮していると、「軽蔑、しました……?」と重ねて聞かれた。

 そんなことはないと、今度こそ早く答えなければと思い、口を開くと――

「でも……お願い。どうか嫌わないでください……っ」

 桔梗は声を震わせ、涙を湛えた瞳で、そう訴えかけてきた。

「き……嫌うわけない! 嫌いになんて、なれるはずないじゃないですか!!」

 急に大きな声を出したせいだろう。

 桔梗がビクリと肩を震わせる。

「あ……。お、驚かせてしまったみたいで……すみません。でも、桔梗さんのこと、嫌いになんてなるわけがな――」

「鬼太郎さん……っ!」

 声の途中で抱きつかれ、今度は鬼太郎のほうが驚き、固まってしまう。

「嬉しい……。あぁ……本当に……。ありがとうございます……」

 抱き締める腕に力が込められていき、身体が密着するに従って、桔梗の豊満な乳房がグイと胸に押し付けられる。

「…………!」

「良かった……。私、もう話もしてもらえないんじゃないかと、そう思っていましたのよ……」

 下着をつけていないのか、鬼太郎の胸の上でグニャリと変形する乳房。

 その感触がつぶさに感じ取られ、鬼太郎はますます身を固くさせていった。

「…………ッ」

「……鬼太郎さん」

「は、はいっ……?」

「昨日は、私から誘っておいて……ごめんなさいね。そのお詫びというわけではありませんけれど、よろしければ今夜、花火大会に行きません?」

「花火大会ですか?」

「ええ。村の広場で花火を打ち上げますの。大規模なものではないですけれど、良かったらお父様とねずみ男さんもご一緒に」

「ありがとうございます。じゃあ、お言葉に甘えて」

「ふふ、嬉しい。今日は川にも一緒に行けますし、楽しいことがいっぱい。……鬼太郎さんがこの村に来てくれて……本当に良かった……」

 言って、ようやく桔梗が笑ってくれたので、鬼太郎はホッと胸を撫で下ろした。

 

           * * *

 

「そりゃそりゃ~~~」

「きゃっ、冷たい……! ふふっ……」

 パシャパシャと、川で水を掛け合う目玉おやじと桔梗。

 その傍では鬼太郎が、足湯ならぬ足水をしている。

「ふぅ~、気持ちいいですねぇ……」

「まだ6月じゃというのに、日差しが強いからのぅ」

「本当に。冷たいお水が気持ちいい……。ねずみ男さんともご一緒できれば良かったのですが……残念ですわ」

 桔梗がねずみ男も誘おうと言ったのだが、部屋に彼はいなかったのだ。

「ねずみ男……。あいついったい何してるんでしょうね? 父さん」

「さぁのぅ。どうせロクなことじゃなかろうて」

「また面倒なこと、起こさなきゃいいけど……」

 ふぅ、と大きくため息をついていると、近くでドブンッと何かが水に沈む音が聞こえた。

「……ん? あ……ッ!」

 見ると、子供が川で溺れていた。

「わぷっ! ぷはッ、はッ、た……助けてーーー!」

「……君! 大丈夫か!?」

 鬼太郎がそう子供に声をかける間に桔梗は駆けだし、川に飛び込んでいった。

「き、桔梗さん!?」

 着物で川に入ったりしては危ないと、急いで自分も飛び込み、二人の許まで泳いでいく。

「ゴフッ! うぶっ……ケホッ、ケホ……ッ!」

「大丈夫ですわ……! ジッとして……!」

 子供を抱えて、必死に泳ぎ、岸を目指す桔梗。

 しかし水をたっぷりと含み、重くなった着物が手足に絡みつき、思うようには動かせない。

「く……っ」

 自分も水面に沈みそうになり、眉をしかめていると――

「桔梗さん!」

 追いついた鬼太郎が、子供ともども抱えて泳ぎ、川岸まで連れて行ってくれた。

「ケホッ、ゴホ……ッ!」

「大丈夫……!?」

 子供の背を撫ぜ、水を吐かせてやる桔梗。

 しばらくすると、子供は呼吸を落ち着かせ、「ありがとうございます、鬼姫様」と微笑んだ。

「もう平気?」

「はい!」

「……そう、良かった。でも、これからは一人で泳いだりしてはダメよ? お母様やお父様と一緒にくること。分かった?」

 桔梗の言葉に子供は深く頷いて、鬼太郎にもお礼を言い、大きく手を振りながら帰っていった。

「……ふぅ、何事もなくて本当に良かった……。鬼太郎さんのお陰で助かりましたわ。本当にどうもありがとうございます」

「桔梗さん!」

「はいっ……?」

「良かった、じゃないですよ! 着物で川に入ったりして、桔梗さんまで溺れたらどうするんですか!」

「ご、ごめんなさい……」

 ビクッと小さく震え、謝罪する桔梗。

 その姿を見て、鬼太郎のほうも慌てて謝罪する。

「……あ! い、いや……僕こそ、あの……怒鳴ってしまってごめんなさい……。その……すごく驚いたものですから……」

「……いいんですの」

 ふふ……と、桔梗が嬉しげに微笑んだので、「え……?」と不思議で首を傾げると――

「本気で心配してもらえたみたいで、とても嬉しかったですわ」

 そう桔梗は想いを素直に言葉にした。

 そんな彼女の浮かべる笑顔がとても眩しくて綺麗で、思わずポーッと見惚れてしまっていると――

「あー、ゴホン……。とにかく服を乾かさんか? 二人共」

 と、目玉おやじが咳払いしながら言った。

「……あ、そ、そうですよね! 乾かさないと、風邪ひいちゃいますよねっ……」

「いえ、夏ですし……すぐに乾くと思いますけれど、このあとみんなでアイスクリームでもと思っていたのに……残念ですわ」

「アイスクリーム?!」

「ええ。その先に駄菓子屋さんがありまして、そこで夏だけ売っているんですの」

「よし。ワシが買ってこよう」

「父さん?」

「桔梗さんのためじゃあ。ひとっ走り行ってくるかの!」

「ええっ!? あ、待ってくださ~~~い!」

 呼び止めるが目玉おやじは、「アイス! アイス!」と言いながら、走って行った。

「……父さん、一人で持てるのかなぁ……」

「追ってください」

「え?」

「私、ここでお待ちしていますから。どうぞ」

 じゃあすみませんと、行きかけたところで後ろをチラリと振り向くと、スッと桔梗が木陰に入っていき、そこで帯の結び目に手をかけていった。

「!????」

(ま、まさか……ここで服を乾かす気かな……?)

 だとしたら自分はいないほうがいいと、そう思いはするのだが、もし誰か来たら見られてしまうのではないかとそう考え直し、鬼太郎は桔梗のほうから目を逸らしつつ、彼女の傍まで戻っていった。

「あの、桔梗さん……」

「きゃっ!? は、はい……?」

「ふ……服を乾かすつもりならその……もうちょっと奥でどうぞ。取り合えず僕、人がこないように見張っておきますから……」

「あ……す、すみません……。乾かすと言うより、重いので、少し水を絞りたいと思っただけなんですの。でも……あの……ごめんなさい……」

「い、いえ……」

 赤くなり、俯く鬼太郎。

 その後ろで、シュルシュルと帯をほどく音が聞こえてくる。

「…………ッ」

「…………」

 着物を脱いだのだろう。

 水気を含み、重くなった布がはためく、ズサ……ッという音が聞こえてきた。

(…………)

 今、桔梗は全裸なのだとそう思うと心臓がドクンッと大きく脈打ち、ノドが詰まるような息苦しさを覚えた。

「うっ……くッ……」

 脳裏に昨夜の、桔梗の緊縛姿が浮かぶ。

 荒縄にギリリと縛られ、パンパンに張り詰めた大きな乳房や、露を含んだ黒い茂み。

 それらを思い出すうち、灼けるように胸が熱くなり、たまらずに「はぁ……はぁ……っ」と、荒い息を吐いていると――

「……鬼太郎さんっ?」

 大丈夫ですかと、桔梗が駆け寄ってきた。

「あッ……」

 着物で前は隠しているものの、それでも全裸には違いなく、刺激が強すぎて、グラリとめまいに襲われる。

「く……ッ……」

「鬼太郎さん! 大丈夫ですかっ!?」

 自分に向かって倒れ込んできた鬼太郎を、慌てて抱き留める桔梗。

 そのため胸からハラリと着物が落ちてしまい、裸体を鬼太郎の眼前で露わにする。

(む……胸がッ……)

 見てはいけないとそう思い、慌てて顔を俯かせるも、すると今度は黒い茂みを目にすることになってしまう。

「~~~~~~ッ!!」

 もうどうしていいやら分からずに、追い詰められてギュッと強く目を閉じると……それでようやく問題が解決した――

(こ、これで見えない……。ホッ……)

 かに思えたが――

「鬼太郎さん、顔が真っ赤ですわ。それに……なんだか酷く身体が熱いみたい……」

 心配そうな声で、桔梗がそっと頬に触れてくる。

 それに、目を閉じていても、桔梗が発する甘く官能的な香りから逃れることは適わずに、鬼太郎は強く身体を震わせた。

「寒いんですの? あぁ……こんなに震えて……」

 温めようとして、優しく抱き締めてくれる桔梗。

 しかしそれは逆効果で、鬼太郎が苦しげに息を荒げていると――

「お~い、鬼太郎~! 桔梗さ~ん! いったいどこに行ったんじゃあ~!?」

 と、目玉おやじの声が聞こえてくる。

 それに気付いた桔梗が、「こちらですわ!」と声を返した。

「……あ! き、桔梗さん、着物……!」

 桔梗が全裸でいることをすっかり忘れてしまっているようなので、慌ててそう注意を促すと、桔梗は「きゃっ……!」と娘らしい悲鳴をあげて、慌てて着物を着直した。

「私……あの、ごめんなさい……」

「い、いえ……」

 気まずさのあまり、互いに背を向けて立っていると――

「ん? どうしたんじゃ、二人共。なんだか顔が真っ赤じゃぞ?」

 目玉おやじが、そう首を傾げて聞いてきた。

「な……なんでもないですっ。それより父さん、アイスクリームは買えましたか?」

「うむ……。それがのぅ、店の人に何度も声をかけたんじゃが……気付いてもらえんでのぅ……。結局買えなかったんじゃあ……」

「あら……じゃあ私が買ってきますから、お父様は鬼太郎さんの傍にいてあげてくださいます? 鬼太郎さん、ちょっと具合が悪いみたいなので……」

「なに? 大丈夫か? 鬼太郎」

「あ、はい。大丈夫です。ちょっと……その、めまいがしただけですから……」

「……ふむぅ。熱はないみたいじゃの」

 鬼太郎の頭に飛び乗り、おでこに手を当てて呟く目玉おやじ。

「本当に大丈夫ですの? 無理してません?」

「はい、本当に平気です」

「うむ、どうやらそのようじゃ。心配かけたみたいで、すまんのぅ、桔梗さん」す

 そう桔梗に声をかけたあと、目玉おやじは――

「鬼太郎も無事みたいじゃし、じゃあみんなでアイスを買いに出発じゃあ……!」

 と、拳を振りあげた。

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