※この作品はR-18です。

花塵   作:天城 悠理

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<上>

「さて、では参りましょうか」

「ええ」

「へへ、はいよ……!」

 夜になり、村の広場に向かって歩き出した鬼太郎たち。

 残念ながら炎が苦手な目玉おやじは留守番だが、代わりに今日はねずみ男が参加している。

 広場は鬼宮家からそう遠くはなく、他愛のない会話を楽しむうち、すぐに到着した。

「……わぁ、人がいっぱい集まってますね」

「田舎で娯楽がないものですから、みんなこういった催しごとが大好きなのですわ」

「俺ら妖怪もお祭りは大好きよん! なぁ? 鬼太郎ちゃん!」

「まぁね」

 などと言いながら広場を歩いていると――

「……あ、鬼姫様だ!」

「鬼姫様じゃ……!」

 桔梗が来ていることに気付いた村人たちが、彼女を見て拝んだり、深々と頭を下げてきたりする。

 そんな村人の態度に慣れているのだろう。

 桔梗は小さく会釈して、それに応えた。

(本当に桔梗さんは村の人たちに、普通の態度で接してもらえないんだな……)

 やり切れない思いで、桔梗と村人たちを見ていると、視線に気付いたのか、桔梗がニコッと笑いかけてきた。

 村人たちに向ける作り笑いではなく、心から嬉しげなその笑顔を見て、胸がキュウ……ッと締め付けられる。

「うっ……」

「ん? どうしたんだよ、鬼太郎」

「な……なんでもない……」

「なんだよ、変なやつだな。……まぁいいや、とにかくせっかく来たんだ。何か食おうぜ」

「ねずみ男。お前、まだ食うのか? さっきいっぱい食べてただろ?」

「あのね! 晩飯と出店の食い物はまた別なの! 別腹!」

「ごはんとデザートという感じかしら?」

「そう、それ! さっすが桔梗さん、分かってるぅ!」

 気安く接してもらえることが心底嬉しいようで、桔梗は楽しげな笑い声をあげている。

 そんな桔梗の娘らしい態度を見ても、村人たちは彼女への接し方を変えはしなかった。

 行き交うたび、目が合うたび、恭しくこうべを垂れる。

「…………」

 桔梗の笑顔が、曇り始めたところで……ドーンと大きな音が鳴り、夜空に大輪の花が咲く。

「あ、始まった……」

「お! こりゃあ、なかなか豪勢だねぇ~!」

 続けて花火があがり、桔梗に「綺麗ですね」と話しかけるが返事がない。

「……あれ?」

 見ると、少し遠くで桔梗が立っていた。

 どうやら人が増えてきたせいで、離れ離れになってしまったらしい。

「桔梗さん……!」

 人混みを掻き分け、桔梗の許へと辿り着くと――

「はぐれてしまってごめんなさい。またはぐれては、困るから……」

 言って、ギュッと手を握ってきた。

「あっ……」

「……これで大丈夫ですわ」

「は、はぐれても僕……ちゃんと一人で戻れますよ……?」

「私がダメ」

「え?」

「……一緒に帰りたいんですの。鬼太郎さんと」

「桔梗さん……」

 赤くなり、桔梗の顔を見詰めていると、またドーンと大きな音が聞こえてきて、その直後――

「キャアアアアアアア!!」

「わああああああああああッ!」

「熱いッ! 熱いッ! あーーーーーーーッ!!」

 そんな甲高い悲鳴が辺りに響いた。

「…………ッ!」

「…………!」

 顔を見合わせ、悲鳴が聞こえてきたほうへと駆けて行く二人。

「いったい何が……!」

「大丈夫ですか!?」

 辿り着くとそこには、皮膚が焼けただれて「痛い痛い」と泣き喚いている子供たちがいた。

 地上で花火が爆発したのだ。

「……なんてこと!」

 慌てて子供たちに手を伸ばす桔梗。

 しかしすぐに自分では力不足と思ったのか、巾着から例の包みを取り出し、それを子供たちに振りかけていった。

 白く、サラサラとした粉を浴びた部分の皮膚が、見る間に再生されていき、辺りで「おお……!」と歓声があがる。

 なるほど、確かに効果は高い。

 しかしいかんせん、薬の数より怪我人の数のほうが多かった。

「うぅぅ……痛いっ……。痛い……よぉ……!」

「熱い……熱いよ……鬼姫様……。助けて……助けてぇ……!」

「あぁっ、しっかりして……!」

 必死に桔梗が子供たちに呼びかけていると――

「桔梗!」

 同じく、花火大会に来ていたと思われる一二三が駆け寄ってきた。

「兄様! お願いっ……薬が足りませんの……!」

「ああ、分かった……!」

 桔梗の言葉に頷き、子供の血が噴き出す皮膚へと手を近付けていく一二三。

 白い粉を振りかけた時よりは時間がかかったものの、それでも先ほどと同じように、皮膚が再生されていく。

 それでも続けて一二三が手をかざしていると――

「ぐすん……ぐすんっ……」

「うっく……ひっく……」

 子供たちの声が悲鳴ではなく、泣き声に変わってきた。

 痛いわけではなく、びっくりして泣いているらしい。

「……もう大丈夫みたいですね」

 鬼太郎の声に頷く、一二三と桔梗。

「鬼姫様! 鬼宮様! 本当にどうもありがとうございます!」

 子供の保護者と思しき女が、涙ぐんでペコペコと頭を下げてくる。

 他の村人たちも二人に向かって、「ありがたや……! ありがたや~~~……!」と言い、拝み始めた。

「……本当に無事で、良かったですね。……桔梗」

「……はい」

 言葉少なに村人たちに挨拶を済ませ、帰るつもりなのか、広場から離れていく一二三と桔梗。

 その後を鬼太郎もついていく。

 

           * * *

 

 もうじき家に帰りつくかと思われた頃、「うっ……」と呻いて一二三が地面に膝をついた。

「兄様!」

「鬼宮さん! 大丈夫ですか!?」

「……すみませんが鬼太郎さん、肩をお借りしてもよろしいですか……?」

「ええ、どうぞ……!」

「ありがとうございます……」

 一二三に肩を貸し、背負うようにして鬼宮家まで連れて帰る。

 

           * * *

 

「一二三さん……!」

 倒れ込むようにして帰宅した一二三の姿を見て、多恵が驚愕の声をあげる。

「多恵さん、床の用意をお願い」

「……はい!」

「鬼太郎さんは……すみませんが、このまま兄様を部屋まで連れて行ってあげてくださいます?」

「もちろんです」

「……お願いします」

 ペコリと頭を下げて、桔梗はその場から離れていった。

(桔梗さん、一緒に行かないのかな……?)

 不思議に思っていると、多恵に「どうぞこちらへ」と呼ばれたため、そちらへ向かう。

 

           * * *

 

「よいしょ……っと」

 一二三を布団の上に下ろし、「ふぅ……」と一息つく。

「一二三さんをここまでお連れくださり、ありがとうございました」

「いえ。それより鬼宮さん、大丈夫ですか? 急に具合が悪くなったみたいなんですけど、事故のショックで気分が悪くなっちゃったんでしょうか……」

「事故?」

「ええ、実は……」

 と、先ほど起こった一部始終を説明すると――

「なるほど。一二三さんは妖力を使ったせいで体調を崩されたのでしょう」

 聞き終えた多恵が、得心のいった表情で頷き、そう答えた。

「妖力を使ったせい……ですか?」

「はい。鬼宮の治癒とは妖力――自身の生命力を相手に分け与えるということですから」

「それは……自分でコントロール出来ないものなんですか?」

「人によるようです。先代の鬼姫様や一二三さんはコントロールが可能ですが、桔梗さんには無理です」

「そうですか……。でも、じゃあ鬼宮さんはどうしてこんな……倒れるまで……」

「子供の怪我を治すだけでなく、痛みも和らげてあげたいと、そう思ったのでしょう。だから皮膚が再生されたあとも、手をかざし続けたのかと」

「……なるほど」

(いい人なんだな……。鬼宮さん……)

 そう感心していると――

「鬼太郎……さん……」

 一二三がふと目を覚まして、鬼太郎に呼びかけた。

「あ……。大丈夫ですか?」

「私は……平気です。それより……桔梗を……」

「桔梗さんがどうしました?」

「……先ほど桔梗は、薬が足りないと……そう言っていました……。あんな場面で出し惜しみするような娘ではありませんので……本当に薬が……尽きてしまったのだと思います……。薬がなくなったら、桔梗は――」

 一二三の言葉を最後まで聞き終えるよりも早く、鬼太郎は桔梗の部屋に向かって走り出していた。

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