温泉は、福縁荘の玄関を出てすぐ隣にある。
護衛である凪とピクシーだが、凪は自主的に。そしてピクシーは串蛇に言われて入り口の前で待つことになった。せっかく茜と凪がお膳立てしてくれたのだから、二人きりで温泉に入りたいと思ったのだ。ついでに言うと白菊は、部屋で寛いでいる。
「さて、じゃあゆっくり浸かりましょ」
一糸纏わぬ姿となり、手拭いで胸から下を軽く隠したタヱが、串蛇も服を脱ぎ終えたのを見て湯舟へと誘う。
福縁荘の温泉は三層に分かれた露天風呂で、それぞれ階段で行き来するようになっている。濡れていると足が滑って危ないかもしれないので、念のためタヱは階段を降りることなく、一番上の風呂に串蛇を誘った。
「ああ……えぇお湯やなぁ……」
湯船に浸かり、『ほぅっ……』と長い息を漏らす串蛇。タヱのほうも来る途中、女将に『茜お嬢さんから』と酒を渡されたので上機嫌だ。
「う~ん、露天風呂でお酒が飲めるだなんて最高……!」
「葵鳥はいける口なんか?」
「ええ、結構強いほうよ」
「すごいなぁ。葵鳥に苦手なもんなんて、ないんと違うか」
「そんなことないわよ~。でもお酒は結構強かったりするかもしれないわ」
などと言った傍から僅かにほわん、と酔いを感じる。
(……あれ? おかしいわね。こんなに早く酔いが回るだなんて……)
「葵鳥、どないしたんや」
急にタヱが黙ったので、串蛇は心配して尋ねた。
「ごめんなさい、大丈夫。でも、酔いが回り切らないうちに身体を洗っちゃおうかしら」
「ならウチが洗ったげるわ、行こ」
タヱに手を差し出し、洗い場まで連れて行ってもらう。とは言えそこは湯船からほど近く、洗い終われば温泉の湯を桶で掬って泡を流すようになっている。
「はい、ヒメちゃん。これ石鹸よ」
「ん。ありがとう」
「どういたしまして。でもヒメちゃん、私、身体ぐらい自分で洗えるわよ」
『まだそこまで酔ってない』と笑って断るが、『ええから』と串蛇は石鹸を泡立て始めた。
「ほないくで」
掌にたっぷりと泡を付着させ、タヱの背と思しき場所へと手を伸ばしていく串蛇。すぐにぴとりと、しっとりとした柔らかな肌の感触に辿り着く。
(あぁ……葵鳥の背中や……)
愛しい人の素肌に触れたことにより串蛇は、恍惚とした笑みを浮かべている。タヱのほうも、串蛇の優しい手付きに心地よさげな息を吐いた。
「ん~、ヒメちゃんの手……とっても気持ちいい。なんだかふんわりした気分よ」
それは茜が用意した酒のせいもあるかもしれないが、そう言われて当然悪い気はせず、串蛇は次いで彼女の腕を洗っていった。
「あら、背中だけじゃないの?」
「全部ウチに任しときぃ」
「それは……でも、恥ずかしいような……」
「なんで?」
きょとんとした口調で尋ねられ、タヱは自分が意識しすぎかと思い、『何でもない』と首を振った。
(ヒメちゃんは目が見えないんだし、それに女同士で恥ずかしいだなんて……ちょっと私、おかしいわよね。でも……そう! そうなのよ! 時々私、ヒメちゃんと話していると胸がドキドキすることがあって……って、え? 胸……?)
気付くと串蛇の掌が己の乳房を包み込んでおり、タヱは真っ赤になって『だめ……!』と叫んだ。
「そこは自分で洗うから……、ね……?」
「でも葵鳥、胸の鼓動が速いで? これは酔いが回ってる証拠や。自分で洗うんはしんどいやろうし、大人しゅうウチに任せとき。な?」
後ろからタヱの耳元で囁き、彼女の乳房をやわやわと揉む串蛇。タヱは続けて『だめ』と声を発したいが、口を開けば喘ぎが漏れてしまいそうなので耐えるしかない。
「ぅ、うぅん……っ、んん……ッ」
「葵鳥……ええ子や。せや、そのままジッとしときぃ……」
タヱの耳朶に唇を軽く触れさせ、彼女の鼓膜を甘く痺れさせた状態で胸先を摘まみ、指の腹でこね回す。
「ふぁ、あっ、ンン……!」
「……ん? どうしたんや、葵鳥。急に大きい声だして」
「っ……!」
『何でもない』と言うように、強く首を振るタヱ。目は見えずとも、その仕草による振動が伝わってきて、串蛇は『そうか』と先を続けた。
「ふんふ~ん♪」
鼻歌まじりに串蛇は、掌をタヱのなだらかな腹部へと滑らせていく。そこで器用に臍の場所を探り当て、指先でくるくると円を描くみたいに擽った。
「きゃっ……! やっ、あははっ、あは……!」
こそばゆさにタヱは、笑って身体をくの字に折った。だがこの流れなら『もういい』と断ることが出来るかもしれないと、串蛇の手の動きが止まったタイミングで口を開いたのだが──
「ひぁっ!? あっ、あぁん……!」
出てきたのは甘い声だった。串蛇が『つぅ……っ』と、割れ目の内部へと指を滑らせたせいだ。
「ヒ、ヒメちゃん……そこはっ、ああ……だめ! そこは……んっ、自分で洗う……ものなの、よ……っ。ンン……!」
「そうなん?」
「そっ、そう……なの……!」
会話の途中も串蛇の指は動いたままで、花弁の内側を上へ下へと、行ったり来たりしている。その度に肉豆がツンツンと刺激され、硬く大きくなりつつあることが、タヱには分かった。
(ああっ、だめ……! 私ったら、ヒメちゃんに触られて……感じちゃってる! 彼女は私の身体を洗ってくれてるだけなのに、こんなのバレたら……きっと軽蔑されちゃうわ……!)
自分を姉のように慕ってくれる串蛇に嫌われることだけは避けたい。その一心で、タヱはようやく彼女の手を掴み、止めさせることに成功した。
「……も、もう大丈夫! 酔いもすっかり醒めたから、自分で洗うわ。ありがとう……!」
「……ええんや。ほなウチも、自分の身体サッサと洗うてしまうわ」
串蛇があっさり引いてくれたことに安堵するタヱ。しかしこの時のことを彼女は、夜になり、後悔するのであった。