「雪さん、大丈夫……?」
風呂から上がり、未だ足腰が立たない様子でいる桜に服を着せてやった後、ソファーに座らせる銀子。桜は『大丈夫です』と返してくるが、着替えさせる間も大人しかったし、そう返してくる声も力が入っていない。
「大丈夫じゃなさそうね。無理せず泊まっていきましょ」
そう体調を気遣って言うのだが、桜は強くかぶりを振った。
「っ、いえ……! 本当に大丈夫です……帰ります……っ」
「あら、そんなにお泊りが嫌? 心配しなくても、今日はもう手を出さないわよ?」
「そ……そうじゃなくて……妹が、家で一人でお留守番してて……私が帰らないと、寂しがるんです……」
焦って説明し、そして『しゅん』と眉を下げる桜。家の事情があり、宿泊できないことを残念に思っているようだ。
「そういうことなら、仕方がないわね。もう少し休んだら帰りましょう」
「……はい」
頷くが、名残惜しいのだろう。桜は銀子の服の袖を、きゅっと握り締めている。それに気付いた銀子は笑って、彼女の肩を優しく抱いた。
「朝まで一緒にいたいと思ってくれているのね、嬉しいわ。……妹さんが大きくなったら、どこか旅行へ行きましょう。行きたいところ、考えておいてね?」
そう提案することで離れがたい気持ちを緩和させてくれる銀子の心遣いが嬉しくて、桜は『好き……』と心から、そうしみじみと呟いた。
* * *
「雪さん。おうち、ここでいいのかしら?」
少し休んだ後、タクシーで家まで送ってもらった桜。里花に見付かると面倒なことになるため、『送らなくていい』と断ったのだが『危ないから』と銀子は聞いてくれなかった。
「はい。送って下さり、ありがとうございます」
「いいのよ。それじゃ、おやすみなさい」
頬に軽くキスして、桜を見送る銀子。桜はお辞儀をした後、家の中へと入っていった。
「…………」
もう夜遅いので、『寝ていたら悪い』と声を掛けずに玄関のドアを開いたのだが──
「お帰りなさい、お姉ちゃん」
里花がにっこり笑って出迎えた。
「っ……里花、ごめんね。起こしちゃった?」
いつもならこの時間、彼女は夢の中だ。故に鍵を開ける音がうるさかったかと、申し訳なく思っていると──
「お姉ちゃん、どうしてタクシーで帰ってきたの?」
そう里花に問われて、桜の背がひやりと凍る。
「……ちょっとね、しつこいお客さんがいたから念のためマスターがタクシーで帰りなさいって言ってくれたの」
そう咄嗟に嘘を吐いたが、疑われてはいないかと気が気でない桜。
里花は暫し彼女をジッと見詰めていたが──
「それは怖かったね。大丈夫だった?」
心配げな面持ちになり、ギュッと抱き付いていった。
「勿論。何かあってもほら、お姉ちゃん格闘技やってるから。……今日は断ると悪いと思って、それで送ってもらっただけだよ」
「そう……。でも、気を付けてね? あの時のアイツみたいに……スタンガンとか持ってたら、いくらお姉ちゃんが強くても──」
「里花」
妹の声を遮り、強く彼女を抱き返す桜。そのまま桜は、彼女を自室へと連れて行った。
「里花。もうお姉ちゃん眠いし、里花も一緒に寝よう。ね?」
強引にベッドに寝かせると、里花も何かを察したようで、『うん、分かった』と明るく頷いた。
「でもお姉ちゃん、そのまま寝るの? パジャマは?」
「うーん、下だけ脱いだらいいかなって。だめ?」
「それなら裸でいいんじゃない?」
「え……?」
「暑いし、うん。それがいいよ。里花もそうしようっと」
楽しげにそう言って、ネグリジェと下着とを取り去り、『お姉ちゃんも』と桜の衣服を脱がしに掛かる里花。
一瞬、裸になると銀子との行為がバレるのではと危惧したが──彼はキスマーク等のシルシは付けていないと思い至り、『大丈夫だろう』と里花の好きにさせた。
「……お姉ちゃんの身体、とっても綺麗だね」
一糸纏わぬ姿となった桜を、うっとりとした面持ちで眺める里花。桜は首を振り、『里花のほうが綺麗だよ』と言った。
「……そんなことない。だって、私の身体は──」
「里花」
再び里花の声を遮り、『綺麗だ』と繰り返した。
「……お姉ちゃん、ありがとう」
「お礼を言うのは私のほうだよ、里花」
「ううん。お姉ちゃんが無事で本当に良かったと、心からそう思ってるから」
「里花……」
桜は目頭が熱くなるのを感じ、そして強く強く妹の身体を抱き締めた。
「……お姉ちゃん。泣かないで」
「……うん」
桜は自分が里花を励ますつもりでいたのだが、逆に彼女に『大丈夫だからね』と優しく背を撫でられ、やがてゆっくりと眠りの淵へと落ちて行った……。