ジュジュベも登場。
PWTを終え、帰路についたレッドが自宅の違和感に気づいたのは、玄関の扉が白いゴシック調のファンタジーめいた扉に変貌していたからだった。
今イッシュ地方に構えている自宅は間違いなくこの場所、扉を工事した、なんてことは同棲中の恋人であるナツメから聞いていない。
ナツメが先に帰宅しているのは先ほど連絡があったし、彼女に何かあった、と考えるにしては扉が変貌しているのは理由が思いつかない。
(開けるのは危ないかな…? とりあえずナツメに連絡してみよう)
と、レッドが考えたところでナツメからライブキャスターで着信があり、
「ごめんなさいレッドっ! 戸惑わせるつもりはなくて……危ないことはないから、そのまま開けてもらえる?」
「うん、わかったよ」
(ナツメのサプライズみたいだ。今日PWTで優勝したお祝いかな?)
レッドの戸惑いをナツメが超能力で察知したのだろう。レッドは警戒を解き、扉を開けた。
「ただい……ま!?」
レッドは驚愕した。扉を開けた先にあったのは自宅ではなく、巨大な鳥かごに覆われたような異空間。
チェックの床はねじれて一部が盛り上がっており、部屋の中央には巨大かつ歪んだベッドが一つ。
まるでかつてのシオンタワーを訪れた時のような、暗く冷えていながら湿度が高めの不気味な雰囲気。
「これって……ナツメが出演した映画の……!?」
レッドにはこの部屋に見覚えがあった。
ポケウッドの人気映画『魔法の国と不思議な扉』。
あらすじは、主人公が不思議な白い扉を通ると、異世界である魔法の国に飛ばされてしまう。
そして魔法の国で出会った魔女ジュジュベによって、檻に閉じ込められてしまうのだ。ジュジュベの目的は、迷い込んできた人間の生命エキスを吸い取ること。
ジュジュベを演じるのは――。
「あらあら……私が張った扉の罠に、素敵な男性が一人、迷い込んできたわね」
「!」
レッドが瞬きをした刹那、ベッドの前に現れたのは一人の女性。
腰のくびれのラインがくっきりと浮かび上がるタイトな漆黒のドレス、胸元はオフショルダーで谷間が露出しており、ヒラヒラとなびく濃紫のフリルが目を引く。
「ほほほ……ちょうどいいわ。捕まえて、愛の奴隷にしてやろう」
黒いティアラ、髪色は光の加減か明るい紫色、顔は左手で持った黒い扇に隠されていたが、ゆっくりと扇が下がっていく。
「私は魔法の国のクイーン……ジュジュベ様よ……」
赤い瞳に妖艶さを引き立たせる薄いパープルメイク、美しき女優ナツメが扮し、魅惑的な微笑みを浮かべる魔女がそこにいた。
「後ろを見てごらんなさい」
「あっ!? 扉が……!?」
白い扉は、鎖と錠に塞がれたおどろおどろしい化け物と融合したような扉に変わる。
退路を失くされ、レッドがナツメの方へと向き直ると、別種の異次元の光景が広がっている。
「な、……ナツメ……!?」
「「「「「ふふふ……」」」」」
響き渡る五人の女性の微笑み。ジュジュベを中心として並ぶのは、かつてレッドを代わる代わる愛してくれた、ナツメ達。
ジュジュベの左にいるのは、すらりとした白いワンピース、胸元に赤いアルファベットのイニシャルを刻んだ、にやりと冷たく笑う悪の女幹部ナツメ。
「フフフ、久しぶりだな、マサラタウンのレッド。あれから少しは成長したか、確かめてやろう……」
さらにその左に、白いドレス風ワンピースの深窓の令嬢、お人形を抱え上目づかいで唇を尖らせる、妹ナツメ。
「お兄ちゃん、早くこっちに来て、抱っこして……」
ジュジュベの右にいるのは、艶やかな和装で包容力あふれる微笑みを向けてくる、お姉さんナツメ。
「今日もお疲れ様です。恐れず、身を委ねてくださいね。あなたに喜んでもらうよう、ご奉仕いたします」
お姉さんナツメの右に構えるのは、凛々しくかわいく、美しくて優しい、愛してやまないいつものナツメ。今日は黒髪ロングストレートにヤマブキジムリーダーエスパー少女のコスチューム。
彼女の微笑みは、日常で向けてくれるものと変わらなかった。
「お帰りレッド。そして今日のPWT優勝、おめでとう。お仕事で応援にいけなかった分、お祝いをさせて。その、明日は、レッドと私、お休みだし、ね……?」
「う、うん……」
少し恥じらってもじもじするナツメに対し、レッドはごくりと喉を鳴らしてしまった。
以前、ナツメがエスパーで分身できないかと一人考えていたが、おそらくこれが研究の成果なのだろう。催眠術の類なのだろうが、レッドに詳細はわからない。
わからないが、レッドは期待してしまっていた。
(この前は、色んなナツメに愛してもらって、気を失うほど気持ちよくて幸せだったけど……今度はまさか、全員同時に!? しかも、あのジュジュベも加わって……!?)
その期待は、すぐに現実のものとなる。