※この作品はR-18です。

血と悪魔(大人悪魔ほむら×大人さやかR18短編集)   作:さんかく@

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「犬の証明」https://syosetu.org/novel/303494/内の「ほむら出張する」でのさやかがほむらに引き摺られてホテルへ行き、翌朝仕事に行くまでの間に起きたR18な出来事。ふたなりでさやかに生えてますが、ほむらさんが積極的に攻めていきます(何)



ほむら熟睡する

 

――今思えば、愛する少女の傍に常に寄り添っていた蒼い髪の少女を、私は誰よりも強く意識していたのかもしれない。限りなく反発しながらも。

 

――ある悪魔の手記より

 

 

******

 

古来、人は万能だったという。

 

――それでは空を飛ぶこともできたのだろうか?

 

ふと、暁美ほむらは地上の灯りを見下ろしながら思った。吹きすさぶ風が彼女の長い黒髪を揺らす。ちょうど見滝原から隣の街の境目の上空を翔んでいるところだ。彼女の肢体に黒いドレスが風で貼りつく。人外と化した14歳の頃とは違い、華奢ではあるが成長した美しい身体のラインが10年の歳月を物語る。

びゅう、と音を立て、彼女は更に上昇する。蒼白い半月と重なり、浮かびあがる美しいシルエット、そして人ならざる者の証明である翼。それはまるで美しい烏の化身のようで。

もしも今偶然にも地上からこの月を見上げている者がいたとすれば、間違いなく幻覚を見たと思うだろう。なぜなら、黒づくめの白磁のような肌をした恐ろしいほど美しい女性が空を舞っているのだから。しかも翼を生やして。だが、それは幻覚でもなんでもなく現実なのだ。その証拠に女性は口を開いて今流行りの歌を口ずさんでいる。とても優しくそしていつもよりワンオクターブ高い声で。そうしてまた彼女はゆるやかに下降し始めた。

 

――私もあんたがいないと寂しいわ

 

くすり、とほむらは形のいい唇を緩ませ笑う。脳裏に浮かべるのは同い年の蒼い髪の女性。

ほんの数分前までほむらは彼女と互いの気持ちを携帯で吐露していたのだ。長い間、反目し合い、それでも共に闘い続けた「相方」と。

 

…どうしてこうなってしまったのだろう?

 

そう、いつもこう思ってしまう。不思議なのだ。何故、彼女とこうなってしまったのか。高校生になって、共に暮らしはじめた時も。初めて人と融合した魔獣と戦い、手を血で染めた日に縋り合った時も、そして初めて身体を重ねた日も。何故――?何故――?

ループを繰り返していた頃には全く想像すらしなかった関係。おそらく元々の発端はほむら自身にある。だがそれでも答えは出てこなくて。

いや、違う、答えは既に在ったのだ、遠い昔から己の内に。

 

「まあ…どうでもいいわ」

 

そう一人呟くと、切れ長の目を細め、ほむらは笑みを浮かべる。そう、今はどうでもいい。その奥深くに隠された答えをほむら自身もう自覚したのだから。そうして時折本音を吐露するが、だからといって今全てを相方に曝け出すつもりはなかった。駆け引きが重要なのだこの感情は。

ほむらの視野に高層ビルの灯りが広がって来た。そろそろ街の中心部に近づいている。ビルの壁面の灯りの無い窓に飛翔するほむらの姿が映し出される。オフィス街だろうか、灯りの消えた部屋はほとんど機能的な机や椅子など無機質で殺風景なものだった。ほむらは特に何の感情を浮かべる訳でもなくその一室を一瞥し、翼をはためかせた。優雅に空を舞う大きな烏。目的地は蒼い犬。「おいた」をした犬におしおきを与えるのだ。

 

「見てらっしゃい…」

 

ニイ、とほむらは口元を歪めた。先ほどとは違う不敵でそして妖しい笑み。アメジストの瞳は暗い喜びで爛々と輝いて。まるで魔獣を狩る時のようだった。

 

* *    *   *    *     *

 

 

オフィス街の一角にその居酒屋はあった。

 

「おい、もう一軒回ろうぜ」

 

どこにでもある飲み仲間同士の会話。会社帰りだろう、中年の男二人はスーツ姿で。少し寂れた店のカウンターに飲み干したグラスを置くと、小柄な方の男が立ちあがった。若い頃のようにぎらぎらした感じはしないが、どうにも今夜は飲み足りないという風情だ。

 

「ああ、じゃあどこ行く?」

 

まだ少し酒が残っているグラスを一気に飲み干して、大柄な男が尋ねた。

 

「そうさなあ、たまにはキャバクラとか行きてえな、ほら近くにあるだろ、ローズとか」

「おい、よせよただでさえ財布の中が寂しいってのに、それにあそこは警察の御用達って噂だぜ」

「わかってるって、冗談だよ、いつものスナックに行こうぜ、ツケもきくし、な?」

「そうしよう」

 

同意して大柄な男も立ち上がり、精算を済ませ二人は店を出た。

 

店の外はビルの灯りとほんの数十メートル先の繁華街の灯りとで彩られていて、自然と二人の男の心も踊る。と、小柄な男が訝しげな表情を浮かべた。

 

「ん?」

「どうした?」

「いや…今何か黒いものが横切って飛んできたような…」

「コウモリか何かじゃないのか?」

 

小柄な男に合わせ、大柄な男もキョロキョロと周囲を見回す、空を見上げると美しい弦月だ。

 

「何もないぜ、錯覚じゃ…」

 

が、大柄な男の言葉はそこで止まる。

 

「おいどうし…」

 

そうして小柄な男の言葉も止まる。二人の視線は数メートル先の路地裏に向けられていて。

そこには黒のワンピースに身を包んだ女性が立っていた。長い黒髪の女性だ。背中を向けているため顔は見えない。

 

「い…いつの間に?」

 

二人の男の顔は驚愕に歪む。つい先ほどまでそこに視線を向けた時には何も無かったのだから無理もない。小柄な男が大柄な男の腕をやや乱暴に小突く。

 

「も、もしかして幽…」

「ば、馬鹿言え…」

 

女がゆっくりとこちらを向いた。ひい、と同時に声があがる。だが、すぐにその声は感嘆の声に変わった。

振り向いた女性はこの世の者とは思えないほどに美しかった。白磁のような肌に艶のある長い黒髪。整った顔立ちにアメジストの瞳。男達はしばらく口を開けたまま固まる。言葉も出ない。思考が停止してしまったようだ。

 

「店はどこ?」

 

艶のある声が聞えた。この美貌の女性が発しているのだと認識するのに数秒ほどかかり、小柄な方の男が慌てて返答する。

 

「へ、み、店って?」

 

女性は男の惚けた表情を気にすることなく、じい、と猫のように凝視したまま再び口を開く。

 

「クラブローズ」

「あ、ああその店なら…」

 

大柄な男が慌てて右手で繁華街を指差した。

 

「あの一番大きな灯りのド派手な建物だ」

「ありがとう」

 

そう囁くと、女は二人に背を向け、さっさと歩きはじめる。女の背中をしばらく見送り続ける二人。しばらくして小柄な男が口を開いた。

 

「なあ…」

「なんだ」

「今のは人間だったのかな」

「馬鹿言うなよ、そうだろう、たぶん…。しかし…綺麗だったな」

「ああ、すごいな…面接かな」

 

やはり高い店は違うな、と小柄な男は一人納得する。あきれ顔の大柄な男、二人は再び繁華街の方へ視線を向けるが、既に女の姿は消えていた。

 

*******

 

相方は随分世俗に染まったものだ、とほむらは思った。

社会人になり、こういう繁華街に出入りすることも聞いていたが、こんなものだったのかとほむらは周囲を見回す。彼女自身はこうした街に出入りするのは初めてだ。時折、行き交う人々に羨望や好奇の眼差しで見つめられ時には声をかけられるが、ほむら自身は気にしていない。これほどの美貌の持ち主だ、外野をいちいち気にしていてはやっていられないというのもあるが、彼女の場合はそもそも目的のもの以外は目に入らないのだ。通行人を器用に避け(というよりも、通行人が彼女に道を開けた)やけにけばけばしい明かりや派手なネオンの中を歩き続ける。時折店先に女性の写真が多数貼られているが、目についたのだろう、ほむらは歩み寄り、顔を寄せてじい、と見つめた。店のスタッフの写真だ。皆ひらがなで名前が書いてあるのが珍しいとほむらは思った。

 

――こういう店にもあの犬は出入りするのだろうか?

 

ふと、ほむらは蒼い髪の相方がへらへらと笑いながら、スタッフに囲まれて調子に乗って踊っている姿を思い浮かべる。リアルに想像できるのは、大学時代に酔っ払った相方が二次会でそうしていたからだ。ギリ…と悪魔の歯が鳴った。

 

「殺さなきゃ…」

 

物騒な事を呟きながら、ほむらは再び歩き出す。周囲には人だかりができていたが、ほむらの険しい表情と尋常ではない見えない威圧感で怖れをなしたのか、次第に分散していった。そうしてしばらく歩くと、蒼い犬がハメを外している真っ最中の店「クラブローズ」に辿り着いた。

 

「………ずいぶん悪趣味ね」

 

「クラブ ローズ」と銘打たれている看板を見上げ、ほむらは呟いた。黒を基調とし、そこにピンク(薔薇色だろう)色で店名が記載されている。所々に薔薇をモチーフにした絵と、同色繋がりと言わんばかりにハートマークが施されており、それが金箔の建物部分にもこれでもかといわんばかりに広がっていた。

ド派手というのはこのことだろうか?とほむらはふと考える。だが、世俗に疎い悪魔は他に比較する店も知らず、猫のように頭を2,3、度ふりふりして入り口へすたすたと歩いていく。豪奢な作りのドアノブを掴むと、ゆっくりと引いた。

 

*  *     *   *   *

 

グラスを持つ手が震える。

美樹さやかは注がれていく琥珀色の液体を憂鬱に眺めていた。

 

「おい美樹ィ、情けないぞ、彼氏が怒っているからってさあ」

 

誰のせいでこうなってんのよ、と叫びたくなるのを堪え、さやかは同僚の男を睨んだ。そうなのだ、だいたいこの男が悪いのだ、キャバクラに飲みに来たのはまあいたしかたないとしても、人の電話に出て、しかもほむらに今キャバクラで飲んでいることを伝えたのだ、悪ふざけにもほどがある。しかも未だに同僚の男はほむらの事を彼氏と勘違いしている。会ったらさぞかし驚くだろう、と逸脱した想像をしながら、さやかはグラスに口をつけた。

ほむらはなんというか…こういう約束とか礼儀については人の何十倍も律儀なのだ。きっと出張中にこんなにハメを外して、しかも、小馬鹿にしたように他人がいきなり電話に出てきたのだから怒り心頭に決まっている。はあ、とさやかはため息をつく。今となっては、クラブの豪奢な室内も、きらびやかなスタッフの女性達もそして美味い酒もさやかの不安を1㎎も払拭してくれなかった。

 

――こ、殺される…絶対!

 

脳裏に美しい相方が浮かぶ。脳内のほむらはいつものキャミソール姿で腰に手をあてていて。そうして優雅に微笑むと、ドスの効いた声で囁いた。

 

『いい度胸ね』

 

そうしていきなり繰り出される右の拳。

 

歯がかちかちと鳴る。怒った彼女のお仕置きはそれはもうとんでもないもので。通常は人間仕様に抑えている力を一気に解放して襲ってくるものだから、さやかも力を解放して応戦するしかない。それでも顔や腹に一撃をくらったら、数メートル先の壁まで余裕で吹っ飛んでしまう。更にボロボロになった後にベッドに放り込まれ……。

ごくり、とさやかの喉が鳴る。さあ、と顔色が一気に悪くなった。

そう、ほむらはさやかの身体を改変することができるのだ。人外と化したほむらは両性具有者であり、さやかを好き勝手できるのだが、なんの気まぐれか、時折さやかの身体を改変しては「繋がる」事を非常に好むのだ。さやかとて、長年一緒に暮らしている相方なのだから身体を重ねることに抵抗は無い、むしろ時折相方が驚くくらい暴走することもある。そういう時は決まって、ほむらは力を抑え、さやかの好き勝手にさせてくれた。ただ、「お仕置き」となると話しは少し違っていて…。人外としての力を解放して襲いかかってくるほむらにさやかは為す術もなく体力を奪われてしまうのだ。

 

――に、逃げなきゃ!

 

そう、どうして今まで気付かなかったのか、さやかはハッ、と顔をあげた。絶対に相方はこの店にやってくる、だったら先に店を出てホテルに逃げてしまえばなんとか…

 

<遅いわよ、ワンちゃん>

 

頭の中に直接流れ込んでくる声。念話だ。さやかは口に含んだブランデーを一気に吹き出す。前に座っている同僚の顔に全てかかったが、そんなことはもう気にしていられなかった。ただ、視線の先に映っている、美しい黒づくめの女性に心奪われていて。豪奢な店内の中央に佇んでいる相方――ほむらの姿は恐ろしいほど美しく、もしこんな状況でなければさやかも見惚れ続けていたはずだ。周囲の客も皆惚けたように彼女を見つめている。逃げようにも、もうさやかの身体は金縛りにあったかのように動かない。徐々に距離を縮めてくるほむら。腰に手をあて、さやかに向かって指でおいでと合図する。

 

――あまりの怖さに気を失いそうになるさやかはいろんな意味で覚悟を決めた。

 

 

* *    *    *     *

 

店内から出口に至る中扉が勢いよく開いた。派手な音にフロントにいた男性スタッフがびくっ、と身体を強張らせ、目を見開く。

 

「痛い、痛い、離してよ!ねえってば!」

「黙りなさい、馬鹿犬」

 

ぎゃあ、と悲鳴をあげながら、客が美しい女性に引き摺られている。止めなければ、と思いながらもスタッフはその非日常な風景に目を奪われ動けない。

黒づくめの恐ろしいほど美しい女性。そしてその女性に腕を掴まれ、ずるずると地面を引き摺られている蒼い髪のスーツの女性。確か警察官だったはずだ。

 

「あの……」

 

どうにか声は出たが、その時はもうすでに二人の姿は消えていた。

 

*        *       *

半分に欠けた月を見上げ、ほむらはいつか聞いた歌を小さく口ずさむ。傍ではノイズのような悲鳴のハミング。くすくすとほむらは笑った。

 

「ねえさやか、月が綺麗ね」

「それよりもっ、摩擦!摩擦をなんとかしてっ!」

 

ぴたり、とほむらが歩みを止めた。そうしてぎろり、と地面に寝転んで悶えている蒼い髪の女性を睨む。ぴたり、とヘビに睨まれた蛙のように女性は口を閉じ固まった。しばらく見つめ合う。

 

「…………………うん、綺麗ね」

 

ほむらは吹き出した。

そうしてまた機嫌よく歌をうたい、歩みを再開する。

 

「ちょ、ちょっとぉ!」

「おしおきよ、ホテルへ行くわ、どこに泊っているの?」

「へ?そ、そんな!つ、追加料金払わなきゃって、痛い、痛い!」

「うるさいわね、今日は寝かせないわよ」

「そんな!」

 

さあ、と青ざめるさやか。ニイと嬉しそうに微笑む悪魔。二人はそのままさやかの泊っているホテルに向かった。フロントではいろんな意味でひと騒動、エレベーターでは、引き摺られたさやかが身体を挟まれまたひと騒動、と立て続けに騒ぎが起こったが、どうにか部屋に辿り着いた。

 

カチャ、とドアが開き、ビジネスホテルの質素だが清潔な室内に灯りがともる。

 

「あら、意外といい部屋じゃない」

 

満足気にほむらは目を細めながら微笑んだ。これから夜の一戦(何戦も)を交えるのだ。準備を整えないと、といわんばかりにほむらがベッドに近づいた。さやかの腕を離す。

 

「………!」

 

すごい勢いでさやかは背中を抑えたまま立ち上がる。そうしてドアへとまっしぐらに駆けだした――。

 

「いやあ、駅近くはやっぱりいいなあ」

「飲みに行っても楽だしねぇ」

 

そう、このビジネスホテルは繁華街まで徒歩3分という距離だ、利便性にも優れている。申し分ない。出張中のこの若い男二人はほろ酔い気分で、ホテル8階の廊下を歩いていた。

 

「俺、803号室だけど」

「ああ、俺は802号室、それじゃ」

 

ああ、と男が答えようとした時、右隣の805号室のドアが勢いよく開いた。うわ、と思わず片方の男が声をあげる。蒼い髪の女性が勢いよく出てきたが、すぐに後ろから白い手が伸びて一瞬で中へと引き摺りこまれる。バタン、と大きな音を立ててドアが閉まった。再び訪れる静寂。

 

「……なんだかすごいな」

「ああ」

 

そうして二人は淡々とそれぞれの部屋に入っていった。

 

「あいたっ!」

 

ベッドのスプリングがぎしり、となり、さやかが跳ねた。ほむらが放り投げたのだ。床に落ちそうになるのを堪え、さやかが体勢を整える。片手は背中にあてたまま、もう片方の手を前へ突き出し半身の姿勢を取る。その姿はまるでストリートファイターのようで。

 

「あら、いい度胸じゃない」

 

腕を組んだまま、ほむらがさやかを見つめる、そのアメジストの瞳は爛爛と輝いて。その形のいい唇が割れ、赤い舌がちろちろと出てきた。蛙を見つけた蛇のようだ。長い黒髪を一筋口元へ絡めながら妖艶な笑みを浮かべる。彼女は力を解放すればするほどその妖艶さも増していくのだ。周囲の温度が一気に下がる。妙齢の女性二人が対峙する――かたやベッドの上でファイティングポーズをとり、もう一人の恐ろしいほど美しい女は腕を組み不敵な笑みを浮かべて。

 

「う…こ、怖くないわよ!」

 

言葉とは裏腹に、若干縮みこんでいるさやか。それはさながら、尻尾を下に丸めた雑種犬のようで。ボクサーといわんばかりに二、三度拳を前へ突き出すが、その動きがどこかコミカルでほむらは失笑した。

 

「貴方…お笑いに向いているわよ?」

 

そう囁いて腕組を解いて、右手をゆっくりとあげた。人さし指を相方に向け、そのままタクトのように左へ振る。うわあ、という声とともにさやかも左へ飛んだ。もうひとつのベッドへ倒れ込む。部屋は追加料金を払ったためツインの部屋に変わっていた。

 

「う…」

 

顔をしかめながら上体を起こすさやか、どちらかといえば背中が痛いようで右手で背中をさすっていた。回復魔法が効かないらしい。そこに黒い影が一気に飛びかかり覆いかぶさる。さやかが呻き声をあげた。

 

「……痛いでしょ?」

 

艶のある声がさやかの顔のすぐ近くで響く。訝しげな表情の蒼い髪の女性と面白そうに見下ろす美貌の女性。腕立て伏せの姿勢の状態で、ほむらはさやかに覆いかぶさっていた。足は互いに交差していて。さやかの足に絡まるほむらの白い脚。さやかが身じろぎしないのは、ほむらが力を使用して「拘束」しているからだ。ほむらの左手がさやかの背中に回される。痛い、とさやかが声をあげた。

 

「あ、あんた魔法を使えなくしたわねっ」

「悪い?」

「悪い?って…ちょ、」

 

んあ、とさやかは再び声をあげる。火傷した背中をスーツの上から乱暴に掻きむしられたのだ。眉間に微かに皺をよせ、苦しそうに目を瞑る。満足気に目を細め、ほむらはそんなさやかの唇に自らの唇を押しあてる。

 

「貴方のそんな顔…好きよ」

そうしてペロリと舌でさやかの頬を舐め、指で顔を撫でる。まるで捕食前の猫のようだ。

 

「この…ドS!横暴!」

 

飼い犬の悪態を余裕で聞き流して、飼い主は更に背中を撫でる。身体が跳ねて、蒼い髪の女性から悲鳴があがる。耳元で悪魔が囁いた。

 

「……貴方が悪いのよ?」

「……っ、そりゃあ…」

 

そう言われると立つ瀬が無い。無礼を働いたのはこちらの方なのだから、とさやかが申し訳なさそうな顔になる。頬をくっつけて、耳元で囁いているものだから、ほむらの顔は見えない。だが、心なしか沈んでいるような声だ。

 

「……貴方、私がいないと寂しいっていったわ」

「うん…言ったわ」

 

『あんたがいないと寂しいわ』

 

そう、そうなのだ、最近出張が多くて寂しがっている相方に、私は何もできないでいる――。さやかの蒼い瞳が曇った。ゆっくりと左手をあげて、相方の頭に軽く載せた。ゆっくりと撫でる。

 

「…ごめん、私あんたにひどいことしちゃったわ」

「そうよ…」

 

甘えるようにほむらがさやかの肩に頭を寄せた。

 

「せっかく二人で話してたのに邪魔は入るし…」

「うん」

「貴方は騒がしい場所ではしゃいでいるし…」

「うん」

「だから今日はお仕置きするわ」

「うん…え?」

 

くすくすと身体を揺らしながらほむらは笑っていた。さやかが顔を向けると、目を細めた悪魔と目が合う。さきほどとは違い雰囲気が丸くなっている、どうやら怒りはほんの少しだけ収まったようだ。身体をぴったりとくっつけたまま、ほむらは囁いた。

 

「ねえ、どっちにする?」

 

だが選択の余地は無いらしい、黒髪の美女の手はゆっくりとさやかの下腹部に伸ばされて――。

 

さやかは大きく息を吸った。今から身体を改変されるのだ。快感の波が襲ってくるのに備え、シーツを力いっぱい握った。

 

******

『しましょう?』

 

そう囁いて蒼い髪の少女の下腹部に顔を落とす黒髪の少女。目を瞑る蒼い髪の少女。身体に駆け巡る快感と、そして激しい衝動。衝動はやがて黒髪の少女の中に打ちつけられ、注がれて。それをもう彼女達は何回も、何百回も繰り返して――。

 

『……子供…できるのかしら?』

 

体内の剛直したものがはじけて柔らかくなっていくのを感じながら、黒髪の少女は目を潤ませて、蒼い髪の少女に尋ねる。だが、蒼い髪の少女は答えない。ただ黒髪の少女を抱きしめて震えているばかりで。ふう、とため息をついて、黒髪の少女は大人びた表情で囁いた。

 

『泣かないで――』

 

* *   *   *     *

 

体内を掻きまわされながら、さやかは己の身体が変化していくのを感じる。駆け巡る快感。そして、今馬乗りになっている美しい相方への狂おしいまでの劣情。

 

――犯したい

 

そう、彼女を――犯したくなるのだ。

 

びくん、とさやかの身体が跳ねた。さやかの下腹部に溶け込んでいたほむらの手が引き抜かれると同時に勃起したものが現れる。

 

「あら…貴方もやる気満々ね?」

 

犬のくせに…と嬉しそうに口元を緩め見下ろすほむら。視線の先には劣情を秘めた光を宿す蒼い瞳。

 

――こんな相方の顔を見ることができるのは、自分だけなのだ。

 

ほむらは満足気に笑みを浮かべる。そう、普段の飄々とした彼女からは想像もつかない、激しい劣情、そして欲望――ほむらはこれらが全て自分に向けられているのだと思うとそれだけで――。

 

呻き声をあげて、さやかが身体を起こそうとした。が、すぐにほむらが押さえつける。力を全て解放した場合、ほむらに敵う存在はおそらくこの世界にいない。ぐう、と犬のように再び呻いて身をよじる相方を目を細めてほむらは見つめた。乱れたスーツ姿、下腹部のあたりは更に乱れ、はだけたワイシャツと下ろされたズボンの間から勃起した男性器。細いしなやかな彼女の身体の中央に生えたソレは、不釣り合いなほど猛々しくごわついていて。ほむらはソレを躊躇せず強く握る。下で相方が大きく息を吸った。

 

「だめよ……貴方じゃないわ」

「……?」

「私が貴方を犯すのよ」

 

そう囁くと、ほむらはソレを口に含んでゆっくりと舐めはじめた。

 

*   *    *       *

 

 

利便性の高いビジネスホテルの一室で、彼女達は生まれたままの姿で重なり合う。激しく軋むベッドの中、強く手を握り合って。

 

「まだ…だめ…よ…」

「…ほむら…」

 

荒い息の中、下で腰を必死に動かす蒼い髪の女性。馬乗りになっている黒髪の女性はそれを笑みを浮かべながら見下ろす。時々喘ぎ声をあげながら。結合部は既に濡れそぼって奥深くまでべっとりとした状態で繋がっていた。パン、パン、と乾いた音がする度にほむらの身体が持ち上がり、また奥深くまで沈み込む。髪を乱し、揺れるその姿は、まるでトランス状態の巫女のようだ。抽送をくり返す度に熱く固くなっていくさやかのソレを体内で感じながら、ほむらは鮫のように恍惚とした表情で笑った。――行為の際は、さやかがほむらの中に挿入する方が長持ちする。すでにほむらの膣内にさやかの勃起したソレが侵入してから1時間は経過していた。さすがに二人とも息は荒くなっている。美しい裸体を揺らし、汗を浮かべながら彼女達は嬌声をあげた。ギシギシ、と音を立て続けるホテルのベッド。

 

「ほむら……ほむら…もう」

「だめよ」

 

射精の衝動にかられた相方を叱りつけ、しつけるようにその顔を両手で包むと、額を合わせほむらは甘く囁いた。普段滅多に聞くことができない声で。

 

「我慢して…さやか」

「う…う、う」

 

泣きそうな苦しそうな声をあげる相方をさも愛しそうに見つめ、頬を寄せる。ああ、この瞬間がたまらなく――。膣内で異様に固くなり震えるさやかのソレを感じながら、ほむらは耳元で囁く。さっきよりも甘く、もっと甘く。

 

「―――出していいわよ」

 

あああ、とひと際大きな声をあげながら、さやかは身体を反らせほむらの中へ入りこまんというばかりに腰を押し付けた。灼けるように熱く膨張したさやかのモノが一気にはじけ、ほむらの中に精液が注ぎ込まれる。膣内の剛直が脈動し、次第に柔らかくなっていくのを感じながら、ほむらはさやかの顔にキスの雨を降らせた。

 

*      *      *

 

それから数時間後、二人はまだ繋がったままでいた。体勢は変わらず、さやかの上にほむらが馬乗りになっている。どうやら今夜は主導権を握らせないつもりらしい。

 

「気持ちいい?」

 

無邪気に囁く悪魔。恍惚とした表情で頷く忠犬。もう何回射精させられたかわからないほどで。さやかの蒼い瞳は与えられた快楽で妖しく揺らめいて。それを満足気に見下ろすアメジストの瞳。

 

「可愛いわ」

 

そう囁いて再びキスをする。また体内の剛直したさやかのモノがはじけた。ほむらの膣内は心地よいほど温かく、妖しく蠢いて、さやかはまた快楽の声をあげ…勃起した。

繰り返し、繰り返し、それは明け方まで続き、ようやく終わりが見えた頃。二人は寄り添って眠りにつこうとしていた。さやかの上にもたれかかるようにして目を瞑るほむら。

 

「ん…」

 

一瞬眠りに落ちている間に、攻守が逆転する。いつの間にかさやかがほむらの上に圧し掛かっていた。ふふ、と笑うほむら。だが、もう精を受けすぎて疲れ切ったのか、特に反撃するわけでもなくおとなしく忠犬を見上げる。

 

「なあに?下剋上?」

「……」

 

小首をかしげながらさやかはほむらを見下ろしていて。困惑したような表情で、それでもしっかりとほむらを見つめて囁いた。

 

「……もう一回…」

 

ほむらは歯を見せて笑う。何がそんなに可笑しいのか、と不思議そうなさやか。下から手を伸ばし、ほむらがさやかを抱きしめた。

 

「いいわよ」

 

それはとても甘い声で。さやかは嬉しそうに目を閉じて、ほむらの中に入る。固いさやかのモノが体内の肉を割り入ってくるのを感じながら、ほむらはそのまま眠りに落ちた。

 

********

 

アラームがどこからか聞えてくる。

それは無機質な音で、いつも家で聞きなれているのと違ったため、美樹さやかは認識が遅れた。

 

「………ん」

 

ぬう、と蒼い髪をぼさぼさにさせて起き上がる。もちろんシーツの下は裸のままだ。しばらく見慣れぬベッドに備え付けられたアラームをぼーっと見つめる。

 

「あ…」

 

思い出したといわんばかりに声を漏らすと、慌ててきょろきょろと周囲を見た。そうして傍のシーツの膨らみに気付く。ゆっくりとめくるとそこには身体を丸め、すやすやと眠る黒髪の美女。

 

「…まったく…」

 

さやかはあきれたようにため息をついて、そうしてゆっくりとベッドから降りた。が、ふらふらと所在なく身体が揺れ、ぺたり、と床に脚をついた。力が出ない――。まるで身体の中が全部無くなってしまったかのようで。ベッドの縁に手を置いて、生まれたての子馬のように立ち上がるさやか。

 

「ち…力が出ないわ…」

 

ふらふらと鏡に近づき顔を見ると目にくまができていた。ひどい顔だ。どうしよう?と悩むが、そうも言ってられない、今日は出張最終日なのだから。背中が擦れたスーツを苦み走った表情で見つめながら、手早く着替えをすませ、準備を整える。

 

「………」

 

すやすやと眠りについている相方をしばらく見つめるさやか。精気を吸いつくされてしまって力が出ないのはこの相方が原因なのだと思うと、腹ただしくもあるが、それよりも――愛おしくてたまらない。さやかは目を細め囁いた。

 

「いってくるわ」

 

そうして、ほむらの頬を撫でる。

 

「ん…」

 

ほむらが身じろぎして、慌ててさやかが手を引っ込める。熟睡しているのだろう、目は覚まさない。こんなに穏やかな寝顔を見るのは初めてだった。

 

「あんたでもこんな顔するんだね…」

 

そうしてたまらなくなったのか、今度は唇を重ねた。

これくらいはいいだろう――今日くらいは。

 

そうしてさやかは部屋を出て、ゆっくりとドアを閉める。薄暗い静かな部屋でほむらは気持良さそうに眠る。夢も見ないで。それはとても幸せな眠りだった。

 

 

 

それから数時間後、目を覚ました悪魔が嬉々として忠犬を迎えに行き大騒ぎになるのははまた別の話――。

 

 

END

 

 




気持ちよさそうに眠るほむらはとても可愛らしかった(byさやか)らしいです


店内でのさやかと同僚、スタッフとのやりとりはhttps://syosetu.org/novel/303494/
内の「ほむら出張する」を参照ください。


ではでは感想等ありましたら是非…!
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