※この作品はR-18です。

血と悪魔(大人悪魔ほむら×大人さやかR18短編集)   作:さんかく@

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心震わせて 前編と後編に繋がる、バレンタインエロ。


蒼い犬

「どろどろのチョコレートは無いのかしら?」

 

私は目の前の男性に声をかけた。目を見開き、顔を紅潮させて、口を魚のようにパクパクさせている。一体どうしたというのだろう。私は別に力など使っていない。慌てた様子で店の奥に駆けこんでいく男性を見ながら、何故か私は家にいる「犬」を思いだした。

 

「あ、あのっ、こ、固形のチョコを溶かせばいいと…これを」

 

ドタドタと音を立てて男性が戻って来たと思ったら、箱を渡された。15cmほどの白い箱。

固形のチョコレートが入っているという。私は黒のバッグに手をやるが、男性が静止する。私の眼前で両の掌をひらひらと振って、顔を真っ赤にしたその顔はまるでにやけた何かの動物のようで。この様な顔を私はもう何百回と見てきてすっかり慣れっこになっていた。

 

「じゃあ、頂くわ…ありがとう」

 

口元をあげ、少しだけ目を細め、そうして礼を述べる。

これが「有効的」だと進言されたからだ。進言してくれた私の犬はこういうことだけは聡い、おりこうさんね。

そうして今回もかなり効果的だったよう、男性はただただ私を見つめながら彫刻のように動かなくなってしまった。黒髪を掻きあげながら、私は店を出た。

 

夜の街

私が改変したこの世界

 

あの子に抱かれ続けているような恍惚とした気持ちで、私は何度もこうやって月を見上げた。半分に欠けた月を。

あれからどれくらい経ったのだろう。

店のショーウィンドウに私が映る。

成人した、大人の女性の私が。長い黒髪、蒼白い肌、そうしてアメジストの瞳。

美しいとまるで何かを賛美しているかのように、数多くの男性が私に、まるで砂糖に群がる蟻のようにやってきた。そのほとんどが情欲にまみれた目で私を見ていた。放課後親しげに勉強を教えてくれる学校の先生も、ついてきた見知らぬ大人も、体育館の倉庫に呼び出してきたクラスメイト達も。くだらない、私はあの子以外に興味は無い。そうしてある日、大学で、まるで人外のようだと称された。当然だわ、私は悪魔だもの。辛くはない。

辛くはないが、時折、私は一人過去に想いを馳せる。

 

――かつて遠い昔、私は悪魔ではなく、魔法少女であった。

 

だがそれを知っているのは、私以外に誰もいない

…いや、正確にはもう「ひとり」いる。忌々しい蒼い犬だ。

犬は、私と同じ記憶を保有している。いや、共有とでもいうのだろうか。

最初、犬は私に噛みついた、吠えて吠えて、何度も私に歯向かった。

でもだんだん記憶を失くしていった。

いずれは忘却の彼方へ去っていってしまうだろう。

 

ああ、とてもせいせいするわ――

 

そう思っていたのに、あの犬は、記憶を全て取り戻し、ひょこひょことみすぼらしい雑種犬よろしく私の元へやってきた。とてもひどい目にあったのだろう、尻尾を垂らして、くうん、くうん、と私の足元に寄り添ってきた。

 

――情けない

 

あんまり情けなさすぎて、「無様ね」と嘲笑した。そうしたら、あろうことか尻尾を振った。縋るような蒼い瞳。

 

やめて

 

あんまり情けないから仕方なく、そう仕方なく笑ってあげたのに。勘違いして尻尾をずっと振っているなんて、馬鹿ね。

貴方が情けなくて笑ったのよ、それでも犬の尻尾ははちきれんばかりに振られて

…馬鹿馬鹿しくて私はもうため息しかでなかった。

 

――いいわ

 

傍に置いていてあげるわ。

悪魔だからといって、私は無用な殺生はしない。

私の傍にいなさい

そう言って、私は犬の頭を撫でた。

あれから何年経っただろう

犬は当たり前のように悪魔の家に住みついた。

ある日、何の気なしで頭を撫でて、身体を撫でてあげたら喜んでじゃれてきた。

おいで

私は腕を広げて犬を迎え入れる。

仕方ないから一緒にじゃれてあげた。

ええ、仕方なかったからじゃれてあげてるのよ。

だから――

ほら、今夜も一緒に眠りましょう?

 

*      *      *

 

カツン、カツン

私はチョコを溶かしていた。

ボウルの中、溶けて行くチョコレートはまるで泥のようで。

 

――はい、ほむらちゃん、これ

 

この間、愛しい子からチョコレートをもらった。

桃色の髪の優しいあの子から。

愛しい、

私の大切な子。

私の全て

まどか

カツン、カツン…

でも、そんな私の大切な子から、蒼い犬も忌々しいことにチョコレートをもらった。

犬のくせに

私の

犬のくせに

 

カツン、

どろりと溶けたチョコレートを私は見つめる、

ボウルに指を突っ込んで、どろりとしたチョコレートをすくい私は口へとそれを流し込む。

甘い

こんな感じでいいかしら?

 

「ただいま」

「おかえりなさい」

 

犬が帰って来た。

不思議そうに私が台所に立っているのを見つめる。

 

「チョコレート作っているのよ」

 

へえ、と興味深げな声をあげた。きっと、目を輝かせて私の背中を見ているのだろう。もう振り向かなくても、私はこの犬のことがよくわかるようになっていた。

 

「貴方が物足りなさそうだから…あげるわ」

 

以前にもあげたチョコレートは小さすぎて不満だったらしく、私は時期外れの手作りをあげることにした。そう、手作りのチョコを。

そのつもりだった。

 

「でも貴方は犬だから、固形よりどろどろしたのがいいわよね?」

 

そう言って、私は犬にテーブルにいきなさいと指示をする。

不思議そうに首をかしげながら、それでも犬はおとなしくテーブルの椅子に座った。

カツン

チョコはどろりと溶けて。

 

「そこじゃないわ」

 

ボウルを持って私もテーブルに向かう。

犬の対面に座って、私は人さし指を眼前に突きだす。

 

「貴方が座るのはここよ」

 

そうして、差し示したのは、私の足元の冷たい床。

犬の蒼い瞳が揺らめく、怪訝そうな表情。

 

「何…」

「座りなさい」

 

それでも犬はなかなか床に座ろうとしない。

馬鹿ね、主人の言うことがきけないなんて。まだしつけが足りないのかしら。

 

「ほむら…どうしたの一体…」

「黙りなさい」

 

私は力を使う。人さし指を犬に向け、そのまま床下へ向けて落す。

声をあげて、犬は床に倒れ込んだ。無様ね。きちんと主人の言うことを聞かないからよ。

犬は不安げに私を見上げている、澄んだ蒼い瞳が余計に私をイライラさせた。

 

「杏子に会ったわね?」

 

びくり、と顔をあげる犬。

そう、私は知っている、犬は杏子と会っていた。魔獣との戦闘が終わった場所で、犬は杏子に抱きしめられていた。随分と長い間。主人以外に抱かれても抵抗しない飼い犬なんて、価値はない。もう殺すしかない。

 

「でもあれは…違うのよ」

「何が違うの?」

 

偶然会ったから?

杏子の方から抱きついてきたから?

違うでしょ

パリン、と音が鳴る。

テーブルに置いてあったグラスが、私の力の余波で割れた。琥珀色の液体がテーブルから床へ滴り落ちる。犬は力に圧倒されて、床に這いつくばっていた。

 

「馬鹿な犬…私は貴方が尻尾を振っていたのが気にくわないのよ」

「私は…犬じゃないってば!」

 

蒼い髪を乱して、犬は叫ぶ。目には涙を浮かべて。力に抵抗するのに精いっぱいらしい。

犬の身体から蒼白い光が浮き出ていた。ガクガクと身体を痙攣させている。

 

「犬よ…貴方は」

 

私の犬

私は力を緩めた。苦しそうに顔をあげ、犬は深呼吸する。

ハアハア、としばらく喘いでから、私を見上げた。汗ばんだ顔。

澄んだ蒼い瞳は今はもう暗く淀んでいて。何か言いたそうな焔を宿していた。

 

「…だとしてもよ…」

 

けほっ、と咳をひとつして、顔を背けた。

 

「もし…私が犬だとしても、私は…あんた以外には尻尾なんて振らないわ…」

 

犬の顔は紅潮していた。この犬は恥ずかしがり屋で、本心を述べる時はいつもこうやって顔を背ける。

ああ、

体内が熱くなった。

これだから、この愚かな犬を殺したくても、私は殺せないのだ

 

「じゃあ、証明して頂戴な」

 

私は逸る心を抑えて、テーブルで脚を組む。

キャミソール一枚の私の脚は、太ももまで露出していて。

そうして、私は、ボウルを手にする。

 

「証明?」

「ええ、証明よ」

 

不思議そうな顔をする犬の前で、私は微笑む。

 

「これは貴方のために作ったチョコレート」

 

小首をかしげる犬。ああ、なんてお間抜けな顔なんだろう。

 

「あげるわ」

 

そうして私は

 

ボウルを傾けた。

 

どろり、と茶色の液体が、私の脚にかかる。

太ももから、足首、そして先まで甘く、チョコレートに染まって。

ポタポタ、と床に垂れる音がやけに響いた。

 

「舐めて」

 

はっ、と犬が強張った。目を見開き、私を見上げている。暗く淀んだ瞳に浮かんでいるのは怒り。そして驚き。

 

「あんた…本気なの?」

 

そして戸惑い。

 

「ええ、本気よ」

 

甘い香りが漂う私の足元で犬は戸惑う。

 

「ありがたく思いなさい」

 

しばらく犬は沈黙した。そうして小さく、小さく囁いた。

 

「……変態」

 

私の背中にゾクゾクとした震えが走る。犬の目が、怒りとも劣情ともつかぬ光を宿して私を見つめたから。馬鹿な犬が時折見せる熱情に、私は黒い喜びを感じ口元を緩めた。

 

「全部舐めるのよ」

 

こく…と犬は頷いた。そうして私の太ももに顔を寄せる。どうやらそこから舐めるらしい。

チロ、と舌をおそるおそる出して、音を出して舐めはじめた。

本当に犬ね…そう思いながら私は笑った。

そうして、犬の舌の感触を楽しみながら目を瞑った。

ケホッ、ケホッ、と犬が咳をする。

蒼白い闇の中、犬は椅子に座った私の太ももに疲れたようにもたれていた。

犬の口はチョコにまみれていて。私の足は茶色から綺麗に白へと戻っていた。

 

「おそまつさま…どう?」

「…………甘かったわ」

 

じろりと睨んで、犬は目を逸らす。羞恥で顔は真っ赤だ。

でも、口元はチョコレートまみれ、その顔がお間抜けで私はまた笑う。身体を離そうとする犬の頭を押さえつけ、そのまま乱暴に撫でた。

 

「貴方って、舐めるのへたくそね」

「な…」

 

どこが下手かなんていわない。まどかのくれたアンクレットを噛んでしまったところとか、

マニキュアまで舐めたとか。いろいろありすぎるけど、こんなお馬鹿さんに言ったところで…ねえ?

 

「ほんとう…馬鹿ね」

「……離してよ、もう信用したんでしょ」

 

珍しく犬は反抗的だった。

普段なら、そろそろ尻尾を振るはずなのに。

 

「あら、だめよ」

「……」

「まだ信用してないわ」

 

そうして力を使う。

ギャン、と鳴いて犬はあおむけに倒れた。

潤んだ瞳を無常に見下ろして、私は覆いかぶさった。私の髪が犬の顔にかかる。

 

「殺したくなるわ」

「やめてよ…」

 

そうして私は犬の口を舐めた。甘い口。

舐めながら、「撫でて」やると次第に犬はおとなしくなった。

 

「もう…杏子には会わないわね?」

「そんな…こと約束…なんてできない…わ」

 

呻く犬。でも私は撫でるのをやめない。

 

「…やめてってば…」

 

だが犬は次第に弱々しく呻くだけ。そうしてとうとう口ごたえしなくなった。

私は犬に跨った。

犬は大きくあえいで、苦しそうに私を見た。潤んだ蒼い目。

そうだろう、きっと私の中は焼けるように熱い。中で撥ねる犬。

 

「会わないわね…?」

「………」

 

こくりとただ犬は頷いた。

蒼い瞳には、私が嫌というほど見てきた、情欲の焔が宿っていた。

だが、今の私にはそれが嬉しくて、思わず犬の顔を抱きしめた。

 

「いい子ね、さやか」

 

今日、私ははじめて犬の名前を呼んだ。

そうして私は動き出す。

 

さやか

 

私の蒼い犬

 

 

 

 

END

 

 

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