血と悪魔(大人悪魔ほむら×大人さやかR18短編集) 作:さんかく@
(注意)
この作品は18禁です。
直接描写はありませんが、ふなたり要素があります。
ギャグ時空ですが、内容が下品かもしれませんので、苦手な方は回避願います。
なんでもバッチこいな方はお付き合いいただければ…
悪魔の朝は遅い――
故にたとえ相方が仕事の支度のために傍でもぞもぞと動き出しても、あやまって(よくあるのだが)ベッドから落下して奇声をあげたとしても悪魔は素知らぬ顔で寝がえりをうち、気持ちよさそうに眠り続けるのだ。
今日もそういう朝だった――
「ほむら、行ってくるわね」
耳元でかばん持ちが囁くが、どうにも眠気には勝てず形のいい眉をひそめて悪魔は右手を出すとひらひらと振った。
――さっさと行きなさい
というつもりの仕草なのだが、えへへ、とだらしのない笑い声が聞こえてきた。たぶんかばん持ちの脳内では
――いってらっしゃい、さやか、お仕事頑張ってね
とかそんな風に変換されているのだろう。お気楽な犬だ、と心で舌打ちしながらほむらはまどろんでいた。もうすぐまた深い眠りにつきそうで。数時間前に暴走する犬のお相手を散々してきたのだから、今日は夕方まで眠っても構わないだろうと悪魔は考えながら再び眠りに入る。何か忘れているようなそんな気が微かにしたのだが。
* * * * *
その妙なBGMでほむらが目を覚ました頃には、もう太陽は真上にあがっていて。
「何…」
眉をひそめ、不機嫌そうに黒髪の美女は起き上がる。乱れた長い黒髪を手櫛で整え音の発信源を探す。キャミソール姿の彼女はその美貌もあいまって恐ろしいほど扇情的だ。うぅ、と珍しく呻きながら、ようやく音の発信源を見つける。それは枕元にある紫色のスマートフォンで。
「…そういえば変えられていたわね」
おせっかい焼きの相方は悪魔の着信音をよくいじる。
『この曲カッコイイのよ』
そう言ってたのを思い出し、ほむらはしばらく曲を聴く。小首を傾げて
「変な曲」
と呟いた。そうして通話ボタンを押して耳にあてる。
「どうしたの?おまわりさ――」
『〇Д★☆▽××!※~~!』
思わず携帯から耳を離すほむら。いたって無表情で。
――とうとう発狂でもしたのかしら
「落ち着きなさい、いったいどうしたの?」
『ほ、ほむらっ、か、解除、解除して!』
「……ああ」
向こう側の切迫した声を聞いて何か合点がいったのか、こめかみに手をあててほむらが呟いた。
「…忘れてたわ」
そうさやかの身体を改変したはいいが、解除することをすっかり忘れていたのだ。昨夜からずっと二人で行為に没頭していたし、終わった後はすぐに眠ってしまったから全く持って頭にも浮かばなかった。
彼女達は生活を共にする間に身体を重ねるようになっていた。じゃれるような触れあいから、それこそ生殖行為まで。その時悪魔の力でさやかの身体の一部を改変したまま――つまりは男性器を生やしたままで元に戻していないのだ。
「そう騒ぐほどのことでもないでしょ?家に戻ったら解除してあげるから」
『それが、その…』
「何?」
『た…たっちゃって』
「…………」
窓の外の高層ビルの街並みをほむらはぼんやりと眺めた。遠い眼差しで。
「切るわね」
『ちょっと!ま、待って待ってお願いほむら、ほむら様!』
はあ、と再びこめかみに手をあてて彼女が苦悶の表情を浮かべる。しばらくしてそれが怒りの表情になった。
「この馬鹿、馬鹿犬!」
ひい、と向こう側から声があがった。
「私がいないところでよくもそんな…貴方ってけだものね」
『け、けだ…』
「誰に発情したの?」
『え、ええ?』
お間抜けな相方の声に余計に苛正しさが募るのだろう、ほむらは舌打ちする。
「いいなさい、怒らないから、貴方は殺すけど」
『いや怒ってるでしょ!てか殺すって、ち、違うのよ誤解よ』
「何が」
『あ、あんたに発情したのよ』
目を少しだけ丸くするほむら。
『お、お昼前にちょっと休憩してたのよ、そうしたらさ昨日のこと思い出しちゃって』
「そう…」
怒気は一瞬にして消え去り、ほむらは微かに顔を紅潮させる。
「やっぱりけだものね、仕事中に私のことを考えて発情するなんて…」
『わああ、恥ずかしいわ、ほんとごめん!返す言葉も無いわ』
ふ、とほむらの口元が緩んだ。
「まあ許してあげるわ、犬の発情ぐらいどうってことないし…でも困ったわね、離れていては私でも解除できないわ。直接触れないと改変できないもの」
『え、そうなの?遠隔とかでできない?』
「私、リモコンじゃないのよ」
そんな…と泣きそうな顔が聞こえ、ほむらはため息をついた。
「いい、さやか、よく聞きなさい」
まるで母親の様な口調でほむらが語りだした。
「自分で処理するのよ、こういうことってまた起きるかもしれないし、いい機会だわ」
さやかに生やした上に解除し忘れた張本人とは思えない説得力のある言葉で。
『自分で…』
「貴方ならできるわ、がんばってねおまわりさん」
『え、そんな…ちょ』
無慈悲に通話を切ると、何か思いついたのか、ニイ、と鮫の様にほむらは笑った。
* * * * *
「どうしろっていうのよ…」
パンツスーツ姿の女性――美樹さやかは途方に暮れた様子で無機質な天井を眺めた。ここは警察署の地下にある資料保存室で、デジタル化されなかった過去の資料が大量にスライド式の棚に収納されている。
『あ、あの捜査資料を探してきます!』
そう言って慌てて執務室からここに駆けこんできたのだ。ここなら滅多に人も来ない。昼休みということもあり少しの間席を離れていても怪しまれることはないし、どうにか最初の危機は免れたと安堵していたのだが…。さやかは困ったように眉を下げ、たれ気味の目を己の股間に向けた。
「どうにか、処理なしで鎮めることはできないかしら…」
そうして、同じ執務室にいる上司や同僚を思い出す。彼らなら有用なアドバイスをくれるのではないか?
「いいアイディアだわ!」
そうだ、特にあの女好きな同僚に聞けば…とスーツで前を隠し前屈みで歩き出すが、はっ、と何かに気づいたように立ち止まる。
――私も生えてますとか言える訳ないじゃない!
そうなのだ、それにもし事情を説明せずに質問したとしても――
『あの、どうやって鎮めてるの?』
――秒で痴女認定されるわ!
いやそれだけならまだしも、もしも好意を持たれていると勘違いされてしまったら――
「ひいい、怖っ!」
己の身体を抱きしめて震えるさやか。自意識過剰な傾向があるようで。
「ああ~もう」
そうして再び途方に暮れた様子で天井を見上げるのだ。
* * * * *
警察署はいろんな輩が訪れる。どこに相談してよいかわからず困り果てた様子の初老の女性だったり、はたまたクレーマーと化して毎日足しげく通ってくる中年男性だったり様々だ。交代で入口を警備している若い巡査は無表情で警察署の前を通り過ぎる通行人を観察していた。が――
「こんにちは」
柔らかい可愛らしい声がして、巡査の顔は冗談の様に惚けていく。そこには20代前半だろうか、白いワンピースを着た長い黒髪の女性が微笑んでいて。
「あ…」
巡査は顔を赤らめた。女性は恐ろしいほど美しかったから。その容貌に見惚れてしまい、巡査はしどろもどろになりながら言葉を発した。
「あ、あの警察署に、な、何か御用ですか?」
「ええ、犬を探しているの」
「犬?それじゃあ会計課に…」
――ぱちん…と音がした。
* * * * *
「ほんとお間抜けね」
「わ!あ、あんたいつの間に?」
ふとさやかが気づけば、目の前に白いワンピースを着た悪魔がいて。さやかの左腕を掴んでいた。
「あ、あんた時間を止めたの?」
「ええ、お馬鹿な誰かさんの為にね」
そう囁いてにっこりと笑う。その笑顔が眩しくて赤くなるさやか。
「なんだか雰囲気違うわね」
「たまにはいいでしょう?」
そう言って、ほむらはさやかに近づくと顔を寄せた。赤くなっているさやかを見てくすくすと笑う。
「ほんと犬ね」
「だってあんたが可愛いんだもの」
いきなり、ふいにかばん持ちは悪魔の心を激しく動揺させる。そう、こんな風に。ほむらの顔から笑いが消え、次第に赤みを帯びていった。
「ほむら?」
「ほんと貴方って…」
そう言って、ほむらはさやかの身体を抱きしめる。
「ねえ、解除してくれるんでしょう?」
「そのつもりだったけど、やめたわ」
え、と驚くさやかの顔。ニイと鮫の様に笑うほむらの顔。
「その代わり」
「うん?」
「処理してあげる…」
そう囁いて、悪魔はさやかの唇に噛みつくようにキスをした。
******
――ぱちん…と音がした。
巡査が目を見開く。一瞬気を失っていた様なそんな気がして。目の前には先ほど
の白いワンピースの美しい女性がいた。
「あ、あれ…あ、犬は見つかりましたか?」
女性はにっこりと微笑んだ。
「ええ、たくさん躾けてきたから、もう騒がないわきっと」
「え?」
意味がわからず不思議そうな表情を浮かべる巡査をしり目に女性は警察署を後にした。
それから数分後、目に隈を作りスーツもヨレヨレで執務室に戻ってきたさやかを見て同僚達は驚いたという…。
その日さやかが無事に解除されたかどうかは別の話――。
END