※この作品はR-18です。

血と悪魔(大人悪魔ほむら×大人さやかR18短編集)   作:さんかく@

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さやかが生えてます


月に啼いて

 

『なあ、あんた、さやかのことはどう思ってたんだ』

 

佐倉杏子がある日私にそう尋ねてきた。

 

予想外

 

たぶん気が遠くなるほど長い周回で一度も聞かれたことのない問いだ。

 

『おいおい、そんなに驚くことないだろ』

 

顔に出しすぎてしまったらしい、私は気を取り直してぽつりと呟いた。

 

『初めてそんなこと聞かれたから…』

『そうかい?まあ、あんたはあたしより先にあいつと知り合ってんだから、ちょっとばかし話を聞きたいと思ってね』

 

わからないでもない、なにせ佐倉杏子と美樹さやかは友好関係を結べそうになった直前に引き離されるパターンが多かった。そしてこの世界でも。

 

『そうね…』

 

仕方がない、それじゃああの子のことを語りましょう、私なりに。

 

『…あの子は…美樹さやかは』

『うん』

『とても不器用な子だったわ』

『ハハッ、それは違いない‥‥』

『………』

『………え、それだけかよ?』

 

驚いた様子で私を見る杏子。

だが、正直そう言われても私も困るのだ。だって彼女のことを私はあまり知らないから。短絡的で戦闘時には必ず怪我をしていたとか、何度言っても魔女になるとか、口は悪いけど結構近しいものに対しては優しさを示すし、おせっかいだとかそういうくらい。だけどそれはこの世界の彼女ではない。何度も繰り返した周回で垣間見た彼女の情報をかき集めた結果だ。

 

『…はあ…なあ、あんたあいつのこと嫌いだったとか?』

『そんなことない…私はあの子のこと…』

 

手に負えないほど不器用だったけど、それでも

 

『嫌いなわけないわ』

 

*****

 

「……前言撤回ね」

「何が?」

 

覆いかぶさって、私を覗き込む熱に浮かされたような潤んだ瞳。そのどこか達成感に満たされたような表情が憎たらしくて、私はその蒼い髪を軽く引っ張った。

 

「あいたっ」

 

精悍な顔をしかめる彼女。その瞬間、彼女の顔は14才のあの頃に戻る。

 

「もう…」

 

片手で自分を支えながら、左手で彼女は頭を掻いた。肩まで伸びた蒼い髪、引き締まった顔そして何も身に纏っていない身体は月明りに照らされてとても綺麗で。きっと同じ様に何も身に纏っていない私も彼女にそう見られているだろう。自惚れではない、この長い年月彼女はずっと私を熱に浮かされた様な目つきで見つめていたのだから、そう今みたいに。

 

…私は彼女の腰に回していた腕を解いた。

 

「…済んだら離れて」

 

覆いかぶさっている彼女が動きだす。命令に従順な所は彼女の美徳だ。ぴちゃ、と魚が跳ねるような音して、私と彼女を繋いでいたモノが離れた。消える体内の圧迫感、代わりに残される私の中に注がれた液体の熱。はあ、と気持ちよさそうに息を漏らす彼女。私は顔を背け窓の向こうの蒼白い月を見上げた。

 

こんなとき、圧迫からの解放よりも、喪失感を覚えるようになったのはいつからだろう?

 

月の下には海の底の様な夜の街、そこに反射してぼんやりと映し出される乱れた長い黒髪の女性。それは大人になった私。窓に映る私は、身じろぎしながら皺だらけのシーツで肢体を隠した。

 

「何考えてんのさ」

「…なんでもないわ」

 

そう、ただ昔のことを思い出して少し感傷的になっただけだ。

よりにもよって、それが行為の最中だっただけのこと。

 

「そっか…」

「ちょっと…」

 

もぞもぞと背後で彼女が動き出し、私のシーツの中に潜り込んだ。ぴったりと私の背中に身体を押し付け、肩に頭までのせてくる。まるで犬だ、いや、まるでではなくて、彼女は犬だった、と思い直す。そう、私の犬だ――。

 

「本当に馬鹿犬ね…」

「私、犬じゃないわ」

「犬よ、貴方は…さっきもそうだったでしょう?」

 

もぞもぞとした動きが止まり、息を飲む音がした。くっくっと体を揺らし、私は笑う。ああ、愉快だ。悪魔になってから私はよく笑うようになった。

 

「あの…ところでさあ…」

「なあに?」

 

自然と出てきてしまう甘い声、それももう慣れた。この犬――彼女をこの身に受け入れた時からそうなってしまう運命だったのだろうと思う。それは思ったよりも悪くないものだ。

 

「さっきの前言撤回って」

「ああ、あれね」

 

 

『あんたあいつのこと嫌いだったとか?』

 

 

10年前の少女だった頃の佐倉杏子の顔が脳裏に浮かぶ。だがその顔は次第に現在の大人の女性の顔へと変化し、そして私に怒りの表情を向けた。

 

『あいつの事「愛」してないし、「好き」でもないって言ったじゃないか、なのになんで!』

 

皮肉なことだ。杏子は10年前も今も私に似たような質問をしていたのだ、気づけば私は笑っていた。

 

「ほむら?」

 

名前を呼ばれ、私は顔を後ろへ逸らし横目で間抜けな彼女の顔を見つめた。

 

「昔、貴方のこと嫌いなのかって尋ねられたことがあるの」

「誰に?まどか?」

「さあ?誰だったかしら、忘れたわ」

 

半分本当で半分嘘。その名前を彼女に言う気は無かった。言いたくなかった。

私は数か月前、佐倉杏子と再び決別した、10年前とは全く異なった理由で。

 

『寝たわ』

『…何』

『寝たのよ…意味わかるわよね?だからあの人にはもう近づかないで』

『‥‥…』

『所有物に手を出されることほど不愉快なことはないわ』

 

数か月前の佐倉杏子とのやり取りを思い出す。そう、理由は今こうして私の背後に張り付いてこちらを見ている蒼い髪の犬。この犬は私の所有物なのだ。

 

「そっか…」

「気になるの?」

「とても…だってあんたがあの頃私のことどう思ってたか、知りたいもの」

「物好きね…嫌いだって答えてたら?」

「それは…ショックだけど、まあ嫌われるようなことばっかしてたし、仕方ないかなあって…それに前言撤回なら今は好きってことでしょ?」

 

こういう時、時の流れは偉大だと私は思う。だって、あんなに短絡的で直情的で不器用だった子がこんな風に思慮深く囁くのだから。だから私も正直に答えた。

 

「嫌いじゃない」

「へ」

「あの時、私は嫌いじゃないって答えたわ」

 

横目で戸惑う彼女を見つめながら、私は挑発的に笑う。

 

「どう?嬉しい?」

「うん…あの時、あんた私のこと嫌ってなかったんだ、でも…前言撤回って」

 

捨てられた犬の様な顔、ああ、愉快だ。悪魔になったからだろうか、私は彼女のこんな顔を見るのが好きだった。しばらくその顔を味わう様に楽しんでから、私は囁いた。

 

「想像にお任せするわ、鞄持ちさん」

 

答えは教えてあげない。私はまだそこまで優しくないのだ。

 

久しぶりに彼女をそう呼んだからか、私はかつて何度も繰り返した周回や、それにまつわる事象を思い出す。長い長い時間の迷路を進み、そうして私はあの子のために悪魔と化した。あれから10年、あの子に対する思いは今も変わらない、変わるわけがない。

 

だけど、私は変わった――

 

魔法少女、魔女、魔獣、そして円環の理、今もまだそこにある存在、だけどそれが今では希薄に思えてしまう。それは私が大人になったからだろうか、それとも――

ぐっ、と更に強く抱きしめられて、私は口元を緩める。「力」を全て取り除けば、人としてのフィジカルは彼女の方が強い。私はそれが面白くて力を抜いた。まあ、その気になればいつでもこの手で殺すことができるのだから。

 

「なあに?痛いわ」

「あんたが私のことどう思おうと、構わないわ…でも私はあんたのことが」

「言わないで」

 

それは聞きたく無かった。聞いてしまったら何かが変わる気がして。

 

「…言ったら殺すわ」

「わかった…」

 

口惜しそうな彼女、だがおとなしく言う事を聞いてそのまま黙り込む。

 

「いい子ね…」

 

それだけ言って、私は目を瞑る。まだ朝にはだいぶ遠い、あと数時間は眠れるだろう、そう思った矢先、私はまた目を開ける。

 

「あら、私を眠らせない気?」

 

そう言って、私は口元を緩めた。私の背中に張り付いている犬の身体はとても熱くて、そうして「固かった」。

 

「いや…なんかあんたとこうしてるとまた」

「本当に犬ね、貴方」

 

肩を揺らしながら、私はまた横目で彼女を見つめる。

 

「仕方ないわね、貴方が『こうなって』いるのも、私の所為なのだから…」

 

そう言って、私はゆっくりと身体の向きを変え、彼女と向き合った。そうして熱を帯びた彼女の瞳を見つめながら、手でその身体のラインをなぞる。引き締まった顔、首筋、形のいい胸に鍛えられた下腹部とそして、更にその下、足の付け根から見えるのは、本来女性である彼女にあるはずのない男性の生殖器。それが反り返って屹立しているのを見て、静かに息を吐いた。

私は悪魔、摂理を乱す者。

だからその力を使って私は彼女の身体を変えた、『繋がる』ために。

 

「ほむら」

 

懇願するように名前を呼ばれ、私は両手を広げる。

 

「おいで」

 

犬は飛びついてきて、私を仰向けにした。広げられる足、その付け根にあてがわれた

屹立した肉の塊。それがゆっくりと私の中に沈みこんでいく。

 

「――っ」

 

息を大きく吸い込んで、目を固く閉じる。

中にどんどん彼女が入ってきて身体をこじあけられていく。

 

「さやか…っ」

 

とうとう私は彼女の名前を呼んだ。触れ合う下腹部、すべてが私の中に納まって。

 

「ほむら…」

 

切ない声と同時に、体内を激しく突き上げられる。私の上でさやかが動き始めた。

 

「――っ――っ」

 

ベッドの軋む音、肉同士がぶつかる音に隠れるように、私は声を押し殺しながら喘いで。

 

「気持ちいい…」

 

情けない美樹さやかの声に私はうっすらと目を開ける。憑りつかれたように私に腰を打ち付けている姿に口元が緩んで。

 

「情けない…犬…ね」

 

圧迫感に耐えながらも、ようやくそう囁いて、私は突き上げられながらさやかを眺める。

 

私は美樹さやかにこうされるのを望んでいたのだろうか?

 

揺さぶられ何度も貫かれる身体、何故彼女と繋がりたいと思ったのか、あの時どうして受け入れてしまったのか、今でもそれはわからない。

でもこれは私が――私と美樹さやかが望んだことなのだ。

 

「あの…さ…」

「な…に」

 

情けない美樹さやかの顔は本当に犬の様で、揺さぶられながら私は笑う。

首輪をつけたくなってしまうのは危険な衝動なのだろうか?

 

「私、あんたと…ずっと一緒にいるから…何があっても」

 

ああ、溺れてしまいそうだ

かつて私に隠すことのない不信感と怒りを露わにした彼女が示してくれる理解に、私の中にある彼女の熱に。美樹さやかに。

 

「馬鹿…ね…」

 

私は――

 

――貴方のこと、好きでもないし、愛してもいない――

――嫌いなわけないわ――

 

いや違う、そうじゃない

 

嫌いだ、とても嫌い、その声も、私の中に入っている時のその幸せそうな顔も。憎たらしくて殺したくなる。それくらい私は貴方が――

 

犬は何も言わず、抽送を激しくした。

 

「あ…っ」

 

ぞくぞくと身体が震える。気持ちがいいのは犬だけではないのだ。

繰り返し突き上げられる体内。ベッドの軋む音より大きくなる私の声。

 

「さやか…そのまま…」

 

私は美樹さやかの腰に手を回した。『繋がり』が外れてしまわない様に。

揺さぶられながら、私は月を見上げる。蒼白い月は私達を見下ろしていて。

 

「…っ」

唸るような声に視線を映す。そこには私の中に溺れきった犬の情けない顔。

永遠に続きそうなくらいに私に腰を打ち付けて。

 

これでいい

 

私は満ち足りた気分で笑みを浮かべた。

 

これでいいのだ

 

そうして、蒼白い月の下、私は彼女に身体を貫かれ続ける。

 

月に向かって啼きながら――

 

 

 

 

 

END

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