血と悪魔(大人悪魔ほむら×大人さやかR18短編集) 作:さんかく@
二人の間でしか「悪魔」が成立しないのだとしたら…こうなる可能性もあるかも(幻覚)
「ねえ覚えてる?」
「何を?」
美樹さやかは無邪気に私に聞いた。
蒼い髪がさらさらと風に靡き、同じように蒼い瞳が私を映す。
――綺麗
かつての私だったら決して思わなかったであろう。目の前の「友人」が綺麗だなんて。
「なーに見惚れてんの!」
ばん、と強く背中を叩かれ、私は思わず前のめりになる。
へらへらと笑い蒼い髪の友人は私を指差した。
「さては惚れたな!まいったね~さやかちゃんもってもて!」
手を頭の後ろに組んでしたり顔で笑う私の「友人」
ああ、彼女はもう以前の「世界」のことは覚えていないのだ。
はあ、と私はため息をつき、右手で髪を梳きながら囁いた。
「…思い上がりも甚だしいわ」
「うわ、まったまた!ツンデレか?」
「きゃ」
思わず悲鳴が漏れた、彼女が抱きついてきたのだ。
何故か動悸が早くなる。慣れないことをされ「悪魔」である私も驚いたのだろう。
「えへへ、可愛いなあ、ほむらは!私の嫁になるのだー!」
顔が熱くなった。熱でもあるのだろう。
思えばあの頃は常に微熱気味だった気がする。
彼女――美樹さやかはかつて円環の理の一部であったことを忘れてしまった。
『忘れない…あんたが悪魔だってことは』
そう言いながら、射るように私を睨んだ目はもう無い。
あっけないものね。馬鹿な子。
それから何日が経っただろう、ただ淡々と日々は過ぎて行く。私は愛する少女を遠くから眺め続ける。ああ、幸せだ。それだけで。
授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。
「ほむらー、一緒帰ろう!」
澄んだ蒼い瞳が私を映す。愚かな子。私を親友か何かと認識してしまったのかしら?
「ええ…いいわ」
「やったね」
嬉しそうに微笑む彼女。ひそひそと何か喋りながらこちらを見る数名のクラスメイト。ああ、きっと彼女を噂しているのだ。「異端」である私とお気楽に付き合う、犬のように人懐っこい愚かな彼女を。
「…みせものではないのだけれど?あなたたち?」
そう言って、私は声を潜めて何かを話し続けるクラスメイトを一瞥した。ぎょっ、としたように集団は固まり、そそくさと散っていく。
「もー、ほむら言い方がきっついよ、もうちょい柔らかくしたら?美人台無し…」
「行きましょう」
「あ、ちょ、ちょっと!」
私達は教室を後にした。
* * *
桜が舞い散る路を私達は語ることもなく歩き続ける。彼女はきょろきょろと桜を物珍しそうに見ていた。
『仲良くしましょう』
そう私から言ったのだけど、まさかこうやって肩を並べて登下校するほど仲良くなるとは私も想定外だった。まあ、あちらから犬のように人懐っこく歩み寄られてはこちらも無碍にはできず、仕方なく付き合ってあげているのだが。私はため息ひとつついて、彼女に声をかけた。
「…桜が珍しいの?」
「うん、いや…珍しいっていうか」
珍しく、彼女は口ごもった。
「……何?」
「こんなんだったかなあって」
頭をかきながら、彼女は苦笑いする。
「なんかさ、何かが違う気がするんだよね…ねえ、ほむら笑わない?」
「何も聞いてない内から約束できないわ」
「きっつ!まあいいか」
ふう、と彼女はため息をついた後、いつになく真剣な表情で私を見た。
「夢を見ているみたいなの」
「………」
「毎日、ずうっと」
ざわっ、と風で気が揺れた。桃色の花弁が舞い散る。
「馬鹿ね」
「え?」
「そんなことあるわけないわ」
私は彼女の顔へ自分の顔を近づけた。蒼い瞳に私が映っているのが見えるくらいに。
「そんなことはありえない、これが現実よ…美樹さやか?」
そう、これが現実。あの子が幸せになるための世界。
彼女の瞳に映し出された私が笑う。悪魔の笑みで。
「……そう…うん、そう…だよね」
私に見惚れているのか、視線を固め、顔を赤らめたまま彼女は頷いた。単純な子。
フフフと私の口から声が漏れた。彼女の前でこんな風に笑ったのは初めて。彼女があまりにも愚かで、そう、愚か過ぎて笑うしかなかったのだろう。
私は愚かな彼女にもたれるようにして、目を瞑った。
* * * * * * * * *
あれから何年経っただろう?
私は横で眠っている彼女をしばらく見つめていた。
蒼い髪は肩まで伸び、その顔つきは大人らしく引き締まっていた。私はふと顔をあげ、ベッドの脇にある鏡台に目を向ける。長い黒髪の大人の女性。
私達は大人になっていた。
「ん…」
彼女の睫毛が僅かに震える。
「…あら、お目覚め?」
「……おはよ」
照れくさそうに彼女は私から顔を逸らし、呟く。無理もない。昨日私は彼女を抱いたのだ。
「寝ぐせがひどいわ」
私は彼女のぼさぼさになった頭を撫でる。顔を赤くしながらも気持ちよさそうに目を瞑る彼女。まるで飼い主に撫でられた犬みたいで。
「こっちにおいで…」
私は彼女を抱き寄せた。
私にはペットが必要だったのだろうか?あの子の代わりの?
世界を改変してから、中学、高校、大学と常に彼女と一緒だった。幾度となく私の障害となり、軋轢を重ねていった彼女とこんな風に共に過ごして行くなんてこと、私は望んでなどいなかった。…いや、望んでいたのだろうか?本当は?
「どうしたの?」
私の腕の中で、彼女が囁く。
「なんでもないわ」
そう言って、私は彼女の頭に顔を押しつけ目を瞑った。
――昨日、まどかは結婚した。
あの子が成長し、人としての幸せな生をまっとうする。それを見届けるだけで私は幸せだ。
――そう思ってたのに。
せつなかった、寂しかった。まるで自分の一部がもぎ取られていくような、何かを失ったかのような喪失感。式が終わった後、私は縋るように美樹さやかに身体を預けると、そのまま家へと送ってもらった。彼女は何も聞かなかった。
『お願い』
そう言ったのは私だった。ゆっくりと手を重ね合わせ指を絡めて、私達は同性でありながら身体を重ねた。彼女は私を黙って受け入れた。
「ねえ」
「……何?」
私の胸のあたりから彼女の声が聞える。
「あんた…まどかのこと好きだったの?」
「…………ええ」
私は彼女を抱きしめたまま返事をした。もう、どうでもよかった。この想いはもうどこへも行かない。
「そっか…それであんた誰とも付き合わなかったんだね」
「興味無いもの」
私は男に興味は無かった。
「美人なのに…」
「くだらないわ」
獣のように情欲にまみれた目で私を見る男性は数多くいた。実力行使に出ようとする者も。襲われかけた時、魔獣よりも彼らを駆逐したいと何度思ったことか。どうにか思いとどまって殺さずにいたが。どちらにせよ、人間ごときが私にかなうわけがない。だって私は悪魔なのだから。
――そう、私は悪魔なのだ。
「ほむら?」
私は行為の最中に気付けば笑っていた。不思議そうに彼女は手を止め顔を私に近づける。
「なんでもないわ…続けて」
私は振り向きながら、背中に覆いかぶさっている彼女の頬に手をあて、続きを催促した。今度は彼女が私を抱く番だった。彼女の指が再び私の体内で動き始める。四つん這いのまま、私は犬のような鳴き声を何度もあげる。
――私は悪魔なのだ、悪魔、悪魔…あ…
枕に顔を押し付けた。声が止まらない。
彼女の指が私の中を激しく責め立てる、奥が痺れ快感が脳内を走った。電気が走ったように体が痺れ、ソコが熱くなる。
「ひぃ…あっ」
身体が激しく痙攣し、私の最奥から液が迸った。内股に水のようにしとどに流れる感触が私に羞恥を覚えさせる。膝の感触でシーツが濡れていくのが分かる。
「すごい…」
おそらく私の流した液体のことだろう、彼女はため息と共に呟いた。息を整えながらゆっくりと振り向くと、濡れた手を不思議そうに見ている彼女がいた。何故か憎らしくなって私は彼女を蹴った。
「あいたっ、何…」
「ねえ、貴方覚えてる?」
「え?何を?」
私は身体を仰向けにして彼女を見上げた。蒼い瞳はあの頃と変わらない。
――ねえ、その瞳でまた私に言って
「私が悪魔ってこと」
「はあ?」
ゆっくりと私は両手を広げる。彼女に向かって。
「悪魔って…呼んで…さやか」
「馬鹿、何言ってんの」
怒りながらも私の元に身体を預けるさやかを、私は笑いながら抱いた。そして強く抱きしめる。
「貴方にそう言われたいのよ…」
――悪魔って
私は彼女の耳たぶを強く噛んだ。
END