※この作品はR-18です。

血と悪魔(大人悪魔ほむら×大人さやかR18短編集)   作:さんかく@

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「忘却の果て」の続き、ほむらは何を選び取るのか?


記憶の淵

「ほむら」

 

名前を呼ばれて、私は目を開けた。空かと思う蒼い瞳。

 

「なぁーんだ、起きてんじゃん…」

 

いきなり抱き寄せられ、私は戸惑う。えへへと年不相応な笑い声をあげて、彼女は私の頭を撫でる。顔にかかる息。石鹸の香り。肌と肌はぴったりと寄り添うようにくっついて。

私達は何も身に纏っていなかった。否、身に纏っているのは私のベッドの白いシーツだけ。

 

「……私…眠ってたの?」

「うん、あれからね、もうお昼だよ?」

「そう…貴方帰らないでよかったの?」

 

私は何故か裏返った声で囁きながら、彼女を見上げた。冷たい言い方をしたのに彼女は優しく笑って。そうして私の問いに答えようと思考を巡らしているのか、目を細めた。

 

――いつから彼女はこんな思慮深い表情をするようになったのか。

 

昔よりも大人びてほっそりとした顔、瞳と同じ蒼い髪は肩まで伸びていて。どことなく少年めいた美しさに私は少しだけ、そう少しだけ見惚れた。

 

「う~ん…なんだかねえ、帰れなかったの」

「どうして?」

 

私は身じろぎするが、彼女の両腕で固定されて動けなかった。

 

「ほむらの顔をずっと見ていたくて」

 

息が止まった。身体が熱くなる。

 

「あ、ほむら赤くなった…」

 

嬉しそうに笑う彼女。

「馬鹿ね、これは…違うわ、熱よ」

 

彼女は吹き出した。私はそんなにおかしなことを言ったのだろうか。

 

「ほむらって可愛いわ」

 

どうにも調子が狂う。成長した彼女――美樹さやかと一緒にいると。

そうして、彼女は中学時代から何度も私に抱きつく時に叫ぶ台詞を呟いた。

 

ああ、私は熱があるのだろう、身体がすごく熱い。

 

私は数時間前の、彼女と身体を重ねた過去へ思考を巡らした。

 

*    *     *     *

 

『悪魔って…呼んで…さやか』

『馬鹿、何言ってんの』

 

怒る彼女を抱きしめながら、私は囁く。

 

『貴方にそう言われたいのよ…』

 

そう言って私は彼女の耳たぶを噛んだ。「再開」の合図。さやかは私を再び抱いた。

 

『あんたは…悪魔…なんかじゃないわ』

『悪魔…よ』

 

私はさやかに囁く。さっきよりも乱暴にさやかの指が侵入してきた。

 

『あ、あ…っ』

 

さやかの指が激しく私の中を突き上げはじめた。

 

『なんで…そんなこと…言うの』

 

悲しそうに私を見下ろすさやかの指で、私は激しく突きあげられる。

真剣な彼女の表情、蒼い瞳に映る、乱れた私の顔。溢れる私の「水」。

 

私は笑った。

 

『あくま…だも・・・の』

『違うわ!』

 

私は悲鳴をあげた。身体ごと上へ押し上げられるほどの力で彼女は私を責めてきた。

怒っているような表情、悲しそうな瞳。身体の奥が熱くなり、ゾクゾクと背筋に快感が走る。

 

『さやかっ…あっ、あっ、あっ』

 

さやかの身体を抱きしめ、私は大きく喘いだ。

 

『違うわ、あんたは…』

 

彼女の口を私は塞ぐ。喘ぎ声を漏らしながら、角度を変えてくちづけを繰り返す。

彼女の唾液を舐め取りながら、私は囁いた。

 

『殺して…』

 

そうなのだ、私はいつか彼女に殺されたいのだ。

さやかが何か喋っているが、もう私には聞えない、上へ上へと昇りつめる。

 

『あ…、もう…無理…っ』

 

びくん、と身体をのけ反らせながら、私は達した。

 

さやか…コロシテ…

 

さやかの責めは続いた。激しく軋むベッドの上で、私は彼女を受け入れたまま意識を失った。

 

*  *  *  *  *  *  *

 

――あれから私は数時間眠っていた。

 

いつものように明るい調子を取り戻した彼女の腕の中で私は囁いた。

 

「……起きるわ」

 

そうして、両手でさやかを押しのけようとするが、彼女は私を解放しない。

 

「大丈夫なの?…もう」

「…………」

 

平気よ、と小さく、とても小さく囁いた。

あきらめたのか、さやかは私を解放した。ため息をつきながら、私はベッドを離れる。数時間前の激しい行為を思い出すと、どうにも彼女と顔を合わせるのが億劫になる。私は裸のまま、床に脱ぎ散らかした服を拾い始めた。

 

青いドレスがあった。

手が止まる。

 

昨日、まどかの結婚式で着たものだ。手が震えた。

 

「ほむら」

 

私の背中が熱くなる。さやかが私を後ろから抱いてきた。

 

「離して…」

「ほっとけないわ」

「ほっといてよ」

 

ああ、冷たい言い方だ、でも私はこの言い方を変えることはできない。変えてしまったら私は――

 

窓から光が射す。鳥のさえずりが聞こえた。

 

「ねえ…なんであんた、あんなこと言わせようとしたの?」

「あんな?」

「……悪魔」

 

びくん、と身体が強張った。

反射的に振り向く、頭半分背が高い彼女の顔は逆光に照らされて見えない。

 

「…さやか?」

 

――まさか?

 

「あんなひどいこと私は言えないわ、だってあんたは誰よりも優しいもの」

 

――気のせいだ、彼女は覚えていない。

 

「それに誰よりも繊細で」

「やめて」

 

馬鹿馬鹿しい、そんな歯の浮くような台詞が聞きたくて貴方に縋った訳じゃない。

そんな歯の浮くような…

 

「好きよ」

「え…」

「あんたが好き」

 

愚かね美樹さやか、貴方は何を言っているの?

貴方は本当に…

 

「だめ?…やっぱり、私じゃ…嫌?」

 

愚かだわ

 

「……嫌じゃないわ」

 

そして私も

 

「好きよ」

 

貴方以上に愚か

 

さやかが私の頬に触れる。

 

 

「泣かないで…」

 

そうして私の髪を撫でると優しく抱きしめた。

私は泣いていた。今までの呪縛から解放されたかのように泣いた。

さやかは黙って私を抱きしめていた。

 

*   *    *

 

「それじゃ、行ってくるわ」

「今日の仕事は遅いの?」

「うん」

 

玄関で、私達は言葉を交わす。別れがたいが、彼女は午後から仕事だった。

――彼女は警察官だった。

私は彼女の腕に触れて囁いた。

 

「気をつけて…」

「うん、あのさ…」

 

彼女は顔を少し赤らめながら私を見る。

何を今更赤くなることなどあるのだろう?

 

「仕事終わったら…また来ていい?」

 

ああ、彼女は本当に馬鹿なのね。私はため息をついた後、口元をゆっくりと釣り上げた。

 

「…あら、貴方ここ以外に帰るところあるの?」

「……え?」

 

私は笑いながら彼女を睨むと、台所へ向かった。冷蔵庫の上から「ソレ」を取り出すと、彼女に渡す。私は得意げに腰に手をあて、戸惑う彼女を見つめていた。

 

「ほむら、これって…」

「鍵よ…いつでもこの家に帰ってきなさいな」

 

その時のさやかの顔は忘れられない。目を子供のように輝かせ、嬉しそうに私を見つめる笑顔。ああ、きっと、その笑顔が眩しいのは、私が彼女を――。

彼女を見送った後、私は部屋を片付け始めた。

青いドレスを箪笥にしまう。

冷蔵庫の中を確認して、今日の夜食を考える、もちろん彼女用だ。

気付けば私は歌をくちずさんでいた。

 

今まで塞ぎこんでいた気持ちが嘘のように晴れあがっていた。

 

 

激しい雨が降り出した、時計を見れば23時、もうすぐさやかが帰ってくる。私はどうにも眠れず彼女を待っていた。

 

「いきなりな雨ね…」

 

あの人はのら犬のようにずぶ濡れになってないだろうか?

 

私は窓に顔を寄せると外を伺うように眺める。

 

――迎えに行こう

 

私は傘を持って外へ出た。

 

*  *  *  *  *  *

 

闇の中、激しい雨が降りしきる路地裏。外灯がうすい明かりで銀の糸のような雨を映し出す。ぴちゃん、と水たまりが音をたてた。しめった黒髪を梳きながら、前方を見ると、黒い人影、細身のシルエット。

 

「さやか」

 

案の定、彼女は傘もささずにふらふらと歩いてくる。

 

ああ、やっぱり不器用な人。

 

さやかの影が大きく揺れる、まるで酔っ払っているかのようだ。

 

「……さやか?」

 

ぞくり、と悪寒が走った。

とてつもない違和感。

 

ぴちゃん…

 

彼女の足元で水が大きく跳ねた。

 

ズズズズズズズズズ…ズズズ

 

彼女の足元から水たまりが池のように大きく広がった。

 

ヴォォォォォォォォォォォォォ

 

映る異形の姿。

私はこいつを知っている。鉄の仮面に、騎士のような姿、剣を携えた人魚の――魔女。

 

――オクタヴィア・フォン・ゼッケンドルフ

 

ああ、そうなのね…目を伏せ、私は笑う。

私に安息の場なんてない、美樹さやかと分かりあえるなんてこと――

 

「ほむら……」

 

私は顔をあげた。

美樹さやかは泣きそうな顔をしていた。

 

「なんで…?私…いつ…から?」

 

記憶の錯綜…彼女は混乱していた。ああ、本当に貴方って馬鹿だわ。

 

「思い出したのね?」

「嫌…よ、私、思い出したく…ない、私は、あんたと…」

 

悲鳴があがる。

彼女が水たまりの中へ沈んだ。

 

「?な、何よ、これ…」

まるで泳げない人間が溺れるように、彼女はあがいた。

水を介しての移行は彼女の保有能力だが、どうやら彼女はまだ記憶をそこまで取り戻していないらしい。

 

「わっ…ちょ、な、なんで?」

 

もがく彼女を私はただ見つめていた。さやかの下半身がすっぽりと水に沈んだ。

 

「ほむら…」

 

すがるような目。

今、このままにしておけば、彼女は自らの力を操作できず、溺れて「消失」するだろう。そうすれば私の邪魔をする者はもうどこにもいない。

 

そうだ…このままにしておけば

 

伸ばされるあの人の手

 

「助けて…」

 

はじかれたように私は彼女の元へ駆けつけた。

 

そうだ、できるはずがない、私はもう彼女を――

 

「さやか!」

 

さやかの手を私はしっかりと握る。

 

「ほむら…っ」

 

私は「力」を込め、さやかを引きあげた。水たまりから引きずりだされる彼女。

 

ヴォォォォォォォォォォォォ…!

 

まるで子供を取られた親のように魔女は咆哮する。

 

「ひ…!」

 

自分のもうひとつの姿に怯えるさやか。本能のように、さやかは私に縋る。

 

「ダメよ」

 

私は手を水たまりにかざした。

 

「この人は渡さないわ…」

 

そうして、もう片方の手と合わせる。

 

パン

 

乾いた音が鳴ると、瞬時に魔女は消えた。

 

「……な、何…?」

 

まるで子供のよう怯える彼女はとても愚かしく、そしてとても…愛おしかった。私は縋ってくるさやかを黙って抱きしめた。

 

雨が止んだ。

静寂の中、私達は水たまりの淵に座り込んでいた。長い間、私達はしゃべらなかった。

 

「ほむら…」

 

最初に口を開いたのはさやかだった。

 

「さっきのは…何?」

「なんだと思う?」

 

さやかにもたれながら、私は彼女の眼を覗き込む。蒼い瞳にはいっぺんの曇りも無くて。

彼女はゆっくりと首を振り、ささやいた。

 

「…わからないわ」

「それでいいわ…」

「え?」

 

私は彼女の身体を横から抱きしめる。そうして身体を預けるようにもたれさせた。

 

「それでいいのよ…」

 

彼女の手が私の肩を抱いた。私は目を瞑る。

ゆっくりと私はまた目を開く、水たまりには私と美樹さやかが映されている。魔女はもう映っていない。

 

――また現れれば、私が消すわ、何度でも。

 

再び目を瞑り、私は彼女のぬくもりを味わう。

 

もう、貴方に悪魔と呼ばれなくなったって構わない。

私の傍にずっといて――

 

 

END

 

 

 

 




この二人の行く末もまた気になる所です…

しかしこれはエロというかアダルト…?まだまだエロが足りないのかどうか、自分では全くもってわかりませぬ…っ!
そのあたり感想ありましたら参考になるのでお気軽にどうぞ…(なんと…)
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