蒼い空を映して海は蒼く輝く。
時には太陽の光を反射して、ちりばめたダイヤのように輝いて。
「……綺麗」
ため息をつきながら、美樹さやかは呟いた。周囲には誰もいない。一人、船のオープンデッキの柵にもたれ、海を眺めている彼女はどことなく物憂げで、孤独に見えた。
蒼い空に白の甲板。さやかの蒼い髪に白いワイシャツ。白と蒼の世界に彼女は独り取り残された唯一の人間のようだ。
――さやかちゃんの目って綺麗な青空みたい
遠い昔の幼馴染の言葉を思い出し、さやかの口元が緩む。その瞳は郷愁で揺らめいて。
「…帰りたいな」
ぼそりと呟いた。
どこへ?と誰かが聞いたとしても、彼女はきっとうまく答えられないだろう。それほど彼女は遠くまで来ていたのだ。
「まどか」
幼馴染の名前を呼ぶ。懐かしい子供の頃の記憶、何も知らず幸せに過ごした日々。さやかにとって、まどかはかつてあった幸せの記憶そのもの。そして妹のような愛くるしい存在。美樹さやかは未だに、あの頃に戻りたいと思うことがある。中学二年の、何も知らないあの頃に。果てしなく遠いあの頃。唸りつつさやかは頭を振る。
――未練がましいわ
そう、さやかは決めたのだ、今の世界を維持すると。
それが正しいかどうかはわからない、だが、まどかを思うがためにとうとう人外と成り果てた女性を見て、さやかは決意し、協定を結んだのだ。10年前に。
暁美ほむらという女性と。
「……ほむらかあ」
ふと、間の抜けたいつもの声でさやかが呟いた。
どうにも、彼女――黒髪の相方を思い出すとさやかは複雑な気持ちになるらしい。長い間連れ添っているというのに、さやかは未だに彼女の全てを理解している訳ではなかった。
かつて誰よりも孤独に戦い
ただ一人の女性を愛して悪魔と成り果てた
黒髪の――美しい女性
「……………」
ぎゅっ、とさやかは自分の掌を強く握る。そうしてまた、ゆっくりと開き手を見つめた。
もう何度も彼女に触れている手。
不思議な縁だと思う。もう10年も彼女とずっと連れ添っている。そのきっかけを忘れるわけはない。
しかし――自身のほむらに対する感情は何と名付けていいものか?
さやかはまた大きくため息をついて、過去に思いを馳せる。二人で互いに対する感情について語り合った時のことを。あの時も結局解答は得られなかった――いや、自分は何か答えたはずだが、なんと答えただろう?
* * *
『私が貴方をどう思っているか?……貴方もそんなことを考えるようになったのね、あら、からかってないわよ?』
ある日、そう言うと口に手をあて、くすくすとほむらは笑った。成長した美しい彼女。
朝の光を浴びた艶のある黒髪。
『変な人…』
アーモンド型の目を細め、こちらを見る。揺れるアメジストの瞳。白い手がさやかの元へ伸びてきて、そうして彼女の艶のある唇が視界に広がった。
白い世界。
荒い息と、時折漏れる彼女の喘ぎ声。
『さや…か…貴方…はどうなの?』
馬乗りになった状態で、肢体を大きく揺らしながら、ほむらはさやかを見下ろす。
妖しく光るアメジストの瞳。
『同情?…それとも……っあ、ん……懺…悔……?』
美しい顔を時折快楽で歪ませ、喘ぎながら問い掛けてくる悪魔。恍惚とした表情。二人は既に繋がっていて、悪魔は体内に収納した相方の「突起」を、さやかは包み込むようなほむらの温かい「内部」を味わっていた。手は確かめ合う様に、互いに握り合い、指を絡め合って。「突起」が「最奥」に当たる度に、ほむらはさやかの手を固く握り、肢体を震わせた。
『……私は、………よ……』
下から呻きながら、さやかはどうにか声を絞り出した。
動きを止める悪魔。しばらく惚けたように組み敷いた相方を見つめ、そうして数秒後、泣きそうな顔でほむらは微笑んだ。
『馬鹿ね…』
そうして、ほむらは目を瞑ると、腰の動きを再開した。長い睫毛が振動の度に揺れる。乱れる黒髪。さやかの上でほむらは艶めかしく腰を動かし続け、何度も鳴いた――。
* * *
ぱちん、とさやかは頬を両手で挟むようにして叩く。
どうにも相方を思い出すだけで、興奮するのは彼女に身体の「一部」を改変させられた影響もあるだろう。思考の整理がうまくいかない。さっきの男と自分が同類のような気になって、さやかは自己嫌悪に陥った。
「……そろそろ戻ろ」
なんとはなしに一人呟き、さやかは踵を返し、オープンデッキを後にした。