※この作品はR-18です。

THE LOVERS   作:さんかく@

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スペードのJ

萩原が茶髪の男にトランプを渡し、無言でディーラー役を頼む。茶髪の男は肩をすくめると、カードを半分ずつ手に持ち、構え、人さし指でカードを反らし、少しずつ重なるようにパラパラとカードをはじいた。リフルシャッフルだ。その華麗なシャッフルに皆、しばし見惚れる。そうして数回シャッフルすると、さやかと萩原に5枚ずつカードが配られた。

 

「ドローポーカーの一回戦のみで勝負、それでいいか?」

 

萩原がにやけた顔で提案する。さやかは男を一瞥した後、背後にいるほむらを見上げる。ほむらはただ頷いた。さやかが口を開く。

 

「…いいわ」

 

ドローポーカーとは日本でおなじみのカードを交換して役を作るルールだ、途中で金を賭けることもない。

 

――さやか

――何?

――負けたら許さないわよ

――そんな!何そのいきなりな展開!

 

念話でさやかが叫ぶ。からかうような相方の声がさやかの脳内に響いた。

 

――あら、貴方勝つ自信無いの?

――そ、そんなことない!絶対に勝つわ!

――声、震えてるけど?

――わ、悪かったわね!でも、あんたを取られる訳にはいかないわ!絶対!

――………

 

そう、もしこの黒髪の相方の「自由」に干渉できるものがいるとすれば、それはさやかの幼馴染唯一人なのである。他の誰にもそれを覆すことはできないし、もしそういう失礼な輩が現れたとしたら、それは自分が阻止するものだとさやかは決めていた。

 

さやかはカードを手に取った。

 

スペードの7、ハートの7、スペードの8、スペードの10、スペードの9

 

さやかは思考を巡らせる。今はワンペア、カードを交換するとなると…7を残して、他の札のどれかを交換するか、あるいは…ハートの7を交換してストレートフラッシュ狙いにするかだ。もし仮にスペードでなくても、ストレートを狙うことはできるし、6、5、Jでなくてもフラッシュを狙うことができる。しかし、もしそれ以外の札が出たら?

 

美樹さやかは目を細め、しばらくカードと見つめ合う。

 

――どうするの?

 

ほむらの声が脳内に響く、その声は落ち着いたもので、さやかはもしかして彼女は面白がっているのではないかと思った。

 

――勝負に出るわ、それよりあんた…勝ったら何か奢ってよ

――ええ、それじゃあ、勝ったら貴方を抱いてあげるわ

 

「なっ…」

 

思わず声が出てしまい、さやかは慌てる。傍でくすくすと笑うほむら。

 

「どうした?いかさまでもやってるんじゃないよな?」

「そんなことするわけないでしょ!」

 

萩原の言葉にむっ、としたように反応するさやか。そうして、いらただしげにカードを3枚抜き取った。

 

「交換よ」

 

茶髪の男がカードを交換する。

 

「俺もだ」

 

萩原は1枚、互いに視線が絡む。

 

「よし、じゃあ俺からいくぜ」

 

萩原のカードが展開した。

 

ダイヤの4、ダイヤの8、ダイヤのQ、ダイヤの2、ダイヤの5

 

同種札5枚、フラッシュだ。わあ、と周囲から声が漏れる。

にやけた顔の萩原、どうやら勝利を確信しているらしい、ぎらぎらとした視線はほむらに向けられている。

 

「じゃあ、私ね」

 

そうしてさやかがカードを展開した途端、周囲から歓声が湧いた。

 

スペードの7、ハートの7、クラブの7、ハートのJ、スペードのJ

 

「フルハウスよ」

 

さやかが萩原に向かって無邪気に微笑む。いつものようにへらへらと。

 

「そ、そんな…っくしょう!」

 

悔しくてたまらないというように、萩原はテーブルを叩いた。同時に拍手が巻き起こる。

 

「すげえ、美樹、お前ギャンブル強いんだな」

「美樹さん、すごい!」

「最初の手札はなんだったんですか?」

 

三人が一斉にさやかの元へと群がる。が、

 

「悪いけど、私達はもうあがるわね」

 

ほむらはさやかを椅子から立たせると、群がってきた三人から庇うように前に出た。

 

「ええっ、もうですか?まだ早いのに…」

 

高橋が腕時計を見ながら呟く。まだ20時だ。副ゼミ長の女子学生も不満気に口を尖らせて

 

「せっかく美樹さんも来たんだから、もう少し…」

「そ、そうよほむら、まだ私1ゲームしか…あいたたた!」

 

いきなり顔をしかめるさやかに驚く三人。ほむらの指がさやかの腕にめり込んでいる。

余所行きの顔で、ほむらは微笑んだ。

 

「急用なのよ、悪いわね」

 

美女に微笑まれて異を唱える者などいるだろうか、三人とも惚けたように頷いた。

 

「ねえ、ほむら…あの人は?」

 

さやかが、いまだにテーブルで頭を抑え嘆いている男を指差す。相当にショックだったらしい。確かに絶世の美女とデートできるなどという夢のような話が目前で消えたのだから、いたしかたないのだろう。なんだか滑稽を通り越して男が憐れに見えてくる。もちろん、だからといってさやかは同情するつもりはないが。ほむらはただ冷淡に男を見つめて呟いた。

 

「放っておきなさい、どうでもいいわ…それより」

 

そうしてほむらの視線はすぐ隣のさやかに移る。目が三日月みたいに細められ、その口元は優しく綻んで。

 

「部屋に戻りましょう、さやか」

「え?もう?」

 

ほむらの指に力が入る。さやかは痛みで顔をしかめた。

 

「鈍感ね…さっき約束したじゃない」

「へ?………あ」

 

――勝ったら貴方を抱いてあげるわ

 

ほむらの言葉を思い出して、さやかは青ざめる。

 

「まさか、あんた今から…?」

「ええ、そうよ…今夜は楽しまないとね?」

 

ひい、とさやかは変な悲鳴を漏らした。本気を出した相方が攻めてきたら、さやかは一分ももたない。もう何度ほむらのベッドで死ぬような思いを繰り返したことか。

 

「だ、だめよ、あんたせっかくのゼミ旅行でしょう!親睦を深め…あいたたたた!」

「馬鹿ね…私は貴方と親睦を深めたいのよ?おわかり?」

 

蛇に睨まれた蛙とはこのことだろうか、ほむらに見つめられ、さやかは固まった。

さやかの脳内に、船に乗り込んでから今までの出来事が走馬灯のように駆け巡る。

相方をここまでその気にさせる出来事はあったのだろうか?さやかには思い浮かばない。

 

「いや、もう十分深め…痛い、痛いわ!」

「ほら、遠慮しないで…」

「ひい!やめて!」

 

華奢なほむらに引き摺られるようにして、さやかはバーを移動する。

 

「あら、暁美さん、美樹さん、もうあがるの?」

 

バーの入り口付近で、初老の女性が立っていた。縋るように見つめるさやか。にっこりと嬉しそうにほむらは微笑んで教授に言った。

 

「ええ、これから二人で夜を楽しみます」

「ちょ、ちょっと!それちが…」

 

しかし初老の女性は驚くこともなく、柔和に微笑んで。

 

「あら、そうなの?楽しんでらっしゃいね」

 

――意味取り違えてる!

 

最後の望みが断たれたさやかは、あきらめたようにうなだれた。佐藤教授が明日、二人の部屋を訪れる約束をほむらに取り付けていたが、さやかはもう聞いていない。佐藤教授に別れを告げると、ほむらはさも嬉しそうにさやかに言った。

 

「さあ、早く行きましょう?時間がもったいないわ」

 

ほむらの口元から白い歯が覗く。嬉しそうな横顔。まるで獲物を前にした鮫のようだ…とさやかはふと思った――

 






次エロ回です。
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