ふたなりあり
「ん…?」
「…どうしたの?」
自分の胸元で、ゆっくりと目を開けた蒼い髪の相方にほむらは囁いた。部屋のライトは消され、窓から差し込む月の光で互いを認識できる状態だ。シーツの中、二人は何も身に纏わないままぴったりと寄り添って眠りについていた。蒼白い闇の中、さやかはほむらの腕の中で囁く。
「…何か今、悲鳴のようなもの聞えなかった?」
「……いいえ」
そう言うと、ほむらは起き上がろうとする相方を引きとめるように、白い細い腕をその頭に絡める。
「何も聞えないわ」
気持良さそうに息を吐くと、ほむらは相方の頭に顔を寄せ、ゆっくりと目を瞑る。
手で蒼い髪を数回撫でると、気持良さそうにさやかも息を吐く。
「そう…」
そうしてさやかはほむらの胸に顔を埋めると、再び目を瞑る。とても心地いい。と、額に濡れたものが当たる。ほむらが唇を押しあてているのだ。さやかの蒼い瞳が闇の中、戸惑うように揺らめく。
「ねえ…」
「なあに?」
その間も、ほむらはずっとさやかの頭を撫で続けている。
「あんた…優しくなったわ…どうして?」
この10年で、彼女はだいぶ変わった。
「別に普通よ?」
そう囁いて、フフフとほむらは笑う。不思議そうに、さやかは目だけほむらの方へ向ける。
薄暗い闇の中、ほむらの唇がゆっくりと動いた。
「貴方こそ…変わったわ」
「どこが?」
「内緒よ」
何それ…と言おうとしたが、優しく唇を塞がれてさやかは言葉を発せなくなった。しばらくしてまた唇が離れる。
「…しましょう?」
そう悪魔が囁いた。
さやかは何も言わず、ただ強くほむらを抱きしめた。
* * *
月明かりの下、二人はまた身体を重ねる。
いつものように黒髪の人外の美女が上になり、蒼い髪の女性が下になる。
はじまる時はいつもこの体勢からだった。
「今度はゆっくりしましょう……?」
長い黒髪を垂らし、ほむらは四つん這いになると、下に組み敷いた相方に微笑みかける。月明かりに照らされた相方の白い肢体が眩しいのか、さやかは目を細めながら手を伸ばす。艶のあるほむらの髪を指で弄り、その毛先を口づけるように口元へあてた。
「……自信無いわ」
そう言って困ったように相方を見上げるさやかの瞳には、ほんの少しだけ焔が宿っていた。情欲の焔。普段の彼女からは想像のつかないその感情。ニイ、とほむらは白い歯を見せて微笑んだ。
「困った犬ね」
そうして細い白い指をさやかの下腹部へと落し込んでいく。なにかを探すように弄り、そうしてソレを探り当てると、クスクスと笑った。屹立した、本来さやかにあるはずのない男性器。ほむらは指で何度もソレをこすりあげる。悪魔の力で本来の性器を改造されて発生したモノは、ほむらの指の中でどんどん腫れあがる。
「んぅっ…あ」
悩ましげな声をあげてさやかが苦悶の表情を浮かべた。ほむらの髪を思わず強く掴み、引っ張ってしまう。軽く悲鳴をあげて前のめりになった後、ほむらはクスクスと笑った。
「髪……痛いわ」
「ごめんなさい、でも…」
「でも?」
休まないほむらの手。
「んあ!もう…あんたやっぱ…意地…悪」
「あら?その割には嬉しそうよ?」
「馬…」
涙目で赤くなったさやかが言い切る前に、ほむらはまたその唇を塞いだ。シーツの下、白い肢体が重なり、乱れ合う。
互いの体内に潜り込む行為を、この二人はもう何度も繰り返している。
時にはほむらがさやかの中に、そして時には逆に、さやかがほむらの中に。肉体を変化させ、互いの穴を埋めるように。ほむらは最近、自分の穴を埋める方を望んでいるようだ…とさやかは思った。
「ん……」
ほむらは目を閉じたまま、唇をさやかの口から首筋へと滑らせる。そうしてさらに胸元、下腹部へと降りて行く。シーツの中にほむらが隠れた。
ひときわ高い声でさやかが喘ぐ。自身の凝り固まった男性器が相方の口内で弄ばれているを感じながら、さやかは身体を反らせた。温かく濡れたほむらの舌が何度も何度もソレを舐め、絡みついていく――。
* * *
人と融合した魔獣を倒した夜、崩れかけた精神を保つため、二人はベッドの中で互いの身体を強く抱きしめ合った。その時に、一度さやかはほむらにこう質問したことがある。
『ほむらは好きな人はいないの?』
ほむらはただ、薄く微笑んで
『いないわそんなもの』
そう言って、さやかの胸に顔を埋めた。ほむらの熱い息が胸にかかるのを感じながら、さやかはおそるおそる聞いた。
『まどかは?』
しばらく返事はなかった。
眠ったのかなとさやかが思ったと同時に、ほむらが囁いた。
『愛しているわ』
かかる熱い吐息
『誰よりも』
『そう…』
絶対的な想い。
彼女が悪魔と成り果てたのも、元々は鹿目まどかに対する「愛」のため。
――それじゃあ、私は何なのだろう?
湧き上がる不思議な感情。
それがなんなのかさやかはいまだわからない。
ただ、あの時は、腕の中に収まっている黒髪の友人が、自分をどう思っているのか気になって仕方なかった。
そうして聞いてしまった。
『ねえ、私は?』
『え?』
ぴくり、とさやかの腕の中でほむらが動く。
『私は、あんたのなんなの?』
『―――』
ほむらは強くさやかを抱きしめたまま、返事はしなかった。
『……ずる』
さやかは口を尖らせて呟いたが、特に深追いはしなかった。
その代わり、さやかもほむらを強く抱きしめた。
『おやすみほむら』
『……おやすみなさい』
それから二人は何も語らず、一緒に朝を迎えた――。
解答は得られなかった。
* * *
「どうしたの?」
妖艶な笑みを浮かべながら、ほむらはさやかを見下ろす。その顔は上気して、紅潮していた。うっすらと額に汗が浮かんでいる。彼女は繰り返し、身体を上下に振動させながら喘ぎ声をあげていた。
「なんでも…ないわ」
さやかもほむらを見上げる。
ほむらが振動する度に、さやかも喘いだ。
ギシ、ギシとベッドのスプリングが音を立てる。ほむらがさやかに馬乗りになった状態で、激しく動いているのだ。結合した部分から時折水音が漏れる。
二人の両手はしっかりと握り合っていて。
「嘘ね」
ニイと笑って、ほむらは前のめりになりさやかに顔を近づけた。
「…何を考えてたの?」
「……それ…は…んんっ!」
さやかは叫びそうになるのを堪える。ほむらの体内に収納されたモノが締め付けられているのだ。相方の体内の熱さと気持ちよさで、思考がうまく機能しない。そんなさやかの顔を目を細めて見下ろす悪魔。腰は艶めかしく動かしたまま、口元は嬉しそうに綻んで。
「貴方のそんな顔…好きよ」
赤い舌がさやかの頬を舐める。
「…ふっ…あ」
すごい……とさやかは心の中で叫ぶ。逆の場合――ほむらがふたなりとなって、さやかに挿入してきた場合、さやかは数分も持たずに意識を飛ばしてしまう。だが、さやかがほむらに挿入した場合、ほむらは何時間も意識を保ったまま快楽を貪ることが可能なのだ。行為の際、さやかがほむらに挿入する回数の方が多いのは、二人の「行為」が長持ちするというのも理由のひとつだった。腰に電気が走ったように痺れがきて、さやかは叫んだ。
「ほむら…私…もう」
「だめよ」
さやかの上で激しく動くほむらの腰が止まった。握り合っていた手を離し、ほむらはさやかの頭を抱いて上体を起こすように引きあげた。ゆっくりとさやかが上体を起こす。相方の蕩けた顔を手で撫でながら、ほむらはくすくすと笑った。
「お間抜けな顔ね」
「悪かったわね…あんた…のせいよ」
息を荒げながら、さやかはほむらに呟く。悪魔は何故か嬉しそうに笑うと、その肩にもたれて目を瞑った。腰は微かに動かしたまま。気持ちよさそうにほむらが息を吐く。
「ねえ…」
「…何?」
繋がったまま、二人は会話をはじめる。
「あの…ポーカーさ…勝てたの…あんたの力の…せい?」
「…違うわ」
はあ、と息を吐きながらほむらが囁いた。
「もし、負けそうなら…んっ…力を使おうと思っ…たけど…あれは貴方の実力よ…」
「そう…なの?」
さやかが肩に視線を移すと、目を三日月型にして微笑むほむらと目が合った。
「気にして…たの?…馬鹿ね」
「うん…でも…それなら…嬉しい…わ」
「貴方はやる時はやる人よ…」
「うわ…何それ褒め過ぎ…痛っ!」
ほむらがさやかの肩を強く噛んだ。
「交替…しましょう?」
ほむらの方も、限界に来ているらしい。顔は紅潮し、目は潤んできた。息も荒い。
二人はゆっくりと横になり、今度はさやかが上になる。
「ほむら…私そんなに持たないわ…」
「いいわ…」
再び手を握り合い、動きを激しくする。さやかのモノが、ほむらの奥にあたる。
「あ、…っ」
ほむらが鳴いた。それから数回激しく突きあげ、奥に当たる度に、ほむらはびくん、びくんと身体を痙攣させ、声をあげた。その声は普段とはまったく違う少女の様な声で。
「あ、あ、あ…さや…かっ!」
名前を呼ばれた喜びで、さやかの身体に痺れるような快感が走る。
「ほむら…もう」
さやかの腰が止まらない。まるで吸いつかれているように、ほむらの下腹部に何度もさやかの腰が押し付けられる。悲鳴があがった。さやかがほむらの名前を叫ぶ。同時にさやかはほむらの体内に射精した。天井に投げ出されるほむらの潤んだ視線、固く目を瞑り腰を痙攣させるさやか。ほむらは身体を震わせたまま、放出を受け止める。
その間、二人はずっと手を強く握りあっていた。