闇が次第に白みはじめ、水平線に太陽が昇る。
船室の窓から覗く太陽は、ベッドで重なるようにして横たわっている二人を照らしていた。
「ちょっと……どういうつもり」
「どういうつもりって…」
押しつぶされるような状態で仰向けになっていた黒髪の美女が、もたれるように上にのしかかっている蒼い髪の女性に囁く。その表情はまるで不機嫌で拗ねている子供のようだ。
「ほら…どいて」
黒髪の女性は、両手で圧し掛かっている蒼い髪の女性を押しのけた。意外と力があるのか、蒼い髪の女性はいとも簡単に押しのけられ、「わあ」と間抜けな声をあげながら横にはじき飛ばされる。黒髪の女性は、ゆっくりと起き上がると窓の方へ顔を向けた。目を合わそうとしない。蒼い髪の女性は不思議そうに、黒髪の美女の華奢な後ろ姿を見つめる。
「ベッドが両方ともめちゃめちゃよ」
「へ…ああ、はは、さっき、激しくしちゃったか…あいた!」
ぱちん、と白い手が蒼い髪の女性の額を叩く。蒼い髪の女性――さやかは、額を抑えて怒りの声をあげた。
「ちょっと、何すんのよ!」
一瞬、黒髪の女性――ほむらは口角をあげるが、それを相方に見られまいと、また顔を背けた。頬は少しだけ紅潮していて。
「……ほんと、貴方の節操のなさにはあきれてしまうわ」
「はあ?」
「「寝る用」と「する用」に分けたんじゃなかったの?ベッド…」
そうなのだ、昨夜、一度身体を重ねた後、二つのベッドを用途別に分けたのだ。しかし…二つともベッドはかなり乱れていた。他人が見ても、そこで激しい「行為」が行われたことを想像するのが容易なくらいに。
「え、てか…それ違うわ!だって、二回目はあんたがしようって…わ!」
バサ、と音が鳴って、さやかの視界が白くなる。
「黙りなさいな」
くすくすと笑う声。ほむらがシーツをさやかの頭に被せたのだ。そのまま倒れ込んで、シーツごと上からさやかを抱きしめる。
『こら…ほむら!』
シーツの下に隠れて姿を消したさやかの声を聞きながら、ほむらは目を瞑る。幸せそうに。
さやかが顔を見ることができない時、彼女はさも幸せそうに笑うのだ。
「黙りなさい…」
もぞもぞと動くシーツを抱きしめながら、ほむらは気持ち良さそうに息を吐く。
顔の紅潮も収まったらしい。
――悪魔も照れ隠しをすることがあるのだ。
* * *
「やっぱ、やりすぎたかな?」
「いや、そんなことないと思います!」
高橋が頭を掻きながらぼやくと、副ゼミ長の女性が力強く宣言した。その横で茶髪の男――石田がニヤニヤ笑いながら二人のやりとりを聞いていた。
ここは、船内の客室ルームのフロア。まだ朝も早いこの時間、フロアには三人しかいなかった。
「でもさあ、やっぱ俺の演技あってのことじゃない?すごかったでしょ?」
にやりと笑って、石田は自分自身を指差す。どこまでも軽薄だが憎めない男の仕草に、年若い二人は苦笑する。
「確かに、石田さんの演技お見事でした」
高橋がそう言うと、石田は今度は嬉しそうにへらへらと笑った。
「それに、岡田の「扮装」も良かったよ」
ゼミ長である高橋に褒められ、悪い気はしないのだろう、副ゼミ長である女子学生――岡田は嬉しそうに微笑んだ。
「だって気合いいれたんです!あの「幽霊」の格好!」
昨夜のトランプのメンバーである三人は、萩原に対してある「制裁」を思いつき実行した。それは、恐ろしいほど美しい「絶世の美女」をトランプで賭けようなどという、失礼極まりない無作法な男に対する制裁で。
制裁の内容はこうだ。深夜に石田がまず萩原を呼び寄せる、そうして、元々いもしない「幽霊」を見たと言い張り、佐藤教授の客室前まで連れて行く。ドアの前で「見える」と石田が言い張ることで、「幽霊」の存在を印象付け、結局いないじゃないかと油断させた後、二人がドアを背にした瞬間に、「幽霊」に扮装した岡田が隣室から出てきて萩原を驚かすという手筈だった。誤算は、佐藤教授が部屋から出てきたことだったが。
「でもまあ、うまくいったし、いいか」
「でも…萩原さんの驚きようはすごかったですねえ」
高橋の言葉に石田はニヤリと笑った。
「ほんとすごかったな、萩原さん」
萩原は、悲鳴をあげながら石田を抱きしめ、もつれるようにして逃げ出したのだ。石田がどうにか身体を離すと、自室へ飛び込むようにして入ったきり、出てこなかった。
「萩原さんって、石田さんに抱きついてましたけど…あの人って」
「おいおい、やめろよ、とりあえず俺はゲイじゃねえよ?」
石田の言葉に二人は吹き出した。