・桂木 袖(かつらぎ しゅう)←オリキャラ
25歳。職業は記者。人面タクシーに関する記事を書いていたが執筆に難航し、各界で何かと話題のサイ・トレイリングの第一人者『深見 博昭』に助力を求める為アカデミーを訪れる。
・深見 博昭(ふかみ ひろあき)
日本でのサイ・トレイリングの第一人者。大体はアカデミーにいると思われる。特定の単語を伸ばす癖がある。彼の家では最近怪奇現象が多発しているらしいが、本人はあくまでもノーダメージ。上田の事はどんとこいと認識しているらしい。
・山田 奈緒子(やまだ なおこ)
ご存知天才マジシャンを父に持つ偽乳奇術師。サイ・トレイリング回では何故か空耳や言い間違えが多い(六話ラスト人面タクシー遭遇時の「やれ?やめれ?」、七話冒頭人面タクシー解説時の「阿部さん」等)。
・上田 次郎(うえだ じろう)
どんとこいの人。今作では眼鏡を持ったまま失神する。かわいい。
・矢部(やべ)
〇〇刑事。〇〇の部分は言ってはいけない。ちなみに小早川の頭頂部のアレは一期の時に矢部がつけていた〇〇と同一の物。
・石原(いしはら)
深見の屋敷にいた日本人形がトラウマ。かわいい。
「サイ・トレイリング?」
「そうだ」
目の前にペンを突きつけられる。
その言葉を聞いて桂木 袖(かつらぎ しゅう)は何気なく伊藤〇二の『サイレンの村』を思い出したのは言うまでも無かった。
「山野さん、私その言葉聞いて伊〇潤二の…」
「桂木、それ以上は言うな。聞いても時間の無駄だ」
無理やり山野に止められてしまい、未遂に終わった。
「で、サイ・トレイリングって何ですか」
改めて問い直す。
「簡単に言うと、物や人の残留思念を探り、それを追跡するという事だそうだ。そしてその能力を持った者の事を『サイ・トレイラー』と呼ぶ」
「残留思念…そんなものが何かの役に立つんですか」
「たまにテレビとかの特番でやるだろ。 行方不明者を超能力者が探すっていう趣旨のやつ。…つまりこの能力を持つ者は行方不明になった人を探したりとか、犯人を捕まえたりだとか…そういうのに役に立つ訳だ」
山野が得意げになって言い放つ。
袖はなるほど…と顔を僅かに逸らして頷いた。
サイ・トレイリング…話を聞いてみると中々面白い能力だ。物や人の残留思念を追跡する。もしそんな力を持った者が身近にいたとしたら是非とも話を聞いてみたいものである。
「サイ・トレイラー…中々興味深い能力ですね」
「……お前、この話を聞いて何か閃かないのか」
「…はい?」
山野が棒の様な表情から段々と険しい顔つきになってくる。これは怒られる兆候だと袖は反射的に理解した。
「お前が今書いてる『人面タクシー』と行方不明者の記事。確かあれの調査ってまだ難航してたよなぁ?」
「は、はい…」
痛いところを突かれ、袖の表情が曇った。
最近巷で噂になっている『人面タクシー』…霧の中、白いタクシーに乗車してしまうと行方不明になるという都市伝説めいた話だ。だが、その都市伝説が最近現実味を帯びた話になりつつある。ここ数ヶ月の間、霧の晩にタクシーに乗車した女性が何人も行方不明になっているのだ。最近はワイドショーなんかにも取り上げられ、何かと世間を賑わせていた。
袖はその人面タクシーに関する記事を書くと意気込んではいたのだが、いざ取り掛かると取材や調査はかなり難航し、中々ペンが進む事は無かった。
山野が続けた。
「実は今、日本にサイ・トレイリングの能力者がいてな。もしお前の記事がまだ難航してるようなら…その能力者に助けを求めてみるのも一興かと思ってな」
山野が傍らからパンフレットを差し出してくる。袖はそれを受け取ると、中身を開いて目を通した。
パンフレットの右上の方には一人の男の写真があった。
名前は…『深見 博昭』。
写真を見る限りではあるが、何だか淡白で冷感的な印象を与える顔つきをしていた。
「深見…」
「そうだ。その深見という男こそサイ・トレイリングの能力者なんだそうだ」
「へぇ…。でも仮にこの深見という男に話を聞くにしても場所が遠かったりすると…」
「安心しろ桂木。幸いにもこの男のいるアカデミーはウチの出版社からはほど近い」
山野のアカデミーという言葉を不審に思い、再度パンフレットに目を落とした。
この深見という男、パラサイコロジーアカデミーという学園で学長をしているらしい。
「今からでも遅くない。アカデミーに電話をして深見と会うアポを取ったらどうだ?」
「それ、山野さんがただサイ・トレイリングに興味があるってだけじゃあないでしょうね…」
半分呆れながらも袖は山野の言う通りにしようと思い始めていた。記事を書く筆が進まないのは確かなのだから。
あの後深見のいるアカデミーにアポを取り、取材の約束を取り付けたのはそれから二日後の事だった。意外とすぐに取材にありつけたのは有難かった。
アカデミーに向かう日は生憎の曇り空であった。
傘でも持ってくれば良かったと後悔し、アカデミーに足早に向かった。
しかし…この深見という男は一体どんな人物なのだろうか。
超心理学者という肩書きを持ち、半年前にアメリカから帰国。それからアカデミーを立ち上げ…主にアカデミー内では超能力に特化した教育を軸に行っているらしい。
肩書きや経歴を見る限りではあまり信用できるとは言い難い人物だった。本当にこの男に人面タクシーの事を聞いて納得のいく答えなど返ってくるのだろうか。
目的のアカデミーに到着し、受付の女に取材に来た旨を伝えると最上階にある学長室へ行く様に案内された。
エレベーターを使い最上階まで上がると、ロビーから深見と思しき人物がこちらを出迎えた。すぐに分かったのはパンフレットで事前学習をしていた賜物だろう。
「初めまして。先日取材を申し込みました、桂木 袖と申します」
バッグから名刺入れを取り出し、名刺を目の前にいる男に渡した。深見は何の抵抗も無くそれを受け取った。
「深見です。…わざわざ尋ねて頂いて、光栄です」
深見がこちらに向かって微笑む。袖もそれに対して軽く会釈をして返した。
深見はパンフレットで見た通り、冷感的な印象を与える男だった。黒のロングコートを身にまとい、顔も異常なくらい白いので吸血鬼のドラキュラを袖は脳内で思い浮かべた。
「…こちらへどうぞ」
深見に案内され学長室へと向かった。
学長室内は豪勢な調度品が置かれ、一記者である袖が案内されるのには不釣り合いなくらいの場所であった。
ソファに腰を埋めると程なくして秘書か事務と思しき女がコーヒーを運んできた。袖はそれに手を伸ばす事無く話を切り出した。
「深見教授、本日取材とは言いましたがそれは建前でして…本当はある事件の記事を書くにあたってアドバイスを頂きたく思いまして馳せ参じました」
「それはどんな?」
深見の目が僅かに細められた。アドバイスに使われるのは不本意だが、話だけは聞いてみようといった…そんな感じに受け取れた。
「教授は『人面タクシー』という言葉を聞いた事がありますか」
「ありませんが」
即答だった。まるで早くこのくだらない話を終わらせてくれとでも言う様な…パンフレットを見た時に受けた冷感的な印象はあながち嘘でも無かったらしい。
「最近、巷で噂になっておりまして…どうやら霧の夜に白いタクシーに乗ると行方不明になる…というものでして…その行方不明になった方の情報を少しでも頂ければと」
「何故私がそんな事をしなければならないのです」
深見に鋭い視線を向けられ、つい袖は身体を萎縮させてしまった。
「第一、貴方は出版社の記者という立場だ。大衆の読む娯楽雑誌の記事等に下手なリアリティーを求めて一体どうしようと言うのです。適当に妄言でも書いて記事にすれば宜しいのでは?」
「そんな事…っ…!!」
「それに…この程度の記事の執筆に躓く様では貴女…記者に向いてないと思われますよ」
「なっ……!!」
深見に確信をついた事を次々と言われ、袖は次に返す言葉が見つからなかった。悔しいが、この男の言う事は正論だ。反撃する余地が見つからない。
「……深見さん。貴重なお時間を無駄にさせてしまった様で失礼致しました。本日のところは帰らせて頂きます」
ソファから立ち上がって一礼をした。ここまで言われては引き下がるしかない。まともに深見と会話を成立させられる自信が無かった。
不意に深見がこちらに歩み寄った。反射的に後ずさろうとするが、それも間に合わない。気付いた時には深見に手袋越しに頬を撫でられていた。
「……な…何を…」
軽く頬を撫でられ、まじまじと顔を見つめられる。
まさか顔を覚えておいて街中で会った時なんかに因縁でもつけるつもりなのだろうか。
「貴女、このまま人面タクシーの事件を追っていると…命を落としますよ」
いきなり言われた素っ頓狂な言葉に袖は深見の手を払い除けた。
命を落とすって、それが人に言う台詞か…!
この深見という男はそんなに私の事が気に入らないのか。
深見の一言で完全に腹を立てた袖はキツく眼前にいる人物を睨みつけた。
「深見さん、貴方…最低ですね」
「私はただサイ・トレイリングした迄の事―…。親切心で言って差し上げたのですよ」
「物の残留思念を辿るだけで未来までも予知出来ると?」
「お嬢さんがどう思おうが自由だ。ただ…自らの命が惜しければ、この私の記事を書く事にでも切り替えなさい」
「……失礼します」
深くお辞儀をして学長室を後にした。
何故か手袋の感触だけがいつまでも頬に残っていた。
―お前、マジで言ってんのか!?
「ハイ、本気です。人面タクシーをこの目で見るまでは、今日は帰りません」
そう言って携帯の通話を切った。
アカデミーの学長室で深見に言われた言葉に腹が立ち、いても立ってもいられなくなった袖はその日の晩、人面タクシーがよく目撃されるという道路付近まで来ていた。
この目で何としてでも人面タクシーを見てやる。
そして晴れて人面タクシーの事件を記事にし、深見を見返してやるのだ。
袖の脳内では深見に言われた言葉だけがいつまでも堂々巡りを繰り返していた。
人面タクシーの事件を追っていると死ぬだと?そんなの深見の嘘に決まっている。
絶対にあのまま言わせておきっ放しにはさせない。
見返してやる。見返して…。
噂によると人面タクシーは霧の夜に姿を現すと言った。
だが今日は霧は殆ど出ていない。そのかわりに空には星がひとつも無く、気温もかなり下がっていた為寒かった。そんな寒いところにいつまでもいては風邪をひく危険があるが、今の袖には知った事では無い。
袖は道路の脇にある工事現場の壁にもたれて人面タクシーが現れるのを待った。しかし人面タクシーはいつまで待ってもその白い姿を覗かせる事は無かった。
再び深見の言った言葉が脳内に蘇った。
貴女、命を落としますよ―…。
何故かその言葉だけが強く反芻し、袖は周りに人気が無いという事も勝って思わず身震いしてしまった。
命を落とすという言葉と夜という状況から、霊的な何かを想像してしまったのだ。
もし人面タクシーを運転する者が、この世の者ではなかったら…。
そんな事ある訳が無い。現に、人面タクシーに連れ去られた人物は確かにいる。この一連の流れには事件性がある。
腕を組んで更に待った。
だが、それでも人面タクシーが現れる事は無かった。
今日はこの辺を走る予定は無いのだろうか。そう思っていると、雨が弱々しくではあるが降り始めた。日中からずっと曇りだったせいか、夜遅くになって降り始めたのだ。
雨が降っては長居をする訳にはいかない…名残惜しいが今日のところはこの辺で引き上げる事にした。明日の夜だってチャンスはある。深見に煽られたからといって無理に急ぐ事も無いだろう。
最寄り駅まで向かって足早に歩いた。だがそうしている間に雨はどんどん強くなっていき、ついには袖の着ている服をずぶ濡れにする迄になっていた。
身体が寒い。このままでは本当に風邪をひいてしまうのではないか。
そう思っていた時、向かいから車のライトが近づいてくるのが雨越しに見えた。
もしや、人面タクシーでは…?
僅かな期待から袖はじっとその車がこちらを通り過ぎるのを見つめた。だが、車体が近づくにつれその期待は消え去った。車の色が赤だったからだ。
その車が何故か袖の脇に止まる。通り過ぎようとした袖の背中に低い声が投げられた。
「桂木さん、そんな所で何をしているのです」
数刻前まで聞いていた声に袖は車内に目を凝らした。車を運転していた主はあろう事か深見本人であった。
「…深見さん……何で私なんかの名前を…」
「アカデミーで名刺を渡してきたでしょう」
深見が少し呆れた口調で言い放った。
「それにしても、何故こんな所を歩いているのです」
会話が最初の質問に戻った。袖は何だか気恥ずかしくなって顔を逸らしながら深見の問いに答えた。
「貴方には関係の無い事です…さっさと家に帰られたらどうですか」
「今にも凍え死にそうな人間を置いていけと?」
深見がこちらを鋭く見据える。思わずその視線に怯みそうになった。
「…まあその様子だと、私の予言が的中する前に命を落としかねないでしょうね」
「……そんな事を私に言う為にわざわざ車を停めたのですか」
袖も深見に負けずに言葉を重ねた。だが雨によってもたらされる寒さには勝てなかった。袖は雨で濡れきった上着を脱ぐと、深見から視線を外して歩き出そうとした。そこを深見が再び呼び止める。
「待ちなさい。そんな格好で歩かれて本当に風邪を引かれたらこちらとしても胸が悪い。私の家が近くにありますから、そこで身体を拭いていきなさい」
「………」
深見にそこまで言われては誘惑には勝てなかった。袖は仕方なく深見の運転するイストの助手席の扉を開けると、車内に乗り込んだ。
車に乗ってから十分程で深見の自宅には着いた。
深見の自宅は自宅…というよりも邸宅や屋敷と言った方が相応しかった。そのくらい豪勢だった。流石あのアカデミーの学長をやっているだけの事はある。
「どうぞ」
深見に促され、邸宅の中へと入った。内部は洋館の様な造りになっている。まるで家という実感が湧かなかった。
「そこで待っていなさい」
深見に指示され、そのままロビーで待つ事にした。雨で濡れた身体は僅かには乾いていたがそれでも湿って気持ちが悪い。今すぐにでも脱ぎたい気分だ。
深見は一、二分で袖の元に戻ってきた。手にはタオルと衣類を持っている。着替えを持ってきてくれたのだろうか。
「服が濡れたままでは気持ちが悪いでしょうから、シャワーを浴びて着替えなさい。そして今夜は遅いですから、こちらに泊まられると良いでしょう。使っていないゲストルームがありますから」
「……ありがとう、ございます」
シャワーを浴びて更に泊まっていけという言葉に袖は僅かながら戸惑いを隠せなかったが、ここは受け入れる事にした。人面タクシーを何時間も待っていて身体が疲れているのは事実だったし、今から帰るとしても家に着くのは遅くなってしまうだろう。
「浴室はあちらにあります。…衣類は干しておけば朝には少し乾くでしょう」
「…ご丁寧にどうも」
深見に会釈をして浴室へと向かった。まさかあの冷血男があそこまでしてくれるとは…正直驚きを隠せなかった。
浴室へと向かうと袖は身につけている服を脱いだ。結構中の方まで濡れてしまっている。これでは身体も冷える筈だ。
風呂場の中は簡潔に物がまとめられていた。人の家の風呂場にいつまでもいるのも嫌だと思い、袖はなるべく早くシャワーを浴びた。
それにしても深見、さっきの口調といい車に乗った時といい、段々と私に対して命令口調になっていないか?もしかしてそんなに私の事が嫌いなのか。
まあ、死ぬと予言するくらいだしな…。
なんだかそう思うとまた怒りが込み上げてきた。
いけない、ここは抑えなければ。
しかし深見はあのアカデミーで袖に近付いた一瞬の間にサイ・トレイリングなどしてみせたのだろうか。
聞けばサイ・トレイリングというのは超能力としてはまだ信憑性は薄く、それ故に深見もまたメディア等で好奇の目で取り上げられる事が多いらしい。
寝る前に深見を捕まえてサイ・トレイリングの事について聞いてみるか―…。
袖は浴室から出るとバスタオルで身体を拭き、深見の用意してくれた服を手に取った。そこで袖はギョッとしてしまった。
深見が用意した服はあろう事か男物のシャツ一枚のみであった。
これは…せめて下に履く物とか無かったのだろうか。
しかし―、とここで袖は思案する。
深見は多分この邸宅には一人暮らしだ。一人暮らしの男が自分のサイズ以外の服を用意しているとも考えられない…。
袖は仕方無くそのシャツを着る事にした。一瞬、ジーンズを履こうかとも考えたが濡れていて気持ちが悪いので断念した。
しかし…この格好で深見と話すのもかなり抵抗がある。今日はこのまま寝てしまおうとゲストルームに向かおうとした所で後ろから声をかけられた。この邸宅内で袖に声をかける人物など一人しかいない。
「シャワー、浴びてきたのですか」
「う……はい…」
深見がこちらに近付く。じっと着ている服を見つめられ、袖は萎縮してしまった。
「あの…この格好で出歩いているのも迷惑なので……今日はもう寝ます」
「少しだけ、事件の事をお教えしましょうか」
不意に深見の口から出た言葉に袖はハッと顔を上げた。
事件、人面タクシーの事か。
人面タクシーに関する事を教えて貰えるならこれ以上に有難い事は無い。袖は深見の顔を見ると目を輝かせた。
「教えて頂けるのでしたら、有難いです」
「では…私の自室へ」
深見に促されるまま袖は二階へと足を運んだ。
邸宅の二階は深見の自室となっていた。二階の部屋内もやはり一階と同様、赤系統の調度品が綺麗に並んでいた。
「…こちらに」
ソファに座る様にと手で案内され、袖はゆっくりと腰を下ろした。深見は対面側には座らずに立ったままこちらを見た。
「……それで、深見さんは人面タクシーについて何をご存知で」
なるべく落ち着いた口調で問い掛けた。深見の機嫌を損ねない様に。
「私の能力…桂木さんはご存知ですか」
「ええ。サイ・トレイリング…深見さんと会う前に事前に勉強しましたから」
シャワーを浴びたばかりだというのに身体にじっとりと汗をかいていた。この男とまともに対面して話しているだけでもかなり緊張する。
「簡潔に言うと、私は行方不明になった四人の女性の居場所を知っている。…その情報は警察ですらまだ掴んでいない」
「なっ……」
深見の衝撃的な一言に袖は驚きを隠しきれなかった。
人面タクシーに乗って行方不明になった女性の居所を知っている―…、やはりそれは深見の持つ能力、サイ・トレイリングをした上でだとでも言うのだろうか。
「やはり…それは、サイ・トレイリングによって……」
袖の言葉に深見は目を細めた。
「貴女は何も分かっていない」
深見のその短い一言に、袖は彼の方を見上げた。
深見が構わず続ける。
「死者の意識…特に望まない死を遂げた者の意識はある一定の領域に留まる。その領域はゾーンと呼ばれ、死後も苦しみ続ける」
「…そして」
自然と言葉が口をついていた。深見のその言葉の続きを何故か聞きたくなった。
「その領域に踏み込み、死者の意識の痕跡を追うのがサイ・トレイラー…サイ・トレイリングは最も呪われし能力なのですよ」
「呪われた能力…」
なるほど。深見はそのサイ・トレイリングの能力を使って人面タクシーで行方不明になった女性達の痕跡を探し出した事になる。しかし、その説明で行くと行方不明になった女性達は皆もうこの世にはいない事に…。
「桂木さん」
近くで声が聞こえて袖は思わず肩を震わせた。見ると深見はいつの間にか袖の背後に歩み寄っていた。こうして近くに立たれるとかなりの存在感がある。袖は少し身体を深見から離した。
「何故私が貴女の死を予言出来たか、お教えしましょうか」
無意識に口の中に溜まった唾を飲み込んだ。何故だかここから先は聞いてはいけない様な気がした。
聞いたら最後、戻って来れなくなる。
「私の…死…」
袖の思いとは裏腹に深見は言葉を続けた。その表情はどこか嬉々としている様に感じられた。
「人面タクシーの運転手…行方不明の女性を殺害している犯人は快楽殺人犯です。それも、ある条件下の女性を手にかけている」
「……条件下、とは」
身体が発する警告を無視して、ただ好奇心のままに聞いた。深見の言葉を。この男が次に何を言おうとしているのかを。
「若くて綺麗で眼鏡をかけている女性です。…貴女もこのまま人面タクシーを追っていると快楽殺人の毒牙にかけられる、必ず」
「………でも、私は眼鏡なんて…」
「殺した後にかけさせれば良い」
深見に顎を強く掴まれた。そのままじっと顔を見つめられる。
「…や、やだ…」
「私が貴女を殺すとでも?」
「そんな……っ…ン…」
唇に乾いた感触があった。深見の唇が押し当てられているのだという事に気付くのに少々時間がかかった。
「…っふ、ンぅ…」
深見の唇がゆっくりとまるで袖の唇の厚ぼったい感触を味わうかの様に動く。じっくりと口づけられ、袖は深見の手首を掴んだ。
「っ…は、ぁ…」
深見の顔が離れていくのが分かった。袖は視線を宙にさ迷わせながら、今あった事を理解しようと必死に脳内を整理した。
深見が袖の隣に座り、じっとこちらを見つめる。
「ひとつ、賭けをしましょうか」
「……賭け…?」
まだ上手く頭が働かないでいる。深見の言う『賭け』とは一体何なのだろうか。全く分からない。
「私と性交渉をして貴女が達しなければ…失踪した女性を殺した犯人をお教えしましょう」
「なんで…そんな…」
深見の口から発せられた耳を疑う様な提案に袖は顔を赤くした。
性交渉だなんて。しかも深見と私が。
今しがた深見とキスをしてしまったのは事実だ。だが、それ以上の事をするなんて誰が想像出来る。しかも私に対してイくなと冷酷な命令までするなんて。
それに人面タクシーで女性を攫った人物を教えるとは言われたが、深見がそこまで知っているとは到底思えなかった。
「……深見、さん…」
深見に口づけられた唇を指でなぞった。この男と性交渉をする等、考えられなかった。
「まだ、し足りませんか」
「ふぅっ…!んぅ…」
再度深見にキスをされる。今度は口の中に舌を入れられ、必死に袖は抵抗した。
「っ…ん……ぅ…う…」
深見の舌が袖の舌に触れた。袖は逃げようとしたが、深見は更にキスを深くした。
意識していないと身体から力が抜けてしまう。どうにかしてこの場から去る方法を考えないと。これ以上この男に弱味を見せたくない。
やっとキスから開放された。
袖は未練がましく深見を見つめると唇を拭った。
「……私はこの賭けに乗るつもりはありません」
「何故です。人面タクシーの犯人を暴きたいと言ったのは貴女でしょう」
深見が不敵に笑ってみせる。その笑みはこの場で優位に立てているからこそ出来る表情だった。
「…ですが、深見さんは私がこの事件を追っていると死ぬと予言されたので」
ソファから立ち上がってその場を去ろうとした。もうこれ以上この部屋に留まる理由も無い。
「素直になりなさい」
深見が立ち上がり、こちらに近付いた。袖は本能的に後ずさった。
「私の事が怖いのでしょう。女性を殺害した犯人だと思っておられる」
足がもつれて後ろに倒れそうになった。そこを深見が袖の身体を支え、抱きとめた。袖と深見は奇しくも馬乗りの体勢になってしまった。しかし深見はそんな事意にも介さずに続けた。
「私が快楽殺人犯だとしたら、今ここでお嬢さんを殺す事も出来る」
「…そんな…っ…」
深見の顔が首筋に近づけられた。首を強く吸いつかれ、袖は低い声を出した。
「深見さん…何を…」
「快楽殺人の犯人…見つけたいのでしょう」
深見が何を言っているのか良く分からない。袖の脳内は既に混乱しきっていた。
深見の手が袖の着ていたシャツにかかる。ゆっくりと観察するかの様にボタンを外され、袖はつい深見の手を掴んでしまった。
「止めて下さい…」
袖の言葉に反応したのか、深見はボタンを外している途中で手を止めた。
「ブラ、つけてないんですか」
極めて感情の無い声で吐き捨て、深見は袖の胸を指で弄り始めた。まるで手慰みに玩具でも弄るかの様な手つきで。
「うっ…ぁ…深見さっ、そこ…」
「私と話している時から感じてたんじゃないですか。こんなに勃たせて」
「ちがっ、っふ…ぁ」
深見に親指で乳首を弄られ、気の抜けた声が出てしまう。
「ふっ…うう…ぅ…」
「その反応だとしばらくしてませんか…こんなに声出して」
「…違い、ますっ…床でされては寒いだけです…」
「ならベッドまでお連れしましょうか?そこでならゆっくり出来る」
この玩具にされているだけの行為をゆっくりとする必要があるのか。袖は流されまいと深見をキツく睨みつけた。
「そんな熱っぽい目で見られたら普通、勘違いしますよ」
深見に頭を押さえつけられ、深く口づけられた。いとも容易く舌が口腔内に侵入する。舌をつつかれて、それを舌で押し退けようとすれば自然と舌が絡み合った。
「…ふぐっ、ぅ…ふ…」
深見の身体に両手を当てて必死に抵抗する。だが、こういう状況の時の抵抗はかえって逆効果だった。深見は袖の身体に体重をかけると身体を密着させた。
深見の身体は思ったよりも暖かかった。単に私の身体が冷え過ぎているだけか。そんな単純な事も考えられない程、深見とのキスに思考が持っていかれてしまう。
「…っン、…んぅ…ぅ…」
舌を絡め合わせる度に唾液のヌチュヌチュという湿った音が否応なしに室内に響いた。深見もキスに夢中になっているのだろうか。先程した時よりも感情がこもっている気がする。
深見の指が袖の乳首に再び触れた。反射的に身体がビクンと動いてしまう。深見は袖の乳首を軽く愛撫した後、そこを爪でカリカリと弾き始めた。
「ふぐっ…!っうぅ…う…んぅ…!」
爪で与えられる刺激が強過ぎて、袖は本能的に身体を捩らせた。だが深見に身体を密着されている為上手く動けない。深見とのキスが更に激しくなる。袖は深見のなすがままにされかけていた。
「ふぅっ、ぅうっ、んぅ…!ン…!」
激しく乳首を弾かれ続け、袖の脳内は何度も混乱のスパークが散った。散っては快感を求め続け、袖は耐えられなくなり瞳に涙を滲ませた。
弄られている乳首は刺激に反応し自らを限界まで勃たせていた。もっとして欲しいと目の前の雄に強請っている。 乳首に執拗に強い刺激を与えられ、袖は腰をビクビクを幾度も跳ねさせた。
「イキそうなのか」
深見が唇を離し、短く呟いた。横を向いたまま黙っていると、深見は喉を鳴らして笑った。
「強情な女だ」
深見が今まで弄っていた袖の胸に顔を近付けた。そして乳首を口に含むと、そのまま強く吸った。
「っう、あぁンっ…!…っン…ぅ」
今まで強い刺激を与えられていたそこをまるで優しく慰めるかの様に舌でねぶられ、袖はつい甘い声を出してしまった。この男にこれ以上弱味を見せたくない。だが深見の執拗な責めは確実に袖の理性を瓦解させようとしている。
「深見ッ、もっ…やめ…」
「止めて良いのですか?余計苦しくなって辛くなるのは貴女だと思いますが」
「……っ…」
何だか深見のペースにどんどん流されている気がする。
深見は空いている方の手で反対側の乳首を弄り始めた。両方の胸を弄られ、袖は腰を深見の身体に強く押しつけた。
「…っふ、あぁ…ン、うぅ…」
「爪でされる方が好きか」
「ほふっ…!っああ、っン!」
深見が弄っていた乳首を爪で強く弾く。反対側の乳首も甘噛みされ、袖は今度こそ耐えられなくなって身体を必死に逸らせた。
腰を深見の身体に押しつけたまま無意識に上下に動かしてしまう。深見もそれに合わせて腰を突き上げる様に動かした。服越しに深見の膨らんだ股間の一部が引っ掛かり、袖はそれで何度も秘部の入口を刺激されると呆気なく達した。
「イッたのか」
床にぐったりと身体を横たえる袖を見下ろし、深見が見下す様な視線を向ける。袖は腰をビクンと跳ねさせながら虚ろな目で深見を見ていた。
深見は動かない袖の身体を起き上がらせると、そのまま介抱して寝室まで運んだ。そしてベッドに袖を寝かせると自らも彼女の上にのしかかった。
深見がゆっくりと袖の唇にキスをする。欲情を煽る様にキスをされると、子宮が疼き出すのが自分でも分かった。
「…ふっ、ぅう…ん…」
「キスだけじゃ物足りないか」
深見が再度、袖の身体に自分の身体を密着させた。足の間に硬い感触が当たる。
「あっ…これ……」
「好きならもっとしてやろうか」
「…っ!…っふ、ン…!」
下着越しに深見の股間が当たった。強く擦りつけられながら動かれると丁度クリトリスの所を刺激され、袖はその刺激から逃れようと身体を上に逃がした。
「クリトリス弄られるよりもナカの方が良かったか?そっちの方がもっと強い快感を味わえるぞ」
「っ…う、そん…な…」
深見の勝ち誇った様な笑みを見ながら、袖は首を横に振った。この男のペースに飲み込まれる訳にはいかない。
「さっきは少し入口を触ってやっただけでイッただろう。いつまで無駄な強情を張るつもりだ」
「強じょ…っは…!ああぁぁあ…!!あ!」
言いかけたところで深見が袖の乳首に強く歯を立てた。いきなりの刺激を予知していなかった身体は素直にその快感に反応してしまった。
「ふかみっ…!やめ…あっ、あぁぁ…!!」
「軽く失禁でもしたか?下着が濡れているぞ」
深見が下着の上から秘部をなぞった。ゆっくりと形をなぞる様に幾度も触られれば、そこは期待してビクビクと痙攣した。
「やめ…て……ホント…に」
「男の前でこんな臭い晒して逃げられると思っているのか?」
下着を触っている指がクリトリスを弄り始めた。最初はゆっくりと確かめる様な手つきでそこを擦り始める。
「っふぅ…う…っ…」
「声、我慢しなくて良いんだぞ。ここには他に人はいない」
「…っ…く、お前に…聞かれたく、ないんだ…」
今度こそ鋭い目つきで深見を睨みつけた。深見は袖のその顔を見ると、今までに無いくらい冷たい表情をこちらに向けた。
「…そうか」
「……えっ、ちょっと、なに…!……ほっ、おおおぉぉお!!!」
深見に下着を無理矢理剥ぎ取られ、勃起したクリトリスに吸いつかれた。刺激に弱いそこに無遠慮に快感を与えられれば身体は過剰な迄に反応する。
「やだっ、やめてっ、やめてくださいっ!!」
脚を両手で押さえつけられ、身動きが取れない。袖は抗議の声を上げる事しか出来なかった。
「ほおっ、おおおっ…おっ…!」
ヂュウヂュウとクリトリスを執拗に吸われる。膣口がひっきりなしに痙攣しているのが分かる。一番敏感な所を刺激される度に切なくなって苦しくなった。もっと奥の方を引っ掻き回して欲しかった。そうでもして貰えないと頭が馬鹿になりそうだった。
「ふかっ、み…っふ……おくっ…おぐほしいのぉ…」
「なら先程言った事を撤回しろ。そしたら楽にしてやる」
「さっき、って…ふっ、おぉぉおおおぉぉ!!ダメっ、頭おかしくなっ、あぁあああっっ!!」
深見の言葉の意味を考える余裕も与えて貰えず、すぐさま快感を叩きつけられた。ずっとクリトリスを責められ続けて袖の絶頂は限界に達した。
「はうっ!ううっ、あああぁぁぁぁああ!!!」
身体をビクビクと何度も痙攣させて、深見の顔に秘部を押しつけながら絶頂した。それでも深見は責めるのを止めようとはしなかった。
「うっ、ふかみっ…もっ、やめ…ああぁっ!!」
「自分だけイッてやめて貰えると思ったのか」
イッたばかりのクリトリスを舌で幾度も舐め上げられる。達したのにそれでもまだ身体は足りないというようにビクンビクンと痙攣し続けた。
「謝るっ、謝るからぁ…酷い事、しないで…」
深見の執拗な責めに耐えられず泣きながら訴えると陰核の愛撫は呆気なく中断された。その代わりにそこに大きな質量を持った熱が当たる。
「お前のいやらしい声を聞いていたらこっちも興奮した……ここで責任を取れ」
「あっ、だめ……あっああああぁぁぁああ!!」
身体が弓なりに仰け反った。有無を言わさず深見のペニスが膣口に挿入され、敏感な襞を抉った。
「はうっ、はうっはうっあっはあああぁぁあああああっっ!!!!!やめてっっ!!!こわいっ!!それだめなのぉぉ!!」
混乱のあまり自分でも意味の分からない言葉を羅刹した。深見はそれを知ってか知らずか冷笑を浮かべた。
「ナマでセックスをするのがそんなに嫌か?男と身体をまぐわらせる恐怖など一瞬で消し飛ぶぞ」
「そんなっ、ちがっ…んはああぁぁっ!!あっあっ、あああっっ!!」
頭蓋骨をハンマーで粉々にされた様な衝撃、波が幾度も押し寄せた。腟内が収縮を繰り返す。袖は腟内の動きに耐えきれずに軽くではあるが甘い熱を放出させた。
「しばらく男としてなかったか。それとも私の様な男に責められるのがそんなに好きなのか」
「違うからっ、お願い…見ないでぇ…こんな姿、見ないで…」
深見の腰が浅く動く。ペニスが膣口を何度も擦ると、その奥の腟内は狭く愛路(みち)を閉じた。
「マンコの腟内(なか)、締まったな…ココ、チンポで抉らないと先に入らないの分かるだろう」
「ゆっくり、ゆっくりしてぇ…ああっ、あはぁぁぁっっンッ!!」
深見は腰をゆっくりと動かすと、袖の狭くなった腟内をペニスで押し広げた。太いカリの部分がGスポットを引っ掻き、袖はその弾みで甘い嬌声を洩らした。
「そこぉっ、そこもっとチンポで引っ掻いて…ゴシゴシしてぇっ」
弱い所を刺激され、袖は堪らなくなって深見に哀願した。深見は腰を小刻みに動かして腟内の同じポイントを幾度も擦り続けた。
「あっ、ああっ、チンポの反(かえ)しの部分好きっ、そこで引っ掻かれるのヤバいのぉ、すぐイッちゃうっっ」
「そんなにすぐに雄に媚びたら勘違いされるぞ。雌として恥ずかしくないのか」
「恥ずかしいけどぉっ、チンポの快感の方が大事なのぉぉ、頭バカにしてくれるチンポの方が大事なのぉぉ」
「そしたらマンコ締めて自分の事気持ち良くしてくれるチンポにお礼言わないとな」
横尻の部分を軽く平手で叩いた。ひうっ、と袖が情けない声を出し、もっとと腰をくねらせた。
「Gスポット刺激されながら叩かれるのが良いのか」
「はいぃ…ありがとうございます…」
もうここまで来ると一匹の雌という認識だった。
口では気丈に振る舞ってみせていたが、少し叩いてみれば淫乱な雌の顔が露になる…この女は抑圧していた欲望がかなり大きかった様だ。だからこそセックスの時とでこんなにもギャップがあるのだ。
深見は絶え間なくGスポットをペニスのカリの部分で引っ掻き続けた。どうやらペニスが戻る時にGスポットの狭くなっている箇所を擦られるのが堪らなく良い様だった。そうして擦っていると自身の快感も刺激され、ペニスの先端から先走りの汁が垂れた。それを潤滑剤代わりに袖の腟内に擦りつける。
「もっ…イキそう…深イキしちゃう…」
袖の腕が深見の肩に伸びた。深見は袖の身体に自らの体重をかけると、ペニスを最奥まで挿入した。
「おおおっっ、イグッッ!!その刺激だけでイクッぅ!!」
袖の腰が深見の身体に密着する。
深見は袖に口づけると、そのまま腰を早く一定のリズムで打ちつけた。
部屋の中に舌同士が絡み合う音とお互いの体液の淫らな湿った音が響いた。
袖の腟内が限界という様にビクンビクンと何度も深く痙攣した。その痙攣にペニスが締めつけられる。深見は何も考えずに一心不乱に腰を深く振ると、袖の子宮内に届くように精を吐き出した。
☆書いた感想☆
やっと書けました、念願のゾ----ン回エロ小説。
個人的にはおじょーーぉさんとかゾ----ンとか作中でも言わせたかったのですが、深見のシリアスな雰囲気を壊したくなかったので。
深見というキャラクターがエキセントリック、ミステリアスという性格だったので、エロシ----ン書いてる時はかなり楽しかったです。
結構急ぎで書いたので、後で手直しします。
この次はすぐに深見×奈緒子小説書くかも。その際はヨロシク。