「ねぇ、ザンキさん?」
横でこちらに寝返りを打ち、俺に腕を回して自分の方へ引き寄せながら、トドロキが耳元に唇を寄せ、甘く囁く。 当たる息遣いが熱く、震える様に鼓膜に反響して、その前の行為で上がった体温が一気にまた熱を上げ、身体の芯の方が疼き出した。
自分が、吐息でまた余韻を思い起こしている等と、トドロキに知られたくなくて、身動ぎし相手の腕から逃れた。無論、相手と向き合う体勢にはなれるはずがない。
ここは、病院。一人部屋の病室にある、ベット一つに大人二人が横たわっているこの状況で、相手に自分の動揺や気の揺らぎを気づかせまいと躍起になるのは限度がある。
直ぐに、相手に気付かれてしまうだろう事は分かっているが、それでも、顔を突き合わしているよりも幾分、気分的に違う。
「どうして、逃げるんです? コッチ……向いてくださいよ」
「暑苦しいんだよ……。もう、疲れたから、休ませてくれ」
構わないでくれと手を払い、頭まで覆うように布団に包まった。
流されるままにトドロキと繋がり、そして行為が終わると、どうしようも無い罪悪感と後悔、慚愧の念に囚われる。……俺が、慚愧の念なんてと、妙な笑いにとりつかれた。
嫌いではない。
むしろ、愛おしいのだと思っている。
だが、自分がトドロキにある重要な事を隠している事。それが罪悪感を生み、上手くトドロキを受け容れられないでいるのだ。
そして……。何よりも、自分にトドロキを縛っている事が辛い。
俺は……。俺はもう……。
「ずっと、一緒にこうして居たいッス。ザンキさんを好きだから。
……だから、ザンキさん。オレに隠し事はしないでください。この前みたいな事は、オレ。絶対イヤっすからね」
トドロキのいう、″この前″というのは、朱鬼から受けた音撃の傷の事だ。トドロキにはずっと黙っているつもりだったのだが、事は思った通りには、運んでくれない。
そうだ、事は本当に……。思った通りには運ばない。 本来だったら……、
「トドロキ……。大丈夫だ。お前はすぐ良くなる。……大丈夫だ」
本来だったら、こいつは鬼として闘いに出向いている筈なのに。オロチ現象での死闘でオトロシに踏み付けられ、再起不能と診断され、鬼としての未来を絶たれてしまうなんて……。
戦闘で、再起不能になる事なんて、多々ある話だ。分かっている。同仕様もない事だと分かっているのだ。でも、思わずにいられない。何故トドロキなのか、何故俺の弟子なんだ、と。
「そう言えば……。今年も咲いてるんスかね? あの桜」
「あぁ、あの一本だけ二度咲きするあれか?」
「そうッス。あの桜、なんで冬に咲いちゃうんスかね?」
「んん……。 まぁ、詳しく分からないが、二度咲きする桜もあるんだそうだ。あの近くの寺の住職がそう言っていたよ」
「狂い咲きじゃあ無いんスね」
「よく分からんがな」
いつの間にか、また腕が回っていた。トドロキの体温を近くに感じる。こいつは子供みたいに、体温が高い。
「おやすみなさいザンキさん」
「うん。おやすみ」
冬の冷たい空気がスッと頬をなぞる。後ろでもぞもぞと更に身体をこちらに寄せる気配と共に、下肢が絡まってきた。互いの体温が溶け合い、無くなっていくような。そんな感覚を覚えた。何時しか意識を手放し、現の中をさ迷う様に、眠りに落ちた。