口減らしに家を追い出され、冒険者になってからすでに五年。
私は王国で随一の冒険者になっていた。
銃を操り、国を滅ぼすドラゴンさえも単騎で屠る。それが私、エレナの国からの評価である。
純然たる事実として、私には運と才能があった。
村から追い出されたその日に心優しい師匠に拾われ、銃の使い方を学んだ。そして、銃を初めて構えてから一週間も経たずに、ワイバーンを撃ち落とした。
努力は確かにした。だが、それも本当に人並みのものだった。凡人が一を聞いて一を知る前に、私は百を理解していた。
師匠にはたいそう誉められた。けれども、なぜ誉めているのか当時の私には分からなかった。
「──当たったら痛そうなところを撃っただけ」
ただ動いている的を撃つ。本当にそうとしか感じられなかったのだ。
やがて師匠の天命が尽き、墓を作り終えた私は恩のある師匠の遺言である『世界を知りなさい』という言葉に従い、王国で冒険者になった。
それからはあっという間で、様々な依頼をこなしてゆき、遂には冒険者の中でも最高峰のものだけが得られる『国連指定冒険者』の地位についた。
宿屋で夜風を浴びながら、月を仰ぐ。
財も、権力もある。腹も空いてないし、屋根のある部屋で過ごせる。しかし、心が動かない。とはいえ、何か行動に移すほどの気力もない。そもそも、どうすればいいのかも分からない。
実に空虚だ。
このまま、なんの不備もないまま、一人の成功者として私は死ぬのだろう。
なにも悪くない。むしろ誰もが羨む人生だ。きっと、この退屈も時間が経てば悪いものじゃなくなる。
そうやって、不安に蓋をして、私は眠りについた。
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「黒スーツと肩まで伸びた銀髪。それと背丈ほどの銃……あなた様が私達の依頼を受けてくださるエレナ様ですね?」
「はい、こちらが身分証明用の冒険者カードです」
今日の依頼は、目の前の貴族の護衛。何でも最近周りがきな臭いらしく、大金を払ってでも身の安全を買いたいらしい。こういった依頼は特に私にはよくある。
「はい、確認しました。では、早速依頼内容についてお話させていただきます。今回の依頼は一ヶ月にわたる長期依頼となっております。
ですが、私らはあなた様の行動を縛るつもりはなく、三日に一度の定期報告さえしていただければ、あとは自由にしてくださってもらって構いません」
「名前を借りたいわけですね」
誇張抜きで、私の強さは世界で知られている。その私が護衛についた。それだけで大抵の存在は襲撃を諦める。国際指定冒険者とはそういうもの。
私を敵に回せば、世界と敵対することになる。それは、貴族であろうとも変わらない。
「はい。滞在費用は全て当家が負担しますので、よろしくお願いします」
頭を下げる貴族の男を尻目に、依頼を了承した。事実上の一ヶ月休暇。それもそれなりの金額が払われるなら、断る理由はない。
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目的地に着いた私は、屋敷に来ないかという誘いをいつものように断り、お気に入りの系列の宿屋を探す。しかし、いくら探してもない。
仕方なく、普段泊まっている宿屋よりワンランク下の宿屋を借りることにした。
「──悪くない」
鍵などの防犯設備は整っているし、清掃もきちんと隅まで行き届いている。店員の質も高い。現時点での評価はかなり高い。少しだけワクワクする。
旅の醍醐味はこういった泊まりにあると思う。いつもとは違う場所での寝食は非日常感があり、心をなごませてくれる。
特にこういった状況で意外とよい宿屋を見つけられると、それだけでこの依頼を受けた価値があったと思える。
背負っていた銃と弾丸の詰め込まれたポーチをベッドの近くに置く。
「──寝るか」
馬車に揺られた影響か、少し眠たい。時間には余裕がある。
私はスーツを脱ぎ、寝巻きに着替え、ベッドに横になった。
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さんざん高評価しておいてあれだが、安い宿にはそれなりの理由があるものだ。
私は深夜、騒音で目を覚ましていた。
「はっ…、ん、ぁっ!♥️ん、んん…、♥️そ、そこっ…気持ち、い、から…っ♥️も、っと…♥️」
「……」
今回の宿屋の場合、壁が信じられないほど薄い。驚くほど喘ぎ声が聞こえてくる。
今までそれなりにいい宿屋に泊まっていたこともあり、しっかり聞くのは初めてだ。
(……ひどい気分だ)
無視して眠ろう。そして明日は宿を変えよう。そう何度も念じる。下らないし、何より、人の情事を盗み聞くのは非常識だ。私なら冷静に対応できるはず。
そのはずなのに、──ボーッとして、うまく、頭が回らない。
「…、っオラッ、下品な声だしやがってっ、隣の部屋のやつが泣いてんぞっ!」
私は性行為は愚か、付き合うというものをしたことがない。心底下らないと思っているからだ。なぜ低俗な男を受け入れる必要がある? 本当に下らない。
告白や求婚だって数えきれないほどされたことはある。だが、必要だとは思えなかった。だから、断ってきた。
隣の人間も愚かだ。男の感じからして、不貞の真っ最中なのだろう。なぜそんなリスクを冒す? 意味が分からない。
あの喘ぎ声だってどうせ演技だ。でなければ、あんな媚びた声を出すものか。女は今ごろ退屈そうな顔でもしてるはずだ。そうに違いない。
それなのに──
「……はぁ……は……」
なんで、私の鼓動は早くなっている?
ベッドが激しく軋む音がここまで届いている。
ふと、それは目に入った。
「……穴」
目立たない位置にあり、屈むようにすれば、向こうの部屋を見れそうな穴。
(──下らない)
見る必要はない。下らない。分かっているのに──
「……っぅ……」
呼吸が荒くなっているのにも気づかず、無様にも私は穴を覗き込んでいた。
言い訳も出来ない。間違いなく私は、人の情事を盗み見るためにこんな浅ましい体勢をしている。
……一目見て、顔を覚えておくだけ。明日注意する必要があるから。
そんな建前はあっさりと崩れ落ちた。
「あ゛ぁ…!は、やいっ♥️はげしく、しないでぇ!♥️……ンン!?き、もちよすぎて──はひぃ!♥️♥️お、おかしくっ、う゛う゛ぅっ、なっちゃうぅ……からぁ♥️」
「──ッ」
息を飲む。
なんだこれは? これが性行為? 女は男に一方的に組み伏せられて、犯し潰されて、蹂躙されている。こんなの人間の性行為じゃなくて、獣の交尾だ。
私は、その瞬間、ドラゴンにさえ感じなかった恐怖をこの光景から感じていた。
性行為とはこんな雌の弱さを分からせるような、暴力的なものなのか?
雌は何もできず、ただ雄を喜ばせることしかできないのか。
こんなにも一方的に啼かされて、さぞ屈辱のはずだ。私なら屈辱のあまりその場で自殺するかもしれない。
──なのに、なんでそんな恍惚とした表情を浮かべている?
「はぁっ、はぁっ……!」
理解できない。けれど、目を離せない。
いつしか無意識に、私の呼吸は湿っぽくなっていた。
「──っ、奥に射精すぞっっ!」
やがて、肉を叩きつけるペースがさらに早くなる。女の喘ぐ声も大きくなる。
「…っっぅ、き、てぇ♥️──ん、ひぃぃ!?♥️いく!いっちゃうぅ♥️♥️」
男が大きく震え、射精すると同時に、女がビクビクと痙攣する。男は満足げに男性器をゆっくりと引き抜いていく。
「……ぁ、ひぃ♥️」
ぬぽんっ♥️と音を立てて男性器が抜けると、そこから精液が溢れ出す。
私は雌の顔から目が離せなかった。焦点の合わない目、だらしなく開いた口。紅潮した顔。そのどれもが淫靡だった。
あれほどまでに乱れる性行為とは──どれほど、気持ちいいのだろうか。
火照りがとれない。むしろ、頭の中からさっきの交尾が消えてくれない。
下らない、下らない、下らない──!
愚かにも、私は自分をあの女と立場を変えて妄想していた。あれほど手も足も出ずに犯され、啼かされ続け、雌の立場を分からせられる。
「…んひぃ…!?」
無意識に右手が下着に触れただけなのに、声が出た。
まずい、ここの壁は薄い。これくらいの声でも聞かれてしまう。それが国際指定冒険者のエレナだなんて気づかれてしまったら……
今まで積み上げてきた尊厳が崩れ落ちる様子を想像すると──子宮がきゅん♥️と疼いた。
止まらない。声を圧し殺すために寝巻きを口で噛み締め、狂ったように自慰を続ける。
(どうしてどうしてどうしてっ!♥️)
自慰をしたことはあまりない。数度したことはあるけど、その時はあまり気持ちよくなくて止めたはずだ。
「……っ、ぅ……ふぅ♥️」
部屋の隅で情けなく膣中に人差し指を出し入れする。
すでに膣中は愛液でぐちゃぐちゃになっており、手を動かす度に、くちゅ♥️くちゅ♥️なんて卑猥な音が部屋に響き渡る。
声を我慢しようと意識するが、駄目だった。私の下半身から耐え難い痺れが襲ってきて、どうやっても声が抑えられない。
「……ど、うしてぇ…、ひぅ!♥️……なんなの、…これっ…」
きもちいいが消えてくれない。
止めようとしても止まらない。それどころかより快楽を求めて、ペースが上がってしまう。
「──っ! い、いぐぅっ!♥️」
やがて、脳を犯すような電流が全身を駆け巡った。視界が点滅する。力が入らなくなり、思わず床に倒れこむ。
気持ちよかった。そう思っているのに──何かもの足りない。それが何かなんて、もう分かっている。
雌を蹂躙するあの肉棒。
あれで嫌がる私を屈服させて欲しい。雌であると理解らせてほしい。
もう駄目だ。あんなの見せられたら、もう忘れられない。
慣れない快楽に意識が遠のいていく。その最中、何かが空虚な私の心を満たしていくのを感じた。
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朝、私は昨日の自分の行動に頭を抱えていた。
「正気じゃなかった……!」
幸い、朝早く起きたこともあり、全裸で床に眠る姿を見られることはなかった。だが見られていたらすぐさま自殺しただろう。
「──流儀には反するけど、何か適当な依頼を受けて気持ちをリセットしよう」
いつもなら、こういった実質的な休暇の際には、依頼を一つも受けず、きっちりとオフを楽しむのが個人的な流儀だった。
こう考えるようになったのは、そうすることこそがメリハリをつけることだと師匠から教わったのが主な原因だったりする。
「昨日はオフとは言え、気が緩みすぎてた。気を引き締め直さなくては」
スーツに着替え、銃の入った鞄を背負う。部屋から出ると、隣の人はすでに出掛けているようだった。
さすがに昨日の今日で直面するのは私としても気まずかったから安心した。
一旦深呼吸し、仕事のモードに切り替える。
宿屋の人に挨拶し、冒険者ギルドのある場所まで向かう。念のため、小型魔法通信機で依頼主に留守にすることを伝えておくと、構わないとのことだった。
ギルド内に入ると、昼前ということもあり人はあまりいなかった。
驚いた表情を浮かべる受付嬢にギルドカードを手渡す。
「え、エレナ様っ!?」
慣れた受付嬢の反応に、少し苦笑してしまう。
自分で言うのもなんだが、私は有名人だ。
世界で三人しかいない国際指定冒険者。さらには、ドラゴンスレイヤーの仰々しい異名もある。国の危機なんて何回も救った。これで有名じゃないと謙遜する方が無理だ。
そして、有名人になると、必然的にファンも増える。
おおよそ、この受付嬢も私のファンなのだろう。それ自体は嬉しい。嬉しいのだが、騒ぎが大きくなりすぎると、依頼を終えたあとのオフが過ごしにくくなる。それはあまりよろしくない。
受付嬢の唇にそっと人差し指を重ね、囁く。
「あんまり目立ちたくないから、静かに」
こくこくと頷く受付嬢に笑みを浮かべる。それからは依頼の選定作業に入った。
「ちょうどいい塩漬けの依頼ってある?」
「あ、はい。……少し待っていてください」
塩漬けの依頼とは、報酬や難易度の観点から達成される見込みが限りなく低い依頼の通称だ。
こういった依頼は冒険者ギルドからすると、依頼達成率にも影響してくるので、処理できない生ゴミみたいなものなのだ。
いつもなら、冒険者ギルドが処置を取るまではスルーするのだが、今回は依頼を受けて気を引き締め直す目的だから、報酬は気にしなくていい。
ちょっとしたボランティアみたいなものだ。
「あー、最近ここいらの森にいるゴブリンの群れの駆除依頼はどうでしょうか? こちらが大まかな生息地の情報になります」
ゴブリンの群れはその難易度の高さに対して報酬が安くなりがちで冒険者としては旨味のない依頼になりやすい。典型的な塩漬けの例だ。
「分かった。それを受けるよ……はい、書類にサインは書いておいたよ。じゃあ、早速行ってくるから」
「はい、お気をつけて!」
もしも、不慮の事故で死んだ際に自己責任だったと証明するための書類にサインし、地図を受けとる。これで準備は整った。
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「ふう、これで終わりか?」
ゴブリン退治をもくもくと終わらせ、討伐証拠の魔石を集めていく。
今回の巣は服を着てたりと文明レベルがやけに高かった。かなり放置されていたのだろう。このレベルまで来ると、ゴブリンの駆除というより、人間の村の抹殺に近しい。
だが、所詮はゴブリンだ。どれだけ知性を持とうが、女を孕ませたいという本能には逆らえない。
愚かな生物だ。
「……ぎぃ……」
弱りきった声が聞こえる。岩の影にそれはいた。
「……一匹だけか」
食事もまともに取れてないのか、痩せ細った体つきのゴブリン。
おそらく、群れから脱落したゴブリンなのだろう。ゴブリンの社会は過酷だ。能力のないゴブリンは容赦なく爪弾きにされる。
このゴブリンは哀れにも爪弾きにされた存在。ゴブリン界隈における落伍者だ。
せめて楽に逝かしてやろうと銃を構え、要らないことに気づいてしまった。
このゴブリンは服を着ていない。そして、ゴブリンには雄しかいない。雌は、拐うのだ。その後に犯し殺す。
怯えた顔に対して、ゴブリンのあそこは猛々しく膨張していた。雄臭い匂いが脳をかき回す。
こんなにも間近で、こうしてまじまじと全貌を見るのは始めてだ。
思っていたより歪な形だ。大きさは想像していたものよりもずっと大きい。こんなものが私の膣中に入るのだろうか。私の性器が疼いて、とろりと愛液を分泌し始めた。
あの快楽に溺れた女の顔がフラッシュバックする。
「……ハァ、ハァ♥️」
あの棒を私の膣中に挿入れられたら、どうなるのだろう。
私は傍目から見ても分かるくらい、発情していた。
ドクン!ドクン!と、痛くなるくらいに胸を打つ鼓動。
自分でも驚くくらいに固くなっている乳首。
そして何より、愛液の量がおかしいことになっている。
下等なゴブリンの落ちこぼれに犯される自分を幻視する。それだけで身体中を痺れるような快楽が襲った。
もうごまかせない。私の中の雌がこの男根に屈服している。子宮を啼きたくなるほど苛めて欲しいと思ってしまっている。
……犯され、たい。
──ピピピ。
突然、手持ちの小型魔法通信機が着信を知らせた。
「──ッ!」
急な連絡にこの浅ましい思考を咎められたようで背筋を思わず伸ばしてしまう。
「失礼します。私は依頼人の執事であるセバスと申します」
「……エレナだ。何か緊急事態か?」
「いえ、あなた様のお陰でそういったことはありません。我が家一同感謝しております。本題なのですが、明日の夜、我が家の会食に参加していただけないでしょうか」
「──それくらいなら問題ない。では、明日の日が落ちた頃に向かえばいいか?」
「ありがとうございます。その時間でお願いします。我が家一同、心よりお待ちしております」
連絡を向こうより先に切る。少し、冷静になれた。
「……」
もう依頼は達成している。後は、目の前のゴブリンを殺すだけ。難しいことじゃない。そこまで考えて、次のゴブリンの言葉に絶句した。
「……ナンダ、メスカ」
……ゴブリンの文化として、雌は雄よりも下等であるという思想がある。しかし、それは今回の文明レベルの巣ではあり得ないことだった。
ゴブリンでさえ学習する。女であっても巣にとって脅威となる存在はいることを知ってるから、ここまで大きな巣となるのだ。
それを理解できていない目の前のゴブリンは、群れから弾かれるのも納得の愚かさだった。
ゴブリンの顔から恐怖は消え去り、喜悦の表情のみが残った。
「マタヲヒラケ」
ペニスを無防備に差し出す。おそらく、苗床の女としか触れてこなかったせいで、女は無条件でそうする生き物だと無意識に刷り込まれているのだろう。ある意味ゴブリンらしい。
ゴブリンは断られるとは夢にも思ってないようだ。まだかまだかと、ただ待っている。
「……っ」
こんな弱くて、下劣なゴブリンに下に見られてることが屈辱だった。この引き金を引けばこいつはあっさり死ぬ。引け、引け。
悩むな。何を考えている。初めてがゴブリンだなんて女として終わるぞ。
冒険者として活動していくなかで、ゴブリンの苗床になった女の末路を嫌というほど見てきた。大半が失意の底で自殺し、例え生きてもまともな生活は送れない。
女の敵。人類の敵。存在してはならない生物。
そう思い込もうとして、頭をよぎったのは、雌の顔をした女。──その女は、私だった。
ゴブリンに犯され、処女を自らの意思で捧げる自分を想像すると、雌液が、太ももをつぅ、と伝うのが分かった。
……もうどうしようもない。
その思いはストンと収まった。私は堕ちるところまで堕ちた。認めてしまえば簡単だ。銃を地面に投げ捨てる。
私の視線はゴブリンのペニスに釘付けだった。