周囲を圧倒するような大豪邸の一室。厳めしい父親が鎮座する部屋の中で、俺は背筋を伸ばして直立不動になっていた。
「・・・・・・ふむ。理数系の成績が芳しくないようだな」
「申し訳ありません、父上。二学期では挽回しますので・・・・・・」
「ふん、元々お前の出来が悪いことは分かっていた。だが、千条院の名を汚すことは許されん。精進せよ」
「は、はいっ!」
親と子が交わしたものとは思えない、まるで時代劇めいた会話。内心うんざりしながら、粗相の無いように退室する。無駄に重厚な扉を閉めた後、俺は父親に聞こえないように気を付けつつ溜め息を吐いた。
「はぁ・・・・・・ったく、いつの時代だよ」
苦々しげに俺が呟くと、待機していたメイドの充留が駆け寄ってきた。
「大丈夫ですか恭人様。大旦那様はなんと・・・・・・?」
「いつもの小言だよ、こっちに圧力をかけて仕事した気になってるんだろ。あのクソ親父、相変わらず時代錯誤過ぎるだろ」
「そ、そのような物言いはここでは控えた方が・・・・・・」
「分かってる、分かってるよ結奈。部屋に戻ろう」
心配そうな充留に返事をしながら、俺は肩を落としながら自身の部屋へと戻るのだった。
千条院恭人(せんじょういんきょうと)。それが俺の名前だ。元は華族であり、現代では様々な企業とパイプを持つ権力者の家系、千条院家。その一族の跡取り息子である俺は、物心ついた頃から千条院の帝王学とやらを叩きこまれてきた。母親は俺が物心つく前に無くなっており、俺は文字通り唯一の嫡男というわけだ。
正直反吐が出るが、17歳になるこの年まで逆らうことが出来ていない。内心では千条院家に反感を抱いていたとしても、周りにいる奴らの殆どは俺の父親である千条院仁人(せんじょういんじんと)に頭が上がらない。親に、一族に反抗するのは物心付いて早々に諦めた。結局父親の言う通りに生きるしかないのだ、俺は。
自室に入り、一息つく。充留は心配げな様子で俺を眺めながら、おそるおそる話しかけてきた。
「恭人様、お加減の方はいかがですか?少し顔色が悪いように思えるのですが」
「父上の前に立つといつもこうなるからな、大丈夫だ。それより充留、少し一人にしてくれ。軽く休むよ」
「かしこまりました。・・・・・・その、恭人様」
伏目がちになりながら、充留がぽつりと言う。
「決して、ご無理はなさらずに。恭人様は十分に努力してらっしゃるのですから」
「結果が出なきゃ、クソ親父は認めてくれない。まぁ、あいつの言う通り俺に才能が無いのが悪いんだろうな」
「そ、そのようなことは」
「もういい。出ていってくれ」
思わず語気を強めて言ってしまった。充留は悲しげな表情を浮かべながら頭を下げ、部屋を出ていく。俺は自己嫌悪で何もかも嫌になりながら、ベッドに体を投げ出した。
充留(みつる)とは物心ついた頃からの付き合いだ。戸籍上は俺の姉ということになっている。というのも、元々彼女は孤児だったのだ。孤児を養子として引き取りつつ、幼少の頃から跡取りの使用人として扱い忠誠心を育てる。千条院家に伝わる古臭い掟を、クソ親父は現代の価値観を考えずに強行した。
俺にとって、充留はまさしく姉のような存在だ。挫けそうになった時や投げ出したくなった時、彼女は俺に寄り添ってくれた。もし充留がいなければ、俺はとっくに折れるか壊れるかしていただろう。千条院家の掟なんてクソ食らえだが、充留に会えたことだけは感謝してもいい。
だけど、だ。俺は彼女に何も返せていない気がする。いつも都合よく頼るだけで、まさしく主人と使用人の関係だ。充留は全てにおいて優秀で、メイドでさえなければきっとどこかで大成するだろう。その可能性を摘み取ってしまっているのが、俺には耐えられない。
俺はいい。千条院家に生まれたのは俺の運の無さだと割り切れる。だけど、本来なら関係無い充留を巻き込むのは許せなかった。何度かクソ親父に充留を使用人の立場から解放するよう直談判してみたが、なしのつぶてどころか口を開くこともなく、一睨みするだけで話を終わらせてしまう。情けなくて仕方がない。
「クソ・・・・・・」
ベッドで大の字になりながら、鬱々とした感情が胸の辺りでぐるぐる回る。どうにかしようとしてもどうにもならない現実が、俺を押し潰してくるかのようだ。ネガティブな気持ちは歯止めが利かず、どんどん落ち込んでいってしまう。俺はそのまま、疲れ切った心でいつの間にか眠りについたのだった。
「ふー・・・・・・」
先日のテストの復習を終え、凝り固まった体をほぐすように伸びをする。あれから二日、充留が付きっきりで教えてくれたおかげでだいぶ理解出来るようになっていた。
「しかし、楽しんでるかな、充留」
今、この場に充留はいない。昼夜問わず俺の勉強の為に負担をかけていたことが後ろめたく、無理やり三日間の休養を取らせたのだ。クソ親父はいい顔をしなかったが、俺がどうにか頼み込むと渋々了承してくれた。充留は申し訳なさそうにしていたけれど、たまには俺という手間のかかる奴抜きで楽しまないと気も休まらないだろう。今日は街に行ってショッピングをするって言ってたな、確か。息抜き出来ているといいんだけど。
そして夜。夕食を終わらせた俺が部屋に戻ると、メイド服を着た充留が待機していた。俺を見るなり深く頭を下げながら言ってくる。
「恭人様、今日はお休みを頂き誠にありがとうございます。おかげで羽を伸ばすことが出来ました」
「いや、それは構わないけど・・・・・・顔を出さないでいいと言っておいただろ。まだ休みは二日あるんだから」
「申し訳ありません。少し前に帰ってきたのですが、その、この服を着ていないと落ち着かなくて。あ、それと明日の着替えはこちらに。ベッドも整えておきましたので」
少し気恥ずかしげに言う充留。やっぱり彼女はワーカーホリック気味だな・・・・・・。
「分かった、分かった。俺ももう休むから、充留も休んでくれ。変に何かしようとしなくてもいいからな?これは命令だ」
「・・・・・・かしこまりました。では、お休みなさいませ、恭人様」
再び深くお辞儀をし、充留は部屋を去っていった。・・・・・・?何か、少し様子が変だった気がする。本当に、休みは本当に気晴らしになったのだろうか。やや不安になりながらも、わざわざ追いかけて聞くことでもない。俺は充留の心中を案じながら、ベッドに横になった。
夢を見ている。妙な浮遊感がぼんやりと体を包んで、真っ白な世界に浮いている。初めて見る夢だ。
「ここ、は・・・・・・?」
辺りを見渡すが、全てが真っ白で無限に広がっているような空間しか見えない。俺以外は何も無いし、誰もいない。どこか不気味に思いながらそれでも何か無いかと探していると、後ろから声がした。
「恭人様」
聞き慣れた、安心する声。振り向くと、メイド姿の充留が立っている。
「充留・・・・・・?」
「はい、充留です。この度は申し訳ありません。こんな場所に招いてしまって」
「ま、招いたって・・・・・・これ、夢じゃないのか?」
充留の様子に、俺は動揺しながら言う。妙な夢だ。リアリティーがあり過ぎる。
「夢ですよ。ですが、私が恭人様をお招きしたのです。私の夢の世界に」
「は、はぁ?」
「実は、今日お休みを頂いて街に出た時に、不思議な女の子に会ったのです。綺麗なアクセサリーを売っている店で、あの子は私に勧めてくれました」
「おい、一体何を・・・・・・」
充留が何を言っているのか分からない。いや、夢だから理解出来ないのは当然なのかもしれないが。
「私は、恭人様の本心を伺いたいのです。だから、あの子にお願いしました。私の願いを叶えられる品を」
ずいっと、充留が顔を近付けてくる。潤んだ瞳に、艶やかな唇。普段は感じない色気を感じてしまい、なんだか落ち着かない。思わず目を逸らしながら、疑問を口にした。
「だから、一体何が言いたいんだ?」
「・・・・・・無礼を承知で申し上げます。恭人様は、千条院家の家柄を重みに感じていらっしゃいますね?叶うならば、逃げ出したいと」
真剣な目が俺を貫く。充留は普段からは想像も出来ない怖い表情で、俺の内心を言い当てた。俺の心の中の、一番柔らかく膿んだ部分を。
「っ・・・・・・。確かに、あぁ確かにそうさ。だが、そんなのは無理な話だ。充留だって分かっているだろう?クソ親父からは逃げられないし、俺がいなくなったら一族全体に迷惑がかかる。詰んでるんだよ、どう考えても」
吐き捨てるように呟く俺。夢でよかった。こんな八つ当たりで、これ以上充留を困らせるわけにはいかないんだ。
「・・・・・・もしも。別人となって千条院家から逃れる方法があるとしたら、恭人様はどうなされますか?」
「はっ、そんな方法があるなら是非とも知りたいけどな。仮に整形なりなんなりで別人に成りすませたとしても、クソ親父が俺を見逃すはずが無い」
厳めしい時代錯誤な肉親を思い浮かべながら、諦めたように言う。そうだ、あいつは絶対に俺を逃がさない。千条院の一族を零落させないためなら、どんな手段も取るだろう。と
「あります」
凛とした声。充留は俺を見つめ続けながら、決意を込めて言い放つ。
「方法は、あります。恭人様には少しの間不便させてしまうことになりますが、その重荷から逃れる方法はあるのです」
「どういうことだ・・・・・・?」
充留が嘘を言っているようには思えない。だが、一体どんな・・・・・・?
「恭人様。貴方は私となるのです。代わりに、私が恭人様になります」
・・・・・・は?
「つまり、私と恭人様が入れ替わるのです」
「いや、待て待て。そんなこと出来るわけがないだろう。整形で顔は変えられても体格や声帯、何より性別だって」
「大丈夫です。私も半信半疑でしたが、この空間に恭人様を呼べたことで確信しました。あの子の言っていたことは本当だと」
・・・・・・夢だとしても、いくらなんでも突飛過ぎる。俺は首を振って目を覚まそうとするが、その気配は無い。
「私は、恭人様には自由に生きてほしいのです。家名に囚われず、貴方の思うがままに。ですが、それが叶わないのならば、せめて、せめて呪いのような一族の呪いからだけは、解放させたい。それが、恭人様と充留という使用人に貶める大罪であったとしても」
充留は言う。真剣に、まるで熱に浮かされたかのように。
「おい、落ち着け充留。正直変だぞ、今のお前」
「分かっています、分かっているのです。それでも、恭人様には選んで頂かなければなりません」
握手でもするかのように手を差し出してきた。涙の滲んだ瞳で俺を真っすぐに見つめながら、充留が言う。
「このまま、千条院家の跡取りとして生きていくか。私と入れ替わり、千条院家の軛から逃れるか。選んでください、恭人様」
・・・・・・これは夢だ。仮に、そういうことが出来るとしよう。俺と充留が入れ替わり、俺は充留になって千条院家の呪縛から解放される。では、俺になった充留は?
「いや、駄目だな。本当に入れ替わるなんてことが出来るとしても、それは駄目だ」
「っ・・・・・・何故、ですか?」
「俺は、確かに情けない奴さ。跡取りなんてガラじゃない。才能も無ければ根気も無い、クソ親父がダメ出ししてくるのも、まぁ理解出来るくらいの男だよ。でも、なぁ」
充留を見据える。そうだ、確かに俺は逃げ出したくて仕方ない。今にも潰れてしまいそうな程苦しいし、差し出された手に縋りつきたくてたまらない。だけど、
「俺の代わりに充留に押し付けるんじゃ、充留が不幸になるだろ。これは俺が生まれてからずっと背負ってるものだからな、お前に押し付けるわけにはいかないよ」
そうだ。俺が逃げて充留が不幸になるのなら、俺は逃げない。だって、彼女は唯一の俺の味方だ。ずっと一緒に過ごしてきた、本物の家族以上に家族なんだ。それを切り捨てたら、あのクソ親父と一緒じゃないか。
「だから、な。充留の気持ちだけ、受け取っとくよ」
そう言って、俺は笑みを浮かべる。本当はこんな気恥ずかしいこと言えないが、まぁ夢だしいいだろう。というか、これはいつ目覚めるんだ・・・・・・っ?
「なら、問題はありません」
ぐいっと。俺の手を掴みながら、充留が言う。
「私が、そうしたいのです。私が、押し付けられたいのです。私のわがままで、恭人様を助けたいのです。だから」
「おい、まっ!?」
急に、真っ白な空間が光を放ち始めた。目もくらむ程の閃光に包まれて、何も見えなくなる。
「ごめんなさい、恭人様。私の醜いエゴに巻き込んでしまって。この罰は、いずれ」
「充留、何をっ!?」
肉体すらかき消す閃光の中、握られた手から充留の体温が伝わってくる。流れ込んでくるような熱を感じながら、俺は意識を失った。
「う・・・・・・」
寝苦しさを感じる。胸の所に何かが乗せられているような。うっすらと目を開いて、寝ぼけ眼で胸元を見やる。
「・・・・・・ん、んん?」
なんか、変なものが見えた気がする。目を擦って再び見ると、薄桃色のネグリジェを二つの膨らみが押し上げている。あれ、え、んんん?
「っ!?」
勢いよく起き上がり、胸元を確認する。手を伸ばし触れると、むにゅりと柔らかい感触が伝わってきて、同時に触れられた感触が・・・・・・って、
「これ、は、え!?」
混乱しながら周囲を見回す。何度か訪れたことがある、ここは充留の部屋だ。さっきまで見ていた夢が脳裏をよぎった俺は、姿見を見つけた俺は急いでその前に立ち、映った姿を確認する。
「み、充留・・・・・・!?」
そこには、ネグリジェに身を包んだ充留の姿が映っていた。慌てたような表情で目を見開き、凝視している。首元には何故かネックレスのようなものがかけられていて、赤い宝石が怪しげに煌めいていた。
「これ、夢で充留が言ってた・・・・・・!?」
夢の中の出来事が鮮明に思い出される。充留が俺を千条院家から解放するために、入れ替わるとかなんとか言っていたあの夢。
「嘘だろ、夢じゃなかったのか!?じゃあ、この体は本当に・・・・・・」
信じられない。こんな非現実的なことがあるわけないんだ。だが、頬をつねったり体を動かしたりすれば分かる。姿見に映っている充留は、俺だということが。と、
コンコン
部屋の扉がノックされ、俺を身を竦ませる。ヤバい、充留のフリなんて俺は出来ないぞ・・・・・・!?
「私です、充留です。恭人様、起きていらっしゃいますか?」
聞こえてきたのは、囁くような男の声。どことなく俺に似た声に思えるそれは、充留のような口調で言ってくる。
「恭人様、どうか鍵を開けてください。説明しなければいけないことがありますので」
まさか。俺が充留になっているということは、充留は・・・・・・!?焦る気持ちを抑えて鍵を開けると、扉の先には俺にしか見えない男がいた。でも、分かってしまう。こいつは、充留だ。
「み、充留・・・・・・」
「しぃっ。とりあえず、中で話しましょう」
言われるがままに充留を部屋の中に招き、しっかりと鍵をかける。俺は落ち着かない気分で充留とベッドに座り、しげしげと充留・・・・・・自分の体を眺めた。間違い無い、どう見ても俺だ。しかし、纏う雰囲気は充留にしか思えない。
「まずは謝罪を。私の身勝手でこのようなことをしてしまい、誠に申し訳ございませんでした」
深々と頭を下げる俺・・・・・・充留。自分が謝罪しているという奇妙な光景を見ながら、俺はこめかみを抑えつつ言う。
「謝らなくていい。それより、説明してくれ。どうしてこうなったのか、入れ替わりの手段やあの夢のこととかも」
「・・・・・・かしこまりました。かいつまんで説明させていただきますね」
そして、充留は話し出す。突拍子もない、まるで漫画のような内容を。
曰く、夢及び入れ替わりを実行出来たのは、充留・・・・・・今の俺の首にかけられているネックレスの力である。昨日のショッピングの時に見つけた店で、幼い少女に言われたらしい。主を苦悩から解放させる方法があると。半信半疑だった充留だが、言われた通りにネックレスを身に付けながら眠ると、夢の中で俺に会うことが出来た。だから、入れ替わりの力も信じることが出来た、と。
曰く、入れ替わりは最短でも一週間は続く。その間は元に戻れず、その後戻りたいなら再びネックレスを付けて眠り、相手を夢の世界に招く必要があるらしい。
曰く、一度入れ替わった後で元に戻ると、ネックレスは効力を無くす。だから、一週間後なら元の体に戻ることは出来るが、そこから再び入れ替わることは出来ない、と。
「う、うぅ~ん・・・・・・」
充留の話に首を傾げながら俺は考える。与太話の類にしか聞こえないが、俺たちは実際に入れ替わってしまっているんだよな・・・・・・。それに、充留が嘘を言っているようにはどうしても思えない。じゃあ、受け入れるしか、ない、か?
「主の同意を得ずこのようなことをするのはメイド失格です。元に戻った後、罰はいくらでも受けますので」
「いや、罰するとかはしたくないけど・・・・・・どうにも、現状を受け入れられないというか、うん」
歯切れ悪く返事をしながら、今の俺の体を見下ろす。ネグリジェ姿の、充留の体。女性らしい体つきが映り、俺はそっと視線を上げる。あまり、意識しない方がいいよな。
「まぁ、分かった。充留が俺の為にしたことだってのは。でも、夢の中でも言ったけど充留に千条院家の家柄を無理に押し付けたくはないんだよ。いくら充留がいいっていっても、やっぱり辛いだろうしさ」
「そのようなことは決してありません。私にとって最も辛いのは、恭人様が苦しむことなのです」
「いや、だからってこんな、入れ替わるってのはなぁ」
普段は優しくも冷静な充留がこんなことをするなんて。それだけ、俺が心配をかけていたということなんだろう。いや、それにしたってこんな前に流行った映画みたいなことが起きるなんて想像出来るわけもないんだけど。
「・・・・・・一週間経つまでは、元には戻れません。つきましては大変申し訳無いのですが、その間恭人様には私の体で過ごしていただくことになります」
苦しそうに目を伏せながら言う充留。俺は彼女にこんな顔をさせたくはない。どうしようもない状況のようだし、俺は出来る限り朗らかな声色で言った。
「まぁ、充留の好意はありがたく受け取るよ。一週間、千条院家の呪縛から離れられるならいい気分転換にもなるし」
思う所はいくらでもあるが、そう考えることにしよう。一人頷いて、軽く充留の肩を叩く。これ以上、悲しい気持ちにさせたくは無かった。
「ありだとう、充留。俺の為にこんなことまでしてくれて」
「恭人様・・・・・・うぅ、申し訳ありません」
「だから謝らなくていいって。しかし、一週間どうするか。充留は優秀だし、俺が真似するのは無理があるよな・・・・・・」
落ち込んでいる様子の充留を慰めながら、俺は考え込んだ。メイドの仕事は多岐に渡る。普段俺に付いている時ならどうにかなるかもしれないが、それ以外の時間となると、充留の仕事をこなせる気は全くしない。
「それなら、おそらく問題はありません。ネックレスを売ってくれた店員の子が言っていました、『体が覚えている』と」
体が覚えている、か。確かにそういうこともあるかもしれないが、中身が完全な別人じゃ意味が無いんじゃ・・・・・・。
「さっき、部屋に来る前に少し試してみたのです。集中して記憶を探ろうとすると、ある程度は体の記憶を思い出せる、らしく。恭人様のプライベートを覗くことになりそうなので、僅かで留めましたが」
そんなことが出来るのか?充留に言われたように、体の記憶・・・・・・脳に刻まれたものを思い返そうとしてみる。と、
「っ・・・・・・?」
微かな頭痛と共に、充留の記憶らしきものが滲みだしてくる。毎日何をやっているのか、経験や感情がじわりと広がっていく。その中には、着替えや風呂、トイレのシーンもあった。
「っとっと、うぅん!!」
思わず変な声を上げてしまう俺。プライベートを覗くって、そういう・・・・・・!?
「だ、大丈夫ですか恭人様!?何か不調でも!?」
慌てて俺の体を支えてくる充留に、俺は心配させないように微笑みながら言う。プライベートな部分は置いておいて、それ以外の記憶を染み渡らせるように。
「・・・・・・えぇ、ご心配には及びません、恭人様」
「えっ?」
声色から雰囲気まで、がらりと変わる。自然と言葉が出るし、振る舞いもしとやかになった。
「恭人様の言う通り、どうやら記憶を読んで動くことが出来るようです。これならば普段の業務にも支障は出ないでしょう。ありがとうございます。・・・・・・っと、こんな感じか?」
目を丸くしている充留に悪戯っぽく微笑む。我ながら、完全に充留だった。彼女の意識に、俺の精神を重ねているような感じ。なんか、本当に漫画かアニメの出来事のようだ。
「すごいです、恭人様・・・・・・!完全に私にしか見えませんでした」
「いや、うん、たまたまだよ」
褒められるのは悪い気はしないが、本当に偶然出来ただけなので少し後ろめたい。と、
「・・・・・・ふぅ。こんな感じか?妙な気分だけど、上手く出来てるかな」
充留が俺のように振る舞いながら言ってくる。なんだろう、確かに妙な気分だ。目の前に俺がいて、俺と同じように振る舞っているというのは。
「はい、完璧かと思います。これなら、周囲にバレるということも無いでしょう」
「それならいいんだけどな・・・・・・一週間、なんとか乗り切ろう、充留」
「はい、恭人様」
───こうして。俺と充留の、奇妙な入れ替わり生活が幕を開けたのだった。
あれから、俺たちは入れ替わった状態で日常を過ごしている。俺になった充留が高校に通っている間、俺は本来なら二日あったはずの休みを自ら返上した。なんというか、充留の体になった影響か一人だけのんびりしているのが耐えられなくなったのだ。
「メイド長、二階のトイレ及び水回りの清掃が終わりました。次はどこを?」
「お疲れ様。そうね、三階の西館、三つある客室を頼めるかしら」
「かしこまりました。この掃除機を借りていきますね」
テキパキと働いていると、まるで自分が有能になった気分になる。しかし、勘違いしてはいけない。これは俺が充留になっているからだ。いつもはしない掃除が楽しく感じているのも、きっと充留の体に入っているからに違いない。
「~♪」
軽く鼻唄を歌いながら、客室の掃除を始めた。普段は気にも留めない埃や汚れが目につき、それを綺麗にすると嬉しさがこみ上げてくる。きっと、こうやってなんでも楽しめるから充留は優秀なんだろうな。
・・・・・・ちなみに。充留と別れた直後、俺は尿意を催してトイレに入ってしまった。平静を装いながら、出来る限り充留の記憶とリンクしてことを済ませたのでよく覚えていない。後、着替えの方もひたすら無意識になろうと努めて乗り越えた。これから一週間、元に戻るまでは続くのだから慣れないといけないのは分かっているが、ぼんやりと覚えているあの感覚はどうにも・・・・・・考えるのはやめよう。
さて、忙しなく働き続けそろそろお昼の時間だ。使用人用の食堂に入ると、それでも相当広くクソ親父の見栄を感じさせる。
「お疲れ様、充留ちゃん。折角の休みなのに手伝ってもらっちゃって、ごめんなさいね」
「いえ、メイド長。働いている方が私も落ち着くので。あ、美味しい」
横の席に座ったメイド長や、他のメイドたちと軽く言葉を交わしながら昼食をいただく。出来合いのサンドウィッチとコーンスープが、なんだか妙に美味しい。労働に、仕事仲間とのコミュニケーション。今までの俺の人生では味わえなかったものだ。
「ところで、恭人様の様子はどう?最近、大旦那様に特に絞られているようだけど」
どきり。メイド長の口から俺の名前が出てきて心臓が跳ねる。しかし、バレているわけでは無いようだ。心を落ち着けながら、充留として返事をする。
「いつもより、少し落ち込まれているようです。でも大丈夫ですよ、彼は強い人ですから」
言葉を口にしながら内心驚く。充留は、俺のことをそう思ってくれていたのか。
「そう・・・・・・難しいわね。大旦那様も厳し過ぎる嫌いはあるけれど、恭人様を思ってのことだから。なんとか仲直りしていただければ・・・・・・」
その、言葉に。数瞬、俺の頭は真っ白になった。あのクソ親父が、俺のことを思っている。そんなことあるわけが無いだろう。今まで、どれほど俺が辛い思いを・・・・・・!
「そう、ですね」
なんとか呟いて、コーンスープを喉に流し込む。今の俺は充留だ、変なことを言って彼女の株を下げるわけにはいかない。しかし、心の中ではやるせない怒りが渦巻いていた。
「おかえりなさいませ、恭人様。高校の方は如何でしたでしょうか?・・・・・・実際、大丈夫だったか?」
「あぁ、なんとかな。高校には行ったこと無かったから、新鮮な気分で楽しめたよ。恭人様の方こそ、休みのはずがお仕事をなさったようで。大丈夫、でしたか?」
「あぁ。充留じゃないけど、新鮮だった。なんというか、うん・・・・・・悪くは無かったけど、上手く言葉に出来ない」
充留が高校から帰ってきて、俺の部屋・・・・・・今は充留の部屋で言葉を交わす。どうやら、充留の方も大した問題は起こらなかったらしい。ほっとしながら、椅子に座り込む。
「でも、充留はあんなことを毎日やってるんだなぁ。この家が綺麗なのは充留達使用人のおかげだってことだ。少し考えれば分かることなのに、今まで気付かなかったよ」
「そんな、私どもは人数もおりますし、慣れていますので。それよりも、進学校の学業は想像以上に苛烈ですね。ついていくのに精一杯でした」
「いや、俺よりも充留の方が頭いいんだから慣れたらすぐだよ。それこそ一週間もあれば余裕だろ、お前なら」
入れ替わるなんていう出来事で得た体験を話し合いながら、俺はふと思う。お昼の時、メイド長が言っていたこと。充留は知っていたのだろうか?
「なぁ、充留」
聞こうとして、口ごもってしまった。なんだか、聞いてはいけないような気がして。そんな自分に動揺してしまう。なんでかは、分からない。
「・・・・・・?どうされました、恭人様?」
「ん、いや、なんでもない。それより、今日は確か数学の小テストだったろ?点数はどうだった?」
強引に話を切り替える。充留は多分、それに気付いただろう。だが、僅かに眉をひそめただけで追及してくることは無かった。
「小テストは、一応84点でしたね・・・・・・。先日猛勉強した恭人様の記憶がありましたので、最低限の点数を取ることは出来ました」
「そう、か」
俺の感覚的には70点取れるかどうかだと思っていた。そもそも問題が高校レベルを超えている程難しいのが常なので、クラスの平均点が60点を切ることもよくあるのだ。それなのに、入れ替わってしまった当日に80点以上を取るなんて・・・・・・やっぱり、充留は優秀だよな。
「凄いなぁ、充留は」
「そんなことはありません、これは恭人様が努力していたからで・・・・・・」
「いや、俺なら70点前後しか取れてないと思う。正直、千条院家のことさえ無ければ任せたいくらいだ」
弱音を吐く俺に、充留は珍しく強い口調で俺に言ってきた。
「恭人様。貴方は自身が思っているよりも優秀です。ずっと傍にいさせて頂いた私が言うのです、間違いありません」
「・・・・・・ごめん」
謝って、俯く。クラシカルなメイド服を纏った充留の体が見えて、少し困惑した。充留の日常を知って、優秀さを再認識して。俺は、どうやら彼女を羨んでいるらしい。
「そろそろ、夕食の準備を手伝わなきゃいけないから。また後で」
立ち上がり、部屋を出ていこうとする俺。充留は、何かを言いかけて口をつぐんだようだ。
「・・・・・・行ってらっしゃいませ、恭人様」
「あぁ。充留の顔に泥を塗らないよう、頑張るよ」
我ながら嫌な言い方だ。充留の返事を待たず、俺は部屋を出る。吐き気すら覚える自己嫌悪の中、俺は厨房へと急ぐのだった。
五日が経過した。あれから特に大きな問題も無く、俺たちは入れ替わり生活を過ごしている。充留になりきって仕事をこなすのはとてもやりがいがあったし、正直な話千条院家の肩書きが無い状態で日常を過ごすのは気楽なものだった。
だけど。俺の苦しみを充留に押し付けているという罪悪感が湧き上がってきて、早く戻りたいという気持ちが絡みついて離れない。これ以上充留に負担をかけるのは、俺には耐えられなかったのだ。
「はぁ・・・・・・」
クソ親父・・・・・・大旦那様の書斎の掃除をしながら、俺は溜め息を吐く。充留は俺よりも遥かに優秀だから、きっと跡取りとしても立派にやっていけるだろう。でも、きっと苦しいことに変わりは無いはずだ。彼女が俺を心配してくれたのは嬉しいが、やっぱりこれは駄目だ、うん。と、
ガチャリ
書斎の扉が開く。入ってきたのは、厳めしい顔立ちの壮年の男性・・・・・・クソ親父だった。
「む・・・・・・」
「お、大旦那様。申し訳ありません、ただいま清掃中でして」
充留として振る舞いながら、心が一瞬で緊張に包まれる。表に出さないように注意しながら、深く頭を下げた。
「構わん、続けてくれ」
クソ親父は短く言いながら、書斎の奥、重厚な造りの机に腰を下ろす。出ていくんじゃないのかよ・・・・・・!
「か、かしこまりました」
続けろと言われたのなら仕方がない、俺は極力クソ親父を視界に入れないようにしながら掃除を続ける。早く終わらせてここから離脱したい。が、あと少しで終わるという所でクソ親父が話しかけてきてしまった。
「充留よ。訊ねたいことがある」
「は、はいっ。なんでございましょう、大旦那様」
分厚い本に落としていた視線をこちらに向け、眼鏡を外しながらクソ親父は口を開く。その言葉に、俺の心臓は跳ね上がった。
「恭人のことだ。お前の目から見て、どう思う?」
びくりと、体を震わせてしまう俺。なんで、ここで俺の名前が・・・・・・!?努めて平静を装いながら、充留として答える。
「懸命に努力なさっています。千条院家の跡取りとしての重圧に苦悩しながらも、一歩一歩、確実に進んでいるかと」
口にした言葉に、俺は内心驚いた。充留は、俺のことをそんな風に思ってくれていたのか。
「ふむ・・・・・・。努力していることは知っている。千条院の名が、重荷になっていることもな。お前と恭人には、随分と苦労を掛けてしまっている」
・・・・・・信じられない言葉を聞いた。クソ親父のセリフとは思えない、何かを慮るような言葉。
「いえ。いつも大旦那様が恭人様を案じておられることは理解しております。情を抑え込んで、厳しく教育していることも」
俺の、充留の口が動いて言葉を紡ぐ。知らない、俺は、そんなことは知らない。
「私に残せるものは、それだけだ。例え重荷でも、将来必ず役に立つ。・・・・・・結果として千条院の名から離れたとしても、な」
「・・・・・・」
どういう、ことだ?目の前の男は、何を言っている?
「充留よ。この先何があったとしても、恭人がどの道を選んだとしても。あれを支えてやってくれ。頼んだぞ」
「・・・・・・かしこまりました。しかし、よいのですか?恭人様にそのお気持ちを伝えれば、」
「よい」
勝手に話す充留の声を遮るように、クソ親父が重苦しい声を上げた。
「今更好かれようなどとは思わん。あれには、恨む相手が必要だろう」
・・・・・・それからのことは、よく覚えていない。気が付くと、俺は充留の部屋でぼんやりとしていた。どうやら扉がノックされたようで、その音で正気を取り戻したらしい。
「充留、いるな?入るぞ」
俺が返事をするより早く、俺が入ってくる。俺・・・・・・充留は扉の鍵をかけた瞬間、心配そうな表情で駆け寄ってきた。
「恭人様、大丈夫ですか!?体調が悪いとお聞きしましたが」
「充留・・・・・・」
彼女は、知っていたのだろうか。クソ親父の考えを。だからこんな、体が入れ替わるようなことを決行したのか・・・・・?
「なぁ、充留。さっきさ、クソ親父と話をしたんだ」
「っ・・・・・・!恭人様、まさか」
「やっぱり気付いてたんだよな、充留は。クソ親父がどう思ってるのかとか、色々。なんも知らなかったのは、俺だけか」
「も、申し訳ございません!大旦那様からきつく口止めをされていまして、その」
深く頭を下げる充留を見ながら、俺は言う。
「いや、いいんだ。責めてるわけじゃない。ただ、どうすればいいのか分からなくなって、さ」
そう、どうすればいいのか分からない。今までは諦めながら厳しい教育に耐えてきた。クソ親父憎しの想いで、なんとか持ちこたえてきたのだ。
「多分、俺はもう頑張れない。だって、クソ親父は俺に逃げてもいいって言ったんだ。千条院で無くなってもいいって。知らなかった、知らなかったんだよ・・・・・・親父が、あんなことを思ってくれてるなんて」
「恭人様・・・・・・」
「ここで奮起出来たら格好いいんだろうけどさ、俺には無理だ。優しさに甘えてしまう。どうしようもない奴だ、俺は」
視界が滲んで、ぽろりぽろりと涙が溢れ出す。自分が何を考えて、何を言っているのかもよく分からない。
「充留、ごめんな、充留・・・・・・俺はやっぱり、お前が思っているような強い奴じゃ、っ!?」
ぎゅうっと、抱きしめられた。力強さと温かさが伝わってきて、俺を包み込んでいく。
「恭人様、大丈夫です。貴方の苦悩は、私が引き受けます。だから、今は泣いていいんですよ。全部、吐き出しちゃいましょう」
背中をさすりながら、俺の声だとは思えない程優しく、慈しむように語りかけてくる充留。そっと後押しをされて、俺はもう堪えきれなかった。
「う、うぅ、充留ぅ、ううううぅぅぅぅぅ・・・・・・!」
自分の体に縋り付いて呻く。充留の体で、充留の顔を涙や鼻水でぐしゃぐしゃにしながら。俺は、抱擁の中でひたすらに号泣し続けた。
「落ち着きましたか、恭人様」
「・・・・・・うん。ありがとう、充留」
ひとしきり泣き喚いた後。俺は気恥ずかしくなりながら充留にお礼を言った。情けないどころの話ではないが、気分はかなりすっきりした。いや、流石に女々し過ぎる気はするけど。
「ふー・・・・・・でも、今でも信じられないな。親父があんなことを思ってたなんて」
「大旦那様はずっと、恭人様のことを慮っておられたのです。しかし、決して恭人様には伝えるな、と。悪役を、買って出てくれていたのでしょう」
「そう、か」
俺にとって、父親という存在は恐ろしく厳しいものだった。物心ついた時から厳しい教育を受け、そこに親子の情というものは存在しない。そう、思っていた。
「充留は、知ってたからこんな入れ替わりを提案したのか?俺に親父の気持ちを教えようと・・・・・・」
「滅相もございません。入れ替わっている時に大旦那様と話すことがあるのは予想外でした。申し訳ございません」
「いや、謝らなくてもいいけどさ」
言いながら、俺は涙や鼻水を拭おうとする。丁度よく充留が差し出してきたタオルで顔全体を拭きつつ、俺は気が抜けたように呟いた。
「なんだろうな、なんか気楽になったよ。充留の体で大泣きしたのは申し訳ないけど、すっきりした」
「気になさらないでください。恭人様の重荷が少しでも楽になったのなら、入れ替わった甲斐があるというものです」
柔らかく微笑んで言ってくる充留。俺の顔なのに、包容力が滲み出している。と、そのまま彼女は優しい口調で言ってきた。
「もうこんな時間です、私から説明しておくので恭人様はこのままお休みください」
「あ、うん・・・・・・」
時計を見ると、使用人の消灯時間を僅かに過ぎている。どうやら、俺はかなり長い時間正気を失っていたらしい。精神的にかなり疲弊しているし、お言葉に甘えよう。
「それでは、また明日」
「あぁ、お休み、充留」
充留は一礼し、部屋を出ていった。さて、俺も寝間着に着替えて眠ろうか・・・・・・っ?
「あれ・・・・・・?」
何か、体から湧き上がってくるものがある。熱っぽいような、粘ついた何か。
「これ、ん、っ?」
脳裏をよぎるのはさっきまでのこと。俺の体の充留に抱き留められ、涙を流し嗚咽したという事実。それが脳内でひたすらにリフレインし、全身が熱を持ち始める。予想だにしない状況に混乱しながら、俺は充留を追いかけて伝えようとドアノブに手をかけた。と、
「あっ・・・・・・」
視界の隅に入ったのは、姿見に映る充留の姿。潤んだ瞳、火照った頬、艶めかしい呼吸。今まで想像したことも無かった充留の『雌』の表情に、俺は動きを止めてしまった。
「な、なんで、え?んぅっ!」
疼く。全身を這い回るように、言いようも無い感覚が広がっていく。初めての感覚に侵食されながら、俺は床にへたり込んだ。
「ど、どういう、んあっ・・・・・・!」
スカート越し、お尻が床に擦れるだけでぞわぞわとした感覚が背筋を昇ってくる。何が起きているのか、どうしてこうなったのか。分からないままに、俺は姿見に映る充留から目が離せない。欲しがるような、卑しい表情。こんな充留は見たことが無いし、何よりこの表情は俺が浮かべているのだ。
「う、くぅ」
疼く、疼く、疼く。下腹部がずくんずくんと疼き続けて、耐えられない。俺は一瞬で理性と蕩かされて、姿見の前ではしたなく足を開いた。ロングスカートをめくると、湿って染みのついた無地のパンツが見える。
「うわ・・・・・・」
今までは、あえて意識しないように気を付けていた。充留の体で勝手なことは出来ないと。だが、体の奥底から湧き上がる何かを呑まれ、俺はゆっくりと充留の股間に手を伸ばした。
「あっ!?」
パンツ越しに充留の股間を撫でる。ぴりっとした、静電気よりも鋭い刺激が伝わってきた。男のモノの感じ方とは明確に違う、体の芯を揺らすような快感。駄目だ、こんなことは。僅かに残った理性が叫ぶも、俺は止まらない。止められない。
「く、んっ・・・・・・!」
パンツをずらして、直接触る。ぬるりとした液体が指先にまとわりつき、むわりとした熱気を感じた。姿見に映る充留の股間・・・・・・膣は、てらてらといやらしく濡れそぼっている。そのまま、膣の入り口を指先でなぞっていった。
「こ、れぇっ・・・・・・!なん、だ、変なっ!?」
電流が全身に流れるかのようだ。快感が俺の脳も、心も痺れさせていく。特に、膣の上の部分。ぷっくりと膨れたクリトリスは軽く触れるだけで強烈な快感を伝えてきた。未知の快楽に振り回されながら、俺は夢中で股間をまさぐる。
「駄目だ、駄目なのにっんんぅっ!」
指の動きが止められない。姿見には、切なげな表情で自慰行為をしている充留が映っている。その姿に興奮しながら、さらに指の動きが激しくなっていった。倒錯的な状況に精神が焼かれ、ボロボロと崩れていくみたいだ。
「んんっあぁぁっんんんっ!!」
喘ぎ声が上ずる。この艶めかしい声も、俺が上げているんだ。充留の体を勝手に使って。罪悪感と快感が混じり合い、凄まじい勢いで全身に襲い掛かってくる。俺はメイド服の袖で口を塞ぎながら全身を震わせた。
「むぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっっ!!!」
何もかも吹き飛ぶような快楽。ぷしっと音を立てて膣から何かが噴き出している。俺はびくびくと痙攣しながら、絶頂する充留の姿をうっとりと眺めていた。と、何かの記憶が俺の心に流れ込んでくる。
それは、充留の自慰の記憶だった。ベッドの上で、胸を揉みながら膣を刺激する。それと同時に、充留は切ない声を漏らしていた。
「恭人様、恭人、さまっ・・・・・・!」
俺の、名前だ。気付くと同時に、充留の想いが濁流のように流れてくる。それは、恋慕の情だ。俺に対する、ずっとずっと秘められていた、マグマのように煮えたぎっている感情。
「あ、あぁ」
充留の想いが、心に沁みていく。俺の・・・・・・恭人様のことを恋い慕う感情が溢れ出す。私が泣いてしまった時、優しく抱き留めてくれた恭人様。情けない私を、受け入れてくれた恭人様。愛しくて、好きで、たまらない。
「んっ、ぅぅ・・・・・・!」
再び灯った情欲の火に押され、私はもう一度膣に手を這わせる。人差し指でクリトリスをくにくにと刺激しながら、服越しに胸を鷲掴んだ。クリトリスの鋭い快感と胸から伝わるしっとりとした快感、そして何故か新鮮な胸の柔らかさを感じながら、私のオナニーはどんどん歯止めが利かなくなっていく。
「恭人様っ、んあぁっ、っくぅぅ・・・・・・!」
愛する人の名前を呟きながら、火照る体を慰める。胸を揉みながらぐずぐずにほぐれた膣に人差し指を挿入すると、下腹部がキュンキュンと疼いた。恭人様のものが、ここに欲しい。卑しい願いを浮かべつつ、私は膣への挿入を繰り返す。
「好き、好きです、恭人様っ・・・・・・!愚かな使用人で申し訳ありません、でも好きなのです!」
ずっと、ずっと隠してきた思いを口から零しながら、私は私の体を貪る。恭人様のものを求める膣内がきゅうきゅうと人差し指を締め付けて、胸の乳首は固くなっていた。汗に愛液、涙に涎。体液に塗れながら、私は恭人様のことを思い浮かべる。姿見に映るはしたなく卑しい雌と目が合い、その蕩け切った表情に何故か一層興奮してしまった。
「あぁっ、んんぅぅ、恭人様ぁ・・・・・・!」
膣内をぐちゅぐちゅと擦り上げながら、乳首をつまみ弄ぶ。快感の波がどんどん大きくなっていき、再びの絶頂へと心と体が導かれていく。お許しください、恭人様。私は、こんなにも愚かではしたないメイドなのです。
「っふぅっんんんっあぁっ!」
熱が全身を駆け巡り、下腹部が強く強く疼いた。恭人様のことを思い浮かべながら、私は挿入している指を折り曲げ、乳首をつねる。快感が一気に膨れ上がって、私を飲み込んだ。
「っくぅぅぅぅぅんんんんんんんんっっ!!!」
打ち上げれた魚のように痙攣しながら、私は再び絶頂した。暴力的な快感に蹂躙されて、私は恍惚の笑みを浮かべる。いつか。いつか、このように力強く恭人様に抱いてもらえたら。ありえない妄想を浮かべながら、私は気だるさと幸せが折り重なった気分のままに目をつぶった。
夜明け前。目を覚ました俺は、初めは何があったのか分からなかった。姿見に映る充留の乱れた姿に、変な匂いと妙にパリついているメイド服。混乱しながら立ち上がり、記憶を呼び起こそうとすると、意識を失う前の出来事を少しずつ思い出していく。
「・・・・・・え、いや、えぇ?」
・・・・・・信じられない記憶が脳に浮かんでくる。俺は、充留の体から湧き上がる感情に流されて自慰行為をしてしまった。さらには充留になり切ってしまい、そのまま激しく自慰行為を続けたその挙句寝落ちした、と。
凄まじい罪悪感が俺を苛む。俺は、充留の体でなんてことを・・・・・・。自慰であれだけ乱れて体を貪った上に、充留の秘められた想いまで暴いてしまった。あまりのことに死にたくなる。
「・・・・・・と、とりあえず着替えよう。メイド服は何着も用意してあるはずだから」
呟いて、俺は着替えようとする。幸いまだ夜明け前だ。今から着替えたり体を綺麗にしたりすれば、普段の起床時間には間に合う、はず。
「はぁ・・・・・・」
汚れたメイド服を脱ぎながら、俺は充留にどう説明すればいいか考える。なにせ、彼女の知らないところで彼女の体を犯してしまったのだ。殺されたとしても文句は言えない。しかし・・・・・・。
「充留は、俺のことが好きだったのか。異性と、して」
今まで、そんな素振りは一切無かったと思う。もし、互いに入れ替わるという状況にならなかったら、到底信じられなかっただろう。しかし、勝手に秘密を覗き見したような気分で、好かれていると分かった嬉しさと罪悪感でおかしくなってしまいそうだ。
「充留に、どうやって伝えよう」
そう。経緯はどうあれ、俺は気付いてしまった。勝手に自慰してしまったことも含めて、隠し切れるとは思えない。昨日あれだけ情けない姿を見せたというのに、これでは恥の上塗りのようなものである。でも、隠すのはあまりにも不誠実だ。それに、充留に異性として好かれているというのは、悪い気分では無かった。
「姉みたいなものだって思ってたんだけどな・・・・・・」
充留の想いに感化されているのだろうか。あるいは、自慰すらしてしまったことで異性として見るようになってしまったのか。理由は分からないが、彼女の気持ちを受け入れたいと今の俺は思ってる。・・・・・・まぁ、問題は多すぎるしそもそも今は入れ替わっている状態ではあるけど。と、
コンコン
部屋の扉がノックされる。こんな時間に、誰だ?急いで着替えを終わらせ、そっと扉を開けた。
「すみません恭人様、こんな時間に。入ってもよろしいでしょうか」
そこにいたのは俺、もとい充留だった。どこか慌てたような様子で小声で言ってくる彼女に少し驚きながら、部屋の中に招き入れる。
「一体どうしたんだ、だいぶ急いでる感じだけど」
「はい、実は・・・・・・これを見てください」
充留が懐から取り出したのは、例のネックレスだった。入れ替わった後、充留が保管していたはずだ。言われた通りよく見てみると、付けられている宝石に異変があるのが分かる。
「これ、ヒビが入ってる・・・・・・?」
赤い宝石の隅の部分に、小さな亀裂が走っていた。宝石って、そんな簡単にヒビが入るものなのか?
「ピシッという音で目が覚めて、念の為にネックレスを確認したらこうなっていたんです。原因は分かりませんが、もし宝石が割れてしまえば戻れなくなるかもしれない・・・・・・!」
動揺を口調に滲ませながら充留が言う。あまり見たことが無い彼女の様子に驚きながら、ひとまず宥めようと話しかけた。
「とりあえず、落ち着こう。えぇっと、これを買った店に連絡とかは・・・・・・」
「それが分からないのです。普段なら連絡先を聞くはずなのですが、何故かあの時は聞き忘れてしまっていて・・・・・・本当に、申し訳ございません」
深く頭を下げる充留。どうやら、かなり精神的に追い詰められているらしい。さっき俺が体験してしまったことを今話すのは、充留の精神衛生上よろしくないだろう。俺がしっかりしないと・・・・・・!
「大丈夫、大丈夫だ。確か、今日は昼過ぎから時間があったはずだからその店に行ってみよう。そっちの方は時間あるか?」
「は、はい。自主勉強時間ということになっているので、出かけることは可能です。ただ、大旦那様になんと言えば」
「そっちは俺がなんとかするよ、今の俺は充留だし。とりあえず、昼まではいつも通りに過ごそう。大丈夫、きっとどうにかなるさ」
充留の肩を叩きながら言う。俺自身も結構衝撃を受けているが、今の充留を支えられるのは俺だけだ。気張れよ、恭人・・・・・・!
そしてお昼過ぎ。親父に上手く伝えて時間を作った俺たちは、二人でネックレスを買った店へと向かった。大通りから外れた路地の、奥まった場所。充留に案内されなければ気付かないであろう所に、その店はひっそりと佇んでいた。
「これは・・・・・・随分と雰囲気があるな」
「私も、ここを見つけたのは偶然だったんです。なんだか、何かに誘われるようにこの路地に入ってしまって」
充留の言い分に少し不穏なものを感じる。だが、ここまで来て尻尾を巻いて帰るという選択肢は無い。意を決して、俺は店の扉を開けた。扉に付いたベルが鳴り、俺たちの来店を告げる。
「いらっしゃい。・・・・・・おや、今度はお連れさんがいるのかい」
どこか薄暗い店の中。奥の方から幼げな、しかし妖艶な声が聞こえてきた。目を凝らすと、おそらくレジであろう場所に一人の少女が佇んでいる。古風な着物に身を包んだその子は、こちらを眺めながらにこりと微笑んだ。
「これは、また。愉快なことになっているねぇ」
「・・・・・・貴女が、ネックレスを売ってくれた人か?じゃあ、俺たちのことも・・・・・・・」
「あぁ、分かっているとも。成程、入れ替わってそろそろ一週間といった所かな?」
不気味な雰囲気を漂わせながら少女が言い当てる。ゾクッと背筋に悪寒が走るが、なんとか己を奮い立たせて言い返した。
「明日で一週間だ。全部分かってるのか、貴女は?」
「いやいや。別に全知全能じゃあないからね、ある程度のことしか分からないさ。それじゃあ、ネックレスを見せてくれるかな?」
言葉とは裏腹に俺たちが店に訪れた理由を知っているのか、少女はニヤつきながら催促する。ちらりと充留を確認すると、少し青い顔をしながらも懐から箱を取り出し手渡した。少女が受け取り箱を開くと、緩衝材の詰められた中にネックレスが入っている。
「ほぉ、ふぅん・・・・・・あぁ、そういうことか」
軽く一瞥しただけで、得心がいったように頷く少女。宝石の部分を優しげに撫でながら、その視線が俺の方に向いた。
「原因は、君だ」
「・・・・・・は?」
予想外の言葉に固まる俺に、少女は畳みかけるように言う。
「君だ、君だよ。昨日の夜、一人でしてしまったことがあるだろう?くくっ、それが原因さね。さて、どうする?私から説明するのもいいが・・・・・・」
「なっ・・・・・・!」
こいつ、なんで知って・・・・・・!?いや、待て、アレが原因!?混乱する俺に、充留がおずおずと話しかけてくる。
「あの、恭人様。昨日の夜のこととは・・・・・・?」
「ぐ、ぅ」
答えに窮する俺を、少女はニヤニヤと眺めている。こいつ、いい性格してるな!仕方ない、少女の口から説明されるよりはマシだ。俺は大きく深呼吸をした後、充留に昨夜のことを説明し始めた。自慰に耽った挙句、充留の大事な気持ちを知ってしまったあの時のことを。
「・・・・・・というわけ、なんだ。すまない、本当にすまない!」
「あ、えと、その・・・・・・はぅぅ・・・・・・!」
あらかた、説明し終わった後。俺は申し訳無さと恥ずかしさで発狂しそうになりながら、必死に謝罪した。充留も顔を真っ赤にして、あわあわと取り乱している。そんな俺たちの様子を眺めながら、少女だけは愉しげに笑っていた。
「はっはっは!素晴らしい、青春だねぇ!しかし、宝石のひび割れはその青春が原因なのさ。正確には、君と彼女の意識が深く繋がり過ぎたことだね」
「それって、どういうことだ?」
「言葉の通りだよ。君は、記憶や人格だけでは無く、その想いに呑まれてしまった。言ってしまえば、元の自分を完全に忘れ、彼女自身になってしまっていた。そうなってしまうと、元に戻れなくなる可能性があるんだ」
ネックレスを掲げるように俺たちに見せながら、少女が続ける。
「このネックレスは、君たちの魂の中継点のようなもの。だから、片方が入れ替わる必要を感じなくなれば、というよりも入れ替わっているという事実を忘却してしまえば中継点は途切れてしまう。ひびが入ったのは、昨夜に君が元の自分を見失ったからさね」
その言葉に、俺は愕然とした。そんな、まさか俺のせいで元に戻れないなんて、俺はなんてことを・・・・・・。
「だが、今ならまだ大丈夫だ。この程度のひびなら、再び入れ替わることに問題は無い」
「ほ、本当か!?」
「うむ。完全に砕け散るようなことでも無ければ、機能するはずだからね。ただ・・・・・・」
少女は口を閉ざし、俺たちを舐めるように眺める。品定めするような、物色するような。あるいは案じているような、奇妙な視線。しばらくの沈黙の後、少女は再び口を開いた。
「・・・・・・ゆっくりと、二人で話し合うといい。そっちの彼女には前に説明したけれど、再びの入れ替わり、つまり元に戻れば宝石は完全に砕け散る。二度と、その体になることは出来ないのさ」
どこか重苦しい少女の言葉に、俺は何も言い返せない。元に戻れるならそれでいい。そう思っても、何故か言葉には出来なかった。充留の方を見ると、彼女も同じように俺を見たようで視線がかち合う。何故か気まずい気がして目を逸らしてしまった俺は、そんな自分に戸惑い、逃げるように少女に視線を移した。
「うん。やっぱり君たちは話し合うべきだ。これから先、本当はどうしたいのか。心を偽らず、ぶつけ合うべきさね」
取り成すように言いながら、少女はネックレスを箱にしまい直す。こちらに差し出してきた箱を、俺は戸惑ったままに受け取った。
「ふふふ。では、またのご来店をお待ちしているよ、お客様方」
そんな少女の声を受けながら、俺たちは店を後にする。・・・・・・何故か、俺も充留も一言も発することが出来なかった。
「・・・・・・なぁ、充留」
喧騒に包まれる街中を、しばらく無言で歩いていた俺たち。意を決して、充留に話しかける。
「は、はい、恭人様」
「少し、さ。寄り道していかないか?千条院家に戻る前に、お前としっかり話しておきたい」
喫茶店を指差しながら俺が言うと、充留は逡巡した後、こくりと頷いた。俺は充留の手を引いて喫茶店に入り、案内された席に座る。適当に注文を済ませた後、向かいに座った充留・・・・・・俺の体に入っている彼女を見つめながら、そっと切り出した。
「充留。正直に聞かせてほしい。お前は、元に戻りたいって思ってるか?」
「そ、れは・・・・・・」
言い淀む充留。普段の凛とした態度から想像もつかない、弱々しい様子だ。
「・・・・・・俺は、ずっと思ってた。充留の気遣いは嬉しいけど、早く元に戻らないとって。でも、な。親父は逃げてもいいって言ってくれて、充留の想いを知ってしまって。なんか、よく分からなくなってしまったんだ」
俺は、正直に自分の想いを打ち明ける。全て、充留に伝えようと言葉を紡いでいく。
「なんだろうな、俺は千条院の名に囚われていて、充留と入れ替わったらそれから解放されると思ってたけど。そうじゃなかった。俺が変わらない限り、俺はどこまでいっても俺のままだ」
纏まっていない感情を、そのまま吐き出した。次々に溢れる言葉が、俺の、充留の口から漏れ出す。
「分からないんだ。元の体に戻った方がいいのか、それとも入れ替わったままの方がいいのか。充留としての生活は楽しかったけど、このままでいいのかって気分になった。でも、元に戻ったら俺はきっと逃げ出してしまう。それは、嫌で。だから」
充留を見つめる。戸惑っている彼女から目を逸らさずに、俺は言い放った。
「充留。お前は、どう思ってるんだ?頼む、聞かせてくれ」
・・・・・・。充留は、口ごもっている。沈黙が流れる中、俺は彼女を見据えながらひたすら待ち続けた。やがて、充留は俯いたまま口を開く。
「私、は。最初は、出来心でした。恭人様の負担を軽く出来ればという想いと同時に、あわよくば・・・・・・あわよくば、恭人様と恋仲になれれば、と。卑しく、邪な想いを抱いていたのです」
懺悔するように、震えながら彼女は言った。堰き止められていた思いが一気に溢れるように、言葉は留まることは無いようだ。
「愚かな私は、恭人様の苦悩を利用したのです。もしかすれば、異常な状況になれば振り向いてくれるかもしれないと。それに、私自身が恭人様になれば貴方の想いを知ることが出来るかもしれないと。浅はかでした。とんでもない、愚行です・・・・・・!」
吐き出される充留の気持ちはどろどろとしたものだ。俺は目を逸らさず、全てを聞いていく。
「なのに・・・・・・それなのに!私は、宝石にヒビが入っているのを見た時、動揺や焦りよりも先に、安心感を覚えてしまった!宝石が砕けてしまえば、元に戻ることは無い!恭人様を、私のものに出来るかもしれないと!こんな卑しい愚か者なんて、恭人様が愛してくれるはずもないというのに・・・・・・!」
「待った。それは違うぞ」
充留の悲痛な声を遮り、俺は言った。
「愚かで卑しいというなら俺も同じだし、何より・・・・・・そこまで俺のことを思ってくれてるってことだろ?むしろ好感が持てるよ、俺としては」
「っいえ、そんなはずはありません。無理に慰めようとなさらなくても」
「だったら、確かめてみればいい。今の充留は俺の体なんだからさ、少し探れば俺だったらどう思うか、分かると思う」
俺の言葉に、充留は今にも泣き出しそうな顔をこちらに向ける。
「俺なら構わないから。だから、確かめてみてくれ。俺の気持ちを」
反論する気力も無いのか、俺の言葉が通じたからか。充留は震えるように頷きながら、目をつぶった。
「・・・・・・っ」
数十秒くらい経っただろうか。充留がこめかみ辺りを押さえ、微かに苦悶の呻きを漏らす。しばらくそのまま静止していた充留だったが、ゆっくりと目を開き俺に視線を向けた。
「恭人、様・・・・・・。貴方は、本当に・・・・・・!」
「どうだった?いや、なんか俺から聞くのも気恥ずかしいけど」
「うぅぅぅぅ・・・・・・疑ってしまい、申し訳ございません。恭人様の心を、気持ちを覗いてしまったからこそ分かります。貴方が、私を受け入れてくれることを。あぁ、そんな、ことって・・・・・・」
ぽろぽろと涙を零しながら充留が言い、俺の手をぎゅっと握ってきた。俺の体に入った彼女の体温が伝わってくる。
「私は駄目な使用人です。主たる恭人様を、疑ってしまった・・・・・・!」
「いいんだよ、そんなことは。それよりも分かっただろ?俺たちは、大丈夫だ。俺も、お前と一緒になりたい。付き合おう、充留」
「っ・・・・・・うぅ、うぅぅぅぅっ・・・・・・!」
まるで、先日の時とは真逆のように。くぐもった泣き声を上げる充留を、俺は横に座り直しながら抱きしめた。
十数分程経っただろうか。充留は俺の腕の中で、囁くように言う。
「・・・・・・申し訳、ございません。こんな、恭人様の体で情けない振る舞いを」
「それこそお互い様だよ。落ち着いたか?」
「はい・・・・・・ずびっ」
ポケットティッシュで鼻を嚙みながら、充留がこくりと頷いた。俺はそっと抱擁をやめて、向かいの椅子に座り直す。店員や他の客の視線が少し気になって、頬に朱が差した。
「よ、よし!それじゃあ、家に帰ろう。な?」
充留も落ち着いたようだし、早めにここから離れよう。好奇の視線から逃れようと立ち上がると、縋るように充留が手を掴んできた。彼女に目をやると、俺のように頬を赤らめながらぽつりと呟く。
「あの・・・・・・恭人様。お願いがあるのですが」
「っと、どうした?」
思いつめたような、覚悟を決めたような表情で。充留は俺を見据えながら言った。
「家に戻る前に、寄りたい所があります」
「ここ、って」
充留に言われるままに向かった先は、俺には全く馴染みのない場所だった。そこは、時間単位で利用できる宿泊施設。俗に言う、ラブホテルである。
「・・・・・・はい。その、あまりにも差し出がましい物言いなのですが・・・・・・欲しいのです、証拠が」
「証拠?」
「はい。私は、このように卑しく浅ましいメイドです。ですので、その・・・・・・」
口ごもる充留。・・・・・・なんとなく察しが付いた俺は、急に体温が上がるのを感じながら聞いてみた。
「あー、えっと・・・・・・つまり、うん。俺と、セックスがしたいってことか?」
口に出しただけで、顔が真っ赤になるのを感じる。それは充留も同じだ。俺の言葉を聞いた瞬間、熟れたリンゴみたいに顔が紅潮している。
「そう、です」
「いや、いやいや。落ち着け充留。いやな、そういうことをするのには順序があるというか、それ以前に俺たち入れ替わってる状態だろ?」
充留と、そういうことをするのが嫌というわけでは無い。しかし、流石に互いに入れ替わっているような状況でそういうことは、その・・・・・・。
「ごめんなさい・・・・・・でも、今だから、なんです。元の体に戻ってしまうと、以前通りの主と使用人の関係になってしまいそうで」
・・・・・・成程。そういう考え方もある、のか?ど、どうしよう。つまり、これって充留の体のまま俺の体に抱かれるってことだよな。流石にそれは・・・・・・。
「駄目、ですよね。本当にごめんなさい。頭がおかしいと思われても仕方ありませんから、こんな思考」
頭を下げながら言う充留。・・・・・・えぇい、俺も男だ、覚悟を決めろ!
「・・・・・・分かった。とりあえず、中に入ろう」
「え?いや、でも・・・・・・」
何かを言おうとする充留の手を引っ張って、俺はラブホテルの入り口へと歩いていく。問題はいくらでもあるけど、充留がこの状態のままで千条院家に帰るよりはマシだ!勢いだけで行動している自覚はあるけど、止まる気は無い。あれよあれよという間に、俺たちはラブホテルの一室で二人きりになっていた。
「「・・・・・・」」
無言。俺は当然経験が無いが、どうやら充留も一緒らしい。ベッドで隣り合っている俺たちは、何をすればいいか分からず微動だにせず座ったままだ。
「「あの」」
俺と充留の声が重なる。互いに口をつぐみ、再び無言の時間が流れた。こういう時どうすればいいか帝王学で教えといてくれよ親父ぃ!
「・・・・・・ふふ」
不意に、充留が微笑む。緊張がほぐれたような表情で俺を見ながら、そっと言った。
「なんだか、懐かしいです。初めて会った時のことを思い出しますね」
「あー・・・・・・確かに。あの時も、こんな感じの空気だった気がする」
充留の言葉で思い出した。初めて充留と出会った時、俺は突然出来た使用人という存在にどう接すればいいのか分からずに黙りこくっていたんだった。充留の方も緊張で微動だにせず、かなりの時間黙り続けていたっけ。
「状況は何から何まで違うのですが、ふと頭によぎってしまって。思えば、あれから長い時間が経ちました」
「そう、だな。もう十年以上前になるのか」
あの頃は、自分の立ち位置が全然分かっていなかった。親父は厳しかったが、千条院家の重荷を自覚すること無く生きていたな・・・・・・。
「そういえば、覚えていらっしゃいますか?出会って数か月が経過した頃、恭人様は庭に生えたシロツメクサで指輪を作ってくださいましたね。私、とても嬉しくて。あの時から、きっと恭人様を好いてしまったのでしょう」
「懐かしいなぁ。喜ぶ充留を見て、調子に乗ってシロツメクサを摘み過ぎてさ。先代のメイド長に怒られたよ、草木も生きているんだから無駄にしてはいけないってさ」
ラブホテルの部屋で、俺たちは昔話に花を咲かせた。異常な状況のはずなのに、なんだか妙に落ち着く。穏やかな雰囲気で言葉を交わしていると、ふと充留の・・・・・・俺の顔から目を離したくなくなってきた。
「・・・・・・んー。なぁ、充留。恥ずかしいこと聞くけどさ、お前は、ずっと俺のことが好きだったんだよな?」
「はい。使用人が主を愛することなど、本来あってはならないことですが・・・・・・これ以上、自分の気持ちに嘘を付きたくはありません」
真っすぐに言われて、腑に落ちる。あぁ、じゃあ今俺の奥底から湧き上がってくる感情は、充留がずっと抱えていたものなんだ。俺は自然と笑みを浮かべながら、顔を近付けて充留に囁く。
「なぁ、充留。キス、しようぜ」
「えっ。あ、えぇっと・・・・・・はい」
戸惑いながらも頷いた充留の、俺の顔と向き合い目をつぶる。ゆっくりと顔同士の距離が近付いていき、そっと触れ合った。
「ん、ぅ」
少しがさつく唇の感触。逆に、今の自分の唇がしっとりと柔らかいことが伝わってきて驚いた。啄むように何度も唇を重ね合わせると、体の奥から熱っぽい感覚が全身に広がっていくのが分かる。
「恭人、様・・・・・・」
充留の表情が、とろんと蕩けたようになっていた。多分、俺も似たようなものだろう。体の熱を焦らすようにゆっくりと、互いに服を脱がせ合っていく。敏感な衣擦れの感触が、俺たちの気分を煽っていった。
そして。俺たちはベッドの上、生まれたままの姿で向かい合う。瞳に映るのは見慣れたはずの自分の体なのに、客観的に見ているからかとても新鮮だった。それに、充留としての感情が昂ぶり、正直に言うととても興奮してしまう。
「充留」
名前を呼んで、そっと下半身に手を伸ばす。既に屹立している俺のペニスに触れると、火傷しそうな程の熱が伝わってきた。
「っあ、恭人様、そこは」
「大丈夫、俺に任せてくれ」
俺は自分で処理していた時のように、ペニスを握って擦り始める。充留の小さい手が俺のペニスに奉仕している。その事実に、下腹部がキュンキュンと疼いてしまった。我慢汁を塗りたくるように亀頭全体に広げ、滑りを良くしていく。
「っ、何この、くすぐったいような、っ!?」
漏れる喘ぎ声を手で押さえながら充留が悶えた。その様子は、俺の体だというのにとても可愛く、愛おしい。もっと気持ちよくなってほしい一心で、扱くスピードを徐々に速めていく。
「あっ駄目っ駄目です恭人様っ!何か集まって、っくぅぅ!」
「そのまま一発出していいから、ほらっ」
裏スジを親指でなぞる。と、堪え方を知らない充留はそのまま果ててしまった。熱い精液が勢いよく噴き出し、充留の、今の俺の体に降りかかる。粘ついたそれを手で掬い取ってみると、ゾクゾクとした感覚が背筋に走るのを感じた。
「は、ぁ・・・・・・!これって、射精・・・・・・?」
「あぁ。どうだ、男の快感ってのも案外気持ちいいだろ?」
言いながら、俺は体にかかった精液を眺める。白い充留の肌に、俺の精液が飛び散っている光景。しかも、俺と充留は入れ替わっているのだ。背徳感のような、あるいは罪悪感のような感情を覚えるが、それ以上に情欲が湧き上がってきてしまう。俺は、荒い息を吐きながら目を白黒させている充留に声をかけた。
「なぁ、充留。今度は、俺のことも気持ち良くしてくれないか?」
足を広げて、股間を見せつけるようにする。既に興奮している体は、ぬるりと膣の入り口を湿らせていた。媚びるように、誘うように、目の前の雄に囁く。
「お願いします・・・・・・恭人様」
充留は驚いた表情を浮かべるが、ペニスはぴくりと反応しているのが見えた。おずおずと股間に手を伸ばしながら、充留が訊ねてくる。
「いいの、ですか?恭人様・・・・・・」
「はい。どうか、この卑しいメイドに罰をお与えください」
湧き上がる感情のままに充留になり切って、充留・・・・・・恭人様に言う。両手で膣口を広げると、外気に触れた膣の中が蠢くのを感じた。恭人様が前かがみになって、私の股間に顔を近付けていく。
「わ、私の・・・・・・こんな感じになっているんだ」
恭人様の吐息が股間にかかり、むず痒さと甘い痺れが全身に広がっていった。焦れる気持ちを抑えて恭人様の行動を待っていると、ゆっくりと伸ばされた舌が、股間を舐め上げる。
「っくぅ、んんん!」
ぬるりとした感触と共に快感が伝わってきた。恭人様が、私の女性器を舐めている。倒錯的な感情が脳内で暴れ回って、私の心と体を侵蝕していく。反射的に足を閉じようとするが、逆に太ももで恭人様を顔を挟む形になってしまった。
「あぁっ、そこっそこです恭人様ぁ!」
恭人様の舌が、膣の肉をかき分けて挿入ってくる。自分の指とは違う、予測出来ない快感。奥底にある子宮の入り口が下へと降りてくるのを感じる。体も、心も、恭人様のモノを待ちわびていた。
「ふっんんんっ、はぁっんぅぅぅぅっ!」
膣内を這い回る舌の感覚と同時に、クリトリスが恭人様の顔面に擦れて鋭い刺激が私を襲う。四肢を悶えさせながら滲んだ視界で恭人様を見ると、まるで犬のように私の股間を舐め上げていた。なんという不敬だろう。それなのに、こんなにも気持ちいいなんて。一気に受ける快感が跳ね上がり、どんどん上り詰めていく。
「恭人様っ、わたっわたしぃっもうっ!」
駄目だ、絶頂してしまう。もっと、もっと愛撫を受けていたいのに。しかし私の体は堪えることも出来ず、爆発するような快感が全身に広がった。
「っああああぁぁぁぁぁぁぁっっぅぅぅぅぅうううううっっ!!」
絶叫。肺の空気全てを吐き出しながら、私ははしたなく果てた。びくびくと痙攣しながら、股間から何かが噴き出すような感覚がある。快感で白く霞む視界を向けると、恭人様の顔に盛大に愛液がかかっていた。
「っ、あ、申し訳っございませんっふぅぅ・・・・・・!」
愛液はとめどなく恭人様に降り注いで、止めようが無い。絶頂の快感が残っている体では満足に謝罪も出来ず、私は身をくねらせるしか無かった。と、恭人様が股間から顔を離し、私を見つめる。
「ありがとう、ございます、恭人様。恭人様の愛撫を受ける私を、現わして下さって。でも、もう大丈夫です」
そのまま、汗ばむ体を私に重ね、抱きしめてきた。私・・・・・・俺は、華奢な腕でそっと抱き返す。
「ふ、ぅっ・・・・・・。そんなつもりは、無かったんだけどな。充留の想いのままに振る舞っただけだよ」
汗と体液で濡れた体で抱き合いながら、俺たちは言葉を交わした。快感だけではない、これだけ心地いい時間がこれまであっただろうか。
「でも、私は嬉しかったんです。元に戻ったとしても、きっとこうなることが出来るって」
「はは、そりゃそうだ。俺も今更、充留と離れるつもりは無いからな」
微笑んで言うと、抱き合っている下半身に固く熱いものが当たるのを感じた。これは、また随分元気みたいだ。悪戯っぽい表情を浮かべて充留を見る。彼女は、恥ずかしそうにしながら視線を逸らしてしまった。
「も、申し訳ございません。恭人様のモノが、再び大きくなってしまって」
「男の体はそういうものだから、謝らなくていいって。えっと、それじゃあ・・・・・・するか?」
切なげな充留の表情といきり立つペニスを見ながら、思わず言う。我ながら不躾な言い方な気もするが、彼女は余裕が無いのかコクリと頷いた。・・・・・・さて、どうしよう。一応知識が無いわけではないが、この場合、その、どういう体位がいいんだ?と、充留はそっとベッドに仰向けになって言ってくる。
「恭人様・・・・・・どうか、お願いします」
「・・・・・・よし、分かった。俺も初めてだから色々拙いかもしれないけど、一度やってみよう」
まさか初体験が騎乗位、しかも俺が女性側だとは思いもしなかった。というか、普通ならあり得ない。でもまぁ、構わないか。充留と繋がれるなら、本来異常なはずの状況も大した問題じゃない気がする。俺は仰向けになっている充留の体を跨ぎ、そびえ立つペニスに狙いを合わせた。
「いくぞ、充留」
「はい。来てください、恭人様」
充留のお腹に手を置きながら、慎重に腰を下ろしていく。互いの性器が徐々に近付いて、それに応じて昂ぶりも強くなっていった。そして、亀頭と膣口が触れ合い充留の熱が伝わってくる。
「んっ、く・・・・・・」
ずぶずぶと、ペニスが俺の中へと挿入ってきた。亀頭のカリが膣の壁を擦り上げて、痺れるような快感が広がり子宮の疼きが強くなる。まるで杭で穿たれたような異物感と裂かれるような痛み、待ち望んでいたもので満たされた満足感が混じり合って俺の心を満たしていた。
「はぁっふぅぅぅ・・・・・・き、っつ・・・・・・!」
「っあぁ、恭人様の中、狭くて温かいっ・・・・・・!あっ」
不意に、充留が繋がっている部分を見て声を上げる。
「き、恭人様、血が・・・・・・!」
そうか、充留の体は処女だったのか。通りで結構痛いはずだ。
「心配するなって、っくぅ!ちゃんと、俺も気持ちいいからさ」
充留を安心させるように言いながら、ペニスを更に奥へと受け入れていく。確かに痛みはあるが、それを上回る幸せな気持ちが痛みを帳消しにしていた。感じるままに腰を下ろし、ペニスが隙間無く膣内を埋め尽くすと同時に、俺の尻が充留の体に着地する。
「ふぅぅ・・・・・・全部、挿入ったぁ・・・・・・!」
どうやら、俺と充留のモノはサイズがぴったりのようだ。あるべき場所にあるべきものが収まったような感覚。そのまま、しばらく動きを止めて繋がっている事実を噛み締めた。
「どう、だ?自分自身の中は?」
「・・・・・・幸せです。入れ替わっているとはいえ恭人様とこうして繋がれるなんて、本当に夢みたい」
うっとりとした表情を浮かべて充留が言う。恋する乙女のような様子の彼女に、俺は微笑みながら体を預けた。身長差から見上げるようにして、唇を尖らせキスをせがむ。
「ふっ、んん」
唇を重ね、両手を首に絡ませながらゆっくりと腰を動かし始めた。俺たちは心臓の音が重なる程に身を寄せ合って、互いの存在を確かめるように肉体を貪り合う。
「んんぅっ!?」
充留の舌が口の中に入ってくる。同時に腰が突き上げられ、亀頭が力強く膣内を擦り上げた。目から火花が出るほどの快感に身を捩らせるが、充留にがっちりと抱き留められていると安心感に包まれる。そのまま、舌を絡ませ合って唾液を混ぜ合った。ぐちゅぐちゅという音が頭の中で反響し、まともな精神がドロドロに溶けていく。
「んむぅっ、んぅっんん」
腰の動きも、興奮と共に徐々に速くなっていった。息を合わせるように腰を引き、下ろすと突き抜けるような快感に襲われる。両胸が充留の胸板に潰され、こりこりとした乳首の刺激が甘い刺激を伝えてきた。
「んっふ、充留っそこっいいぃっ!!!」
亀頭が膣のある場所を抉ると、俺は思わず口を離して叫ぶ。跳ねるように痙攣しながら、目を見開いて与えられる快感を享受する。
「ここっここが弱いのですねっ!もっと、もっと気持ちよくなってください!」
「んあああぁぁっ!?やめっんぅぅぅぅぅ!!」
俺の制止も聞かずに、充留は嬉々として腰を突き上げる。ずんずんと衝撃が子宮に響き、その度にとある欲求が心の奥底から這い上がってきた。愛する者との子が欲しい。子孫を残したいという原始的な欲求。
「みつっるぅっ!あぁぁっんんんんんんっ!!」
「恭人様、恭人様ぁっ!」
喘ぎ声が重なって、快感が暴れ回る。限界がすぐ近くまで来ていることが分かり、俺は一層強く充留に縋りついた。
「そろそろっくるぅっ!充留っ出してっ中に全部ぅっ!!!」
「はいっ!全部、奥に全部出しますからぁ!」
どちゅり、と。膣の最奥、子宮の入り口に猛り狂うペニスが打ち込まれる。そして、膨れ上がった亀頭からマグマのような精液が噴き出した。
「うあっあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああぁぁあああっっ!!!!!」
分かる。子宮が、どろどろの精液を飲み込んでいくのが。快楽の火に心身共に焼き尽くされながらも、それだけははっきりと感じ取れる。俺は注がれ続ける子種に歓喜しながら、再び充留の唇へと吸い付いた。駄目だ。愛情と劣情、好意と慕情がまぜこぜになってなにがなにやら分からない。
ふと、頭を撫でられた。キスをしながら、いまだにペニスと子宮が脈動する中で。愛おしげな手つきで、充留が頭を撫でてくる。あぁ。どうしようもなく、幸せだ。どこかで何かが割れる音を聞きながら、俺は安心し切って充留の胸に頭を預けた。
「恭人様、この段ボールは寝室の方でよろしいでしょうか?」
「あぁ、頼んだ。それ運び終わったらちょっと休憩しようか」
一年半後。俺たちは、新居に運び込まれた段ボールを整理しつつ一息つこうとしていた。
「運び終わりました。うーん、まだまだありますね」
「まぁ、親父が色々と用意してくれたからなぁ。ほら、お茶」
「ありがとうございます。それにしても・・・・・・ふふ。前は力仕事が出来ませんでしたので、こういうのはやはり新鮮ですね」
充留がペットボトルのお茶を受け取りながら、どこか楽しそうに微笑む。その体は、間違い無く俺のものだった。
あれから。気が付いた時にはネックレスの宝石は砕け散り、俺たちは元の体に戻ることが出来なくなってしまった。最初こそ動揺した俺たち二人だが、程なくしてそれぞれの体で生きていくことを決意。幸い記憶は読めるままだったし、互いの気持ちも通じ合った。確かに戻れない事実は衝撃だったけど、それでも一緒に生きることが出来るなら問題無いと二人で決めたのだ。
そして、それからの入れ替わり生活を経て、俺たちは大学生として千条院家を出ることにした。人生経験を積むためだと親父には(俺の体の充留が)説明したが、最初こそ難色を示していたものの案外あっさりと認められ、こうして俺と充留は二人暮らしをすることになった。・・・・・・正直、跡取りをメイド付けて送り出すのはどうかと思ったけど、親父は逆に今の俺、充留を連れていけと強く言っていたらしい。何か考えがあるんだろうけど、まぁ親父のことだからきっとろくでもないものだろう。
「それにしても、やりすぎだよな。わざわざ大学に通う為に一軒家を用意するか、普通?」
「元々は大旦那様の知り合いの家だったようですが、田舎に帰ったらしく空き家になっていたのを私達に充てたようです。・・・・・・確かに、ここまで綺麗にリフォームされたら新築と変わりないとは思いますが」
今は二人しかいないので、俺たちは思うままに会話をしている。千条院家では他人の目が厳しく、互いのフリをせずに会話をするのも一苦労だったのだ。むしろ、こうやって普通に話すことが新鮮に感じてしまう。
「ったく、もし俺が受からなかったらどうするつもりだったんだか・・・・・・」
そう、実は俺・・・・・・充留としての俺も、大学に通うことになったのだ。どうやら高校に行っていなくても大学へと入学出来る制度があるらしく、充留自身の優秀さと猛勉強の甲斐あって、どうにか二人一緒に大学へと通学することが叶うようになった。別に俺は大学に行けなくても構わなかったんだけど、充留が強硬に主張したのでなんとか合格枠に滑り込めたのである。
「そういえば充留、あれって持ってきたのか?」
「あれ・・・・・・あぁ、ネックレスですか?勿論、厳重に梱包して運んでもらいましたよ。たしか、ここに」
充留は手近にある小さな段ボールを手にし、梱包を解いていく。大量の緩衝材をかき分けると、細長い小箱が入っていた。
「いや、本当に厳重だな。そこまでしなくても・・・・・・」
「大事なものですから。店員のあの子には修理出来ないと言われましたけど、やっぱり、私達にとっての転換点だったので」
言いながら、充留は小箱を開ける。宝石の外れたネックレスと、袋に纏められた砕けた宝石が見えて、少し懐かしい気分を感じた。
「・・・・・・あの時の私はおかしくなっていました。多分、自分の想いと恭人様の境遇で精神的に変になっていたんだと思います。本来なら、謝っても謝り切れないことです。ですが」
俺の顔で、充留はとても優しく微笑む。女性だった頃と、何も変わっていない表情だ。
「今では、こうなって良かったと思っています。恭人様にとっては勝手な話になってしまうけど」
「んー、まぁ、俺もまぁ、まさかこうなるなんて思ってなかったけどさ。今の俺は幸せだよ、少なくとも。充留のおかげだ」
「恭人様・・・・・・!」
感極まったのか、充留が俺に抱き着いてくる。ぽんぽんと背中を叩きながら、俺は窓から差す日の光に目を細めた。俺たちの新生活は、始まったばかりだ。
「ところで恭人様・・・・・・その、大きくなってしまったのですが」
「荷解きがまだだから後でな、後で」