行き交う人の多い大通りを、一人の少女が歩いていく。彼女は片目に医療用の眼帯をしながら、暗く沈んだ表情を浮かべていた。どこに行くのかも決めていないように、当ても無く街中を彷徨っている。
少女・・・・・・風宮愛衣(かざみやあい)は空手家だった。幼少の頃から才能と努力を称賛され、度々雑誌やTVに取り上げられる程に将来を期待されていた。彼女は期待に違わぬ努力を続け、高校生の身でオリンピックの代表に選ばれるという快挙を成し遂げる。しかし・・・・・・。
(なんで、こんなことになっちゃったんだろう)
走り込みの際、交通事故により右目を負傷。すぐに病院に向かったが、診断は視神経の損傷による視力の著しい低下という、格闘家としては死刑宣告に等しいものだった。
一定以上の視力が無ければ、オリンピックに出場することは出来ない。医療技術が発展している現代でさえ、オリンピックの舞台には間に合わせることは出来ないだろう。絶望を胸に秘めながら、愛衣は街中をただ歩き続ける。目的も理由も無くただふらついている様は、彼女を知っている者にとっては見るに堪えない。と、
「そこのお姉さん、少しいいかな?」
幼げな声が愛衣の背中にかけられた。のろのろと振り向くと、そこには着物姿の少女が立っている。愛衣よりも年下であろう少女は、妖艶な雰囲気を纏わせながら言ってきた。
「その目、随分と酷い状態のようだ。どうだろう、少し私についてきてくれるかな。右目の視力を、元に戻すことが出来るかもしれないよ」
昼下がりの街中、人混みの中で少女は言う。荒唐無稽な、信じることすら馬鹿馬鹿しい話を。しかし、愛衣は少女を片目で眺めながら、どうでもいいような調子で返事をした。
「・・・・・・何?貴方は魔法使いか何か?だったら、藁にでも縋りたいけど」
「ふふ、魔法使いなんて大層なものじゃないさ。ただ、声をかけないと今にも自殺してしまいそうだったからねぇ。ほら、ついておいで」
少女に促されるままに、愛衣は彼女の後ろについていく。人混みを抜け、大通りから外れ、少女に導かれるまま辿り着いたのは古ぼけたペットショップだった。しかし、ショーウィンドウには空っぽで、なんの動物も入っていない。
少女と共に中に入った愛衣は、僅かに眉を上げた。店のどこを見てもペットはいない。空のガラスケースやケージが並んでいるだけで、生き物の気配すら感じられなかった。
「あぁ、気にすることはないよ。準備が間に合っていなくてね。君の問題の解決には、関係無いことだ」
言いながら、少女は店のバックヤードへと案内してくる。粗末なパイプ椅子を用意してそれに座り、同じく愛衣に座るように促した。
「座っておくれ。事と次第によっては、相応に長い話になりそうだからね」
言われるまま愛衣はパイプ椅子に腰を下ろし、無事な左目で胡乱な目つきをしながら少女を眺める。明らかにおかしい、まともではない状況。そもそも、彼女は何者なのか。
(ただの詐欺師だったらいいけど・・・・・・小学生くらいの子が詐欺をしてくるとかは無いか)
考えても仕方ない。そもそも、少女についてきたのはただの気まぐれだ。妖しげな雰囲気と古めかしい口調に非現実感を覚えて、どうせやることも無いからとここまで来てしまったのだ。
(はぁ・・・・・・いっそ、誘拐とかならよかったのに)
愛衣が自暴自棄な思考を浮かべていると、少女は真剣な表情になりながら切り出してくる。
「さて。それじゃあ、まずは確認しておこうか。君の右目のことだ」
少女はつらつらと語っていく。その内容は、愛衣自身の怪我の状況だ。まるでカルテでも見ているかのように、少女は的確に愛衣の目の状態を言い当てていく。
「・・・・・・と、こんなところかな。現状視力は失われていて、それによりオリンピックへの出場が絶望的、と。いやはや、これは辛い話だね」
「貴女には関係無いでしょう。それで、わざわざこんな寂れた店に連れてきた理由はなんなの?医者でもあるまいし、こっちは何度もそういうのは聞かされてるのよ」
「あぁ、そう怒らないでおくれ。こちらの目的は単純だ、君の視力を取り戻してあげようと思っているのさ」
「は?」
思わず、愛衣の口からドスの利いた声が漏れる。
「貴女、分かってるの?さっきペラペラと並びたてた私の状況を理解してないんじゃない?どんな手術をしても、私の視力は戻らないの」
苛立たしげにまくし立てる愛衣。しかし、こんな幼い娘に何を言っても無駄だとかぶりを振って立ち上がろうとした。と、
「手術じゃ無理だろうねぇ。でも、方法はある。お姉さんが受け入れられるなら、の話だけれどね」
確信めいた口ぶり。愛衣は立ち上がったまま、睨むように少女を見下ろして言う。
「言ってみなさいよ。どんな馬鹿げた話なのか、聞いてあげる」
「ありがとう。それじゃあ、説明させてもらおうか」
少女は微笑み、そうして語り始めた。まるで創作の話のような、荒唐無稽な方法を。
「と、いうわけだ。君さえ受け入れられるなら、二日後には練習に復帰できるだろうね。まぁ、君を担当した医者は誤診扱いで叱責されてしまうだろうけど」
「・・・・・・正気?そんなこと、出来るわけ無いでしょう」
「まあ、信じるか信じないかはお姉さん次第さね。ただ、嘘は言っていないよ」
「・・・・・・おぞましい・・・・・・」
「否定はしないよ。それで、どうする?」
少女の言葉に、愛衣は押し黙る。今少女が語った話は、到底信じることの出来ない方法だ。さらに、方法自体に拒否感を覚えてもいる。・・・・・・だが。もしも。
「・・・・・・本当に。本当に、私の視力は戻るの?」
「戻るとも。さっき言った通りにすれば、その間君の視力は元通りになる。受け入れられれば、ね」
試すような少女の視線。感情を逆撫でするようなそれに一瞬声を上げそうになるが、どうにか落ち着いて頭を回す。愛衣は眼帯に触れながら、絞り出すように呟いた。
「いいでしょう。元々、こうなった時点で希望も何も無かったし。騙されてあげる」
「ふふ、それは良かった。それじゃあ、これをどうぞ」
少女はにこりと笑って、懐から何かを取り出す。目薬のように見えるそれは、しかし中には卵のようなものが浮かんでいた。
「説明はもうしたから、後は君次第だ。どうか、オリンピック頑張っておくれ」
言葉には答えず、愛衣は立ち上がりバックヤードを後にする。足早に去ろうとする彼女の背に、少女の声が投げかけられた。
「あぁ、それと。もし金メダルを取れたら、持ってきてくれないかな?一度だけでいい、生で見てみたいんだ」
「・・・・・・考えておく」
ぼそりと呟き、愛衣はペットショップの外へと出る。まるで今までのことが幻覚だったかのように、人々の喧騒が聞こえてきた。愛衣はそのまま、危なっかしい足取りで歩いていく。その表情には、決意のようなものが浮かんでいるように見えた。
自分の家に戻った愛衣は、心配そうに声をかけてくる母親を無視して自室に直行する。カーペットの敷かれた床に座り込みながら、ポケットからさっき受け取った目薬を取り出した。
「・・・・・・」
しばらくの間、無言でそれを眺める愛衣。やがて、彼女は眼帯を外して上を向き、薄ぼんやりとしか見えない視界の中に目薬を投下した。べたりといった粘性の感触が眼球に広がり、蠢くように奥へと潜り込んでくる。
「っ、あ」
強烈な異物感と、生理的嫌悪感。全身に鳥肌が立ちながら、愛衣は自身を抱き締めて縮こまった。
(気持ち悪いっ気持ち悪いっ無理無理無理っ!)
凄まじい拒否感と共に後悔が湧き上がってくる。こんな怪しいものに頼った自分が馬鹿だったと思いながら、しかし僅かな期待感も感じていた。もしかしたら、あの少女の言葉は本当なのかもしれない。
「く、ぅっ・・・・・・!んんっ」
何かが眼球の裏まで入ってくるような感覚に、くぐもった声を漏らす。今すぐ右目毎掻き出してしまいたい欲求を必死で抑えながら、愛衣は生理現象からボロボロと涙を流した。
そして。眼球の奥、脳にまで達しているのかもしれない場所まで異物感が辿り着く。愛衣は痛みのような疼きのような感覚に襲われ、うずくまってひたすらに耐えることしか出来ない。と、
「んっ!?」
バチンと、電流が走ったような感覚が眼球裏から伝わってくる。それと同時に、異物感や疼きが一瞬で治まった。何が起きたのか理解出来ないまま愛衣は顔を上げ、そして、
「・・・・・・見え、てる?」
右側の視界、さっきまでは明暗を感じるくらいしか出来なかったはずの視力が、戻っている。慌てて涙を拭いながら、左目をつぶったりぐりぐりと眼球を動かしたりするが、異常なところはどこにも無い。
「ほ、本当に・・・・・・?」
震える声で呟く愛衣。その言葉に被せるように、彼女の脳裏に誰かの声が響き渡った。
『本当だぜ、本当だとも。良かったなぁ、視力が戻って』
「っ!?」
驚いて部屋を見回すが、愛衣以外の人間がいるわけではない。見えるようになった目を見開く彼女の脳内に、再び声が響く。
『おいおい、そんなに驚くなよ。あの娘っ子に説明されてただろ?』
軽薄そうなその声は男性のもののように思える。愛衣は頭を振りながら、幻聴のような声に話しかけた。
「そりゃ、そうか。視力が戻るのが本当なら、他の事も本当よね」
『そうとも。これから末永くよろしくな、お嬢ちゃん?』
その声には答えず、愛衣はゆっくりと立ち上がり部屋を出ていく。これから、やることが沢山ある。脳裏の声を意図的に無視しながら、彼女はどこか清々しい表情でドアノブを捻った。
視神経の代替となる生物を寄生させる。それが、あの時少女が提案したことだった。ただし、寄生生物によって視力を取り戻せる代わりに、代償として寄生生物の要求を叶えなければならない、と。全く信じられない漫画のような話だったが、実際に愛衣の右目は見えるようになった。ならば、代償も本当のことなのだろう。
「・・・・・・それで?何が望みなの、寄生虫」
『やーっと反応してくれたなぁ。流石に何時間もガン無視されるとは思わなかったぜ』
数時間後。家族やコーチへの連絡、及び病院での検査を終えた愛衣は、戻ってきた自室で呟いた。傍から見れば独り言にしか見えないが、彼女の頭の中には軽薄な返事が響いている。
「そういうのはいいから。簡潔に、要求だけを言って」
『つれないねぇ。ま、いいさ。長い付き合いになるだろうからな』
キツめな愛衣の言葉にもヘラヘラとした態度を取りながら、脳内の声は機嫌良さそうに語り掛けた。
『あの着物の娘っ子にも説明されただろうが、もう一度説明するぜ。俺は、あんたの視神経を現在代替してる、いわば寄生虫だ。自意識はあるしお嬢ちゃんと五感も共有してるが、別に宿主の思考を読んだりは出来ねえ。お嬢ちゃん自身が俺に話しかけようとしない限り、会話は成り立たないってわけだな』
愛衣は、イラつきながらも黙って聞いている。明らかに不機嫌そうな顔付きだが、寄生虫は気付いていないのか愉快そうに話を続けた。
『で、だ。俺がお嬢ちゃんにする要求は単純なもんだ。一週間に一度、数十分くらいでいい、お嬢ちゃんの体を貸してほしいんだよ』
「体を、貸す?」
『そうとも。お嬢ちゃん自身が許可さえしてくれりゃあ、俺はお嬢ちゃんの体を使うことが出来る。まぁ、肉体の操作、その主導権を譲るって感じか』
寄生虫の言葉に、愛衣は酷く嫌悪感を覚えた。が、ひとまず堪えて寄生虫に訊ねる。
「もし、私が拒否したら?」
『対価が貰えないなら、俺がお嬢ちゃんの視神経の代わりをする義理も無いわな。まぁ安心しろって。お嬢ちゃんの体を借りても、自分や他人を傷つけたりはしないからよ』
「・・・・・・私の体を借りて、何をするつもりなの」
怒気を抑えながら言った愛衣に、寄生虫は笑いながら言った。
『はははっ!簡単な話だ。俺は、女の快感って奴を知りたいんだよ』
「・・・・・・は?」
予想外の答えに、愛衣は気の抜けたような声を出す愛衣。寄生虫はそんな彼女の様子が面白いのか、笑いを堪えながら続ける。
『くくっ・・・・・・俺もこうなる前は下らねえ人生を送ってきた男でな、唯一の楽しみが風俗通いだったのさ。それで』
「ちょ、ちょっと待って。貴方、寄生虫でしょ?なんでそんな、人間みたいな・・・・・・」
寄生虫の言葉を遮るように愛衣が言うと、楽しげな声は続けて言ってきた。
『あぁ、そのことは聞いてなかったのか。体の一部を補う寄生生物なんざ本来いるはずがねぇ。俺も詳しいやり方は知らないが、人間の魂を利用して作られてるらしいぜ。お嬢ちゃんの視神経の代わりになってる寄生生物はな』
他人事の様に言う寄生虫に、愛衣は愕然とする。そんな馬鹿みたいな話があるわけない。しかし、視力が戻ったのは事実だ。おぞましさを感じながらも、愛衣はゆっくり息を吐いて前を見据える。
「・・・・・・分かった。でも、貴方のことはどうでもいい。私の体を借りて、好きに犯したいんでしょ?いいよ、許してあげる」
『へぇ?随分あっさりだな。いいのかよ、こんな訳も分からない存在に体を操られて』
「いいって言ってるでしょ。でも、明日に疲労を残すのは禁止。変に体を痛めつけるのもね。それが守れるなら、体を貸してもいい」
毅然とした様子で言い切る愛衣。決意漲るその雰囲気は、とても女子高生のものとは思えない。
『気合入ってんなぁ。分かってるって、お嬢ちゃんの練習やらなんやらには影響無いようにはするからよ。俺だって、金メダル取るのを邪魔したい訳じゃないからな』
その声には答えず、愛衣は立ち上がり、タンスからパジャマや下着を出す。風呂に入って、寝てしまおう。そう思いながら、寄生虫に言った。
「体を貸すのは三日後。それまでは静かにしてて。私はこれからお風呂に入って、それから寝るから」
『・・・・・・なんつーか、割り切ってんなぁ。風呂に入るって、お嬢ちゃんの視界は俺の視界でもあるんだぜ?いいのかよ、そんな簡単に裸を見せて』
「しょうがないでしょ、それしかないんだし。別に好きに見ても構わないけど、騒がないでね」
『・・・・・・』
きっぱりとした言い方に、寄生虫は押し黙ってしまう。当初の予想とは違う対応にどうやら戸惑っているようだ。
その後、愛衣は言った通りに風呂に入った後、手早く着替えてベッドに潜り込んだ。寄生虫は言われた通りに黙っているようで、脳内に声が響くことも無い。いっそさっきの出来事が夢に感じてしまうが、そんなことは無いだろうと思い直しながら愛衣は眠りについた。
三日後。視力が戻ってから、遅れを取り戻すように猛練習していた愛衣は、疲れ切りながら帰宅した。重い体を引きずりながら夕飯、風呂を済ませ自室に戻ると、ベッドに倒れ込んでぼそりと呟く。
「いる?寄生虫。私としては全部幻聴だったら嬉しいんだけど」
『幻聴じゃねぇよ。・・・・・・いや、マジでハードだなお嬢ちゃんの日常。オリンピック選手ってのはここまでするのか』
「そういうのはいいから。で、体借りるの?」
あけすけな愛衣の物言い。寄生虫は気圧されたのか、おずおずと言ってきた。
『いや、そりゃ借りたいけどよ・・・・・・いいのか?大分疲れてるじゃねぇか』
「明日は午前中休みだから。でも、オナニーとかするなら長引かせないでね」
『そんな恥じらいも照れも無くオナニーって言われてもそそられないんだよなぁ・・・・・・なんか、思ってたのと違う』
ぼそぼそと呟くように響く声に、愛衣はイライラしながら小声で言い募る。
「は?じゃあ体貸さなくていいの?なら私はこのまま休むけど。そっちが乗り気じゃないんだから目はそのまま見えるようにしてよ」
『待った待った!そんなカリカリするなって。何も体借りないとは言ってないだろ』
「だったら早くして。ただでさえ睡眠時間削れてるんだから」
噛みつくような強い言葉に、寄生虫はたじたじになってしまう。最初、JKの体に寄生出来ると知った時はヒルのような体をくねらせ歓喜したものだ。しかし、実際は何故か半ギレで怒られている。寄生虫は、直に愛衣の苛立ちを受けながら理想と現実のギャップを感じていた。
『あーあー分かった分かった。ったく、後悔するなよ』
寄生虫の声が響くと同時に、四肢が痺れるような感覚が愛衣を襲う。覚悟していたとはいえ、これは相当に怖い。ベッドでうずくまりながらも痺れは一気に全身に広がっていき、麻痺したような感覚に包まれ、そして。
「・・・・・・あー、あー。よし、いい感じだ」
愛衣・・・・・・いや、愛衣の体を乗っ取った寄生虫は、上半身を起こし胡坐で座り込んだ。
「お嬢ちゃん、聞こえてるな?約束通り、しばらく体を借りるぜ。いいな?」
『・・・・・・さっきも言ったけど、手短にして。私は許可してるんだから、わざわざ聞いてこなくていいから』
大して動揺も感じられない脳内の声に、寄生虫はやや驚いた表情を浮かべる。久しぶりの人間の体、その感覚をゆっくり確かめながら、愛衣の声で呟いた。
「驚いた、お嬢ちゃんは筋金入りだな。ま、それはそれとしてお言葉に甘えて愉しませてもらうぞ」
寄生虫は口角を上げながら、無地のパジャマに手を掛ける。手間取りながら上着を脱ぐと、飾り気の無いスポーツブラが外気に晒された。その勢いのまま、パジャマのズボンも下ろしてしまう。
「・・・・・・ここ三日で分かったけどよぉ、お嬢ちゃんお洒落とかしないのか?あまりにも色気がねえよこんな下着じゃ」
『別に貴方の為に来てる訳じゃないし。そんなことにかまけてる時間も無いの、私には』
「へーへー。空手一筋17年、ってか。俺は他人の人生の口出す程高尚な奴じゃないからいいけどよ」
『文句言って口出してるじゃない。私の体でオナニーする為に寄生した寄生虫の癖に』
体の主導権を譲っても衰えないキツい物言いをする愛衣。寄生虫は愛衣の体で肩をすくめながら、拙い手つきで下着を脱いでいった。
「最近の娘っ子はこんなのばっかりなのかね・・・・・さて、ご開帳、っと」
スポーツブラを外すと、引き締まって筋肉質な体に相応の小ぶりな胸が姿を現す。寄生虫は撫でるように軽く揉んでみるが、気持ちいいというよりはむず痒い感覚だ。
続いて、パンツを下ろして脱ぎ捨てる。姿見も無い為確認することは出来ないが、風呂で見た時はムダ毛を処理した幼げな性器だった。指をスジに沿って這わせると、そわそわするような妙な感触がする。
「っ・・・・・・うぉ、これ、変な感じだな」
そのまま、片手で胸を揉みながら股間をまさぐる寄生虫。愛衣の顔で普段からは想像もつかないようなだらしない笑みを浮かべて、自身の体を愛撫していった。
「んっ、あっ」
気分を盛り上げようと、寄生虫は愛衣の声で小さく喘ぎ声を漏らしてみる。徐々にぴりぴりとした快感が伝わり始め、その度に身じろぎするように体を震わせた。
『いやらしい、手つき・・・・・・変態』
「そう言ってもっ、お嬢ちゃんも感じてんだろ?感覚は共有してんだからっぅぅ!?」
『っ!!』
性器の上側にあるクリトリスに指が触れ、全身がびくりと痙攣する。鋭すぎる刺激が脳まで貫き、寄生虫は思わず手を止めてしまった。
「は、ぁ・・・・・・!今のが、クリトリス、か?」
『・・・・・・私、そこが敏感なの。早くイきたいならそこを重点的に責めればいいから』
「いや、ここは恥ずかしがるところじゃないのか?」
身も蓋も無い愛衣のアドバイス。寄生虫は呆れてツッコミつつも、言われたように再びクリトリスに指を伸ばす。ゆっくりと触りながら、指先でこねくり回した。
「っくぅっんんんん!!これっは、ヤバっ・・・・・・!」
全身に電流が走るような快感に襲われ、胸を揉んでいた手に力が入る。固くなり始めた乳首が指に引っかかり、弾かれるように刺激されてさらに快感が湧き上がった。意図せず二点責めの形になり、寄生虫はベッドの上で悶える。
「うああぁっ!?いやこれっ想像以上にっひぃん!!?」
『っうぅぅんんっ・・・・・・!』
自分が発している喘ぎ声と、愛衣の呻くような声が脳内で混ざり合った。分泌され始めた愛液で指を湿らせながら、そのままクリトリスをこねて乳首をつまんで刺激する。
「ヤバっ気持ちっ気持ちいいっんんんんんん!!」
『くぅっ、ふぅ・・・・・・!ちょっと、声抑えてよっ!家族に聞かれちゃうからっつぅ・・・・・・!』
喘ぎ声を噛み殺しながらの抗議に、ハッとした寄生虫は近くにあった枕を口にあてがう。しかし、自慰行為は止められない。今度は胸を揉んでいた手も股間に伸ばして膣の入り口全体を撫でたり擦ったりしてみる。愛液がどんどんと滴って、シーツに染みが出来始めていた。
「んぐっんんんっ・・・・・・!な、なぁお嬢ちゃん。指を中に入れてもいいか?」
『はぁっ?・・・・・・あぁもう、好きにして』
仕方なく愛衣が了承した途端、寄生虫は人差し指と中指を膣の中へと挿入する。入れた途端にぶわりと快感が広がり、指先が痛いほどに膣内が吸い付いてきた。
「んぶっんんんんんっっ!!」
そのままこじ開けるように指を進めると、快感と共に異物感が強くなる。体の中に何かが挿入ってくるという感覚は、寄生虫には新鮮な体験だった。喘ぎ声が漏れないように口を枕に押し付けて、クリトリスを刺激しながら挿入を続けていく。やがて、指を根本まで飲み込んだ膣はぎちぎちと二本の指を締め上げてきた。
「んんんぅっむぅぅぅぅっ!」
『っくぅぅ!っふ・・・・・・っ!』
対照的な喘ぎ声が脳内で交差する。枕でも抑えきれない寄生虫のはしたない喘ぎ声と、感覚に慣れているからか意志が強いからか抑え気味な愛衣の喘ぎ声。しかし、感じている快楽は同じだ。肉体が、絶頂へと上り詰めているのも。
「んんんんんんっぶ、んんんんっっ!!」
じゅくじゅくと水音を立てながら、寄生虫は指の挿入を繰り返す。クリトリスを親指で押し潰して、膣内を犯し、快感を貪っていく。そして、快楽に満たされた体はあっという間に絶頂した。
「ぐぅっんんんんんんんんんんんんんんあぁぁぁぁぁぁっっ!!」
枕が無ければ、間違いなく家中に響いていたであろう喘ぎ声を上げながら、寄生虫は初めての女性の絶頂を体験した。精神を根こそぎ焼き尽くすような快楽の奔流に、成す術も無く飲み込まれていく。
「あ・・・・・・っ」
がくがくと痙攣していた体がどうにか落ち着くと、未だ暴れ回る余韻を堪えながら愛衣が体を起こした。自身の痴態で汚れたベッドを眺めつつ呟く。
「ふぅぅ・・・・・・体の主導権が戻ったってことは、満足したってことでいい?」
『・・・・・・』
しかし、返事は無い。まさかと思い左目をつぶって右目で部屋を見回すが、視力は失われてはいないようだ。息を吐きながら、愛衣は寄生虫に語り掛けた。
「何、無視?じゃあ終わりってことにするから」
言いながら、汚れたシーツを片付ける。汗もかなりかいてしまったしまたシャワーを浴びないとと思いながらベッドを整えるが、寄生虫からの返事は一切無かった。・・・・・・どうやら、初めて女の絶頂を受けたことで気絶してしまったらしい。
「はぁ・・・・・・」
溜め息を吐いて、愛衣はシーツを抱えながら部屋を後にした。
『悪かったって!あんなにすげぇものだとは思ってなかったんだよ』
翌日。朝食の目玉焼きトーストをかじってる時に目を覚ましたらしい寄生虫は、何故か謝り倒してきた。
(別に謝る必要は無いけど、とりあえず静かにしてて。話は部屋に戻って聞くから)
脳内で念じると、どうやら通じたようで煩い声は聞こえなくなる。愛衣はゆっくりと朝食を食べて食器を洗った後、母親にもう少し休むことを告げて部屋に戻った。
「・・・・・・で?何が言いたいの、寄生虫は」
扉の鍵を掛けた瞬間、ぼそりと小声で呟く愛衣。
『いや、その、な?あんだけ好き勝手した上に気絶しちまって、申し訳ないっつうか』
「私が許可したんだから謝らなくていいってば。鬱陶しいから」
『うっと・・・・・・!?』
寄生虫の言葉をばっさりと切り捨てながら、部屋着に着替えてベッドに座る。昨日のハードな練習に、さらに激しいオナニーで消耗した肉体はまだ回復し切っていないようだ。午前中は予定通り体を休めて、午後は軽い練習とスポーツ雑誌のインタビューがある。愛衣がスマホのスケジュールアプリを開いて確認していると、さっき謝罪をぶった切られた寄生虫が言ってきた。
『・・・・・・なぁ、お嬢ちゃん。わざわざ体借りてオナニーしちまった俺が言うのもなんだけどよ、やっぱりハード過ぎるだろスケジュール。遅れを取り戻したいからって、根詰めすぎはよくないんじゃねぇか?』
「はぁ・・・・・・あのね、貴方みたいなのには分からないかもしれないけど、ここまでやらなきゃ勝てないの。世間は天才少女とか騒いでるけど、私以上に才能がある選手なんてゴロゴロいるんだから。だったら私はそいつら以上に努力しないと。大体、今日だって午前休み入れてるんだからハードでもなんでもないでしょ」
『うーん・・・・・・いや、でもなぁ・・・・・・』
「そんなに私を心配してくれるなんて優しいね。じゃあ一週間に一回体を貸すって約束も無しにしていい?今の私にとってそれが一番負担なんだから」
皮肉めいた愛衣の言い方に、押し黙り言い返せない寄生虫。そんな様子は鼻で笑いながら、愛衣は目を閉じ体を休めるのだった。
一週間後。今日も道場での稽古を終えた愛衣は、夜道をランニングしながら家へと向かっていた。本来なら母親が迎えに来てくれるのだが、少しでも足腰を鍛えてブランクを取り戻したい愛衣はそれを拒否。こうして帰宅までの時間をロードワーク代わりに使っているのだ。
「はっ、はっ、はっ」
規則正しく息を吐いて、彼女は一定の速度を維持したまま走っていく。その感覚を共有しながら、寄生虫は心配げに話しかけた。
『かなり疲れが溜まってるのに、帰り道くらい無理しなくてもいいんじゃねぇか?』
その声を無視して、愛衣はペースを落とさず走り続ける。この一週間、愛衣は基本的には寄生虫の声を無視すると決めていた。ただでさえ馬鹿らしい約束をさせられている状況で、脳内でひたすらにやかましく騒がれているのだ。ある程度無視しなければ心が保たない。
『・・・・・・全く、つれねぇなぁ。いいさいいさ、部屋までは大人しくしてるよ。ただ、無理し過ぎて倒れたりするなよ?』
案ずるような寄生虫の言葉にも無視を貫き、僅かにペースを上げる愛衣。家に着く頃には、相当の疲労が蓄積していた。
「・・・・・・それで。今日はどうするの、寄生虫」
帰宅してから諸々を終わらせた後、部屋に戻った愛衣はようやく寄生虫に問いかける。疲れ切っているはずなのに一切表に出さない態度に、寄生虫は畏怖すら感じていた。
『あー・・・・・・こっちから求めといてなんだが、こんだけ疲れてるのに大丈夫なのかよ』
「寄生虫に貴方に優しくされても嬉しくない。で、するの?しないの?」
相も変わらずキツい物言い。寄生虫は無い口で溜め息を吐きながら、仕方ないといった風に呟く。
『ふぅー・・・・・・分かった、今は体借りないことにするわ。あー、安心してくれ。お嬢ちゃんの視力は今のままにするからよ』
「は?何よ、私の体じゃ不満なの?」
『いやそこに噛みつくのか・・・・・・。違ぇよ、これだけ疲れ切った体でオナっても気分がよくねえし、お嬢ちゃんがオリンピック出て金メダル取るまでは保留にするってこった。その代わり、オリンピックが終わったら纏めて体を借りるからな、覚悟しとけよ』
「・・・・・・優しさのつもり?言っとくけど、そんなことされても貴方に心を許すつもりは」
『あーはいはい分かった分かった!そういうんじゃないから安心しろっての。お嬢ちゃんがどうこうっつうよりは俺が嫌なんだよ。別に見返りを求めてるわけじゃねぇ。オーケー?』
イラつく愛衣を宥めるように寄生虫が言うと、彼女は黙りこくってベッドに横になり、毛布を被って目をつぶった。その様子に、寄生虫は愛衣に聞こえないようにしながら考える。ひょっとしたら、自分はとんでもない貧乏くじを引かされたのかもしれない。宿主がこれでは女の快感を愉しむどころでは無い、と。
『・・・・・・お休み、お嬢ちゃん』
そう言いながらも返事は期待せず、寄生虫は自身も休むことにした。暗闇の静寂の中、一人と一匹はそれぞれに休息する。肉体を同じくしながら、心の距離は酷く離れているようだ。
「ふぅー・・・・・・」
オリンピックまで残り僅か。最後の追い込みで凄絶な稽古を終えた愛衣は、宿泊しているホテルの一室で深く息を吐いた。その後にブツブツと独り言を呟きながら、タブレットを手にし操作する。
「体重は問題無い、ここからは軽めのストレッチだけで・・・・・・とりあえず、対戦相手の映像確認し直そうかな」
真剣な表情でタブレットを眺める愛衣。そんな彼女の集中を乱すような声が脳内に響いた。
『お嬢ちゃんよぉ、わざわざ一人で全部やることも無いだろ?ちゃんとしたトレーナーもいるんだから、細かいことは大人に任せても・・・・・・』
「黙ってて。何度も同じことを聞かないでよ、私にはこのやり方しか無いの」
愛衣の言葉に、寄生虫は無い肩を落とす。この二ヶ月程、愛衣はずっと気を張り詰めて過ごしていた。そのストイック過ぎる生き方は、寄生虫にとっては苦しんでいるようにしか見えない。何より体を共有しているからこそ分かる。愛衣は心身共にギリギリで、彼女に寄生してからずっと、危なっかしい綱渡りをしているように思えた。
『・・・・・・そんなに、オリンピックで金メダルを取るのが大事なのか?周りに期待されてるのは分かるけどよ、それでお嬢ちゃん自身が苦しんでたら本末転倒っていうか』
「・・・・・・」
寄生虫の問いかけにも無言のまま、愛衣はタブレットを操作している。一度こうなったら、おそらくどれだけ話しかけても無視されてしまうだろう。今までがそうだったからこそ寄生虫は理解しているが、それでも今日に限ってはさらに言い募った。
『確かに俺には理解出来ない世界の話だ。国の代表になって勝負するんだから、重責って奴はあるんだろうさ。でも、だからって無理し過ぎだぞ。いくら体を休めたところで、精神的にはずっと張り詰めたままじゃねぇか。もう少し』
「黙っててって言ったでしょ!貴方には関係無い!私を利用してる分際で、私を気遣ってるような言い方はやめてよ!」
突如、爆発するように愛衣が叫んだ。感情を剝き出しにしたその声に寄生虫はたじろぐ。こんな彼女は、今まで見たことが無い。
「大体目さえ見えなくなってなければ、貴方みたいなおぞましい奴に頼ることも無かった!迷惑なのよ頭の中でペチャクチャペチャクチャ!金メダル取るのが大事?当たり前でしょ、その為にどれだけ努力してきたと思ってるの!私にはこれしか無い!空手しか、っゴホッゴホッ!」
急に大声を出したせいか、咳き込んで背中を丸める愛衣。あまりにも痛々しいその様子に、寄生虫は何も言えなかった。ただ、その慟哭を、震える体を感じることしか出来ない。
「はぁ、はぁっ・・・・・・」
荒い息を吐いて、愛衣はベッドに横になる。うずくまった彼女は、時折嗚咽を漏らしながら、絞り出すように呟いた。
「お願いだから、私の邪魔をしないでよ・・・・・・!!」
その言葉を最後に、愛衣は気絶するように意識を失った。呼吸以外の音が聞こえない部屋の中、愛衣・・・・・・寄生虫は、ゆっくりと体を起こす。
「このまま寝たら風邪引くぞ、つっても聞こえてないよな」
寄生虫は愛衣の体を動かし、普段の着替えを思い返しながら寝間着に着替えた。脱いだ服を畳んで部屋の隅に置いた後、改めてベッドに横になり毛布を被る。
「まぁ、お嬢ちゃんの言う通りだよな。俺はあんたにとっては邪魔者でしかない。四六時中監視されてるような気分だろうし・・・・・・同情するよ。目を治す為とはいえ、俺なんかに寄生されるなんてな」
呟きながら、寄生虫は体の力を抜いていく。今の愛衣には、何よりも休息が必要だ。体も、そして心も。肉体を共有している寄生虫には、そのことがよく分かっていた。
「へへっ、本当ならお嬢ちゃんの体を愉しみたいところだけどな。今は我慢しとくよ。あれだけ言われたら気分も乗らないしな」
目をつぶったまま、意識の無い愛衣に語りかける寄生虫。優しげな、慈しむような声色で続ける。
「だが、なぁ。そうやって人生を捧げるには、お嬢ちゃんは若過ぎる。才能があって、周りから期待されて、お嬢ちゃん自身も真剣で。それでも」
少しずつ眠気に包まれる中。寄生虫は、最後にぽつりと呟いた。
「俺には、お嬢ちゃんが苦しんでいるようにしか思えないんだよ」
その声を最後に、しばらくして寝息が聞こえ始める。誰にも聞こえなかった寄生虫の独白は、最初から無かったかのように部屋の闇に溶けたのだった。