「ただいまー」
マンションの一室。仕事を終えた俺が中に入ると、美味しそうな匂いが鼻をくすぐった。きっと、幸恵が手料理を作ってくれているんだろう。
俺、神宮魁人(じんぐうかいと)は、彼女である間宮幸恵(まみやゆきえ)と同棲をしている。幸恵とは高校時代からの付き合いでかれこれもう10年にもなるのか。そろそろ結婚も考え、最近は貯蓄に力を入れている。まぁ、俺も高給取りという訳じゃないから苦労してるけども。
「幸恵ー?」
いつもなら帰ってくるおかえりなさいの言葉が聞こえず、少し変に思いながらリビングに入った。何か手の離せない作業中だったのだろうか。と
「・・・・・・え?」
リビングの中央、食事用のテーブル近くに幸恵はいた。食器棚にもたれかかるように座り込み、目を閉じている。
「幸恵、幸恵!大丈夫か!?」
駆け寄って肩を揺するが、反応が無い。息はしているみたいだが、口の端から涎が垂れている。こんなことは初めてだ、何かの急病かもしれない、早く救急車を呼ばないと・・・・・・!混乱と恐怖で震える手でスマホを取り出し、119を押そうとした所で滑り落としてしまう。あぁ、もう、何をやってるんだ!急いで滑っていったスマホを探し、テーブルの下に頭を突っ込んだ。
「クソ、どこに・・・・・・ん?」
何か、変なものがある。球状の、ピンポン玉くらいの大きさの物体がスマホ近くに転がっていた。半透明で、うっすらとピンク色だ。こんなもの、家にあっただろうか?いや、気にしてる場合じゃない、今は早く救急車を・・・・・・!
「か、かいと・・・・・・」
「!?!??」
突然、かすれ声がその球体から聞こえる。これは、幸恵の声で間違い無い。ど、どういうことだ!?混乱しながらしながらスマホと一緒に球体を拾うと、ぐにぐにした感触と共に僅かに震えているのが伝わってくる。まるで、生き物のようだ。
「かいとー、ごめん、たすけてー・・・・・・」
舌足らずな声で俺に訴えかけてくる球体。わけが分からない。録音機能とかが付いているのだろうか。って、だから今はそんなことより救急車を・・・・・・!
「わたし、へんなくすりのんじゃって、からだからでちゃったの。たぶん、いまのわたしをのませてくれればもとにもどれるから。おねがい!」
うにうにと動きながら意味不明なことを言う球体。ど、どういうことだ?分からない。これ、一体なんなんだ?
「・・・・・・あぁもう!」
とりあえず後回しだ。球体とスマホを掴み、意識を失っている幸恵の所へ戻る。改めて、慎重に119とタップしようとしたところで球体が跳ねた。まるで意志があるかのように俺の手から逃れたそれは、そのまま幸恵の体へと落下し、へばりつくように半開きの口に入っていく。
「あ、おい何を!」
止める間も無く、球体は幸恵の中へと入り見えなくなってしまった。ヤバい、吐き出させないと・・・・・・!幸恵の背中を強く叩こうとした直後、彼女の体がぶるりと震える。そして、
「ん、んん・・・・・・」
うっすらと目を開き、こちらを見る幸恵。驚き固まっている俺に向かって、ほっとしたように呟いた。
「よ、よかったぁ。元に戻れたみたい・・・・・・」
「お、おい、大丈夫なのか?今、変なのが口に」
「変なのっていうか。私だよ、うん。えぇっと、ちょっと待って」
訳の分からないことを言いながら、幸恵は立ち上がり軽く伸びをする。ストレッチをするように、体の調子を確認しているみたいだ。
「いや、でも意識を失ってた訳だし・・・・・・とりあえず病院に行った方が」
「待って待って、ちゃんと説明するから。別に病気ってわけじゃなくて、実は今日、買い物帰りに変なお店に寄ってね」
心配で仕方ない俺の様子をどうどうと宥めて、幸恵は説明し始めた。どうにも奇妙な、信じられないような話を。
「・・・・・・いや、信じられないよ。ありえないだろ、流石に」
話を聞いた俺は、頭を抱えて呻く。それ程に、幸恵の話は突拍子もなかった。
幸恵曰く。仕事帰りに古びた店を見つけ、興味本位で入ったら小学生くらいの女の子の店員に迎えられた。巧みな営業トークでおだてられた幸恵は、口車に乗せられるままに怪しげな漢方薬を購入。帰宅後にそれを服用したところ、口から球体となって魂のようなものが吐き出されて、幽体離脱のようになってしまった。なんとか体に戻ろうにも、球体の状態では上手く動けず困り果てていたとのこと。・・・・・・改めて整理しても、まるで信じられない話だ。
「でも、実際そうだったし。私もこんなことになるなんて思ってなかったけど、魁人も見たでしょ?私が変な玉みたいなのになってるの」
「うーん・・・・・・でもなぁ。霊体とかは百歩譲ってまだ分かるけど、魂が物体として外に出るなんて聞いたことも無い。幸恵の勘違いじゃないのか?」
「だから、私も信じられないけど本当にそうなっちゃってたんだって!私が口の中に入った意識取り戻したのだって、そういうことなんだよ!」
熱っぽく語る幸恵だが、俺にはどうにも信じられなかった。元々、彼女は思い込みの激しい性格なところがある。だから今回も、何か思い違いをしてるのかもしれない。
「もー、どうして信じてくれないの!?いつもは私のこと信じてくれるのに!」
「いや、流石に今回は突拍子が無さ過ぎるというか・・・・・・うーん」
「むぅ・・・・・・分かった!じゃあ、魁人も試してよ!そうすれば嘘かそうじゃないか分かるでしょ?」
そう言って、幸恵は手提げカバンから何かを取り出した。巾着袋に見えるそれの中を漁り、油紙に包まれた飴の様なものを差し出してくる。
「ん!」
「ん、じゃなくてだな・・・・・・これを飲んだら意識を失ったんだろ?最近は変なドラッグが簡単に手に入るってのも聞いたことあるし、危険だって。だからとりあえず病院に」
「うるさーい!喰らえーうぉぉー!」
子供みたいに腕をぶんぶん振りながら、暗褐色の小さな球体、漢方薬らしきものを押し付けようとしてくる幸恵。こういう子供っぽい所も可愛いんだけど、今回に関してはちょっと困ってしまう。と、
「幸恵、ちょっと落ち着けっんぐっ!?」
幸恵の腕の勢いで吹っ飛んだ漢方薬が、彼女を宥めようと開いた俺の口に見事ゴールしてしまった。吐き出す間も無く喉の奥に到達し、俺の意に反して飲み込んでしまう。
「やっべ・・・・・・!吐き出さないと!」
「わー、今の凄い。大丈夫だって、私も今は全然平気だし。それに、効果はすぐっぽいから」
「いや、そういう問題じゃ・・・・・・んん?」
喉に指を突っ込もうか迷っている内に、脳に霞がかかったように意識が薄れていく。体に力が入らない。や、やっぱり毒か何かだろこれ!?俺は幸恵に助けを求める暇も無く、テーブルに突っ伏し意識を失った。
「ほら、言った通りでしょ?へー、こんな感じになるんだ。不思議だねぇ」
───と、思ったんだけど。気付けば、近くで幸恵の声が聞こえる。どうなっているのか、辺りを確認しようとしたところで気付いた。
「こ、これ、どうなってる・・・・・・!?」
体の感覚がおかしい。というより、無い。何かに持ち上げられているような感覚はあるのだが、よく分からない。混乱していると、再び幸恵の声が聞こえた。
「ね?私の言った通りでしょ?というか、こっちの声聞こえてるのかな?私の時は聞こえたけど」
「き、きこえるけど。どうなってるんだ、これ!?」
聞こえるし、話せる。それなのに、耳と喉の感覚が存在していない。ありえない、一体何が起きているんだ。混乱の極みに達している俺に、幸恵はあっさりと言った。
「だから、多分魂的なものなんだと思う。私は少ししたら周りが見えるようになったけど、魁人はどう?」
いや、だから全然分からない。しかし、異常な事態が起きていることだけは分かった。と、徐々に目が見えるようになってくる。いや、目の感覚は無いというか、どう説明すればいいのか分からないんだけど。
「あー、もう、なにがおこって・・・・・・ん、んん?」
見える。ピントが合うように、少しずつ視界がクリアになっていく。そして、俺は手鏡に映る幸恵の姿を確認した。上機嫌な表情で、ピンポン大の球体を手のひらに乗せている。・・・・・・何か、変だ。
「あっ」
そうだ。俺が映っていない。鏡なのに、俺の姿では無く幸恵しか映っていないのだ。正確には、幸恵と妙な球体。これ、は。
「これって、まさか、いやそんな・・・・・・」
俺が声を出すと、球体がぐにぐにと動く。そんな馬鹿な。ありえない。あらゆる否定が湧き上がるが、そんな思考を両断するように幸恵が言い放った。
「そ。これが今の魁人でーす!私がこうなった時と同じ感じっぽいね」
「は、はぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!??」
どこから出しているか分からない悲鳴を上げながら、俺はぐにぐにと動く奇妙な球体・・・・・・今の俺を見つめるのだった。
「も、もとにもどしてくれ!ゆきえ、たのむ!」
「えー、どうしよっかなぁー。私のこと、信じてくれなかったしなぁー」
悪戯っぽい笑みを浮かべながら、幸恵は俺を指先でつつく。うへぇ、つつかれる感覚はあるけど今までの体のどの部位でもないのが気持ち悪い。しかし、意識を集中させると自分の体が球体になっているという感じが伝わってくる。その異常さは、恐怖に近い。
「た、たのむよ。こわいんだ。おれが、おれじゃないみたいで」
情けないけど、本音を声に出して懇願する。俺の気持ちを察したのか、幸恵は立ち上がり、テーブルに突っ伏している俺本来の体へと近付いた。
「ごめんね。ちょっと、調子に乗りすぎちゃった。えっと・・・・・・これでいいかな?」
俺の体をぐいっと持ち上げて、口の部分に球体の俺を押し付ける。俺は僅かに動かせる球体の体を使い、喉の奥へと向かおうとし、食道をどうにか抜けたところで───
「ん、がっ!?」
意識を、取り戻した。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・・・・」
荒い息を吐きながら、立ち上がって自分の体を確認する。いつも通りの、俺の体だ。さっきの球体みたいな体じゃない。
「な、なんだったんだ今の・・・・・・」
「だから、この漢方薬の力だって。凄いよね、こんなのがあるならテレビやネットで有名になってるはずなのに」
呑気に言う幸恵。明らかにそういう問題じゃないと思うんだけど・・・・・・。
「ふぅ・・・・・・と、とにかく。その漢方薬は捨てよう。さっきは元に戻れたけど、訳の分からない効果を持ってるみたいだし」
「えー!やだよ、せっかく買ったのに!それにさ、面白そうじゃない?こういうの、普通は体験出来ないじゃん?」
「いや、お前な・・・・・・」
幸恵は目をキラキラさせて言い、俺は溜め息を吐いた。ありえないような状況だというのに、どうにも気が抜けてしまう。
「分かった、じゃあ魁人がOK出さなかったら飲んだりしないから!ね、だから捨てるのは勘弁して。お願い!」
手を合わせて頭を下げるその姿は、幸恵が頼み事をする時のいつものやつだ。どこまでも真剣にお願いしてくるものだから、俺は最終的にいつも折れてしまう。今回も例外じゃない。
「・・・・・・はぁぁぁぁ・・・・・・。まず、パッケージとかあるなら見せてくれ。何入ってるか確認するから」
「う、うん!えっと、これだよ!」
巾着袋に入った紙片を受け取って、内容を確認した。鹿の角や植物の根っこ、名前も聞いたことも無いもの等々・・・・・・スマホで調べた結果、どれもが漢方薬で普通に使われているものらしい。ひとまず、毒物という線は無さそうだ。
「でも、じゃあなんであんな・・・・・・」
呟いて考えるが、生憎専門外なので何も分からない。一応あぁいう意味不明な効能があるのか検索してみたが、当然のように見つからなかった。うーん・・・・・・。
「・・・・・・体に害は無い、のか?しかし、魂が抜けるって・・・・・・あんなピンポン玉みたいな形で」
「世の中には私たちの知らないことが沢山あるんだねぇ~。あれって魂?人格?よく分からないけど、幽体離脱みたいな感じなのかな」
「いや、どうだろ・・・・・・とにかく、しばらくは服用禁止な?色々調べてみるから。後、買った店も教えてくれ」
「ちぇー、面白そうだったんだけどなぁ。あいてっ」
ブー垂れる幸恵の額に軽くデコピンしつつ、俺は巾着袋を取り上げる。面倒というか、妙なことに巻き込まれそうだ。せめて、危険は無いか調べないとな。
数週間後。結論として、何も分からなかった。
「はぁ・・・・・・」
ネットをどれだけ漁っても情報は集まらず、二人で行った購入店は何故か消えてしまっていた。幸恵の記憶違いでも無く、流石にこの時の彼女は少し青ざめていたことから、俺をからかっているわけでもないみたいだ。
結局、手元に残った十数錠の謎効能を持つ漢方薬をどうすればいいのかは分からず仕舞い。幸恵はそれでも服用してみたいと駄々をこねたが、流石に危ないので今のところは待ってもらっている。
「お疲れ、魁人。コーヒー淹れたけど飲む?」
「あぁ、ありがとう幸恵」
うんうん唸っていた俺に、幸恵がコーヒーを差し出してくれた。テーブルの向かいに座り、彼女は自分の分のコーヒーにミルクをたっぷりと入れつつ言う。
「どう?何か分かった?」
「いや、なんにも。どっかの悪徳業者が適当に売ったものじゃないのか、これ?」
「えー、だって私と話してくれた店員さんすっごく可愛かったよ?小学生くらいなのかな、綺麗な和服着ててさ」
「それがおかしいんだって。普通、小学生くらいの歳の子が働いてるわけ無いんだから」
俺の言葉に、幸恵は無言でコーヒーを啜りながらジト目を向けてきた。彼女もおかしさには気付いているのだろう。それ以上に、漢方薬への好奇心が勝っているだけで。
「・・・・・・はぁ。というか、幸恵はこの漢方薬を試すっていうけど実際にはどうするんだ?魂がピンポン玉みたいになって体を離れるって言っても、具体的にどう楽しむつもりなんだよ」
「それは、うーん・・・・・・。あ、そうだ!例えば私が漢方薬を飲んで、魂ボールが出るとするじゃん」
魂ボールて。
「それをさ、魁人が飲み込んでみたりしたらどうなるのかなー、って。ほら、幽体離脱した人が他の人に憑依してー、みたいな話があるしさ」
「あるか?そんな話。というか、危ないだろそれは。元に戻れなかったらどうするんだ。俺が飲み込んじゃったら幸恵は元の体に戻れなくなるんじゃ・・・・・・」
「その時はまた漢方薬を飲めばいいんじゃない?試してみないと何も分からないからさ!ねぇねぇ、いいでしょ?」
甘えるような声を出す幸恵だが、そういうのは別の状況で聞きたかったな。
「いや、それは・・・・・・危ないだろ」
「大丈夫だって!私も魁人も副作用が無かったし!それに、色々試してみないと効果も分からないじゃん」
「いや、俺らは別に効果を確認する為にやってるわけじゃないんだけど・・・・・・」
とはいえ、幸恵の言うことにも一理ある。いや、あるか?とにかく、幸恵の好奇心は未だ治まっていないのなら、出来る限り安全を確保した状態で試すのも方法の一つか。
「・・・・・・分かった。このままだと我慢出来なくなって食事に盛るとかやりかねないし、今晩試そう。幸い明日は休みだしな」
「ホント!?やったー魁人愛してる!」
いや、本当に別の状況で聞きたかったよ。
「準備はいいか?」
「大丈夫ー。ふっふっふ、楽しみだなぁ」
二人用の寝室で、俺は嬉しそうに笑う幸恵を見つつベッドに腰を下ろした。何かがあった時の為にスマホや救急箱等を用意し、出来るだけの準備を整えてある。
ちなみに。本来は危険性も考えて俺が服用すると言ったのだが、幸恵は自分が飲むと強硬に主張。こうなった彼女はテコでも動かないから、結局俺が折れる形になった。うーん、惚れた弱みはどうしようもない。
「じゃあ、飲むねー。あーん」
幸恵は躊躇無く丸薬を口に放り、水で飲み下す。ベッドに寝かせつつ様子を伺っていると、彼女は体をぶるりと震わせてくたりと意識を失った。
「即効性が凄いな・・・・・・うぉっ」
十秒程経って、ピンポン玉大の球体・・・・・・魂らしきものが口から吐き出される。嘔吐とは違って、自然に押し出されるような印象を受けた。掴み上げ手の上に乗せてみると、しばらくしてぐにぐにと動き出す。
「・・・・・・んー、あー。おっ、せいこう?」
「見た感じ、前と同じだな。変な感じはしないか?」
「しないよー。でも、ふしぎなかんじ。からだはないのに、からだがある、みたいな」
「俺の時もそれは感じたな。正直、怖かった」
手のひらに乗る魂らしきもの、幸恵曰く魂ボールと言葉を交わす。改めて考えるととんでもない状況だな、これ。
「わたしはこわくはないかな。ただ、じぶんでいどうできないのはちょっとふべん」
「まぁ、手も足も無いからなぁ。よし、それじゃ色々調べてくぞ」
会話もほどほどに、前もって準備しておいた実験を始めることにした。ひとまず今回は、魂ボールになった幸恵の感覚を試すことにしている。
「これ見えるか、幸恵?」
「えーっと、くじらがそらをとんで、ぼくはそのすがたにめをうばわれた、かな?」
スマホに表示された文章を正確に読む幸恵。視覚はちゃんとしているらしい。
「わっ、つめたい」
魂ボールに冷蔵庫から出してきたお茶のペットボトルを押し当てると、ぐにょぐにょと魂ボールが蠢く。温度は感じ取れるみたいだな。試しにお湯を入れた容器を触れさせてみると、「あったかーい」という返事が返ってきたので多分間違い無いだろう。
「色々感じ取れるんだな・・・・・・見た目はスーパーボールなのに」
「そだねー。って、なんかへんなにおいするんだけど」
幸恵からは見えないように蚊取り線香を焚いてみたが、嗅覚もあるみたいだ。凄いな、どうやって嗅いでいるんだ?
「匂いが分かるかどうか、蚊取り線香を焚いてみたんだ。これも分かるんだな」
「なんか、ぜんたいでにおいがわかるみたいな。うわー、これやだなぁ」
「うーん・・・・・・後は味覚か。ちょっと今から醤油垂らすぞ」
シーツの染みにならないよう、慎重に醤油差しを傾ける。数滴垂らし魂ボールにかかると、凄い勢いでぐにぐにしながら幸恵が叫ぶ。
「しょっしょっぱい!なにこれ、はだにしみる!えんぶんかたになっちゃう!」
「っと、悪い」
謝りながら、タオルで優しく醤油を拭き取る。味覚もあるとか、一体どういう物体なんだこれは。
「むー・・・・・・なんか、しょうゆのうみにおぼれそうになったかんじ。ちょっとこわかった」
「ごめんごめん。さて、一通り試してみたけど・・・・・・」
五感もあるし、会話も出来る。魂ってそういうものなのか?いや、この魂ボールが本当に魂なのかは分からないけど。
「うーん・・・・・・謎がより深まった感じだなぁ。本当、なんなんだろう」
「でも、ほかのひとはこんなたいけんできないよね。なんかてんしょんあがってきた!」
ぐにりぐにり。魂ボールが盛んに動くが正直気味が悪い。まぁ、これが幸恵だと分かってはいるから恐ろしいほどではないが。と、どうしようか迷っている俺に向けて幸恵が言ってくる。
「ねぇねぇ。やっぱりさ、いまのわたしがたましいなら、かいとにひょういできたりするのかな?」
憑依。個人的に、死後の幽霊とかは信じていないと思っていたけど、目の前の魂ボールは信じざるを得ない。だけど、だからといって憑依っていうのは・・・・・・。
「それ、俺が今の幸恵を飲み込まなきゃいけないだろう?流石に危険だって。元に戻れなくなったらどうするんだ」
「そうしたらまたがんやくをのめばいいって。ねぇ、おねがい。せっかくのきかいなんだからさ」
「・・・・・・んー・・・・・・」
幸恵の言い分は、まぁ理解出来る。丸薬の数には限りがあるし、一度の服用で色々と確かめたいという考えは浮かぶものだろう。・・・・・・いや、幸恵はそんなことを考えてないと思うけど。あぁもう、よく分からない。混乱しながら魂ボールの幸恵をにぎにぎすると、どことなく艶めかしく感じる声色を放ってきた。
「ちょ、ちょっとぉ。さわりかたがえっちだよかいと」
「っとと、ごめん。・・・・・・折角の機会、か。これは、うぅむ、どうしようか」
正直な話。俺は現状起きてる異常な状況に、結構面白味を覚えていた。こういう、よく分からない謎を解明する展開は嫌いじゃないんだ。幸恵と付き合い始めて随分と経つが、彼女の好奇心の強さに俺も影響されているらしい。
「・・・・・・分かった。やるよ。ただ、何か危険そうだったらすぐに吐き出すからな」
「ほんとう!?わーいわすがかいと、はなしがわかるぅ~!」
まったく、我ながら正気じゃない。だけど悪い気分じゃないのが不思議だ。これまでも、規模は違うけど似たようなことはあった。その結果、酷い目に遭ったことだって何度もある。まぁ、それが俺たちの運命なのかもしれないな。苦笑しながら、手元の魂ボールを見つめる。
「最悪、胃に落ちる感覚もあるかもしれないぞ。それでもいいんだな?」
「だいじょうぶ!ばっちこいだよ!」
能天気な返事にやれやれと肩をすくめ、俺はベッドに座り込んだ。念の為、意識を失っても大丈夫なように体勢を整える。
「ふぅー。よし、いくぞ」
「いつでもいいよ。どきどきするね!」
どことなく嬉しげに震える幸恵を、そっと口元まで持っていく。流石に勇気がいるな。逡巡を振り払い、大きく口を開けて一気に飲み込んだ。
「ん、ぐっ・・・・・・」
ごくん。ピンポン玉大の魂ボールが食道を通り、奥に落ちていく感覚がする。それから、それ、から・・・・・・あれ・・・・・・。
「───っと!ちょっと、魁人!?大丈夫!?ねぇ、聞こえる!?」
声が聞こえた。立ち眩みのような、僅かの時間意識を失っていたような感覚。頭を振って意識をはっきりさせようとするが、体が動かない。魂ボールになった時とは違って、ちゃんと体の感覚自体はあるのに。
『ど、どういうことだ?』
声も出せない俺に、『俺』が叫ぶように言った。
「あ、えっと、魁人!?よかった、意識はあるんだね」
ど、どういうことだ?想定していなかった状況に混乱しながら、俺は言葉を絞り出す。
『幸恵か!?今どうなってるんだ!?こっちは体が動かせないし、声も出せない。そっちは無事か?』
「え、えっと。私は、今、その・・・・・・魁人の体を動かしてるのは、私みたい」
『は、はぁ!?』
はっきりと見える視界に、勝手に体が動いて手鏡を手に取るのが見えた。手鏡に映ったのは、困ったような表情を浮かべる俺の顔。勿論、俺がそんな表情を浮かべているわけじゃない。その俺ではない俺は、おずおずと口を開いて言った。
「今、私・・・・・・幸恵が魁人の体を動かしてるみたい。なんか、変な感じがするけど。魁人の声が頭に響いてるんだけど、意識とか感触はあるの?」
『意識はあるし、体の感触もあるけど・・・・・・これ、どういうことだ?幸恵に俺の体が乗っ取られてるってことなのか?』
「そう、なのかな。確かに魁人の体を動かせてるけど、頭の中で魁人の声が聞こえるし。どういう状況なんだろう」
片手で両頬をつまんだり表情を色々と変化させたりしながら、俺の体を動かす幸恵が呟く。体が勝手に動くのも奇妙な感覚だが、その体が幸恵と同じ振る舞いをしているというのもまた奇妙だ。落ち着く為に深呼吸しようとしたが、それすら自由に出来ない。仕方なく内心で溜め息を吐いて、意識を切り替える。
「ふぅー・・・・・・。よし、幸恵。漢方薬、飲んでみよう。そうしたら元に戻れるかもしれない」
「おっけー。あれ、でも巾着袋どこだっけ。あ、私の体だー」
ベッドを見渡す幸恵。と、その視線が意識を失った彼女の体に向けられた。眠りについているように見えるそれを、興味深くしげしげと眺める。
「なんか変な感じ。こうやって、自分を客観的に見れるなんて。っとと、巾着袋みっけ」
横たわっている体の向こう側、ベッドの隅に置かれている巾着袋を見つけた幸恵はそのまま手を伸ばす。と、そこでスーツが滑って体勢を崩してしまった。
「わわっ」
『っと、気を付けろよ幸恵』
「んむぅ、ごめんごめん。手足の長さが違うから間隔が掴めなくて・・・・・・あ」
これは。伸ばしていた右手に、柔らかな感覚がある。そちらを向いた幸恵の視界には、幸恵の胸をぐわしと掴んでいる手が映っていた。
『ごっごめん!いや、俺じゃないんだけど!』
慌てて謝るけど、これは俺が謝る問題じゃないのかと途中で気付く。いや、しかしこれは。俺がどうすればいいのか分からず混乱していると、幸恵はゆっくりと指を動かし胸を揉み始めた。予想外の事態に思わずツッコむ。
『お、おい幸恵、何してんだ?』
「いや、なんかさ・・・・・・自分で揉む時より柔らかい気がするなぁ、って。魁人の手だからかな。なんか、魁人がおっぱい好きな理由が分かった気がする」
『は、恥ずかしいことを俺の体で言うのはやめてくれ!』
殆ど悲鳴を上げるように幸恵に言うが、俺の声はお構いなしに胸を揉みしだくことを止めない。挙句、上着の中に手を入れて両手で揉み始めた。
『ちょ、おいバカ、やめろって!寝てるお前を襲ってる俺にしか見えないだろこの状況!』
「他の人は見てないし大丈夫大丈夫。んー、やっぱりこれ、なんか、うーん?」
『分かった、分かったから一旦止まれ!頼むから!』
不味い。明らかに不味い。幸恵もなんとなく感じているようだが、勝手知ったる自分の体のことは俺の方が詳しい。つまり、その、下半身に血が集まり始めている。ヤバい、この状況で幸恵に気付かれたら・・・・・・!
「あ、そういうことか」
俺の祈りも空しく、幸恵は胸を揉むことを止めて俺の下半身に目を向けてしまった。窮屈そうにズボンを押し上げる、俺のムスコ。多分目を輝かせているのだろう、どこかウキウキとした手つきでベルトを外そうとする幸恵。
『待っ、待て幸恵!流石に不味いって!』
「別にいいじゃん、何回も肌を重ねた仲でしょ?今更魁人のおちんちん見て恥ずかしがったりはしないよ」
『そうだけど、そういう問題じゃない!この状況で見られるのは、ちょっと、いつもとは違うだろ!?』
「えいっ」
『ちょっとぉぉぉぉぉぉ!?!?』
俺の言葉もどこ吹く風で、幸恵はトランクスごとズボンを下ろしてしまった。抑え付けられていたペニスがぶるんっと震えながら姿を現し、幸恵はキャーキャー言いながらも一切視線を逸らさない。
「きゃー、うわすっごい!こういう方向から見るの初めて!」
『・・・・・・あぁ、もう』
頭を抱えたいところだけど、それすら出来ない状況に呻くことしか出来ない。いや、別にいいんだけどな?いいんだけど、なんというか、尊厳が・・・・・・・って、んんっ!?
『なっ何触ってるんだ!?』
「んんっ、こんな風に感じるんだ、おちんちんって。あっこの出っ張ってるところ気持ちいいっ」
幸恵の意志のまま、俺の手がペニスを刺激していく。亀頭のカリを指先でなぞり、体をぶるりと震わせた。
『ゆっ幸恵!ストップ!待て!おすわり!』
「私は犬じゃないしー、んんっ!あっついし、なんかもっと大きくなってきた」
駄目だ、これは止められない。それどころか、もっとエスカレートしていく予感しかしない。案の定、幸恵はとんでもないことを言いだした。
「ねぇ、魁人・・・・・・これさ、挿れてみてもいい?」
『は、はぁ?挿れるって、どこに・・・・・・』
俺の疑問に答えるように、幸恵は視線を自分の、意識を失っている体へと向ける。・・・・・・いや、いやいやいや。どういう思考してるんだコイツ!?
『仮にも自分の体だぞお前!?意識無い所を襲うとか最低だ、最低!』
「・・・・・・考えたんだけどさ。私は私で、こっちの体も私でしょ?オナニーと同じじゃない?」
『絶対違う!!!』
叫ぶも、体の自由が無い俺にはどうすることも出来ない。心臓の鼓動がやけにうるさく、全身がじっとりと汗ばむ。肉体が興奮していることが否応なく伝わってきた。幸恵は意識の無い自分の体、その衣服を手慣れた手つきで脱がせ、あっという間に下着姿にしてしまう。
「うわぁ、えっちだ・・・・・・」
感嘆の呟きを漏らす幸恵は、そのまま自分の体へと覆い被さる。抱き着くように胸元に顔を埋めて、柔らかさを思う存分に堪能しているみたいだ。
「ぱふぱふってこんな感じなんだね・・・・・・いつもは邪魔でしかなかったけど、私、初めて巨乳で良かったと思ったかも」
『はぁ・・・・・・もう、好きにしてくれ』
いつもより暴走気味なのは、幸恵の精神が男の性欲に引っ張られているからだろうか?いずれにせよ、止める方法は無いのでいく所までいくしかない。つまり、うん。
「なんか、いい匂いもする気がするし。私ってひょっとして可愛いんじゃ」
『お前は10年以上前から可愛いけどさ・・・・・・いや今言うことじゃないな、くそぅ』
「わぁ、照れる。そういうこと言われると、その、おちんちんが反応しちゃうんだけど」
『どういう気分で聞けばいいんだよそれ・・・・・・』
溜め息交じりの俺の言葉に、胸元に顔を埋めたまま、幸恵がにっこりと表情を変えた。
「笑えばいいと思うよ」
『俺の顔を笑わせてるのはお前だけどな!』
やれやれ、頭が痛くなってくる。と、幸恵はようやく顔を上げ、上半身を起こす。そして、僅かに湿っているパンツ越しに、自分の性器をそっと撫でた。指先に生温い粘液の感覚が伝わってきて、ドキンと心臓が跳ねた。
「わー、ちょっと濡れてる。まぁ魁人をぱふぱふしたし当然か」
『ま、マッチポンプだ』
「違うよ、愛の為せる業だよ」
『それ、本当に意味分かって言ってるか?』
「分かってる分かってる、愛は地球を救うらしいし」
無駄口を叩き合いながら、幸恵は自身の股間を責めていく。自分の感じるところは分かり尽くしているからか、クリトリスを優しく押しながら入り口付近を擦っていると、あっという間に愛液が溢れてきた。・・・・・・次の時、今のやり方を見習ってみよう。
「これくらいでいいかな?魁人のおちんちんは準備万端みたいだし、私もうずうずして我慢出来なさそう」
『マジでやるんだな・・・・・・』
「やるよー。魁人が私をどう感じてるのか知りたいし。いつも必死で堪えてるような表情してたから、ずっと気になってたんだ」
『いや、それは、その・・・・・・あぁもう、勝手にしろ!』
「うん!」
幸恵は元気いっぱいに頷いて、俺のペニスを持ちながら自分の膣へと照準を合わせる。流石に緊張しているのか、腰をゆっくりと進めていくと我慢汁と愛液で濡れた双方が触れ合った。
「『んんっ』」
くちゅり。いやらしい音と共に、幸恵の膣が俺のペニスを呑み込んでいく。意識が無くても感じているのか、彼女の体がぴくんと動いた気がした。
「う、うわ、ぬめぬめで、あったかくて・・・・・・し、締まるぅ」
『変な声出すなよ。それに、まだ半分も挿入ってないぞ』
慣れていない感覚に腰を止める幸恵と、何度も経験があるからある程度余裕のある俺。いや、快感自体に経験はあってもこんな奇妙な状況の経験は無いけど。
「わ、分かってるけどっ。いつもと感じ方が違って、新鮮で・・・・・・っ」
だいぶもどかしいが、今の俺に体の主導権は無い。へっぴり腰と言っていい動き方に、俺はどことなく昔を思い出した。確か、幸恵と初めてシた時の俺もこんな感じだったな。俺は童貞だったし、幸恵も処女だった。懐かしさを覚える中、徐々に腰が進んでいく。
「はあぁっ・・・・・・!なんなの、全然違うっ・・・・・・!うぅ、気持ちいい」
時間をかけて、ようやくペニスが根本まで押し挿れられた。体の意識は無いはずなのに、まるで啜るように蠢く膣肉が全体を刺激してくる。いつもよりもねっとりとしたその動きに、初体験の幸恵は情けない声を上げた。
「あっこれ駄目っ、なにかこみ上げてくるっ!」
『あ、おい待て!コンドームも付けてないんだぞ!?』
焦燥感が俺にも伝わり、ペニスの奥から精液がせり上がるような感覚が俺たちを襲う。三擦り半ですらないし、そもそも中出しは不味い。止めようとするが、既に遅かった。
「んんんっあぁぁぁぁぁっ!?」
俺の口で喘ぎながら、幸恵は思いっきり自分の中でぶちまけてしまった。どくりどくりとペニスがポンプのように脈動し、大量の精液を胎内へと送り込む。それと同時に、俺の意識がどんどん遠のいていくのを感じた。
『な、なんだこれっ、ぇ・・・・・・』
幸恵と一緒に感じていた射精の快感が消え去っていく。肉体の感触も、視界も、何もかもが無くなっていく。俺の意識が、射精の勢いと一緒に吐き出されてしまっているような感覚。助けを求めようにも、もう何も見えないし分からない。俺はそのまま、何も無い暗闇へと落ちていって───
「えっあぁぁぁぁぁぁんんんんんんっっ!?!?」
凄まじい快楽に襲われ、目を覚ました。全身が痺れているような、未知の快楽が暴れ回っている。
「なんっくぅぅぅぅぅぅぅっっ・・・・・・!!?」
必死で喘ぎ声を噛み殺すが、どうしても呻き声が漏れてしまう。なんだ、どうなってるんだ。涙で滲む視界を凝らし、状況を確認しようとした。と、
「あ、あれ、私・・・・・・?なんで、動いてるの?」
目の前に、気の抜けた顔をしている俺がいる。いや、待て。今の俺の体を動かしてるのは幸恵だったはず。つまり、まさか・・・・・・!
「っつふぅぅ、おい、これまさか・・・・・・っ!」
自分の体を見下ろすと、二つの大きな半球が見える。柔らかいそれは覆いかぶさってきている男の胸板に潰され、甘い快感が俺の脳を焼いてきた。間違いない、これは。
「これ、幸恵の体か!?」
「も、もしかして、私の中にいるの魁人?えっなんで、あの薬飲んだりしてないのに」
混乱する俺たちをよそに、欲望を吐き出したペニスが小さくなり、膣から抜ける。自身の股間、膣から精液が零れ落ちる感覚を覚えながら、俺はハテナマークを浮かべる自身の顔を眺めつつ必死に落ち着こうとしていた。
「つまり、アレだ。端的に言うと、入れ替わったってことになる、のか?」
「うん、そうみたい。すごいよね、これも漢方薬の効果なの?」
ひとしきり落ち着いた後。俺たちは汗や体液を体から拭き取りながら、現状の理解に努めた。どうやら、俺たちの体は入れ替わってしまっているらしい。いや、入れ替わったのは魂か?
「どう考えても、薬が関係してるのは間違い無いだろうけど・・・・・・これ、戻れるのか?」
もし戻れなかったら。そう思うと、背筋に寒いものが走った。当然だが、俺は幸恵として生きていくことなんて出来ない。幸恵も同じはずだ。なんとかして、元に戻る手段を見つけないと。そう考えていると、
「うーん・・・・・・あ、分かったよ戻り方!」
「本当か?なんか嫌な予感がするんだけど」
俺の体で無邪気に手を上げる幸恵。いや、流石にこんな状況だ、彼女も真剣に考えているはず。
「えっちしてこうなっちゃったんだからさ、もう一回えっちしたら元に戻るんじゃない?」
「は、はぁ!?」
駄目だった。とんでもない提案に俺は目を見開き、首をぶんぶんと横に振る。
「いやいやいやいや、それは無いだろ。しかも、あれだ。男に犯されるのはごめんだよ俺は」
「えー、さっきは私の体を好き放題犯した癖に」
「体動かしてたのはお前だろ!大体、それで元に戻れる保証も無いのに・・・・・・!」
「でも、試してみないと本当のことは分からないよ?いいじゃん、減るもんじゃないし」
「俺の精神が削れるんだって!」
俺の顔を近付けてくる幸恵を拒否するように押しのけるが、確かに一理ある。もしそれで戻れるなら願ったりなんだけど、でも流石に自分に犯されるのは・・・・・・。
「大丈夫。ねぇ、優しくするからさ。ヤってみようよ」
「・・・・・・ぐ、む・・・・・・」
無邪気に、それでいて花が咲くように微笑む。俺の顔だというのに、それは間違い無く幸恵の笑顔だった。あぁ、駄目だ。また流されてしまう。良くないと分かっているのに、惚れた弱みだよチクショウ。
「・・・・・・俺がやめろって言ったらちゃんとやめるか?」
「うん、やめる!私の体だしさ、色々分かってるから変なことにはならないって」
「それが怖いんだよな・・・・・・」
幸恵の体で意識を取り戻した時、体の中を暴れ回る快感は相当なものだった。あれが余韻だというのを考えると、実際にセックスした時の快楽がどれほどのものになるか想像がつかない。しかも、相手は他ならぬ幸恵だ。正直怖いという気持ちがある。
「心配しないで。私、いつも気持ちいいから。魁人だって知ってるじゃん、だから大丈夫」
「いや、そうじゃなくて、うぉっ!?」
手首を掴まれ、そのまま押し倒される。そうか、入れ替わってる状態だから力じゃ敵わないんだ。普段とは違う体の感覚に動揺していると、幸恵が俺の体でのしかかるように上になってきた。あぁクソ、思考が追い付かない。
「ふっふっふー。いつもと逆だから、なんか興奮しちゃう。私ってこんなに腕細いんだね」
「お、おい。なんか目が怖いぞ」
「魁人の目はいつもこんな感じだって。押し倒される私の気持ち、理解出来た?」
「いや、むしろいつもお前から押し倒して、んあぁっ!?」
胸元に手が伸ばされ、ぐにゅりと揉みしだかれる。ぴりっとした快感が静電気のように脳に伝わって、艶めかしい喘ぎ声が今の俺の口から漏れてしまった。
「おまっ、ちょっやめっんんんっ・・・・・・!」
パン生地か何かをこねるように丹念に揉まれ、俺は胸・・・・・・おっぱいからの快楽に悶える。カァッと体が熱くなり、下腹部がじゅんっと疼くような感覚。男の体とは違う、慣れない刺激が俺の精神を焼いていく。
「さっきも揉んだけど、やっぱり私のおっぱい柔らかいなぁ。揉んでると、なんか安心するみたいな」
「んぅっ!ゆ、幸恵、そんながっつくなってっ」
「がっついてないよー。そんなこと言う魁人はこうだ!はむっ」
「はっんんぅぅぅぅっっ!??」
ち、乳首が。乳首が吸われている。電流が全身に走って、俺は体をくねらせた。
「まっんぅっ、くぅぅぅぅぅっ・・・・・・!馬鹿やめろ、赤ちゃんじゃないんだからっ!」
「んじゅるっ、だって吸いたかったら。前に少しだけど魁人も吸ったことあるじゃん。駄目?」
「いや、男の時にもあるものを吸われるのは、なんかこう違う問題だろ!?」
「違わないって。別に母乳は出ないけど、なんか吸いたくなっちゃうんだ。これが男の本能なのかな」
「お、お前が暴走してるだけっくぅん!?」
乳首を甘噛みされ、さわさわとおっぱいを撫でられる。乳首が固くなってくる感触を受けながら、俺はシーツがしわになるのも気にせずはしたなく乱れた。これは、よくない。ただでさえいつも幸恵にやられっ放しだというのに、男女が逆転してるこの状態だとさらにやられ放題だ。
「あむっれろっ、んふふ、なんかいい感じ。そろそろこっちはどう?」
「ばっんんんんぁぁぁぁあぁぁっ!おまっ中ぁっ!?」
ぬるり。一度中出しされている膣は、ごつごつした男の指をすんなりと呑み込む。その瞬間、快感がぞわりと全身に走った。おっぱいのものとも違う、快楽の火に炙られるような刺激。
「だっだめっやめっぁぁぁぁぁぁぁああああっ、んんんんんんんっ!!」
「ちゃんとやめろって言わないと分からないよ?それそれ、こっちも気持ちいいからね」
「ひぎっっんんんんぅぅぅぅぅぅっっ!!??」
また、違う快感。体の中心を貫かれるような鋭い刺激は、どうやらクリトリスからのものみたいだ。指先で優しくこねくり回され、体の痙攣が止まらない。俺の意思とは関係無く喉から嬌声が漏れ、涙が零れて愛液が噴き出す。シーツには体液が混ざり合った染みが広がっていき、もうぐちゃぐちゃだ。
「感じてる時の私ってこんな顔するんだ。それとも、中身が魁人だからかな」
あられもない姿になっているであろう俺をうっとりと眺めながら、幸恵はペニスを軽くしごき腰を押し付けてきた。や、ヤバい。ただでさえ限界なのに、挿入されたらどうなってしまうんだろう。
「はっ、はぁっ・・・・・・ゆ、幸恵、ストップ、一旦休憩を」
「魁人も男なら分かるでしょ?ここでお預け喰らうのは切なすぎるよ」
「んあっ!」
膣の入り口をペニスでペチペチと叩かれる。確かに、その気持ちは分からなくも無い。目の前に恋人がいて、はしたなく乱れているなら挿れたいと思うのが本能だ。問題は、俺が挿れられる側だということで。
「こ、擦るなぁっ・・・・・・!」
「ねぇ、お願いだよ魁人。元に戻るためだからさ。いい?いいよね?」
「う、うぅっ」
にゅるにゅると膣の入り口をペニスが擦る。お腹の奥が疼いて、ペニスが欲しいと訴えかけてきた。そ、そうだ。これは元に戻るためだ。だから、仕方ない。自分に言い訳をしながら、俺はこくりと頷いた。その瞬間、
「いくよっ!」
ズン、と。いきなり、根本まで貫かれた。俺の膣は柔軟に広がりながら全てを受け止め、全てがみっちりと満たされた感覚がする。
「っあ、」
息が止まる。視界がパチパチと明滅して、真っ白になっていく。一拍置いて、歓喜の絶叫が口から放たれた。
「あぁっあぁぁぁぁぁっぁっぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああっっ!!!??」
イッている。初めての女の絶頂は、なにがなんだか分からない。ただ、何もかもが気持ちいい。体の中が抉られる度、思考も理性も吹き飛ばす快楽が襲い掛かってくる。
「ああぁぁぁっぁっ、あはっんんんんんぅぅぅぅぅぅぅぅっっっ!!」
さっきの葛藤も戸惑いも、容易く押し流されていく。気持ちいい。気持ちよくて、たまらない。
「うわっさっきより締まる!これ、魁人もちゃんと気持ちよくなってるってことだよね!?」
男の声。俺の声だ。幸恵の声だ。俺は音を頼りに腕を伸ばし、愛しい恋人を引き寄せる。縋るように口を尖らせ、キスをせがんだ。
「んむっんんんんんんんっ!!」
イき続けながら唇を押し当て、口内を貪る。舌で歯茎をなぞり、幸恵の舌に絡ませる。ドロドロに溶けあうような、濃厚な交わり。体が、心が、とても悦んでいる。
「んちゅっ、魁人激しっ気持ちいいよぉ!」
腰が突き込まれる度に、子宮の入り口が抉られる。肉と肉がぶつかる音が繋がった場所から響き、快感がとめどなく溢れてくる。多幸感で脳が痺れて、奇妙な浮遊感を覚えた。飛んで行かないように四肢を絡ませ、がっちりと幸恵に抱き着く。返事をするかのように幸恵の力が強まって、俺を抱き潰すように腰の動きが早まっていく。
「もっもうっ出ちゃうっまたぁっ!!」
「きてっだせっだしてくれぇぇぇぇっっっ!!!」
切羽詰まった声に、請うように腰をくねらせる俺。膣肉がペニスにまとわりつき、射精を促すように蠢いた。瞬間、亀頭がぶくりと膨れ上がる。
「あっでっでるぅっっっ!!!」
「きたっぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああぁぁぁぁっっ!!!!」
マグマの様な精液が噴き出し、俺の中にぶちまけられた。子宮口が吸い付き、精子の一匹も逃がさないように吸い上げているような感覚。温かいそれがお腹に広がっていき、俺は無意識の内に俺の顔、今は幸恵の顔を胸元に抱き寄せた。
「はぁっんんんんんんぅぅぅぅぅぅっ・・・・・・!!」
びくびくと痙攣する体は、快楽漬けにされておかしくなってしまったみたいだ。背中にシーツが擦れるだけで、ペニスが脈動するだけで、覆いかぶさっている男の肌と自分の肌が触れ合うだけで。たまらなく気持ちがいい。小さな快感の爆発が体のそこかしこで起きて、とうに限界を迎えていた俺の精神は意識を手放した。
『ちょっと!起きて魁人!というか魁人いる!?いるよね!?』
「ん・・・・・・」
頭の中に声が響く。そんなに時間は経っていないのか、未だに疼いている体の感覚を感じながら目を開けた。
「お、おもい」
覆い被さっている幸恵・・・・・・俺の体は、意識が無いのかぐったりとしている。そのせいで身動きが取りづらい。と、
『あっ良かった起きた!でもあれか、これって元に戻ってないってことだよね?』
頭の声が騒がしい。というか、えぇと・・・・・・。快楽が抜けきらない頭で思考を回し、状況を理解しようとした。
「あー・・・・・・幸恵、か?」
『うん!魁人だよね?なんか、こんな感じになっちゃった』
「こんな感じって、あぁ、そういうことか?」
気持ちよさそうに寝こけている俺の体を押しのけて、どうにか体の下から這い出す。全身がどろどろで気持ち悪い。タオルで敏感なままの肌を拭きながら、幸恵に問いかけた。
「んんっ・・・・・・今度は、幸恵の体に俺と幸恵の二つの精神が入ってるってことだよな。俺の体に二人が入ってた時みたいに」
『多分、そうだと思う。でも、なんで体の持ち主が体を動かせないんだろうね。魁人の体の時は私に主導権があったし、私の体の時は逆だし。うーん、変なの』
「そう、だな。これ、どういう理屈なんだ・・・・・・?」
鈍い頭で考えるが、中々思い当たらない。と、幸恵が何かを思いついたような声を出す。
『あっそうだ!』
「ん、何か分かったのか?」
『いや、それはまだだけど。ねぇねぇ魁人、私の体気持ちよかった?』
「ぶっ!?」
ひ、人が真面目に考えている時になんてことを。その話題に触れないようにしていたのに、あまりに直球な言葉に噴き出してしまった。
『あー、人の体でそういう汚いのはやめてよ』
「いや、じゃあ犯されるのはいいのかよ・・・・・・全身ぐちょぐちょだぞ?」
『それは気持ちよかったからよし!それで、どうだった?いつもの私よりも感じてるみたいだったけど』
「む、ぅ」
答えは決まっている。素直に言うのが、少し恥ずかしいだけだ。
「・・・・・・気持ち、よかったよ。なんか、自分の全てが吹き飛ぶくらい気持ちよかった。凄いんだな、女の快感って」
『ふっふっふ、そうでしょー!でも、それだけじゃなくてさ。好き同士の私達だから気持ちいいんだよ、きっと』
「随分、ロマンチックなこと言うなぁ」
『私はロマンに生きる女だもん。入れ替わってても気持ちよかったっていうのは、そういうことなんだって思ってる』
そんな幸恵の言葉に苦笑を浮かべながら、俺は大きく頷いた。確かに、そうなんだろう。想いを向け合っている二人だからこそ、より気持ちよくなったんだ。
「まぁ、うん。それは置いといて、だ。俺の意識を体に戻すのはどうすればいいんだ?というか、なんでセックスをしたら意識が移動するのかが分からない」
照れ隠しに現状を整理する。一度目、幸恵の魂ボールを飲んだ時。二度目、意識の無い幸恵の体に射精した時。三度目、入れ替わった状態でセックスした時。共通するのは・・・・・・。
『うーん、もしかしてだけどさ。えっちした時に意識が映ったのって、中でいっぱい出したからじゃない?』
「え、いやそれは・・・・・・」
幸恵の斜め上な意見に驚くが、改めて考えてみると案外しっくり来る。あの漢方薬が魂や精神、意識を物質にする効果を持つのなら。もしかして、精液と一緒に意識が体に流れ込んだから、こういう事態になったのかもしれない。
「・・・・・・確かに、その可能性は0じゃない、のか?いやでも、今の俺たちは両方幸恵の体にいるんだよな。相手に射精して元に戻るんだとしたら、この状況詰んでないか?」
『あー・・・・・・どうしよ』
仮説は立ったが、それを実証は出来なさそうだ。仕方ない、大人しくまた漢方薬を・・・・・・。
『あっ!ねぇ魁人、これさ、精液じゃなくてもいいのかな?』
「どういう意味だ?」
『いやー、ほら。愛液とか、おしっことかで代用出来ないかなー、って。どうかな、いけそう?』
「おい待て、それってつまり俺に飲めっていうのか!?」
『いつもは熱心に舐めてくれたりするじゃん。同じようなものじゃない?』
「いや、それは流石に・・・・・・!」
まぁ、確かに致している時に気分が盛り上がったりすると、クンニしたりすることはあった。だけど、飲むということを前提にするのは違うというか、かなりアブノーマルというか・・・・・・って、
「というかそもそも、俺の体に意識は無いんだから、飲ませるのは無理じゃないか?殆ど零れるだろ」
『それは、そうかもだけど。えーじゃあどうしよう、唾液?』
「同じものじゃ・・・・・・んっ?」
幸恵と話しているところで、下腹部に違和感を覚えた。もしかして、これって。幸恵も気付いたのか、呟くように言う。
『あ、話題に出したから尿意が』
「こ、これどうすればいいんだ。女性のやり方知らないぞ?」
『男と同じだと思うけど、とりあえずトイレに・・・・・・あ、でもどうしよう。もし出るのがおしっこじゃなくてどっちかの意識だったら、大変なことになりそうなんだけど』
そういえばそうだ。もしも意識がおしっこと一緒に出るとしたら、トイレで流すと取り返しがつかない。
「う、うぅん・・・・・・し、仕方ない。キッチンから大き目のボウル持ってこよう。それにすれば・・・・・・」
絵面がアレなことになるが、このままだと漏れそうだし手段を選んでいられない。やや内股気味になりながらも、急いでキッチンへと向かった。
『な、なんかごめんね。私が事前にトイレに行ってたら』
「いや、何もかも想定外なんだしこれはしょうがない。っと、これでいいか」
出来るだけ大きなボウルを見つけ、床に置く。そのまま跨り腰を落とすと、妙な羞恥心が浮かんできた。キッチンで、全裸のままボウルに放尿しようとしている。非現実的で、あまりにも奇妙な状況。
『うわわ、結構恥ずかしい。魁人、早く出しちゃって!』
「そう言っても、どうすれば・・・・・・」
『力を抜く感じで!お腹押さえてもいいかも』
言われた通りに下腹部を押すと、何かが漏れる感覚と共にちょろちょろと尿が出始めた。解放感に虚脱感。それに、気が遠くなるような変な感じがする。
「あ、これ、ヤバい、かも」
『えっ、ちょっと魁人大丈夫!しっかりして!た、倒れちゃう!」
ぐらりと体が揺れる。力が抜け、体勢を保ってられない。意識が薄れ自分が消えていくような感覚の中、勝手に体が動きどうにか踏ん張るのが分かった。
「魁人、魁人!あっこれ、もしかして・・・・・・!」
幸恵の声を聞きながら、俺の意識は彼女の体から抜け落ちていくのだった。
「魁人!えっこれ本当に魁人?わかんないけど、とにかく返事して!」
微睡みの中、必死にこちらに話しかける声が聞こえる。あれ、さっきもこんなことあったような。
「ん・・・・・・」
そうだ。幸恵が俺の中で盛大に射精した後、少し意識を失ってた時と同じだ。じゃあ、あれか。もしかして・・・・・・。
「う・・・・・・・いま、おれどうなってる?」
「あっよかった、これ魁人だった!ちょっと待って、これ手鏡!」
手鏡にはほっとした様子の幸恵と、ボウルに入った液体が映っている。液体はゼリー状になっていて、ぷるぷると震えているようだ。つまり、
「これが、いまのおれかぁ」
案の定、魂ボールのような状態になっていた。何故かゼリーみたいな感じになっているけど、この違いは何故だろう。ぼんやりと思考していると、幸恵が息を落ち着けながら言ってくる。
「えっと、なんか体が動かせるようになってからおしっこが固まり始めて。脳内で魁人の声も聞こえないから、もしかしてこれが魂ボールみたいなものなのかなって」
「うーん。ぼーるのつぎはぜりーか。るいじせいがわからない」
ぷるり。魂ボールより固くないからか、波打つように動ける。これなら、自分から這うように移動することも出来るかもしれない。
「それで、どうする?とりあえず寝室までは運んできたけど。えっと・・・・・・飲ませる?」
ベッドに寝かされている俺の体を見ながら幸恵が言うと、俺は頷いて答えた。いや、頷く首も無いんだけど。
「そう、だな。とりあえず、もとのからだにはもどりたい。でも、いしきのないからだにのませられるのか?」
「それはそうだね。うーん・・・・・・口移しとかどう?」
「そ、それは」
今更口移しくらいで照れたりはしないが、口に含まれるのは一応俺自身だ。なんだか、うーん・・・・・・。
「・・・・・・いや。それがいちばんてっとりばやいか。ゆきえ、ごめん。たのめるか?」
「おっけー。コップ一杯分くらいの量だし、なんとかなるでしょ」
あっさりと承諾して、幸恵はボウルを手に抜け殻の俺の体に近付いてるみたいだ。今の俺はボウルに入ってるので、上部分しか見れない。不便さを感じていると、幸恵がボウルを傾けながら言ってくる。
「量的に二回に分けようと思うんだけど、大丈夫?」
「わからないけど、ふきだされてもこまるからな。それでおねがい」
「はーい。これ、魁人とはいえ私のおしっこなんだよね。まさかこんな経験するなんて」
幸恵の言葉に申し訳無さが浮かんでくるが、よく考えればこの状況は幸恵が引き起こしたことでもある。そう思い込んで罪悪感を和らげようとしていると、ボウルがぐいっと傾けられた。幸恵の唇の感触。
「う、おおぉぉぉっ!?」
す、吸われる・・・・・・!今まで味わったことの無い感覚に驚いている間に、思考がぼんやりとしてよくわからなくなってくる。
「んっ、ぅ・・・・・・」
ゆきえがおれをのんで、くちにふくむ。そのままおれのからだとくちびるをかさね、おれをながしこんだ。わからない。よくわからない。いまのおれは、ぼうるにはんぶんのこっているおれなのか。
「よし、結構上手くいった。あと半分、やっちゃうね」
「あ・・・・・・」
こえがうまくでない。おれが、ゆきえのくちのなかにはいる。ぜんぶ、ぜんぶ。くちのなかはあたたかいけど、なにもみえない。
「ん、んくっ」
おれが、おれにはいっていくのがわかった。はいって、とけて、ひろがって。そして───
「・・・・・・っは!」
俺は、意識を取り戻した。起き上がり、自分の体を確認する。間違い無い、いつもの俺の体だ。
「おはよう、魁人。成功した感じ?」
「あ、あぁ。なんか凄い体験をした気がするけど・・・・・・時間はどれくらい経ったんだ?」
「二、三分くらいかな。いやー、上手くいって良かったよ」
朗らかに笑う幸恵に、俺はほっと胸を撫で下ろす。いや、マジでどうなるか分からなかったからな。俺は立ち上がり軽くストレッチをしながら、体の感覚を確かめた。ほんの数十分程しか経っていないはずなのに、随分久しぶりな感じがする。
「ふぅー・・・・・・疲れた、な。体もそうだけど、精神的に」
「私は楽しかったよ。普通じゃ絶対に出来ない経験だったし。ねぇねぇ、次はどうやって試してみる?」
ケロッとした顔で幸恵に言われ、俺は苦笑を浮かべた。タフだなぁ、俺の彼女は。
「まぁ、それは一旦寝てから考えよう。今は、ちょっと眠い」
全裸のまま、再びベッドに横になる。シーツや服を洗濯しなきゃいけないが、気力が湧かない。起きてからでいいか、うん。
「じゃあ、えいっ!一緒に寝よ!」
きゅっと、柔らかな幸恵の体が抱き着いてきた。いつも一緒に寝ているけど、両方全裸なのはセックスの後以外は無かった。まぁ、今回も似たようなものなのかな。
「ありがとう、幸恵。おやすみ」
「おやすみー!」
彼女の元気な声と心臓の鼓動を聞きながら、俺は改めて意識を微睡ませていく。あの薬のことは気にかかるけど、まぁなんとかなるだろう。幸恵と一緒なら、おかしな状況でも楽しめるから。眠りに落ちながら、俺は心から幸せそうに微笑む。ありがとう、幸恵。お休みなさい。