俺、安条春明は悩んでいた。彼女である今泉梓がことある毎に謝ってくるからだ。
「ごめんね、こんなにぺったんこで・・・・・・。春明君だって胸の大きな女の子の方がいいですよね・・・・・・」
そんなことは無いと何度否定しても、梓は考えを変えてくれない。原因は二人いる姉が巨乳で、自分だけが貧乳なのを周囲からからかわれてきたかららしい。いわゆるトラウマのせいで、梓は自身の胸を無価値なものだと思い込んでいた。
こう言ってはなんだけど俺は貧乳好きだ。勿論梓のことは人柄も顔も全部好きだし、ずっと彼女に伝えているんだけど・・・・・・長年のトラウマの前には俺の言葉も意味が無いみたいだ。
どうすればいいのか。梓は俺と一緒にいる時、楽しそうというよりは申し訳無さそうにしている。付き合い始めて半年は経つのに遠慮がちで、心を開いてくれないというか。
そんな彼女だけど、実は告白してきたのはあちらからだった。いや、あれは告白と言っていいのだろうか。まぁとにかく、大学一年の頃に知り合ってから二年後に思いを伝えられたのだ。
「ごめんなさい、私なんかが春明君を好きになっちゃって・・・・・・!ずっと隠しておこうと思ったんだけど、もう気持ちが抑えきれなかったんです。本当にごめんなさい、大学も辞めて二度と姿を見せないようにするから・・・・・・!」
梓に対して少なからず好意を持っていた俺は驚愕した。まさか両想いだったなんて。そして必死に引き留めた。自分も梓のことが好きで、付き合いたいと思っていると。それからやいのやいの言い合った結果、晴れて付き合うことになったわけだ。
・・・・・・実際の所、既にえっちなことは何回もしている。でも、梓は胸を触ろうとすると怯えた様子で体を震わせてしまう。だから俺が彼女の胸に触れたことは無い。正直に言おう、生殺しだ。貧乳には貧乳に良さがある。何より、愛する梓の胸なんだぞ?大きさなんて関係無い。
と、いうわけで。俺は学生寮の一室でうんうん悩んでいるのだ。現状のままでは絶対良くない。梓には自分に自信を持ってほしいし、もっと親密になって気兼ね無くいちゃいちゃしたい。欲望がダダ洩れてるけどこれが俺の本音である。
しかし、どうすればいいのか何も分からない。梓には会う度に思いを伝えているが、肉体のコンプレックスをどう癒せばいいのか見当もつかなかった。俺は無力だ・・・・・・。一人部屋の中で落ち込んでいると、スマホが振動し通知を知らせてくる。
「ん・・・・・・?なんだこれ」
いつものスパムメッセージかと思ったが、なんだか違いそうだ。えーっと、何々・・・・・・。『カップル必見!より一層距離が近くなれちゃうカップル専門の占い屋がオープン!』・・・・・・。うわ、胡散臭っ!なんでこのタイミングでこんなメッセージが送られてくるんだよ、普通に怖いわ。
よくよく読んでみると、どうやらオープンする占い屋は学生寮の近くにあるらしい。詐欺とかじゃないよな、これ。怪しいにも程があるけど、今の俺は藁にも縋りたい心境だ。とりあえず覗いてみて、ヤバそうだったらすぐに逃げるとしよう。
「占い屋、ですか・・・・・・?」
「うん。近所にオープンしたみたいでさ。梓が嫌じゃなかったら、この後行ってみないか?」
馴染みのカフェのテラス席。少し早めの昼食を取りながら、俺はおそるおそる梓に提案した。あの後ちょっと調べてみたんだけど、カップル専門を謳うだけあって入店時は二名以上じゃないといけないらしい。つまり、梓と一緒に行く必要がある。
「は、はい。占いとか、結構好きなので。ちょっと楽しみかも、えへへ」
控えめながら笑みを浮かべる梓。あぁクソ、滅茶苦茶可愛い。抱き着いて撫で回したくなるが、ここは公共の場だ。なんとか我慢しながら彼女の笑顔を堪能する。っと、駄目だ駄目だ、呆けてる場合じゃない。
「梓が喜んでくれてよかった。いや、ホントにさ。やっぱり笑ってる方が可愛いよ」
「お、お世辞言わないでください・・・・・・!姉さん達に比べたら私なんてブスブスのブスなんだから」
俯いてぶつぶつ呟く梓。いや、俺の目には可愛い系の美人さんにしか見えてないんだけど。やっぱり梓は自己肯定感が低過ぎる。占い屋で改善するきっかけでも掴めれば・・・・・・いやー、どうだろう。無理そうだ。
でもまぁ、少しは気分転換になるだろう。俺達はカフェを出ると、お喋りしながら占い屋の住所へと歩いていく。今日は天気もよくてポカポカだ。自然と会話は弾み、梓も楽しそうにしてくれていた。
「そういえば、春明君。どうして急に占い屋に行こうと思ったんですか?」
「ん、あぁ・・・・・・一昨日スパムメッセージが届いてさ。カップル専門の占い屋って聞いたこと無いし、気になって」
「そうなんだ。春明君ってあんまり占いとか信じるタイプじゃないと思ってたから、なんか意外です」
「あはは・・・・・・」
流石に本当のことは言えないよな。梓のトラウマが少しでも楽になればなんて理由を口にしたら、多分彼女はネガティブモードに入ってしまう。出来るだけこの笑顔は失わせたくなかった。
そうこうしている内に俺達は目的地へと辿り着く。俺が大学に入った時にはテナント募集中だった空き地に、簡素な装いの建物が出来ていた。この辺りには全然足を運ばないので、工事してることにも気付けなかったな。
「ここか・・・・・・?新装開店って雰囲気じゃないな」
「看板は立ってるけど、あんまり目立つ感じじゃないですね」
店自体は開いているようで、営業中の札が入り口の扉にかけられている。そっと開けて中を覗くと、不自然な程に暗くて内装が確認出来なかった。いや、店内照明とかどうなってるんだ・・・・・・?ちょっと恐怖を感じるけどここで怖気づく訳にはいかない。扉を開けて、梓と手を繋いだまま占い屋へ足を踏み入れる。
「おっ」
店内に入ると、外で覗いた時とは違ってちょっと薄暗い程度だった。待合室なのか、座り心地が良さそうなソファが並んでいる。部屋の壁には色んな装飾がしてあって、なんというかいかにもな雰囲気が漂っていた。
「わぁ、凄い・・・・・・!大アルカナと小アルカナのタペストリーが飾ってあるんだ」
「大アルカナに小アルカナ?えっと・・・・・・」
「あ、ごめんね。えっと、タロットカードには大アルカナと小アルカナの二つに分けることが出来て」
「っと、ストップストップ。先に受付を済ませちゃおうぜ」
目を輝かせる梓を制し、受付と思われる方に歩いていく。そこには和服を着こんだ若い女の子がいた。小学生にすら見える見た目に、何故か老成した雰囲気を漂わせている。
「おや、いらっしゃい。お客様かな?」
「そ、そうですけど・・・・・・えっと、貴女が受付?」
「あぁ、そうとも。占い師も兼任しているけれどね。安心してくれ、こんななりだが仕事はするさ」
見た目に似合わない奇妙な口調に、俺と梓は顔を見合わせる。この占い屋、本当に大丈夫だろうか。その、労働基準法とか。俺達が困惑している内に、女の子はテキパキした動きで問診票のようなものを差し出してきた。
「はい、アンケート。占いの前に記入してくれるかい?書きたくない項目は空白でも構わないよ」
「あ、どうも」
とりあえず受け取り、近くのソファに腰を落ち着ける。その間に女の子は奥に引っ込んでしまったようで、疑問を訊ねることも出来なかった。再び梓と顔を見合わせ、次いでアンケートに視線を落とす。
「と、とりあえず書いちゃうか?せっかく来たんだし」
「う、うん。ちょっと驚いたけど、家族経営?だったりするのかな」
ひそひそと声をひそめて話しつつ、俺達はアンケートの質問を埋め始めた。内容は二人の出会いから告白の経緯、最近のデートの様子など。正直かなり恥ずかしい。カップル専門を謳ってるんだし、これくらいは普通なのか・・・・・・?
「そういえば、このデートの時は途中で小雨に降られちゃって・・・・・・ふふ、懐かしいですね」
梓はというと、羞恥心を感じることも無く楽しんでいるようだ。ネガティブスイッチが入らなくてよかった。そのまま書き進め、もうすぐ全部埋まる所で俺は動きを止める。そこにはこう書かれていた。
『性行為の有無と、可能であれば内容を教えてください』
いや、いやいやいや。いくらカップル用のアンケートでも、これは流石にやり過ぎだろう。横目で梓を見ると、顔を赤くして俯いてしまっている。当たり前の反応だ。
「よ、よし!じゃあ俺、届けてくるから」
急いで立ち上がって受付に向かう俺。空白でも構わないと言ってたし、問題は無いはずだ。足音で気付いたのか、さっきの女の子が受付奥の暗がりから姿を現す。どこか不気味さを感じるような笑みを浮かべ、口を開いた。
「お疲れ様。では、少々お時間をいただくよ。そうさね、大体10分もすれば準備が済む。それまでどうかお待ちを」
女の子自身のことやアンケートのこと。色々聞きたいことはあったのに、妙な雰囲気に呑まれて口を挟めなかった。なんなんだろう、この感じは。もしかして本当にヤバい店だったりするのだろうか。俺達以外にお客さんもいないし・・・・・・。いや、それは開店直後からだからか。
「なぁ、梓。もし嫌だったらすぐ言ってくれ。ほら、アンケートもデリカシーに欠けてたしさ」
「ううん、大丈夫。さっきはちょっと驚いたけど、嫌な感じはしなかったから。種類にもよるんだけど、やっぱり占いでも情報が大事なんです。占う人のことをよく知っていれば知っている程、詳細な結果が出たりとか」
「そ、そうなのか?」
「そうなの。だから別に、心配しなくても大丈夫だよ。春明君の方こそ大丈夫?嫌だったりしない?」
上目遣いで見つめられ、俺は少し口ごもる。嫌じゃないと言えば嘘になる。男女の仲を根掘り葉掘り聞かれるのは、やっぱり苦手だ。だけど、わざわざカップル専門の占い屋に訪れたのは俺達だ。記入も強制じゃなかったし、過剰に反応し過ぎているのかもしれない。
「俺も大丈夫。記入が強制じゃなくて良かったよ。流石に、ほら、恥ずかしいから」
「それは、うん。大事な情報だけど、やっぱり恥ずかしいよね。えっと・・・・・・」
言葉にしたことで思い出したのか、梓の頬が再び赤らむ。俺の方も、何度も肌を重ねた記憶が脳裏に浮かんでしまった。顔が熱い。あぁもう、付き合い立ての高校生じゃあるまいし。平常心だ、平常心。
「そ、そういえば。ほら、梓の実家で猫飼ってるじゃんか。名前は確か、にゃご助だっけ。また新しい写真や動画が送られたりしてない?」
「あっ、えっと、二日前に送られてきたのがあるよ。走るネズミのおもちゃで遊んでる動画」
強引にも程があるけどなんとか話題を変える。梓も乗ってきてくれて、俺達はスマホの動画に映る猫に意識を集中させた。ふくよかな三毛猫、にゃご助が見た目に似合わぬ俊敏さで躍動している。うん、可愛いな。
「最近、餌をヘルシーなものに替えようとしたんだけど、にゃご助から猛抗議を受けたんだって。だから仕方なく遊ぶ時の運動量を増やしてるって、母さんが」
「あー、だいぶふくよかだもんな。病気とかもあるだろうし、ペットを飼うのは大変だ」
そのまま俺達は変になった雰囲気を戻そうと、にゃご助の話題で盛り上がった。ちなみに梓はにゃご助のふくよかボディを見てもネガティブになることがあるらしい。太ってるのと巨乳は違うと分かっていても、ふわふわむっちりな抱き心地に嫉妬してしまうんだとか。と、
「お待たせ、準備が整ったよ。さぁ、どうぞ奥へ」
例の女の子が受付に顔を出し、奥の扉を指し示す。相変わらず妙な雰囲気を纏っているけど、振る舞い自体は丁寧だ。俺達が扉を開けて中に入ると、そこは薄暗い部屋。テーブルと椅子の他には、壁に星空のような装飾が飾られている。
「おぉー・・・・・・」
テーブルの上には複雑な形状のオブジェが置かれているが、用途が全然分からない。形の崩れた鳥というか、天使と言うか。占いに詳しいらしい梓に聞こうと目を向けると、彼女は目をキラキラさせて周囲に視線を走らせていた。邪魔するのはやめておこう。
「さて、二人とも。座ってくれるかい?」
女の子に促され椅子に腰を下ろす。オブジェ越しに見える彼女は、先程と変わらない笑みを浮かべていた。うーん、やっぱり不気味だ。だけどまぁ、見方を変えれば神秘的とも言えるかもしれない。少なくとも部屋の雰囲気とは合っている。
「この店のことは知っているね?カップル専門の占いをやっている。色々種類はあるけれど、まずはお二人に訊ねよう。何か、解決したい悩みがあるんじゃないかい?」
俺の心中を見抜くように女の子は言った。思わず心臓が跳ねる。確かに、ここに来たのは梓のトラウマを和らげる為だ。アンケートにそれらしいことは記入しなかったのに、まさか全部お見通しなのか。いや、占いってそういうものだっけ・・・・・・?
「えぇっと・・・・・・具体的な悩みというか、なんというか」
言葉を濁す俺に、女の子はすぅっと目を細める。まるで全てを理解しているかのような視線。ぞわぞわして鳥肌が立ちそうだ。どうする、本当のことを話すか?いや、それは梓に対して失礼だ。ど、どう答えればいいんだよこれ。
「あ、あの!私の悩みを聞いてください!」
「ちょ、梓!?」
頭を悩ませていると、梓が急に手を上げて叫んだ。予想外の展開に慌てるも、彼女はそのままの勢いで言葉をぶちまける。
「わ、私、もっと自分にもっと自信を持ちたいんです!春明君の彼女としてちゃんとしたくて!」
「ふむ。具体的にはどうしたいんだい」
「あの、私って自分の体に自信が持てなくて・・・・・・えぇっと、私には姉が二人いるんですけど、どちらともとても豊満な胸をしてるんです。だから私、あの・・・・・・」
「おっと。みなまで言わずともいい。さぁて、とすると君達に合いそうなのは・・・・・・」
俺を差し置いて会話を交わす二人。まさか、梓自身からそんな言葉が出てくるとは。もしかしたら俺の考えも見抜かれていたのかもしれない。
「ふむ。ふぅむふむ。では、改めて始めようか。君達二人の間柄を鑑みて、貴女の望みが叶えらえる方法を見極めよう。それこそがこちらの仕事だからね。まずは二人とも、右手を出してくれるかい?」
言われるがままに右手を差し出す。奇妙なオブジェが結構邪魔だ。女の子は俺と梓の手相を交互に確認し、何かに納得したのか深く頷いた。
「うん。これなら大丈夫そうだね。春明君に梓君、これを受け取ってくれないかい?」
女の子が差し出してきたのは薄紫の色合いをしたブレスレット。不思議なことに、俺達の手首にぴったりフィットするサイズだ。
「自分の体に自信を持ちたい。より良い関係を築きたい。そのブレスレットを付ければ立ち所に解決・・・・・・とまではいかないだろうけど、いい方向に持っていけるはずさ。あぁ、安心してくれ。お金は占い代以外は取らないよ」
しげしげとブレスレットを見つめる梓をよそに、俺は女の子の発言に胡散臭さを感じていた。いわゆる霊感商法的な。いや、追加料金を取らないなら別に問題無いんだけど。アドバイスじゃなくて物で解決とか、正直信じられない。
「心配いらないよ、春明君。クレームを入れるなら、このブレスレットを付け始めて数日後にしてくれ。きっと君の考えも変わっているだろうさ」
「は、はい・・・・・・」
不信感を見抜かれたようで、女の子はにっこりと微笑みながら釘を刺してくる。梓はブレスレットを気に入ったようで、いそいそと手首に装着しているようだ。まぁ、ペアアクセサリーをただで貰ったと考えればいいか。
「あぁそうだ、ついでにこれも。次回利用の割引券だ。効果があったかどうか、聞かせに来てくれると嬉しいね」
「ぜ、是非!」
元気よく返事する梓。占い好きというのも含め、彼女の新しい一面を知れたのは嬉しい。ただ、詐欺とかに引っかかりそうで心配でもある。とりあえず女の子に頭を下げて退室、受付で料金を払い占い屋を後にした。
「いい雰囲気だったね・・・・・・!占い自体は独特というか、あっさりでしたけど」
「まぁ、そうだな。梓ってこういう店よく行ったりするのか?」
「いえ、全然。占いサイトに登録しているくらい。だから、その、初めての占い屋が春明君と一緒で良かったです。凄く楽しかったし、お揃いのブレスレットも貰えたし・・・・・・えへへ」
ブレスレットを付けた方の手を空にかざし、梓が照れ臭そうに微笑む。さっきまでのモヤモヤを吹き飛ばしてくれる最高の笑顔だ。チョロい自覚はあるけど、梓が可愛いから仕方ない。
「俺も、梓と一緒で良かった。よし、これでお揃いだな」
なんとなく躊躇していたが、嬉しそうな梓に感化されブレスレットを付ける。うん、ピッタリだ。締め付けられる感じも無ければゆるゆるでもない丁度よさ。なんかしっくりくるな。
「そういえばちょっと前、夏服に似合う帽子が欲しいとか言ってたよな。丁度ここから近いし、いつもの服屋に寄るか?」
「わ、覚えていたんだ。このブレスレットに合わせたい服もあるから、是非行きましょう。春明君、今日こそは全身コーデさせてね?」
「コーデはいいけど、お金は俺が出すからな。前みたいにこっそり支払い済ませておくのは無しだぞ」
「えー。さっきの占い屋だって春明君がお金出しちゃったし、お礼ってことでいいじゃないですか」
「金額が比べ物にならないって」
青空の下、俺達は会話を楽しみつつ歩いていく。手を繋ぐと、付けたブレスレットが僅かに触れ合い音を立てる。それの効能とかではないだろうけど、いつもより言葉が弾んでいる気がした。
「ん・・・・・・」
気だるさを押しのけて薄目を開けると、見えたのはピンクっぽい色の天井。どうやら俺はどこかに寝転んでいるようだ。背中にはふわふわした感触があるので、多分高級なベッドか何かだろうか?頭を振りながら上半身を起こし、周囲に目を向ける。
「・・・・・・ん、んん?」
・・・・・・見慣れた景色だ。学生寮に梓を連れ込む訳にもいかないので、そういうことをする時に利用していたラブホテル。その部屋によく似ているというか、そのものに見える。なんで俺はここに・・・・・・ベッドの上できょろきょろしていると、横にもう一人いることに気付いた。
「え?」
俺の横に誰かが寝ている。というより、俺自身が。顔はそっくりどころか全く同じだし、着ている服も俺のものだ。どういうことだ、これ?あ、夢か。夢だなきっと。現実逃避をしている間も、横の俺はすぅすぅと気持ちよさそうな寝息を立てている。とりあえず起こそうと手を伸ばした所で、別の異変に気付いた。
「え、あ、手が・・・・・・?」
目に映るのは俺の手じゃない。ほっそりとしていて、まるで女性の手だ。腕も細くすらっとしている。どういうことかと視線を下に落とすと、見覚えのある衣服を着た体が見えた。梓が今日着ていた服だ。女装してるのか俺?いや、違う。そんな単純な話じゃない。
丁度部屋の隅にある姿見を見つけて駆け寄った。そこ映ったのは、俺の彼女である梓だ。普段は見たことの無い慌てたような表情を浮かべている。俺が手を上げると姿見の中の梓も手を上げ、俺が首を振ると梓も首を振っていた。
「ちょ、これってつまり、っ」
信じられない。だが、今の俺は梓になっているようだ。混乱の極みになりながら、俺はベッドに戻り寝ている俺自身の肩を掴んで揺さぶる。まさかとは思うけど、もしかしたら・・・・・・。
「おい、起きてくれ!頼むから起きろって!」
「ん、んんぅ・・・・・・誰ぇ・・・・・・?」
ぼんやりとした表情でうっすら目を開く俺の顔。徐々に意識がはっきりしてきたのか、何度か瞬きした後呟く。
「あれ、私・・・・・・?鏡かな・・・・・・」
「梓、梓なのか?」
「えっと、そうですけど・・・・・・。え、あれ、鏡じゃないの?」
困惑したまま見つめ合う俺達。これは、間違い無い。俺が梓に、梓が俺になってるんだ。
「お、落ち着いて聞いてくれ。なんか梓になっちゃってるけど、俺が春明なんだ。それで、今の梓は・・・・・・っと、ちょっとこっち来てくれ」
俺の体になっている梓を起こし、姿見の前まで引っ張っていく。当然俺と梓が映るけど、中身は違う。俺の体になった梓はさっき俺がしたように体を動かし、戸惑った声で叫んだ。
「えっ、なにこれ?ど、どういうこと、夢!?」
「分からない、分からないけど、なんか俺と梓が入れ替わってるみたいなんだ。いや、確かに夢かもしれないけどさ。ほんとどういうことなんだこれ・・・・・・」
梓も状況を理解したみたいだが解決には程遠い。俺達はなんで入れ替わってるのか。夢なら良かったんだけど、あまりにもリアリティがあり過ぎる。とりあえず二人してベッドに腰を下ろし、自分のものにしか見えない顔と向き合った。
「わ、私なのになんか印象が違う・・・・・・えっと、本当に春明君なんだよね?」
「あぁ。少なくとも、俺は俺を春明だって思ってる。そっちは梓でいいんだよな」
「うん。でも、本当になんで・・・・・・?入れ替わりって、そんな漫画みたいな。それに、なんでホテルにいるんでしょう?」
もじもじとしている自分の体。中身が梓だとはいえ、ちょっと気持ち悪い。いや、梓は何も悪くないんだけど。
「それだよなぁ・・・・・・うーん、確か俺達は占い屋を出た後、服屋に向かって・・・・・・」
「あ、そうだ思い出した!途中でちょっと体が熱っぽくなったので、休む為に近くにあったホテルに入ったんです。あ、いや違くて。えっと、誘ったとかじゃないんだけど」
「分かってるって。そうだった、何故か二人とも体温が上がったような感じになったんだよな。熱中症って季節でもないのに。で、部屋に入って、うーん・・・・・・?」
そこから先がどうしても思い出せない。むーん、肝心なことが何も分からねえ。なんでこんなことになってるんだ。そもそも人の精神が入れ替わるとか、フィクションの話でしか聞いたことが無い。つまり、現実的な解決方法が存在しないということだ。
「本当に夢ならいいんだけど、リアリティーがあり過ぎるしなぁ・・・・・・。っと、どうした梓、大丈夫か?」
あれこれ考えていると、俺の体になった梓が俯いて震え始めていた。体調でも悪いのだろうか。
「あ、いや、なんでもないの。気にしないでくれると嬉しい、です」
「いや、明らかに何かある感じだろ。どうしたんだ、さっきみたいに熱っぽいのか?」
「そ、そうじゃなくて。うぅん、えっと、その・・・・・・」
歯切れ悪く口ごもる梓。ちょっと頬が赤いようにも見える。やっぱり熱が出てきてるのかと額に手を当てようとすると、逃げるように距離を取られてしまった。一体どうしたんだ・・・・・・?不安そうに見つめる俺に、梓は恐る恐るといった感じで口を開く。
「ご、ごめんなさい。えぇと、下半身が、その」
「えっ」
恥ずかしそうに足を開く梓。ズボン越しに盛り上がっている股間が露わになり、俺は顔をこわばらせた。な、なにやってんだ俺の体は。こんな状況で勃つんじゃねえよマジで。
「す、すまん。俺の体が迷惑かけて」
「ううん、きっと私のせいなんです。自分の顔のはずなのに、見つめていると反応しちゃって・・・・・・ごめんなさい」
「いやいや、梓は絶対悪くない。俺の体が抑え利かないのが悪いんだよ。状況を考えず反応しやがって、あぁもう」
妙な羞恥に襲われながら、俺は膨らんでいる股間を睨みつける。時と場合を考えろってんだ。何よりも恥ずかしいのは、俺の肉体の失態を梓に隠せないこと。というか梓本人に勃起してる感覚がバレてるんだよな、これ。最悪過ぎる。
「あ、あの、春明君・・・・・・。そんなに、見ないで」
「ご、ごめん」
どうやら、俺が睨みつけたせいで愚息が一層反応してしまったようだ。そりゃそうか、慣れてない梓じゃ我慢も出来ないはず。顔を赤くしながら熱い息を吐く姿は、自分の体なのになんだか艶めかしく見える。中身が梓だからなのだろうか。さっきまで感じていた気持ち悪さが徐々に無くなっていた。
「とにかく、うん。どうすれば元に戻れるのか考えないとな。梓、何か心当たりは無いか?」
なんとか話題を変えようと聞いてみるが、梓からは返事が無い。俯いて息を整えようとしながら、潤んだ視線がちらちらと俺に向けられている。
「ご、ごめんなさい・・・・・・。なんかっ、苦しいような切ないような感じがして。どうしよう、春明君・・・・・・」
「そ、それは・・・・・・」
梓の気持ちは俺にも分かる。よく分かる。つまりアレだ。射精したくてたまらない、的な。いや、うん。中々治まらないのは身を以て知っている。やるしかないのか。だけどこの場合、俺が梓の体を使ってヌかせることになる。・・・・・・ええい、仕方ない。
「とりあえず、えっと、ズボンを脱いでくれ」
「はい、あっでもこれ、引っかかっちゃって」
「~~~っ分かった。腰上げてくれ、俺が下ろす」
覚悟を決めて言う俺。なんでこんなことに・・・・・・。立ち上がった梓のズボンに手をかけ、ボタンを外してジッパーを下ろす。出てくるのはトランクスに包まれた我が愚息。パンパンに膨れ上がり屹立していた。
トランクスにも手をかけた所で妙な感覚に気付いた。なんだろう、下半身が疼くような。それは匂いだ。目の前の愚息から漂ってくる匂いが、梓の体に染み込んでくる。そうすると下半身がズクズクと疼いて、体温が上がっていく。
「なんだ、これ」
疼きはどんどん増していき、目が潤んできた。愚息が発する臭いはずの匂いに、俺はくらくらとしてしまう。半ば本能的にトランクスを下ろすと、いつもより大きく見えるそれと濃さを増した匂いが解き放たれた。
「あっ・・・・・・」
俺の声。いや、梓の声だ。ちらりと上目遣いで確認すると、俺の顔をした梓は真っ赤に紅潮している。いかん、可愛く見えてきた。かくいう俺も顔が火照っている。目の前の愚息と匂いが、梓の体の体温を上げているみたいだ。
理性や自制心がぐっちゃぐちゃになる匂いにあてられて、羞恥心と背徳感が脳の片隅に追いやられる。そっと梓の手を伸ばし、俺は愚息に触れた。
「んぁっ!?は、春明くん、これ、敏感過ぎて・・・・・・!」
焦ったような声と同時に感じるのは、指先に伝わってくる愚息の熱だ。いつも自分の手で触る時より熱く感じる。理由は分からないけどなんだか心地いい。
「大丈夫。ほら、梓もやってくれるだろ、こういうこと。折角だし、俺がいつも気持ちよくなってる分を感じてくれ」
「え、あ、うん・・・・・・」
予想以上の刺激に驚いているっぽい梓に、俺はそっと言い聞かせる。思えば、中身は逆になってるけどいつもやってる行為と殆ど同じなんだよな。胸を触らせたくないことに罪悪感があるのか、梓は積極的に奉仕してくれていた。それがありがたくも申し訳無くも思っていたんだけど、少しでも返せる機会かもしれない。
「ひうぅっ・・・・・・!」
梓の声を聞きながら手を動かす俺。そっと撫でるように、ゆっくりと愚息をシゴき上げていった。自分に伝わってくる感覚が無いからなんか奇妙な感じだ。だからだろうか、愚息の形がいつもよりよく分かる。こちら側から見るのは妙な気分だ。
少しずつシゴく速度を上げる。俺がいつもオナニーしている時のように、感じる部分を指先で責めていった。先端からはカウパーが溢れて摩擦を軽減している。そして、やっぱり匂いが凄い。嗅ぐ度に下半身がジクジクと疼いてしまうのは、梓の体だからだろうか。
「あっの、春明、くんっ。なんか、根本に溜まる感じが」
「普通の感覚だから大丈夫。梓は女の子だし、慣れてないと思うけど。我慢しなくていいからな」
梓の精神が慣れていないからか、それとも梓の手でする手コキが気持ちいいからか。いつもよりも早く愚息が限界を迎えそうだ。腰を引こうとしてベッドに座り込んでしまった梓に顔を近づけ、安心させるように囁きながら手の動きを早めていく。
「出すもん出したら治まるはずだからさ。ほら、股間に集中してくれ」
「春明く、んんんんっ・・・・・・!」
俺になっている梓の体が小刻みに震え、尿道がぱくぱくと動き出した。そろそろだな。裏スジの辺りを重点的に攻めつつ、もう片方の手を愚息の前にかざす。精液が飛び散らないようにする為だ。
「梓、いつでも出していいからな」
「駄目ですっ、これっ何かのぼってく、んんんんううぅぅっ!」
押し殺した嬌声と共に愚息が脈動した。凄い勢いで精液が噴き出し、梓になった俺の手を穢していく。自分の射精を客観的に見るのは初めてだ。というか、勢いと量が凄い。普段はこんなに出ないぞ。それだけ気持ちよかったのなら、まぁいいけど。
「あっうぅぅ・・・・・・はる、っあきくん・・・・・・!」
少しずつ脈動が弱まると、俺は精液を全部搾り出すように根本からきつめにシゴく。しっかりと出し切った後、ベッドの横に置いてあるティッシュで手を拭いた。精液でべたつく梓の手は正直エロい。そして何より、その匂いは強烈だった。
梓の体が発情しているのか、下半身だけじゃなく全身がうずうずとしている。熱が溜まって、思考がぼやけるような。いや、駄目だ。梓の体で勝手に興奮するのは、その、よくない気がする。なんとか疼きを抑え込み、俺はティッシュをゴミ箱に捨ててから梓の方に振り向いた。
「どうだ、気持ちよかったか?まぁ、これで小さくなるだろうし・・・・・・あれ?」
涙目で震えている梓。その股間には、未だに愚息が屹立していた。おかしい。俺だって人並みに性欲はあるけれど、別に絶倫というわけではなかった。なのに、目の前の愚息は大きさと固さを保ったまま。ど、どういうことだ。
「ご、ごめんなさい。春明君の体で気持ちよくなっちゃって。でも、でも駄目なんです。全然収まらなくて、あ、あんなに出ちゃったのに・・・・・・どうしよう、春明君」
射精の後の虚脱も感じていないのか、梓は荒い息のまま春明を見つめる。熱のこもった視線が俺を貫き、再び下半身がずくりと疼いた。切なげなその様子はなんかキュンキュンくる。よくない、なんかよくないぞこれ。正体不明の感情が湧き上がってきて、俺の精神を蝕んでくる気がする。
「お、おっけー。分かった、もう一回ヌこうか」
とにかく、梓と愚息を落ち着かせないと。再度手コキしようとしたことで、彼女の視線が俺の胸元で止まっていることに気が付いた。トラウマなはずなのに何故見つめているのか分からず、思わず聞いてみる。
「・・・・・・どうした梓?えぇと、胸ばっか見てるけど。嫌じゃないのか?」
「あっ、えっと、違うんです!これは、その、うぅん・・・・・・」
さっき以上にしどろもどろな様子で、梓は首を凄い勢いで横に振りまくった。俺の体とはいえ痛めないか心配になる程だ。顔は更に赤くなり、なんかもう煙が噴き出してるようにさえ見える。こりゃ駄目だ、落ち着くのを待とう。
梓の横に腰を下ろし、ぽんぽんと背中を叩く。俺の体なのにもう全然そうは思えない。不思議な感覚だ。ちなみに、この間も俺ボディの下半身は真っ裸。勿論愚息もビンビンのまま。まぁ、うん。傍目にはわけ分からないだろうな、この状況。
「その、ね、春明君。引かないでほしいんだけど・・・・・・」
しばらくして、ようやく落ち着いたのか梓がぽつりぽつりと話し始める。その内容は完全に予想外なものだった。
「変、変なんです。あんなに嫌いだった自分の胸が、何故かとても魅力的に見えて。私の胸を見てると、春明君の、その、これが反応して。私、おかしくなっちゃった」
「それは・・・・・・」
・・・・・・。原因は分かった。俺のせいだ。正確には俺の性癖のせい。俺は常々梓の胸に触ってみたいと思っていた。それをオカズにオナニーしたことだって何回もある。つまり、肉体に沁みついた性癖が梓に影響を与えているのだ。
どうしよう。いや、単純な話である。俺がしてほしかったことを、そのまま梓にすればいい。色々と妄想していたプレイがあるんだけど、当然梓には伝えていなかった。それをすればいいんだ。恥ずかしいにも程があるはずなんだけど、幸い羞恥心が麻痺している今ならやれるはず。
「・・・・・・よし、分かった。ちょっと横になってくれ。膝枕するから」
「う、うん」
俺の言葉に素直に従い、梓は横になって俺の膝に頭を乗せる。不安げな表情が可愛く見えてしまうな。梓が着ていた上着を慎重に脱ぐと、飾り気の無いブラジャーが露わになった。ホックを外そうとした所で違和感を覚える。
指が動かない。同時に、心臓がバクバクと鳴り始める。なんだ?分からないけど、何かが怖い。ブラジャーを脱ごうとする俺を拒否するように、体が言うことを聞かないのだ。もしかして、梓のトラウマが影響しているのだろうか。
梓が俺の体で勃起してしまったように、梓の体がこれからやろうとしていることを拒否しているのかもしれない。額に冷や汗が浮かび、体が恐怖で震えそうになる。そうか、そうだよな。梓はずっと、こういう想いを抱えて生きてきたんだ。
「大丈夫、大丈夫だ」
俺と、梓と、梓の体に言い聞かせるように呟く。指の震えを抑えてホックを外し、梓の胸が露わになった。なだらかだけど確かな膨らみを感じさせる。主観視点で見下ろすのは初めてで、奇妙というか新鮮な感じだ。
胸が露わになったことで、恐怖は一層増している。だけど、今更止めようとは思わない。上手くいけば梓のトラウマ軽減に繋がるかもしれないからだ。総毛立つ感覚を呑み込んで、膝の上で荒い息を吐いている梓の頭を撫でる。
「それじゃあ、始めるからな」
もう片方の手を愚息に伸ばし、同時に胸元を梓の口に近付ける。体格差もあって無理な体勢になってしまうけど、あまり苦しくなかった。突然近付けられたことに戸惑っているのか、梓は目を白黒させている。だけど俺の体だ。本能というか、性欲には耐えられないはず。
「んっ・・・・・・!!?」
肉体の欲求に従ったようで、梓が乳首を口に含む。途端に背筋に悪寒が走り、同時に快感が脳まで届いた。気持ちいいけど恐ろしい。今まで経験したことのない感覚だ。乳首が舌で舐められ、ビクンと体が震える。
「うあっ、ふぅ」
男の乳首とは何もかもが違う。先っぽから胸全体に快感が広がっているような。しかし、同じく拒否感や恐怖心ようなものが心から湧き上がってくる。そのせいで乳首の感覚がぼやけてしまっているような。いや待て、俺が気持ちよくなるのが目的じゃないんだから問題は無い。
と、とにかく。むず痒さを感じつつも俺は手コキを再開した。当の梓は混乱しつつも、乳首を吸うのは止めそうにない。・・・・・・まぁ、俺の体のせいだな。申し訳無い気分になりながらも、愚息に添えた手を忙しなく動かす。
「んふっ!?」
「ん・・・・・・」
刺激で梓が吐息を漏らし、より強く乳首に吸い付いた。俺は気持ちを落ち着けながら、そっと彼女の頭を撫でる。それなりに手入れしている俺の髪の毛は、自分の手で触るよりもぺったりとした感触だ。汗のせいもあるんだろう。
「あっの、春明く、もうちょっとゆっくり、うぅんっ」
「少し我慢してくれ、出し切っちゃった方がいいと思うから」
やっと乳首から口を離した梓が懇願してくるが、ここで止めても勃起は収まらない。全部出せば流石に縮むはずだ。ゆっくりと撫でつけ、再び乳首を唇に押し付ける。やはり性欲に抗えないのか、梓は快感に混乱しながらも乳首を口に含んだ。ころころと舌で転がされ、じわりと下半身が熱くなる。
この段階まで来ると、もう殆ど拒否感や恐怖心は無くなっていた。むしろ、こうやって乳首に吸い付いて求められるのが嬉しく感じてしまう。今まで経験したことの無い感情。俺の体になった梓が愛おしく、慈しみたくなっていくような。
もしかして、これが母性なのだろうか。気付いた瞬間お腹の辺りが強く疼いた。吸われている乳首から鋭い快感が生まれ、全身を走り回る。何かのスイッチが切り替わったかのようだ。声を抑えようにも耐えられない。
「ふっ、んんん・・・・・・!」
思わず手コキを止めてしまうと、梓が上目遣いで俺を見つめてきた。混乱の中に見えるのは物欲しそうな表情。それを見たら肉体の疼きが更に増して、心もキュンキュンと反応してしまう。あぁ、これは、不味い。今の梓と同じように、肉体に精神が流されてしまっている。
目の前の梓が、彼氏である男が愛おしくてたまらない。いや、錯覚だ。彼氏は俺で、でも今は梓の体で。思考がぐっちゃぐちゃになりながらも手の動きは止まらなかった。乳首からの快感もどんどん増している。ヤバい。分からないけど、とにかくヤバい。
「梓・・・・・・どうだ、気持ちいいか?」
一番ヤバいのは、やめようとは一切思わないことだ。もっと、もっと梓に気持ちよくなってもらいたい。愛する人に感じてほしい。そんな思いが溢れて、歯止めが利かなくなっていく。
きっと今の俺はだらしない笑みを浮かべているのだろう。乳首に吸い付く頭を撫でながら、シゴく速度をどんどん上げていった。感じる部分は文字通り手に取るように分かる。細い指先でくすぐるように、亀頭のカリ部分を多めに刺激した。
「んむぅっ・・・・・・!」
身を捩る梓。同時に乳首を甘噛みされ、俺の体もビクンと跳ねた。気持ちいい。全身に快感の電流が流れたみたいだ。そして、それ以上に充足感が湧き上がる。あぁ、梓も気持ちいいんだ。嬉しい。愛おしい。可愛らしい。もう、止められない。
どうやら梓も限界が近いようだ。一度たっぷり射精したのに、既に二度目の準備が出来ている。俺は乳首を吸われたまま、愚息をキツめに握り直しスパートをかけた。亀頭が一回り膨らみ、全体の脈動が増していく。
「ん、んんんんんんんんっ!!!」
そして。まるで火山の噴火のように、煮えたぎる精液が噴き出した。二度目とは思えない、凄まじい量だ。手で遮るのが間に合わず、周囲のそこかしこに飛び散ってしまう。勢いは衰えないまま、びゅくりびゅくりと白濁が宙を舞い続けた。
射精の快楽か、それとも呼吸が苦しくなったのか、梓は乳首から口を離し俺の体に抱き着いてくる。顔は真っ赤で涙を零し、蕩けた表情で荒い息を吐いていた。俺の顔のはずなのに、どうしようも無く可愛い。手を伸ばして頬を撫でながら、優しく問いかける。
「気持ちよかったか?」
「う、うん・・・・・・凄かった。それに、ええと・・・・・・」
おずおずと言いつつ、梓は手を胸に伸ばしてきた。ごつごつした指と手のひらに包まれ、確かにある柔らかい弾力を自分でも感じられる。
「・・・・・・あの、何故かは分からないけど。胸、触りたくなっちゃって。変、ですよね」
「そんなこと無いって。前も言ったけど、俺は梓だけじゃなくてこの胸も大好きなんだよ。好きなだけ揉めばいい、だって元は自分の胸なんだからさ」
トラウマを払拭出来たかは分からない。でも、少なくとも今の間は好ましいと思ってくれているみたいだ。胸をゆっくりと揉まれる甘い快感を味わいながら、俺は梓と視線を合わせて微笑む。訳の分からない無茶苦茶な状況でも、心が繋がっている証として。
あれから数時間後。いつの間にか寝落ちしていた俺達は、目を覚ますと元に戻っていることに気が付いた。服を整えラブホテルから退散した後、今のは夢だったのかと二人して首をかしげる。だが実際に服は乱れていたし、射精後の虚脱感は俺の体に残っていた。どういうことなんだ・・・・・・?
分からないままにひとまず帰宅して、後日梓と検証をしてみた。何か普段と違ったことは無かったか。入れ替わる切っ掛けはどこにあったのか。あれこれ考えこむ内に、もしかしたらとブレスレットのことを思い出す。身に付けてすぐに入れ替わりが発生したのだ。疑うなという方が無理だろう。
で、あれこれ試したらまた入れ替わってしまった。どうやら互いにブレスレットを身に付けた状態で、ブレスレット同士が長く触れ合うと中身が入れ替わるようになっているみたいだ。で、数時間くらいで元に戻る、と。
原理はまるで分からない。ただ、渡してきた女の子は確信犯だった気がする。事実、梓は自分の体に自信が持てたようだ。胸を見られたり触られたりすることに対し、抵抗感が無くなっているとのこと。それに関しては素直にありがたいけど・・・・・・他にやり方は無かったのか。
と、いうわけで。俺達は再び占い屋を訪れるのを決めた。空いてる日取りと占い屋の営業日が上手く噛み合わず、数日後になってしまうけど仕方がない。その間、俺達がどうしていたかというと・・・・・・。
「やっぱり柔らかい。春明君の、男の人の胸とは違うんですね」
「いや、別に俺の胸はどうでもいいって。それより、んっ・・・・・・そろそろ元に戻らないか?俺も自分の手で梓の胸を揉みたいし」
「ご、ごめんなさい。もうちょっとだけ・・・・・・」
申し訳無さそうにしながらも揉む手は止めない梓。どうやら俺の体で自身の胸を揉んだり吸ったりするのにハマってしまったらしく、ことある毎に入れ替わりを求めてくるのだ。トラウマが無くなったのはありがたいけど、これはこれで歪んでいるような気もする。
まぁ、いいか。梓が嬉しいなら俺も嬉しい。それに、俺としても女性の快楽は刺激的だった。男のものとはまるで違う、体の奥底から熱されるような感覚。正直病みつきになりそうだ。
「んぅっ。あ、梓、急に吸うなって」
唐突に乳首に吸い付いてきた梓に、俺はピクンと震えながらもたしなめる。聞こえているのかいないのか、梓は夢中でしゃぶりついて離さない。その表情はうっとりとしていて幸せそうだ。無理に引き剥がすわけにもいかず、苦笑を浮かべつつその頭を撫でる。
「っふ、んん、あっ」
胸を揉みしだかれながら乳首を口内で弄ばれ、徐々に喘ぎ声が大きくなっていった。なんとか押し殺そうとするが、次から次へと与えられる快感の前では殆ど意味が無い。梓を撫でながらも身を捩り、股間の部分が湿っているような感覚を覚える。
「ふふ。私の体で気持ちよくなってね」
「ちょ、ま、んひぃっ!?」
乳首から口を離した梓が、妖艶な笑みを浮かべながら手を股間へと伸ばす。下着越しに触れられた瞬間、凄まじい刺激が背筋を駆け上がった。視界がパチパチと明滅する程の快感。じんわりと感じる乳首とは別種の気持ちよさだ。
「こっちはほら、春明君に開発されてますから。脱がすね」
驚いている俺に囁き、梓は慣れた手つきで薄桃色のパンツを剥ぎ取ってしまう。外気に晒された股間は、俺には見えないけど多分びしょびしょだ。内ももが濡れてすーすーする。
「っくぅ!?」
ごつごつした指先が股間に直接触れた途端、俺の腰が跳ねた。さっきよりも強烈な快感が全身を駆け巡る。
「ここがクリトリス。気持ちいいでしょ?」
クリトリス。いつも梓とえっちをする時、俺がじっくりとこね回してる部位だ。確かに気持ちよさそうだったけど、まさかこれ程とは。梓は俺がやる時と同じように、指先で弾いたり押し潰したりしてくる。その度に体が跳ね、口からは自分のものとは思えない嬌声が漏れた。
「あぁっふぅ、んんんっ!あず、さ、もっとゆっくりいぃっ!?」
「大丈夫、その体は慣れてるから」
懇願も言葉にならず、梓の手は止まらない。もしかして、先日手コキした時のをやり返されているのだろうか。浮かんだ疑問も快感に塗り潰され、俺はただ全身を震わせた。と、
「あっくぅっ!?」
ずぶり。体の中に熱い何かが侵入してくる感覚。同時に更なる快感と、足りていないものが満たされるような幸福感が湧き上がってくる。なんとか視線を股間にやると、いつの間にかコンドームを着けていた梓が腰を押し進めているのが見えた。
「んっ・・・・・・これが、私の中なんだ。熱くて、うねってて、気持ちいい」
「こっちも、っ、挿れられる感覚は初めてだよ。なんか、アレだ。やってることはいつも通りなのに、入れ替わってるとこんなに違うんだな」
言葉を交わしつつ見つめ合う。顔が近付いて、どちらともなく唇を重ね合わせた。下の方で繋がったまま上の方でも繋がって、そして俺達は入れ替わっている。とんでもない状況なのに受け入れてしまっているし、何故かそれが心地いい。舌を絡み合わせながら、梓が腰を動かし始めた。
「っふ、んんんっ」
体の内側を擦られ、鼻から息が漏れる。梓の女性器に俺の愚息が入っていて、それを梓の体で感じている。不思議で倒錯的な感覚だ。体の中で愚息が動く度に全身が震え、視界がチカチカと明滅する。息が、呼吸が続かない。
「ぷはっ!はぁ、はぁっんんん!」
唇を離して息を整えようとした所で、梓の腰がより深く押し付けられた。あ、駄目だ。本能的に直感してしまった。これ、大事な部分に届いてる。子宮の入り口に、亀頭が届いているんだ。普段はそこまで強引に挿入しないから、肉体にとっても初めての経験になる。
どこか冷静に思考しつつも、凄い勢いで下腹部から湧き上がってくるのは多幸感。愛する人と深く繋がれた幸せが、俺の脳に満ち満ちていく。気付けば両手両足を伸ばし、梓に抱き着いてしまっていた。たくましい男の体は汗臭く、それだけで子宮が疼いてしまう。
「春明君、どうですかっ?ちゃんと気持ちいい?」
「きっ、くうぅっんんあぁっ・・・・・・!!」
梓の問いかけにも答えられず、俺は強く抱き着いたまま喘いだ。これはヤバい。理性も本能もどろどろに溶かされて、何もかもが流されていく。そんな様子の俺を見て、梓は微笑みながら両手で胸を揉みしだいた。駄目だ、気持ちいいのと多幸感でどうしようもなく抗えない。
蹂躙される胎内に執拗に揉まれる胸。快感と満たされた感覚で溺れそうになりながら、俺は梓の頭を強く抱き寄せる。あぁ、幸せだ。俺が挿入している時、梓はこんな気持ちだったんだろうか。もしそうだったら嬉しいな。
「私も、そろそろっ・・・・・・!」
切羽詰まった梓の声に、俺も込み上がってくる何かを感じていた。ふわふわした何かに包まれて、どこまでも上に昇っていくような。これが女性の、梓の絶頂なのか。分からないまま、俺は胎内を抉られる動きと共に高まり続ける。
「いっ一緒にぃ梓ぁっっ!」
来る。全身を梓に密着させながら、俺は辛うじて言葉を紡いだ。イくなら一緒にイきたい。その思いが伝わったのか、腰が一層深く突き立てられる。ごりごりと子宮の入り口が抉られ、視界が激しく明滅した。
「っくううぅぅぅぅっっっ!!」
爆発。全身が砕け散ってしまうような快感が暴れ回り、脳みそが焼け切れていく。子宮の入り口が愚息に吸い付き、コンドーム越しに精液が激しく噴き出しているのが感じられた。全てが満たされて、全てが幸せだ。
密着した胸から聞こえてくるのは、俺と梓の重なり合った鼓動。距離が近いからこそしっかりと感じ取れる。色々あったけど、本当に良かった。占い屋に行ったらあの女の子にお礼を伝えないとな。これ以上無い満足と安堵を得ながら、絶頂の余韻と共に意識を手放した。