水戸川かなでは社畜である。そこそこの大学を出た後そこそこの企業に就職したが、年々業務の負担は増すばかり。それなのに給料は増えず、新しい出会いも無かった。有り体に言って灰色の日々だ。
「つ~か~れ~た~・・・・・・」
街灯が照らす夜道を歩きながら弱音を漏らす。既に時刻は22時を回り、住んでいるマンション周辺に人気は無い。かなでは重苦しい足取りで階段を上がり、住んでいる一室へと辿り着いた。就職祝いとして親から買ってもらった住処だが、もし賃貸の場合今の給料では住めなかっただろう。
「ただいまー」
「おかえり、ご主人。今日も遅かったな。疲れてる?」
「グルル・・・・・・ううぅ、お出迎えありがとうねぇ・・・・・・」
しかし最近、そんな辛い日常にも変化があった。それもとびきりの変化が。飼っている愛犬が突如として人間に変身したのである。
グルル。コーギーのオスで、社会人生活を始めた頃からの付き合いだ。元は実家の近所で産まれたのを引き取り、今まで大切に育てている。社畜として無味乾燥な日常を送っているかなでにとって、唯一と言っていい癒しの存在だ。
「いつものことだから。それで、ご飯は作ってあるけどどうする?」
「食べる食べる!ほんと、いい子なんだから。しかもこんなにイケメンだし」
「・・・・・・?早く行こう、ご飯冷めるから」
言葉の意味が分からないのか、グルルは首を傾げた後かなでの手を取り引っ張っていく。見た目は高校生程で、明るい茶髪にまるでアイドルのような顔立ちをしていた。表情は乏しいが尻尾がぶんぶんと振られていることから、かなでが帰ってきたことをとても喜んでいるらしい。
どうして愛犬が人間になったのか、原因はまるで分からない。しかしかなでにとってはどうでもよかった。原因を考える余裕が無いとも言える。とにかく、帰る場所に誰かがいるのはいいものだ。今までもグルルは部屋で待ってくれていたが、言葉が通じると更に距離が縮まった気がするから。
それにグルルは家事を頑張ってくれてもいた。元が犬だというのにとても器用で、下手をしたら飼い主よりも優秀に見える。少なくともかなで本人はそう思っていた。
「うわ、いい匂い。今日は何を作ったの?」
「てれびでやってた奴。和風ろーすとちきん。ご主人、お肉が好きって言ってたから」
「え、すごっ!うちの子天才じゃない?私なんて大して自炊出来ないのに・・・・・・」
「僕は時間あるし。ご主人はすごい。かいしゃ?って所でずっと頑張ってる。うん。すごい」
テーブルに座った飼い主の頭を撫で、表情に乏しかったグルルが優しく微笑んだ。モデル雑誌の表紙を飾っていてもおかしくない愛くるしさに、かなでは思わず頬を赤らめてしまう。正直な所、人間になったグルルの顔は彼女のタイプど真ん中だった。それなのに、犬だった頃と変わらずじゃれてくることも多い。耐えられない。
「どうしたの?顔、熱い?」
「う、ううん大丈夫!よっし、いただきまーす!」
更に近付いてくるグルルの顔から目を逸らし、誤魔化すように手を合わせるかなで。いつまで経っても慣れずドキドキしっ放しだ。でも、グルルは家族である。少なくとも彼女自身はそう思っていた。
自分の気持ちにひとまず蓋をして、かなではフォークとナイフを手に取りローストチキンを食べ始める。絶妙な焼き具合と濃い目の味付け、溢れる肉汁が疲れた体に染み渡った。美味しい。グルルが作ってくれたのもあって美味し過ぎる。
「うーん、最高・・・・・・!焼き加減も味付けも私好みだし、何よりこういうガツンとしたものが食べたい気分だったんだよね。ありがとう、グルル。感謝してもし足りないよ」
「ずっと恩返ししたかったから。人間だと色々出来るし、ご主人が喜んでくれて嬉しい。うん。こっちこそありがとう、だね」
「あーもう、この子ったら!うりうりうり~!」
辛抱たまらなくなったかなではフォークとナイフを置いてグルルをわしわしと撫でる。髪を撫でつけ、頬を両手で挟み込んだ。姿形は変わってもその温もりは変わらない。嬉しそうに喉を鳴らすのも前と同じだ。
あぁ、幸せだ。かなではグルルとじゃれ合いながら思う。社会は厳しいし辛いし苦しいけど、グルルがいるなら頑張れると。こうして言葉が通じるようになって本当に良かった。犬が人間になったという謎や問題を棚に上げ、彼女は愛犬を抱き締めながら微笑むのだった。
「むり、ほんと、むり・・・・・・」
しかし。だからといってブラック企業の待遇が改善するわけでは無い。日々の激務で疲れ切っているかなでは電車で寝過ごしてしまい、気付けば終電も無くなっていた。グルルの待つマンションは遥か遠くで、徒歩で帰るのはあまりにも無謀である。
仕方無くタクシーを呼んだが、深夜なのもあり目が飛び出る程の料金を請求されてしまった。明日・・・・・・というより今日は折角の休みだというのに、手痛い出費だ。それもこれも自身が寝過ごしたせい。かなでは自己嫌悪に陥りつつ、とぼとぼとマンションの階段を上っていく。
「・・・・・・」
こんな時間だ、グルルはもう寝ているはず。音を立てないようドアを開き、無言で部屋の中に入った。予想通り明かりは消えていて、いつもは出迎えてくれるグルルの姿は無い。寝室を覗くと、かなでのセーターを抱きながら眠っている愛犬の姿があった。
「っ」
あまりにも愛しい光景に胸を抑えるかなで。きっと寂しがらせてしまった。だからセーターを引っ張り出して、抱き締めながら眠ったのだろう。申し訳無さと同時に愛しさが溢れ出し、疲れが吹き飛ぶような気さえしてくる。
そっと寝室のドアを閉じて深呼吸。すぐにでもあの場に飛び込みたいがまだやることがある。シャワーを浴びて汗やメイクを落とし、何か腹に入れなければ。グルルの姿を見て元気が湧いてきたからか、同時に空腹も強く感じ始めていた。
今夜もグルルは料理を作ってくれていて、テーブルにはラップのかかった食器が並んでいる。肉じゃがとシーザーサラダのようだ。本当にありがたい。自炊の腕はとっくに彼の方が上になっているだろう。心から感謝しながら席に着き、手を合わせようとする。と、
「あれ、これって」
料理の横に置かれているのは、見慣れないパッケージの缶ジュースだ。カラフルな見た目に、オカルト的な人魂が描かれている。イチゴ味の炭酸飲料らしいが・・・・・・。
「こんなの買ってあったっけ?うーん・・・・・・」
記憶を探るが心当たりは無い。グルルが買ってきたのだろうか?しかし、散歩以外で外に出たりはしないはず。奇妙に思いながらも丁度喉が渇いていたかなでは、プルタブを開けて中の液体を口にした。
「ん、結構甘い」
甘ったるさを感じるいちごの風味に微炭酸が合っている。ちょっと味は濃いが普通に美味しい。何より疲れた脳みそに糖分が行きわたるようで、缶一本分を一気に飲み干してしまった。ひとまず空き缶を横に置き、改めて肉じゃがに手を付けようとする。が、
「あ、れ?」
ぐらり。突然視界が傾いた。体に力が入らず、急速に眠気が湧き上がってくる。まさか、さっきの缶ジュースに睡眠薬でも入っていたのか。そんなことを考えている内に、彼女の意識は遠のいていった。
「え、あっ、なに?」
しかし、眠気はすぐに消えて無くなる。代わりに浮遊感を覚え、訳も分からないまま辺りを見回した。いつものリビングにいつものテーブル。だが視点がおかしい。まるで天井近くから見下ろしているような・・・・・・。
「は、えぇ!?」
そして、更におかしいのは。見下ろしているテーブルに座っているのはかなで自身のように見えた。肉じゃがとシーザーサラダの食器を押しのけるように突っ伏している。どういうことなのか。訳が分からない。
混乱しながらなんとか落ち着こうとするかなで。深呼吸しようと胸に手を当てた所で気付いた。今の自分は透明だ。手や胸の感触はあるが、あるはずの場所には何も見えず部屋の景色が透けている。
「こ、これって・・・・・・幽体離脱、みたいなやつ?」
頭に浮かんだ言葉を呟き、再び自分の体を見下ろした。テーブルに突っ伏している自分は微かに動いていて、どうやら息はしているらしい。とりあえず死んでいないことに一安心するが、それどころではないと気を取り直す。早く体に戻らなくては。
しかし、どうやって動けばいいのか分からない。幽体になっている自分はふわふわと浮いているが、手足をじたばたさせてもその場から移動出来なかった。色々と試した結果、心で念じるとゆっくりながら動けるようだ。四苦八苦しながら自分の体に近付き手を伸ばす。が、
「あ、あれ?」
すかすかと通り過ぎる感覚。漫画な何かで見た幽体離脱は、体と幽体を重ね合わせれば元に戻れていたが・・・・・・どうやらそのようなことは無いらしい。ならば、どうすればいいのか。かなでは焦りながら自分の体に入ろうともがき、しかしなんの意味も無かった。
「どうしよう、このままじゃ・・・・・・し、死んじゃったり・・・・・・」
浮かんだ考えにぞくりと震え、どうにかしようと必死に考える。そうだ、病院。元に戻らないといけないが、その前に体が死んでしまったら終わりだ。119番通報で救急車を呼べば、最悪の事態だけは避けられるかもしれない。
しかし、当然スマホを掴むことも出来なかった。すり抜けるばかりでどうにもならない。焦りが心を支配していくのを感じながら、かなでは一縷の希望を胸に寝室へと向かった。もしかしたら、グルルなら今の自分を認識出来るかも。
「ど、動物って霊感強いって聞くし、きっとグルルなら」
自分へ必死に言い聞かせ、藁にも縋る思いで寝室のドアをすり抜けた。そこにはさっき見たのと同じ体勢で眠っているグルル。セーターに頬をこすりつけ、とても気持ちよさそうに寝息を漏らしている。
「グルル!ねぇグルル、聞こえる?起きて、お願い!」
必死に呼びかけてもグルルは全く反応しない。眠りが深いのか、そもそもかなでの声が聞こえていないのか。肩を掴んで揺さぶろうにも今のかなでではすり抜けてしまう。それでも必死に手を伸ばすと、奇妙な感覚が湧き上がってきた。何か、引き寄せられているような。
「な、なんなのよ今度は」
すり抜けていた手がグルルの体の中に吸い込まれていく。自分の体と重ねた時は何も起こらなかったのに何故なのか。考えるよりも先に手を引っ込めようとするが、逆にずぶずぶと深く入っていってしまう。
「え、ちょっと、止まらない・・・・・・!?」
気付けば、肩の辺りまで飲み込まれていた。そのままどんどんグルルと重なっていく。かなではどうにかして離れようとするが、ふわふわと浮いているからか踏ん張れない。そして、ついには全身がグルルと重なり・・・・・・。
「っ!?」
がくん、と。高い所から落ちたような衝撃を感じ、飛び起きた。一体何が起こったのか分からないまま、辺りを見回す。さっきまで目の前で寝ていたグルルがいない。
「ぐ、グルル?どこ行ったの?え、何この声」
呼びかけた途端、凄まじい違和感を覚えた。声が自分のものではない。女性のものですら無いように聞こえる。思わず喉に手を伸ばすと、そこには固い膨らみがあった。喉仏だ。自分の喉には無いはずのものである。
「も、もしかして」
最悪の想像が脳裏をよぎり、かなではベッド横の棚に置いてある手鏡を手に取った。自分の顔を映すと、そこには困惑し切った表情の愛犬・・・・・・グルルが映っている。こんな情けない顔、今まで見たことが無い。
手鏡に自分が映らず、映っているのは雰囲気が全然違うグルル。内心を現しているのか、犬の耳が不安げに震えている。それは、つまり・・・・・・。
「わ、私グルルに憑依しちゃったの!?」
かなでの、グルルの悲鳴が寝室に響き、手から滑り落ちた手鏡が絨毯の上にぼとりと落ちた。
「うぅ、どうしよう・・・・・・!全然抜け出せない・・・・・・」
十数分後。かなではなんとかしてグルルの体から抜け出そうとしていたが、中々上手くいっていない。そもそも何故憑依出来たのかも分からないのだ。とりあえず自分の体の確認はしたが、呼吸も脈も正常だったのでひとまずそちらの心配はいらないだろう。
しかし、これからどうすればいいのか。救急車を呼んでも、解決するどころか状況が悪化する予感しかしない。まずはなんとかしてグルルの体から抜け出さなければ。でも、どうやって?
「そうだ、スマホ。調べたら何か出てくるかも・・・・・・あ」
そう考え自分のスマホを手に取るかなでだが、顔認証が通らなかった。今の彼女はグルルなのだから当然である。抜け殻になっている体の方はテーブルに突っ伏している為、スマホの画面に映しづらい。
「あぁもう、しょうがない」
このままテーブルに突っ伏させておくのも、変に体を痛めてしまうかもしれない。つい先日もテーブルで寝落ちして酷く肩が凝ったのだ。かなでは慎重に自分の体に肩を貸し、なんとかして寝室まで運ぼうとする。すると、
「あれ、全然軽い・・・・・・?」
思っていた半分の重さも感じず、端正な眉を顰めさせた。幽体、というか魂が抜けているからだろうか。いや、違う。グルルの体だからだ。自分を楽々と背負いながら、かなではグルルになっていることを改めて実感する。
「よいしょ、っと」
ベッドに自分の体を寝かせ、一息吐くかなで。こうして自分の姿を客観的に見るのは変な気分だ。そう思いつつ、スマホの顔認証を通し検索サイトにアクセスした。幽体離脱や憑依について手当たり次第に調べていく。
多数のサイトがヒットするが、どれもがオカルトや創作で役に立ちそうな情報は見当たらない。たまに憑依体験をしたという話を発見しても、今のかなでとは状況が違うものばかりだ。特に、他人に乗り移ってその体を自由に動かせるなんてことは漫画や小説の中だけの話だった。
焦りながらスマホをタップし続けるかなで。気付けば額に汗が滲んでいて、画面にぽたりと垂れてしまう。このままでは駄目だ。一旦スマホから目を離して額を拭う。しかし、動揺しているせいか汗は次から次に垂れてきた。
「あぁもう、グルルの体なのに」
人間になったグルルが特に汗っかきだったという記憶は無い。つまり、中に入っている自分のせいだろう、仕方ないのでタオルを持ってこようと立ち上がるが、そこでとあるものが視界に映った。グルルが寝ている際に抱き締めていたセーターだ。
なんとなく手に取り、じっと眺める。何故か目が離せない。それに、甘い香りがするような気がする。顔を近付け鼻をひくつかせると、やはり心地いい匂いが感じられた。柔軟剤か何かのものだろうか。
いや、違う。かなでは本能的に直感した。これは「ご主人」の匂いだ。好きで好きでたまらない、愛すべきご主人の匂い。そして、その匂いが急に濃くなった気がした。振り向くと、そこにはかなでの体が横たわっている。
「あ・・・・・・」
意識した瞬間、自分の体から漂うそれがかなでの脳に沁み込んでいく。グルルの鼻は人間になっても鋭いようで、フェロモンとも言うべき匂いは敏感に感じ取れてしまった。心臓の鼓動が大きくなり、息が少しずつ上がっていく。
「なんか、暑い」
グルルの体の変化に戸惑いながら、かなでは上着を脱ぎ捨てた。引き締まり、筋肉質な上半身が姿を現す。しかし、彼女の視線は自分自身に釘付けになっていた。仰向けですぅすぅと寝息を立てている「ご主人」。本能に促されるまま、ゆっくりと近付く。
気付けば。かなでは自分の体に覆いかぶさり、熱く荒い息を吐いていた。頬は上気し目元も潤んでいる。目の前の「ご主人」が愛しい。今すぐ抱き着き、わしわしと撫でてもらいたい。だけど駄目だ。ご主人は、こちらの気持ちを知らないのだから。
「これ、この想い・・・・・・グルルの?」
胸中から湧き上がる感情。それは、グルルがかなでに恋慕の情を抱いていることを示していた。人間になる以前から、ずっとつがいになりたいと思っていたらしい。だが、自分はあくまでペット。だから人間になった後も、想いを隠そうとしていたようだ。
衝撃の事実を知ってしまったかなでは、しかしそれどころでは無かった。湧き上がる感情は留まる所を知らず、自分の意識が押し流されてしまいそうになる。目の前のご主人を愛したい。繋がりたい。自分のものにしたい。それは根源的で、本能的で、抗いがたい欲求だ。
「はぁ、はぁ・・・・・・!」
熱い。全身が、特に下半身が熱くてたまらない。茹だる思考のまま視線を落とすと、ズボンには大きなテントが張っていた。酷く窮屈で苦しい。衝動のまま、パンツごと脱ぎ捨ててしまう。そこにはグルルのペニスが存在を主張していた。
かなでは処女ではない。学生時代に一度だけ経験がある。しかし、グルルのそれはその時の相手とは比べ物にならない大きさだ。太く、長く、たくましい。形は人間のものと同じだが、圧倒されてしまうような迫力を感じる。
が。かなではそんなことよりも自分の体に目を奪われていた。酷く魅力的に見えてしまう。無論、性的な意味で。意識を失ったままの表情も、控えめな胸の膨らみも、引き締まった臀部も、漂ってくる匂いも。全てが劣情を煽ってきた。
「わ、私の体なんだし。いいよね、いい、うん」
正常な思考はどこかへ消え去り、目の前の自分の服に手を掛けるかなで。手際良く脱がせて下着姿にしてしまう。ごくりと唾を飲み込む音が頭に響き、飾り気の無いブラジャーに包まれた胸に手を伸ばした。
ぷるん。ブラジャーを外した瞬間、二つの膨らみが揺れる。それ程大きくない胸はコンプレックスだったが、今のかなでにそんなことを考える余裕は無かった。震える手で、ガルルの指でそっと触れる。柔らかい。
「ぜ、全然違う。自分で触るのと」
普段の自慰行為で触る時よりも、より繊細に感じられる胸の柔らかさ。ガルルの感覚が鋭敏だからか、つるりとした肌の感触が心地よかった。夢中で自分の胸を揉みしだき、どんどん息が荒くなっていく。そして、
「あれ、もしかして・・・・・・」
気付けば、意識を失っているはずの顔が赤く紅潮していた。胸を執拗に揉まれ、体が反応してしまっているらしい。目の前の女が発情している。そんな状況にグルルのペニスがびきりと怒張した。駄目だ、もう我慢出来ない。
「っ、もう・・・・・・!」
切羽詰まった声を上げ、かなでは紅潮した顔に腰を近付ける。頬にぐにりと当たった瞬間、感じたことの無い刺激がペニスから伝わってきた。クリトリスの快感に近い、しかし別種の刺激。根本が熱くなって、脳が煮えたぎるような気さえ覚えてしまう。
「はっ、はぁっ」
頬に腰を擦り付けペニスを刺激していく。柔らかな肌が亀頭と触れ合う度、喉の奥から漏れそうになる声を押し殺した。背徳感と快感が混ざり合い、背筋がぞくりと震える。既に止まる気は無かった。動きがどんどん激しくなっていく。
「なんかっ、くるっ・・・・・・!」
根本から込み上がってくる感覚。それが射精の前兆だとかなでは理解出来ない。堪えることも出来ず、彼女はグルルの体で精液をぶちまけた。眠っている自分の顔が白濁に染まり、強烈な匂いが辺りに広がる。
「っっっ~~~!!」
涎を垂らしながらも歯を噛み締め、嬌声を抑えようとするかなで。何回も何回も放出し、その度にガクガクと腰が震える。果たして目の前には穢された自分の顔が見えた。まるでパックか何かのように、大量の精液が顔に滴っている。
部屋に充満する男の匂いと穢された自分の肉体。そしてそれは自分が射精したからなのだ。あり得ない状況に正気を失っているかなでは、萎える気配を見せないペニスに視線を落とす。鈴口からは精液がぽたりと垂れ、それでも硬さを維持したままだった。
「もう、無理」
肉体の奥底から衝動が湧き上がる。目の前のご主人とつがいになりたい。子種を注ぎ、孕ませてしまいたい。その衝動はグルルがずっと抱え、我慢し続けていたものだ。だが、かなでには耐えられない。雄の本能に慣れておらず、耐える術を知らなかった。
なりふり構わず雌の服を剥き、パンツも引き下ろす。薄く愛液で湿った女性器が露わになった。風呂場などで見慣れたはずのそこから雌の匂いが漂い、かなでの鼻腔を突き抜ける。たまらない匂いだ。雄の体、その衝動を掻き立て誘う匂い。
かなでは自分の体の腰を持ち上げ、怒張したペニスを股間に押し当てる。禁断の行為に理性が警鐘を鳴らすが、今更止まることは出来なかった。前戯も愛撫もせず一気に腰を突き入れると、熱い肉がペニスに絡みついてくる。
「っは、なに、これ・・・・・・!」
きゅうきゅうと締め付け、それでいて柔らかい膣内。怒張したペニスをあっさりと呑み込み、亀頭から竿まで満遍なく刺激してきた。子種を欲しているのか、その動きは切迫するように激しい。
「私の中、なんでこんなに、だめっ!」
挿入した直後だというのに射精してしまうかなで。二発目だというのに凄まじい量が放たれ、結合部からごぼりと溢れ出す。殆ど暴発に近い形で、精液が子宮にたっぷりと注がれていった。それなのにペニスは一向に収まる気配を見せない。膣の中で三発目の準備に入っている。
「あぁっ、んんっ、っううぅ・・・・・・!」
情けない声を上げながらかなでは腰を動かした。へこへこと自分の体を犯していく。ふと振動で震える胸が目に入り、頭を埋めて乳首を口に含む。そのまま赤子のように吸い付いた。あぁ、安心する。そして気持ちがいい。
三発目。漏らすような射精が膣内を白く染め上げ、子宮をとぷとぷと満たしていく。その間も腰は動き続け、肉と肉がぶつかる音が部屋中に響き渡っていた。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・・・・」
何度精を放っただろう。全身が疲労に覆われながら、かなではようやく腰を引き抜いた。精液と愛液が混ざった液体がごぽりと零れ、シーツを汚していく。周囲も酷いものだ。あらゆる体液がまき散らされ、特に結合部近くのシーツは大きなシミになっている。
大きく息を吐き、自分の体の横に倒れ込むかなで。満足感と充足感、心地良い疲労を感じていた。グルルの体を使い、自分の体を犯し尽くしたという事実すらどうでもいい。今はただ、この幸福に浸っていたかった。
うとうとと微睡み始める中、頭に浮かぶのはグルルの笑顔。慈しむべき愛犬を思いながら、彼女は意識を手放した。
「ただいまー、グルル」
「お帰り、ご主人。ご飯出来てるよ」
あれから数週間後。かなでとグルルは日常に戻っていた。あの日、目覚めたかなでは元の体に戻っており、周囲の惨状を見て夢ではなかったと自覚。急いで片付けつつグルルに服を着せ、事態を隠蔽しようと試みた。
幸い、グルルには一切の記憶が残っていなかったようだ。翌日の朝、いつもより眠そうながらいつも通りの態度を取る愛犬の態度にホッとするのも束の間、真実を伝えるかどうか迷ってしまう。しかし、結局かなでが伝えることは無かった。
もし真実を伝えたとして、グルルにはなんの責任も無い。下手に負い目を感じさせたくはなかった。これは全部自分の責任だ。何故か幽体離脱し、あまつさえグルルに憑依してしまい、本能に流され己の体を犯した自分の責任。だから伝える必要は無い。
「毎日毎日、本当にありがとうね。わっ、今日も美味しそう!これは・・・・・・ピザ?」
「やりたくてやってるだけだから。油揚げでピザを作れるっててれびでやってたから、試してみた。普通のよりへるしー?なんだって」
「すごいなぁ・・・・・・グルル、ハイスペック過ぎない?テレビで見たからってこんな美味しそうに作れるなんて、料理の才能があるのかも」
「そうなのかな。自分では、よく分からないけど」
そう言ってはにかむグルルをかなではわしゃわしゃと撫でる。平穏で幸せな日常だ。あの日の出来事がまるで嘘のような。しかし、それはあり得ない。何故ならば証拠があるからだ。
昨日、かなでは帰りに薬局に寄っていた。目的のものを購入し帰宅、トイレでそれを試している。それとは、妊娠検査薬。あれだけ中出ししてしまったのだ、妊娠の可能性は当然あると思っていた。
そして、結果は陽性。間違い無くあの日の時に孕んだのだろう。つまり、かなでは自分で自分を孕ませてしまったことになる。本来ならば信じられない、倒錯的な真実。だが、現実だ。
「ふふっ」
すぐにでも何かしらの対応をしなければならない状況に、しかしかなでは何もしていない。愛おしそうに腹を撫でるご主人を見て、グルルが小首を傾げる。
「どうしたの、ご主人?何か食べてきた?」
「ううん、お腹ペコペコでね。それじゃ、ご飯にしよっか!」
朗らかに答え、食卓に着く。産もう。色々と面倒はあるだろうけれど、それでも。彼女はそう決めていた。嬉しそうなかなでを見て、グルルも嬉しくなったのか尻尾をぶんぶんと振る。妊娠の事実を、何も知らないままに。