※この作品はR-18です。

TSアイテムで人生が変わる話   作:てぬてぬ@TSF

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裏社会の仕事人が女体化させられお嬢様の友達になる話

深夜、草木も眠る丑三つ時。豪奢かつ広大な屋敷の一角に、招かれざる者が侵入していた。

 

「警備が想定より手薄いな・・・・・・罠か?」

 

口の中で呟きつつ、誰もいない廊下を進む人影。彼は裏社会に身を置く仕事人だ。今回の依頼は、とある財閥の一人娘を誘拐すること。身元を引き渡すまでが彼の仕事である。

 

御子柴家。日本でも有数の財閥であり、経済から政治まで影響力は計り知れない。そんな名家の一人娘を攫おうというのだから、かなりの困難が予想されていたのだが・・・・・・今の所酷く順調だ。ともすれば、罠ではないかと疑う程。

 

しかし、ここまで侵入した時点で撤退の選択肢は無い。元々危険は承知で引き受けた依頼だった。難病に罹り莫大な治療費が必要な妹の為、信じられない程の大金が必要なのだ。失敗は許されない。ただ一人の家族である妹を助ける為に。

 

屋敷の間取りは把握していた。一人娘が就寝しているであろう部屋も。だが、護衛や見張りが見当たらないのは予想外である。ここまで警備が緩いなんてあり得るだろうか?懸念を抱きつつも進んでいく彼は、やがて目的の部屋の前まで辿り着いた。屈強な男性が二人、扉を守るように立っている。

 

迅速に制圧しなければならない。可能なら、命は奪わないように。男は懐から改造済みのスタンバトンを取り出した。最大出力なら大型の野生動物でも意識を飛ばせる代物だ。適切な出力に調整し、タイミングを計って襲い掛かる。

 

「何もっ!!?」

 

まず一人。首筋にスタンバトンを叩きつけると動かなくなった。もう一人が無線を使用する前に更に一撃。素早く二人を昏倒させ、スーツの裏側を漁る。見つけた。部屋のロックを解除するカードキーだ。事前の情報通り、パスワードの類は入力する必要が無いらしい。

 

上手くいき過ぎている。そう思いながらも、男はカードキーで部屋へと侵入した。ここからは時間との勝負だ。一人娘の身柄を確保し、すぐに脱出を・・・・・・。

 

「あら、こんばんは。野良犬かしら。それとも首輪付き?」

 

「っ」

 

部屋の中。華美な装飾が施されたベッドの中央に、フリルに彩られたパジャマを着た少女が座っている。表情はにこやかで、まるで親しい人物に話しかけているかのようだ。その落ち着きぶりはこちらの襲撃が勘付かれていたとしか思えない。すぐさま距離を詰めようとする男。しかし、

 

「ぐぅっ!?」

 

「おいたは駄目よ。私としても、貴方は殺したくはないのですから。貴方が殺さなかったお礼にね」

 

物陰に隠れていたのか、倒したのとは別の護衛達が男を取り囲み抑えつけた。なんとか抵抗しようとするも複数人相手ではどうしようもない。スタンバトンは弾き飛ばされ、上からの圧迫に意識が遠のいていく。

 

呆気無い。無意味に足掻きながら、男は悔しさに歯噛みする。妹を助けると決意しておいて結果はこれだ。恐らくこの後、自分は拷問にかけられ情報を引き出そうとしてくるだろう。せめて、妹に危害が及ぶのだけは避けなければ。

 

最後の手段として舌を噛み千切ろうとする男。しかし、それに気付いたらしい一人娘がタオルを噛ませることを指示。自ら命を絶つことすら出来ず、男の意識は闇に呑まれていった。

 

 

 

 

 

 

 

温かく、ふかふかの何かに包まれているような感覚。とても心地いい。ゆっくりと意識を浮上させ、目を開ける。装飾の施された天蓋が視界に映り、男は我に返って飛び起きた。

 

「っ!?」

 

そこはベッドの上だ。一人娘が寝ていたものよりは小さいが、それでも大きく上等なベッド。何故自分はこんな所に寝かされていたのか。素早く周囲に視線を走らせると、どうやらここは客室か何からしい。高級そうな調度品が並び、部屋の隅には先程の護衛の一人が立っていた。

 

襲撃者を捕えておく場所としては穏当過ぎる部屋だ。何を企んでいるのか思考を回しつつ、飛び起きた男にも微動だにしていない護衛に声をかける。

 

「おい、なんのつもりだ。・・・・・・?」

 

違和感。自分が放ったはずの声は、いつもの自分のものではない。それどころか、女性の声に似通っていた。そこで気付く。今の自分が纏っている服装を。

 

「っなんだこれは!?」

 

薄桃色で、可愛らしいフリルが散りばめられたワンピースだ。明らかに成人男性が着るものではない。意識を失っている間に着替えさせられたのか。どちらにせよ悪趣味である。

 

「目が覚めたのね。元気そうで良かったわ」

 

おかしな状況に混乱していると、護衛を二人連れた一人娘が扉を開けて入ってきた。優美な足取りで、なんの警戒も無く男に近付いてくる。顔に浮かべているたおやかな微笑みには、悪意や敵意は感じられない。

 

「・・・・・・これは、どういうことだ。どうしてこんな服を着せた?」

 

馬鹿げた質問と分かっていながら思わず訊ねる。一人娘はくすりと笑った後、なんでもないことのように言葉を返した。

 

「似合うと思ったから。見立て通りだわ、よくお似合いよ?」

 

「男にこんな服を着せて喜ぶとは、御子柴のお嬢様はとんだ変態だな。酷い醜聞だ」

 

「あぁ、まだ気付いていないのね。お願い」

 

笑みを絶やさず、一人娘・・・・・・お嬢様は護衛に何かを合図した。護衛が取り出したのは手のひらサイズの鏡。それを見せつけるように男へと差し出す。

 

「どうぞ。自分の目で確認してみるといいわ」

 

「一体何を・・・・・・」

 

意図が読めないまま、鏡を受け取り覗き込む。そこに映るのは当然男の顔・・・・・・ではなかった。妹によく似た少女が、警戒心を露わにこちらを睨みつけている。どういうことかと口に手を当てると、鏡の中の少女も同じ動きをした。

 

「ふふふ。お気に召したかしら、その体は?」

 

「お、おい、待て、これはどういう」

 

鏡から目を離し、体を見下ろす。そこには可愛らしいワンピースに包まれた自分の体。しかし、おかしい。手足はやけにほっそりしているし、肌は白くつややかだ。何より、胸には大きな膨らみが感じられた。股間にぴったりと張り付く感覚は下着だろうか。

 

「見ての通りよ。今の貴女は可愛い女の子。それも、私好みの。ふふ、運が良かったわね」

 

「は、はあぁぁぁっ!!?」

 

男の絶叫は部屋に響き、しかしそれは少女の声にしか聞こえなかった。

 

 

 

 

 

 

満足気なお嬢様が部屋を去った後、男・・・・・・少女はメイド服の侍女から説明を受けた。曰く、御子柴財閥は最近新薬の開発に成功したと。投与することで肉体の組成を変化させ、別人に変身出来る薬を。

 

人体実験のサンプルが一つでも多く欲しかった為、丁度やってきた襲撃者に投与。結果男は少女に変身し、その姿がお嬢様の好みだった為研究所送りを中止、屋敷に留まらせているらしい。

 

「いや、どういうことだよ・・・・・・」

 

「質問にはお答え出来ません」

 

嘆息と共に呟いた言葉に、侍女は慇懃に返答する。わざわざ説明してもらった少女だが、まるで状況が掴めない。正確には何を言っているのか理解出来ないのだ。

 

謎の薬を作り、人体実験として自分に投与した所までは分かる。そういった事例や噂は、裏社会で生きていれば少しは耳にしていた。しかし、なぜこのような少女に?その上姿が気に入ったから研究所送りを中止?それではサンプルにならないのでは?

 

だが、目の前の侍女に聞いても答えてはくれないだろう。少女は押し黙り、ふかふかのベッドに腰を下ろす。お嬢様は去り際に言っていた。詳しい話は明日にしましょう、と。ならば、その時に問い詰めるまでだ。

 

こんな姿になってしまったがやるべきことは変わらない。妹を助ける。その為にはなんとか脱出し、可能ならお嬢様を連れ去らなければ。元に戻るのは二の次だ。妹さえ助かるなら、自分はどうなっても構わないと思っていた。

 

「ちっ」

 

舌打ちを一つ。部屋の構造を調べたいが、侍女は直立不動で微動だにせずこちらを見ている。これでは下手に動けない。仕方なくベッドに横になる少女。こんな高級なベッドは初めてで、更に服装な女の子のもの。肉体も変わっているとなれば落ち着けるわけも無い。

 

だが、無理やりにでも眠らなくては。お嬢様や護衛が何もしてこない以上、少しでも英気を養っておかなければならなかった。全ては妹の為に。覚悟を固め、眠れる気がしないまま目を閉じる。どう脱出するかを頭の中で考えながら。

 

 

 

 

 

 

 

「おはよう。よく眠れたかしら?」

 

「はっ、おかげさまでな」

 

皮肉げな返事に、目の前のお嬢様はニコニコと微笑んでいる。少女とお嬢様の間にあるテーブルには、出来立ての料理がズラリと並んでいた。どれもが美味しそうで、また高級そうだ。朝ご飯にしては量が多いのは、残すのを前提としているからか。

 

「それは何よりね。さぁ、貴女の今後を決める話をする前に、まずは朝食にしましょう。腹が減っては戦は出来ぬ、だったかしら。空腹では判断も鈍るでしょうし」

 

「そりゃどうも。至れり尽くせりだな、全く」

 

ここまで来て、まさか毒などは入っていないだろう。少女は乱暴に手を伸ばし、パンを手掴みにして口に運ぶ。わざと粗暴な態度を取っているのは威嚇と見栄の為だ。そんな考えも見通しているのか、お嬢様は咎めもせずに言葉を続ける。

 

「アレルギーがあったら教えてちょうだいね。肉体が変化しても、アレルギーの種類は引き継ぐことが多かったから」

 

「生憎健康体でね。アレルギーらしいアレルギーは無いよ。というかあんた、そこまで気にする必要があるのか?俺は不法侵入者だぞ?」

 

「でも、今はただの女の子でしょ。私は可愛いものが好きなの。物も、人もね」

 

優雅な動作でナイフとフォークを持ち、食事を始めるお嬢様。それを見て顔をしかめる少女。癪ではあるが、自分が食べているパンは非常に美味しかった。他の料理もきっと美味しいのだろう。味を楽しむ余裕は無くとも、栄養は摂っておかなくては。

 

「それで、貴女は何者なの?どこの手の者?多分、首輪は付いていないと思うんだけれど」

 

「・・・・・・そう簡単に話すと思うか?」

 

食事の合間に投げかけられた質問に素っ気無く言葉を返す。少女に事情を話す気は一切無い。もし目の前のお嬢様に屈したと依頼主に知られれば、最悪妹に危害が及ぶ可能性もあるからだ。

 

誘拐が失敗したと知られても、依頼主とて最低限の約束は守るはずだ。少女が裏切らない限り、妹に手を出すとは考え辛い。だから絶対に情報は吐かない。吐いてなるものか。目の前のお嬢様を睨みつつ、少女はスプーンで掬ったスープを啜る。やはり美味しい。

 

「ふふ、情熱的な視線ね。可愛い」

 

「・・・・・・」

 

世迷い言だ。いや、むしろチャンスかもしれない。こんな少女の姿にならなければ、意識が戻らないまま処分されたかもしれないのだ。そうでなくとも研究所に送られていた可能性が高い。だから、これはチャンスなのだ。少女はそう思い込みながら、様々な料理に手を伸ばし始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、これはどういう状況なんだよ!?」

 

「うふふふふ。よいではないか、よいではないか。大丈夫、別に痛くしたりはしないから」

 

朝食の後、少女は監視役の侍女に着替えをさせてもらった。青を基調としたフリフリの服に辟易するも、抵抗した所で大した意味は無い。仕方なくなすがままにされていると、先に着替えを済ませたお嬢様が姿を現した。今の少女と似た服装に身を包んでいる。

 

そして、そのまま始まったのは撮影会。ゴツい写真機を持った侍女と、様々な準備をする護衛達に囲まれ少女は戸惑いの声を上げた。怪しげな笑い声で返すお嬢様は、ぎゅっと抱き着き密着してくる。服越しでも分かる柔らかさと、ほのかに甘い匂い。

 

「ちょ、お前なんなんだ!?離れろって!」

 

「何って、拷問よ拷問。嫌がることをしないと拷問にならないじゃない」

 

拷問。可愛い服を着て、誘拐するはずのお嬢様と写真を撮ることが?訳が分からないが、少女にとって苦痛であることは確かだ。だからといって情報を吐く気も無いのだが・・・・・・。

 

「ほら、笑って?私と一緒に」

 

「そ、そんな頼みを聞く義理は無い!」

 

「そんなこと言わないで。折角写真を撮るんだもの、笑っていた方が絶対良いわよ」

 

じたばたと藻掻く少女。しかし、非力になってしまった肉体ではお嬢様を振り払えない。その上、藻掻けば藻掻く程密着しているお嬢様の柔らかさが伝わってくる。気付けば少女の顔は真っ赤に染まり、湯気が噴き出すような有様になっていた。

 

「こんな、ことを、しても、俺は話さないからな・・・・・・!」

 

「えぇ、構わないわ。拷問なんて建前だし。私はただ、可愛い貴女と写真を撮りたいだけだから」

 

息も絶え絶えに言い放つも、返ってきた言葉は馬鹿げたものだ。実際、お嬢様は酷く上機嫌に見えた。一方、何度かの着替えを挟み、100枚以上の写真を撮られた少女はぐったりと疲れ果てている。お嬢様の腕の中、呆然とした表情を浮かべ虚空を見つめていた。

 

「な、なんで俺が、こんなことを・・・・・・。それに、着替える度に胸揺れるし・・・・・・」

 

「羨ましいわ。私はそんなに大きくないから。侍女から聞いたのだけれど、Gカップはあるそうよ」

 

「あぁ、そうですか・・・・・・」

 

気力を根こそぎ持っていかれ、疲労の滲んだ声で呟く少女。こんな扱いが続けば、確かに心が挫けてしまいそうだ。痛みなら耐えられる。だが、女の子扱いされるのには納得がいかない。

 

「とりあえず、今回はここまでにしようかしら。さ、疲れたでしょう?一緒にお風呂に入りましょうね」

 

「あぁ・・・・・・あぁ!?」

 

追撃のように告げられたとんでもない提案に、少女は目を見開きながらお嬢様を凝視した。本気なのか、この女は。自分は侵入者であり、御子柴家に害を及ぼそうとしている存在なのは理解しているはず。それなのに・・・・・・。

 

「女の子同士じゃない、そんなに驚かなくてもいいのに」

 

「俺は、男だ。いや、そもそも性別以前の問題だろ。俺はこの屋敷に侵入してたんだぞ?それなのに、警戒心が無さ過ぎる」

 

「あら、怒られちゃった。優しいのね、貴女」

 

「・・・・・・イカれてるのかよ」

 

諦め混じりに罵る。どのみち生殺与奪は相手に握られているのだ、情報を吐かない為にも従うのが上策だろう。しかし、お風呂とは。異性とお風呂に入った経験など、子供の頃に妹や今は亡き母とくらいしか無かった。

 

「言っとくが、襲われても知らんぞ」

 

「今の貴女が言っても可愛いだけよ。それじゃあ、行きましょうか」

 

お嬢様はにっこりと微笑み、少女の手を引き部屋を出る。後ろには侍女と護衛達がぞろぞろと続き、どこか滑稽でもあった。

 

そして、連れられてきたのは広大な浴室。一軒家の敷地程もある場所の隅で、少女は目を閉じたままお湯に浸かっている。その様は修行僧か何かのようだ。お湯は乳白色で、入浴剤か何かが混ざっているらしい。フローラルな香りが微かにしている。

 

「ねぇ、どうしてそんなに隅っこにいるの。それにそんなにキツく目を閉じて。気にしなくてもいいのに」

 

「うるさい。俺には俺のプライドがあるんだよ」

 

刺々しい声で返答し、お湯の中で腕組みをした。大きな胸が邪魔だ。どうしてこんなことに。温かさがじわりと全身を包む中、少女は内心平静ではいられない。当然だ。自分もお嬢様も全裸なのだから。唯一、二人を見張っている侍女だけが服を纏っていた。

 

「女性に興味が無いのかしら。私の体なら好きに見てもいいのよ?」

 

「あんた、御子柴の一人娘だろ。そんな尻軽なこと言っていいのかよ」

 

「それは、心外ね」

 

本当に心外そうな口振りに、少女は薄目を開けて声の方向を見る。お嬢様は自分の腕に湯を馴染ませながら、悲しげな表情を浮かべていた。

 

「私は私よ。御子柴である以前に、私は私なの。可愛いものが大好きな、ね」

 

「・・・・・・そうかい」

 

何か思う所があるようだったが、それ以上は何も訊ねない。訊ねるような間柄でも無いのだ。少女にとって、お嬢様はただの誘拐相手。それだけのはずである。と、

 

「そうなのよ。だから、私は貴女が好きよ。見た目だけじゃなくて、中身も可愛らしいみたいだから」

 

「のわっ!?」

 

ずいっと近付いてくるお嬢様に思わずのけぞる少女。整った顔立ちが目と鼻の先だ。更に、乳白色のお湯から形のいい胸の上半分が見えている。再び目を閉じ、叫ぶように告げた。

 

「馬鹿っ見える!やめろよそういうの!」

 

「ふふ、可愛い。ほら、のぼせる前に体を洗っちゃいましょう?折角だから洗いっこしましょうか」

 

「断る!あと俺は可愛くないからな!」

 

「そういう反応が可愛いのだけれど。うふふふふ」

 

先程の悲しげな表情が嘘のように、お嬢様は楽しそうに笑う。少女はぎゅっと目を閉じたまま、その笑い声を聞くことしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・」

 

ようやくお嬢様から解放された少女は、客室で一人悶々としていた。ただし、侍女の監視付きで。お風呂の後は美容エステも受け、体はホカホカに暖まっている。肌もツヤツヤだ。

 

「なんなんだよ、全く」

 

正直、とんでもない好待遇である。高級ホテルへ宿泊にでも来たのかと思える程の。しかし、実際は囚われの身。なんというか、現状はあまりにも歪過ぎた。いくらあのお嬢様が変人だとしても、ここまでする理由はなんなのだろうか。

 

彼女は言っていた。可愛いものが好きだと。確かに、今の少女の見た目は可愛いと言って差し支えない。くりっとした目つきにはっきりとした顔立ち。妹を少し幼くしたような姿になっている。それに、妹と違って出る所は出て引っ込む所は引っ込んでいた。そのせいで、これが自分の肉体だとはどうしても思えない。

 

「はあぁ」

 

深く溜め息を吐き、ふかふかのベッドに横になる。まだ昼前だというのに、酷く疲れた。今の内にやれることが無いのなら眠ってしまおう。いや、本当にそれでいいのか?相手の思惑に乗せられ、骨抜きにされてしまっているのでは・・・・・・。

 

だが、全身を覆う心地良い疲労感には抗えない。思えば、妹の為に最近は働き詰めだった。少しは休んでもいいのかもしれない。

 

「いや、駄目だ」

 

少女は腑抜けた心に気合を入れ、天井を睨みつける。なんとしても脱出するのだ。妹の病状は一刻を争う程ではないとはいえ、治療は早いに越したことは無い。大金が必要だ。まともな仕事では到底手に入らない大金が。妹を救う為にはなんだってすると決めたのだから。

 

毛布を被り、侍女の視線から逃れる。意味は無いが気分的なものだ。そしてそのまま、どうすれば脱出出来るか、その方策を練り始めた。・・・・・・数分後に自身が寝落ちすることを、少女はまだ知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少女が捕まり、今の姿になってから数日が過ぎた。お嬢様は相も変わらず、拷問と称して様々なこと・・・・・・娯楽やリフレッシュを少女と楽しんでいる。こんなことをしている場合ではないと思いながらも、少女はまだ現状に甘んじていた。

 

警備状況について、新たに分かったこともある。まず、この屋敷は御子柴財閥のものだが、御子柴の人間はお嬢様一人しか住んでいないということ。他の人間は全て護衛か侍女などだ。どうやらこの屋敷は、お嬢様一人の為に与えられたものらしい。

 

そしてもう一つ。警備自体はやはり厳重ではないということ。最初に侵入した時も感じていたが、御子柴家はお嬢様の身柄を重要視していないということか。彼らの内情は依頼主からも伝えられてはいなかった。彼女にも何かあるのだろう。

 

だとしても。だとしても、叶うならばお嬢様を攫わねばならない。あの怪しげで、おしとやかで、変人で、可愛いもの好きのお嬢様を。既にこの数日で、情のようなものが湧いていることは自覚していた。それが相手の思惑かもしれないと深読みもしている。

 

だが、それはそれ。これはこれだ。例え情が湧こうとなんだろうと、妹を助ける為ならばなんでもしなければならない。少女は拳を握り締め、目の前のお嬢様をじっと見据えた。

 

「どうしたの?そんな熱い視線を向けてくれるなんて、照れちゃうわ」

 

「・・・・・・いや、なんでもない。それより、わざわざ外に連れ出すなんてな」

 

ちなみに今は屋敷の中庭でティータイム中である。少女は紅茶のことなど何も知らないが、香りや風味から上等な代物ということだけは理解した。それに、お茶請けのクッキーも上品な甘みがとても紅茶に合っている。妹に持って帰りたい程だ。

 

「そう。それでね、今回ここにお呼びしたのには理由があるの。貴女に話しておかないといけないと思って」

 

「話す?なんだよ、ようやく解放してくれる気になったのか」

 

「それは無理。でも、貴女にとって朗報ではあるかな」

 

微笑みながら言うお嬢様に、少女は警戒しつつも言葉の先を待った。一体なんだというのか。身構える中、あっさりとした口調で告げられる。

 

「貴女の雇い主が捕まったわ。それも組織ごと。だから、貴女は自由よ」

 

「・・・・・・は、はぁ?なんだって?」

 

想定外の言葉に、思わず唾を飲み込む少女。適当なことを言ってこちらを揺さぶろうとしている可能性が脳裏をよぎった。そうでなくとも、告げられた言葉が真実である証拠はどこにも無い。

 

「組織は壊滅、トップの身柄も確保。そこそこ大きな反社会勢力だったみたいだけれど、お父様にかかればこんなものね。一応、貴女に教えられる情報はここに纏めてあるわ」

そう言って差し出された書類を受け取り、急いで目を走らせる。そこには関係者しか知らないはずの情報が列挙されていた。少女に依頼してきた人物や時間、報酬までもが詳細に記されている。信じるしかない。

 

「あぁ、そうかい。それじゃ俺はどうなるんだ?こうやって飼ってても、もうメリットは無いだろ」

 

震える体をなんとか落ち着け、少女は声を絞り出した。依頼はご破算だ。ならば、猶更脱出しなければ。妹の安全を確保するために。

 

「出来るなら、逃がしてくれないか。頼む、俺はまだ死ねないんだよ。あんたらはもう調べたかもしれないが、難病に罹った妹がいるんだ。だから、頼む。見逃してくれ」

 

ここまで来て、最早自身の境遇を隠す意味は無い。どうせ調べ尽くされているだろう。少女はテーブルに頭を打ち付けるような勢いで頭を下げた。恥も外聞も無く、必死に頼み込む。

 

「最悪、俺はどうなってもいいんだ。でも、妹だけは見逃してやってくれないか?いや、違う。治療費を稼ぐまで俺も見逃してほしい。好き勝手な物言いだって分かってる、だけど・・・・・・!」

 

「ちょ、ちょっと待って。どうしてそうなるの。別に私は、貴女にも妹さんにも危害を加える気は無いわ。お父様も好きにしろと仰ってくれているし。だから落ち着いて」

 

その言葉に顔を上げる。お嬢様は慌てているのか、いつもの笑みが崩れていた。初めて見る表情だ。

 

「確かに、貴女のことは調べたわ。難病の妹さんがいることも、何日か前に突き止めていた。でも大丈夫。私で良ければ、治療費を出すから」

 

あり得ない提案。少女は目を丸くしてお嬢様を見つめる。何故彼女が治療費を出すのか。理解が追い付かない。

 

「な、なんで」

 

「だって、私は貴女のことが気に入ってしまったんですもの。見た目もそうだけれど、その優しい人柄が。そんな体にさせられたのに、私にずっと付き合ってくれて。普通はもっと反発するでしょう?」

 

「いや、それは・・・・・・ただの打算だ。別に優しいってわけじゃない」

 

「そう?でもいいの。私の勘違いでも構わない。私、許可無く屋敷の外に出られなくてね。家庭教師は付けてもらっているのだけれど、学校などに通ったことも無いの。だから、同年代の友達もいなかった。貴女が初めてなのよ」

 

悲しげに、しかし嬉しそうにお嬢様が言葉を紡ぐ。どうやら、彼女はこの屋敷に幽閉されているらしい。御子柴家のいざこざが関係しているのだろうか。少しの間目を伏せた少女は、再びお嬢様と視線を合わせ口を開いた。

 

「友達って、俺とあんたはそんなんじゃないだろ。だって、俺はあんたを誘拐する為に忍び込んで」

 

「知ってるわ。いっそ攫われるのも悪くないと思って、警備をわざと緩めたりしてたから。でも駄目ね。結局はお父様の手のひらの上。ごめんなさい、少し愚痴っぽくなっちゃった」

 

「・・・・・・。だからって、なんでそこまでするんだよ。妹の治療費は馬鹿みたいにかかるはずだ。いくらあんたでも、無駄な出費じゃ」

 

「無駄じゃないわよ」

 

言葉を遮り、強い口調で断言するお嬢様。意思の籠った瞳が向けられ、少女の視線と交錯する。

 

「無駄じゃない。確かに出会いは奇妙だったけれど、私は貴女のことが好きだもの。助けられるなら、貴女の家族だって助けたい。そして、幸い私には財力だけはあるから。適材適所、でしょ?」

 

それは、あまりにも魅力的な提案だった。少女にとって都合がいい、夢のような提案。罠かもしれない。いや、どれだけ考えても罠をかける理由が無い。ならば、何故?本当に善意からなのか?それとも、友達だから?

 

少女の思考は纏まらない。気を抜けば、すぐにでも目の前のお嬢様に手を伸ばしてしまいそうだ。縋ってしまいそうだ。そもそも、提案を受け入れない選択肢は無いはずだ。それなのに、自分は何を迷っているのだろう。

 

「駄目だ。俺は、その施しに何も返せない。それは駄目だ。クソ、畜生、なんか俺に出来ることは無いか?なぁ、教えてくれ。妹が助かるなら、俺はなんだってするから」

 

長い間迷った末、口を突いたのはそんな言葉だった。そうだ、自分は何も為せていない。ただ、お嬢様の気まぐれに付き合っていただけ。それだけで妹を助けてもらおうなんて、虫が良すぎる。

 

「見返りを求めてるわけじゃないの。私はただ、貴女の家族を」

 

「やめてくれ。そういうのはいい。いいから、俺が出来ることを教えてくれよ。頼む・・・・・・」

 

少女を襲っているのは無力感だ。どれだけ自分が足掻き、働き続けても助けられなかった妹を助けてくれる人がいる。それなのに自分は何も出来ていない。その事実が、酷く苦しかった。辛かった。情けなくて仕方なかった。

 

捨てられた子犬のような目つきで、少女はお嬢様を見る。何か、何か返させてくれ。そうしなきゃ、善意を受け取れない。仮に友達だとしても、受け取ってはいけない。そんな思いが伝わったのか、お嬢様は思案気な様子のままぽつりと呟く。

 

「・・・・・・分かった。じゃあ、ついてきてちょうだい。貴女にお願いしたいことがあるの」

 

「あ、あぁ」

 

お嬢様の背を落ち着かない足取りで追いかける少女。その表情は、捕えられてから今までの間の中で最も不安そうに見えた。

 

 

 

 

 

 

 

果たして、やってきたのはお嬢様の寝室だった。侵入した時振りの場所である。高級なベッドに腰を下ろしたお嬢様は、自身の横をぽんぽんと叩く。

 

「ほら、ここに座って」

 

言われるがままに腰を下ろすと、ふわりと甘い匂いが漂った。ベッドの匂いか、それとも彼女の体臭か。香水を付けているのかもしれない。そのまま二人は見つめ合う。お嬢様はいつも通り微笑んでいるが、少女の表情は固かった。何を言えばいいのかも分からない。

 

「ふふ。緊張してる?怖がる必要は無いわ、酷いことはしないから」

 

「それは、分かってるよ。あんたは優しいから」

 

「私が優しく思えるなら、それは貴女が優しいからよ。よく言うでしょう?他人は自分を映す鏡だって」

 

「・・・・・・言うか・・・・・・?」

 

首を傾げる姿を見て、お嬢様は少し吹き出した。反応が面白かったらしい。むっとした顔をする少女は、しかし多少緊張はほぐれたようだ。深呼吸してリラックスするように努めつつ、訊ねる。

 

「それで、俺は何をすればいい?」

 

「そうねぇ。まずは・・・・・・えいっ」

 

お嬢様は少女に抱き着き、そのままベッドに寝転がった。ぼふっという音と共に柔らかな毛布に包まれ、抱き着かれた側は目を白黒させている。そのままぎゅっと密着し、耳元で囁いた。

 

「添い寝、してくださる?」

 

「そ、添い寝?それは、えっと・・・・・・いいのか?こんな体になってるけど、俺は男なんだぞ?」

 

「えぇ、構わないわ。だって貴女は、こんな状況で変なことをする人じゃないでしょ」

 

「変なことって。そりゃ、する気は無いけどさ」

 

その返事にくすりと微笑み、お嬢様はそっと目を閉じた。どうやら本当に眠るつもりのようだ。少女としては気が気では無い。密着してくる彼女の体は柔らかく、先程と同じ甘い匂いがした。なんでもするとは言っても、この状態では眠れないだろう。と、

 

「私、お母様に嫌われていてね」

 

ぽつり。きこえるかどうか分からない程の小声で、お嬢様は呟く。独り言のようなそれは、艶やかな唇から次々に零れ落ちていった。

 

「物心ついた時から、眠る時はずっと一人だったの。侍女はいてくれたけれど、添い寝は許可されなくて。こうして他の人と寝るのは初めてなのよ。だから、嬉しい。こうして他の人と一緒に寝ると、暖かいのね」

 

「いいのかよ。複雑な家庭環境なのは分かったけど、俺みたいな奴と一緒に寝たら、家族が色々言うんじゃないのか?」

 

「口止めは万全よ。それに、あの人達に口は挟ませない。実際、貴女は私に危害を加えないんだから。問題無いでしょう?」

 

目を閉じたまま、お嬢様はいつも以上に楽しげな笑みを浮かべている。つられて少女も目を閉じると、人肌の温もりがより強く感じられた。心臓の鼓動が二つ、重なって聞こえてくる。

 

「なら、いいよ。俺も、こういうのは嫌いじゃない。妹をよく寝かしつけてたしな」

 

「ふふ、羨ましい。じゃあ、今だけは私を妹と思って。寝かしつけられてみたいの」

 

「・・・・・・分かった。つっても、大したことはしてないけど」

 

ねだるような口調に、少女はそっと手を伸ばした。お嬢様の頭へと。細く白い指先がサラサラの髪の毛を優しく梳く。

 

「妹はこうやって撫でられるの、好きなんだよ。どうだ、嫌じゃないか?」

 

「うん。貴女の手、温かい。それに、なんだか嬉しくなる。妹さんの気持ちも分かるわ。こうされていると、心地良く眠れそう」

 

二人は目を閉じたまま、微かな触れ合いを楽しんだ。やがて聞こえてくるのは二つ分の寝息。穏やかなそれを邪魔する者は、今この場にはいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「あのね、お願いがあるの」

 

添い寝から目覚めた後。お嬢様は真剣な表情を浮かべ、少女を見つめる。いつにない真面目な雰囲気に、少女自身も真剣な表情で言葉を返した。

 

「なんだ?俺に出来ることならなんでも言ってくれ」

 

「ありがとう。それで、実は教えてほしいことがあるのよ。いえ、知識としては知っているんだけど・・・・・・試したことは無くて」

 

「んん?えっと、何をだ?」

 

「自慰行為」

 

お嬢様が言ったことが信じられなかったのか、目を丸くして彼女の顔をまじまじと眺める少女。自慰行為。それはつまり、オナニーのことだろうか。いや、まさかそんな。

 

「貴女なら多分知っているでしょう?私、経験が無くて。侍女に相談も出来ないし」

 

「いや、いやいやちょっと待ってくれ。教えるって、俺が、あんたに?」

 

「えぇ。駄目、かしら?」

 

ベッドの上、お嬢様が上目遣いで頼み込んでくる。オナニーの仕方を教えてほしいと。とんでもない状況に少女は顔が熱くなるのを感じた。確かに、自分に出来る事なら何でもしてやりたいとは思っている。しかし、しかし・・・・・・。

 

「・・・・・・まず、前提として。男と女じゃ、やり方が違う、らしい。いや、俺は男のやり方しか知らないから詳しくはないんだけど。ええと、それで・・・・・・」

 

おずおずと喋り始めた少女を見つめたまま、お嬢様はうんうんと頷きながら熱心に聞き入っていた。しかし、やがて何かの限界が来たらしく、少女は茹でダコのような顔になり始める。言葉遣いも徐々に胡乱になっているようだ。

 

「あぁ、もう!分かったよ!俺だって詳しくないけど、実践すればいいんだろ!?そうだ、今の俺は女なんだからそうすれば・・・・・・!」

 

「あ、あの、無理はしないでね?頼んだ私が言うのもなんだけれど」

 

「だ、大丈夫!なんでもするっていったのは俺だ!ま、待っててくれ今脱ぐから・・・・・・!」

 

冷静さを失っているのか、少女は自らの服に手をかけて脱いでいく。わたわたとしながらも止められないお嬢様をよそに、あっという間に真っ裸になってしまった。ここに住み始めてから、女性ものの衣服に慣れてしまったおかげだ。

 

「お、落ち着いて。ほんと、無理はしてほしくないから。顔真っ赤よ?」

 

「ふうぅ・・・・・・!いや、うん。ごめん。なんか、少しでも役に立ちたいと思って暴走しちゃって。でもアレだ、俺の体は好きにしていいからさ」

 

お嬢様は彼女の肩を掴み、ゆさゆさと揺さぶる。それでようやく正気に戻ったのか、顔は真っ赤なまま荒い息を吐いた。しかし、少女の目つきはまだ怪しげだ。すとんと座り直した後、じっとお嬢様を見つめる。

 

「うん。好きにしてくれ。他人の体なら、経験無くてもそんなに怖くないだろ?あぁいや、なんか変なこと言ってるな俺。駄目だこりゃ」

 

透き通った肌にも赤みが差し、少女はベッドへと倒れ込んだ。その姿はお嬢様にとって煽情的にしか見えない。潤んだ瞳も、熱い吐息も、誘っているようにしか感じられないのだ。だが、その先が分からない。

 

男女の営みは知識としては知っている。しかし、あくまで知識だけだ。その上同性同士では、何をすればいいか見当も付かなかった。だからこそ少女に訊ねたのだが、何か妙な方向に転がり始めている気がする。

 

目の前の少女、その見た目はお嬢様の好みドンピシャである。薬による肉体の変化はランダムであり、お嬢様が何らかの操作をしたわけでは無い。偶然にしては出来過ぎだ。だからこそ、その偶然は奇跡かもしれない。

 

だからといって、奇跡ならどうすればいいのだろう?お嬢様は戸惑いながら、目の前の少女に手を伸ばす。柔らかな胸元の膨らみに指先が触れ、しっとりと沈み込んだ。少女が全身をピクリと震えさせ、潤んだ瞳でお嬢様を見つめる。

 

「来てくれよ。俺は、あんたに来てほしい」

 

その言葉に、お嬢様は目の前の女体に抱き着いた。柔らかい。暖かい。心が安らぎ、それなのに高まっていく。何故か分からない。分からないけれど、抑え難い感情と共に涙が溢れてきた。

 

「あぁ、駄目ね。まるで幼子になってしまったみたい。ホッとする気持ちなのに、何故だかぞわぞわしちゃう」

 

「ははっ。そんな顔を見るのは初めてだな。まぁ、こんな姿になってるけど俺は年上だし。よしよし」

 

くすりと笑ってお嬢様の頭を撫でる少女。自慰・・・・・・オナニーを教えると言ったがそんな雰囲気ではない。このまま二度寝するのもいいかと思った瞬間、胸元に未知の刺激を覚える。生暖かい何かがまとわりつくような。

 

「っ!?」

 

「ん、む・・・・・・」

 

気付けば、お嬢様は少女の乳首に吸い付いていた。母性を求めたのか、それ以外のものを求めたのか。乳首は汗のせいか僅かにしょっぱい。口の中で転がす度に、少女が身を悶えさせる。

 

「ちょ、んんっ!」

 

「ご、ごめんなさい。目の前にあったから、つい。駄目だったかしら?」

 

「い、いや。急で驚いだだけだ、大丈夫。くすぐったいけど痛くは無いし」

 

その返事に安心したのか、お嬢様は少女の乳首に再び吸い付く。当然母乳は出ないが、刺激を受けて少しずつ固くなっているようだ。それは快感を覚えているからに他ならない。少女は目を細め、初めての感覚を必死に堪える。

 

「ん、ふぅっ」

 

「あぁ、もう。可愛いわ、貴女」

 

口を離し、耳元に顔を近付けて囁く。今はただ、心の内から湧き上がる衝動に身を任せてしまいたかった。唇で触れるだけのキスを胸元、そして首筋にしていくと、少女の目元からぽろりと涙がこぼれる。

 

「なんだよ・・・・・・色々知ってるじゃないか」

 

「いいえ、知らないのは本当よ。ただ、こうしたくて。唇を重ねてもみたいのだけど、んむっ?」

 

恥ずかしそうに言うお嬢様の唇に、少女は自分の唇を重ねた。むっちりとした感触が互いに伝わり、鼻から漏れる吐息が混じり合う。数秒後、離れた唇同士には涎のアーチがかかっていた。

 

「へっ、お返しだ。ファーストキスだよ、俺の」

 

「私も初めてだったわ。お揃いね」

 

見つめ合う二人は、どちらからともなく微笑み合った。そして、おぼつかない手つきで互いの体をまさぐっていく。それは児戯のような拙さで、しかし慈しみと愛おしさに満ちていた。

 

「なんだか、ここがむずむずしちゃう。興奮しているのかしら」

 

じゅわりと何かが染み出す感覚。お嬢様が自身の股間に視線を落とすと、そこはほんのりと湿っていた。陰毛は丁寧に手入れされ、綺麗な女性器が丸見えになっている。それを見て顔が熱くなるのを感じながら、少女は大真面目に頷いた。

 

「まぁ、そういうもんだからな。刺激したり興奮したりすると、液体が分泌されて濡れる・・・・・・らしい」

 

「そうなのね。じゃあ、やっぱり私は興奮してるんだ。うふふ。貴女はどう?」

 

そう言いながら覗き込んでくるお嬢様。少女は意図的に見ないでいた自身の股間に視線をやると、同じく濡れているのが確認出来た。淡い陰毛が愛液で濡れ、てらてらと光っている。

 

「ねぇ、触ってもいい?代わりに私のを触っていいから」

 

「い、いいけど・・・・・・優しくな。凄く敏感って聞くし」

 

言葉を交わした後、二人は互いの股間に手を伸ばした。ぬるりとした感触と同時、傷口に触れた時のような刺激が感じられる。しかし痛くはない。割れ目に沿って撫でられると、痺れるような快感が伝わってきた。

 

ぬちゅり、ぬちゅり。愛液が音を立て、二人の吐息に交じり合う。お嬢様が指を滑らせ上部分の突起に触れると、少女の体がビクンと跳ねた。その動きでお嬢様の突起も刺激され、同じように体が跳ねてしまう。

 

「っんんっ!?い、今のって・・・・・・?」

 

「っ・・・・・・!く、クリトリス、だと思う。ちょっと、刺激が強過ぎるな。そこ触るのはやめよう」

 

「え、でも気持ちよかったわよ?もしかして、そっちは痛かった?」

 

「そういうわけじゃないけど、んんっ!おい、ちょっとっ!!?」

 

指先でクリトリスを弄ばれ、少女は全身を痙攣させた。女性の快感を知らなかった彼女にとって、この刺激は強烈なようだ。お嬢様はそんな反応が面白いのか、指の動きを止めようとしない。と、

 

「このっ、お返しだ!」

 

「ひゃあんっ!?」

 

少女がお嬢様のクリトリスを指で弾く。さっきまで責めていた勢いはどこへやら、お嬢様は身悶えしながら快感を受け取った。少女の手つきは乱暴で男らしい。思わず両足を閉じると、少女の手が太ももに挟まってしまった。酷く柔らかいそれに、思わず手を引っ込めてしまう。

 

「っす、すまん。やりすぎたか」

 

荒い息を吐くお嬢様に謝る少女。しかし、お嬢様は物欲しげな目つきで少女を見つめる。涎に濡れた唇が開き、零すように呟いた。

 

「もっと、しないの?」

 

「おまっその言い方・・・・・・!誘ってるのかよ」

 

「誘ってるのかは分からないけれど、私はもっとされたいわ。それに、もっとしてあげたい。折角なら、一緒に気持ちよくなりたいもの」

 

あまりにも純粋な言葉に、少女は思わず胸を抑える。目の前のお嬢様への愛しさが膨れ上がり苦しい程だ。恩返ししたいだけだったのに、どうやら自分はドツボにハマってしまっているらしい。仕方ない。彼女の願いを叶える為、もう一度股間に手を伸ばす。

 

「分かった。じゃあもう、最後まで止めないからな」

 

「うん。来て、お願い」

 

そう言いながらお嬢様も少女の股間に手を伸ばし、二人は再び互いをまさぐり始めた。割れ目をなぞり、クリトリスを撫で、唇を重ね。密着した胸元では四つの膨らみが触れ合い、押し潰されている。全身で絡まり合うように、二人は快感を貪り合った。

 

「んっあはっんんんっ」

 

「くぅっんあっ」

 

喘ぎ声さえも交じり合い、どちらのものか分かり辛い。経験の無いお嬢様と、男の経験しか無い少女。両者共に刺激し合い高まり合う。拙かった動きは徐々に激しさを増し、遠慮が無くなっていった。

 

汗と愛液が滴り、ベッドのシーツに染みを作る。だが、二人はそれに気付かない。気付く余裕が無い。互いに与え合う刺激はどんどん大きくなり、際限の無い快感に膨れ上がっていく。

 

何か来る。二人は同時に気付くが、喉から出るのは喘ぎだけ。でも、何故か理解し合っていた。このまま大きな波に呑まれてしまうだろうことを。快感が脳を焼き、全身が震える。そして、それが到達した。

 

「「ああぁぁぁぁぁぁっっ!!!」」

 

絶頂。二つの嬌声が部屋に響き渡る。噴き出した愛液が互いの体にかかって、シーツを更に汚した。快感が全身を駆け巡り、四肢がピンと伸びてしまう。大きな波は暫くの間、二人を包み心を押し流していった。

 

「はぁ、はぁ、はぁ・・・・・・」

 

「ん、ふぅ・・・・・・。す、凄かったわ・・・・・・」

 

熱く荒い呼吸を吐きながら、少女とお嬢様は顔を見合わせる。酷い表情だ。涙と涎によってぐしゃぐしゃで、余韻のせいかだらしなく緩んでいる。自然とおかしくなり、二人して笑ってしまった。

 

「くく、あはははは」

 

「ふふふふふっ。凄いのね、自慰行為って。こんなに心が温かくなるなんて。もっと早く試すべきだたかしら」

 

「いや、これは自慰じゃないって。自分でやるのが自慰だから今回のは違う。初めてがこれって、お嬢様が心配だよ」

 

「あら、どうして?私の為になんでもやってくれるんでしょう?今後も、付き合ってくれるわよね」

 

きょとんとした表情で言うお嬢様に、目を丸くした後少女は噴き出した。全く、とんでもないことになった。そう思いながら、力強く頷く。

 

「あぁ、勿論。いつまでも、いくらでも付き合ってやるよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数ヶ月後。屋敷の玄関で待ちながら、少女はそわそわと周囲を見渡していた。横に立っているお嬢様はその様子を眺めつつ、困った子だとでも言うように溜め息を吐く。

 

「まだ病院を出発したって連絡が来たばかりよ。一旦中で待ちましょう?」

 

「いやでも、居ても立ってもいられなくて・・・・・・。会うの久しぶりだし、俺は元とは全然違う姿だし」

 

もにょもにょと口を動かしつつ、服の裾をぎゅっと握る少女。心配で心配でたまらないのか、涙目にすらなっている。普段からは想像もつかない弱々しい姿に、お嬢様はやれやれと苦笑を浮かべた。

 

「テレビ通話で説明した時、納得して信じてくれたって言ってたじゃない。心配性ねぇ」

 

「でもさ、実際に会ってないんだぜ?もしかしたら、直接会ったらやっぱり信じられないとか」

 

「大丈夫よ、大丈夫。貴女の妹さんはそんな非情な人じゃないと思うわ」

 

少女を宥めながら、お嬢様も屋敷の門へと目を向ける。遠くに見えるそこにはまだ誰も到着していないようだ。

 

少女の妹は、お嬢様が手配した手術によって一命を取り留めた。術後の経過も良く、予定よりも早い今日に退院となったのだ。無論、兄である少女がどうなっているのかの説明はしてある。お嬢様が、何故妹に手を差し伸べたのかも。

 

しかし、少女は不安で仕方ないようだ。頭では分かっていても感情が制御出来ないらしい。こんな一面もあるんだな、とお嬢様は好意的に受け止めている。

 

「それは、そうだけど。妹はほんと優しいんだ。誰とでもすぐ友達になれるし、あんたともきっと仲良くなれる。だけど、ほんとに俺を俺って信じてくれるか心配なんだよ。見る影も無いし、あんたが張り切って着飾るからこんな服装だし」

 

少女の恰好は非常に可愛らしいものだ。青と白を基調にして、過多にも思える装飾が施されている。まるで童話に出てくるお姫様のようだ。

 

「仕方ないじゃない。貴女は可愛いんだから素材は活かさないと。当然、やってくる妹さんにも着飾ってもらうわ。うふふ、役得ね」

 

「むぐぐ・・・・・・妹はこういう服好きだけど、俺は、その」

 

「駄目よ。私が無理やり着せているんだから、貴女に拒否権は無いわ。友達特権というものかしら」

 

「むぐぅ」

 

少女は正直、可愛い服を着ることに抵抗は無くなっている。もう慣れてしまったし、今の自分にこういった服が似合うのは客観的な事実だから。しかし、それを妹に見せるとなると話は別だ。なんでもすると言った手前拒否は出来ないし、お嬢様の願い通りにしたいが・・・・・・。妹に見られるのは恥ずかしかった。

 

「・・・・・・や、やっぱり中で待つか。うん、そうしよう」

 

「えぇ、そうするのが一番よ。でも、着替えては駄目だからね。妹さんに着せるものとペアルックになってるんだから」

 

「な、なんでそこまでするんだよぉ。あぁもう、恥ずかしい」

 

素直に弱音を吐くと、お嬢様はにっこりと微笑んだ。僅かに嗜虐心を感じさせる笑みと共に、胸を張って言い放つ。その様子は実に晴れやかなものだった。

 

「可愛いからよ。私、可愛いものが大好きなんですもの」

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