「兄貴ってまだ彼女いないのかよ。折角の大学生活なのに灰色じゃね?」
夕食の時間。兄、鷲垣健介の心を抉ったのは弟である健二の一言だった。
「・・・・・・高校時代にはいたぞ」
「でも半年くらいで別れたじゃん。堅物過ぎてつまらないって言われたんだろ。ショックで数日寝込んでたからよく覚えてる」
ぐさり。更なる追撃に茶碗を持つ手が震える。健介にとって、その時の出来事はトラウマになっていた。高校二年の春、告白を受けて付き合い始めた初めての彼女。この世の春とばかりに舞い上がっていたのだが・・・・・・結果は半年で別れてしまう。原因は健二の言った通り。
「・・・・・・」
「俺に似て顔は悪くないんだしさぁ、もっと愛想良くすればいいのに」
「お前が、俺に、似てるんだ。くだらないことを言ってないで早く食べろ」
「はいはい。全く、これじゃ結婚なんて夢のまた夢だなぁ」
軽口に噛んで捨てるように返事すると、健二は肩をすくめて味噌汁を啜った。堅物な兄と違い、彼は要領が良くお調子者である。そのせいか異性からの人気も高い。健介とは正反対、兄弟をよく知る者達からはそう言われていた。
健介としても、彼女が欲しくないと言えば嘘になる。しかし、相手がいなければどうしようもない。弟の言う通り愛想よくすれば違うのかもしれないが、それは自身の性分では無かった。だから半ば諦めている。女性とは縁が無いのだと。
それに、つまらない人間だという自覚もある。そんな男と付き合ってもつまらない。当然だ。かつての元カノに言われた言葉は、健介の心に深い傷跡を残していた。異性に対して及び腰になっているのも、半分はそれが原因である。
まぁ、だからといって人生に問題があるわけではない。兄弟揃って親元を出ての二人暮らしは順調だ。彼の成績は優れており、健二も平均以上ではある。このままでいいと、健介はそう思っていた。
「んぐんぐ・・・・・・そういや兄貴、来週誕生日だろ?どこか出かけたりすんの?」
「いや、特に予定は無い。どうした?」
「じゃあ、去年と同じか。彼女だけじゃなくて友達も少ないなんて、弟として悲しいよ。折角だし、俺がたっぷり祝ってやらないと」
「気を遣うな。もう誕生日を祝うような歳でもない」
「いやぁ、何歳になっても誕生日は祝うものっしょ。楽しみにしててくれよ、兄貴。ばっちり楽しい誕生日にしてやるからさ!」
胸を叩く健二に溜め息を吐く健介。いつも通りの食卓の時間は、穏やかに流れていくのだった。
大学の講義を受けた後、帰路についていた健介はケーキ屋が目に入った。いつもはここで自分の、そして弟の誕生日ケーキを買っていくのだが、今回は見送る。何故なら、諸々の準備は任せてくれと健二が言ってきたからである。
果たして何を企んでいるのか。いや、もしかするとただ騒ぎたいだけかもしれない。実の弟とはいえ、健二の行動力には尊敬すべき部分がある。それがもっと勉学に向いてくれればいいのだが・・・・・・。
「少し、時間を潰すか」
健二が指定した時間までは少しある。このまま直帰したら早過ぎると、健介は近くの喫茶店に入っていった。アイスコーヒーを頼み、窓越しの街並みをぼんやりと眺める。と、手を繋ぎ歩いているカップルらしき男女が目に入った。仲睦まじく、実に幸せそうだ。
「彼女、か」
ぽつりと呟き、運ばれてきたアイスコーヒーを口に運ぶ。かつての元カノとも、あのように出歩くことは無かった。人前でイチャつくのが恥ずかしかったからだが、そのせいで堅物と言われ別れを切り出されたのだろう。
もしもあの頃に戻れたら、自分は・・・・・・。意味の無い空想に耽る健介。もっと彼女を楽しませようと、無理をするかもしれない。あるいは最初から告白を受けなかったか。どうするのかは、実際にあの頃に戻ってみなければ分かるものでもなかった。
そのまま時間を潰し、頃合いを見て喫茶店を出る。時刻は昼下がり、健二が指定した時間にも丁度いい。ゆっくりと帰り道を進み、自宅に到着した。
「ただいま」
「おー、お帰り兄貴!相変わらず時間ぴったりだな」
出迎えてくれた健二はエプロンを着けていて、どうやら何か料理をしているようだ。香ばしい匂いが漂ってくる。彼は性格に似合わず料理が得意だった。洋食の腕前は健介以上である。
「何か作ってるのか。手伝おうか?」
「いいっていいって。折角の誕生日なんだから、兄貴はどーんと座って待ってればいいんだよ」
台所を覗こうとしたが追い出され、所在無くちゃぶ台の前に座り込む健介。元々家事は分担しているのだが、今日に限ってなんとなく落ち着かない。誕生日だからといって浮かれるように歳でもないというのに。
「むぅ・・・・・・」
腕を組み、溜め息を一つ。そのままじっと待っていると、ふと部屋の隅にある紙袋が目に留まった。家を出るまでは無かったはずのものだ。健二が用意したのだろうか。中身が気になるが、確認するのも失礼と思い視線を逸らす。と、
「お待たせー!後は余熱通すだけだから、っとと」
元気よく台所から出てきた健二が紙袋に足を引っかけてしまう。ぱたりと倒れた紙袋から出てきたのは、明らかに奇妙なものだった。肌色のスーツのようなそれは、人間の頭部に見える部分や胸元の部分に膨らみが確認出来る。しぼんだ女性の裸体。健介にはそう見えた。
「「・・・・・・」」
スーツを凝視する健介としまったという表情で固まっている健二。暫しの沈黙が流れ、先に口を開いたのは兄の方だった。
「その、なんだ。世の中には色んな趣味がある。別に怒ったりはしないが、見えない場所に隠しておいた方がいいぞ」
「ちょ、待てって兄貴!勘違い!勘違いしてる絶対!」
「誤魔化す必要は無い。むしろ健全でもあるからな。だから、うむ。気にするな」
「だから違うって!これは、あれだ、その・・・・・・!」
ごにょごにょと口ごもる健二を生暖かい瞳で見つめ、兄である健介は優しく頷いた。弟も年頃である、そういったことに興味を持つのは当然だ。だから、ラブドールの類を持っていても驚きはしない。いや、驚いてはいるが。
彼にとっても衝撃的ではあった。異性からモテる健二がラブドールに手を出すなんて。しかし、否定する気は無い。暖かく見守ってやろう。そんな視線を受け、健二はもどかしいような素振りで頭をガシガシと掻く。思惑がすれ違っているようだ。
「~~~あぁもう!分かった、本当は食事の後にするつもりだったけど・・・・・・ちょっと待っててくれ」
ラブドールを引っ掴み、急いで部屋を後にする健二。自室に戻ったらしい。一人残された健介は腕を組み、ゆっくりと息を吐いた。いくら兄弟という関係とはいえ、性的な話題に足を踏み入れるのには勇気がいる。築いてきた関係性が悪化するかもしれない。
だが、今の弟の様子を見るにその心配はいらなそうだ。素知らぬ顔で戻ってくればいい。そちらが話題に出さないなら、こちらも話題に出す気は無い。健介は兄として、一人の男としてそう思っていた。
しばらくして、自室から出てきたらしい健二の足音が部屋に近付いてくる。しかし、何故か部屋の前で止まり襖を開こうとしない。一体どうしたのかと思っていると、意を決したような固い声が聞こえてくる。
「兄貴。驚くかもしれないけど、声は抑えてくれよ。分かった?」
「・・・・・・?あぁ。よく分からんが、分かった」
念押しに首を傾げつつ頷くと、ゆっくりと襖が開いた。そこにはバスタオルで顔以外を隠した健二が立っている。しかし妙なことに、身長が縮んているように見えた。バスタオルの下の体も華奢になっているような・・・・・・。
何よりおかしなことがある。バスタオルに隠された体、その輪郭に膨らみとくびれが確認出来るのだ。そして、健二の首の後ろには肌色のフードのようなものがある。髪の毛らしきものも。どういうことか分からず、健介は困惑混じりに呟いた。
「け、健二。なんだそれは。どうした」
「あーっと、その、なんだ。俺、兄貴に女慣れしてほしくてさ。やっぱ、大事なのは女の体に慣れることだと思うんだよね。だから、伝手を借りてこんなのを用意したんだ。・・・・・・もう一度言うけど、驚かないでくれよ」
そう言った健二がバスタオルをはだけさせる。そこにあったのは紛れも無い女性の肉体だ。豊満な胸元の膨らみが二つ。そこから腰にかけてくびれており、臀部も男と比べて大きく見える。しかし、首から上は弟である健二の顔だ。
「は、あ、なんだ?」
口から零れるのは意味の無い言葉。脳内が混乱し、まともな思考が出来ない。バグっているとしか思えない状況に、目を逸らすのも忘れて女体を凝視した。
「は、ははは。思った通り恥ずかしいな、これ。まぁ、うん。これ、着ると別人になれるスーツなんだ。凄いよな、こんな技術があるなんて。俺知らなかったよ」
弟が何か言っているが健介の耳には入ってこない。それだけ、目の前で起きていることは衝撃的だった。あり得ない。信じられない。健二は女だったのか?いや、それこそあり得なかった。彼が赤子の頃からの付き合いなのである、女であるはずが無い。
「お、おーい兄貴。どうした?こっちの話聞いてる?おーい」
「・・・・・・どういうことなんだ、これは」
「え?いや、だから説明しただろ。別人になれるスーツなんだよ、これ。知り合いに用意してもらって」
「別人?スーツ?あり得ん。そんなもの、あり得んだろう。漫画の話か。いや、だがしかし・・・・・・むうぅ」
頭がくらくらする。健介はこめかみを押さえ、低く呻いた。脳みそがぐわんぐわんと揺さぶられ、意識が遠のく感覚。あまりのショックに精神が拒否反応を起こしているらしい。そのまま彼は意識を手放してしまった。ぼやけた弟の声を聞きながら。
「ちょ、兄貴・・・・・・?兄貴、兄貴ーッ!!」
「・・・・・・む」
「あ、起きた。ごめんな、兄貴。まさか気絶するなんて思わなくて」
毛布に包まれているような感触。ぼんやりと目を開けると、そこには健二の心配そうな表情が見えた。上半身を起こし辺りを確認すると、どうやら自分は布団に寝かされていたようだ。
「俺は・・・・・・気絶していたのか」
「うん。つっても30分くらいだけど。あのスーツは脱いだからさ、もう大丈夫だよ」
その言葉に目を見開き確認すると、確かに健二はいつも通りの恰好に戻っていた。首から下が女性だったりはしていない。ならば、あの光景は夢だったのか。いや、それは無いだろう。他ならぬ健二自身の言葉が証明している。
「あれは、なんだったんだ」
「だから、別人になるスーツ。そういうのがあるんだって。ほら、これ」
健二が横に置いてあるものをひょいと拾い上げる。肌色の、人間を象ったスーツだ。細部まで作り込まれているようで、少々グロテスクに見える部分もあった。別人になるスーツなどあるわけが無いと健介は思っていたが、実物が目の前にあっては否定し難い。
「別人に、か。本来あり得んが、実際目にしてしまったからな。どうやって手に入れた」
「それは・・・・・・秘密。守秘義務、的な?あぁ大丈夫、ヤバい所とか、そういう感じじゃないから。まぁ、兄貴にとっては嬉しくなかったよな。ごめん」
「い、いや」
事情は詳しく分からないが、この弟は健介の為を思って用意したのだろう。その親切心を突っぱねることは、彼には出来なかった。落ち込んでいる様子の健二の肩を軽く叩き、口を開く。
「そんなことは無い。ただちょっと、驚いただけだ。ありがとうな、健二。いい誕生日プレゼントだよ」
「ほ、本当?いやだって、俺もちょっと先走り過ぎかなーと思ってたんだよ。余計なお世話かもしれないし。でもほら、いくら女性って言っても中身が俺なら警戒もしないだろ?だから、えっと、その」
安心したのか、それとも慌てているのか。急にまくし立て始めた健二に苦笑を浮かべる健介。弟の優しさは知っていた。お調子者だが、他人を深く慮ることが出来る男なのだ。
「確かに、そろそろ人恋しいと思っていた所だ。高校時代のことは忘れて、新たな恋に足を踏み出すべきかもしれん。ただ、直接言ってくれればよかったんだぞ。わざわざこんなものを用意しなくとも」
「いやぁ、驚かせたくて。気絶させるつもりは無かったんだけど」
「はは、確かに驚いた。まさか健二は女だったのかと、ありもしない勘違いをする所だったよ。お前が生まれてからの付き合いだというのにな」
「あはは!一緒に風呂入ったりもしてたもんね」
軽口を叩きながら、健二はスーツをひらひらとさせる。しかし、見れば見る程精巧な造りだ。もしこれがラブドールだったとしても、相当な値段がするだろう。健介はふと心配になり、気遣わしげに訊ねてみる。
「しかし、相当凄い物だというのは分かったが・・・・・・かなりの値段したんじゃないか?プレゼントは嬉しいが、必要以上に高価な品は」
「あー、そこは大丈夫!ただ同然、とまでは言わないけどかなりのお値打ち価格だったから!小遣い三か月分くらい」
「ふむ」
別人になるスーツ。珍妙ながら凄まじい効果を持つ品にしては、その値段は安過ぎる気もする。だがまぁ、問題は無いだろう。健介にしては珍しく、根拠も無くそう思えた。
「これは、あれだな。お前の誕生日には、更に凄い物を贈らねばならん。手加減はしないぞ」
「うぇ。兄貴は本当に手加減しない時はしないからなぁ・・・・・・。じょ、常識の範囲内で頼むよ」
「うむ、まぁ任せておけ」
微笑みながら頷く健介、バツが悪そうに頭を掻く健二。いつも通りの二人の会話だ。と、何かを思いついたのか健二がずいと顔を兄へ近付ける。その表情は悪戯っ子のそれだ。
「そうだ、兄貴。折角これを手に入れたし、一つ相談なんだけど・・・・・・」
「なんだ、なんでも言ってみろ」
数分後に後悔することになるとも知らず、健介は鷹揚に返答する。それを聞いて健二の瞳がきらりと輝くのだった。
どうしてこうなった。全裸の女性と密着しながら横になっている現状に、健介は表情には出さないようにしつつ苦悩した。全裸の女性・・・・・・スーツを着た健二は嬉しそうに抱き着いてくる。豊満な膨らみに腕が埋もれ、温もりが伝わってきた。
発端は単純だ。健介に女慣れをさせる為、スーツを着た状態で添い寝をしようという健二からの提案である。その時は了承してしまったが、まさか全裸とは。恥ずかしくないのか聞いてみたが、「自分の体じゃないから恥ずかしくない」らしい。
「むぅ・・・・・・」
「どしたん、兄貴。あ、もしかして暑苦しい?少し離れた方がいいか」
健介の唸り声に、健二が上目遣いの視線を向ける。何か勘違いしているようだが、特に暑苦しくは無かった。むしろその温もりは心地いい。問題なのは、今の健二は見知らぬ女性にしか見えないことである。
女体に慣れる。確かにこれ程有用なやり方は無いだろう。見知らぬ女性とはいえ中身は弟。気を遣う必要は無い。だが、それはあくまで理屈だった。今の健介は脳が茹で上がったようになり、顔が熱くて仕方がない状態だ。
「暑苦しくは無い。熱いのはそうだが、うぅむ。いかんな、やはり慣れん。健二、お前にはこういう経験が豊富なのか?」
「いや、全然。女の子と遊ぶことはよくあるけど、あくまで俺は学生だし。一線はちゃんと守ってるよ」
そう答える健二の声は高く、どこか甘さを感じさせる。いつもとは違う女性の声。そう、今の健二は頭まですっぽりとスーツを被っていた。頭頂からつま先まで女性そのものだ。だから、端から見たら彼女が弟だとは思えないだろう。目の前で被り、変化する姿を見ていなければ健介も信じられなかった所だ。
「・・・・・・そうか。しかし、頭まで被る必要はあったのか。さっきのように、首から上はお前のままでも・・・・・・」
「それじゃあ女慣れ出来ないだろー?こうやって全身女の子になった状態じゃないと、多分効果無いだろうし。実際顔真っ赤になってるじゃん。まぁ、俺としては超久しぶりに兄貴と同じ布団の中で面白いけど」
「む、ぐ・・・・・・だがな、裸というのはあまりにも、っ」
もごもごと話す健介に、健二は更に力強く抱き着いた。全身を押し付け、より柔らかさが伝わるように。こうでもしなければ、堅物である兄は女慣れ出来ないだろうと思いながら。
「へへ、なんかちょっといい気分だ。抱き着くだけでこんなに動揺するなんて。ほんとに慣れてないんだな」
「あ、当たり前だ。全裸の女性と同衾など、今までしたことも無い。それはお前も同じはずだろう、健二」
「そりゃそうだけど。俺はアレだ、兄貴程慌てずに抱き締め返すくらいの甲斐性はあるよ。今はいないけど彼女だっていたことあるし」
「それは俺もそうだ。しかし、裸で抱き合うなど破廉恥に過ぎる」
「兄貴は服着てるじゃん」
あっさりと言い返し、ぎゅむぎゅむと胸を押し当てる健二。なんだか妙な気分になってくる。ぽかぽかするような、お腹の奥辺りが疼くような。自然と内股気味になりながら、兄に気付かれないよう言葉を続けた。
「大丈夫、俺は弟だぜ?何したって問題にはならないって、多分」
「今の、お前は、女の子だ。何もせん、何も」
頑なな健介の態度。恐らく、中身がどうあれ同衾は良くないことだと決めつけているのだろう。先程から弟と視線が合わないのがその証拠だ。健介にとって、健二は大事な弟。そして、女体にはまるで慣れていない。つまり、何かするなど以ての外である。
「ふぅーん・・・・・・じゃ、俺の方からしちゃおうかな。えいっ」
「おまっ健二何をっ!」
ニヤリと笑った健二が健介の腕を掴み、手のひらを胸の部分まで持っていこうとする。咄嗟に抵抗しようとするが、今の健二はあまりにも華奢だった。下手に力を入れれば怪我させてしまうかもしれないと思い、されるがままになってしまう。
むにゅり。形のいい巨乳に、健介の手のひらが押し当てられる。腕で感じるよりも遥かに心地いい柔らかさに、しかし健介は理性を総動員して耐えた。ピクリとも指先を動かさない。それが不満だったのか、健二は更に過激な行動に出始める。
「ほら、兄貴。揉んでくれよ。いいじゃん、兄弟なんだから。それに、俺も女の快感ってやつ気になってるんだよね」
「そのスーツ、感覚が通ってるのか?だったらなおさら手を出すわけには、っ!」
手が巨乳に挟まれ、押し潰される感覚。手のひらも、手の甲も、両面が柔らかさに包まれてしまった。健二は自身の胸を抱き抱えるように密着させ、健介の手を圧迫していく。
「へっへっへ、どうだ兄貴?おっぱいだぜ、おっぱい。しかもグラビアモデルみたいにデカい。俺にこんなのが付いてるなんて、信じられないよ」
「馬鹿、やめろ健二・・・・・・!俺も男だ、どうなってもしらんぞ」
「だから、どうにかなってもいいんだって。どうせスーツを脱いだら元通りだし、さっきも言ったけど女の快感気になるし。ほらほら、そっちから触ってくれよ」
煽るような口調、そして手を包む感触に健介の精神は限界だった。男の本能なのか、目の前の女を組み敷いてしまいたくなってくる。それでも耐えることが出来たのは、目の前の女が弟だと知っていたからだろう。
「・・・・・・駄目だ。そういうことは、愛し合う相手とするべきだろう。そろそろ布団から出るぞ、健二。食事にしよう」
努めて冷静に声を絞り出す。健介の強固な意思は誘惑を跳ねのけた。しかし、健二としては面白くない。ここまでしておいて手を出されないのはなんとなく癪だ。何より、これでは兄を女慣れさせることが出来ない。仕方無い。起き上がろうとする健介に対し、健二は挑発するように言い放つ。
「へー。酷いぜ兄貴。俺がこんなに言ってるのに手を出してこないなんて。じゃあいいや、一人で楽しむからさ」
「は・・・・・・?」
言うが早いか、健二は自らの胸に手を伸ばし揉みしだき始めた。指先がめり込み、柔らかな脂肪がぐにぐにと形を変える。同時に感じるのは奇妙な快感。体の内側から熱くなるような、女性にだけ許された感覚だ。
「健二、何を」
「んっ、だって兄貴が手を出さないのが悪いんだろ。うあっすごい、柔らかいし気持ちいい。なんか、ポカポカしてくるみたいな」
熱の籠った艶のある声に、押し込めたはずの健介の本能が反応してしまう。健二の体は汗ばみ始め、甘い匂いが漂ってくるかのようだ。駄目だ、耐えられない。健介は目を背け、逃げるように布団から出ようとする。しかし、
「兄貴」
呼び止められ動きを止めた。振り向くと、上目遣いでこちらを見つめてくる弟がいる。女の体になった弟が、切なげな瞳をしている。
「なぁ、頼むよ。兄貴にしか頼めないんだ。だって、兄貴以外の男とそういうことになるのは怖いし。俺を助けると思ってさ」
「む、うぅ・・・・・・」
健二の為。それは、既に理性の限界を迎えている健介にとって格好の口実だった。これは自分が欲に流されたわけではない。あくまで健二の、弟の為。だから、問題は、無い。震える手が健二の胸元に伸び、指先がしっとりした肌へと触れる。
「んっ」
ふにゅり。指先が柔らかな胸元に沈み込んだ瞬間、健二が悩ましげな声を上げた。そのまま手のひらで乳房を包み、ゆっくりと揉みしだく。柔らかく、暖かい。とくんとくんと、心臓の鼓動が伝わってくるような気がした。
相手が弟とはいえ、女性の胸を揉むのはこれが初めてだ。健介は荒い息を吐きながら、血液が急速に下腹部へ集まっていく感覚を覚える。ズボンを押し上げる膨らみに気付いたのか、健二は驚いたように目を丸くした。
「うぉ・・・・・・でっか。ズボン越しなのに。一緒に風呂入ってた時より巨大化してね?」
「それは10年以上前の話だろう、っ」
細い人差し指でズボン越しにペニスをなぞられ、健介はびくりと体を震わせた。ささやかな刺激なのに、自分で処理する時とは全然違う。直接触られたらどうなってしまうのだろう。健二に向ける視線には、期待と不安が渦巻いていた。
「へへっ。脱がしていいよな」
「あ、あぁ」
ベルトに手をかける健二。健介は抵抗もせずされるがままだ。ズボンとパンツが下ろされると、完全に勃起しているペニスが姿を現す。亀頭はぷっくりと膨らみ、竿の部分には血管が浮き出ていた。平均よりもかなり大きい。
「うわぁ、すっげ。俺のよりかなりでけぇ。何食ったらこんな大きさになるんだよ。いや、俺だって兄貴と同じもん食べてるはずなんだけどな」
「し、知らん。そんなまじまじと見つめるな」
眼前にそそり立つペニスを興味深げに見つめる健二は、どこか悔しそうな表情を浮かべている。男として大きさで負けているのが納得いかないらしい。対する健介は顔を真っ赤にして、まるで湯気が上がりそうな程になっていた。健二が鼻をすんすんと動かすと、慌てたように声を上げる。
「嗅ぐな。臭いだろう」
「毎日風呂入ってるのに?あーでも確かに、少し変な匂いはするかも。汗・・・・・・じゃないな。我慢汁?」
「だから、嗅ぐなというのに・・・・・・!」
しかし、健二はどこ吹く風で首を傾げている。目の前のペニスは綺麗に洗われており、匂いの原因は掴めない。ただ、嗅ぎ続けていると体の奥が疼くような感じがした。スーツによって体の内側も変化しているようだ。
「あっそうだ、兄貴だけ見せるのは不公平だよな。俺の、つってもスーツ着てるから変化してるけど見せるよ。うん」
疼くような感覚に戸惑いつつ、毛布を跳ねのけ股を開く健二。当然ながら男性器は付いていない。画像や動画でしか見たことの無い女性器が、そこにはあった。健二も、健介も、その光景に釘付けになる。
割れ目は薄く開き、何かを求めるように動いていた。愛液で濡れているのかてらてらと光っている。そして、上の部分にはぷくりと膨らんだ突起。クリトリスだろうか。声も出せないまま、兄弟はまじまじと見続けた。
「・・・・・・え、っと。触る?」
やがて口を開いたのは健二の方だ。潤んだ瞳を兄に向け、呟くように訊ねる。それが後押しになったようで、健介はゆっくりと手を弟の股に伸ばした。触れる直前、躊躇するように動きが止まる。ごくり、と唾を飲む音。
「だ、大丈夫だから。ほら、触ってくれよ」
促されて、ついに指先が女性器へと触れた。くちゅりという音と共に割れ目の間が刺激され、健二の体がビクッと震える。慌てて手を引っ込めようとする健介だが、その手を掴んだのは他ならぬ健二だった。
「ちょ、ちょっとびっくりしただけだから。もっと、触ってほしい。頼むよ、兄貴」
懇願する言葉。健介はもう一度唾を飲み込み、引っ込めようとした手を弟の股間に当てる。女性器は湿っていて、ひくひくと動いていた。何より、熱い。熱気に近いそれを手のひらで感じながら、ゆっくりと割れ目に指を這わせた。ずぶり、と奥に呑み込まれていく。
「っくうぅぅ・・・・・・!」
喉の奥から漏れる嬌声を押し殺し、健二の四肢に力が入った。しかし、開いた股を閉じることはしない。健介の拙い愛撫を受け入れようとしているのだろう。女性器からは愛液がだらだらと溢れ出し、布団に染みを作り始めていた。
「大丈夫なのか、健二。苦しそうだが」
「ちがっ、気持ち、よくて・・・・・・。ふうぅ、中に何か入るってこんな感じなのか。確かに男じゃ味わえないな」
中に挿入されている人差し指に、女性器は物欲しげに吸い付いてくる。それがまるでペニスを求めているかのように感じ、健介は考えを振り払おうとした。確かに彼のペニスは痛い程に勃起し、女性器の中に挿入したいと本能が伝えてくる。しかし、それは駄目だ。あってはならない。
そんな苦悩に気付いたのか、健二は兄の厳めしい顔に手を伸ばした。頬を愛おしげにさすりながら、囁くように言う。
「なぁ、兄貴。挿れてくれよ、兄貴の。こんなに濡れてたら大丈夫だと思うからさ」
「馬鹿、俺達は兄弟だぞ。そんなこと、やっていいはずが・・・・・・」
「今の俺は女で、別の体だから。肉体的には兄弟じゃないし平気だって。な、頼むよ。なんか、お腹の奥が疼いて仕方ないんだ。切なくてさ。このままじゃ生殺しだ。頼む、兄貴」
目の前の弟が、女が、自分のモノをねだってくる。今までに無い経験に、健介はクラクラする頭を押さえた。もう理性はとっくに限界である。勃起したペニスの先端からは我慢汁が溢れ、零れたそれが愛液と混ざり合った。
「いや、しかし、だが・・・・・・」
「優柔不断はよくないって兄貴はいつも言ってるじゃんか。ほら、ほら」
健二の両足が健介の腰に絡み、引き寄せる。ペニスが割れ目に近付き、亀頭がそこに触れた。熱い。腰を突き入れたら絶対に気持ちいいという確信が湧く。それでも動けない健介に、健二は煽情的に微笑みながらぐいっと一気に引き寄せた。
「あぁっ!!」
「っ、ぐぅ・・・・・・!」
ずぶり、と。ペニスが女性器に挿入され、深く抉る。内側がうねり、歓喜するようにペニスを刺激した。ひだが亀頭から竿まで絡み付き、啜り上げるように奥へ奥へと誘っていく。
「あはっ、これっすごっ!」
「なんだこれは、健二ぃ・・・・・・!」
悦びに満ちた健二と、快楽を懸命に堪える健介。両者の表情は正反対に見えながら、根本の部分では同じだった。気持ちいい。実の兄弟が相手なのに、これ程気持ちいいなんて。背徳感と快感が混ざり合い、心身を溶かしていくかのようだ。
「うごっ動いて、くれよ兄貴。俺、腰が抜けちゃって、駄目だから」
「む、うぅぅぅ・・・・・・」
力が抜けたのか、健二はくたりと布団に身を任せている。まな板の上の鯉。そんな言葉が健介の脳裏をよぎった。もう限界だ。彼は細い腰を掴み、腰を一気に突き入れる。
「んぎっ!?」
健二が悲鳴のように喘ぐが、もう止まらない。女性器の中でペニスを扱き上げ、好き勝手に内側を蹂躙していく。食い縛る歯の間からは涎が零れ、両目は赤く充血していた。我慢に我慢を重ねた結果、性欲が暴走しているらしい。
「まっあにきっまってぇっ!はげしっすぎぃっ!!」
「健二、健二っ!」
制止の声も今の健介には届かない。亀頭が女性器の最奥、子宮の入り口をごつごつと叩き、その度に健二の口から嬌声が零れた。それでも兄は止まらない。性欲のままに、腰を振り続ける。
「あぁんっあぁっんんんんん!!」
自分の下で乱れているのは、一匹の雌だ。いや、大事な弟であるはずの健二だ。頭の片隅で何かを考えるが、すぐに快感と本能に押し流されていってしまう。今大事なのは目の前の雌を気持ちよくさせること。満足させる為、中に子種をぶち撒けることだ。
「だめっくぅんっあぁぁぁぁっ!」
「出るぞっ健二!お前の中に出すからな!」
込み上がる射精感にペニスを一際強く突き入れる。子宮口を抉りながら、亀頭と竿が大きく脈動した。全体がポンプとなり、凄まじい勢いで精液が噴き出す。
「ああぁっあぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!」
「ぐうぅぅぅぅっ・・・・・・!」
あられもない嬌声と獣の如き唸り声。二つの声が重なりながら、兄弟は絶頂した。繋がっている場所からは愛液とも尿ともつかぬ液体が溢れ出し、中に収まりきらなかった精液も零れ出てくる。健二はガクガクと全身を痙攣させながら、意識を失い酷い顔になっていた。
「はぁっはぁっはぁっ・・・・・・」
荒い息を吐きながらようやく健介が正気を取り戻すと、そこには無惨に気絶した健二の姿。やり過ぎてしまった。そう直感し肩を揺するが、弟が目を覚ます気配は無い。
「健二・・・・・・?おい、健二!」
慌てながら更に揺さぶっても、目の前の女は浅い息を吐きながら目を閉じたままだ。辺りには二人の体液が飛び散り、酷い有様になっている。自身がやってしまったことを後悔しつつ、健介は途方に暮れるのだった。
「・・・・・・」
「すまん。本当にすまん。全ては俺の責任だ」
数十分後。兄弟はちゃぶ台を挟み向かい合っていた。既にスーツは脱いでおり、健二は元の姿に戻っている。
「ここまで暴走した俺が悪い。本当にすまなかった」
「だから、そんなペコペコ謝らなくていいって。元はと言えば俺から誘ったんだぜ?兄貴に責任は無いよ」
「そうはいかん。男として、抱いてしまった責任を」
「俺はもうスーツ脱いだから!俺も男!責任とか無し!はいこの話終わり!」
ちゃぶ台をべしりと叩き、健二は申し訳無さそうにしている健介を睨みつけた。女体の快楽には興味があったし、兄に女慣れしてほしかったのも事実だ。しかし、迷惑を掛けたかったわけでは無い。後悔などしてほしくなかった。
「し、しかしだな」
「しかしも何も無いってば!大体、なんで謝ってるんだよ?兄貴は気持ち良かったんだろ?俺だって気持ち良かったし、それでいいじゃんか」
「む、むぅ・・・・・・」
力強く言い切られ、思わず黙り込んでしまう健介。確かにその通りではある。いくら意識を失う程犯してしまったとはいえ、健二本人は納得しているのだ。謝る必要は無いと言える。
「あーもう、ウジウジしてないでさ。そんなにアレなら今度俺のお願い聞いてくれればいいから。それでチャラってことで」
「分かった。なんでも言ってくれ。俺に出来る限り叶えよう」
「そんなに気負わなくてもいいのに・・・・・・真面目だなぁ」
呆れたように呟き、ちゃぶ台の前から立ち上がる。色々あったので料理が冷めてしまった。温め直さなくては。台所に向かう彼の背に、健介は思わず声をかける。
「健二。お前がそこまで言うならもう謝らん。だが、本当になんでも頼んでくれ。そうしなければ俺の気が収まらんのだ」
その言葉に振り返り、健二はニヤリと笑った。何かを企んでいるような悪戯っぽい笑み。それは子供の頃からよく浮かべていた類のものだ。細めた目で兄を見つめ、ちろりと舌を覗かせる。
「そう?それじゃあ、もう一度犯してもらおうかな。さっきみたいに、いや、さっきよりも激しく」
「なっ・・・・・・」
「あはは、冗談だよ冗談!いや、案外冗談じゃないかもね。そんじゃ、料理温め直して持ってくるから!」
驚いた表情の兄を置いて、弟は台所に向かう。その頬は赤く染まり、どこか陶然とした表情を浮かべていた。