「よう、カナエちゃん。最近いい奴捕まえたみたいじゃないか」
待合室、カナエがぼーっとテレビのワイドショーを眺めていると、ミーコが話しかけてきた。
「あん?いい奴だぁ?」
「噂になってるぜ。年端もいかない高校生を虐めて金を巻き上げてるって」
ミーコが冗談めいた口調で言う。カナエは肩をすくめて言い返した。
「あいつは俺に惚れてんだ、なんでか分からないけどよ。まぁ、精々巻き上げるさ。とっとと皮を脱ぎたいしな」
「なるほど、世間知らずの少年を上手いこと丸め込んだって訳か。人は見かけによらないなぁ」
ミーコに言葉に苛立ちを感じたカナエは、ジロリと睨みながら言う。
「なんだよ、喧嘩売ってんのか。あいつが底抜けのお人よしってだけだ、俺は別に何もしてねえよ」
「そうかい、まぁ別にいいけどな。あんたがここでの生活に慣れてるみたいで何よりだよ。最近は表情も明るくなったしな」
「あぁん?」
言われた言葉に反射的に凄むカナエ。しかし、ミーコは受け流すように距離を取り、笑顔で言う。
「まぁ、悪くないだろ?俺が気に掛ける必要も無いかもしれないなぁ、これは」
そのまま、ミーコは手をひらひらと振り別のグループへと向かってしまった。カナエは憮然とした表情を浮かべながら、他の奴らと言葉を交わしているミーコを睨む。
(言いたいことだけ好き勝手言って逃げやがって・・・・・・!)
だが実際、律が数週間置きに来店することで精神的に楽になっていることも事実だった。カナエは怒りを鎮めながら、話題に出た律のことを考える。
(あいつ、結局定期的に指名してくるよなぁ)
初めて律と会ってから、半年程が経った。体を重ね合わせたのは最初の一回だけで、その後は会話をするだけで彼は満足しているようだ。すぐに体を求めてきたり、上から目線で命令してくる他の客とは明らかに違う。
(惚れた弱みってか。本当、馬鹿みたいだな)
彼と過ごす時間は、自分にとってかけがえのないものとなっているという自覚はある。しかし、カナエは、今まで何度もしていたように思考を止めて問題を棚上げした。
(あいつはただの一固定客だ、考えったって仕方ねえ。あいつが俺に惚れてるなら有り金を出来るだけ巻き上げるだけだ!)
首を振って、思考をリセットする。テレビに映るお決まりのワイドショーに目をやりながら、カナエは意図的に思考を停止させた。
律と出会ってから、一年程が経過した。つまり、少女の皮を着させられてから二年が経過したことになる。あれから、律は定期的にカナエを指名し、益体もない話をして去っていくことを繰り返していた。彼のお陰か、今のままのペースならば二年も経てば借金を返せると支配人に教えられ、カナエは気合を入れ直す。
(おっさん共に抱かれ続ける人生ももう少しで終わるんだ、気張らねえと・・・・・・!)
しかし、ここ二か月程、カナエは律からの指名を受けることが無くなっていた。この一年、長くても一か月以上指名が無い時は無かったし、それほど空く時は律が別れ際に理由を説明してもいたのだ。
(はっ、いい加減飽きたってことか・・・・・・せいせいするぜ、こっちもいい加減恋愛ごっこはごめんだったんだ)
気分のモヤモヤを振り払うように、あえて心の中で律を貶す。しかし、来ない日が一日、また一日と伸びる毎にカナエはストレスを溜めてしまっていた。指名される度に期待をし、部屋に入り客を確認して落胆する。本人は決して認めないだろうが、彼女は律が指名してくれることを望んでいるのだった。
「カナエさん、指名です」
スタッフに声をかけられ、カナエは我に返る。待合室の喧騒も耳に入らない程に、律について考え込んでいたらしい。
「お、おぅ」
返事をして、待合室を出る。部屋に向かう廊下を歩きながら、期待感を押し殺すようにカナエは思考する。
(どうせ律じゃねえ・・・・・・というか、もうここには来ねえだろ。いつも通り野郎に抱かれて、借金を返すだけだ)
まるで、もう来ない想い人を諦めようとするような、それでも諦めたくないと思うような気持ちに囚われているカナエ。無意識に思っている彼女は、恋する少女にしか見えなかった。
部屋に着き、扉の前に立つ。何も考えないようにしながら扉を開けると、そこに待っていたのは、
「あ、カナエさん!お久しぶりです!」
嬉しそうな顔をして、こちらに頭を下げる少年。カナエが会いたいと渇望していた柏木律が、そこにはいた。
「お、まえ・・・・・・」
立ち尽くすカナエ。自分に律はもう来ないと言い聞かせ続け、そう思い込もうとしていた彼女には、衝撃的な再会だった。
「ごめんなさい、ちょっと急な仕事が入っちゃって期間が空いて・・・・・・カナエさん?」
「あ、あぁ。てっきり、もう来ないもんだと思ってた」
動揺からか、思っていることを素直に口に出すカナエ。
「そ、そんなことないですよ!この二ヶ月、カナエさんに会えなくて寂しかったんですから!」
律はそう言って、恥ずかしげに笑う。いつも通りのその態度に、カナエは今まで感じていた不安やストレスが溶かされていくのを感じていた。
「・・・・・・そうかよ。てっきり、俺はお前が・・・・・・いや、なんでもねぇ」
かぶりを振って押し黙るカナエ。そのまま、いつも通りに律の横に座った。ほっと落ち着くような、そんな気分になる。
「で、だ。今回もくっちゃべりに来ただけか?毎度毎度、よく飽きないもんだぜ」
内心を悟られないよう、軽口を叩く。
「あっ、えっと・・・・・・そうですね、やっぱりカナエさんと話すのは楽しいですから」
少し口ごもった後、微笑みながら返事をする律。少し変な態度ではあったが、それにカナエは気付かなかった。
「そうそう、今回来るのが遅れた原因なんですけど、実はちょっと海外での仕事があって・・・・・・」
そうして、律は海外での出来事を喋り出した。楽しそうに頬を緩ませながら話す彼に、カナエはまるであるべき場所に帰ってきたかのような安堵感に包まれる。精神的に疲弊していたはずのカナエは、それに抗うこともせずに律とお喋りに興じ始めた。
「───それで、出てきた料理がなんかドロッとした形容出来ないもので。撮影スタッフさん達も青ざめてて大変でした」
「そいつはまた災難だったなぁ。だけどよ、食わず嫌いしてたらいつまで経っても大きくなれないぜ?」
「やめてくださいよ、流石にアレを食べるのは厳しくて・・・・・・あっ」
チリリリリリ。律の腕時計からタイマーの音が鳴る。どうやら、退室時間の少し前に鳴るようセットしていたらしい。
「どうしたよ?まだ十分ちょっとあるが」
カナエの言葉に、律は少しだけ逡巡した後、意を決したような表情で彼女に向き直る。真剣な目つき。まるで、一年前に告白してきた、あの時のような。
「あの、カナエさん。大事な話があるんです」
「なんだ、急に改まって。また愛の告白でもするつもりか?」
冗談めかして言うが、律の表情は変わらない。ただごとではない雰囲気に、カナエも真剣な表情になり、律としっかりと向き合って言う。
「・・・・・・言ってみな。聞いてやるよ」
「はい。実は・・・・・・」
相当の覚悟をしているのか、ゆっくりと息を整える律。そして、彼はカナエを見据えて言い放った。
「僕は、カナエさんを身請けしたいと思ってます」
「・・・・・・あ?」
身請け。カナエも言葉の意味くらいは知っていたが、今ここで律が言ったという言葉と、その意味が上手く繋がらなかった。
「いや、お前、身請けって・・・・・・」
動揺しているカナエに、律は説明を始める。曰く、ここで働いている者たちは全員が借金持ちであり、その借金に二割増しした金額を払えば仕事から「足抜け」出来るということ。その場合、新しい戸籍や名前を用意され、皮を脱がないまま暮らすことになるということ。足抜けした時点で、特殊な薬を服用することで肉体が通常通り成長するようになること。皮を脱ぎたい場合は、自身で借金を返しきるしかないということ。
「なんで身請けされる時は皮を脱いではいけないのかは分かりません。何か理由があると思うんですが、支配人さんは教えてくれませんでした。だから、こうやって相談したかったんです」
「相談って、お前」
「身請けしたら、カナエさんは男に戻れなくなる。断ってくれて構いません、僕のエゴですから。断っても、僕はカナエさんを指名し続けます。でも」
真摯な瞳が、カナエを貫く。気圧されて目を逸らしそうになるが、どうにか堪えた。
「もし、カナエさんが受け入れてくれるのなら。僕は、生涯貴女を愛し続けます。きっと、合わないことや苦手なことが互いに見つかるかもしれませんけど、それでも僕はカナエさんと一緒に生きたいんです」
「っ・・・・・・!」
律の誠実な言葉は、カナエの心に深く刺さった。男の頃から、この姿になってからも、ここまで純粋な好意を受けたことがあっただろうか。荒んだ人生を生きてきたカナエには、今の律はあまりにも眩しすぎた。
「勝手にこんなことを言ってごめんなさい。でも、僕は本気です。だから、カナエさんも考えてくれると、嬉しいです」
「お、俺、は・・・・・・」
分からない。何も、分からなかった。今まで、カナエは男に戻る為に耐え続けてきた。性欲をむき出しにした者たちに組み敷かれ、少女の肉体を蹂躙されることをひたすら我慢していたのも、全ては皮を脱いで元の体に戻る為だ。いくら自由の身になると言っても、男の体に戻れないならば意味は無い。そのはずだった。
(なんで・・・・・・なんで俺は・・・・・・)
ぐるぐると、思考が渦巻く。一番理解できないことは、律の身請けの提案が、魅力的に見えている自分自身だった。
(俺は男に戻るんだ!その為に、ここまでやってきたんだぞ!それなのに、それなのにっ・・・・・・!)
もし男に戻ったら。確かに、元の人生を過ごすことは出来るかもしれない。しかし、男に戻った時点で律との関係は切れるか、そうでなくても変化はしてしまうだろう。それが、たまらなく嫌だった。
(ふざけんな!俺は、俺はホモじゃねえし、この体なんざ大嫌いだ!だから、断ればいいんだよ!)
自分に言い聞かせる。しかし、心の奥底から湧いてくる形容しがたい感情が、カナエを押し流していくようだ。と、
ピピピピピッ
カナエの思考を断ち切るように、ベルが鳴った。横に座っている律が立ち上がる。
「あ・・・・・」
「また、来ます。答えは急いでないですから」
そう言って、部屋を出ていく律。縋るように伸ばした手は、しかし扉が閉まる音と共に、力なく下ろされた。
あれから。カナエは、精神的なものからか熱を出して寝込んでしまっていた。仕事をする部屋と大して変わらない寝室で、大きすぎるベッドに横たわりながらカナエは天井を見つめている。
「あぁ、クソッ・・・・・・」
律が身請けの提案をしてきてから二日が経った。カナエは結局答えを出せないまま、高熱を理由に仕事を休み続けている。
(情けねえ・・・・・・あんなガキにあれこれ言われただけで、こんなに体調を崩すなんざ・・・・・・)
カナエは自嘲するが、結局身請けに対する答えは出せていなかった。どれだけ考えても、律に対してどう答えればいいか分からないのだ。
(断ればいいんだよ、男に戻れなけりゃあ意味が無いんだから・・・・・・!)
そう思っても、悲痛さが心の中で蠢いてしまう。男として身請けを拒否したい心と、律と共に生きたい心がぶつかり合って、体温が上がっていく。己の矛盾に焼かれながら、カナエはベッドの上で苦しみ続けていた。と、
「よう、熱出してダウンしてるんだって?差し入れ、持ってきたぜ」
寝室の扉が開き、見知ったギャルが入ってくる。ミーコはビニール袋を手に、ベッドに近付いてきた。
「色々あるぜー、スポドリとかおにぎりとか、あと生クリーム付きのプリンとかも!」
「て、めぇ、なんでここに来やがった・・・・・・」
いつも通りの態度のミーコに、カナエは上半身を起こして力なく凄む。本来、皮を着させられここで働く者達は、そこまで自由に動くことは出来なかったはずだ。
「はっは、まぁなんだかんだ俺は古株だからな。色々と融通が利くのさ」
そう言いながら、ベッドの端に腰を下ろすミーコ。愛嬌のある顔で、カナエの様子を確認しているようだ。
「差し入れ届けに来たんだったら、それ置いてとっとと帰れよ」
「あぁ、まぁそれがいいんだろうがなぁ。ちょいと、気になる噂を耳に挟んじまってな」
ずいと、カナエに顔を近付けるミーコ。怯んだカナエに構わず、ミーコはまくし立てた。
「カナエちゃんよぉ、身請けの話が来てるんだって?しかも相手は例の美少年ときた!随分といい話じゃないか、えぇ?」
「てめっ、なんでそれを・・・・・・!」
「言ったろ?古株だから色々融通が利くんだよ。で、どうすんだ?受けるのか?」
興味津々といった感じで言うミーコ。カナエはそれに対して否定するように首を振った。
「身請けを受けたら男に戻れないだろうが。それじゃ外に出れても意味ねえだろ」
その返事に、ミーコは複雑そうな表情を浮かべる。そして、ビニール袋に入っている物を小さなデスクに並べながら、語り始めた。
「あー、成程ねぇ。まぁ、アレだ。それで済んだら熱出して倒れてないってやつだな」
「あん?」
「迷ってるんだろ?分かるさ、他の奴らも似たようなもんだった。元の性別と今の体のギャップで苦しむのはよくあることだが、その上恋しちまうってのは割とレアケースだが今まで無かったって訳じゃない。好きなんだろ?その坊ちゃんのことが」
「はぁ!?」
核心を突かれたような感覚。カナエは、自身の体調も忘れて言い募る。
「おっ俺はホモじゃねえ!いくら相手がガキだろうが好きになるなんざありえねえだろ!いいか、俺は男に戻る為にこんな地獄みたいな仕事を続けてるんだ、断じてガキに媚び売ってここから抜け出す為じゃねえ!」
「落ち着けよ、こっちは真面目な話をしに来たんだ。本当に今の言葉通りに思ってるなら俺の出る幕は無いけどさ。その坊ちゃんのこと、マジで金づるにしか思ってないのか?」
言い聞かせるような、普段よりもトーンの低いミーコの言葉に、カナエはたじろぐ。
「金づるにしか思ってないならいいさ、このまま答えを出さずに指名を受け続ければいい。一、二年耐えれば皮を脱げて、外に出られる。だけどよ、本当にそれでいいのか?」
カナエがあえて考えないようにしていた部分を、ミーコは的確に抉っていく。
「少なからず思ってなければよ、あんたがここでうんうん唸って熱出す羽目にもならなかっただろ。変なプライドを捨てて、考えてみるのがいいと俺は思うがねぇ」
心の柔らかい所を、ぐちゃぐちゃにかき混ぜられる感覚。カナエは、荒い息を吐きながらミーコを睨む。
「そんな睨まないでくれよ。前も言ったけどさ、ここで働いてる奴らには出来るだけ幸せになってほしいんだよ。だから、わざわざあんたにもちょっかいを掛けに来たんだ。このままだと、自分の気持ちを押し殺して決断しちまいそうだったしな」
そう語るミーコは、普段の快活なギャルの態度からは想像も出来ない程老成した雰囲気をしていた。カナエに手を伸ばし、髪を指で梳きながらミーコは言う。
「頼むぜ、カナエちゃん。俺はあんたに不幸になってほしくねえ。プライドだの性別だの、取っ払って考えた上で身請けを受けないなら俺だってとやかく言わないさ。だからよ、ちゃんと考えてくれよな。この先の人生、どうするかを」
普段とは違う雰囲気のミーコに、カナエは何も言い返せなかった。そのままミーコは立ち上がり、ひらひらと手を振りながら去っていく。
「ま、言いたいことはそれだけだ。あとはあんたに任せるよ。それじゃ、お大事に、な」
バタン。扉が閉まる音と共に、カナエは一人になった。
「なんだ、あいつ、わけの分からねえことを言いたい放題しやがって・・・・・・!」
本心では、分かっていた。ミーコが何を問うてきたのか、カナエはしっかりと理解している。すなわち、女性として律と共に生きるか、否か。
(あぁクソ、決まり切ってるんだよそんなことは!俺は男に戻るんだ!戻って・・・・・・)
戻って、どうするのか。また、借金塗れのその日暮らしを続けるのだろうか。
カナエは、昔の自分を思い返す。ろくでもない人生だった。学生の頃から喧嘩に明け暮れ、立場の弱いクラスメイトから金品を巻き上げた。卒業してもそれは変わらず、夜の街で粋がりながら弱者から奪い取る日々。当時は、それが男らしい行いだとカナエは思っていた。しかし、ひ弱な少女という立場になって理解した。かつての自分は、どうしようもない屑だったということを。
カナエは思う。自分は屑だ。借金を返し、男に戻れたとしても同じような生き方しか出来ないだろう。
(だけど、だけどよ・・・・・・!)
そして、そんな自分のことを律は知らないのだ。律が知っているのは、皮を着て、少女になったカナエだけ。過去に非道な行いとしていたことも、今から男に戻ってもそのように生きるしかないであろうことを、彼は知らない。
きっと、知れば幻滅されるだろう。今までの好意がかき消え、悲しそうな目で去っていくだろう。
(それは、嫌だ・・・・・・!でも、じゃあどうすりゃいいんだよ・・・・・・!)
思考の迷路に迷い込んだカナエは、ベッドに倒れ込んだ。唸り声を上げながら、己の過去に苛まれる。いつの間にか溢れ出していた涙が、可愛らしい顔をぐしゃぐしゃにしていく。
気の遠くなる程の長い時間、カナエは考え続けた。熱に浮かされた頭で、最適解を探し続けた。そして、彼女は決意した。
(次、だ。次にあいつが来た時に、全部話そう。それで、終わらせる)
律に対して、好ましいものを感じている。彼と共に、人生を生きていくことも悪くないかもしれない。そう思うからこそ、カナエは関係を終わらせようと決めた。
(もしかしたら、俺は律と幸せに生きることが出来るかもしれねぇ。だが、何も知らないあいつを、付き合わせるわけにはいかねえよ)
弱々しく、カナエは笑う。全ては自業自得だ。だが、だからこそそんな人間は彼に愛してもらう資格は無い。限界まで追い詰められたカナエは、律への思いを自覚した上で切り捨てることにした。
(これで、いい。これでいいんだ。俺みたいな屑が、これ以上あいつの人生を無駄にしていいわけがねぇ)
枕に顔を埋めながら、吐き出すように泣く。とめどなく溢れる涙に溺れながら、しかし彼女は笑っていた。これで、少なからず思っている相手は自分から解放されるのだから。
「は、ははっ、ははっひっく、ははははははははっ!」
狂ったように泣き笑いながら、カナエは枕を抱きしめた。一人の孤独を、埋めようとするかのように。
結局。カナエの体調が戻るまで、一週間を要した。病み上がりの体を引きずるように、待合室の椅子に座る。普段は刺々しい視線を向けてくる同業者たちも、今回はどこか心配げな様子だ。それを鬱陶しく思える余裕もなく、カナエはのめるようにテーブルに突っ伏した。
「・・・・・・おい、大丈夫かよカナエちゃん」
いつものように声をかけてくるミーコも、声色がかなり不安そうだ。カナエは突っ伏したまま答える。
「問題、ねえよ。いいからどっかいけ」
「いや、流石にそういうわけにはいかないだろ。そんな調子じゃ仕事するのは無理だろうし、まだ休んでた方が」
「いいんだよ」
ミーコの言葉を遮るように、カナエが呟く。
「スタッフには話を通してある。あいつ以外の指名は通さないようにしてくれるってよ」
「・・・・・・そうかい。なら、俺の出る幕はないな。俺が言うことでもないだろうが、精々頑張れよ」
心配そうな声のまま、しかし優しさを滲ませた口調で言い、ミーコは離れていく。カナエはただ、突っ伏して目をつむりながら、その時を待ち続けた。
何時間か後、その時はやってきた。スタッフに呼ばれ、カナエはふらふらと立ち上がる。
(終わりだ、終わりにする。それで、あいつと会う前に戻って、それで・・・・・・)
廊下を歩きながら考える。今までに、何度も何度も自問したことを。戻って、どうするのか。律と、本当に別れてもいいのか。
(駄目だ、考えるな!未練を出すんじゃねえ!あいつの、律の為にも、俺との縁は切った方がいいんだ・・・・・・!)
部屋の扉に辿り着く。カナエは震える手でドアノブを握り、体調不良を表面に出さないよう奥に押し込めながら扉を開けた。
いた。いつものように、ベッドに腰掛けている。律は、カナエの姿に顔を綻ばせながら言ってきた。
「カナエさん!ごめんなさい、期間を空けずに来てしまって・・・・・・」
「・・・・・・あぁ、構わねえさ。指名してくれる分だけ稼ぎになるからな」
いつも通りに律の横に座りながら、カナエは彼の顔を眺める。本当に嬉しそうなその表情に、カナエは眩しいものを見るように目を細めた。
「なぁ、律。今回はよ、俺の話を聞いてくれねえか?」
「えっ、あっはい、それはいいんですけど・・・・・・」
「どうした?」
小首をかしげるカナエに、律は頬を赤らめながら言う。
「なんか、カナエさんに名前を呼ばれるのが珍しくて・・・・・・えへへ、なんか照れちゃいますね」
「っ・・・・・・!」
愛おしさが胸に溢れ、決意が鈍りそうになる。その暖かな感情を振り払いながら、カナエは話し始めた。
「話したいのは、俺の過去のことだ。俺が男だった頃の話。聞いてて気持ちいいもんじゃねえだろうが、我慢してくれ」
重々しいカナエの態度に戸惑いを浮かべながら、律は頷く。そして、カナエは話し始めた。心の痛みを押し殺しながら。
カナエは、包み隠さず全てを話した。己の愚かさ、粗暴さ、情けなさ、それを示す自分の過去を。
律は、口を挟まずに聞いている。時折目を伏せ、悲しげな表情になる彼を見る度に、カナエは悲鳴を上げたくなるのを堪えて話を続けた。それが、自分に対する罰であるかのように。
そして、この店で働くことになった顛末を含めて、カナエは語り終えた。しばらく目をつむった後、開いて律を顔を見る。澄んだ瞳と目が合って、カナエは泣き出しそうな気分になった。
「・・・・・・分かったろ。俺は、律が思うような奴じゃあないんだ。どうしようもない、屑野郎なんだよ」
目を逸らし、顔を伏せる。絞り出すような声で、カナエは言っていく。
「お前も、いい加減こんな女遊びはやめな。人生ロクなことにならねえぞ」
何故だか、声が震える。視界が滲みそうになり、必死で堪えようとした。
(泣くな、泣くなよ!もう少しだけ・・・・・・っ!?)
ふわり。全身が、柔らかく包まれたかのような感覚。温かさが、伝わってくる。カナエは、優しく律に抱きしめられていた。
「ありがとうございます、話してくれて。辛い顔をして、とても苦しかったんでしょう?」
安堵感が溢れる。心地のよいそれに流されて、縋りついてしまいそうになる。しかし、
「・・・・・・離せよ。俺の話が理解出来てないのか?それとも、屑をほだす趣味でもあるのかよ、えぇ?」
冷たく言う。心を、想いを、己を否定しながら、カナエは律を突き放そうとした。
「離しません。絶対に、離しません」
だが。少女の非力では、律の力には敵わなかった。それどころか、より強く抱きしめられ、彼の鼓動すら感じられるほどに密着する。
「おい・・・・・・おい!離せよ!離せって言ってるんだ!」
「嫌です!離したら、もう二度と会えないような気がするんです!カナエさんが、遠くに行ってしまう!」
「っ!」
ゆっくりと、体から力が抜けていく。彼を否定しようとする意志が、底に穴が空いたかのように零れ落ちていく。やがて、カナエは完全に律に体を預けてしまった。力強く抱き留められているのが、とても心地良い。
「かつての、男だった頃のカナエさんのやってきたことは分かりました。とても、許してはいけないことだと思います。でも、貴女はそれを話してくれた。許せないことだと、話したらどう思われるかを分かっていて、それでも僕に話してくれた」
堪え続けてきた涙が、零れて頬を伝う。何かが決壊したかのように、次から次へと伝っていく。
「それは、今の貴女の優しさだと思います。過去を話すことで、僕がカナエさんを嫌いになってここに来させないようにした。僕のことを思って、してくれたんですよね?」
「うぅ、ぅうううぅーーー・・・・・・!!」
嗚咽が漏れる。隠そうとしていたはずなのに、理解されているということが何よりも嬉しい。既に、律の胸元にはカナエの涙で大きな染みが広がっていた。
「なら、きっと今のカナエさんは屑なんかじゃありません。罪には罰が必要なら、これから二人で償っていきましょう。僕は、貴女と一緒に生きていきたいんですから」
抱きしめながら、頭を撫でてくる律。他の者からされると不快なそれは、しかし彼からだと幸福感に満たされる。そのことに疑問も抱かず、カナエは甘えるように頭をすり寄せた。
しばらく、二人はそのまま抱き合っていた。やがて、カナエの嗚咽が治まり、涙が少しずつ乾き始める頃。おずおずと、カナエが口を開く。
「本当に、いいのか?こんな、元男の、中途半端な俺でも」
「カナエさんだから、いいんです。僕が本音でこんなにお喋り出来たのは、カナエさんしかいないんですよ?」
「・・・・・・はっ。なんだよ、可愛い見た目してお前も大概なんだな」
「かわっ・・・・・・!?カナエさんの方が可愛いですよ、もう!」
抱き合いながら、じゃれるように言葉を交わす。それは、とても幸せな時間だった。
「なぁ、律。頼みが、あるんだ」
しばらくして、カナエはポツリと呟いた。先ほどまでの濁った瞳とは違う、熱が宿った視線で律を見据える。
「俺を、抱いてくれ」
「カナエさん・・・・・・でも、体調の方は」
「いいんだよ、そんなことは。それよりも、さ」
ぎゅっと、腰の辺りに回した手に力を込めながら言う。
「俺を、お前のものにしてくれ。俺に諦めさせなかった責任、取ってくれよ」
「カナエ、さん・・・・・・っんむっ!?」
律の唇を奪う。見上げるように、彼の唇に吸い付いていく。ベッドに横倒しになり、カナエは縋りつくように律のズボンに手を掛けた。
「んぅ・・・・・・なぁ、頼むよ。俺をこんなにしたのは、律なんだぜ?」
ズボンを下ろす。トランクスを押し上げる男の象徴が現れ、カナエはうっとりと微笑んだ。
「ちょ、ちょっと待ってください、自分で脱ぎますからっ!」
律は慌てて言うが、カナエはそのままトランクスを下ろしてしまう。ぶるんっ、と律のペニスが顔を出し、むわりとした雄の匂いがカナエの鼻腔を侵蝕していく。
「カナエさん!?すとっストップってひぃっ!?」
ベロリと舐め上げられ、情けない悲鳴を上げる律。カナエはそんな様子を見てクスリと笑いつつ、味わうように根本から先っぽまで丹念に舐め上げていった。
(なんでだろうな・・・・・・美味しく感じる・・・・・・)
夢中になって一気に咥え込む。えずく程に深くまで受け入れていくと、喉の奥を亀頭が突き、カァッと全身が熱くなっていく。
「うわぁっ!?駄目ですってカナエさんっ!?」
(律のこんな声を聞くのも久しぶり、っていうか初めての時以来か。なんか、やっぱ可愛いなこいつ。さっきまであんなにカッコよかったのに)
「んむっふふ」
咥えながら笑うと、妙な刺激があったのか律が悶える。涙目でカナエを引き離そうとしてくるが、乱暴なことはしたくないのかあわあわとしているばかりだ。
(愛おしい)
温かな気持ちで、カナエの心が満たされる。
(愛おしい、愛おしいんだ。だから、気持ちよくなってほしい)
ゆっくりとストロークし、律のペニスをしゃぶり尽くす。分泌される唾液をたっぷりと塗りたくり、下品な音を立てて啜っていく。
「ずずっ、じゅる、んっぷ」
たちまちペニスは膨張し、カナエの口内に収まりきらない程に勃起する。一年前よりも一回り大きくなったように思えるそれを、名残惜しげに口から解放する。
「ぷはっ・・・・・・へへ、随分大きくなったじゃねえか。立派なもんだぜ」
「うぅ・・・・・・」
恥ずかしそうに顔を覆う律を見て、ゾクリとした感覚を覚えるカナエ。しかし、前のように責め始めはせず、ごろんとベッドに仰向けになる。
「ほら、律。来いよ。男の子だろう?カッコいい所見せてくれ」
誘うようにはしたなく足を開き、てらてらと濡れて輝く秘部を見せつける。少女の見た目に似合わない淫靡さを漂わせながら、カナエは請うような視線を律に送った。
「カナエさん・・・・・・その、いいんですか?」
「俺が抱いてほしいって言ってんだ、つべこべ言わず男見せろっての!」
煽るように言うと、律はゴクリと唾を飲み込み、カナエに覆いかぶさってくる。待ちわびたように四肢を絡ませて、カナエは妖艶に微笑んだ。ペニスが膣口に触れ、愛液と我慢汁が混じり合っていく。
「い、挿れます・・・・・・っっ!!」
「っく、ぁぁぁあ、挿入ってくるぅ・・・・・・」
ゆっくりと、律のペニスが挿入ってくる。他の客の時とは違う、心と体の両方が満たされるような感覚。膣が蠢き、奥へ奥へとペニスを導いていく。
「っふ、ぅぅ」
ぴったりとパズルがハマるように、カナエは律のものを飲み込んだ。以前より大きくなったはずの律のペニスを、柔軟に広がるカナエの膣が根本まで受け入れている。しばらく、二人で抱き合うと、満ち足りた気分が全身に広がっていくようだ。
「こうやって繋がったのは、最初の時以来だな」
「そう、ですね。でも、あの時以上に繋がっている気がします」
そう言って微笑む律に、笑みを返してカナエはキスをせがんだ。唇が重ねられ、徐々に舌を絡み合わせていく。じゅるじゅるという音が口内に響き、脳を犯していくかのようだ。
「はむっんんむぅっ」
カナエは餌を与えられた雛鳥のように、律の口内を貪っていく。前歯やその裏、歯茎にも舌を這わせ、分泌された唾液を啜る。最初に会った時とは違う、蕩け切ったメスの顔でカナエはそれを味わった。
やがて、ゆっくりと律の腰が動く。大きく緩やかなストロークで、カナエの膣内を擦り上げていった。愛液がとめどなく湧き上がり、接合部から零れて落ちていく。
「あっ・・・・・・んっ・・・・・・!」
普段に比べたらもどかしい程度の快感で、カナエは体をくねらせた。暴力的に与えられるものではない、互いに確かめ合うようなセックス。それを味わいながら、無意識に膣をキツく締め上げる。
(欲しい・・・・・・っ!)
カナエは思う。律の精液が、子種が欲しい。孕むことは無いと分かっていながらも、子宮がキュンキュンと欲しがっているのを感じていた。求めるように、腰を押し付ける。亀頭が子宮の入り口を抉り、落雷のような快感と共にカナエの体が痙攣した。そのまま、律の耳元で囁く。
「なぁ、気持ちいいかっ?っく、俺は、お前を満足させてやれてるかっ!?」
どこか不安げなその声に、律は腰を突き入れながら答える。
「あたっ、当たり前じゃないですか!僕はこれまでも、これからも、カナエさんの体以外で満足する気はありません!だから、だから心配しないでください!僕は、カナエさんとずっと一緒にいます!」
その言葉は、脳に、心にしっかりと響いた。突き入れられたペニスを締め上げながら、カナエは歓喜の声を上げる。
「よかっ、よかったっんんぅぅっ!もっと、もっと気持ちよくなってくれっ・・・・・・!」
ねだるように、カナエの腰が円状に動く。亀頭が子宮の入り口周辺をゴリゴリと擦り、二人に快感を与えていく。律が荒い息を吐いているのを、カナエはうっとりと聞いていた。
(俺で、気持ちよくなってくれてるんだ。それがこんなに嬉しいなんて、今まで思わなかった)
律が、自分の中で気持ちよくなっている。その事実に、愛しさと幸福感が際限なく湧き上がっていく。
「カナエさん、カナエさんっ・・・・・・!」
「んっ、はぁ、っくぅぅぅぅっっ!」
徐々に、律の腰の動きが速くなる。それに応じてカナエの喘ぎ声も大きくなっていき、互いに煽られるようにどんどんと高みへと昇っていく。抱き着いて密着し、律の汗ばんだ体の匂いを嗅ぎながら、カナエはだらしなく微笑んだ。
「うっつぁああぁぁぁんんっ!ふ、はは、律、りつぅっ!好きだっ!俺は、本当はずっとこうなりたかったんだっ!お前とっ、一緒になりたかったんだよっ!!!」
喘ぎながら、カナエは思いの丈をぶちまける。ずっと否定してきた、隠してきた己の心を、愛する人に叩き付けていく。
「ずっと、ずっと押し殺してたんだ!俺っくぅっ、俺は男だから、律を好きになるわけがないって!でも違う、っんん!違ったんだよ!」
律は、華奢な彼女の体を優しく抱き締めながら、その告白を聞いていた。慈しむように、柔らかく頭を撫でる。
「男も、女もっ関係ねえ!俺は、お前を好きになったんだ!あの時お前は言ったよな!?好きになったんだからしょうがないって!ははっ、まったくその通りだ!しょうがないよな、好きになっちまったんだから!」
カナエは笑う。悦びに蕩け、快感に打ち震えていながら、その表情はどこか晴れやかに見えた。
「・・・・・・そう、ですよね。好きになっちゃったらしょうがないって言ったのは僕でした」
そう言って、律はカナエを見つめる。幸せそうな彼女にこれ以上ない程の嬉しさを感じて、心底安心したような笑顔を浮かべた。
「よかったです。カナエさんが、僕を好きでいてくれて。幸せです。カナエさんと繋がることが出来て。だから、これからもずっと、一緒に生きていきましょう」
「あぁ、あぁ・・・・・・!よろしく頼むぜ、律」
見つめ合い、笑い合う。気持ちを通い合わせた二人は、どちらからともなく再び腰を動かし始めた。既に完全に出来上がっている男女の体が絡み合い、淫猥な音が部屋に響く。
「は、あっ・・・・・・もっと、激しくしてくれっ!お前を、俺に刻み付けてくれよっっ!!」
せがむカナエの声に答えるように、律の腰が力強く突き入れられた。歓喜と共にカナエは体を痙攣させ、喘ぎながら律を思いっきり抱き締める。その姿は、愛する人との交わりに悦ぶ女そのものだった。
「ひああああぁぁぁっっ!ふっ、くうううぅぅぅぅぅっっっ!!!」
小さな体で悲鳴のように喘ぐカナエに、律は容赦無くピストンしていく。ゴリゴリと抉られる子宮口が、物欲しげに蠢き亀頭を咥えようとして、射精を促してくる。せり上がってくる射精感を必死に堪え、律はカナエを責め続けた。
「あっそこっんぐぅぅっ!?」
固くなった乳首を指先で転がし、つまんで刺激する。その度にカナエの体が快感に震え、膣内がギチギチと締まった。その全ての反応を愛おしく感じながら、一層激しく腰を突き上げる。
「カナエさんっ、そろそろっ・・・・・・!」
やがて、限界まで膨張したペニスが限界に達したのか、律が切なそうな表情でカナエに言う。快感と幸福感で朦朧とする意識の中、彼女は叫んだ。
「くれっなかっ中にくれっ!!律のがっ欲しいんだ!!!」
「いっいきます!出ますっ出るぅっっ!!」
収縮する膣を押しのけるように、亀頭がプクリと膨らんだ。滾る奔流が根本からせり上がり、幼い子宮に凄まじい勢いで発射される。
「きたっきたぁっ、あ、あぁ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!」
今までのものを全て塗り替えるような、圧倒的な快感。全身が悦びに震え、視界にはパチパチとスパークが走る。そして、何よりも、目の前の少年のものになったのだという圧倒的な幸福感。カナエは、濁流のように混じり合ったそれを受け止めきれず、意識を失ってしまう。しかし、
「っうあぁぁっっ!!?んっぎぃぃぃぃぃぃっっっ!!!」
ペニスが脈動する度に、快感で意識を引き戻される。暴力的にすら思える感覚で再び意識が飛び、そしてまた戻る。律の長い長い射精が終わるまで、カナエは何度も何度もそれを繰り返した。
「っは、ひ・・・・・・」
律が全てを出し切った時、カナエは声すら上げられない程になっていた。そんな様子の彼女を、律は美しいものを見るかのようにうっとりと見つめる。そして、彼女の耳元に顔を近付けて囁いた。
「愛しています、カナエさん」
その言葉が届いたのだろうか。カナエは、ゆっくりと目をつむり、幸せそうな表情で今度こそ意識を手放した。
「お、ネギがだいぶ安いな。これも買っとくか」
独り言を呟きながら、一人の少女がスーパーで買い物をしている。年の頃は高校生くらいだろうか、高校の制服で野菜売り場を回る彼女は、どうやら何度もここに訪れているようだ。
「豆腐は・・・・・・んー、今回はパスだな。後は牛乳と・・・・・・よし、こんなもんか」
手早く商品をカゴに放り込み、会計を済ませる少女。スーパーを後にし、帰路につくらしい。その姿は、どこかうきうきとしているように見える。十五分程歩いた所で、少女はマンションの入り口に入っていった。
「さて、と。んじゃあやってくか」
マンションの一室。先ほどの少女は買ってきた食材を今使うものと冷蔵しておくものに分け、キッチンに立つ。少女は手慣れた手つきで調理を始め、しばらくするといい匂いが立ち込め始めた。と、
「ただいまー」
がちゃりとドアの開く音と共に、誰かが帰ってきたようだ。少女は調理の手を緩めず、しかし顔を綻ばせて返事をする。
「おーう、おかえり。思ったより早かったな」
「珍しく現場でなんのトラブルも無かったから。打ち上げは別の日にするから、今日は直帰させてもらったんだ」
帰ってきたのは、端正な顔立ちの青年だった。年の頃は20をいくつか過ぎた辺りだろうか、男らしさの中に僅かに少年らしさの残った顔を微笑ませ、少女の所までやってくる。
「うわぁ、色々作ってるね」
「そりゃまぁ、なぁ?今日は、一応記念日だしな」
照れたように頬を赤らませ、少女が言う。青年は嬉しそうな表情で少女の頭を撫でようとするが、
「あ、おいやめろ、料理中だ。いいからお前はくつろいでな」
少女はその手を払い、いつものように注意した。青年は申し訳なさそうな顔をしながら、リビングへと退散する。
「あー、そうだ。知り合いからいいワイン貰ったんだよ。料理出来るまでもうちょいかかるから飲んでてもいいぞ。俺は一応飲めないしな」
「大丈夫、待ってるよ。折角なら料理と一緒に楽しみたいし」
少女の言葉に青年は返しつつ、ソファに座ってキッチンの少女を見やる。幸せそうな表情を浮かべ、こまごまと動く彼女を飽きもせずに眺め続けていると、少女から恥ずかしげな声が飛んだ。
「そんなに見つめるんじゃねえよ。恥ずかしいだろ」
「ごめん。でも、なんかさ、幸せだなぁ、って」
青年にふにゃふにゃとした口調で言われ、少女はやれやれと肩をすくめて調理を再開する。しかし、彼女の口角は嬉しそうに吊り上がっていた。
やがて、少女が料理が完成させていくと、青年が率先してテーブルに並べる。二人はじゃれ合いのような会話を交わしながら、気付けばテーブルには様々な料理が並んでいた。
「どうだ、俺も随分上達したろ?」
自慢げに言う少女に、青年は微笑みながら答える。
「うん。料理教室に通ってるって言ってたけど、ここ最近で本当に上手くなったよねぇ」
「だろ?クラスメイトの奴らに勧められて通ってみてるけど、案外いいもんだ。ほら、冷める前に食ってくれ」
「そうだね。じゃあ、いただきます!」
そして、青年は少女の料理に舌鼓を打ちながら、この二週間のことを語った。少女はそれを楽しそうに聞きつつ、青年が飲み干したグラスにワインを注ぐ。楽しい時間はあっという間に過ぎ、料理もあらかた食べ終わった。二人で食器を片付けながら、少女は気分の良さそうな青年に、おずおずと提案する。
「なぁ、律。お前も疲れてるのは分かってるんだけどさ、もし、お前さえよければ・・・・・・」
目を伏せ、恥ずかしげな様子の少女を見て青年───柏田律は察し、すぐに返事をする。
「大丈夫、体力は全然有り余ってるから!」
そんな元気な返事を聞いて、少女は面食らったような表情をした後、苦笑を浮かべた。
「・・・・・・ったく。旦那様は随分と元気なようだな?俺にとっちゃあありがたい限りだけどさ」
「二週間振りに香奈江に会えたからね。疲れなんて吹っ飛んじゃうよ」
律の言葉に、少女───柏田香奈江は頬を赤らめそっぽを向いた。
「お前なぁ、またそういう恥ずかしいことを真顔で・・・・・・」
「本心だから。香奈江はこの二週間、寂しくなかった?僕は寂しかったんだけど」
「・・・・・・まったく。あの頃の可愛い律はどこに行っちまったんだか。こんなにカッコよくなっちまってよ」
顔を上げ、律の鼻を指先ではじく。そして、香奈江はこの数年で更に身長の差が付いた律を見上げながら言った。
「寂しかったからこうして誘ってるんだよ。気付け、バカ」
恥ずかしげに言う香奈江に、律は辛抱たまらなくなったのか香奈江を抱き上げた。
「ちょ、おい!?」
「ごめん、それは反則だよ」
「は?いや、おい、下ろせって、おい!」
じたばたともがく香奈江を抱き上げたまま、律は寝室まで運んでいってしまった。
カナエが律に身請けされてから5年が経つ。用意された戸籍は見た目通りの年齢だった為、カナエ改め香奈江は仕方なく小学校から中学校で義務教育を受けることになった。久しぶりの学校で青春をやり直せることになった彼女にも色々あったのだが、それはまた別の話。とにかく、一人暮らしを始めた律の所で暮らしながら義務教育を務め上げた香奈江は、律の強い勧めもあり高校に通いながらも、律との同棲生活を楽しんでいた。
そして、今日は記念すべき身請けが成立した日。記念日として、二人は毎年祝っているのだった。
「んっあっっくぅんっ!おい、最初から激しすぎっうああぁぁっ!」
寝室。この五年で膨らんだ香奈江の乳房に吸い付きながら、クリトリスを指先で弄ぶ律。酷く興奮しているのか、下半身のモノはギンギンに勃起している。
「香奈江がいけないんだよ?あんな風に誘惑するなんて。おかげでずっと興奮しっ放しだよ、もう」
「もう、じゃねえんだよ!お前、急に寝室連れ込んですぐこれとか、もっと風情ってもんをなぁ!?」
「・・・・・・ふふ」
キャンキャンと吠える子犬のような香奈江を見て、思わず律は微笑んだ。その様子に、香奈江は眉を顰める。
「あ?何笑ってんだよ」
「いや、うん。なんだか、女の子らしい考え方するなぁ、って」
そう言われ、香奈江はしばらく黙り込んだ後に顔をボッと赤くさせた。
「そ、そういうんじゃねえよ!お前があまりにも急すぎるからっんむっ!?」
言葉の途中にキスで口を塞がれる。しばらくむーむー言っていた香奈江だったが、やがて表情が蕩けていき、熱っぽく舌を絡ませ始めた。
(あー、チョロい!チョロすぎだろ俺・・・・・・!)
分かっていても、律とキスするだけで幸福感が湧き上がってくる。流されてると自覚しながら、身を任せることが心地いい。香奈江は、その熱情のままに屹立している律のペニスに手を伸ばした。火傷しそうだと錯覚するほどに熱いそれを、細長い指と手のひらでしごいていく。
「うぅっ、そんな的確にっ・・・・・・!」
「当たり前だ、互いに弱点知り尽くしてる仲だろうが。・・・・・・で、いい加減焦らさないでくれよ」
キスを中断し、唾液のアーチがかかりながら言葉を交わす。二週間我慢し続けた二人にこれ以上の前戯は無用のようだった。仰向けになった香奈江に律が覆いかぶさり、滾るペニスをゆっくりと挿入する。
「んああっ・・・・・・!」
「くぅ・・・・・・!」
二週間振りの邂逅で、同時に声が漏れる。悠々と律のペニスを飲み込んだ香奈江の膣は、しかし緩さは全く無い。むしろキツ目ともいえる締め付けで久しぶりのペニスを歓迎した。
「っはぁー・・・・・・なんだろうな、気持ちいいんだけどさ、それより先に安心する感じなんだよな・・・・・・」
「あー、分かる。帰るべき場所に帰ってきたみたいな、そんな感じがするよね」
深く繋がったまま、そんなことを話し合う。何度も体を重ねてきた貫禄だろうか、ゆったりとした穏やかな時間が流れてる。が、
「んっ・・・・・・!悪い、律。さっきあんなこと言ったけどさ、やっぱり今日は激しくしてくれないか?」
「僕は構わないけど・・・・・・いいの?」
「あぁ。なんていうかさ、そんな気分なんだ」
そっと顔を近付けて、香奈江は律の耳元で囁く。
「前みたいに、ぐちゃぐちゃに犯してくれよ。旦那様」
「っあぁもう!可愛いなぁ香奈江はっ!」
律が腰を一気に引き抜き、そして突き入れる。跳ねるように香奈江の体が痙攣し、歓喜の嬌声を上げた。
「んくっあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」
とめどなく溢れる愛液を結合部から零しながら、激しくピストンする律。彼女から頼まれた通り、乱暴にも見える動きで香奈江を責め立てていく。
「あぁっいいっいぃんんんんんっ!」
喘ぐ香奈江の口を己の口で塞ぎ、律は腰の動きをどんどん速める。律は、成長してもまだ華奢な香奈江の体を抱きしめながら、愛する人に望まれたことを全力で遂行していた。
「んぎっく、ふぅぅ、あっあぁぁぁぁぁっ!?」
子宮口を叩きながら、再び乳首に吸い付く。固くなったそれを甘噛みすると、香奈江の体がまたしても跳ねた。そのまま、律は香奈江の体を味わいながら責め続けていく。より固くなったペニスが膣内を抉る度、絶叫に近い喘ぎが香奈江の口から放たれ、寝室に響き渡った。
「あああっああぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!律、りつ、りつっっ!!」
愛する人の名前を叫ぶ。絡みつく四肢に力が入り、逃がすまいと体をより密着させていく。
「香奈江っ、香奈江っ!愛してる、大好きだよっ!!」
汗をにじませ、荒い息で返事をする律。5年前ならば体力的にへばってしまったであろう激しい腰遣いで、愛する人に快楽を送り込む。互いの汗に、唾液、愛液にカウパーとあらゆる体液が混じり合い、また二人の体と意識も深く深く繋がっていった。
「いくっいくよっ香奈江っ!まずは一発目!」
「あぁっ来てっ!!来てくれっいっぱいぃんんああああああああああっっっ!!!!」
膣の奥に突き入れられたペニスは、ぴったりと子宮口の形に嵌まる。子宮口が亀頭を吸い上げるように収縮すると同時に、熱い迸りが香奈江の胎内に放たれた。どくり、どくりと流し込まれる律の精液を、子宮が一滴残らず飲み込んでいく。口をパクパクとさせ痙攣している香奈江は、心から嬉しそうだった。
「ふ、ぅ・・・・・・」
やがて、ペニスがゆっくりと引き抜かれる。愛液で洪水のようになっている膣から、しかし精液が零れてこない。どうやら、流し込まれた全てを子宮が飲み込んでしまったようだ。愛おしげに、いまだに熱を放つ下腹部を撫でる香奈江。ちらりと律のモノを見やると、射精したばかりだというのに微塵も小さくなっていない。
「ふふ」
香奈江は笑う。心底幸せそうに。律についばむようなキスをしながら、ペニスに手を伸ばす。
二人の夜は、まだ始まったばかりだ。