「岩見君、この資料、明日の夜までにまとめておいてちょうだい」
「はい、分かりました。あ、これ、来週のプレゼンの奴ですよね?」
「そう。ごめんね、私はそこまで手が回らないから、一番得意そうな岩見君に任せるわ」
「了解です、頑張ります!」
俺、岩見幸一は就職して数年目の社会人だ。大学を卒業した後、なんとか内定した企業で働き始めたのだけど、まぁ俺のことはどうでもいい。大事なのは、俺が配属された部署には鶴道先輩という女神がいた、ということだ。
鶴道舞奈先輩。俺より何歳か年上なだけなのにすでに大きなプロジェクトを任される程に優秀で、まるで女優のような顔立ちとポニーテールに纏められた長髪、凛とした雰囲気は社内外問わず人気がある。それなのに俺みたいな後輩にも優しく、彼女がいるだけで部署全体の業績が上がる程の完璧超人だ。だけど、不思議なことに浮いた噂は全く無い。本人曰く、「今は仕事が恋人だから」らしい。
それでも、男女問わず彼女には憧れの目を向けている。本来なら彼女を妬む人も出てくるはずなのに、その数は不思議なほどに少なかった。そんな鶴道先輩の元で、俺は日々働いている。正直恵まれすぎている気もするけど、その分頑張って鶴道先輩の足を引っ張らないようにしないと・・・・・・!
そういうわけで、俺は先輩から任された資料をまとめ始める。集中しながらやっているとあっという間に時間が過ぎ、気が付くと外は真っ暗になっていた。時計を確認すると、終業時間を30分程過ぎている。昨今の世間体から残業はするなと言い含められているので慌てて作業を終えて、まだ他に残ってる何人かに挨拶して退社しようとした。と、
「あら、まだ残ってたの?」
オフィスに顔を出したのは鶴道先輩だった。俺の姿を見つけると、気軽に声を掛けてくる。
「あっ、すみません・・・・・・作業してたら夢中になっちゃって」
「岩見君の集中力は凄いものね。まぁ、部長はその辺り厳しいから残業するときは気を付けて」
「は、はい」
鶴道先輩と会話をしながら、ふとその手に持っているものに目がいく。霧吹きを持っているのは、なんでだろう?
「あぁ、これ?ちょっとね、昼に水やりするのを忘れちゃってたから」
そう言いながら、先輩は窓際まで歩いていき、そこにある植木鉢に霧吹きで水を上げている。
「あれ、その植木鉢って、確か少し前に先輩が持ってきた奴ですか?」
「そうそう。オフィスの彩りになるかなーって思って」
植木鉢の植物は、まだ花は咲いていないようで葉が茂っているだけだった。
「一体なんの花なんですか?」
俺が聞いてみると、鶴道先輩ははにかみながら言う。
「これね、実は桃の木なの。こんなに小さいのに、花も咲くし実もちゃんとなるんだって。凄いわよね」
「これ、桃の木なんですか?へぇー、凄いですね」
「少し前に初めて寄った花屋で、可愛い女の子の店員さんに勧められたのよ。世界は広いなぁ、こんなものがあるなんて」
小さな小さな桃の木を見つめながら、先輩が言う。その横顔はとても綺麗で、俺は思わず見惚れてしまった。
「さて、と。それじゃあ私は帰るわね。岩見君はどうする?」
「あっ、はい、俺も帰ろうと思ってたのでご一緒してもいいですか?」
「そんなかしこまらなくてもいいわ、じゃあ行きましょうか」
そうして、俺と鶴道先輩は取り留めのない会話をしながら会社後にした。先輩が乗るバス停で別れを告げ、俺は夜の街を一人で歩く。満ち足りた気分で空を見上げると、都会の汚れた空気にも負けない星たちがちらちらと瞬いていた。
「・・・・・・よし!明日からも頑張ろう!」
気合を入れ直し、街の喧騒の中帰路を急ぐ。夜空に見送られながら、俺は意気揚々と帰宅した。
数か月後。日々の仕事に忙殺されながらも充実した毎日を送っている俺は、十数日の出張からようやく帰ってきた。二日ゆっくりと休んだ後オフィスに出勤すると、鶴道先輩が嬉しそうに話しかけてくる。
「あっ、岩見君。おかえりなさい、出張の方はどうだった?」
「結構大変でしたけどなんとかなりました。出先の方々にも親切にして頂きましたし・・・・・・って、なんだか嬉しそうですね」
「ふふふ、まぁこっちに来てちょうだい」
鶴道先輩に促されるままに窓際まで行くと、先日の植木鉢の桃の木に花が咲いていた。薄いピンク色の花弁は小さく、いくつも咲いている姿には愛らしさを感じる。
「綺麗ですねぇ。それに、微かに甘いような香りが」
「なんだか落ち着く香りよね。本来、桃の花って殆ど匂いが無いらしいのだけど、特別な品種なのかしら」
「そうなんですか。珍しいですね、今度俺も室内で育てられる植物とか買ってみようかなぁ」
「いいと思うわよ。この桃を買ったお店、紹介してあげる」
花を観賞しながら、なごやかに言葉を交わす。久しぶりの鶴道先輩との会話が楽しいのもそうだが、桃の花が心を穏やかにしてくれているような、そんな気分だ。
とはいえ、ずっとこうしてるわけにもいかない。適当な所で会話を切り上げて、業務の準備へと向かおうとする。一礼して去ろうとした時、鶴道先輩は笑顔で見送ってくれた。・・・・・・俺は、何故かその笑みに普段とは違う妖艶さを感じ取った気がして、少しだけ疑問に思う。まぁでも、きっと気のせいだろう。すぐに思い直し、俺はさっさと仕事を始めるのだった。
さらに数か月後。繁忙期を乗り越え、高い業績を出したうちのオフィスには穏やかな空気が流れていた。俺も気の抜けた感じでデスクに座り、微糖のコーヒーを啜りながらぼうっとする。激務からの解放感と、どことなく手持ち無沙汰な感覚で、俺はボケーっと同僚たちの喜ぶ言葉を聞き流していた。と、
「お疲れ様、岩見君。今回もよく頑張ったわね」
「あ、鶴道先輩」
疲れた様子も見せず、鶴道先輩はにこやかに話しかけてきてくれる。その笑顔を見るだけで、腑抜けた気分がシャキッとする気がした。
「今回は特に色々重なっちゃったから、大変だったでしょう?」
「いや、そんな・・・・・・すいません、正直言ってキツかったです」
「あはは。でも、よく乗り越えたわ。私でも経験したことないくらいだったもの」
ねぎらいの言葉に、疲れ切った心が癒されていくのを感じる。鶴道先輩と同じ部署で働けて良かった・・・・・・!
「あ、そうだ。岩見君、ちょっとだけお願いしてもいいかしら。資料室までついてきてくれない?」
「分かりました、資料整理ですか?」
「ちょっとね・・・・・・」
曖昧な言葉のまま歩き出す鶴道先輩についていく。資料室に入ったが俺たち以外は誰もいないようで、先輩がドアを閉めると静寂が部屋を包んだ。
「さて、と。実はね、岩見君に渡したいものがあるの」
「渡したいもの、ですか?」
誰もいない場所で、憧れる鶴道先輩と二人きり。そんなシチュエーションに、妙な期待がむくむくと湧いてくる。いや、多分そういうんじゃないだろう、落ち着け、俺・・・・・・!
「うん。これをね、君に食べてほしくて」
そう言って、鶴道先輩は丸い何かを差し出してくる。薄いピンク色で、ほのかに甘い香りがするそれは、もしかして。
「これ、あの桃の木の実ですか?」
「そうなのよ!繁忙期の中でもすくすく育って、つい先日熟したの!」
嬉しそうに言う先輩から桃を受け取る。野球ボール程の大きさのそれは、思っていたよりも少し重い。
「折角だから、岩見君に食べてほしいなって。どう?」
「も、もちろん頂きます!ありがとうございます!」
わざわざ先輩が俺の為に・・・・・・!あまりにも嬉しくて食べるのがもったいないくらいだが、鶴道先輩のキラキラと期待するような視線には耐えられない。
「ちゃんと洗ってあるし、皮ごと食べられるタイプだから安心して」
「はい!じゃあ、いただきます!」
ガブリと桃にかぶりつく。ちょっと固めの食感と、溢れる果汁の甘み。桃の香りが口いっぱいに広がり、俺は目を見開いた。
「美味しい・・・・・・これ、凄く美味しいです!」
「よかった。岩見君に渡した甲斐があったわ」
微笑む先輩。いや、でも実際普通に売られてる桃よりもジューシーで甘くて美味しい気がする。気分の問題なんだろうか?とはいえあっという間に食べ終わってしまった俺は、名残惜しげに口から種を出す。この種を植えたら、芽が生えてくるのかな・・・・・・。
「・・・・・・あれ、っ!?」
くらりと、急にめまいがする。たたらを踏んだ俺の体を、先輩が支えてくれた。
「岩田君?大丈夫?」
「す、すみません先輩・・・・・・なんか、急にめまいが」
ドクン。言葉の途中で、心臓が強く鼓動する。そのまま鼓動は激しくなっていき、全身にゾクゾクと悪寒が走った。風邪にしてもおかしい症状に、俺はぐったりと倒れ込んでしまう。
「せ、先輩、ごめんなさい」
近くにあった長椅子に寝かせられ、息が荒い俺は鶴道先輩に謝る。しかし、彼女は何故か微笑みながら返事をした。
「いいのよ、岩田君。大丈夫だから。すぐに治まるからね」
頭を撫でられる。その間も全身がザワザワと震えるような、軋むような感覚が襲ってきている。自分自身を抱きしめるように体を丸め、なんとか耐えようとするが難しい。
「せん、ぱい、救急車、を」
流石に不味い、そう感じた俺は鶴道先輩に頼もうとするも、声が最後まで出ない。目が霞み、意識が薄れていく。最後に俺が見たものは、状況に似合わない、鶴道先輩の満面の笑みだった。
ピチャピチャと、水音のようなものが聞こえる。そして、何かが体を這い回っているような感覚も。俺は、微睡みからゆっくりと意識を浮き上がらせる。
「ぅ・・・・・・」
うっすらと目を開けると、資料室の天井が見えた。全身が痺れているようで、上手く体を動かせない。俺は何とか首だけ起こして、周囲を確認しようとした。
「・・・・・・え」
俺の目に映ったのは、下着姿の鶴道先輩が全裸になった俺の体を舌で舐めている姿だった。
「れろっ・・・・・・あら、目が覚めたのね。よかったわ」
「は、え、せ、先輩何を」
訳が分からない。なんで俺は全裸で、なんで先輩は俺を舐めているんだ!?そんな俺に、先輩は妖艶な笑みを浮かべながら、俺の胸をむにゅりと掴んだ。・・・・・・胸?
「んっあぁ!?!?」
知らない感覚が触られた場所から広がる。むにゅむにゅ、ぐにゅぐにゅとした柔らかく柔軟な胸が揉まれている感覚。なんで、どうして俺の胸におっぱいが付いてるんだ!?先輩に揉まれて形を変えるおっぱいと、そこから伝わってくる未知の快感に悶えていると、さらなる事実に気付く。
俺の手が、細く白い。さらさらと長い髪の毛が、頭から伸びているのを感じる。すらりとくびれた腰と、綺麗な脚線美の足。どこをどう見ても、俺の体ではない。
「ふふ、混乱しているわね。大丈夫よ、命に別状は無いわ」
鶴道先輩が言うことを、上手く理解できない。揉まれているおっぱいも、撫でられているお腹も、感触は伝わってくるのに俺の、男の体じゃない。愕然としていると、先輩がスマホを取り出して画面を見せてきた。
「ほら、これが今の岩見君よ」
インカメラになっている画面には、二人の女性が映っている。一人は下着姿の鶴道先輩。もう一人は・・・・・・全裸になっている、鶴道先輩だった。
「は?」
鶴道先輩が二人・・・・・・!?というか、俺が映っていない!?
「分かる?今の君の姿、ちゃんと見えているかしら」
下着姿の鶴道先輩が喋る。もう一人の鶴道先輩は、驚いた表情で固まっていた。まさか、まさかこれって、
「俺、先輩になってる、んですか?」
俺が喋ると、画面に映る全裸の鶴道先輩も口を動かす。そして、俺の口から放たれた声は間違いなく女性のものだった。
「正解。ご褒美を上げる」
未だに混乱している俺に、先輩は顔を近付けてくる。そして、そのまま瑞々しい唇を俺の唇に重ねてきた。
「んむむむぅ!?!?」
ぷるぷるの唇同士が合わさり、そこからぬるぬるした舌が口に侵入してくる。無意識に押し返そうとする俺の舌と絡み合って、刺激で唾液が分泌される。
「んんん、んむぅうんっ!?」
じゅるじゅると唾液を吸われ、その音が脳に反響して精神を責め立てる。俺は何も分からないままに、下腹部に熱が溜まっていくのを感じていた。
「んっ・・・・・・やっぱり、岩見君を選んでよかった。とっても綺麗よ」
うっとりとした顔で言われるが、何も分からない。くらくらする頭は、全然働こうとしていなかった。そんな俺に鶴道先輩は微笑んで、手を俺の下半身へと伸ばす。
「っくううぅぅぅぁぁぁぁあぁあああっっ!!?!?」
くちゅりと、先輩の指が俺の股間に触れる。そこにあるはずのペニスの感触は無く、代わりに今まで感じたことの無い強烈な快感が走った。バチバチと脳内で何かが弾け、動かなかったはずの体がビクビクと痙攣する。目から涙が滲みながら、口からは艶やかな喘ぎ声が漏れた。
「大丈夫、そのまま快感に身を任せて」
鶴道先輩の声に、俺は訳も分からず気持ちよさに翻弄される。ぐちゅぐちゅという音が股間の方から聞こえ、その度に快楽に襲われ体が跳ねてしまう。
「せんっせんぱいぃっ!?これっんあぁぁなんでぇっっんんああああああああっ!!!?」
何かが俺の中に挿入ってくる。さっき以上の快感が全身を駆け巡り、思わず俺はきゅっと足を閉じてしまった。しかし、侵入は止まらない。細長い何かが俺の中にどんどん挿入ってきて、下腹部の熱が一層強くなる。
「やめっせんぱいっやめてくださっくぅんっ!!?」
俺の言葉に先輩は答えず、微笑みながら俺の股間をまさぐり続ける。挿入ってきた何かは引き抜かれるかと思ったらまた挿入ってきて、中で擦れていくと快感が津波のように押し寄せてきた。
「いいわ、最高よ岩見君。そのまま、どんどん気持ちよくなって!」
先輩の言葉の通りに、俺は初体験の快感に振り回され押し流されていった。身悶えしながら、あられも無く喘ぎ声を上げて、挿入ってくる何かを締め付けるように中が動いている。分からない。何も分からないまま、俺の体は限界まで高まっていく。
「そろそろイきそう?遠慮しなくていいわ、イっちゃいなさい!」
ごりっと、俺の中が強く押しこまれた。
「あっあぁぁぁぁぁぁぁああああぁぁぁぁぁあぁぁぁっっっ!!!?!?!?」
弾ける、弾ける、弾ける。小さな爆発がいくつも頭の中で起こって、重なり大きな爆発になっていく。俺はその爆発に吹き飛ばされるように、絶叫を上げながらイってしまった。
「───っは、あ」
肺の中身全てを吐き出し切り、ぐったりと力が抜けていく。体は快感の余韻で疼き、しばらく動けそうにない。
「ふふ。いいこいいこ、可愛かったわよ」
鶴道先輩に優しく撫でられながら、俺はゆっくりと呼吸をしながら身を鎮めるのだった。
俺の息が整い、体が落ち着くのを待ちながら、鶴道先輩はゆっくりと俺に説明をしてくれた。
「今の君は私の体になっているの。変身している、って言った方が正しいかしら」
「君がさっき食べた桃の実は普通のものじゃなくて、『食べた者は育てた者と同じ肉体になる』っていう不思議な力を持っているのね。私も、岩見君が食べてくれたおかげで初めて確認できたんだけど」
「なんでそんなものを食べさせたのか?それは、ええと・・・・・・」
「・・・・・・実は、私ってナルシストなのよ。自分自身しか、その、性愛の対象に見れないの。今までずっとそうだったし、別に他人と仲良くなること自体は出来るから問題は無かったはずなんだけど、ね」
「一人が、寂しくなっちゃって。わがままよね、元は自分の嗜好がおかしいだけなのに」
「それで、悩んでいた時に不思議なお花屋さんを見つけて。この桃の木を勧められたの。初めは、というか岩見君が食べてくれるまでは半信半疑だったのだけれど、本当に、効果があったなんて」
「ごめんなさい、岩見君。私、おかしいわよね。君に何も言わないでこんなことをして。もしかしたら、君ならこんな私を受け止めてくれるかもしれないと思ったの。そして、こうやって事情を話して謝れば許してくれるかもしれない、とも。卑怯よね」
「ごめんなさい。本当に、ごめんなさい」
そう言って深々と頭を下げる鶴道先輩に、俺は何も言えなかった。桃の力で俺の体が先輩のものになって、先輩はナルシストで自分のことしか愛せなくて。信じられないような現実に、未だに混乱から抜け出せない。
でも。俺に、何か出来ることは無いのだろうか。こんなに弱々しい先輩を見るのは初めてで、こちらの胸も痛くなってくる。彼女が俺のことを、鶴道先輩自身の体になった俺のことを望んでいるのなら。
「顔を上げてください、鶴道先輩」
頭を下げたままの先輩に声をかける。
「俺、今もよく分かってないんですけど。先輩は、ずっと悩んでいたんですよね?それで、こういうことをして。正直、自分しか愛せないってのはまだ分からないですけど、それでも」
おそるおそる顔を上げた先輩の目をまっすぐ見て、俺は言った。
「先輩の役に立てるなら、俺は嬉しいです。・・・・・・それに、凄く気持ちよかったですし」
付け加えた後、顔が真っ赤になる俺。いや、今言うことじゃないだろ!まぁ気持ちよかったのは事実だけど・・・・・・。
「えっと、だから、先輩が気に病む必要は無いですよ。むしろ先輩にはいつも助けられてばかりですし、これで少しでも恩返しになるなら・・・・・・」
たどたどしく慰めるように言うと、鶴道先輩は潤んだ瞳を向けた後、俺に抱き着いてきた。柔らかい体が密着し合って、むにゅりと互いの胸・・・・・・おっぱいが潰れる。
「ちょ、先輩!?」
「馬鹿ね・・・・・・君がそんなお人よしだから、私も利用しようと思ったのよ?私の思い通りに受け入れちゃってどうするのよ」
抱き着かれているから顔は見えないが、先輩は体を震わせて、泣いているようだ。彼女がすすり泣く音を聞きながら、俺は邪念を振り払って先輩を抱きしめ返す。そのまま、先輩の体になっている俺と抱き合いながら、鶴道先輩はひとしきり涙を流した。
十数分後、先輩はゆっくりと体を離し、立ち上がった。すっきりとした様子で俺に告げる。
「ふぅ。それじゃあ、これからよろしくね、岩見君!」
「は、はい!・・・・・・これから?」
「決まってるでしょ。岩見君が私の性癖を受け入れてくれたんだから、もう容赦はしないわ。存分に愉しませてもらうわよ」
そう言って、先輩は顔を近付けてキスをしようとしてくる。
「え、あっ」
動揺する俺は、だけどされるがままにキスを受け入れようとして目をつぶってしまう。・・・・・・しかし、いつまで経っても唇の感触はしない。おそるおそる目を開けると、複雑そうな表情をしている先輩がこちらを見つめていた。
「せ、先輩?どうしたんですか?」
「・・・・・・時間切れ、ね」
そう言って顔を離した先輩は、残念そうな表情で続ける。
「戻ってるわよ、体。大体一時間くらいしか持たないのかしら、変身は」
言われて自分の体を確認すると、確かにいつも通りの俺の体に戻っていた。ハッとして股間を隠しながら、先輩に言う。
「あ、あの、俺の服は」
「ここにあるわよ。私は外で待ってるから、着替え終わったら教えてちょうだい」
丁寧に畳まれた俺のスーツを渡し、鶴道先輩は資料室の扉を開け出ていってしまった。言われた通りに着替え、辺りに飛び散った体液を拭き取ってから資料室を出る。先輩は扉の横で壁にもたれかかりながら、何やら考え事をしているようだ。
「お待たせしました、先輩。どうかしましたか?」
「んー、いや、なんでもないわ。体の調子はどう?どこか痛かったり、違和感があったりしない?」
「今の所は大丈夫ですけど・・・・・・もしかして、あの桃って副作用があったりするんですか?」
少し怖くなって聞いてみると、先輩は微笑みながら言う。
「そういうのは無い、って聞いてるわ。でも、私にとっても初めてのことだったから少し心配で。大丈夫ならよかった」
そのまま歩き出す先輩についていきながら、俺は疑問に思ったことを聞いてみる。
「そういえば、あの桃って具体的にはどんな効果があるんですか?」
「そうね、店員さんの受け売りだけれど。果実を食べると、一定時間木を育てた人の姿に変身することが出来るんですって。身長、体重、3サイズから内臓まで、完璧にコピー出来る。ただ、時間が過ぎれば元の体に戻るし副作用も特には無い。後は、一度果実が実るまで育てたら、その果実の種から育てたものも、最初に育てた人に変身する効果を残しているって」
「なんか、聞けば聞くほどファンタジーみたいな代物ですね、それ」
そう俺が言うと、先輩は肩をすくめて返事をする。
「私もそう思うわ。これに頼ろうと考えたのは、やっぱりちょっとおかしくなってたみたい。でも、効果が本当にあってよかった。岩見君が受け入れてくれたのも含めて幸せ者ね、私は」
ニッコリと微笑む先輩に、俺は曖昧に頷いた。もしかして、というかやっぱりあの果実を再び食べてあんなことやそんなことをされるんだろうか。いや、確かに気持ちよかったしどんな形であれ鶴道先輩とそういうことが出来るなんて望外の喜びではあるんだけど、その、うん。
思い悩んでいる俺に気付いているのかいないのか、先輩は俺の肩をポンポンと叩きながら言ってくる。
「よし、折角だし今から飲みにでもいきましょうか!お詫びも兼ねて奢るわよ!」
「は、はい!喜んで!」
そして、諸々の問題や疑問は先送りにして、俺たち二人は夜の街に繰り出すのだった。───先輩とサシで飲むのが初めてなのと、さっきまでのことの混乱もあって飲みすぎ、先輩と別れた後に吐いてしまったのは秘密だ。
休日のお昼頃。俺はドキドキしながら待ち合わせの場所に向かっていた。なんと、鶴道先輩にデートに誘われたのだ。多分桃を食べることになるんだろうけど、それでも嬉しいことに変わりは無い。待ち合わせ場所の公園に着くと、どうやら先輩はまだ来ていないようだ。まぁ、当然か。約束の時間の30分も前だし。
そわつきながらベンチに座り待っていると、程なくして鶴道先輩がやってきた。
「あ、おーい、先輩、こっちです!」
「お待たせ、岩見君。待たせちゃったかしら?」
「いえいえ、俺が早く来てただけなんで!」
先輩は、普段のスーツ姿とは違ったお洒落な服装に身を包んでいる。シックな印象を受けるファッションにコートを纏った先輩は、なんだかいつもよりも凛々しく見えた。俺が見惚れていると、先輩がクスクスと笑いながら言う。
「そんなに見ないでちょうだい、恥ずかしいわ」
「すっすみません!・・・・・・って、あれ。そのバスケットはなんですか?」
先輩は、手提げカバンとは別に服装に似合わない小さなバスケットを提げていた。聞いてみると、彼女は悪戯っぽく笑って言う。
「秘密。それじゃあ、向かいましょうか」
「はい!そういえば、どこに行くんですか?全部先輩に任せてしまってますけど」
「そうね、まずは・・・・・・カラオケね」
カラオケ?なんか、あまり先輩のイメージからは想像出来ないような・・・・・・。
「さ、行きましょう、岩見君」
「は、はい!」
颯爽を歩いていく鶴道先輩を追って、俺も歩き出した。
近場のカラオケ屋に着き、そこそこ広めの部屋に案内される。先輩はマイクには見向きもせず、バスケットを開けた。
「歌う前に、ちょっといいかしら?簡単なものだけど、フルーツサンドを作ってきたの。食べてくれる、岩見君?」
せ、先輩の手作り!?
「是非、是非食べたいです!お願いします!」
「ふふ。それじゃあ、はい」
バスケット中には、保冷剤と紙袋で包まれたサンドイッチが入っていた。パンに挟まれたクリームの中に、色とりどりのフルーツが入っていてとても美味しそうだ。・・・・・・多分、あの桃も入っているんだろうけど、ここで先輩の手料理を食べないという選択肢は無い!
「い、いただきます!」
差し出された一つを手に取って、口に運んでみる。柔らかいパンの食感とクリームのくどくない甘み、そしてフルーツのジューシーさが口に広がり、俺は思わず表情を綻ばせた。
「美味しい・・・・・・!先輩、これすっごい美味しいです!」
「喜んでもらえて良かったわ。作るのが久しぶりでちょっと不安だったけれど。どんどん食べてちょうだい」
鶴道先輩に言われるままにパクパクと食べまくる。罠、というか俺を先輩の体に変身させる為のものだと分かってはいるけれど、わざわざフルーツサンドを作ってくれたことがとても嬉しかった。
それなりにあったフルーツサンドをあっという間に食べ尽くしてしまった俺は、案の定めまいに襲われてしまった。先輩に膝枕されて幸せな気持ちになりつつも、俺は前回ほどではない悪寒や体の軋みを感じる。そして、意識が遠のき、目覚めた時には───
「ふふ、可愛いわよ、岩見君」
鶴道先輩の体になっていた。
「ん、ふぅ・・・・・・なんだか、前回の時よりも楽だった気がします」
「そうなの?慣れとかがあるのかしら・・・・・・今度店員さんに聞いてみるわ。あぁ、それと今回の変身は結構長く続くから安心して。色々と工夫を凝らしたから」
先輩の言葉を聞きながら、俺は体を見下ろす。どうやら俺が意識を失っている間に着替えさせてもらったようで、白を基調としたガーリーな服装を身に纏っている先輩の体、もとい俺の体が見えた。
「これ、なんか女の子っぽい服装ですね」
「えぇ。私も休日の日に着たりはしてたけれど、外出の時はあまり着なくて。折角だから岩見君に着てもらったの」
こういう女の子らしい恰好はかなり恥ずかしいが、鶴道先輩の為だ。というか、普段はキリッとしている先輩が、正確には先輩の体がこんな可愛い服を着ていると思うとちょっとテンションが上がる。いや、着ているのは俺なんだけど。
「じゃあ、歌いましょうか。岩見君は歌いたい曲とかある?」
俺が鶴道先輩の膝枕から起き上がると、先輩はマイクを差し出しながら言ってくる。おずおずと受け取るが、返事は中々出来なかった。
「うーん・・・・・・今って、鶴道先輩と同じ体になってるんですよね。多分出せる音域とかも違うだろうから、いきなり歌うのは怖いな・・・・・・」
「じゃあ、慣れるためにも発声練習からしてみましょうか。私の後に続けて声を出してみて」
言われた通りに声を出してみる。先輩の音程に合わせるように少しずつ高音に上げていくと、普段の自分では到底出ないような所まで簡単に出すことが出来た。
「すごい・・・・・・俺、こんなに高い声出せたの声変わり以来ですよ!」
「今は私と声帯が同じだからね。慣れてきたら、簡単な曲から歌ってみましょう?」
「はい!」
それから、俺は促されるままに様々な曲を歌った。普段音程が高くて歌えない女性ボーカルの曲や、先輩の声に似合いそうな曲。先輩とデュエットした時は、同じ声が綺麗に重なり合ってなんともいえない不思議な気分になる。なんだか、俺と先輩が混じり合ったようで。結局、カラオケには3時間も滞在してしまい、俺はその時間を先輩の体で思う存分楽しんだ。会計を済ませて、俺は鶴道先輩に言う。
「いやぁ、楽しかったですね先輩!この声だと色んな曲が歌えるし、何より先輩と歌えるのが凄く新鮮で!」
「私も、君がはしゃいでるのを見ると嬉しくなるわ。それに普段見られない私の表情を堪能できたし」
そう言われてドキリとする。そうだ、先輩はナルシストで、俺をあの不思議な桃で先輩の体にしたのは一人ではどうしようもない感情を満たすためだった。
「でも、なんでしょうね。私がしない振る舞いをしている君を見ていると、なんだか思ってたよりも変な気分になっちゃう」
「え?」
予想外のことを言われて固まる俺。しかし、そんな俺を置いて先輩はカラオケ屋の外に出て行ってしまった。
「ほら、まだまだ時間はあるし、ショッピングでもしましょうか」
「あっ、はい!」
昼下がり、外の陽光に照らされた彼女はこちらを誘うように笑う。俺は、先輩を追いかけて外に出るのだった。
街中を鶴道先輩と歩く。街の散策を楽しんだ流行りのスイーツ屋に寄ってみたり、服飾店で先輩に似合う服を選んだり、噴水のある広場で涼んだり。そのどれもがかけがえのないほど素晴らしい体験で、俺にとって最高のひと時だった。・・・・・・まぁ、周囲から向けられる視線の多さには驚いたけど。
ひとしきり楽しんだ後、俺たちが夕暮れの街を歩いていると、予想外のことがあった。
「あれ、鶴道先輩じゃないですか。こんな街中で会うなんて珍しいですね」
突然声をかけてきたのは、部署の同僚だった。思わぬ人物と出会い、俺はとっさに先輩の影に隠れる。知らない人に見られるのはまぁ我慢出来たけど、俺のことを知っている人間相手だと変身がバレてしまいそうで怖かったのだ。
「って、あれ、そっちの人・・・・・・」
同僚がじぃっとこちらを見つめてくる。バレるわけがないと思いながらも、縮こまって先輩を盾にしてしまう俺。
「こんな所で奇遇ね。あぁ、彼女は私の双子の妹よ。最近上京してきたから、街を案内していたの。そっくりでしょう?」
「あぁ、そうなんですか。初めまして妹さん。俺はお姉さんの同僚の・・・・・・って、もしかして避けられてます、俺?」
「あぁ、妹・・・・・・美奈は昔から人見知りでね。気を悪くしないでちょうだい」
鶴道先輩はスラスラと話し、同僚を納得させている。流石だと思ったが、隠れた時に縋るように掴んだ手が僅かに汗ばんできているのを俺は感じた。どうやら、先輩にも予想外のことで動揺しているようだ。少しでも負担を減らそうと、意を決して同僚に挨拶をした。
「は、初めまして、鶴道美奈です」
深く会釈すると、同僚は慌てたような様子で頬を赤らめた。やっぱり、何か変だったんだろうか。とりあえず、その場は先輩がとりなして同僚と別れることが出来たが、彼の姿が見えなくなってもまだ心臓がドキドキしていた。
「こ、これバレてませんよね先輩!?なんか、あいつも反応が変だったし・・・・・・!」
「そこは大丈夫だと思うけど・・・・・・岩見君、もしかして気付いていないの?」
「は、はい?」
ど、どういうことだ?俺は何に気付いてないんだ?致命的な振る舞いをしてしまったとか!?
「あのね、岩見君・・・・・・いえ、美奈。彼はね、君の可愛らしさにグッときてしまったのよ」
「・・・・・・え?」
よく分からない答えに、間抜けな声を上げる俺。鶴道先輩は、困ったように微笑みながら俺の頭を撫でてきた。
「今の君は私と瓜二つ。そんな子がおどおどしながらも一生懸命挨拶してきたんだもの。普通の男なら耐えられないわ」
「え、えぇ!?」
まさか、そんな。いや、確かに見た目は先輩そのものだからありうるのかもしれないけど、でも・・・・・・。混乱する俺に、先輩は耳元でそっと囁く。
「普段の私よりも、よっぽど魅力的だったわよ。美奈」
「う、うぅ」
なんだか、今になって急に恥ずかしさがこみ上げてきた。顔を真っ赤にしながら俯くと、先輩は俺の手を取って歩き出す。
「行きましょう?さっきのを見せられて、もう我慢出来なくなっちゃいそうなの」
妖艶な笑みと共に、俺を引っ張る鶴道先輩。俺は為すがままに先輩についていく。頭の中では、さっきの出来事がぐるぐると回り続けていた。
「・・・・・・はっ!?」
気が付くと、俺はホテルの一室に連れ込まれていた。どうやら考え過ぎて回りが全く見えていなかったらしい。
「ようやく正気に戻ったのね。あれからずっと顔を真っ赤にして考え込んでいたのよ?」
鶴道先輩はコートを脱ぎながら俺に言ってくる。ふ、不甲斐ない・・・・・・!
「ご、ごめんなさい先輩、ちょっと、俺、混乱してたみたいで・・・・・・」
「いいのよ、可愛かったし。さて、と。それじゃあ」
ニッコリと微笑みながら、先輩が俺に手を差し伸べる。
「一緒に入りましょうか、お風呂」
・・・・・・え?言っている意味が分からず、思考が一瞬空白になる。お風呂?誰が、誰と?そして、言葉の意味を理解した俺は叫んでしまった。
「え、えぇぇぇぇっっ!!?い、一緒にお風呂って、先輩とですか!?」
「そうだけど・・・・・・もしかして、嫌だったかしら」
「いや全然そんなことは無いんですけど!えっと、その」
「なら良かった。ほら、行きましょう?」
口ごもる俺に有無を言わせないように、先輩は俺を洗面所に押し込んだ。洗面台の鏡には、赤面してテンパっている様子の先輩・・・・・・俺の姿が映っている。
「ちょ、あの、まだ心の準備がっ」
「大丈夫よ、私に任せて」
先輩は俺の服に手をかけ、するすると手際よく脱がしてくる。俺が顔を真っ赤にして動揺している内に、あっという間に裸にされてしまった。思わず目をつぶり、両手で顔を覆い隠す。
「君自身の体なんだから、遠慮せずに見てもいいのよ?」
愉しげな鶴道先輩の声が聞こえるが、そんな風には割り切れない。いや、前回凄い痴態を晒した気もするけど、それはそれだ。先輩が服を脱ぐ衣擦れの音を聞きながら、ひたすらに意識しないよう耐えていた。
「浴室に入るのに目をつぶっていたら危ないわ。さぁ、目を開けて」
脱ぎ終わったのか、先輩は俺の手を取って言う。おそるおそる目を開けると、そこにはタオルも巻いていない先輩の美しい肢体が映った。少し意地悪な笑みを浮かべながら、浴室の中に入っていく。
「っ・・・・・・!」
熱い。顔が火を吹きそうだ。俺は先輩の体になっていて、先輩も俺も全裸になっていて。煽情的で倒錯的な状況に、俺の心は爆発しそうな程興奮していた。
先輩は浴槽に張られているお湯の温度を確認しながら、シャワーを手に取った。ぬるめのお湯をシャワーから出しながら、それを俺に向けてくる。
「わぷっ」
「ふふ。湯船に浸かる前に軽く体を洗いましょうか。ほら、座って」
言われるままに風呂椅子に座ると、彼女は後ろから俺にシャワーを浴びせてから、ボディソープを泡立てたスポンジでゆっくりと俺の体を洗い始めた。背後から伸びてきた優しい手つきとスポンジの感触が俺を襲い、先輩に先輩になった俺の体を洗わせている背徳感に頭がクラクラする。
「んっ・・・・・・う・・・・・・」
先輩の肌が敏感なのか、俺が意識し過ぎているから敏感になっているのか。泡塗れのスポンジが肌を擦る度に、俺の口から艶めかしい声が漏れ、体はもじもじと悶えてしまう。
「気持ちいい、美奈?」
俺の耳元で、鶴道先輩が囁く。美奈。本来なら存在しない、鶴道舞奈の双子の妹。今の、俺の名前。その名前で呼ばれると、自分が本当に別人になってしまったような感覚がゾクゾクと背筋を走り抜けていく。その勢いで、俺はとんでもないことを口走ってしまった。
「き、気持ちいいです・・・・・・おねえ、ちゃん」
ピタリと、先輩の動きが止まった。ハッとして俺は口を抑える。な、なんてことを言ってるんだ俺は!
「す、すいませっ、今のは違くてっうわぁ!?!?」
むぎゅっ。そんな音が聞こえてくるような抱擁。俺は、後ろから先輩に抱きしめられていた。背中に感じる柔らかい感触と、ぬるついたボディソープを潤滑剤に擦れ合う肌。何より先輩の鼓動が伝わってきて、俺は動けなくなってしまう。
「もう一回言って」
「・・・・・・え?」
「私のことを、もう一回お姉ちゃんって呼んでほしいの」
俺に抱き着いたまま、しっとりした口調で先輩が囁く。だ、駄目っていうわけじゃなかった・・・・・・?
「お、おねえちゃん」
戸惑いながら口にすると、密着している先輩の体が僅かに震えた。そして、その手がゆっくりと俺の胸と股間に伸びる。
「は、え、せ、先輩?ちょっくぅんっ!?」
ぐにゅりとおっぱいを掴まれ、股間を優しく撫でられる。嬌声を上げてしまった俺に、先輩はまたしても耳元で囁いてくる。
「お姉ちゃん、でしょ?美奈」
蠱惑的な響きの言葉と共に、快感が送り込まれてくる。既に股間は電流のような刺激と共に全身に熱を送り始め、揉まれているおっぱいはむにゅむにゅと形を変えながら甘く蕩けるような快感を伝えてきていた。
「んっあぁ、お、おねえちゃっんんんん!!」
喘ぎながら先輩・・・・・・おねえちゃんを呼ぶ。彼女はとても満足そうな様子で微笑みながら、俺の唇に吸い付いてきた。
「はぷっむぅぅぅぅぅっっ!!?」
口内を貪られながら、おっぱいを揉まれ、股間を擦られる。男の時からは想像も出来ない三点責めに、俺はあっという間に絶頂まで駆け上がってしまう。
「んんむぅぅぅぅぅぅぅんんんんんんん!!!」
全身を痙攣させ、股間から潮を吹きながら俺はイッた。お、おねえちゃんの体、敏感過ぎる・・・・・・!
「んむ・・・・・・ふふふ、上手にイけたわね。私はここまでイきやすくないのだけど、美奈の才能かしら」
「っはぁ、はぁ・・・・・・ふぇ?」
全身に残る余韻を味わいながら息を整えていると、おねえちゃんが予想外のことを言ってきた。
「せんぱ、おねえちゃん、今の言葉・・・・・・」
「本当よ。きっと、美奈自身がとてもえっちなのね」
お、俺がえっちって。だって、俺は男で、この体だって変身しただけで・・・・・・。
「続きはベッドで、ね?その前に、洗いっこでもしましょうか」
「は、え?」
イったばかりで上手く動かない体に、おねえちゃんの体が重なってくる。そして、そのまま俺たちは互いの体で洗い合った上、一緒に入浴までしてしまった。身も心もおねえちゃんに任せながら、俺はまるで夢のような時間を過ごしたのだった。
ベッドの上。タオルを巻いただけの俺の横に、おねえちゃんも寝転がってくる。火照った体は、決してお風呂で温まったことだけが原因ではない。
「ねぇ、美奈。さっきは流れでお姉ちゃんって呼ばせちゃったし、君のことを美奈って呼んでしまっているけど、本当にいいのかしら?」
横向きになって視線を合わせながら、おねえちゃんが言ってくる。少し後悔しているような表情で、言葉を続けた。
「私のわがままでこんなことになって、挙句呼び方も強制して。今更だけど、岩見君自身を蔑ろにしているわよね」
そう言われるが、俺にはどうもピンと来なかった。受け入れたのは自分の意志だし、なにより、美奈と呼ばれ、おねえちゃんと呼ぶことで俺は何故か喜んでしまっているようだからだ。
「おねえちゃん、そんなことはないですよ。俺は、俺がこうしたくてここにいるんです。それに、美奈って呼ばれるのも、おねえちゃんをおねえちゃんって呼ぶのも、正直楽しくて。変、ですかね?」
俺の言葉に、おねえちゃんは目を見開いた後、ゆっくりと首を振った。絞り出すように、声を発する。
「・・・・・・もう。美奈は、私のことをなんでも受け入れ過ぎよ。これじゃあ、歯止めが利かなくなっちゃう」
「いいじゃないですか、歯止めが利かなくなったって。俺は、おねえちゃんのことが好きです。なんだか、この姿ならすんなり言える。うん。俺はおねえちゃんが好きだから、全てを受け止めたいんです」
俺は、きっとおかしくなっているんだろう。でも、それでも、この気持ちに嘘は無い。
「おねえちゃん。美奈を、愛してくれますか?」
思いを伝える。この異常な状況の中、真っすぐに相手の目を見て。おねえちゃんは目をつぶり、震えて、そしてゆっくりと目を開いた。
「・・・・・・いいのね?君がそう言うのなら、私はもう止められないわよ?」
「はい。来てください、おねえちゃん」
微笑みながら俺が言った途端、おねえちゃんはがばりと俺に覆いかぶさり、熱烈なキスをしてきた。俺は応じるようにおねえちゃんの舌に自分の舌を絡め、おねえちゃんの唾液を啜る。おねえちゃんがおっぱいを揉んでくると、俺も揉み返した。柔らかく、吸い付くような肌触りのおっぱいに、細長い指がめりこんでいく。
「ふ、ぅっ・・・・・・」
舌を絡ませ、おっぱいを揉み合う。まるで鏡合わせのように、互いの感覚が伝わってくるようだ。俺が片方の手をおねえちゃんの股間に伸ばすと、おねえちゃんも同じタイミングで俺の股間に手を伸ばしてきた。
「「んあっ!」」
喘ぎ声が重なる。おねえちゃんがおまんこの入り口を刺激しながらクリトリスを優しく撫でると、俺はそれを真似するように、おねえちゃんに快感を返していく。高まっていく心と体。それと一緒に、俺達の動きはシンクロしていった。
「可愛い、可愛いわ美奈っ!もっと、もっと一緒にっ!」
「おねえちゃん、おねえちゃんっ、っあぁぁぁっっ!!」
自分が感じている快感は、おねえちゃんが感じている快感と同じだ。同じ体の俺とおねえちゃん。この世で俺たちしか出来ない、最高の性行為。混ざり合い、溶け合って、ぐちゃぐちゃになっていく。
「「っぅんんんん!!」」
殆ど同時に、人差し指と中指を膣内に挿れて挿れられる。喘ぎながら指を前後に動かしておねえちゃんの膣内を責めると、まるで自分が動かしているように、おねえちゃんの指が俺の膣内を刺激していく。倒錯的で、非現実的な快感が全身を駆け巡り、俺とおねえちゃんはビクビクと体を痙攣させた。
ぐちゅぐちゅとえっちな音を立てながら、俺たちは互いの体を貪る。キスをしながら胸を揉み合い、おまんこをまさぐり合う。視界が涙と快感で滲み、俺とおねえちゃんが一つになっていく。
「おねっおねえっちゃぁんっ!!いっ一緒にぃっ!!!」
「イくっイくわよっ美奈ぁっ!!!」
ゴリッ。示し合わせたように、互いの指が膣内を引っ掻くように擦った。溜まり続けていた快感が、一気に爆発する。
「「んぃっぅぅぅんんんんんんんんんんん!!!」」
ユニゾンする喘ぎ声がキスの間から漏れ、俺とおねえちゃんはイった。今まで味わったことの無い快楽が全身を暴れ回り、密着する体に力がこもる。俺たちは抱き合ったまま、余韻というには強烈な快感を享受していた。
「・・・・・・気持ちよかった」
しばらくして、おねえちゃんが口を開く。
「気持ちよかったわ。一人でする時よりも、ずっと。驚いちゃった」
「俺も、気持ちよかったです。今までの人生で、感じたことの無いほど。おねえちゃんの、おかげですね」
俺たちは見つめ合い、再びキスをする。一度イったというのに、どうやら俺もおねえちゃんも満足出来ていないようだ。
「ねぇ、美奈。今度は、これを試してみない?」
ついばむようなキスを終え、おねえちゃんはカバンから何かを取り出した。太い棒のような何か。ゴムか何かで出来たそれはイボイボや窪みがあり、左右の先端は見知った形に膨らんでいる。
「ディルド、ですか?」
「えぇ、双頭ディルドよ。これなら、一緒に感じ合えるでしょ?」
目の前に差し出されたそれは、思っているより太かった。挿入るのか少し不安になりつつも、手に取って亀頭を模された部分を口に含んでみると、ぐにぐにとした、無機質な舌触りが伝わってくる。
「ふふ、じゃあ私も」
もう片方の亀頭を、おねえちゃんが舐め上げた。淫靡な光景に、まだ熱を持ち続けている下腹部が疼く。俺たちは競うように、無機物であるディルドを舐め上げ、フェラをして奉仕していった。
「ぷはっ。あの、おねえちゃん。そろそろ」
「んっ、そうね。これだけ濡れていれば大丈夫でしょう」
互いのおまんこを向け合うように座り、左右の亀頭をそれぞれあてがう。少しずつ腰を進めると、ずぶずぶとディルドがおまんこの中に侵入してきた。
「んっ、ふぅ、っく・・・・・・!」
一度絶頂しているからか、おまんこはディルドをさほど抵抗なく飲み込んでいく。しかし、指の時とは比べ物にならない異物感で思わず腰が止まってしまった。
「焦らなくていいわ、私もっ、あまり慣れていないから」
声に目を向けると、俺と同じ体勢で頬を上気させているおねえちゃんが、ゆっくりとディルドをおまんこの奥へと導いているのが見えた。きっと、彼女にも俺の姿は同じように見えてるだろう。
「うっんんっ・・・・・・!キツ、ぅ・・・・・・!」
おねえちゃんと同じように、ゆっくりとディルトを飲み込んでいく。異物感はまだ感じるが、おねえちゃんを見ながら膣内を意識するとじわじわと快感が湧き上がってきたようにも思えた。そして、
「「っああぁんんんっっ!!!」」
コツンと、ディルドがおまんこの奥に到着した。子宮。赤ちゃんの部屋の入り口を突かれ、俺とおねえちゃんが同時に喘ぐ。潤んだ瞳を接合部に向けると、ディルドは互いのおまんこに飲み込まれ数cm程しか残っていなかった。
「これっ、なんだか、満たされた感じが、すごいっ・・・・・・!」
下腹部を撫でる。ここに、ペニスを模したディルドが挿入ってると思うと不思議な気分だ。
「そう、ね。実は、こうやって膣の中で愉しむことは少なかったのだけど、なんだか幸せな気分だわ。こうやって、美奈と繋がれて」
おねえちゃんも、お腹をさすりながら言う。そうか。今の俺は、ディルドを通じておねえちゃんと繋がっているのか。それを自覚すると同時に、俺のおまんこがディルドを締め付けるように収縮し、津波のような快感が押し寄せてきた。
「んっつぅっぁぁぁあああぁっ!!??」
イってしまった。こんな、あっさりと。さっきの、落雷に打たれたかのような絶頂とは違う。溢れ出る快感に、無理やり押し流されるような絶頂。
「イっちゃったのね、美奈。ふふ、やっぱり私より美奈の方がイきやすいのかしら」
はしたなく愛液を垂れ流しながら、ビクビクと痙攣する体。でも、しょうがない。だって、
「ふ、うぅっ・・・・・・!お、おねえっちゃんと、繋がってるって思ったら、急にっ・・・・・・!」
快感に悶えながら俺が言うと、おねえちゃんはちょっと驚いた後、感極まったような表情で腰を動かし始めた。
「えあっくぅん!!??おねえっんああああ!?!?」
おねえちゃんの腰の動きに合わせてディルドが動き、イった直後の俺を責め立てる。余韻も去っていない体が耐えられるはずも無く、俺は連続でイき続けてしまった。
「んんんんんぅぅぅぅううううっっ!!?あっとっとまってえぇぇっっ!!」
「は、あぁ、駄目、駄目よっ!!美奈がいけないんだからぁ!!」
俺の懇願に、おねえちゃんは止まるどころかさらに腰使いを激しくしてきた。俺は絶頂から降りてこられなくなりながら、体も心もドロドロになって何も分からなくなっていく。
「おねえちゃっおねえちゃっぁぁぁぁん!!」
縋るようにおねえちゃんを呼ぶ。何も分からない中で、それだけが俺の全てだった。
「イくっ、私もイくわっっ!美奈っ、お姉ちゃんと一緒にぃっっ!!!」
来る。小さい絶頂を繰り返した先に、大きな、大きすぎる何かが来る。
「おねえちゃっこわっこわいよぉっ!へんなっっおおきいのがくるぅっ!!!」
「いいのよっそのままっ私もくるからぁっっ!!!」
同じ声、同じ体で乱れながら、俺とおねえちゃんはそれに飲み込まれていった。
「「あぁっぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!!!」」
全てを吐き出すような絶叫のユニゾン。限界を遥かに超えた快感に、俺の脳は耐え切れない。おねえちゃんに与えられた快感に染め上げられて真っ白になった世界の中、俺は白に飲み込まれるように意識を失った。
香ばしい香りがする。きっと、コーヒーの香りだ。俺はコーヒーは苦手だけど、おねえちゃんは好きみたいで、職場でもよく飲んでいた。一時期真似してブラックを飲もうと努力していたけど、結局自分の舌には馴染まなかったことを思い出す。
「う・・・・・・」
ゆっくりと目を開ける。カーテンに遮られた淡い光が、部屋に差し込んでいるのが見えた。重たい体をなんとか動かして上半身を起こすと、そこはホテルの一室。テーブルにはおねえちゃんが座って、コーヒーを味わうように飲んでいた。
「あら、目が覚めたのね。よかったわ、いくら呼びかけても全然目を覚まさないんだもの」
「あ、おねえちゃん・・・・・・」
そう俺が声をかけると、おねえちゃんはどこかむずがゆそうな表情になる。
「なんだか、元の体で言われると照れちゃうわね。でも、悪い気分ではないかも」
・・・・・・ん?言われて自分の体を確認してみると、桃の効果が切れたのか元の男の体に戻っている。つまり、俺は男の姿のままおね、先輩をそう呼んだということで・・・・・・。
「おねえっいや先輩!すみません今のは無しで!」
「そうなの?残念ね、美奈だけじゃなくて岩見君にお姉ちゃんって呼ばれるのも案外いい感じなのに」
「う、うぅ・・・・・・」
羞恥と共に、昨日の記憶が蘇ってくる。や、ヤバいなんかメチャクチャに恥ずかしい・・・・・・!いそいそと服を着ながら、俺は顔の火照りを冷まそうと首を振る。
「あ、そうだ。一応君の分も頼んでおいたけど、朝食は食べられる?」
どうにか服を着終わった後、先輩に言われてテーブルを見ると、トーストや目玉焼きが並んでいる。そういえば、昨日の散策でちょっとしたスイーツを食べたのが最後だったことを思い出し、お腹が鳴ってしまった。あぁもう、恥ずかしいことばっかりだ!
「い、いただきます」
テーブルに着き、わざわざ俺の為に頼んだであろうフレッシュジュースを飲みながらトーストをかじる。ウインナーをフォークで突き刺しながら先輩の顔を伺うと、彼女はニコニコしながら俺を眺めているようだ。
「あ、あの、先輩?」
「ふふ、気にしないで」
気にしないでと言われても、先輩に見られているだけで緊張してしまう。ただでさえ、昨日あんなことがあったのだ。なんだか居心地の悪さを感じながら、手早く朝食を食べてしまおうとする。
「ねぇ、岩見君」
目玉焼きの黄身を口に入れた所で、先輩が独り言のように呟いた。
「私ね、最初は君のことを利用するつもりでいたの。私の言うことを聞きそうで、自分の体が変身しても周りにも明かさないような丁度いい人。そう思って、岩見君を選んだのよ」
俺のことを見つめながら、先輩は静かに語る。
「でも、私の思惑は外れたみたい。まさか、岩見君が私の心にここまで食い込んでくるなんて」
愛おしそうに俺を見つめる先輩。俺は思わず動きを止めて、先輩と視線を合わせた。
「私は私のことが好きだけれど、私と同じ体の美奈のことも好きになっちゃった。それに、岩見君自身のことも」
戸惑う俺の顔に、先輩の顔が近付いてくる。ふわりと優しい口付けが俺の頬に触れて、俺は黄身を喉に詰まらせそうになった。
「んぐっ!?」
ゴホゴホと咳き込みながら先輩を見ると、彼女は悪戯っぽく笑いながら言ってくる。
「これからも、よろしくね。岩見君」
天使のような、あるいは悪魔のような微笑み。俺は、その笑顔に見惚れながら頷くことしか出来なかった。