※この作品はR-18です。

アンダーカバー(大人悪魔ほむら×大人さやかシリーズ)   作:さんかく@

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人と融合した魔獣と遭遇した警察の特殊部隊は未知のものに対し、ただただ戸惑う。そして地下で美樹さやかは『祭壇』を発見し――


祭壇

隊員が日本語、米語等複数の言語で老人に警告を与える。だが老人はただ目を細めて隊員達を見つめるばかり。

 

『警告済み、反応なし』

『捕獲開始』

 

老人と正面から相対している隊員が二人、囲むように歩み寄る。隊員達が老人の腕を掴んだ途端、マッチの先端のように隊員の体全体がオレンジ色の炎に包まれた。それは美しい炎で、鍛え抜かれた隊員達は一瞬状況を忘れ見とれていた。だが隊員達は悲鳴をあげることも騒ぐことももちろん無い。炎に包まれている隊員は自ら地面に転がり消化に努める。冷静に隊長が指示を下す。

 

『衛生班消化開始、二陣捕獲開始』

 

再び残りの隊員が老人を捕獲するため近寄る。

 

「わしに触るのは無理じゃよ」

 

そう老人は呟くと、握手するように隊員の手を掴んだ。びくん、と隊員の体が硬直し、そして動かなくなる。操り人形の糸が切れたようにその場に倒れた。

 

『参事官、ターゲットは武器を所持している模様』

『殺すな、捕獲しろ必ず』

 

星の指令を受け、数秒隊長は逡巡するが、再び隊員に指令を下した。

 

『ターゲット、急所外し、撃て』

 

タタタン、と軽快な音を立てて隊員のサブマシンガンから弾が発射された。老人がタップダンスを踊るような動きをしながら床に倒れ込む。

 

『よし、捕獲』

 

隊長が老人に歩み寄る、だが、途中で隊長は歩みを止めた。足を撃たれたはずの老人が起きあがったからだ。それも平然と。

 

『なんだ・・・これは』

 

思わず、隊長は声を漏らした。それは老人ではなかった。正確には老人の姿をした得体の知れない何か。

 

「おお・・・」

 

隊長のヘッドセットに設置されたカメラを通した映像を見て、星が感嘆の声をあげる。ノイズの走った映像には、目、鼻、口、耳、ありとあらゆる人体の穴から眩い光を放っている老人のようなものが映し出されている。

 

「素晴らしい・・・」

『参事官、ターゲットは未確認生命体、捕獲不能と判断』

「捕獲しろ、必ずだ」

『参事官、無理です』

「命令だ」

 

どんなに鍛え上げられた人間でも、今までに見たことのない何か、超自然的なものを発見したとき、その体は萎縮し、精神は麻痺するものらしい。まさに老人を囲んでいる隊員達もそうだった。炎は消化されることなく、倒れた隊員はぴくりとも動かない。残りの隊員達はただ銃を構えた状態で後ずさる。ゆらゆらと発光しながら近寄る老人であった物体とどうにか対峙していたが、とうとう、隊員達の精神状態は限界に到達した。

 

『隊長、命令を』

『対応できません』

 

隊員の悲鳴に近い声が骨伝導で伝わる。隊長は決断した。

 

『撤退だ、全員撤退しろ』

 

だが間に合わなかった。獣のような咆哮が轟き、光が放たれた。隊員達は一斉に吹き飛ばされ、壁に激突する。隊長の前に発光した老人が近寄る。既に老人は屍と化していた。内に潜む何かが老人を動かしているのだ。隊長は生まれて初めて心の底から恐怖を覚えた。得体の知れない恐怖を。

 

――誰か――助けて

 

生まれたばかりの子供のように隊長は心で叫んだ。その瞬間、入り口の壁が爆発し、老人が吹き飛んだ。

 

「なんだ?何が起きた」

 

爆発に伴う粉塵で映りが悪くなったモニターを星は凝視する。そうして目が見開かれた。

 

「なんだ、これは?」

 

崩れた壁からなだらかな曲線のシルエットが浮かび、長い黒髪の女性が現れた。髪と同じ黒の服装に身を包み、ゆっくりとした足取りで中に入ってくる。優雅な足取りで女性は店内を見回す。まるで買い物に来たかのように自然な仕草であり、また何かを探しているようでもある。死体をしばらく見つめたあと、隊長を見つけ近づいてきた。隊長は思わず声をあげる、女性があまりにも美しかったからだ、まるでこの世の者ではないかのような美貌。

 

『だ・・・誰だお前?』

 

アメジスト色の双眸が射抜くように隊長を見つめ、その顔が県警本部のモニターに映し出される。星ですら、言葉を失っていた。

 

「・・・・・」

 

女性は何も答えない。一瞥するとすぐさま別の方向へ体を向け歩き出す。老人の方へ。女性は首をかしげながら手をかざし、老人に向かって何か囁いていた。強い光が現れる。だが、老人から無数の光が飛び出し、天井へ向かって消えていく。呪詛をはきながら、黒髪の女性も消えた。一瞬の事だった。まるで何かの冗談か、映像編集のミスの様に突飛であり得ない出来事だった。炎は収まり、店内は再び静まりかえる。

 

『参事官・・・ターゲット消失しました』

「・・・ターゲット変更、美樹を探せ、地下にいるはずだ」

 

茫然自失の隊長の声に対し、星もまた同様に茫然自失としていた。今起きたことがうまく消化できていなかった。あの女性が何者なのか、一体何が起きたのか。

 

『参事官・・・今、女性がいましたが、映像には』

「ああ、映っていた・・・後日調査しろ今は美樹の捕獲に集中するんだ、切り替えろ」

『はい・・・』

 

数秒沈黙したのち、隊長が再び星に質問した。あまりの恐怖を体験したからか、半ば職務を忘れ饒舌になっていた。

 

『この死体は一体だれが、美樹がヤッたんでしょうか?』

「割れたんだろう気にするな」

『はい』

 

この死体は目を瞑れという命令を言外に感じ取り、隊長は追求をやめた。

 

『それでは今から地下に降ります。』

 

*****

壁がエレベーターのドアの様に開いた。

 

「なにこれ・・・」

 

あおいが声をあげる。

二人の前にさび付いた壁に囲まれた部屋が現れた。中心には手術台が置かれている。その手術台は綺麗に拭き取られていないのだろう、古い血痕が何か所かに染みついていた。

 

「やっぱり・・・」

 

さやかが呟いた。胃が逆流する。ある程度、予想はしていたのだ、星の言葉で。犯し、切り刻むその先を。あおいが口を抑えてさやかの背中にもたれた。さやかの口から低い嗄れた声が漏れる。

 

「関わった奴ら全員殺してやるわ、いつか絶対に」

 

まるで地獄の底からの声のように。

 

「ねえ・・・あれ何?」

 

弱々しい声であおいがさやかに尋ねる。さやかが顔をあげると、壁の中央に何かマークが施されている。一筆書きの三角形。

 

「あれは・・五芒星よ」

「五芒星って悪魔の?」

 

「悪魔」という単語につい過敏に反応してしまい、さやかはあおいの方を振り向く。

 

「そういえば、大物の客で自分のこと「悪魔」って言ってる客がいたってタカシから聞いたことがある」

「悪魔?」

 

――何らかのカルト集団が

 

星の言葉がさやかの脳裏に浮かぶ。どうして星は私をここに潜入させたのだろう?隠し部屋の情報があるなら、もうとっくに調べていていいはずだ。それにいちいち私のトラウマも深く知る必要性は――

 

『さやか』

 

と、いきなりさやかの脳内で、悪魔の声が響く。念話だ。昨日まで一緒にいたというのに、もうだいぶ長い間離れていたようにその声が懐かしかった。さやかはうれしそうに心で叫んだ。

 

『ほむら、今どこ?』

『ちょうど貴方の真上、空よ』

『え、どうして』

『貴方魔獣につけられてたわよ、それを私が今片づけてる、おわかり?』

 

いつもの素っ気ない態度に非常時だというのにさやかは笑みを浮かべる。

 

『ありがとう』

『礼はいいから早く逃げなさい、警察も来ているわよ、どうやら貴方の味方ではなさそうだから』

『え』

 

背中を急に強く引っ張られ、さやかは後ろを振り返る、あおいが慌てた様子で叫んだ。

 

「足音が聞こえる、誰か来・・・」

「美樹さやか」

 

あおいの声を遮るように男の声が響く。一瞬で、黒づくめの警察の特殊隊員に取り囲まれていた。

 

「ちょっと待って、私は捜査で・・」

 

獣を捕獲するための銃から網が飛び出し、内ポケットから手帳を取り出そうとしていたさやかの体を一瞬で縛る。

 

「な・・・」

 

だがさやかは言葉を続けることができなかった。猛獣用の網から電流が走り、さやかはびくん、と体を強ばらせ、頭から床に倒れる。あおいの悲鳴がどこか遠くから聞こえてきて、次第にさやかの意識は薄れていった。

 

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