※この作品はR-18です。

アンダーカバー(大人悪魔ほむら×大人さやかシリーズ)   作:さんかく@

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真相への序章

無機質な白い壁に囲まれた廊下を悪魔は音を立てることなく進んでいく。美しい容貌はどこか無表情で何を考えているのかは誰にも伺い知れない。赤い瞳がライトの様に輝き、薄暗い闇を照らす。薄暗い廊下で彼女と遭遇したものはその異形に驚愕するだろうし、またその美貌に見惚れるだろう。だがあいにく悪魔以外今の所誰も現れてこない。

 

「似ているわね」

 

悪魔がふと壁を見つめ囁いた。悪魔になる前――『魔法少女』の頃に暴力団のビルに何度も忍び込んだことがあるが、その時のビルとこの公安が秘密裏に保有するビルはどこか雰囲気が似ていた。正反対の組織ではあるが似ている所が多いのだろうか。

 

   私は

 

いきなり声が響きわたり、黒髪の女性は顔をあげる。

 

あいつらを殺そうと

 

   後悔はしていません

 

殺したいと

       私は

 

 

黒髪の女性がこめかみに手をあて、顔をしかめた。激しい怒りに駆られた相方の声が無意識に念話となって直接悪魔の頭の中で響いているのだ。

 

「まったく…手のかかる…犬」

 

怒りの表情を浮かべる黒髪の女性、だが突き当りのドアに視線を向けた途端、一瞬口元を緩めた。わかりやすい思考は場所を特定するには好都合らしい。ふわり、と黒い羽根を羽ばたかせそのドアの前に立つと、黒い手を伸ばす。すう、と溶ける様に黒髪の女性はドアの向こうへ吸い込まれる様にして入っていった。

 

ーーーーー

 

時を止めた状態で、悪魔はドアの向こう――室内へ入り込んだ。赤い血の様な瞳が一瞬アメジスト色のそれに変わり、また戻る。視線の先――手を伸ばせば触れることができる距離に相方がいたからだ。悪魔の視点からは今のところ彼女の後ろ姿しか見えない。右手をあげたまま動きを止めた姿はまるでマネキン人形の様で。と、美しい悪魔が眉をひそめた、相方の右手の先にはスーツ姿の中年男性がぶら下がっている。襟元を掴まれ片手で持ち上げられているその姿は、通常ならありえない光景だが「彼女達」にとってはそうでもなかった。小首を傾け、黒髪の女性はゆっくりと蒼い髪の女性の顔を覗き込んだ。

 

「……」

 

悪魔は相方が怒りに囚われて暴走する姿を何度も見ている、ここ最近――成人してからはある程度制御できるようにはなっていたが、やはり無理があったのだろう「この状態」では。

 

「全て背負った様な顔をしてばかり…ほんと馬鹿ね、貴方」

 

怒りに満ちた表情を浮かべる相方の耳元でねっとりと囁く悪魔、普段なら決して見せないその馴れ馴れしい仕草も時を止めたからこそできるのだろう。そっと、人差し指で人形の様に動かない相方の頬をなぞるように触れてから、その手をしっかりと包む様に握る。

 

時が動き始めた――

 

怒り心頭でまくしたてる蒼い髪の女性

 

「―――八つ裂きにしてやりたい、そして、あなたも」

「それはだめよ」

 

びく、と蒼い髪の女性の身体が硬直し、そして振り返る。死んだ魚の様な目に生気が戻り、空の色を宿した瞳へと変わる。その瞳いっぱいに映し出される美しい女性の顔。

 

「ほむら」

 

惚けたように蒼い髪の女性は悪魔――暁美ほむら――の名を呼んだ。呼応するように軽く頷く黒髪の女性。10年前には考えられなかったこと。

 

「ただの『人間』を殺す必要は無いわ――さやか」

 

艶のある声で悪魔が相方の名を呼ぶと、しおれた子供の様に素直に「うん」と頷き男――星の襟元から手を離す。壁によろめくようにして、もたれかかる星。

 

「お、お前は…」

 

特徴の全くなかった顔に浮かんでいるのは恐怖の表情。無理もない、つい先ほどモニター画面で見ていた怪異の当事者が目の前にいるのだから。悪魔化したほむらの陰鬱な双眸に見入ったまま微動だにできない様は蛇に睨まれた蛙のようで。

 

「お久しぶりね…ペンションでお会いして以来かしら?」

 

艶のある声。見開かれる星の目。

 

 

『さやか』

 

蒼い髪の女性の肩越しに映る、恐ろしいほど美しい黒髪の女性。

 

『おや、結構な美人さんですね、怒ったら怖いでしょう?』

 

やけに印象に残ったアメジスト色の瞳。

 

 

「…あのペンションで私も見られていたということか…やられたな」

 

床に倒れこみながら、星はどこか嬉しそうにそう言った。

彼もまた理性のタガが外れているのだろう、いや彼の場合はとっくの昔に外れているのかもしれない。唐突にいきなり現れたほむらに対しなんら動揺することはなく、むしろ嬉々として語りかけるくらいなのだから。

 

「一体何者だ?その羽根…ただの伊達とも思えん…神か?」

「いいえ、違うわ」

 

腰に手を当て、星を見下ろすほむら。美しければ美しいほどより威圧感は増すものなのだろう、恐ろしいほどの美貌に怒りの感情は微塵も伺えないのだが、星は立ち上がるどころか身動きひとつ取れない。だが視線だけは動かせるようで。

 

「君をマークした我々の目に狂いはなかった…」

 

さやかを見上げ、嬉々として笑みを浮かべる星。以前までの不気味さや得体の知れなさは不思議と薄れていた。圧倒的な存在を前にしては無意味なのだろう。ちょうどあのペンションで初めて出会った時の雰囲気に近づいている。さやかは星に近づくと、しゃがみこみ顔を覗き込みながら囁いた。

 

「真実を教えて」

「…もう十分話しただろう」

「いいえ、まだ十分じゃないわ、あのペンションで出会う前…あの事件の事から今まであなたが何をしていたか、公安が何を企んでいたのか、始まりは何か――全部よ」

 

星がため息をつく。

疲れ切った平凡な男の顔――これが素なのかフェイクなのかは伺い知れない、だが観念したのは確かなようだ。

 

「長くなるぞ…重複する部分もあるからな」

「構わないわ」

 

さやかを見つめた後、一瞬、ちらりとほむらを見上げ、そうして星は目を瞑る。

 

「よかろう…始まりはあの事件からだ」

 

******

 

静まり返った人事課の執務室内の課長席で男が驚いたような声をあげた。牧だ。その微かに震えた手には古びた人事記録が握られていた。

 

「これは…どういうことだ?」

 

常に冷静沈着な男が、珍しく少しだけ困惑した様子で呟く。視線の先にあるのは『星 司』という氏名欄。そしてすぐ傍にある顔写真――

 

「別人ということか?」

 

牧が数時間前に会った『星』という名の男とは似ても似つかぬ容貌がそこにはあった。

 

 

 

『…何か疑問でも?』

『…ペンションで頂いた名刺と名前が全く違いますね、それに本部の刑事だと』

『ああ、あれはね、全て嘘です。貴方をリクルートするためのね』

 

 

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