※この作品はR-18です。

アンダーカバー(大人悪魔ほむら×大人さやかシリーズ)   作:さんかく@

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回想-榊という男

 

かつて男は刑事であった。

 

『――-公安課へと異動を任命する』

 

その日人事異動で公安課へ任命された男は緊張した面持ちでその執務室のドアをくぐった。

 

『ようこそ榊君、私が課長の「星」だ』

 

年若い、ともすれば自分より年下であろう男を見て、榊は一瞬戸惑う。国立大出の警察官僚エリートならその年齢で課長でも納得はいくが、ここは公安だ。通常のコースではあり得ない。

 

『どうした、戸惑っているようだが』

『いえ…なんでもありません』

『そうか、言っておくが、私は君より年上だし、国立大出でもない』

 

驚いた表情を浮かべる榊。

 

『ああ、気にするな、私は心が読めるんだ』

 

額を己の人差し指でちょんちょん、と叩きながら星は笑った。

 

『ところで君は公安の職務は把握しているだろうか』

『もちろんです』

 

星は黙って頷く。促す様に。

榊は言葉を続けた。

 

『国を脅かす集団を捜査・情報収集を持って取り締まることを目的にし――』

『その集団とは?』

『国際テロ、極左、宗教団体』

『よろしい、きちんと把握しているようだ、だがそれだけでは不十分だ』

 

星は手を腰の後ろに組みながら、榊に歩み寄る。

 

『君は刑事を5年経験している、法規と現場はまったく違うことはその身を持って経験しているはずだ』

『はい』

『それは公安にも言える』

 

声のトーンを落とし、星は榊に囁いた。

 

『しかも、それは今まで経験したものより遥か上を行くものだ』

『上…とは?』

 

階級が上の者に対して、通常下の者が問いかけるというのは、勤務初日ではなかなかないというのに、榊は思わず聞き返した。それほどこの新しい上司の言葉が不可解だったのだ。ニヤリと笑う星。

 

『超常現象だよ』

 

茫然とする榊に対し、星は笑顔のまま語り始める。そのどこか得体の知れない「特徴の無い」顔をただじい、と榊は見つめるしかなくて。

 

『我々公安はありとあらゆる集団を調査している、その中でも宗教関係は特に厄介でね、大抵は彼等の語る力など存在しない。だが実際には存在するのだよ、人あらざる力…あるいはそれを保有する者が。そして今、我々はそれを求めている、必要としているんだ』

 

縦社会の警察組織に所属する者として、階級が上位の者の話は漏らさずに聞き理解しなければならない、そう榊は思っていたのだが、さすがにこの星の話は理解を超えていた。

 

『驚いているようだな、まあ前に異動でここに来た刑事もそうだったが…少し話を変えようか、そうすれば理解が早いだろう…君は欧米の警察組織が捜査に超能力を使用していることは知っているか』

『非公式ですが、行方不明者の捜索などに霊媒師などの力を使っていることは…でもあれは…』

『「一握りの特殊な例」「TVの出来事」そう言いたいのだろう?だが違う、実際はあちらの警察組織では超能力を始め、超常現象というものをとても重宝し、実用化を図ろうと試みている』

『公安もそうあろうとしているわけですか』

『そうだ』

 

星は満足気に頷くと、榊から離れ、窓へと向かう。

 

『人ならざる、あり得ないとされる力を手に入れる。そして我々もまた外国の捜査機関に並ぶのだ、いや、更に上位に君臨する。…我々は神に近い力を得るのだ』

『神…』

 

突飛過ぎて榊は二の句が継げない。生まれてこのかたこの様な妄言を聞いたのは少年時代TVで見た外国映画の中くらいだ。榊の額からうっすらと汗が滲んで。

 

『君は私の頭がおかしくなったと思っているようだな』

『いえ…そんなことは』

『隠さなくてもいい、誰もがそうだ…ここで仕事をするまでは』

 

窓の外を眺めていた星は、再び榊の方へ視線を向ける。全く特徴の無いその顔にニヤリと笑みが浮かんで。

 

『君には宗教団体を担当してもらう、早速明日から指定した団体へ潜り「密通者」とコンタクトを図るんだ』

 

そう言って星は榊に向かって右手を差し出した。逡巡した様子でその手を榊はじっと見つめた―――

 

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