アンダーカバー(大人悪魔ほむら×大人さやかシリーズ) 作:さんかく@
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「その時は彼の語っていることがただの夢物語の様に思えた、絵空事、狂人だとね」
星と呼ばれていた男――榊――は苦笑しながらポツリポツリと語る。黙ってその様子を見つめるさやかとほむら。
「だが、彼の得体の知れない力を俺はそこで強く感じた、『何かある』とそして彼の指示通り職務を遂行し続けていった…ふふ」
「何が可笑しいの」
「いや、嬉しいんだよ、まさか本当に追い求めていた『人ならざる者』が目の前に、そして二人も現れるとはな…気を悪くしないでくれ」
肩をすくめるさやかと、無表情なままのほむらを見つめ、そうして榊は再び語りだした。
「俺はだいぶ彼に感化された、自覚はしている。だがそうなってもおかしくないほど…あり得ないものを見てきた。この世には不可解で人知を超えた者が存在する、それは真実だと…」
一瞬先ほどの『星』の様な状態に戻る榊、だがそれを自覚したのだろう、はあと息を吐き
興奮状態を抑える。
「そして…それが決定的になったのが俺が公安に入ってから2年目に起きた『見滝原市〇〇ビル風俗店殺人事件』」
ぴく、とさやかが反応する。
「そう、お前が16歳の時に関わった――当事者となった事件だ、あれが俺を決定的に変えた」
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パトカーのサイレン、赤い光、群衆の声。
『ここからは立ち入り禁止です、入らないでください』
『公安だ』
『失礼しました、どうぞ』
騒めく空気の中、星と榊は敬礼する巡査の横をすり抜け、バリケードテープをくぐる。
『これは…』
榊が息を飲む。
雑居ビルの荒れたアスファルトの周辺に、引き裂かれたような肉片が散らばり落ちている。独特の異臭が漂い、榊はポケットからハンカチを取り出し口元を抑える。
『……人間ですね』
『どうやらそうらしい』
榊の横で星が平然と返す。特徴の無いその顔にはなんの感情も浮かび上がってはいない。ジャリ…と星の革靴が音を立てる。スタスタと肉片の周囲を歩き、冷静に観察する。
『人として全く原型をとどめていない…よほど強大な力で引き裂かれたんだろう』
『熊…でしょうか』
『いや、違う、熊が出没したならとっくに通報があったはずだ』
榊の言葉に口元を緩め星が答えた。熊でないことがさも嬉しいとでもいう様に。ううっ、と唸り声がすぐ近くから聞こえ、榊が振り向く。新人らしい鑑識隊員がしゃがんで嘔吐していた。無理もない、警察学校の法医学の授業で嫌というほどありとあらゆる種類の遺体の映像を見せられるが、目の当たりにするのとは比べ物にならない。榊も新人だったらあの様な反応をしていたはずだが、もう何年も刑事として叩き上げられた上に更に公安で『ありえないもの』を見せ続けられた所為で麻痺している。
『どうだ、見立ては』
星がベテランの風格を持つ鑑識隊員に尋ねる。
『はい…これはおそらく人だと思いますが…しかし…あり得ない』
信じられないとでもいう様に鑑識隊員は肉片を見つめている。あきらかに動揺している表情。
『いや、あり得るんだよそれが』
星が鑑識隊員の肩をぽん、と叩く。そうしてビルの入口へと向かう、そこには私服の刑事が数名立っていた、腕章にはそれぞれ「捜査一課」「捜査四課」の記載。殺人と暴力団対応の為だ。その中の一人が星と榊に気づき、露骨に嫌な顔をした。
『おい、公安が何の様だ』
『我々も捜査に加えて頂きたい』
『何』
星が内ポケットからバッジを取り出す。それを見て先ほどの男が姿勢を正した。他の刑事もそれに倣った。警察は徹底的な縦社会だ。バッジに記載されている星の階級は、彼等よりもワンランク上だった。
『中に通してもらおう』
すっ、と刑事達が綺麗に左右にわかれ、道を開ける。その中を星は素早い足取りで入っていった。その後に続く榊。
ビルの1階はまるごと風俗店となっていた。店内はけばけばしい赤色に染められており、そこに無数の写真が貼られている。カウンタ―とテーブル席があり、その奥のテーブルに制服巡査と一人の少女が座っていた。蒼い髪の高校の制服を着ている少女が。
『あの少女、目撃者ですかね』
『そうらしいな』
星の目が光る。少女をしばらく見つめ、榊に囁いた。
『該当者だ』
榊が目を見開き、少女を改めて見つめた。姿勢正しく椅子に座り、凛とした表情で巡査に事情を説明している蒼い髪の少女を――