※この作品はR-18です。

アンダーカバー(大人悪魔ほむら×大人さやかシリーズ)   作:さんかく@

32 / 43
私の犬

――――

 

「それから我々は悪魔教に潜入を図った、だが先ほど話した通り、組織の末端を押さえることはできたが、大元は未だ見つかっていない」

「私を追跡したのは、あの頃から?」

「ああ、実際本格的に監視を始めたのはお前が警察官になってからだ。遠出したお前を監視するために俺はあの日ペンションへ向かった」

 

――どうやら同業者らしいですな、いや、すみません、昨日貴方が私を睨みつけるもんですから、どういう人物かオーナーに尋ねたんです――

 

「最初から私に気づかれるのを予想して?」

「気づかれようと気づかれまいとどちらでもよかったんだが、勘がいいので驚いたよ…さすが『あいつら』に目をつけられただけのことはある」

「あいつら?それは誰のこと」

「お前を異様なスピードで刑事まで出世させた奴らのことさ、警察庁の力のある官僚が派閥も所掌も超えてある秘密裏の計画の元動いている…実際構成メンバーが誰なのかは我々公安ですら知らない、いや、正確には知ることができなかった」

 

警察の闇と称される公安ですら知ることのできない警察内部の事象があるなど、到底信じがたいことだ。思わず口を抑え、目を険しくさせるさやか。

 

「そいつらは一体何のために私を?」

「さあな、それは俺も知らん、ただ星が言うにはあいつらの計画もまた『超常現象』が絡んでいるらしい」

「まあ、それは…今はどうでもいいわ」

 

時を止めたとはいえ、早めにこの状況を打開したいという気持ちまでは抑えることができないのだろう、蒼い髪の女性はやや乱暴に男の襟元を掴み、力を込めて揺すぶった。

 

「それじゃあ、あんたが「星」に成り代わった経緯を話して、どうして星を名乗ってこんなことをしたのか」

「…ペンションで会った時は俺は榊のままだった、だがその日星から指令を受けた…星に成りきってお前と接触しろとな」

 

――次に美樹さやかに接触する時は私を名乗りたまえ、そしてその時点で君は〇〇県警本部及びその管轄全てにおいて徹底して私を演じるのだ――

 

榊がゆっくりと左手をあげ、己の襟元を掴むさやかの腕を軽く叩く、離してくれのジェスチャーだ。渋い表情のまま手を離すさやか。榊は左手で自分の耳に触れると中から何か取り出し、さやかの眼前に差し出した。

 

「全て星の指示を受けて行ったことだ」

 

榊の手のひらには直径10㎜程度の銀色のシークレットイヤホンがあった。さやかは大きく息を吐き、そうしていきなり右手を振り上げて榊を思い切り殴打した。乾いた音と男のくぐもった声。

 

「お前…」

「まだ手ぬるいくらいよ、言いなりになっていたとはいえ、あんたも同罪、あんた達が超自然現象だか人知を超えた力を欲しがって、クズ共を泳がせたおかげで今もどこかで少女が誘拐されているかもしれない、地獄の方がまだマシな思いをしているかもしれない…」

 

さやかが榊を睨む。

 

「あれから8年間、見滝原市、そして周辺の街の少女の誘拐事件にあんた達は加担しているのよ」

「それは一概には言えん」

「何」

 

手の甲で口をぬぐうと、榊はさやかを見上げた。

 

「悪魔教による誘拐と思われるものに関しては、さっき言った通り全て情報を流している、マル暴にな」

「悪魔教については伏せたままでしょ、それは免罪符にはならないわ」

「ああ、わかっている。だが見滝原市で少女が失踪するのは、なにも悪魔教による誘拐事件だけとは限らない」

「じゃあ、なんと?」

 

「魔法少女」

 

それは不意打ちの様にさやかを驚愕させた。一瞬身体を強張らせるが、さすが刑事と言ったところか、背後の美しい黒髪の女性に振り向くなどという愚行はしない。背後で腕を組んでその様子を眺めている黒髪の女性も、その美貌を1㎜も歪ませることはなかった。

 

「それは…何」

「あの事件以来、過去数十年、1000キロ範囲で起きた少女の行方不明事件を調べた結果、微小だが気になるワードが数件でてきた、その内のひとつだ。失踪する直前のSNSや日記帳にその単語が記載されている」

「何かの暗喩と?」

 

さやかは尋ねた。魔法少女という単語から想定されるのは、通常少女達の間で流行しているだろうアニメや漫画のタイトルだ。だがそれだけで公安がその単語に注目するはずがない。

 

「ある組織、または少女内で使用される薬物の暗喩だろうと我々は考えている…ああ、君も知っている人事課長の娘もそうだ」

「え?」

「彼の娘は中学生の頃失踪している、その娘の日記にも『魔法少女』という単語が記載されていた、その前後にアニメや漫画などの類いの話題は一切ない状態でな…」

 

さやかの顔から一瞬怒りが消え、途方に暮れたそれに変わる。人事課長は彼女にとって恩人だった。

 

「どうだ…わかったか、この世は不可解な事ばかりだ、その謎を解明、悪を撲滅し、我々の捜査力を高めるためにはあり得ない力が必要なんだ、人知を超えた力がな、その為には多少の犠牲もやむを得ない、仕方ないんだ」

 

吠えるように榊が言った。歪んだ信念は彼の悪に対する怒りが生んだものだった。それは蒼い髪の女性が持つ怒りとも似たもので。さやかの瞳がほんのわずかだが揺らぐ。

 

「ふざけないで」

 

静かだが艶のある声が響いた。

さやかと榊が凍り付くように固まる。美しい黒髪の女性が発する声には一瞬で場が凍り付くような威圧感があった。

 

「己の力の無さを人知の及ばない力で補おうとする気?どれほど無知で愚かなのあなた達人間は?」

「お前は…人間じゃないのか?」

「ええ。紹介が遅れたわね、私は悪魔よ」

 

そう言って、右手を榊の前にかざす。急に榊が己の襟元を抑えながら苦しみだすと、いきなり立ち上がった。まるで見えない強い力で引き揚げられたように。そうして、そのままつま先立ちになると、地面から5㎝ほど宙に浮いた。必死に何かを引きはがそうと首を掻きむしる榊。

 

「ほむら」

 

さやかの声を無視し、ぞっとするほど美しいその顔は宙に浮く男の顔を見つめていて。

 

「あなたたちが何を企もうと私には関係ない、けれど、私の所有物を痛めつけるのだけは許さない」

 

一瞬吐露される悪魔の本音。驚いたさやかの瞳。

 

うち払うように右手が振り降ろされて。男は地面に叩きつけられる。

 

「ぐはっ」

「覚えていなさい、また私の犬を痛めつけでもしたら、あなたを殺すわ」

「犬…?」

 

壁にもたれ、息を荒げながら困惑の表情を浮かべる榊、そして何かを悟ったのかさやかとほむらに交互に視線を送る。

 

「お前達…一体どういう関係なんだ?」

 

あり得ない状況の中に長くいると、感覚が麻痺してしまうのか、榊は人知を超えた力よりも、その力を持つこの二人の女性の関係性に興味を奪われてしまった。もしかしたら、あのペンションで出会っていた時点から本人も気づかないまま興味を持っていたのかもしれない。男の質問に小首をかしげ、ほむらは無表情のまま囁いた。

 

「私達は――」

 

 

*******

 

星(榊)の指令により招集された特殊警備隊員の待機室でアラームが鳴り響く。

 

「どうした?」

「侵入者です、どうやら屋上から現れたようで」

「何?」

 

隊長がモニター席に座っている隊員の横から身を乗り出す。屋上を映し出している画面に黒づくめの美しい女性が現れる。

 

「あの時の」

 

ざわ、と室内が騒然とする、既に顔割れの心配はないとマスクを外している隊員達の顔には皆一様に動揺した表情が浮かんでいて。

 

「落ち着け、全員マスク着用、武装しろ」

 

音もなく速やかに動き出す隊員達。

 

「既に地下まで降りてきている可能性が高い、俺が参事官の部屋を確認するまで待機」

 

そう言って、隊長であるその男は9㎜自動拳銃をホルスターから取り出した――

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。