アンダーカバー(大人悪魔ほむら×大人さやかシリーズ) 作:さんかく@
県警本部にて
〇県警本部9階本部長室では早朝からひとりの警察官の人事異動案件で会議が行われていた。本部長室の広い室内の中央にコの字型に配置されているソファーに、制服姿の割腹のある初老の男性と、細身の男、そしてスーツ姿の男性3人が座っている。それぞれ険しい表情を浮かべているが、それは無理もない話であった、異例過ぎる本庁からの直接指示による異動と、更に公安からの情報開示が同時に行われたからだ。
「本庁からの直接指示による一介の巡査長の異動、そして公安による情報開示…これは今までにない事だ、一体何が起こっている監察官」
低い威圧感のある声で制服姿の初老の男性――本部長が細身の男に尋ねる。細身の男―監察官は眼鏡の縁に一瞬触れてから、鋭い眼差しを本部長へ向けた。
「監察に対し、公安の職務違反に関する告発がありました」
「内容は」
「8年前の見滝原〇〇ビル風俗店殺人事件の際の隠蔽、そして現在にまで及ぶ数々の違法捜査について。その内緊急を要する情報は既に捜査一課に提供し動いてもらっています」
本部長は頷くと、視線を監察官からスーツ姿の男へ向けた。
「公安課長と連絡が取れないと聞いたが、君は彼の行方を知っているのか、木田係長」
「いいえ」
木田と呼ばれた男はゆっくりと首を振った。警察の中でも公安の職務内容はもっとも不透明なもので、それは同じ課の警察官同士も言えることだった。
「深夜から未明にかけて本庁警備部直属の特殊部隊を使用して、現場に突入したと聞いたが一体何が目的なんだ」
「それは私がお答えします」
監察官と係長が驚いた様子で声の方へ視線を送る。スーツ姿の初老の男がいつの間にかドアを背に立っていた。
「牧、待っていたぞ、座り給え」
「いえ、ここで結構です」
本部長に向かって一礼すると、牧は数歩前へ進み、直立した。三人を見下ろすような状態だ。
「星公安課長の人事記録を確認しましたが、この数か月間、私、そして人事課職員が対応した人物とは全く異なることが判明しました」
「何」
息を飲む音。
「それだけでも重要な案件ですが、更にその人物が本庁特殊警備部隊を率いて、潜入中の警察官を捕獲、監禁となると大事‥‥」
「では君が監察に告発したのかね」
「はい」
本部長の問いに牧は頭を下げながら答えた。
「このまま放置しておくと我が県警の顔に泥を塗るどころか、警察という組織自体の失墜にも繋がりかねません、いえ確実に繋がるでしょう。監禁されていた警察官から全て事情を
聞き、告発に踏み切った次第です」
「そうか…それで監禁された警察官とは」
「元〇〇署捜査四課の美樹さやか巡査長、つい先日県警本部の公安課に配属されたばかりでした」
「無事なのか」
「はい、特に大きな怪我もなく、今は人事課執務室で待機しております」
「そうか、ならば早速、辞令交付式を行おう用意してくれ、牧人事課長」
「はっ」
今度は牧は深々とお辞儀をした。その口元が一瞬嬉しそうに綻ぶのを見た者は誰もいなかった――。