アンダーカバー(大人悪魔ほむら×大人さやかシリーズ) 作:さんかく@
「君の証言を元に、捜査一課が公安のデータベースを解析している、未だ捕らえられていなかった容疑者を全て洗うつもりらしい」
「公安課長を名乗った男は、公安ですら末端を押さえることしかできなかったと言ってました」
「だろうな、だいぶ根が深い団体の様だ、だがそれでも取りこぼしを全て押さえることで見えてくることもある、情報を得るのが第一で容疑者を泳がせる公安と、真相解明が第一で疑わしきものは全て疑う捜査一課では後者の方が断然捜査能力は上だ」
コンコン、とテーブルを叩くと牧はその手を反対の手で包む様にして撫でた。辞令交付を終え、今後の予定を詰めるために彼とさやかは再び人事課の執務室で顔を向き合わせていた。
「君のおかげで事態はだいぶ進展している、一課はもう動いている」
「もうですか?」
さすがにさやかは驚いた、今回の辞令交付も始業前という異例の前倒しだが、まさか容疑者の検挙まで始業前に行うとは思っていなかったのだ。
「通常のガサ入れなら始業前など関係ないだろう?」
「ですが、課長が監察へ告発してからまだ1時間は経っていないはずです」
「それくらい捜査一課も喉から手が出るほどこの事件を担当したかったということだ」
「課長の力もあると思います」
「ほう」
おそらくこの目の前にいる初老の男は幅が効く人物なのだろう、だいぶ上からの指示が無い限り、例え以前から担当したかったとはいえ、捜査一課が重い腰をこんなに早くあげる訳が無い。
「君はよく物事を見ているようだな、美樹君。だがそれ以上この件は特に詮索する必要もない、君は前を向きたまえ」
「はい」
嬉しそうに微笑むさやかを見つめ、牧がやや声のトーンを落として尋ねる。
「ところで、君は何を言おうとしたんだね」
「え」
「辞令交付の前だよ、君は私に何か言おうとして躊躇った」
「仕事とは関係の無いことですが、よろしいですか」
「構わんよ、時間はある言いたまえ」
「娘さんのことです」
一瞬突を衝かれたように茫然とする牧、だがすぐにいつものポーカーフェイスに戻る。
「榊…星を名乗っていた男から聞きました、課長の娘さんが失踪されたということを」
「そうか…だが私はその話題をあまり口にしたくないんだ」
「すみません、ですがどうしてもお伝えしたいことがあります」
「…何か知っているというのか」
「はい」
さすがに牧も驚いた表情を浮かべる。無理もないことだ、失踪した娘についての情報ならば。
「突拍子もない話になるので、信じてもらえなくても構いません」
「……続けたまえ」
「日記の話も聞きました『魔法少女』という言葉が最後に書かれていたと」
固まる牧。
「あの頃…私が中学生だった頃『魔法少女』という言葉を頻繁に聞いたことがあります、人ならざる力を持った少女が怪物と戦い、そしてその戦いに負けたら違う世界へと神様に導かれていくと」
「都市伝説か?」
「そのようなものです、そして私の先輩も行方不明になりました」
真剣な表情に尋常でない何かを感じ取り、牧は美樹さやかの話に聞き入る。見慣れた執務室がまるで違う空間にでもなったようなそんな違和感のもとで。
「とても優しくて立派な先輩でした、魔法少女になって毎日何かと戦っていると誇らしげに言っていた…でもある日急にいなくなったんです」
「君は信じているのか、違う世界を」
「はい、先輩はその世界にいると信じています、そして課長の娘さんも」
その瞬間、窓から光が差し込み、牧の足元を照らした。黙ってさやかを睨むように見つめる牧。
「何かに脅かされることなく、その永遠に穏やかな世界で幸せに暮らしていると――」
さやかの空の色の瞳が輝いた。太陽の光が執務室内を照らしその眩しさに一瞬牧は目を瞑った。
「そうか…」
「失礼な発言をしました、すみません」
「いや、構わん、だが不思議だな…君が言うとまるで本当のことのようだ」
何の根拠もない夢物語の様な発言、本来ならばこのような場で不謹慎過ぎる発言と捉えらえるだろうがしかし、彼女の真摯な態度を見ていると、不思議と牧は信じられる気がした。言葉では説明のつかない何か、隠された真実、それを今牧は感じ取っていた。
「ありがとう」
そうして男は本音を零した。照れるように笑う新しい部下。
世界が輝いている、久しぶりに男はそう感じた。