アンダーカバー(大人悪魔ほむら×大人さやかシリーズ) 作:さんかく@
もうすぐ日も跨ごうとする頃、星は気配を感じた。
「誰だ――」
階級に応じた広さを持つ執務室内には本来星しかいない。対面にあるドアは閉じられている。だが星は動じることなく、机に肘をつきながら、視線だけ動かし気配を追った。いつの間にかコマ送りしたかのように、唐突にスーツ姿と黒い喪服の様なワンピース姿の二人の女性が目の前に現れた。さすがの星もこれには目を丸くする。
「ほう…、どういう技を使ったかはしらんが、面白い力だな」
だが冷静さは失わない。それを見てスーツ姿の蒼い髪の女性が口を開く。
「私達を見て驚かないんですか」
「驚いているさ、美樹巡査長…だったかな、それに…もう一人の方は…警察官ではないね」
暁美ほむらの記憶操作は成功している。星も例外ではなかった。あのほむらと対魔獣戦のことは脳内から綺麗に消去されているらしい。星はゆっくりと立ち上がると、手を後ろに組んで二人を見つめた。
「こんな時間に…そして私に気づかれずにいつの間にか執務室に入ってきている、こんなことができるとは非常に興味深い」
さすが公安の警察官僚といった所か、目の前で超常現象が起きたにも関わらず、まったく動揺を見せていない。
「それは…君の持つ力なのか、それとも何かトリックでもあるのか」
「力です」
「ほお…」
星が面白そうにさやかを眺める。だがすぐに沈んだ表情になって。
「それは非常に興味深い…残念だな、もう少し早く知っていれば――」
「降格されたと聞きました」
「ああ、そうだ」
星が降格になったことをさやかは牧から聞いていた。もちろんそれは公にはされないらしい。
「どうして私に目をつけたんですか」
「勘だよ、あの日あの場所で君を見た瞬間知った、何か特殊な力を君が保有しているとね」
「すごい勘ですね、あなたこそ、何か特別な力を保有しているのではないですか」
「さあな…」
両手をズボンのポケットにいれ、星はさやかに背中を向けた。その背中に向かってさやかは質問を続ける。
「何故、身代わりを?」
「ああ、それは私が自由に動けるためにしたことだ。より多くの情報を得、それを分析するためだ」
「事件の隠蔽は?」
「…どうやら君は私に恨み事を言いに来たようだな…事件の隠蔽は我々公安に必要な力を得るための手段、私は後悔もしていないし、悔恨の情など一切ないよ」
さやかは星に駆け寄り、その襟首を掴む。
「あんたみたいな人がいるから…!」
「やめなさい、さやか」
ひどく冷静な声がした、ほむらだ。その恐ろしいほどの美貌には一切の感情も浮かんでいない。
「この人、魔獣じゃないわ」
輝く赤みがかったアメジスト色の瞳。さやかがやりとりしている間、ずっと彼を凝視し、その正体を見極めていたのだ。
「ほお…なんだね魔獣とは」
「あんたに関係ないわ、ほむら」
さやかが星の襟首を掴んだまま、美しい悪魔を呼んだ。右手で軽く髪を梳きながら歩み寄るほむら。その恐ろしいほどの美しさをようやく認識した星は目を丸くしたが、だが、次の瞬間にはもう彼女のことを忘れていた――