「やーやーやー♪ イロイロ災難だったねぇ汚じサン。わたし? わたしは通りすがりの天才科学者だよ♪」
機械仕掛けのウサ耳が、楽し気にピコピコしてた。
間違いなく美人ではある。
しかしそれよりも、ヤベェという印象の方が先行してた。
いつもならぜったいに飛びついたりしない。
傷心のオッサンのアパートの部屋にノックもなしに、いきなり乱入してきた自称天才科学者の、降って湧いた胡散臭さしかないおいしい話に。
「かくかくしかじかでIS学園に来週ハッキングを仕掛けるんだけど、ちーちゃんはきっとそうなったら電脳ダイブで対抗してくるから――」
相手の都合を無視したオタク特有の早口でペラペラしゃべる。
そんなヤツの持参した話だ。
首を吊るような状況でなければ、どれだけハイリターンをチラつかされても、こんなハイリスクに喰いついたりしなかったろう。
朝の通勤通学で混み合うモノレール。
衆人環視での迷惑防止条例違反による現行犯逮捕。
オマケにそれを卑劣なチカン御用の瞬間としてライブ配信までされてる。
もちろん会社はクビ。
持ってるのは借金と病気くらいで、さらにそこに前科までプラスされ、若さもなければ才能もないオレに、このご時世での再就職はどう考えても、考えるまでもなくキビしかった。
そう。
若さと才能。
日々薄くなっていく毛髪を気にしなくてもいい年齢で、女にしか操縦できないはずのISを操縦でもできなければシンドい。
イケメンであれば尚更いうことはない。
チカンを物語の主人公みたいに華麗にとっ捕まえてしまう、織斑 一夏 みたいなチート野郎でなければ人生は灰色になるしかなかった。
真っ暗。
一寸先も見えない闇の中だからこそ、くらくらするほど甘くて、ヤバさもぷんぷんの話に乗った。
「ISの同調機能を利用してダイブするから、ホントは汚じさんに電脳世界の侵入なんてできないけどそこは――」
ヒーローらしく遅れてやって来たイケメンの介入があったとしても、蕩けるように甘ったるい夢からあっさり醒めたりすることがないように。
目には目を歯には歯を。
美少女の願望でパージされた世界を、汚じさんの妄想でさらにパージする。
という計画だった。
なんのためにそんなことをするのかという説明はない。
そもそも説明されてることの、半分も多分でなく確実に理解できてない。
どうせ詰んでるしょうもない人生なんだから、失うもんなんてないんだしイイオモイしちゃおうよ♪
でもそのノリだけでクチにする自称天才科学者の、責任感もなければ罪悪感もない言葉で不思議と吹っ切れた。
このまま仮にナニもしなくても、人生ドロップアウトするのはもう確定してる。
こうなったら人間として落ちるとこまで、……いや、堕ちるとこまでとことん堕ちたらぁ!!
「ヒュウーヒュウー、さっすが汚い底辺おじさん、カ~ッコイイ♪ 女のコもきっとメロメロだよ~、それじゃまずコレをグイッと飲んでね♪」
どこからか取り出し差し出されたグラスの中身を、錯乱にも似たテンションに任せて、クソ暑い夏に飲むビールみたいに一気にあおる。
ドロッとした白い粘液。
喉に絡みつくアレみたいなソレを流し込む。
と。
見慣れた汚い天井。
その光景を最後に意識が途切れた。
次に目が覚めたときには薄暗い密閉された空間に横たわっており、GET READYの文字が浮かび上がってカウントが始まっていた。
「とびっきり甘~い夢の世界に、いってらっしゃ~い♪」
そして ENTRY の文字で、また意識がプツンとあっさり途切れた。