COMIC CITY 大阪 123 鋼の錬金術師 新刊 作:木桜 春雨
真理の扉は時として考えられない誤作動を起こしてしまうことがある、気まぐれなのか、誰かが介入したのか分からない、だが、実際に、それは起こってしまった。
時間を巻き戻す事はできない、元通りにしてなかったことにすることもだ。
だから、こんな事が起きてしまったのだと説明されても彼女にはわからない。
ただ、派あっ、そうですかと頷く今年かできなかった。
カート付きのキャリーケースには数日分の下着とシャツ、手帳やメモ、現金、最低限利者しか入っていない。
海外旅行に出掛けるつもりだったのだ、だが一人だと不安なので飛行機やバスのチケットホテルだけの雲あわせで後は自由に刊行できるというフリープランを申し込んでいた。
憧れのパリ、フランス旅行だったが、地下鉄に乗ろうとして路線を間違えてしまったのだ。
英語もフランス語も決して得意ではなく、ガイドブックを片手に美術館や劇場周りを歩きまわっていたとき、トイレに行きたくなった。
小銭を用意してトイレに入り、そして出ようとしたとき、ドアが開かなくなったのだ。
一瞬、誰かがドアの向こうから邪魔をしているのかと思ったが、どんどんと叩いても音はしない、気配も感じられない。
ガイドから事前に夕方までにはホテルには帰るようにと言われていたのを思い出した。
女性の一人歩きは危ないだけではない、通りや場所によっては日本人だと金銭目的で狙われてしまう事もあるといわれたからだ。
鍵をこじ開けようとしたとき、腕輪が外れて床に落ちてしまった。
パサージュで見つけた腕輪はガラス玉で飾られていて綺麗で思わず買ったのだ。
奇妙な金属音がした。
そして現在、地下のような暗い場所。木桜春雨、パリ旅行の筈が全然知らない場所に来てしまいました。
まるで異世界トリップラノベのような展開になった彼女が、慌ててパニックになったのも無理はなかった。
「まさか、オペラ座の地下じゃないわよね」
独り言のように呟いてしまった、完全な暗闇ではないのは幸いだが、それでも足元は危なっかしい、キャリーカートを引きずりながら歩いていると思わず足が止まった。
黒い塊が見えたからだ。
土や岩の塊ではない、人間だと気づいたのは声だ、それも獣のような苦しんでいるような声が聞こえたからだ。
普通なら、こんな場合は用心して近づかないのが正解だろう。
だが、本当に苦しんでいたら、しかも今はトイレから無事に脱出できたと思ったら周りは暗くて、地下のようなひんやりとした空気で、別世界だ。
理性と頭が、まともに働いていなかったのかもしれない。
大丈夫ですかと声をかけて近づいたのだ。
苦しそうな息づかい、具合が悪いのかもしれない、バッグからペットボトルの水を出して飲ませようとした。
そのとき、音がした、生き物の声かもしれないと周りを見回した。
薄暗い自分の周りに風が吹いた気がした、それだけではない、匂いが感じられた。
それは生き物の生臭い匂いだ。
食べたものを腹の中から吐き出したような匂いだ、ここから逃げたい。
そう思って倒れていた相手に声をかけた。
「ここから出よう」
声に答えるだけの気力もなかった、だが、このままではいずれ死ぬだろう、いや、消滅するだろう、そうなれば永久に、復活差することも叶わないだろう。
神になることができなかった、なり損ないの命はいずれれ消えてしまう、時間がたてば再生することもできなくになる、哀れなものだ。
それなのに誰かが自分に手を伸ばし、ここから出ようと声をかけている。
目を開けて相手を見ようとしたが、周りが薄暗く、自分の目がどうにかなっているのか、よく見えない。
なのに自分の手を掴む感触が感じられた、不思議なものだ。
問いかける声に体を起こそうとした、すぐに立つことはできない。
手が触れる腕に、背中に、そして歩き出した。
どれくらいの距離を歩いたのか分からない。
「明るい、もうすぐ外だわ」
はっきりと聞こえる声に尋ねずにはいられなかった、おまえは誰だと、自分を助けようとする人間は、この世界には誰もいない。
なのに自分の隣にいる、この人間は一緒に出ようという、ここからだ、そもそも、ここは全てのものから外れてしまった場所だ。
心理の扉も介入することは容易ではない筈だ、だとしたら、どこから来たのだ、隣にいる人間は。
「大丈夫」
声をかけられて、ああと答えた、初めて声を出した。
この人、病気なのかもしれない、顔色もよくないし、病院に行って医者に診てもらっほうがよくないだろうかと思ったが、病院がどこにあるのかわからない。
暗い地下から外に出ると周りは荒れた荒野のような場所だった、だが、人がいないわけではない。
「大丈夫、歩ける、掴まって」
自分よりも背の高い男性と腕を組んで歩くのは簡単ではなかった、時折、ふらつくような足取りになっていたが、携帯食として買いだめしていたショートブレッドとペットボトルの水を食べて飲んで少しは元気になったみたいだが、その場しのぎだ。
ちゃんとした食事と睡眠タガ必要だ、地下の、あんなところで寝ていたら絶体によくない。
「な、何故だ」
男が尋ねた。
「助けてくれても、何もできん、何を求める、対価に」
その言葉に思わず、はあっとなってしまった、まあ、確かに、お人好しの所業だと思う、放っておいて、見ないふりをすれば良かったのだ、だが、それをすると、どうなのよって思ってしまう。
外国では親切心を出して人助けをしたら反対に酷い目に遭ったという話を聞く、だが、ここが外国だとしても行き倒れていた人を見ないふりというのは、絶体に後悔する。
それに見た事もない場所で一人というのは心細い、この状況では頭が回らず考えられない、赤の他人でも隣に誰かいて話しかけたら答えてくれるというのは、内心ほっとするのだ。
「とにかく、人のいる場所、街に出てからよ」
この女は何者だ、わからないのは何故、あの地下にいたのか、そして自分を助けようとするのか、人間なのは間違いない、どこから来たのだ。
少し前に自分は真理の扉を開こうとした、だが、失敗したのだ、爆発が起こったのだ。
終わりだと思ってしまった、生きていることが不思議だった。
「海外旅行の途中だったの、でも知らない間に、こんなところに来て、さっぱり分からないけど、街へ行きたいわ、地図とか、手に入れたいし」
女の言葉ょを聞きながら、自分がどうしたいのか男はわからなかった。
それから数日かけて、歩いて汽車に乗り、たどりついたのはセントラルという街だった。
「気分はどう」
「心配ない、随分とよくなった」
いや、全然、大丈夫じゃないでしょと言いたいが、言葉には出さなかった、ここに来るまでに手持ちの金は殆ど使い果たしてしまった。
道ばたで持っている物を売ったのだ。
外国のものというだけで珍しいのか、札や硬貨、服にアクセサリー、筆記具のペンや、お守り袋、持っていたスケッチブックで絵を描くと、大して美味いわけでもないのに売れたのは驚きだった。
持病はない、最初の頃より、随分とよくなったと本人はいうが、三日ほどは安宿を見つけて泊まったが、昨日から外で野宿をしている。
夜でも暖かいのは助かった、これが寒い外国だったら凍死、死体は放置されていたのかもしれないのだ。
(医者に診て貰った方がいい)
確かに顔色もよくなって最初の頃より足取りもしっかりしてきた、だが、公園の広場の片隅でテントを貼ってのキャンプ生活だって長くは続けられない、楽しいと思えるのは最初のうちだけだ。
「ちょっと出掛けてくるわ、街の案内所、知りたいこともあるし、夕飯はサンドイッチでいい、ベーグルとか」
「任せる」
テントから出ようとすると呼び止められた、どうかした。
「いや、気をつけて」
頷く男の目がわずかに細くなった、笑っているように見えたのかもしれない。
「どうしたの、暇なら、本、読む、日本語は読めるかな」
鞄の中から本を取り出して渡すと男は読めると呟いた。
テントの中が静かになると男はゆっくりと外に出た、最初の時は不安があった、もし錬金術師達が自分の存在を知れば見過ごすような事はしないだろう、殺しに来るかもしれないと思ったからだ。
あの地下にいたときは死んでも良いと思っていたのに、不思議だと思ってしまう。
今は、もしかして生に執着しているのだろうかと思ってしまった。
来月、1月のコミックシティに参加します。
ハガレンの舞台が3月にあるので、テンションが上がって、本が作りたいと思い立って、参加を決めました。