日常&導入になりますので今回はエロなしとなります。
嚆矢・表
アイズと結ばれて早数ヶ月。季節は夏になり、日差しが鬱陶しくなってきた今日この頃。あれからというもの特にこれといった変化もなく、いつも通りダンジョンに潜ったり、遠征といった多忙な日常を送っていた。
強いて言えばアイズがあれ以来ますます可愛くなったくらいだろうか。元々綺麗でオラリオ一美人なアイズだが、最近はそれに拍車が掛かって更に魅力的になった気がする。
服装もアマゾネスとまではいかないが、露出度が高い服を好んで着るようになり、街へ出ると男共が鼻を伸ばして見惚れている姿をよく見かけるようになった。これにはロキも大喜びし、あれやこれやと服を買ってきては鼻血を垂らしながらアイズを着せ替え人形にして遊んでいたが、リヴェリアに見つかってこっぴどく叱られていた。
また、一時期あの【剣姫】に恋人が出来たのではないかとオラリオ中に噂が流れ出したが、何処かの糸目の神と山吹色の髪をしたエルフが噂の出処を片っ端に潰したとか何とかで、ものの数日でパタリと収まった。
その話を聞いた時は流石に申し訳ない気持ちになったが、アイズの方は満更でもない様子だったので何も聞かなかった事にした。因みに俺とアイズが付き合っている事は他の団員おろかロキにすら言っていない。
別に隠しているわけではないのだが、何故か言うタイミングを逃してしまったのだ。恐らくアイズも恥ずかしいのか、言いふらすようなことはしなかった。まあいずれバレるだろうし、言った所で面倒くさい事になるだろうからこのままでいいかという事となった。
ただ、アイズ大好きっ娘でお馴染み、レフィーヤがたまに鋭い目つきでこちらを見つめてくるのが少し怖かった。
まあそれはさておき、今日は久方ぶりの休日だ。最近は遠征続きで中々休みが取れなかった為、こうしてゆっくりと休めるのは実に1ヶ月振りくらいだろう。だからいつもよりゆっくり寝ていられると思ったのだが…何故か今日に限って、早く目が覚めてしまった。二度寝しようにも妙な胸騒ぎのせいで、どうも眠れそうにない。
「…取り敢えず起きるか」
まだ眠気の残る身体を起こし、着替えて部屋を出る。そして階段を降りてリビングへ向かうと、そこにはリヴェリアがいた。彼女はソファーに腰掛けており、テーブルにはティーカップが置かれている。
「ん? ケイか、おはよう」
俺に気付いたリヴェリアは軽く挨拶をする。ふと周りを見るがリヴェリアの姿しか見当たらなかった。もう昼も近いし何処か飯にでも行っているのだろうか。
「ああ、おはよう…他の皆は?」
「フィンとベート、ガレスは椿の所、ティオネとアイズ達は朝から買い物だ。私は特に用事がなかったから留守番を任されていてな、こうして紅茶を飲みつつ読書をしていたんだ。ケイも一杯どうだ?」
そう言いながらリヴェリアは自分の隣にある空いているスペースをポンポンと叩く。座れということだろう。素直に従って彼女の横へと座り込むと、リヴェリアは読んでいた本を閉じてそれを脇に置き、俺の方に少し詰める。そして新しいティーポットから茶葉を入れ直し、お湯を注ぎ始めた。
いつも飲んでいるのとは違う、何処か高級感漂う芳醇な香りが鼻孔を刺激する。その匂いに誘われるようにカップを手に取り、ゆっくりと口に含む。まろやかな味わいと程よい苦みが喉を通り抜けていく。美味しい。自然と頬が緩んでいくのを感じた。
「美味いな…何処で買ったんだ、これ?」
「先週、【ディアンケヒト・ファミリア】を訪れた際に購入したものだ。何でも疲労回復、滋養強壮の効果があるらしい。まあその分値段は張ったがな」
なるほど。確かに言われてみると体が軽くなったような気がする。流石は大手治療院の名前を冠するだけはあって効果は抜群のようだ。ただでさえ疲れていた体に活力がみなぎってくるのを感じる。俺は二杯目を注ぐと再びソファに腰掛け、リヴェリアと共にティータイムを楽しむことにした。
ふと【ディアンケヒト・ファミリア】と聞いて思い出したが、最近アミッドと会っていない気がする。前に会ったのは確か……二ヶ月くらい前だった筈だ。まあ会った所で気まずい雰囲気になるだけだから別に構わないのだが。
というのもあの日以来、俺は彼女と顔を合わせると何とも言えない空気になってしまう。原因は言うまでもない。酒が入っていたとはいえ、ほぼシラフの状態で彼女と…ヤッてしまったのだ。正直かなり後悔している。
当時はまだアイズとそういう関係にはなっていなかったからセーフといえばセーフなのだが、俺とアミッドは年齢こそ近いものの、彼女の方が2つも上だ。そんな大人のお姉さんと過ちを犯してしまうなんて、我ながら情けないと思う。
それに、【ロキ・ファミリア】と【ディアンケヒト・ファミリア】の主神同士は仲がかなり悪い。もしこの事がディアンケヒト様にでも知られたら、間違いなく殺されるだろう。そう考えるとどうしても会いに行く勇気が出なかった。まあ時間が解決してくれるに違いない。きっと大丈夫さ、うん。
「ああ、そうだ。アミッドが最近お前の顔を見ていないから心配していたぞ? 今度時間を作って訪ねてみるといい。」
「え」
紅茶を吹き出しそうになるが何とか堪える。まさかここでその名前が出るとは思わなかった。今アミッドと会うのは少し…いや、かなり嫌だ。またあんな感じの雰囲気になるのかと考えると胃が痛くなってくる。
それにこの事がアイズにバレようならば、俺は色んな意味で殺されるに違いない。それだけは避けたかったが、リヴェリアが怪しむような目つきで睨んでくる。
「…なんだ、その顔は。まさかアミッドと何かあったのか?」
「…別に、何もないが」
「なら何故目を逸らす」
「……」
「おい」
「はい」
「何かあったんだろう」
「……」
「言え」
リヴェリアはまるで尋問官のような目つきで俺を睨んでくる。これ以上誤魔化すのは無理だと悟り、観念して話した。すると、彼女は顔を赤くしながらも呆れたような表情をしてため息をつく。
「はぁ……全く、何をしているんだお前は」
「面目ない」
「私ではなくアミッドに謝れ、この馬鹿者が」
「はい……」
俺は項垂れながら謝罪の言葉を述べる。リヴェリアは俺を叱りつけるように言うと、再び紅茶を口に含んだ。その後しばらく沈黙が続く。気まずい空気の中、カップを傾けていると、不意にリヴェリアが口を開いた。
「確認なんだが、お前たちは…その…付き合ってはいないのだろう?」
「ん? ああ、勿論だ」
「そ、そうか。それは…良かった」
リヴェリアはホッとした様子で胸を撫で下ろす。一体どういう事なのかよく分からなかったが、特に気にする事でもないと思い、俺も自分の紅茶を味わう事に集中した。
◇ ◇ ◇
俺は一人で街をぶらついていた。あれからというもの特に予定もなく暇だったので、こうして適当にぶらついているのだ。空を見上げると雲一つ無い快晴、絶好の外出日和だったが、いざ外に出てみると照りつける太陽が鬱陶しくて仕方がない。
「あっつ…」
額から流れる汗を拭いながら呟く。暑い。暑すぎる。こんな日に外に出るなんて正気の沙汰じゃない。せめてもう少し涼しい時間帯にすれば良かったと早速後悔するが、いつまでもホームに籠っているわけにもいかない。
何しろ今の時期は夏真っ盛りっでこれからもっと気温が上がるだろう。そうなれば暑さも酷くなる一方、日中に出歩くのは困難となる。俺は溜息交じりに歩き出す。目的地は決まっていないが、とりあえず人通りの多い場所に向かうことにした。
暫く歩くと噴水広場に出た。そこは円形状の空間となっており、中心には女神像を模した巨大な水瓶から水が噴き出している。そして周囲には等間隔でベンチが設置されていて、多くの市民が腰掛け談笑したり、読書をしたりと各々自由に過ごしていた。そんな光景を横目に見ながら、近くのベンチへと歩み寄るとそこに座った。
「…疲れた」
背もたれに寄りかかりながら天を仰ぐ。この炎天下の中で長時間歩いていたせいで全身から滝のように汗が流れ落ち、インナーが肌に張り付いて気持ち悪い。やはり外に出るんじゃなかったと後悔するももう遅い。今更嘆いても仕方ないので取り敢えず身体を休めることにしよう。
「ふぅ……」
深く深呼吸する。肺一杯に新鮮な空気が満たされ、少しだけ熱が引いていく気がした。しかしそれも束の間、直ぐにじわっと滲み出るようにして汗が吹き出てくる。まるで体内の水分が全て蒸発してしまったかのような感覚に陥り、思わず顔をしかめた。
「……帰るか」
完全に無駄足だったが仕方がない。帰ろうと思い立ち上がろうとしたその時、今一番会いたくない人物と眼が合ってしまった。
「あ」
「あ」
その人物とはアミッド・テアサナーレその人だった。まさかここで会うとは思っていなかった俺は目を丸くして固まる。対する彼女も同様に固まっていたが、すぐにいつも通りの表情に戻った。
「奇遇ですね。ケイ」
「そうだな……」
「今日はお休みですか?」
「まぁ、そんなところだ……」
気まずい。非常に気まずい。彼女とはあの一件以来まともに話していないし、こんな間近で接触するのも久しぶりだ。正直どんな顔すればいいのか分からない。というよりどう接すれば良いのか分からず戸惑っていた。
「隣に座ってもいいでしょうか」
「え? ああ、別に構わないが…」
断る理由も無いので了承する。すると彼女は静かに俺の隣に座り込んだ。
「……」
「……」
…会話が無い。お互いに無言のまま時間だけが過ぎていく。何か喋らなければと思うのだが言葉が出て来ない。アミッドもアミッドで黙ったままジッとこちらを見つめているだけだ。一体何なんだこの状況は。誰か助けてくれ。内心困り果てていた時、不意にアミッドが口を開いた。
「そういえば、貴方とアイズさんが恋仲であると、根も葉もない噂が出回っていましたが本当でしょうか?」
突然の質問に面食らう。確かにそんな噂が流れているのは知っていたが、何故急にそんなことを聞いてきたのかという疑問が浮かぶ。
「違うが、それがどうかしたのか?」
「いえ、特に深い意味はありません。ただ気になったものですから」
相変わらず無表情だがどこか嬉しそうな声音だった。本当にそれだけなのか、と疑うが本人がそういうのならこれ以上詮索するのは野暮というものだろう。それからは他愛もない話をぽつりぽつりと交わすだけだった。
お互いの近況報告から始まり、アミッドの所属する派閥の話や治療院の経営状況など様々だ。アミッドの話は興味深いものばかりでつい聞き入ってしまう。そしてそれは彼女も同じようで、俺の話に耳を傾けては相槌を打っていた。
こうして改めて彼女のことをよく見ると整った容姿をしているのがよく分かる。長い銀髪は太陽の光を浴びてキラキラと輝き、肌は白くきめ細やかでスタイルも抜群。しかも治療師としての腕は都市最高クラスであり、性格も良いときたら非の打ち所がない。まさに完璧超人と言える存在だろう。
そんな彼女を周りが放っておくはずもなく、【ディアンケヒト・ファミリア】は連日連夜予約が殺到しているという。それを聞いた時は流石に驚いたが、それも当然の事なのかもしれない。それほどまでに彼女は魅力的な女性なのだから。
「……どうしましたかケイ」
「いや、何でもない。それよりもあの時は悪かったな。」
「あの時とは?」
「ほら、酔った勢いとはいえお前と…その…アレをした事だ…」
恥ずかしさのあまり小声でぼそぼそと言う。はっきり言う勇気は無かった。だがアミッドは理解してくれたようだ。
「ああ、あれのことですか。気にしないでください。私もお酒に酔いすぎてしまったようですし、お互い様ということで水に流しましょう」
「…随分と軽いな。というか初めてだったんだろ? 普通はもっとこう……怒るとかないのか?」
「いえ、特には。それに初めての相手がケイで良かったと思っていますから」
「ッ!?」
さらりととんでもない事を言われた気がするが、きっと気のせいだと思いたい。いかん、心臓がバクバク鳴っている。落ち着け俺。平常心を保て。俺にはアイズという最高の彼女がいるだろ。動揺を悟られないように必死に取り繕う。
「そ、そうか。まあ、アミッドが良いならそれで良いが……」
「はい」
「……」
「……」
再び訪れる沈黙。だが先程までの居心地の悪さはなく、むしろこの静けさが妙に落ち着く。いつの間にか周りからは人の気配が消えており、聞こえるのは風が木々を揺らす音だけ。まるで世界に2人だけ取り残されたような錯覚を覚える。だが不思議と寂しさは感じなかった。
「もうこんな時間ですか。すっかり話し込んでしまいましたね」
アミッドの言葉で我に返る。見上げると太陽は既に沈みかけていた。空が茜色に染まっており、影が長く伸びている。思ったよりも時間が経っていたらしい。そろそろ戻らないとまずいな。
「そうだな。そろそろ戻るとするか」
「そうですね」
ベンチから立ち上がり、ゆっくりと歩き出す。アミッドが隣に並び、一緒に歩く。横を見るとアミッドの横顔が目に入った。夕陽によって照らされた銀髪が美しく輝いている。思わず見惚れてしまうほど美しい光景だ。このままずっと見ていたいと思う反面、アイズを裏切っているかのような罪悪感に襲われる。
そんな事を考えながら歩いていると、不意にアミッドが立ち止まった。つられて立ち止まる。どうかしたのだろうか。アミッドの方を見る。するとアミッドは真っ直ぐにこちらを見つめていた。
「アミッド?」
名前を呼んでみるが反応はない。アミッドは無言のままじっと見つめてくる。その視線はどこか熱を帯びているように見えた。
――その刹那
唇に柔らかい何かが触れた。それがアミッドの唇だと気づいた時には既に離れていた。目の前にいるアミッドの顔は真っ赤になっている。
「ア、アミッド!? おまっ、今何をっ……!」
突然の出来事に頭がパニックになる。キスなんて今更だが、場所が場所だけに動揺してしまう。ここは外だし、人通りもあるのだ。そんな中での大胆すぎる行動に思考が追いつかない。
「ふふ、今日はこれで許してあげます」
アミッドは悪戯っぽく微笑むと、そのまま走り去っていった。後に残されたのは呆然とする俺だけだ。
「何だよそれ…」
俺はただアミッドの後姿が見えなくなるまで、その場に立ち尽くしていた。
あの後、宿に戻ったのは夕食の時間ギリギリだった。帰りが遅いことをアイズが心配していたが、何とか誤魔化すことに成功した。しかし何故かアイズは機嫌が悪くなっていたのだが、その理由は分からずじまいだ。それから風呂に入り、今はベッドの上で寝転んでいる。今日の出来事を思い出し、ため息をつく。
(まさかアミッドがあんな大胆な奴だとは思わなかったな)
正直に言えば意外だ。あの冷静沈着なアミッドがあそこまで感情的になるとは思ってもいなかったが、それだけ俺のことを想ってくれているということだ。嬉しくないわけがない。だがそれと同時に申し訳なく思う。俺はアイズが好きだ。それは揺るぎない事実であり、これから変わることはないだろう。
それでも……脳裏に浮かぶのはアミッドの姿だ。彼女のことは嫌いではないしむしろ好意的に見ていると言っていい。美人だし性格も良い。それに治療師としての腕も良いときたら非の打ち所が無いと言えるだろう。そんな女性に好かれているという事実は男冥利に尽きるというものだ。
だが今の俺にはその気持ちに応えることはできない。アミッドに抱くこの想いは恋心ではなく、仲間に対する親愛に近いものだと自分でも分かっているからだ。だからこそ、彼女に対して不誠実な事はしたくはなかった。
「はぁ…」
本日何度目になるか分からない大きな溜息をつき、目を瞑る。考えれば考えるほど憂鬱になってくる。いっそこのまま何もかも忘れて眠ってしまいたい気分だ。そうやって悶々と悩んでいると部屋の扉がノックされる音が聞こえてきた。誰だろうと疑問に思いながらも起き上がり、ドアを開ける。そこには予想外の人物が立っていた。
「レフィーヤ? どうしたんだこんな時間に」
そこにいたのはレフィーヤだった。いつもならもう眠っている時間なのに何故ここにいるのか不思議に思った。
「そ、その…少し話したいことがありまして……。入ってもいいですか?」
「ああ、別に構わないけど……」
レフィーヤを招き入れ、椅子に座ってもらう。とりあえずお茶を出して向かい合う形で座った。
「それで、話って一体なんだ?」
レフィーヤとこうして話すのは初めてかもしれないなと思いながら用件を聞く。レフィーヤはどこか緊張しているような表情をしていた。
「えっと…ですね。わ、私……を…」
レフィーヤは顔を赤らめながらも言葉を紡ぐ。嫌な予感がした俺は声をかけようとするが時すでに遅し。レフィーヤは意を決したように口を開いた。
「わ、私を女にして下さい!!」
部屋に可愛らしい声が響き渡るが、その一言で俺の胃は限界を迎えることとなった。
次回はエロ回です。