―――いつからだろう……私が彼のことを眼で追いかけるようになったのは。
今思えば初めて会った時から気になっていたのだと思う。彼と出逢ったのはリヴェリア様に紹介された時が最初だった。彼は私の二つ年上のヒューマンで、まだ幼さの残る顔立ちをしていたが背は高く、落ち着いた雰囲気の少年といった印象を受けた。
私は最初、正直彼の事があまり得意ではなかった。彼、ケイさんはとても無愛想な人で、他の団員の皆さんは笑顔を浮かべたりして友好的な態度を取っているのに対して、彼だけは感情を感じさせない能面のような顔で接してくるだけだった。
それが何となく怖くて苦手意識を持っていたのだが、彼を良く観察してみると実は表情が乏しいだけで、別に悪い人ではないということが分かった。
一人で行動する機会が多いけど、決して孤独ではない。むしろ周りから頼りにされている感じの雰囲気があり、それは決して表面的なものだけではなく、内面から滲み出ているもののように見えた。そして何より驚いたのは彼の強さだ。
初めて会った時から感じていたことだけど、ダンジョンに潜っている時の彼は普段とはまるで別人のように鋭い雰囲気を纏っていた。普段はぼーっとして頼り無さそうな印象を受けるのに、モンスターを前にすると一変して隙の無い動きで次々と倒していく。
その姿はまるで剣舞でも踊っているかのような流麗な動きであり、思わず見惚れてしまう程であった。
それからというもの、私は無意識のうちにケイさんの姿を自然と目で追うようになっていた。この気持ちが何なのか分からず、ただ悶々とする日々が続いた。最初はただ単に凄い人がいると興味を持っただけだったけれど、それは日に日に強くなっていく。
いつしか彼の強さに憧れを抱くようになり、それと同時に胸の奥に熱いものが宿るようになった。
(これが、恋なのでしょうか?)
正直よく分からない。今まで異性を意識したことがなかったから。けれど、この気持ちが本物だということだけは分かる。だから、自分が抱いている感情が何なのかをどうしても確かめたかった。
そう思い立ったらすぐに実行に移したかったけど、私には勇気がなかった。どうやって切り出したらいいかわからないし、そもそもどんな風に話しかけたらいいのかも分からない。何より彼の隣にはいつもあの人がいた。
―――アイズ・ヴァレンシュタイン
【ロキ・ファミリア】最年少にして世界最速記録を樹立し、【剣姫】と呼ばれる程の実力を誇る女性冒険者で容姿端麗、才色兼備が揃った完璧超人。彼女の噂は「学区」にいた頃からよく耳にしていたが、実際に彼女と会ってみてその評判が誇張されたものではないことを知った。彼女は美しく、可愛らしく、そして強い人だった。
同じ女でありながらも嫉妬してしまうくらいに美しい外見を持ちながら、それでいて全く鼻にかけない親しみやすい性格をしていた。そんな彼女に私は憧れ、彼女に近づきたいと思った。彼女の強さの秘密を知りたいと願った。彼女と同じ土俵に立ちたいと望んだ。その為に毎日鍛錬を続けた。少しでも強くなりたくて努力した。
けれど駄目だった。どれだけ頑張っても彼女は遠い存在のまま、追いつくどころか差が開く一方。悔しかった。自分の非力さが、弱さが、どうしようもなく恨めしかった。私の前をケイさんとアイズさんが並んで歩く姿を見る度に、胸が張り裂けそうになるほど苦しくなった。
そんな彼女もまた彼に想いを寄せているのは一目瞭然で、彼もそれに応えようとしているのは分かっていた。それが私にとってはどうしようもなく辛かった。まるで大切な宝物を盗られたかのような気分になった。
―――ああ、そうか。これは嫉妬なんだ。
やっと気づいた……私は彼が好き。大好きなんです。アイズさんのことが羨ましくて、妬ましい。けどアイズさんの事はどうしても嫌いにはなれなかった。
だって彼女は本当に素敵な人だから。心優しくて、綺麗で、強くて、そして何よりも強い意志を持っている。誰に対しても分け隔てなく接することが出来る優しさがある。だからこそ皆から慕われているのだ。
私が持っていないものを全て持っている彼女がとても眩しくて、輝いて見えた。私が思いを伝えた所できっと迷惑にしかならないだろう。それに、もし受け入れてもらえたとしてもアイズさんとの仲を引き裂くような真似は出来ない。
だから応援したいと思った。いつか二人が結ばれる日が来ることを願って、陰ながら見守っていよう。それが私の初恋。私の淡い恋心の結末。だった筈なのに……。
「はぁ、んっ……あ、あっ…ケイさんっ」
夜、部屋で一人ベッドの上で横になりながら、私は現在進行系で自分で自分を慰めている。未練を断ち切ったあの日から数年経った今でも、こうして毎晩のようにケイさんのことを想って自らを慰める行為を続けている。
もう止めようと何度も思ったけれど、結局今日まで止めることは出来なかった。これは毒だ。甘く痺れる快楽という名の猛毒。一度知ってしまえば、もはや後戻りなど出来はしない。
指先で秘所をなぞり、溢れ出る蜜を掬い取って口に含む。それだけで身体が熱くなり、更なる刺激を求めて疼きだす。右手をスカートの中に入れショーツ越しに秘所に触れ、左手では乳房に触れる。頭の中でケイさんを思い浮かべながら、自慰に耽る。
初めはこんなことはしなかった。でも、日に日に募っていく欲求を抑えきれず、遂に我慢できなくなってしまった。今ではもうケイさんのことを想うだけで体が火照り、疼き始めるようになった。
(ごめんなさい、アイズさん…)
何度も謝った。勝手に想っておいて、相手の幸せを祈らずに自分だけ満足しようとしていることに罪悪感を覚える。でも止められない。一度知ってしまった快楽を手放すことなんて出来なかった。ケイさんを想いながら自らを慰めるのは想像以上に気持ち良くて病みつきになってしまった。
「はぁ、はっ……あぅっ! ふわっ、あん……」
割れ目をなぞるように指を動かすと、それだけでビクビクッとした快感が走る。同時に乳首も摘むと、甘い痺れと共にピリピリと脳髄に電流が流れるかのような感覚に襲われる。胸を揉みしだきながら、クリトリスを親指で押し潰すようにぐりっと刺激すると、より一層大きな悦楽の波に襲われ思わず声が出てしまう。
「ひゃうん!? あ、ああぁっ!」
腰を跳ねさせ、甘い声を上げる。膣口からは愛液が大量に溢れ出し、シーツに大きな染みを作っていた。しかしそれでも私は手を止めない。むしろ激しく動かしていく。絶頂へと上り詰めていきながらも頭の片隅で考えるのはやはり彼のことだった。
彼に抱かれているアイズさんの姿が脳裏に浮かぶ。それは酷く淫靡な光景であり、同時にとても美しいものに見えた。私はそんなことを思いながら果ててしまう。
「~~っ! んっ、くうっ」
ビクンと体を仰け反らせ、余韻に浸る。そしてそのまま脱力し、深い溜息をつく。
―――足りない。全然満たされない。
そう思うようになったのはいつからだろうか? 以前はこれで十分だったのに、最近はこれじゃ物足りなくなっていた。もっと欲しい。もっともっと気持ち良くなりたい。頭の中が真っ白になるくらい滅茶苦茶にしてもらいたい。
何も考えられなくなる程犯してもらいたい。子宮の奥まで突き上げられて、大量の精液を流し込んでほしい。そんな願望が胸の内を埋め尽くしていく。いけないことだと分かっているのに欲望を抑えることが出来ない。
「はぁ、はぁ……」
荒い呼吸を整えながら、ぼんやりとする思考の中、私は天井を見つめていた。虚ろな瞳からは涙が零れる。私は彼女のようになりたかった。強くて美しくて可憐で優しい彼女に憧れた。私なんかがどれだけ努力しても追いつけやしない。そんなことは最初から分かっていた筈なのに……私はアイズさんになりたいと望んでしまった。
その結果がこれだった。こんな醜くて浅ましい姿を晒し、何もかもが空っぽになって、ただ呆然と天井を眺めることしかできない。今日も同じだ。結局また同じことをしてしまった。後悔だけが胸に渦巻くが、この行為だけは絶対に止めてはいけない。止められない。だって、これをしないとおかしくなりそうだから。
「……ごめんなさい」
掠れた声で呟く。何に対して謝っているのか自分でもよく分からない。でも言わずにはいられなかった。私はアイズさんにはなれない。だからせめてケイさんのことを好きでいることだけでも許してほしかった。決して叶わない恋だと知りつつも、私は彼への想いを捨て去ることが出来なかった。
「う、くっ……ひっく……」
枕に顔を埋めて嗚咽を押し殺す。泣きたくないのに、泣いてはいけないと思っているのに、体は言う事を聞いてくれない。でも我慢できなかった。一度流れ出した涙を止める術を知らない私は、ただひたすらに嗚咽を漏らしながら涙を流し続けた。
◇ ◇ ◇
あれから数日が経ったある日のこと。私は今アイズさんとケイさんの3人でダンジョンに潜っていた。2人と一緒に行動するのは本当に久々で少し緊張してしまう。あんな事している手前、本当は軽蔑されているのではないかと不安に思っていたけれど、どうやらそういうわけでもないらしい。
それどころか私が元気が無いことを心配してくれたりもしたけど、今はその優しさが心に痛く、嬉しくもあった。
「大丈夫か?」
「えっ……あ、はい」
戦闘を終えて休憩を取っている最中にケイさんに声をかけられる。彼は私の顔を覗き込むようにして訊ねてきた。
「最近様子がおかしいけど何かあったのか? 俺達で良ければ相談に乗るぞ」
「そ、それは……」
言えるはずがない。あなたを想って毎晩のように自分を慰めているなんて口が裂けても言えなかった。そんなこと言ったらきっと嫌われてしまうだろう。それだけは嫌だった。しかし、黙ったままでは余計に怪しまれてしまう。何とか誤魔化さなくては……。
「べ、別に何でもありませんよ! ちょっと寝不足気味でボーッとしてるだけです!」
咄嵯に思いついた言い訳を口にする。我ながら苦しいとは思ったが他に思いつかなかったのだから仕方がなかった。
「本当? 無理しないでね」
「だ、だいじょぶです」
心の中でホッと胸を撫で下ろす。とりあえず疑われてはいないようだ。だけど油断はできない。気を引き締めないと。その後、特に問題もなくモンスターを倒していく私達だったが、ふとした瞬間にアイズさんと目が合った。
彼女はいつも通りの表情を浮かべていたが、何故かその目つきは鋭かった。まるでこちらの心を見透かすような視線に思わずドキッとする。
まさか見破られてしまったのだろうか。そう思うと心臓が高鳴ってしまう。だが、それも一瞬のことだった。すぐにアイズさんの視線は外れてしまい、私は内心で安堵する。
(……やっぱり考えすぎかな?)
アイズさんに勘付かれたのではないかと思ったが、恐らく偶然だろう。その後も何度か彼女と目を合わせそうになったが、結局最後まで気付かれることはなかった。
そしてその日の探索を終えた後、私達は18階層、「リヴィラの街」へと来ていた。ここは『中層』にある数少ない安全地帯であり、街には冒険者用の宿泊施設や武器屋、道具屋などが立ち並んでいる。
ちなみに「リヴィラ」という名前はこの街を作ろうと最初に言い出した女性冒険者の名前からとったらしい。まあ私はあまり興味が無かったので詳しいことは知らないけれど。
その後、食事や買い物を済ませた私達は宿に戻っていた。部屋割りは私とアイズさんが同じ部屋に泊まることになり、ケイさんだけが別の部屋になっている。私はアイズさんと共に部屋のベッドに腰掛けて一息ついていた。
今日一日、精神的にも肉体的にも凄い疲れた。というかここ最近ずっとこの調子だ。理由は分かっているけど認めたくない自分がいるせいで、どうしても気分が落ち込んでしまう。
「ねえ、レフィーヤ」
「な、なんでしょうか?」
「最近元気ないみたいだけど……何かあった?」
そう言って心配そうな顔を見せるアイズさん。本当に彼女は私のことをよく見てくれてると思う。こういう時いつも声をかけてくれるのも彼女だし、相談に乗ってくれることも多い。今回だってそうだ。私が悩んでいることなんてすぐに気付く。
でも、だからこそ言いづらい。アイズさんの事が好きだからこそ、彼女にだけは知られちゃいけない。知られたらきっと、今の関係を壊すことになる。だから言えなかった。
「私じゃ頼りにならないかもしれないけど……」
「そ、そんなことありません!」
私は思わず声を上げてしまった。確かにアイズさんにはケイさんの事で複雑な感情を抱いているのは事実だが、それでも頼れる先輩であることに変わりはない。それに、これは私が解決しなければならない問題なのだ。ケイさんやアイズさんに心配をかけてはいけない。
「ありがとうございます、アイズさん。おかげで少し気が楽になりました」
「そう? それなら良かった。でも何かあったらいつでも相談してね?」
本当にこの人は優しい人だ。その優しさに何度も救われたけれど、今だけはそれが辛かった。
「ん………」
喉の乾きを覚えて目が覚める。どうやらアイズさんと話しているうちに眠ってしまったようだ。枕元に置いておいた水差しからコップに水を注ぎ一気に飲み干す。冷たい水が食道を通り抜ける感覚が心地良かったが、寝る前まであった人の気配がなく、ふと隣のベッドに視線を移すが、そこにアイズさんの姿はなかった。
(あれ?)
トイレにでも行ったのかなと思いながら身を起こすと、2階から何やら物音が聞こえた。何か、こう…ギシギシと軋む音とほんの微かに聞こえる艶めかしい声。妙な胸騒ぎがした。行ってはいけないと脳が警告を発しているが、気付けば私は部屋を出て階段を上がっていた。
段々大きくなる声に心臓の鼓動が大きく鼓動する。これは警告だ。これ以上踏み込めば戻れなくなるぞと本能が告げていたが、私の足は止まらなかった。まるで魅了されたかのように、誘われるように、その扉の前へと辿り着いていた。
そして、ゆっくりとノブに手をかけ、回す。バレないように…慎重に。カチャリという小さな金属音を鳴らして、ドアが開かれた。鍵を掛けていなかったのか? いや、違う。最初から掛けていないのだ。私が来ることを分かっていて、わざと……?
開かれた扉の向こう側。隙間から見える光景にはベッドの上で重なり合う二人の男女の姿があった。女の人は仰向けになり、男の人の下で組み敷かれている。男は女の人の首筋に顔を埋め、何度も何度も吸い付くようなキスをしていた。
私はそれを呆然と眺めていた。頭が真っ白になって何も考えられなかった。ただ、目の前の光景だけが現実として認識できた。
『あっ……!ケイっ、そこだめぇ……』
『ここが良いんだろ?』
『うん……もっとぉ……』
ケイさんに耳許で囁かれ、アイズさんの顔が蕩けるように崩れていく。それは、私が見たことのない表情だった。いつも凛々しく、毅然としている彼女が見せる淫靡な雰囲気に飲まれそうになる。
『ケイ……好きぃ』
『俺もだよアイズ』
二人は愛おしそうに唇を重ねる。互いの舌と唾液を交換し合い、貪るような口づけに変わっていく。私はこれ以上は見ていられないと、逃げるようにその場から立ち去った。自分の部屋に戻ってきた私はそのままベッドに飛び込むと、布団を被って身体を隠すようにして横になるが、先ほどまで見ていた光景が再び浮かんでくる。
絡み合う二人。乱れ狂うアイズさん。その全てが私にとって衝撃的過ぎた。あの真面目なアイズさんがあんな顔をするなんて……。
水音と喘ぎ声に混じって、時折漏れ出る吐息。聞いているだけで体が熱くなるような、甘い響き。こんなことしちゃダメだと分かっているのに……、いつの間にか、自分の手が下半身に向かって伸びていた。駄目だと思っていても体は正直で、下着の中は既に湿っていた。指先が秘部に触れると痺れるような快感が全身を駆け巡った。
「あぁっ!」
ビクンッと大きく体を震わせて絶頂を迎える。まだ足りないと言わんばかりに、中指と薬指が割れ目の中に沈んでいき、膣内を刺激し続ける。もう既に何度か達してしまったのだろう。溢れ出た蜜液が太股を伝ってシーツに垂れ落ちていった。
「はぁ、はぁ……」
荒い呼吸を繰り返しながら虚空を見つめる。頭の中ではアイズさんの姿がチラついて離れない。今、彼女はどんな顔をして抱かれているんだろう。快楽に溺れ、蕩けきっているのだろうか。それとも、恥ずかしさで必死に我慢しているのだろうか。そんなことを考えているうちに、再び身体が火照ってきた。
「うそ……また……」
一度鎮まったはずの情欲は再び燃え上がり、今度は手の動きが激しくなる。私も抱かれたい。アイズさんみたいに激しく犯して欲しい。そんな考えに支配された私の理性は完全に崩壊していた。
「はぁ……ケイさん……」
彼の名前を呼びながら、ひたすら自慰行為に没頭し続ける。しかし、いくら慰めても満足できない。それでも手を休めることはできなかった。どうしたらこの疼きを抑えられる? どうしたら満たされる? 私は考えた末に一つの結論に至った。
―――そうだ、ケイさんに直接お願いすればいいんだ。
そう思った瞬間、今までの妄想が全て吹き飛んだ。簡単な事だったのだ。彼に頼めば、きっとアイズさんと同じことをしてくれるに違いない。そう考えるだけで、胸の奥から熱いものが込み上げてきたが、今はその時ではない。幸い時間ならたっぷりある。焦らなくても大丈夫だ。
「ふふ…」
これから訪れるであろう出来事を思い浮かべ、思わず笑みを浮かべてしまう。楽しみで仕方がない。早く来て欲しい。そして二人…いや、あわよくば3人で気持ち良くなりたい……。そんな期待に胸を膨らませながら、私は眠りについた。
次回ようやく本番です。