最近は感想の方に返信していないですが、有り難く読ませて頂いています。また、原作との矛盾点や指摘、質問等がありましたら遠慮なくコメント欄にお書きください。
前置き長くなりましたが、本編どうぞ。今回は日常回なのでエロはなしです。
爛漫
とある休日。朝食を終えた俺は、紅茶を片手に読書をして過ごしていた。窓から差し込む朝日を浴びながらのんびりと過ごす時間はなかなか悪くない。
読書はそこまで趣味ではないが、たまにはこういう日があってもいいだろう。
それにここ最近は色々あって心身共に疲労した為、こうして一人でゆっくりしたかった。リヴェリアから貰った紅茶の味を堪能しつつ、ページを捲くる。
「今日は良い一日になりそうだ」
穏やかな朝。爽やかな風が吹き込み、木々の葉が揺れる音が心地よい。外からは冒険者や商人達の活気溢れる声も聞こえ、いつもの平和で平穏な日常だと実感させられる。
こんな何気のない退屈な日々こそが俺にとって最も愛おしいものだ。それこそ時が止まって欲しいと願う程に……
だがそう上手くいかないのが世の常である。どれだけ楽しい時間でも、いつか終わりを迎えて流れていく。それがこの世界の摂理であり、運命だ。例えどんなに強くても、神であろうと抗えない絶対不変の法則でもある。
だからこそ、俺は今この時を大切にするのだ。そしてその大切な時間を壊そうとする者がいるなら全力を持って排除しよう。
『ドタドタドタ…』
前言撤回。どうやら俺の平穏な一日は早々に終わりを迎えたらしい。この足音の主は大体察しがつく。というかアイツしかいないだろう……ドアの向こう側から慌ただしい気配を感じ取り、思わず溜息が出る。
そしてノックもなく勢いよく開かれた扉。そこに立っていたのは予想通りの人物だった。
「ケイ、いるーーーー!!」
「……」
元気いっぱいに飛び込んできたティオナの姿に頭痛を覚える。もう少し静かに入ってこれないものかと常々思うのだが、まあ彼女らしいと言えば彼女らしい。
「ティオナ、いつも言っているがノックぐらいしてくれ…」
「えへへ~ごめんね!」
全く悪びれていない様子で謝ってくるティオナ。本当に反省しているのか甚だ疑問ではあるが、これ以上言っても無駄なのは分かっていたので諦めることした。
ティオナは俺の隣まで来ると腰を下ろして脚を投げ出し、そのままぐいっと体を寄せてきた。彼女が着ているのはアマゾネスらしい露出の多い戦闘衣なのだが、彼女が身に着けると何故かエロく感じない。むしろ可愛らしく見えてしまうのだから不思議なものだ。
「ねぇねぇ、何読んでるの?」
興味津々といった表情を浮かべながら覗き込んでくるティオナに本の表紙を見せた。
「【怒リ之日】? 聞いたことがないや……どんな話?」
「ざっくり言うと極東のとある地方に伝わる昔話みたいなものだな。万を犠牲にして一を救ったとある男の物語さ」
「へぇ……」
感心したように呟きながらティオナはパラパラと本を捲っていくが、すぐに眉根を寄せた。
「んぅ……全然分かんない! 字ばっかりだし絵も無いし……なんか眠くなるかも」
「まあティオナが普段読んでる『英雄譚』に比べたら明らかに読みにくいだろうな。それに極東の文体はかなり独特だから慣れないと難しいかもしれない」
「む……じゃあ読むの止めよっと」
あっさりと読破を諦めたティオナはそのまま俺の膝の上に頭を乗せてくる。別に邪魔になるわけでもないし、このまま好きにさせておこう。
俺はティーカップを傾けつつ、再び読書を再開しようとしたのだが、どうにもティオナは邪魔したいようで、ぐりぐりと頭を押し付けてくる。
仕方ないので俺は読書を中断してティオナの頭を撫でてやると、サラサラとした黒髪の手触りが伝わってきて気持ちが良い。彼女も満更ではないようで、目を細めながら嬉しそうな表情を浮かべて頬ずりしてくる。
「えへへぇ……」
満足気な笑みを浮かべるティオナはまるで犬みたいだ。尻尾があったらぶんぶん振っていることだろう。
「それで、何か用があって来たんじゃないのか?」
「ん?……あ、そうだった!」
思い出したかのように飛び起きたティオナは馬乗りになって顔を近づけてくる。近い。彼女の顔立ちはまだ幼さが残っているものの非常に整っており、綺麗というよりは可愛いという言葉の方が似合う容姿をしている。
そんな彼女に至近距離から見つめられれば大抵の男なら意識してしまうかもしれないが、生憎俺にとってティオナは妹同然の存在なのでそういう感情は一切湧かない。
ティオナも俺を兄のように慕ってくれているようなので、恋愛対象として見られていないことは分かっている。とはいえ異性相手にここまで無防備になれるものなのかと思うが、それだけ信頼されているということだろう。
「ねぇ、ケイ。今日暇?」
「暇といえば暇だが……」
「じゃあさ、買い物に付き合ってよ!」
「断る」
「即答!?」
断られることを微塵も想定していなかったティオナは驚きの声を上げるが、それも当然だろう。誰がこんなクソ暑い中買い物に付き合わねばならんのだ。
暇とは言えど、わざわざ炎天下の中外出するくらいならば自室で紅茶片手に読書をしていた方が遥かにマシである。
「なんでダメなのー?」
「暑い、疲れる、面倒くさい」
「うわぁ……で、でもさぁ、ケイってずっとホームにいるじゃん。たまには外に出た方がいいよー?」
「余計なお世話だ。それに、そもそも買い物ならレフィーヤ達と行けばいいだろ。どうしてわざわざ俺を連れていく必要があるんだよ」
「だって、今日はみんな忙しいっていうから……それにケイと一緒に行きたいの!」
「どうせ荷物持ちとかさせようって魂胆だろ?」
「うっ……そ、それは、そのぉ~」
痛いところを突かれたといった様子で目を泳がせるティオナ。やっぱり図星か。ロキ・ファミリアの面々は基本的に多忙なため、なかなか予定が合わない。そこで俺に白羽の矢が立ったわけだが、脳内に嫌というほど鮮明に残っている記憶のせいで、俺はティオナとの買い物に良いイメージがなかった。
「ほれ、分かったらどいてくれ。俺は読書がしたいんだ」
「ええー! いいじゃん! 行こうよー! ねーねー!!」
こうなるとティオナはなかなか引き下がらない。騎乗位状態で駄々っ子の如く身体を揺すってくる姿を見ると、本当に同い年かと疑いたくなってきた。しかしここで折れるわけにはいかない。というかこの体勢はいろいろまずい。主に下半身が……。
「ダメだ。というかいい加減降りろ。重いんだよお前……」
「重くないもん!」
「いや、実際重―――」
「重くなんかないったら!!」
「…悪い」
有無を言わせない迫力に思わず気圧されてしまう。こういうところは本当にティオネそっくりだと思う。普段は天真爛漫だが、時折見せる威圧感は姉のソレと同じものがあり、アマゾネスの気質というものを垣間みた気がする。
「……どうしてもダメ?」
「……」
「お願い、一緒に行こ? ねぇ、ねぇってばぁ……」
潤んだ瞳で懇願してくるティオナ。昔から俺が押しに弱いことをよく知っているからこその行動だろう。こうされると強く出られない自分を情けなく思うが、こればかりは仕方ない。
「……はぁ、分かったよ。行くからとりあえず離れてくれ……」
「やったぁ!! ありがと、ケイ大好き!!」
はしゃぎながら抱き着いてくるティオナを引き剥がしながら立ち上がる。まったく、調子の良い奴め。
「そうと決まれば早く準備しなきゃ! ケイも急いでね!」
「了解っと……」
そう言うや否や、ティオナは慌ただしく部屋を出て行った。俺は溜息を吐きながら本を片付け、出かけるための身支度を始めた。髪を整え、黒のインナーの上から軽装の革鎧を身につける。
下は快適さ重視でハーフパンツを選択し、最後に愛用している革製のポーチを腰に巻きつければ準備完了だ。ティオナは既に準備を終えているようで、リビングに行くとソファに座って足をパタつかせていた。
「待たせたな」
「んー、全然待ってないよ! じゃあ、しゅっぱーつ!」
元気良く玄関に向かって歩き出すティオナの後を付いていき、俺達はホームを後にした。
◇ ◇ ◇
「あっついぃ~」
「だから言っただろ、クソ暑いって」
「だって……まさかここまでとは思わなかったんだよぉ……」
ホームを出て早数十分、ティオナはこの暑さに不満たらたらの様子だった。かくいう俺も予想以上の暑さには辟易しており、既に帰りたい気持ちが溢れ出している。
今すぐ涼しい自室に戻りたいという衝動をなんとか抑えつつ、俺は隣で文句を言い続けるティオナに視線を向けた。今の彼女はいつもの露出の多い格好ではなく、白のキャミワンピを身に纏い、頭には鍔の広い麦わら帽子を被っている。
普段とは違った清楚な印象を受けるその服装は、彼女の持つ活発さとのギャップも相まって非常に可愛らしく見える。
「……なぁに?」
「…いや、似合っているなって思っただけだ」
「ほんと!?」
「ああ」
「えへへ……ありがとう」
恥ずかしそうに頬を染めて笑う姿に不覚にもドキッとする。こいつは時々こうして不意打ちを仕掛けてくるから油断ならない。
「それで、どこから回るんだ?」
「う~ん、最初は服屋さんかなぁ」
「了解」
俺が了承すると、ティオナは嬉しそうな表情を浮かべて腕を組んできた。
「暑いし、歩きにくいんだけど……」
「いいじゃん別に~。それよりほら、早く行こっ」
ティオナに引っ張られるようにして歩くこと数分、目的の店に到着した。店内は冷房が効いているのか、外に比べるとかなり過ごしやすい。ティオナはすぐに夏用の衣類を探し始め、俺はそんな彼女を見守りながら店内を物色していた。
「ねぇねぇ、これどうかな?」
いつの間にか戻って来ていたティオナが見せてきたのは、胸元が大きく開いたノースリーブのブラウスだった。ティオナのスタイルならとても映えるだろう。
「いいんじゃないか? 試着してみたらどうだ?」
「うん!」
満面の笑みで返事をしたティオナは、店員に声をかけてから奥へと消えていった。その間に俺は他の商品を見て回り、適当に気に入ったものをいくつか買っていくことにした。しばらく待っていると、試着室のカーテンが開き、中から先ほどのシャツを着たティオナが出てきた。どうやらサイズもピッタリみたいだ。
「ケイ見てみて! どお? 可愛い?」
その場でくるりと回って見せるティオナ。その仕草はどこか子供っぽく見え、思わず微笑んでしまう。
「ああ、すごく良いと思うぞ」
「本当? やったぁ!!」
喜ぶティオナを見ていると、自然とこちらも笑顔になる。やはり彼女にはこういった明るい雰囲気がよく似合う。
その後もティオナのショッピングに付き合い、俺の両手は大量の紙袋で塞がっていた。しかしティオナの方はまだ買い足りないらしく、次の店に向かうと言って俺の手を引っ張ってくる。正直もう勘弁して欲しいところだが、楽しそうな彼女を見ていると無下にすることもできず、結局そのまま付き合うことになった。
「次が最後からね!」
「はいはい……」
そう言って連れてこられたのは裏路地にある小さなアクセサリーショップだった。あまり客もいないようで、閑散としている。ティオナはその店の扉を開けるなり、ずかずかと入っていった。俺もそれに続いて中に足を踏み入れる。
「いらっしゃいませー」
レジにいた女性の声を聞きながら店内を見渡すと、そこには様々な種類の指輪やネックレスなどの装飾品が置かれていた。どれも精巧に作られており、見る者を魅了する美しさを放っている。
暫く散策していると、壁に掛けられている一つのペンダントがふと目に留まる。銀色に輝く鎖の先には青い宝石のようなものが付いており、何故かそのデザインに惹かれた俺は吸い寄せられるようにそれを手に取った。
「……綺麗だな」
「でしょ?」
いつの間にか隣に来ていたティオナが得意げに言った。
「それはね、この辺じゃ有名な魔石職人が作ったものなんだって。確か名前は……ラピス・アクアマリンだったかな」
「へぇ……」
確かにこれは美しい。特に青の部分がとても幻想的だ。まるで水をそのまま結晶化したかのような透明感があり、見ているだけで心が洗われるような気がしてくる。
「気に入ったの?」
「……まあな」
「そっか。じゃあ、プレゼントしたげる!」
「は?」
突然の提案に困惑しているうちに、ティオナは俺からそのペンダントを取り上げると、「ちょっと待ってて」と言い残して再び店の奥へと消えた。それからしばらくして戻ってきた彼女の手には、例のペンダントがあった。
「はい、これあげる」
「いや、でも……」
「いいから受け取ってよ。今日付き合ってくれたお礼だよ」
「……」
そう言うティオナの顔は少し赤くなっているように見える。照れ隠しなのか、彼女は俺の首の後ろに手を回してきた。そして、ゆっくりと顔を近づけてくる。
「お、おい、ティオナ」
「じっとしてて……」
抵抗しようとするが、ティオナが耳元で囁くように言ってきたため動きを止める。すると、首に何か冷たいものが触れたかと思った瞬間、カチリという音が鳴った。
「うん、似合ってる」
首元には先程のペンダントがかけられていた。青の輝きを放つその宝石はとても美しく、まるで自分の体の一部になったかのように馴染んでいる。俺は無意識のうちにそれを手で触りながら、ティオナの方に視線を向けた。ティオナは頬を赤く染めたまま、満足気に微笑んでいた。
「ありがとな」
「えへへ……どういたしまして」
ティオナは嬉しそうに笑うと、俺の手を握ってきた。
「帰ろっ」
「そうだな」
ティオナに引っ張られるようにして店を後にする。外に出ると同時に夕日が落ちかけており、空が茜色に染まっていた。紅い光が俺達に降り注ぎ、街全体が黄昏の色に包まれる。その光がペンダントの青色をより一層際立たせ、より幻想的な光景を生み出していた。
「綺麗だね」
「ああ」
二人で並んで歩きながら、そんな会話を交わす。気づけば、先程まで感じていた疲れは無くなっていた。ティオナと過ごす時間はあっという間で、とても楽しいものだった。
「ねえ、ケイ」
「ん?」
「―――――」
ティオナが小声で何事かを呟いたが、人通りの多いこの場所では聞き取ることができなかった。やけに街ゆく人の声が耳障りで煩わしい。
「悪い、よく聞こえなかったんだが……」
「ううん、何でもない! ほら、早く帰ろ!」
ティオナの方を見ると、彼女はいつものように笑っている。しかし、何故だろうか。俺の目には、彼女が泣いているように見えたのだった――――
またもや不穏な展開に……