ひとまず、身を隠せる事ができた俺達がこれから行う行動についてを、話し合う事にした。
というよりも、未だに俺自身はこの世界の事について、よく分かっていない所が多い。
この世界は、いわゆるよく異世界ファンタジーでよくある世界というのは理解できている。
文明も未だに発展途上の所が多く、戦争は多く行われている。
その中で、俺達の世界にはなかった存在として、転移者という存在が大きいらしい。
始めは偶然らしく、転移者をこの世界に呼び出した。
その最初の転移者も元々の世界では何の力もない普通の市民だった。
しかし、転移した際に得た能力は、まさに魔法というべき代物であり、当時の世界にとってはまさに最強の存在と言えたらしい。
そこから多くの国が、その転移者を召喚するようになった。
その最中で、本来ならば存在しなかっただろう魔物や魔法といった存在も現れるようになった。
ここから簡単に分かるが、どうやら現在の異世界ファンタジーというべき世界になったのは、元々は転移者達の能力が影響しているらしい。
その為、オリジナルよりも力が弱くなっている為、基本、この世界の住民は転移者には勝てないらしい。
それが、常識であった。
しかし、俺の魔力提供を行う事によって、与えられた者の力が上がる。
その能力は転移者と同等か、それ以上の力を持つ可能性すらある。
「あれ、という事はほとんどが転移者の仕業という事?」
「まぁ、そうなりますね」
そう言いながら、俺はそれまでを朱菜から聞いた話の感想を思わず呟く。
「それで、これからどうしたら良いのか」
「まずは、王国の侵略行為をなんとかする必要があります。
このまま王国の領地が増えれば、私達が生き残る可能性が低いです」
「まぁ、そうだけど、どこに行けば」
「それならば、良い所があります」
その言葉と共に、リグレットさんが教えてくれた場所は。
「帝国?」
「現在、王国が攻めている国よ。
王国と比べたら、魔法文明が発展しているから、そこを狙っているはずです。
そして、救援すれば、上手くいけば協定も結べるはず」
「けど、そんなに上手くいくのか」
そう俺が悩んでいると、全員の視線がこっちに向く。
「まぁ、この馬鹿はある意味、人を信頼させる事に関しては天才だから、なんとかなるでしょ」
「えっと、ベルベットさん」
その言葉は信頼されているからこそ出てくるけど、何気に傷つく。
「そっそれだけ信用されている事ですから」
「そっそうですよ、それにキドさんだったら、無事に協定を結べますから」
そう慰められながら、帝国を王国から助ける為に向かった。
向かったのだが。
「なんだか、圧倒的だな、シオン」
「まぁ確かに」
現在、俺とシオンは目の前の光景に呆然としていた。
それはベルベットを始めとしたメンバーが王国兵を簡単に蹴散らしていたからだ。
魔力提供の影響で、ここまでの力を発揮されているとは思わなかったが。
そうして、戦いをしている中で、俺の視線はある所に目を向けた。
その周辺はやけに霧が多かった。
だが、よく見れば、地面が凍るのと同時にすぐに燃やされている為、それによって霧が発生しているのだろう。
「あれって、紅字」
「あいつが」
そこには、俺のクラスでは不良で通っている問題児である紅字がいた。
まさか、既にクラスメイトが行動をしていた事に、俺もシオンも驚きを隠せなかった。
そして、それに相対しているのは、美しい長い金髪を揺らした女性が凍らせながら、戦っている。
対して、紅字はその手に持った炎の剣を使い、氷を溶かしながら、進んでいる。
それはまるで狩りを楽しむ様子で。
「レン、頼めるか?」
「別に良いけど」
「悪い」
その言葉と共に、レンの姿は己の肉体を武器に変える。
それと共に、俺の右腕には結晶のような質感を思わせる風をまとった大剣に変わる。
俺はそのまま女性に向けて、振り下ろそうとした炎の剣をそのままレンで受け止める。
一瞬の事で、驚きを隠せない紅字はそのまま後ろに下がる。
「お前は、キド。
生きていたのか」
「あなたは一体」
俺の登場に驚きを隠せない女性に背を見せながら、俺はそのまま紅字を見つめる。
「まさか王国から脱走したお前がここにいるとはな。
しかも、お前、魔力提供というだけの雑魚のようだな」
「相変わらずの口の悪さだな。
けどまぁ、こんな悪さをしているんだったら、ここで止めさせて貰うぞ」
俺はそう言いながら、レンをそのまま構える。
「なんだ、それは。
まぁ良い、ここでお前を燃やし尽くしてやるよ!!」
同時に紅字はその手に持った炎の剣を両手で構えながら、放ってくる。
俺は瞬時にレンを盾にして防ぐ。
「ちっ……そんなものでどうにかなると思うな!! 」
そのまま連続で紅字は炎の剣を叩きつけてくる。
一撃一撃は確かに重い。
しかし、それを全て受け止める。
だが、それらの攻撃は羽のように軽い為、紅字の攻撃を受け流すだけで済んでいるのだ。
そして攻撃を防ぎ続ける中で俺は反撃の機会を狙う。
このままではジリ貧なのは目に見えているからだ。
だから、その時を待つために受け流し続ける。
紅字の攻撃を防ぐ度に、火花が激しく散り始める。
「この程度で俺の炎の剣を受けきれると思ってんのか!? いい加減にしやがれ!!!」
紅字が更に激しく炎の剣を振るう。
もはや暴風と言っても良いほどの勢いで振るわれる炎の剣に対して、俺はただひたすらに耐え続けた。
耐え続ければ、必ずチャンスが訪れるはずだと信じて。
「くそが! さっきから黙って避け続けてんじゃねぇぞ!」
苛立ち始めた紅字を見る。
焦っているようだ。
僅かでも、少しずつでも届く。
だからこそ、チャンスを逃さないように、冷静に。集中しろ、相手を見ろ、観察し続けろ。
相手の癖を見つけるんだ。
例えば……右手に持つ炎の剣を振り下ろすとき、僅かに動きが止まる。
その隙を狙って、俺は左手に持つレンで突きを放つ。
「おらぁ!!」
紅字も反応するが、それよりも早く俺の攻撃が届く。
確かな手応えと共に、レンを振り上げる。
炎の剣はそのまま宙に舞う。
それによって、炎の剣によって支えられていた紅字自身も体勢が崩れる。
俺はすかさず右拳を強く握り締めた。
狙うは顎先だ。
そこならば意識を奪うことは出来るだろう。
俺は素早く間合いを詰めると、拳を突き出す。
だが。
「いぃ!」
俺はそれを見た瞬間、後ろに下がる。
そこには、吹き飛ばされたはずの紅字の炎の剣だった。
「よく考えたら、そうだよな」
スキルで作り出した剣であれば、瞬時に作り出す事ができる。つまり、わざわざ2本も作らずとも良かったわけだ。
「ちっ……」
紅字は舌打ちをしながら、再び2本の炎の剣を作り出す。
「面倒臭い野郎だぜ」
そう言いながら、こちらに向けていく。
俺自身は戦える訳ではない。
こうして戦えるのは、少なくとも知り合った皆や、レンのおかげでもある。
だけど。
「負ける訳にもいかない。
そして、誰も死なせたくない」
その想いだけが、今の自分を支えている。
だから、俺はこの男を倒す為に駆け出した。
紅字は、その両手に持った炎の剣をまるで鋏のように重ねる。
それによって、巨大な炎は、俺を囲むように迫ってくる。
だが……
俺もまた、構える。
「うおおぉお!!」
炎が触れる前に、レンを振り上げる。
それと共に俺を中心に円を描くような風の刃と風圧で炎を散らす。
それは、紅字の両手にある炎の剣を消し飛ばす。
その一瞬の隙と共に、俺はそのまま剣の峰を叩き付ける。
「がはぁ!!」
それに、紅字は完全に避ける事ができなかった。
そして、そのまま紅字は完全に吹き飛ばされて地面へと倒れ込む。
完全に意識を失っているようだ。
これで……
「終わったか……」
ゆっくりと息を吐く。
疲労で身体中が痛む。
特に両腕は痛みを通り越して感覚がないくらいだった。
それでもなんとか立ち上がる事は出来た。
それから俺は変身を解く。
そうすると、すぐに身体中の傷口から血が流れ始める。
「ぐっ……」
激痛に耐えながら俺は倒れる紅字を見る。
地面に倒れたまま動かない。
それは、俺もだった。
「あなたっ、大丈夫なの」
そう最後に見えたのは、先程助けた女性の心配してくれる顔だけだった。