突然、捕らわれた牢獄から無事に脱出した俺達は、すぐに町から離れていった。
異世界転移され、脱獄した事がバレれば、すぐに王国の兵士が追ってくる。
その危機からの脱出の為に、俺達は既に遠く離れた場所まで移動してきた。
「ふう……ここまで来れば大丈夫だろ?」
俺は安堵の息をつく。
あの牢獄から脱出するだけでも大変だったっていうのに、そこからさらに逃げ延びてようやく落ち着ける場所を見つけたんだ。
正直、疲れたぜ……。
そう思いながら、既に夜になっていた。
ベルベットは、疲労の色すら見せていない。
「さすがにこの辺りなら大丈夫よ」
そう言いながらも、周りへの警戒を怠らないベルベット。
本当に頼りになる奴だよ。
しかし、そんな彼女の様子に安心していられるほど、俺は楽観的じゃなかった。
「それにしても、異世界転移ね。
そんなに、この世界は危機的状況なのか」
「そうね。
あんた達の常識だと、こういう状況では世界の危機だと考えるわね」
「んっ?」
何やらベルベットは既に訳を知っているような顔だが。
「どういう事なんだ?」
「貴方達が異世界転移をした目的は単純よ。
兵器として、扱う為よ」
「はっはぁ!?」
兵器って、それって、俺達の事なのか。
「どういう事なんだ?」
俺は、その言葉に上手く呑み込む事ができずに、そのままベルベットに問いかける。
「異世界から来た人間は、どういう仕組みか分からないけど、高いスキルやステータスを持っている。
それに関しては未だに分からないけど、多くの国はそれに着目して、異世界から次々と呼び出しているわ」
「嘘だろ。
けど」
それだったら、確かに俺だけが外れと判断したら、すぐに連れ去れた。
他のクラスメイトが気づかない程に素早く。
「だけど、それはどうして分かったんだ?
普通に考えて、こんな事分かるはずがないと思うんだけど」
「王の近くにいる奴が、鑑定したんだろ。
それですぐに分かったんだろ」
そう言いながらベルベットは呟く。
「そうして、見込みのない奴は牢屋に。見込みのある奴は城で訓練という名の洗脳を行うな」
「洗脳って」
「異世界転移をしてきた奴は、この世界の常識などない。
そこで、自分達に都合の良い事実を思い込ませる事で、都合の良い兵器の完成という訳」
そう思うと、確かにあの時の雰囲気は、まさに自分達が選ばれたという感覚に、陥っていただろう。
俺も牢屋に入れられていなかったら、あぁなっていたんだろう。
「まぁ、それも私がキドに都合の良い嘘を吹き込む為かもしれないけどね」
そうベルベットは皮肉めいた事を言う。
けど。
「まぁ、だとしても。
俺を牢屋に入れた王様が正しくても、逃げる時に俺に手を伸ばしてくれたベルベットを信じるよ」
「・・・あんた、馬鹿って言われない」
「えっなんで、それを!」
まさか、ここに来て、馬鹿と言われるとは思わなかった。
「まぁ、良いか。
お人好しの馬鹿だったら、信用できるから」
「そっか、だったら、んっ?」
そう俺達が言っていると、何か気配のようなのを感じた。
気になった俺はそのまま向かうと、そこには人が倒れていた。
「えっ、人が倒れている!」
俺はすぐにその人に駆け寄った。
その肌はピンク色で、薄桃色の髪に白磁のような角を持つ女性だった。
「この子は?」
「オーガ?
なんで、こんな所に?」
そう、ベルベットが疑問に思っていると同時に何かを感じたのか、そのまま振り返る。
同時にベルベットの左腕が魔物の腕へと変わると共に、襲い掛かってきた存在に目を向ける。
見れば、倒れている女性と似た特徴が見られ、種族としては、オーガであり、紫の髪と黒曜石のような角が特徴的だ。
「姫から離れろ」
「えっ、えっ、どういう状況!?」
「さぁね、ただこいつがこっちを殺す気なのは、間違いないようね!」
同時にベルベットは襲い掛かってきたオーガに魔物の腕を振り上げる。
牢獄を容易く壊す事ができる程の剛力と言う事もあって、近くの木々を簡単に破壊する事ができた。
それに対して、オーガは手に持ったモーニングスターで受け止めていた。
しかし、それで砕けてしまい、オーガの手には武器がなかった。
「ぐっ、まさか人間でっ」
「悪いけど、敵対するんだったら、容赦なく、殺す」
同時にベルベットはその手を大きく開く。
あのままでは、オーガは死んでしまう。
「ちょっストップ!!」
「なっ」「えっ?」
さすがにそれを見過ごす事ができなかった俺は、そのまま2人の間に入る。
ベルベットは瞬時に、その場で止まり、オーガはよく分からない表情で目を開いていた。
「ベルベット、別に殺す必要はないだろ。
その、オーガの人も悪い人とは限らないだろ」
先程の言葉から考えても、オーガは倒れている姫を助ける為に襲撃した。
ならば、彼女は悪人ではないだろう。
「別に悪人だろうと、善人だろうと関係ない。
私達は、今は逃亡中。
それで敵対するならば、潰すだけよ」
そう、ベルベットはこちらを睨む。
だけど、こればかりは引き下がる事はできない。
なけなしの勇気を振り絞るように、俺はベルベットを見つめる。
そうして、数秒、数十秒と経つ。
「はぁ、底抜けのお人好しで馬鹿とは思っていたけど、良いわ」
同時にベルベットも魔物の手を元に戻した。
「ふぅ、えっと、そこの人。
大丈夫でしょうか?」
「えっはっはい。
怪我は、ありません」
そう、オーガの人は少し戸惑いながらも話す。
「それは、良かった。
とりあえず、どっか落ち着ける所に移動しないか。
姫様も、このままじゃ、風邪を引くし」
「あっあぁ」
そのままオーガの人は僅かに警戒しながらも、姫様を抱えた。
「近くに洞窟がある。
とりあえず、そこまで案内します」
「本当か!!
ほら、ベルベットも!!」
「別に。
まぁ、野宿よりはマシかもしれないけど」
そう、ベルベットも連れて、俺達はそのまま洞窟に向かって、歩き出した。