暗殺者であるイヴちゃんが旅の仲間になって、俺達はようやく目的地に向かって、辿り着く事ができた。
「そう言えば、キド君達は元々、どこに向かっていたの?」
「魔国よ」
「魔国?」
その言葉に、イオは首を傾げる。
「魔物と似た特徴を持つ人種。
魔人が多く住む国よ。
その種族は多種多様で、中には悪魔もいるらしいわ」
「魔国。
そんな国があったんですね」
「イオは、こちらに来てから、情報は」
「あんまり。
王国で僅かな情報だけだから」
「まぁ、けど。
ある意味、丁度良かったかもしれないわ」
ベルベットはその一言と共に、イオから聞いた話を思い出しながら言う。
「丁度良いと言うと?」
「あんた言ったわよね。
500年前の最初の転移者。
それを含めて、魔国の奴らから聞く事ができるかもしれないから」
「えっそんな事、できるんですか!」
イオはその一言に対して、驚きで目を見開く。
「魔国に済む魔人達は、その種族の特徴から長生きをする者は多いです。
中には1000年は生きている者もいるわ」
「そんな人達が。
でも、それだったらもしかしたら転移者の事を知っているかもしれない!」
その言葉に希望を持ったのか、イオは笑顔を見せる。
「だけど、油断だけはしないように。
魔国の危険度はかなり高い。
余所者を相手に。
特に、キドは」
そう俺の方へと振り向く。
「……キド」
「えっと、これはやばいかも」
その時、俺はなぜか現れた集団に思いっきり担がれ、誘拐されていた。
口には布があり、喋れなかった事もあり、会話に参加できず、俺は必死に暴れるが、抵抗もできなかった。
「あの馬鹿!
言った傍から!!」
すぐにベルベットやイヴちゃんも追いかけてきたが、奴らはどうやらこのような逃走は慣れているのか、隅に隠れたり、地下に隠れたりして、逃げ切った。
その事に俺は焦りながらも、やがて連れてこられた場所は、やけに豪華な一室だった。
「ここは」
「やぁ、君が噂の転移者だね」
そう、俺の前にいるのは一人の女性だった。
紫の髪をサイドポニーテールにした女性。
豪華な黒いコートを身に纏っているようだが。
「まずは僕の自己紹介だね。
僕はウルティマ。
まぁ、この魔国で裏を支配している悪魔だよ」
「あっ悪魔!?」
魔族に似た存在がいるとは聞いていたけど、なぜこんな所に?
それにしても、やっぱり悪魔なのか。
見た目的には美人なんだけど、どこか危ない雰囲気を感じるんだよな。
「さて、僕としては君に興味があるんだよね」
「興味ですか?」
「うん。
君は転移者で間違いないよね」
「はい。
そうですけど」
すると彼女は嬉しそうに笑みを浮かべる。
「なのに、むっちゃ弱いよね!!」
「まぁ」
その言葉を否定する事はできなかった。
「あの場にいた面子。
見ただけでも、かなりレベルが高いのは分かる。
けど、その中でも君が弱すぎる。
だからこそ、君に聞きたい事があるんだよね」
「聞きたい事?」
「そう。
君の能力について」
彼女のその質問に対し、俺は思わず息を飲む。
それは自分の能力を知られる事に対する恐怖もあるが、何よりも目の前にいる相手の正体が気になったからだ。
「君は王国に召喚されたけど、すぐに牢屋に入れられた。
それは君のあまりの弱さが原因だ。
けど、一緒に閉じ込められた魔人擬きともいえる彼女が急に脱走できる程の力を得た」
「それは」
「それって、君の能力に関係しているんじゃないの?
王国の奴らが一目無能だと思えたその能力って、何なの?」
そう、ウルティマはこちらに詰め寄る。
それに対して、俺は。
「まっ魔力提供だ」
「魔力提供?
それって、あのゴブリンとかが使う雑魚スキル?」
「あっあぁ」
そう、俺が答えると、ウルティマは心底驚いたように見つめる。
それから、まるで観察するように見つめる。
「ふむ、異常はなにもない。
嘘はついていないか、へぇ、それじゃ、王国の奴らに対抗できるようになったのは、その魔力提供のおかげなんだ!!」
「まぁ、そうなるかな。
俺は原理はよく分からないけど」
「まぁ、そうだよね。
転移者はだいたいは自分の力を深く理解していない。
だから、宝の持ち腐れになる事が多いからね」
そう言って、彼女は笑う。
しかし、次の瞬間には真面目な表情で口を開く。
「だから、僕と契約しないかい?」
「契約?」
その言葉に俺は首を傾げる。
「あぁ、君の魔力提供があれば、王国を滅ぼす兵士を作るのは簡単にできる。
だから、その力を僕達に貸して「断る」あれ?」
俺の一言にウルティマは思わずこける。
「えぇ、なんで?
君にとっては結構良い条件だと思うよ」
「だって、それは王国の人々を殺す事になるんだろ。
だったら、お断りだ」
「君をこの世界に無理矢理呼んで、閉じ込めたような奴らだよ。
そんな奴らに、なんで気を遣うの」
「悪人だろうと、死んじゃいけない。
生きているんだったら、罪を償うべきだ」
「君の考えは甘いんだよ!! 甘すぎる。
あいつらは君達みたいな弱者を殺してきた屑共なんだよ。
それを生かすなんて間違っている!!」
「確かに、お前の言う通りかもしれない。
でも、やっぱり、死んだ方が良い人間もいると思うぞ。
だけど、やっぱり俺は誰かが死ぬ選択肢は絶対に取らない」
俺の言葉に、ウルティマは一瞬呆気に取られる。
「いやぁ、人間って、訳が分からない人間だと思っていたけど、ここまでとは。
大抵はこういう気遣いのある言葉でころっと騙されるけど、君って馬鹿なのかい」
「馬鹿って言われるのは慣れている。
何よりも、誰かを殺すのが頭が良いんだったら、俺は馬鹿で十分だ」
そう俺はウルティマに向けて言う。
「嘘を言えば、苦しむ毒なのに、苦しむ様子はない。
と言う事は、本当に本音で言っているようだね」
そうウルティマは呟くと、しばらく黙り込む。
そして、突然笑い出す。
「アハハハハッ!! 気に入ったよ。
僕は君が気に入ったよ」
そう、ウルティマはそのままこちらに乗り出す。
その瞳はまるで狂気染みた目で、俺の目を見る。
「これまでの転移者とはまるで違う弱者。
けど、その精神は善に近くて、ここまで強い! こんな人間は見た事がない。
だから、僕は決めたよ」
そう言いながら、彼女は立ち上がる。
すると、彼女の体から黒い霧のような物が溢れ出る。
それはまるで悪魔の力のようで、見ているだけで体が震え上がる。
だが、そんな中でもウルティマの瞳からは目が離せない。
「キド、これは契約だ。
君が最後まで善を貫けるかどうかの悪魔の契約だ。
それを貫く限り、この悪魔ウルティマは君の味方であり続けよう」
そう言って、ウルティマは手を差し伸べる。
「まぁ、味方になってくれるならば、心強いよ」
そう、俺は彼女に対して答える。
そして、俺も立ち上がり彼女と握手を交わす。
「それじゃ、さっそく、君の魔力提供をやってみようか」
「……えぇ」
その言葉に俺は嫌そうな顔をする。
しかし、ウルティマはそれを見て笑う。