※この作品はR-18です。

転生オークの暴虐日記   作:オークポーク

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魔暦1592年、厳冬の月、23日

魔暦1592年、厳冬の月、23日

 俺たちは敵軍を雪に染められた白い平原で迎え撃った。数の利を潰すには狭い地形が有効かもしれないが、相手にまた魔術師みたいな範囲攻撃をしてくる輩がいると不利になりそうだったんで広い場所がチョイスされたんだろう。

 灰色の冷たい空の下、揺らめく敵軍の旗にはユニコーンに跨り剣を掲げる天使の紋章。前衛にはラーブガールの時みたいな重装騎兵がズラリと並んでいた。前よりは数も多かったがな。

 だが俺たちからしたらもう騎兵突撃なんざ古臭い骨董品のようなもの。グルジュマに率いられた俺たちの隊はいの一番に前に展開して、モーニングスターと盾を構えた。しかも今回は前と違って急拵えではなく、金属で補強したちゃんとした盾。更にすぐ後ろにはゴブリンの弓兵を配置して遠距離攻撃をさせて相手の数を減らしつつ、突っ込んできた騎兵隊を楽々叩き潰した。

 騎兵突撃は永い歴史と伝統のある戦術だが、それゆえに聖軍はロクな研究もせずに過信しているだろう。最前列がモタモタしていても「俺にやらせろ!」みたいな感じでどんどん前に出てきては動きを止め、叩き潰される。俺たちからしたら入れ食いだ。

 

 ただ楽に終わると思っていた俺の前に次に出てきた連中はヤバかった。剣が刺さったハートの旗を掲げた連中は、一見すると馬から降りただけの騎士だったが、獲物がクレイモアやバスターソードなんかの大型の剣で、いかにも俺たちオークに対抗するための武器だった。

 奴らはやたらと身軽で矢の攻撃を避けまくり、接近してきては強烈な一撃の下に盾を破壊してきやがった。武器の質も段違いだったので、俺たちは盾を捨てて乱戦に入った。

 俺と対峙したやつはやばかった。前に戦った隊長格と同じように、鎧に金色の筋が入っていた。恐らくエリートの証か何かなんだろう。モーニングスターを振り下ろせばちょいと体を逸らして回避され、剣捌きは嵐のように苛烈で避けるのに必死だった。危うく二度目の死を予感したくらいだった。

 だが俺はこの楽しすぎる新しい人生を長く楽しむため、生き残るために鍛錬を重ねてきた。剣の対処法も訓練してきた。

 俺は回避に徹して奴の大剣が止まる一瞬の隙を突いてモーニングスターを振るい、鎖を刃に巻きつけて思い切り引っ張った。人間がオークの腕力に敵うはずもなく、奴は体を引っ張られながら俺の方へ倒れ込んで来た。俺は更に力を込めて大剣を奪い取りながら奴の手から離し、空いている左手で奴の右腕を掴んで身体を何度も地面に叩きつけた。そして適当なところで手を離し、動かなくなったところへモーニングスターで何度も何度も殴打して鎧がベコベコになり、隙間から血とか肉が飛び出るまで殴りまくった。

 その後、俺は周りの連中を見た。やはり苦戦しているようで負傷者や戦死者が出始めてきた。俺は奴の持っていた大剣を拾い、手近なところへ手助けに入った。敵の後ろからバックスタブを決めたり、頭を叩き割ったりした。多分十人くらいは殺したと思うが、その程度で戦線を維持なんてできるはずもなく、聖軍が更に兵力を押し出してきた時は危うく崩壊するところだった。

 

 見るに見かねた族長直属のエリート部隊『ブラザー・オブ・グリンゴルド』が前に出てこなかったらやばかった。奴らはオークの中でも選りすぐりのエリートで構成されていて、戦闘能力は百人隊長以上、頭脳はシャーマン並み、一晩で女を二十人は孕ませるという化け物らしい。

 恐るべき噂に違わず、グリンゴルドの連中は凄まじい戦いを繰り広げた。俺たちを散々手こずらせた金色筋の騎士たちをばったばったと、まるで木こりが森で作業する時みたいに薙ぎ倒していき、あっという間に戦線を立て直した。

 グリンゴルドの一人とすれ違ったが、その時奴は俺をチラリと横目で見て鼻で笑いやがった。嫌味な奴だったが任せきりにしたら面目丸潰れだ。グルジュマが「グリンゴルドに遅れを取るな!」と隊を鼓舞したので俺たちも負けじと前に出て戦った。好機と見たのか俺たちに遅れまいとしたのか、ゴブリンとリザードマンたちも前に出てきた。

 

 槍兵と魔術師には手こずったが、俺たちは次々に敵を薙ぎ倒していった。だが聖軍はとんでもない物を出してきやがった。遠目で見ると真っ白なライオンだったのだが、近づいてきたそいつに俺はビビった。体躯は5メートル以上ある巨体で、背中からは白鳥のような白い翼、尻尾からは蛇が生えており、なんと頭が王冠をつけた人間の女みたいでその下に丸出しの巨乳をぶら下げていた。

 後で爺様から聞いたのだが、聖勢力が使役するスフィンクスという化け物だそうだ。色が白いこと以外は完全に俺たち魔の勢力側の外見だと思うのだが、あれで聖獣らしい。

 

 スフィンクスはやばかった。エジプト神話よろしくクイズでも出してくるのかと思ったがそんな気配はなく、野獣そのものの凶暴性で俺たちに襲い掛かってきた。前足の攻撃はハタから見るとただの猫パンチなのだが、その一撃でグリンゴルドのメンバーの上半身だけが吹き飛んだ。ならば後ろからと回り込んだゴブリンとリザードマンたちが蛇の口から吐き出された火炎で丸焼けにされた。強行突破した俺の隊の仲間が攻撃した時に空へ飛んで逃げ、魔術の雷を落として仲間を丸焦げにしやがった。そしてそのまま空を飛び回りながら爆撃機みたいに雷の雨を降らし、散々かき乱してから悠々と地面に着地した。

 ゴブリンとリザードマンどもはビビって逃げ出しやがった。オークにも若干の士気の低下があった。が、天才俺はスフィンクスの付け入る隙を見つけていた。奴はグリンゴルドみたいなエリートどもの攻撃ではなく、俺たちみたいなペーペーの攻撃を空へ飛んでまで回避した。つまり防御力に関してはそこまでではないはず。

 そして攻撃に関しても、空を飛びながら火炎を撒けばもっと範囲が広いのに雷を使っていた。恐らくスフィンクスは空を飛ぶこと火炎を吐くことは同時にできない。そして奴は地上にいる時、真正面からの敵に対しては前足のパンチや噛みつきばかりしているので、正面には魔術を使えないんだろう。だから攻撃するなら奴が地上にいるタイミングで正面から攻めるか、或いは翼や蛇を破壊してから本体を攻撃するかだ。

 

 俺はスフィンクスが突っ込んでいっている連中に気を取られている内にグルジュマを見つけて俺の推察について話した。話を聞いたグルジュマはコクリと頷き、「ではまず奴の翼を破壊するぞ」と左翼に向かって走った。俺は右翼からだ。

 両翼を挟んだ俺たちは同時に攻撃をしたが、スフィンクスは巨大からは考えられない素早い身のこなしで後ろに飛んだ。そして上空から雷を降らせてきた。俺は予備動作を見てから横に転がって回避したのだが、なんとグルジュマは雷を剣で斬り払っていた。グリンゴルドの連中もそんな芸当できていないのに、兄弟も大概化け物だったな。

 なんとか雷を凌ぎきった俺たちはスフィンクスが着地した瞬間に再び斬りかかった。ずっと飛んでいれば無敵なのにやらないってことは飛行可能時間はそんなに長くないってことだ。そしたら奴はケツを大きく振って蛇を鞭のように叩きつけてきた。つい十数分前の俺だったら吹き飛ばされていたところだが、この時の俺は騎士を殺した時に拾った剣を持っていた。蛇が来る方向に向けて刃を置くように振れば、そんなに力を込めていなくても切断することができた。

 蛇を斬ったらスフィンクスは耳が痛くなるくらい甲高い声で叫んだ。思わず耳を抑えそうになるのを我慢して、蛇が半ばから切れたケツに向かって剣を振り下ろした。だが奴は後ろ蹴りを繰り出してきて、俺は吹っ飛んで何人か巻き込んで倒れてしまった。上半身が吹っ飛ばなかったのは咄嗟の一撃だったからだろうか。

 

 この辺はよく覚えていないんだが、チカチカする頭を抱えながら起きたらスフィンクスの左翼がなくなっていた。多分ちょっと気を失っていて、その間にグルジュマがやってくれたんだろう。

 

 戦線復帰した俺は再び攻撃に参加した。そろそろスフィンクスの体力も尽きてきた頃だろうと攻撃の勢いを強めた。ライオンのような胴体を斬りつけ、大量の血を噴き出させ、もうちょっとで殺せる。

 そう思った時に奴は切り札を出してきた。

 スフィンクスの頭上に光の輪が出てきた。嫌な予感がした俺は後ろに下がったのだが、その輪は大きくなったかと思うとスフィンクスを取り巻いた。するとスフィンクスの身体、丸出しの巨乳の隣から長い手が生えてきて、光の輪を掴んだ。光の輪はみるみる内に変形して、一本の剣になった。

 この剣がとにかくやばかった。剣身の長さが俺の身長の二倍くらいはあり、そのくせ全く重さを感じさせない素早さで振り回されるのだ。慌てて体を伏せたら周りにいた仲間の体が野菜みたいに切り裂かれていた。

 そんな様子をマジマジと観察している時間はなかった。何せすぐに次の一振りが襲ってくる。馬鹿みたいに地面をゴロゴロ転がってなんとか避けまくった。だが途中で武器を手放しちまった挙句、左肩の肉が一部切り落とされた。この時はマジで死んだかと思った。今もめちゃくちゃ痛い。火で傷口を塞いだから血こそ出ていないがずーっとジクジク痛んでいる。

 もう避けられないってところへ剣が振り下ろされた時はマジで死ぬかと思ったが、俺は助かった。グルジュマが俺を突き飛ばしたからだ。その代償に兄弟は左手を失った。

 怒りで頭が沸騰した俺は前に突っ込んだ。この時、不思議なことに燃えるように熱い頭とは対象的に周囲の景色は驚くほど冷たく見えた。それこそ先ほどまで速すぎてビビっていたスフィンクスの剣線が目でゆっくり追えるほどに冷たく感じていた。

 俺は剣を何気ない気持ちで避け、スフィンクスに急接近してジャンプし首回りに腕を回して足も組み付いた。全身の血管がブチ切れるくらい渾身の力を込めて締め上げたが、奴を苦しめることはできても落とすことは出来ずにいた。だが地面に背中を叩きつけられまくっても絶対に離さなかった。

 俺が離れたのはグルジュマの「モルググ! 離れろ!」という叫び声が聞こえた時。無意識に手を離すと大きな影が飛び込んできて、次の瞬間スフィンクスの頭が真っ二つに割れた。グルジュマが跳び上がり、片手だけで剣を振ってスフィンクスを殺したのだ。

 

 間抜けな事に、俺は安心してここで気を失った。次に目が覚めた時には夜で、野営地のテントの中で他の負傷者と一緒に寝かされていた。起きた時、ちょうどバラッグの爺様が鼻が曲がりそうな程臭い傷薬の入った鍋を抱えてやってきた。

 爺様から俺たちが勝った事を教えられた。聖軍は一部撤退したがほとんどは壊滅状態。女兵士の捕虜も大量に捕獲できたらしい。

 俺は安心して肩を落としたが、グルジュマの腕が切断された事を思い出し、爺様に止められるのも無視してテントから出て兄弟を探した。

 兄弟はすぐに見つかった。やはり左腕がなかった。俺は跪いて謝った。泣きながら謝った。だが兄弟は笑いながら「これも勲章だ」と許してくれた。だがこれでは軍団長への昇格は叶わないだろう。そう告げると、兄弟は驚くべき事を言った。

 なんとスフィンクス討伐の功績により特例として軍団長への昇格を認めてくれたらしい。明日はスフィンクスの心臓をラーガへと捧げる捧納祭のみを行うとのこと。

 だが腕はどうするんだと尋ねると、詳細は不明だが何とかなるらしい。一体どうするつもりなんだろうか。

 

 まあ、色々と大変な一日だったが、俺たちは勝ったんだ。その事実を胸に刻み、今日は寝るとしよう。

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