吐息を零す艶めかしい唇。呼吸の度にスーツの中で上下する隠しきれない膨らみ。放課後の探索中に伝線したのかストッキングから露出する脚の素肌。ベッドに桐須真冬を横たわらせた唯我成幸は、その蠱惑的な姿に生唾を飲み込んだ。
マンションの一室、狭い空間に二人きりという状況では彼を叱責する者はいない。本来その役目を果たすべき女性は彼の目の前で無防備に寝息を立てている。最早自分の足で歩くことすらままならず玄関で意識を手放した彼女の眠りは深そうだ。
「......いや、ダメに決まってるだろ」
触ってみたい、などとはもちろん言わない。彼が思ったのは、もう少しだけ真冬を見ていたいということ。学校では氷の女王とまで呼ばれる普段の近寄りがたさと、どんな夢を見ているやら顔を綻ばせている今の隙だらけの姿。そのギャップは......何と言うか、そう、愛らしかったから。ただ女性は寝顔を見られることを嫌がる。何らかの拍子で起きた真冬と目が合ったら、待っているのが説教なのは火を見るより明らかだ。
視線を切った成幸の視界に飛び込んできたのは部屋に居座るごみ袋の山。数日前に来て片付けたばかりだというにもうこの惨状では頭を抱えずにはいられない。片付けても片付けてもごみが充満する様子はまるで賽の河原だが、このまま放置というわけにもいくまい。折しもまだ残暑厳しい季節、虫でも沸こうものなら大惨事だ。片付けてから帰るかと部屋を整理整頓する仕事ぶりは慣れたもの。真冬が起きないようなるべく音を立てずてきぱきとまるで主夫のように片付ける成幸の表情は使命感に溢れている。その使命感こそが、彼を後にあんな目に合わせるとは夢にも思わずに。
ゴミの分別が終わり概ね片付いたところで、念のためベッドの下も覗き込んだ成幸は奥の方に何かを発見する。影になってよく見えないが、手を伸ばせば届きそうだ。
「まったくこんな所にまで......」
大方ごみ箱に放ったごみが入らず、転がってベッドの下にまで潜り込んだのだろう。やれやれと伸ばした手がそれを掴んだので引っ張りだしてみると、手の平の中にあったのはピンク色の楕円の物体だった。
「.......」
混乱した思考が物体と真冬、交互に視線を飛ばす。彼はそれを知っている。実物こそ今まで見たことはなかったが、こんなアイテムが世にはあることを知っている。男性が女性に、あるいは女性が自身に使うもの。例えば......目の前の大人の女性、とか。
「っ!?」
今までこねくり回していたものが実は不発弾だったと知った時のように、成幸は思わずそれを床に放り投げた。その拍子で楕円に着いていたコードの先がベッドの下から現れる。電源のオンとオフ、更に強弱を調節するスイッチだった。
「ろ、ローターだよな......これ」
女体から性的快楽を引き出すためだけに作られた玩具が一人暮らしの女性の部屋にある。その二つの事実が結びつけることは一つしかないように思える。
「先生が使ってるのか......」
絶対に知ってはいけない秘密を知ってしまった思春期の少年は妄想を働かせる。
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街と人が眠りにつく夜。静寂に包まれたマンションの外観とは裏腹にとある一室では殺しきれない官能の声が漏れている。上着はそのままにシャツの前を開き、ブラジャーの上から形の良い乳房をまさぐる。ゆっくりと性的興奮を高めるため乳首をいきなり触ったりはしない。乳房の周りから刺激する。
「あ......ふ」
片方の手は真冬の秘所へ。やはりいきなり下着の中へ手はいれず、ストッキングの上から秘裂を指でなぞる。なお室内着はジャージの真冬が妄想の中でスーツ姿なのは彼の趣味だ。形を確かめるように指が上へ、下へ這う。もどかしい刺激がより強烈な摩擦を求めても真冬は自分を焦らす。やがてショーツに触れた指がくちゅりと水音を立てはじめた頃、真冬はブラジャーをずらし、乳房を露出させた。形の良い二つの膨らみ、その中心で尖りが上へ向いている。
一度下着の中に手を入れて愛液でまぶした指で両の乳首をいじる。
「ひゃうっ!」
摘んだり引っ張ったり弾いたり。刺激を求めていた乳首は応えるようにますます充血していき、快楽を真冬へ返す。
「んっ、ひ、ああっ......!」
ローターのスイッチを入れて、弱い力で振動するローターをストッキングとショーツの上からクリトリスに押し当てる。急所を責められまぶたの奥で火花が散り軽く達した彼女は秘所から潮を噴きシーツを濡らす。だがこの程度では性欲を持て余した若い女体は満足しない。秘裂に張り付いたびしょ濡れの下着から浮き出る一点を更に攻める。
「くひっ......あん、ふっ、ひぃ.......!」
ヴヴヴ......と無機質な音を奏でるローターは耳まで犯す。淫らな喘ぎ声に蜜の音も加わって、卑猥の三重奏だ。
小さな絶頂を繰り返す真冬は一層の高みを目指すべく、ローターの振動を強にする。ストッキングと下着を脱ぐ間すら惜しく、ストッキングの股の箇所を破きパンツをずらして割れ目を露出させる。
......割れ目にモザイクがかかっているのは、女唇を生で見たことがない童貞少年の悲しみか。ともあれ、真冬はローターを直接クリトリスに当てる。その瞬間、意識が飛んでしまいそうな快感に襲われ、背中を伸ばし海老反りになる。
「ひぃやぁあああっ!あっ、ああっ!あん、あひぃいいいっ!」
聖職者の仮面を捨てて一匹の雌に戻った真冬は性の悦びを貪り尽くす。絶頂と潮吹きを繰り返し、シーツにみず溜まりを作ってもクリトリスからローターを離さない。ローターは己の性能を存分に発揮し、真冬をよがり狂わす。休むことを許さず、絶頂の渦に溺れさせる。
残った手も遊ばせてはおかない。痛いくらいに充血してい乳首を引っ張って虐める。出るはずもない母乳よ出てしまえとばかりに追撃をやめない。唇の端から垂れた唾が乳首にかかり、キラキラと卑猥に輝いて更なる興奮をもたらす。
「あっ、ああっ!い.......くっ、ひっ、イく。......!あああっ!イっちゃう......!いっ......くぅうううんんっ!」
繰り返していた絶頂とは別の最大最後の爆弾。それを爆発させるべく腟に指を二本挿入して腟肉を思い切りひっかいた。
「ふぁあああああああっ!」
全身を痙攣させて真冬は絶頂する。失神してもおかしくない怒涛の奔流。指を男根と錯覚した腟壁がは精液を搾り出さんと締め付けて、痛いほど。隙間から大量の淫蜜が飛び出し、もはや水溜まりでなく池を作ってしまいそうな勢いだ。いや、それだけでは終わらない。
緩みきった尿道から黄金の液体が漏れ出してシーツを汚しつくす。もはやシーツは大惨事だ。それでも、背中から倒れた真冬は愛液とおしっこの臭いが充満する中で確かに性の幸福に満たされていた。
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あまりにも生々しい妄想にパンツの中で痛いくらいに勃起している。変わらず眠り続けている真冬に成幸は劣情を抱いてしまう。このままではまずいと、成幸は後ずさった。これ以上部屋にいると、本当に何をしでかすか自分でもわからない。踵を返して玄関まで来たところで、成幸はあることに気づく。
「そうだ、鍵......」
このまま退出すると部屋の鍵を開けたままになってしまう。一人暮らしの女性の部屋を施錠もせずにに放置しては防犯上危険極まりない。となれば、一端鍵を持って共用廊下に出て外から鍵をかけて、ポストに鍵を投函すればいいだろう。鍵はポストの中にあると、メモも残しておかなければならない。確か真冬は鍵を上着のポケットの中に仕舞ったはずだ。成幸は足音を殺して真冬に近づいた。
規則正しい呼吸を繰り返す真冬に、胸が高鳴っているのがわかる。悪いことをする後ろめたさなどでは決してなく、異性への意識。どこかで自分と真冬を生徒と教師として一戦を引いていた成幸は、初めて真冬を一人の女性として意識していた。
失礼しますと声をかけて、上着のポケットに手を伸ばす。やましいことは一切ない、だから落ち着いて淡々とやればいいと自分に言い聞かせながらポケットだけを見ていた視界の端で、真冬の唇が微かに動いた。
「......て、る」
囁くようなその声は、静寂の中で凛と響く。
「私も......愛してる」
それはいつかの遊びのようで、彼女にとっては真剣な―――
「成幸君を、愛してる.......」
心臓が跳ねる。身体中が沸騰したように熱い。これは寝言だ。だから意味のないノーカウント。頭はそう言い聞かせるが、確かに聞いてしまった言葉は全身を駆け巡って熱となる。
「先生.......」
腕を伸ばしたまま硬直しているのがいけなかった。不意に目を開けて身体を起こした真冬に腕を引っ張られ、成幸はバランスを崩す。成幸が彼女に倒れるより早く、彼の首に手を回してその勢いのまま成幸の唇に自分のそれを口づけた。
一回目は。事故のようなもの。なら二回目はなんだろうか。文字通り目と鼻の先にある桐須真冬の顔。こんな時は目をつむるのがマナーなのだろうが、成幸は目を離せない。横を通れば男なら誰でも一度は振り向くような美貌の持ち主と、キスをしている。触れただけとか掠めただけとか、ごまかしのできないマウストゥマウス。柔らかい唇の甘美な感触は動揺を上回る気持ち良さで、ずっとしていたいと邪な願いすら抱いてしまう。
永遠にも刹那にも思える時間は真冬の方から離れたことで終わりを告げる。どちらからともなく息をついたのもつかの間、真冬は顔を真っ赤に染め上げる。小さな悲鳴をあげて、手で顔を隠してしまった。隠しはしても指の隙間から覗いているのはバレバレの秘密。
「い、今のは、その.......」
弁明しても墓穴を掘ってしまいそうで後の言葉が続かない。そもそも夢を見ていたのは真冬の方だ。夢の中でキスをする流れになって、キスをしてしまえば、それは夢だけど夢じゃなかっただけの話で......
何か起死回生の策はないかと周囲を見回す真冬の視線が一点で止まる。キスの衝撃で成幸も忘れていた、床に転がったままのローター。わなわなと身体を震わせはじめた真冬の思考はもうぐちゃぐちゃだ。
キスをする前から、詰んでいた。
「終わったわ......」
「せ、先生......?」
「辞職……明日辞職願いを学校に出すわ」
「落ち着いてください!」
成幸は必死で真冬を宥める。まるで普段の立場が逆転したかのよう。
「お、俺だって自慰くらいしますから!」
こんなことを言う成幸も真冬に負けず劣らず混乱している。だが、その告白にぴたりと真冬の身体は震えを止めた。
「そ、そうなの?」
自分が何を口走ったのか成幸はようやく悟る。失言は政治家のように撤回することはできても、なかったことにすることはできない。
「それはつまり......私でそういう妄想をしている、という、ことかしら?」
「……はい?」
二人だけの、秘密の夜が始まる―――