午前5時。
夜は更け、日が差していた。
中学2年生の葛城ミサトは寝室で寝ていた。
「起きろ」
父の声がした。
ミサトは瞼を開けると、そこには父がいた。
「早く逃げるぞ!」
父は焦っていた。
何をそんなに焦っているのだろう。
「何?」
父は慌ただしく、ミサトの手をつかむとひっぱりあげた。
布団から無理矢理出されたミサトは目の前で起きていることが何もわからなかった。
「痛い!」
「いいからこい!」
父は焦っていた。
「ちょっとまって、着替えたい」
ミサトは寝間着のままだ。
何をするにしても、このままでは……うまくいかない。
「バカなことをいうな! 今すぐにげるんだ!」
「待って、状況がよくわからない!」
その時だった。
ドン
轟音と地鳴りが響いた。
ミサトは思わず足を崩した。
「地震?」
父はミサトを無理矢理抱き起した。
「早くいくぞ!!」
ミサトは寝間着のまま玄関に出て、靴を履いた。
そして、一目散にマンションの外に向かった。
「何が起きたの?」
「説明している暇がない!」
外に出た。
近所の人間も何かに怯え慌てながら逃げていた。
何事だろうか、ミサトは目を凝らした。
そこにはいた。
100m以上ある大きな黒い物体が。
それは恐竜のようにみえた、あるいはディメトロドンのような単弓類にも……。
だが、その肌は岩山のように硬かった。
明らかにこの世界の生物ではない。
「アレは何……」
ここはマンションの12階、だがあの怪物はこのマンションより大きそうにみえる。
ミサトの住んでいる場所の近くに超高層ビルがあったが、それよりも大きい。
近所に数週間後にお披露目予定だった300mの超高層ビルがヤツの頭の近くにみえる。
父はミサトを手でつなぎながら必死に地面をかけていった。
外の世界ではサイレンが鳴り響いていた。
戦闘機からはミサイルが乱射された。
その全てが「それ」にあたっていた……そのはずだった。
だが、「それ」はビクともしていなかった。
父はミサトの手をつかむと強くひっぱった。
群衆から逃げないように……。
ミサトも父の手を強くつかんだ。
ふと、後ろをみた。
黒い怪物はゆっくり突き進むと、住宅街を踏みながら蹴散らしながら進んでいた。
ミサトの学校が怪物の膝にあたり粉砕していくのがみえた。
あたりには炎と黒煙がちりぢりになってみえている。
まるで胡椒をぶちまけたように……。
「あ……」
ミサトは息を呑んだ。
学校が壊された。
もう、学校にいけない。
面倒を見ていたウサギも、逃げ遅れたはずだ。
「父さん……」
「何も言うんじゃない」
ふと、横を観た。
そこには銀行に群がる群衆の姿がみえた。
男たちは武器を手にもち、銀行を襲撃していた。
「さっさと金をとれよ!!」
「おせんだよ!! 早くしろ!!!」
秩序が崩壊している。
日本は世界一安全な国じゃなかったのか。
女性の悲鳴が聞こえた。
何が起きているのかわからないが、なにもみなかったことにした。
ミサトは目を背け、父の手をただただつかんでいた。
怪物は突き進みながら、ゆっくりと群衆を追いかけるかのように前進した。
自衛隊の攻撃は1ミリもきいてない。
ミサトは走った。
足がちぎれるかと思った。
黒い怪物は噴煙の中をゆっくり突き進んだ。
小さい白い目がぎょろいとうごいていた。
住宅街を抜けるとミサトたちは近所の公園に近づいた。
「ヘリコプターはこっちです!!!」
声がした。
自衛隊か、やっとだ。
ミサトはためいきをついた。
周囲には人だかりができていた。
「まず最初は子供からだ!!!」
自衛隊が叫んだ。
それに反響するように群衆が叫んだ。
「私は妊娠してるのよ!!」
「俺は12歳だ、乗せてくれ!!!」
ミサトの耳にも、人々の怒号が聞こえた。
中には喧嘩する声もあった。
ミサトと父はもみくちゃになりながら、突き進んだ。
その時だった。
ミサトは背中を押された気がした。
ふと、振り向いた。
父が笑顔になっている。
「父さん!?」
「ミサト、お前は先に行け。俺は後でついていく……! 心配するな」
「待って、父さん! 父さんも一緒じゃないと!!」
ミサトはその時、自衛官が言った言葉を思い出した。
まずは子供が先。
そうか、父さんはあとなんだ。
「でも!」
「これを持っていてくれ」
父はミサトにあるものを手渡した。
ミサトは手の中にあるものをみた。
死んだ母の形見だ。
十字のペンダント。
「父さん! 待って!」
ミサトの声を無視した父は自衛官にミサトを差し出した。
自衛官はミサトの手を優しくつかむと、ヘリに乗せた。
他の子供たちも同じだった。
先ほど12歳とアピールした子供もヘリにいた。
「これ以上は乗せられない! 後で応援を呼ぶ!」
そういうと、自衛官は無理矢理ドアを閉めた。
群衆は悲鳴を上げた。
そして、ヘリは空中に飛んでいった。
ミサトは窓越しから父をみつめた。
「父さん……」
父が徐々に小さくなっていく。
空中に飛びあがっているからだ。
やがて、父は豆粒のように小さくなっていった。
辺りに雲か霧のようなものがかかっていった。
ヘリは市街地から離れたそのタイミングだった。
黒い影のバケモノの口が動いたようにみえた。
次に、バケモノの口は青白く光り輝いた。
「うわあああああああああああ!!!」
その場にいる全ての人間が悲鳴をあげた。
ミサトも同じだった。
ヘリの下にいる父も同じだった。
あまりのまぶしさに目を覆った。
その時、ヘリの操縦士の悲鳴が聞こえた。
「目が見えない!!!!」
「メーデー!!! メーデー!!! 墜落する!!!」
ミサトはあっという間の出来事に何が起きたのかわからなかった。
暗闇は世界を包んだ。
ミサトの全身を衝撃が痛撃が包んだ。
子供たちの悲鳴が聞こえた。
そのまま、ミサトは意識を失った。
数分後。
「!!!」
ミサトの世界に明るさが戻ってきた。
彼女は周囲をみた。
死体だらけだ。
さきほどの12歳の少年は頭にガラスが突き刺さっていた。
ヘリの操縦士も血だらけになり死んでいた。
ミサトはふと、窓越しからそとをみた。
朝だったはずが夕焼けのような茜色の光景が外に見えた。
「もうそんな時間……」
否、違う。
よくみると、太陽はまだ出ている。
ミサトは夕焼けではなく、東京は炎に包まれ炎上していることに気が付いた。
東京の街は、焼き尽くされていた。
ビルは飴細工のように溶けていた。
電車は踏みつぶされていた。
ふと、腹部に激痛がした。
ミサトはその時、血が出ていることに気が付いた。
そして、再び気を失いそうになっていると、声がした。
「……Hey!?」
外国人の声だ。
ミサトは手を差し出した。
男はそれをつかんだ。
「Girl Are you okay?」
「Somebody please !!!!」
外国人の男をよくみた。
米兵だ。
だが、防護服をきている。
男たちはミサトを回収すると引き上げた。
その中でミサトは再び意識を失った。
それから3時間後。
ミサトはすぐさま、医療班に救出された。
父はみつからなかった。
否、みつかるはずもなかった。
ヘリがいた公園の周囲1㎞は焼き尽くされ、黒焦げになっていた。
関東地方を襲撃した巨大生命体は『ゴジラ』と名付けられた。
ゴジラの放った火炎は東京から岩手県ま出を包み、5000万人以上を死に至らしめた。
その後、生き残っていた政府関係者を中心に、京都に新・首都を建設した。
ゴジラは太平洋に姿を消した。
と同時に世界中で巨大生物が姿をみせた。
カナダでは巨大なマンモスとゴリラの混ざった怪獣が、インドでは赤い巨大な不死身の怪物が、そしてナイジェリアのキリマンジェロからは巨大な赤い翼竜が噴火とともに姿をみせた。
その数年後、アメリカ西海岸で別のゴジラが出現をした。
それだけではなかった、ドバイでは日本やアメリカの個体より超大型のゴジラが発見された。
ブルジュハリファの2倍の大きさをした超大型はブルジュハリファを破壊した。
インドでは甲殻類型怪獣デストロイア、オーストラリアでは巨大イグアナそれぞれ出現した。
それからあと、アメリカ東海岸でまたゴジラが出現した。
これにより、太平洋NATOにいる米軍の勢力は撤退することとなった。
これを機としたロシア・中国はそれぞれのターゲットに攻め入った。
これ以降、日本は敵国とも戦争の出来る国として自衛隊を再編。
中国などと怪獣とも、戦争ができる「戦略自衛隊」として……。
人類は怪獣とも、人類とも殺し合う地獄の15年間を過ごすこととなった。
あるものはゴジラをこう呼んだ。
「破壊の神」と。