翌日、シンジと日向はミサトの葬儀を済ませた。
とはいえ、遺体は残っていなかった。
何もない空っぽの墓にはミサトのゆかりのものがいれられた。
ただ、ペンダントだけは入れる気はシンジにも日向にもなかった。
そして、それから数週間ほど。
4年間、行方不明になっていたシンジの叔父が見つかったというニュースがきた。
長い間ドイツにいたといわれている。
日向は叔父が来るまでの数日間、シンジと共に過ごし和解をした。
その間に、神戸基地にいた民間人の移設先も決まった。
洞木ヒカリとその家族も気がつけばシンジより先にいなくなっていた。
シンジは彼女に、別れを言いたかったが、それも敵わなかった。
またシンジを助けた浮浪者の青葉シゲルは名古屋に行くことを彼に明かした。
名古屋に親戚がいるとのことだ。
奇しくも、シンジも名古屋に移動することが決まった。
いつか、青葉と再会する日がくるかもしれない。
シンジはそう思った。
そして、シンジが神戸を去る時がきた。
「葛城さんのいう『カレ』が君だったとは……驚いたよ。そういえば、寝顔がかわいいとか、家にいるだけで癒されるとか、変だなと思ったけど…まあ年下なら仕方ないな。」
「恥ずかしいですよ。」
シンジは日向に苦笑交じりで話そうとした。
すると、彼の顔が見えた。
「かなわないなあ、キミには…。」
そうぼやくと、日向は悲しそうに笑った。
シンジはそれをみて、日向は本気でミサトを愛しているんだろうなと確信した。
「……日向さん。」
「なんだ?」
「ミサトさんは日向さんのこと、信頼していたんだと思います心の奥底から相棒として認めていたんだと思います。」
「だといいな。」
日向とシンジは笑い合った。
シンジも日向がここまでいい人だったとは思っていなかった。
日向がみると、シンジの叔父の車が来ているのが見えた。
元気そうだ。
日向はシンジに微笑んだ。
「……シンジ君、迎えが来たな」
「日向さん」
「なんだ?」
シンジは日向に頭を下げた。
「ちょっとの間、だけどお世話になりました。」
「悔しいけど、キミには勝てないな…。」
日向は頭を掻きながら照れ笑いをした。
「ありがとうございました」
シンジは礼をした。
そして、叔父の車に向かおうとした。
「待て!」
「?」
シンジは日向をみつめた。
すると、日向はシンジの掌に十字架のペンダントを手渡してきた。
「これを忘れてるぞ」
ミサトの父の形見。
そして、ミサトの形見だ。
「……いいんですか!?」
「僕が持つより、キミがもったほうが葛城さんは喜ぶ。」
「…でも」
「僕よりキミのが好きだったからね。」
日向は寂しそうに空をみつめた。
シンジは少し申し訳ないと思った。
「日向さん…。」
「悔しいんだよ、わかってくれ。」
日向は悲しみを押し殺し、照れ臭そうに笑うと、シンジに別れを告げるために大声を出した。
「元気でな!」
シンジは立ち止った。
「日向さん、ボク…いつか必ず戻ってきます。」
日向は驚いた。
「え?」
シンジは振り返ると、日向の目をまっすぐにみつめた。
その鋭い視線をみて、日向はようやくミサトがシンジを好きになった理由がわかった。
まっすぐだ、純粋で真っすぐな気持ち。
彼にはそれがある。
「僕は、大人になったら自衛隊に入ります!」
「…シンジ君。」
「日向さん、僕はミサトさんのかなえられなかったゴジラ討伐の夢を、かなえます。」
日向はクスッと笑った。
「なるほど、キミにはかなわないな…。」
「え?」
「葛城さんが、キミを好きになった理由がよーくわかった。」
「…え!?」
「君はまっすぐだ、曲がった所がない。純粋で潔白だ。そりゃ…かなわないわけだ。」
シンジは照れ臭そうに地面を俯いてみた。
そうなんだろうか…。
結局ミサトさんの気持ちはミサトさんにしかわからない。
日向は声を震わせて言った。
「シンジ君。また会おう。いつか必ず…。」
シンジは日向の顔を観た。
すると、前にみた冷たい日向がいた。
だが、その目に優しさがあった。
そして、彼は叫んだ。
「だが、そのために勉強はちゃんとしろよ!いいなッ!!!」
シンジは首を縦に振った。
すると日向は笑顔に戻っていった。
やがて、シンジは叔父の運転する車に乗った。
夕焼けの中叔父とシンジは去っていった。
シンジは窓から日向をみると、彼に敬礼を返した。
日向もシンジに敬礼をし返した。
そして、そのまま直立不動で敬礼でシンジを見送っていった。
日向が小さくなっていった。
シンジは車の中に戻った。
窓からミサトと過ごしたコンフォートがみえた。
コンフォートも打ちこわしが決まった。
新しい団地を作るらしい。
日向の計らいでミサトのいくつかの遺品をシンジにくれることとなった。
ミサトさんと過ごした日々は人生で一番楽しかった。
あのころは、もう二度と戻ってこない。
シンジはためいきをついた。
「はあ……」
基地からようやく抜けた。
そのすぐ後に、ミサトと乗った観覧車がみえた。
この観覧車施設も閉鎖するらしい。
大阪が襲撃されたことと何か関係があるといわれている。
それはシンジにも日向にもよくわからない。
あそこで生まれて初めてキスをした。
シンジは車の中から、外をみつめていた。
そして、十字架のペンダントをクビにかけた。
「シンジ、それは?」
叔父が話しかけてきた。
シンジは笑顔で言った。
「大事な人の宝物。」
叔父は、小さく「そうか」と言った。
その声には優しさが漏れていた。
シンジは決意した。
ミサトさんのためにも、今日を必死で生きていく。
強く決意したのだった。
彼女が生きた世界を必死で生き残る。
そのためには何でもする。
「ミサトさん、ボク強く生きます……」
世界は終わろうとしている。
だが、人は生き続ける。
僕は生きてみせる。
ミサトさんのためにも……。
そして、彼女がかなえる事のできなかった「ゴジラ打倒」の夢をかなえる。
絶対に…。
シンジはペンダントをギュっと握った。
彼はもう弱い少年ではなくなっていた。
太平洋某所
そこでは、大きな亀裂が入り無数の生命体がそこを行き来していた。
日本で暴れ狂ったゴジラは白い目を輝かせながら、その亀裂の中へと入っていった。
シンジたちは気が付いていないが、この亀裂の近くにその昔研究施設があった。
1940年代に発見されたそこは、国際機密として長い間隠されていた。
そこでは複数の国々と企業が、地球が移住できなくなった場合に備えて多元世界への移住を模索していた。
多元世界の先には、この地上と変わらない酸素があった。
川の水も飲めた。
ただ、一つ違うのは巨大な支配者種族がいた。
それがゴジラたちだった。
少数の科学者と軍人は、このゴジラを危険視した。
研究はやがて、多元世界への移住から新型大量破壊兵器の実験場となった。
ある意味では、ゴジラの持つ生命力への挑戦もあった。
そして、ある日彼らはとんでもない核爆弾を生み出しそれを使用した。
その威力は500兆度を軽く超える熱と圧力を持っていた。
だが、ゴジラたちの群れのボスはその熱と圧力の破壊的なエネルギーを簡単に食い尽くし、亀裂の先の世界に気が付いた。
彼らはその先にもっと芳醇なエネルギーがあるとわかった。
それが、彼らが地球へ侵略するすべての始まりだったのだ。
事実はゴジラとともに海の中にある、亀裂の先の世界へ消えていった。
ほかの個体はいずれにしても、少なくとも彼はこの世界に満足して帰っていった。
だが、彼はまた戻ってくるだろう。
ここは彼にとっていい餌場なのだから。
不幸にも幸運にも世界の終わりはまだ、遠そうだ。
Fin.
時間があれば本作の続編を別枠で製作するかもしれません。
最後まで読んでいただきありがとうございました。