エロRPGにTS転生した俺、快楽に身を委ねるかバッドエンド回避か、気持ち♥よすぎて♥困っちゃう♥ 作:夕凪カサネ
「あ、起きたんですかあ?」
柔らかく、甘ったるい声が、聞こえてきた。
ドアを開けて、部屋の中に女の子が入ってくる。エプロン姿の、素朴な雰囲気の、可愛い子だ。
「えっと、ここは……?」
と、言ってから、自分の声にあらためてびっくりした。当たり前のことかもしれないが、女戦士ヒカリの声そのものだ。俺は、完全に、ヒカリになってしまっている。意識だけが俺、という奇妙な状態。
「ミストの町ですう」
「あの、そうじゃなくて」
聞きたいのは、なんで現代日本にいた俺が、こんな中世ヨーロッパ風の世界にいるのか、ということである。
まず間違いなく、俺はゲームの世界に転生した。そのきっかけは、あの隕石なのだろう。なんなら、直前まで「稲妻の戦士ヒカリ」をプレイしていた影響もあるかもしれない。
それを、目の前の女の子に教わろうとして、やっぱり俺はやめることとした。彼女だって、聞かれても困るだろう。
「ああ、ここのことですねえ! ミストの町唯一の宿屋ですう。私は、ここの宿を営んでいるエレナですう」
「私、なんでここに?」
「うちの宿屋の前で、倒れていたんですよお。だいぶ弱っていたみたいなので、勝手に連れてきて、休んでもらってましたあ」
「ありがとう。ところで、ミストの町、って言ったよね」
「ええ、そうですう」
「エレナ。教えて。淫魔王ドゥームはこの先の塔にいるの⁉」
脳内では、「この先の塔にいるのか⁉」と男口調で聞いたつもりだったが、実際に喉から発せられたセリフは、ヒカリらしいまろやかな言い方になっていた。どうやら、頭の中で考えることと、言葉となって出てくるものは、違ったものになるらしい。
それはさて置き、淫魔王ドゥームである。
このエロゲ「稲妻の戦士ヒカリ」シリーズ一作目における、ラスボス。元々は淫魔インキュバスであったのが、邪神の力によって魔王と化してしまい、無数の触手がうごめくおぞましいモンスターとなったのだ。
そして、このドゥームによって、ミストの町は壊滅状態となり、若い少女達はみな拉致されて、女性の愛液を食糧とするドゥームのために、果てなき調教地獄を受ける羽目となってしまい……
その一連の話を聞いて、なにそれ許せない! と発憤して、ドゥームの塔へと少女達を助けに行くのが、第一作目のオープニングである。
「淫魔王ドゥーム……!」
たちまちエレナは眉を曇らせた。なんだか目が泳いでいるようにも見える。
「どうして、その名を、ご存知なのですかあ?」
「やっぱり。ドゥームに襲われた直後なのね、このミストの町は」
「はい……つい一ヶ月ほど前、モンスター達が押し寄せて……あっという間でしたあ」
「若い女の子達がさらわれた。そうでしょ」
「すごい。なんでもお見通しなんですねえ、あなたは」
それから、エレナは、俺の目を覗きこんできた。
透き通るような水色の瞳。どこか幼さを感じさせつつも、底には知性を漂わせている。綺麗だ。
「えっと、そういえばあ、あなたのお名前はあ?」
俺か? 俺は、ヒカル……
「私? 私はヒカリ。遠く東の島国から旅してきて、この大陸にやって来たの」
うおおい、そう来るか。俺個人のことを語ろうとすると、勝手に、ヒカリ専用のセリフに変換される。
「ヒカリさん。いい名前。ヒカリさんはこれからどうされるんですかあ?」
「どうするか、か……」
さて、困ったぞ。
と思った瞬間、目の前の空間に、ピッという電子音とともに、いきなり文章が浮かんできた。
▷「ミストの町を救う」
「黙ってこの町を去る」
(え? こんな選択肢があるなんて、聞いてないって!)
どちらかを選べというのだろうか。
こんな選択肢、「稲妻の戦士ヒカリ」の冒頭には存在しなかった。すでにオープニングの時点で、ヒカリはドゥームの塔の前に立っており、中へと突入する寸前になっているのである。そもそも迷いを抱くことはなかった。
だけど、いま、俺には二つの道が突きつけられている。
町を救うか、この町を去るか。
(町を救う、ってなったら、ドゥーム達と戦わないといけないんだよなあ……)
そうなったら、ゲームを遊ぶように、とんとん拍子でレベルアップして、なんの危うさもなくダンジョンを攻略、なんてこと出来るようになるのだろうか。いまいち自信がない。万が一、うっかり負けでもしたら、待ち受けているのは調教の日々。最後は肉奴隷となって終わる。ゲームの世界の出来事なら、単なる抜きポイントで終わるだけの話だが、自分がもしも誰かの奴隷になる、と考えると話は別だ。
「ミストの町を救う」
▷「黙ってこの町を去る」 ピッ
念じただけで、カーソルは動いた。
どうやらこの選択肢の文章は、エレナには見えていないらしい。彼女は、急に黙りこんだ俺のことを、不思議そうに見つめている。
(でも、これがゲームのオープニングだったら、町を去る選択肢なんて選んだら、間違いなくバッドエンドなんだよなあ)
ふつう一般のゲームは、そういうものだ。その先のストーリーなんて用意してもらえない。
じゃあ、「稲妻の戦士ヒカリ」の場合は、どうなる? もしも町を去ることにしたら、その瞬間、俺のゲーム内人生は終わりを告げるのか? 試しに選ぶ、なんて軽率なことをしてしまっていいのか?
と、悩んでいる内に、突如、ブブー! という警告音とともに、選択肢はカーソルごと消えてしまった。
「あはは、目が覚めたばかりで、まだ頭も働いていませんよねえ。わかりました、いまはまだゆっくりしていてくださいねえ」
エレナはそう言って、にこやかに手を振ると、部屋から出ていった。
残された俺は、ぽかんとした表情で、突っ立ったままでいる。
「え⁉ なに、これ⁉ 選択肢を選ばない、っていう選択もあるの⁉」
いまどきのゲームでは当たり前のようにある機能。第三の選択肢。しかし、大概の場合は、用意された選択肢を選ぶ前に時間切れとなったことについての、ペナルティのような結果が待っている。
果たして、選択肢を選ばなかったことによる結果は、どんなものになるのか……?
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