エロRPGにTS転生した俺、快楽に身を委ねるかバッドエンド回避か、気持ち♥よすぎて♥困っちゃう♥ 作:夕凪カサネ
「アストライアが、別宇宙での佐倉さんだっていうのか? ありえないだろ、そんなの」
「う、うん……そうだよね。変な話だよね」
「ごめん、佐倉さんの話を否定するつもりはないんだけど、でも、理屈から言って変だろ。『銀河天使アストライア』は、エロゲじゃないか。その世界は、君のお父さんがシナリオを書いて生み出した世界だろ。それが実在して、別宇宙にあるなんて、そんな不思議なこと……」
「そうだね。私も、そう思う」
アスカさんは恥ずかしそうにうつむいている。
ああ、彼女にこんな顔をしてもらいたくない。
俺は慌てて、フォローに入った。
「や、でも、宇宙の神秘なんて、俺にはわかんないから。もしかしたら、あるのかもしれないぜ、アストライアが実在する宇宙」
「そうなのかな……」
「そうだって、きっと」
と、やり取りをしていたら、突然、俺の真後ろの席に座っていた老夫婦がバッ! と立ち上がった。
「そのとーり!」
「え⁉ び、びっくりした!」
「この宇宙は多元的であり、多面的である! すなわちマルチバース! どのような世界があっても不思議ではないのであーる!」
爺さんのほうが、そんな風に演劇っぽい発声で語ると、爺さんの真向かいにいる婆さんもまた、歌うような声で高らかに言ってきた。
「クンルン様を信じなさい! 世界はやがて混沌に包まれる! クンルン様を信じなさい!」
クンルン……⁉
聞き覚えのある神様の名前に、俺は動揺する。
クンルンって、「稲妻の戦士ヒカリ」に登場する混沌神の名前じゃないか。その名を、どうして、この婆さんは急に出してきたんだ? え、なに、この婆さん、実は「稲妻の戦士ヒカリ」のプレイヤー?
「み、宮守君、こっちに来る? 大丈夫?」
老夫婦の側にいる俺のことを心配して、アスカさんは声をかけてきた。
いいや、ここは俺が防波堤となって、このむちゃくちゃ怪しい爺さん婆さんを食い止めなければ!
俺は片手を上げてアスカさんを制すると、かぶりを振った。心配ご無用だ、とばかりに。
「爺さんに婆さん。クンルンって、なに?」
「ほう、若者。クンルン様に興味を持っているのか」
「興味というか、その名前を聞いたことがあるもんで……」
「クンルン様は、異世界よりやって来た、偉大なる神だ。混沌を司っている。あの方こそがマルチバースを支配すべき至高の存在」
「それはわかったから。それより教えてほしいのは、クンルン教ってのがあるの?」
「おお! あるとも! なんだね、君も我らクンルン教団に入信するのかね⁉」
「ち、違う! そうじゃない!」
とはいえ、端から見たら、怪しい宗教に興味を示す危うい若者、としか見えないんだろうなあ、と思う。
カフェの店員さんが心配そうに見守っているし、離れた席に座っている大学生らしい四人組はチラチラとこっちを見てはクスクス笑ってる。うわあ、恥ずかしい。
「実は、そのクンルンって、ゲームの……」
と、言いかけたところで、
「おおっとお⁉」
爺さんが突然大声を上げた。
「いかんぞ、ばあさん! そろそろ礼拝の時間ではないか!」
「あらああ! いけないわね! 礼拝に遅れるのはまずいわ!」
婆さんもまた、甲高い声を上げ、急いで会計を済ませると、爺さんと並んでカフェから飛び出していった。
ポカンとした表情で、アスカさんは一連のやり取りを見守っている。
俺は再びアスカさんへと向き直る。
「ごめん。ちょっと気になることがあって」
「宮守君……ダメだよ、ああいう宗教関係の人と、迂闊に話したら。勧誘されちゃうんだから」
「いや、それが、あの爺さん婆さんが言ってたクンルンって、俺が遊んでいるエロゲに出てくる神様の名前なんだ」
と言ってから、しまった! と俺は青ざめた。
もうすでに、アスカさんにはバレているとはいえ、自分から自分の遊んでいるエロゲのことを話すなんて、言語道断。それは、性癖を素直にさらしているのと同じことである。
「ふうん、なんていうゲーム?」
手遅れだった。アスカさんは、興味を抱いている。
「『稲妻の戦士ヒカリ』……」
「うん、聞いたことない」
「相当古いゲームだからね。ひょっとしたら佐倉さんのお父さんとかは知ってるかもしれないけど」
「どうなんだろ。お父さんも、そこまで業界に詳しいわけじゃないから……で、その『稲妻の戦士ヒカリ』って、どんなゲームなの?」
「いわゆる3Dダンジョン系のRPGで……」
俺は「稲妻の戦士ヒカリ」について、アスカさんに詳しく説明した。
まさか学年一の美少女に、自分の性癖ドストライクのエロゲの話をする日が来るなんて、思ってもいなかった。
「なるほど……その二作目に登場する混沌神の名が、クンルンなのね」
アスカさんはしきりと頷きながら、何事か考えている。
「不思議な話ね……ゲームの中の存在が、現実のものとなって現れている……それって、まるで、私が『銀河天使アストライア』の夢を、現実のものとして見ているようなもの……空想と現実の境目がなくなって、ごっちゃになってきてる……」
「まさか。そんな、アメコミの世界じゃないんだから」
「だけど、事実、融合しつつあるわ」
「さっきのクンルン信者はたまたまだろ」
「本当にそうなのかな」
そう言って、アスカさんはアップルティーを口に含んだ。