それぞれの道があって、進む速度はなかなか合わない。
それも人生、そんなもの。
だけども愛があれば、どうにでもなるもの。
大丈夫大丈夫。
交わしたキスの温もりを唇に残し、また明日ねと千夏先輩は部屋へと戻っていく。
手を伸ばせば触れられる、いやそれだけじゃ足りない。その身体を掻き抱き、引き留めたい。
だけど、でも。それはダメなんだ。
ちゃんと節度を持たなければならない、それは絶対のルール。
俺たちがこうして一緒にいるために、ずっとずっと共に歩んでいくために。
今はまだ、ここで留まらなければならない。
これは二人の約束だ、お互いしっかり理性を保つ。だって好きだから、好きで居続けたいから。
俺は千夏先輩が好きで、千夏先輩は俺が好き。そんな単純な事に気が付くまで、どれくらいかかっただろうか。
だからこそ、想いを伝えあってからは毎日が大変だった。
隣同士の部屋で寝起きしている俺たちは、その気になればいつだって――
家族がいない連休の夜、俺たちは告白しあって初めて二人きりになっていた。
意識しない訳がない、俺だって木の又から生まれた訳じゃないんだから。
それでもなんとか、そういう想いは心のそこに封じ込めようとしていた。……していたんだけど。
気が付けば俺は千夏先輩を――
馬乗りになって俺を抑え込むその顔は上気し、吐息はこっちまでとろかしてしまいそうな程熱を帯びている。
明らかに理性をかなぐり捨てた様子に、冷や汗が背中を伝うのが分かった。
「大喜くん、好きです」
その言葉はいつだって、甘く優しい。でもその奥にあるのは、もっと強く激しい想いなのだろう。応える声を待たずにやって来た熱いキスが、それを教えてくれる。
粘膜から伝わる、その想い。もっと強く深く愛したい、愛されたいという感情。
それに突き動かされてるであろう先輩は、覆い被さったままモゾモゾと身体を動かして。俺を押さえ込んでいた手は肌の上をすべり、服の内側へと伸ばされていく。ゆっくりと探るように、でも確かな手付き。
「んと、あー……
俺の足の間をなで回すその指先は、弄ぶように軽やかだ。その刺激はあまりにも強く、血流はたちまち激しく押し寄せて
先輩が何を求めてるのか、何をしたいのか。それが分からない程、俺は子供じゃない。
恋人同士でする事、キスよりも先の事。セックスを、しようとしている。お互い、生まれて初めての。
それはきっと、何よりも幸福で。何よりも美しくて。
だけど、でも。
「あ……のっ、千夏先……ぱ、ぃ」
戒めが緩んだ腕をどうにか動かし、俺は千夏先輩の身体を押し退ける。触れた肌の熱さと柔らかさに戸惑いながらも、なんとか理性だけを武器に。
「俺は千夏先輩が、好きです。でも――こんな風には、したくないんです。ちゃんと大人になってから、するべきだと思います」
そんなのは綺麗事だ、と頭の奥でささやく声。ああ、そうだ。そんなこと考えず、ただ本能に任せてしまえば良いんだ。
何度この人の姿を思い浮かべて妄想に励んだだろう、そして何度自己嫌悪に沈んだだろう。誰よりも好きな人を、そういう目で見たくない。だけど好きだからこそ、全てを捧げたい。先輩の全てが欲しい、それも俺の本心だ。
だからこそ、流されたくない。今の俺に、そんな資格はないから。
「そっか、……そうなのか」
短い沈黙の後、千夏先輩はそう呟いて俺の上から降りた。その瞳には僅かに涙が浮かんでいたけれど、でもすぐにそれは消えて失せた。
ひょいっと立ち上がった千夏先輩は晴れやかに笑い、そして俺を抱えあげてキスをしてくれたのだ。
「まあ、そうだね。私もまだまだ部活とか色々あるしさ、身体のバランス壊したくないんだよね。渚が言ってたよ、内臓ズレるかと思ったって。さすがにそういう経験してから、ベストコンディションに戻すの大変だろうしね」
……まあ、俺も何処かでそんな話を聞いた気はする。言われれば確かに、場所が場所だ。男子と違って女子は大変なんだな、と感じたような記憶があったりなかったり。
それに、……それに。もし罷り間違って妊娠なんて事になったら、何もかも台無しにしてしまうかもしれない。俺は責任もとれないただの子供でしかないんだ、そうなってしまったらどうにも出来ない。
つまり俺は――怖いんだ。俺みたいなのがこの人の人生を左右するのが、たまらなく怖い。
ヘタレと言わば言え、俺は所詮この程度だ。
「――じゃあ、さ。私が卒業するまでは、お互い我慢しようか。大喜くんが卒業するまでだと、ちょっと無理そうだし」
向こうも向こうで、思うところはあるんだろうけれど。満足気に笑ってそういいながら、千夏先輩は俺にもう一度キスをした。
それから日々は矢のように過ぎてはいるけれど、でも俺は毎晩悶々としていた。
なにしろ千夏先輩と来たら、毎晩キスをして部屋に戻った後
ただでさえキスの熱が冷めないまま身体は疼くのに、こんなのは……。
「ぅぁ、あ、ぁー……」
腹筋で邪念を振り払おう、と思えたのは最初の数日。すぐに我慢が効かなくなり、先輩の声を聞きながらオナニーしてしまっている自分がいる。
思えば初めて先輩をオカズにしてしまったのは、まだ朝練で一緒になる前だった。憧れのお姉さん、という感じで軽く考えていたのを覚えている。そして先輩の背負う環境を知り、酷く自分を恥じたものだ。でもまさか、こうして壁越しに背中を合わせてオナニーする日が来るなんて。
約束なんて、と心の何処かで思ってしまうのが辛い。自分で言っておいて、その癖こんな事考えているんだから俺も救われないな。
壁の向こうから来る嬌声に導かれるまま扱き立て、瞼の裏には千夏先輩の痴態を描き出す。女子のオナニーなんて想像出来ないけど、それでもこの淫らな音はイメージを何処までも拡張して余りある。
『大喜くん、大喜くん、大喜くん……!』
すがりつくような声は甲高くなり、そして一気に弾けたのが俺にとっても楔となった。
唇を噛み締め声を封じながら、手の中では精液が迸る。
とくとくと溢れる射精が終わると、襲ってくるのは倦怠感。ああ、全く単純だな。
その心地良い疲労を感じていた俺の耳に、少し遅れていつもの音がやって来る。隣室のドアが開く音、そして出てくる足音。千夏先輩が、部屋を出たんだな。そして足音は階段を降りていく、きっとオナニーの後始末だろう。手を洗うとかそういう。そして戻ってくる時、千夏先輩はこの部屋の前で立ち止まる。ノックもしないし声もかけない、それでも必ず。その日がくるまで、きっと毎日これを繰り返す。
――ドアを開けてしまえば、そこでもう終わる。それが分かっているから俺は、息を潜めてただ待つのだ。先輩が部屋へ入り、鍵をかけるまで。そうしたら俺も手を洗って寝よう、明日も朝練だ。
季節はもう、二度目の冬を迎えた。春になれば、そこで約束は果たされる。
その日まで、ちゃんと我慢しよう。お互いの為に。
そして――その時は訪れた。
千夏先輩は卒業し、明日この家を出る。母さんは夕飯の時に「お部屋はそのままにしておくから、いつでも戻ってきてね」と、お嫁に行く娘を見送るような事を言っていたっけ。父さんもじいちゃんも、まるで本当の家族が去っていくかのように涙していた。二年の間にあの人は、猪股家の一員になっていたんだ。そしてそれは、俺も同じだ。
いつものように風呂上がりでベッドに転がっていても、気は全く落ち着かない。
何度目かのため息を吐いた、その時。
コンと一つ小さくドアが叩かれ、応対の声を待つ事なく――千夏先輩は当然のように俺の部屋へ入ってきた。
「えっと、大喜くん。……今日が最後、ですね」
「そうです、ね」
「と言うことは、つまりもう――
ニヘラと笑うその顔はまるで無邪気な子供のようだけど、実際はそうじゃないと俺は分かっている。そもそも無邪気な子供は、裸で人の部屋に来たりしないし。
桜色の肌には少しだけ汗が浮かび、太股には真新しい水跡が見えている。明らかに発情しきった、本能全開の姿。
まあ俺だって、期待はしていた。さすがに服は脱いでいないけど、そろそろかなと思っていた所だ。とは言えちょっと本能に忠実過ぎませんか先輩、いや知ってはいたけど。この二年間で、どれだけ千夏先輩の知らない面を見ただろうか。ストイックで完璧な女性、というのは外側だけだ。バスケ以外ではぽややんとして雑、雑把でガサツ。食欲には抗わない、食いしん坊ですぐ拗ねる。したい事しかしないし、言葉が足りない。そして、そして――俺を好きになってくれた。何度もすれ違ったしうまくはいかなかったけど、それでも俺を大切にしてくれる。
だから俺も全てを捧げたいと思える、誰よりも愛している。
そうでなければ、
真っ直ぐに、その想いを込めて俺は千夏先輩を抱き締めて。返事の代わりに、キスをしていた。
息が出来なくなるほど濃厚に唇を貪りあいながら、俺たちはベッドに倒れ込む。
あの時と同じように俺は千夏先輩の下になったけど、もう抵抗はしない。その唇がゆっくりと頬へ、喉脇を通って胸へと降りていくのが、心地良い。そのまま下がっていく口が乳首を捉え、俺は思わず声を上げてしまった。
それがちょっと失敗だったと気付いた時には、既に遅かったのだ。瞳に悪戯な輝きを宿し千夏先輩は、そこを執拗に舐め始めた。そうだ、この人はドSじゃないか。こっちが弱点を見せたら、突いてくるに決まっている。
「そっかー、大喜くんはおっぱい感じる方なんだね。私そうでもないけど、花恋はここすごく弱いんだよねぇ……」
なんだか聞かない方が良いことを聞かされている気がするけれど、でもそれを考えるほどの余裕はない。再び顔を下ろしてちゅぴちゅぴとついばみながら、しかも先輩はこの前のように手を這わせて来ている。二度目だからか遠慮もなく、割と強めのタッチで。
しなやかで熱い、狂おしい程快感を呼び込む指先。毎晩のように妄想したその行為に、耐えられる訳は無かった。
「ん、……っ、ぁ……」
先輩に乳首を責められ、先輩の手に包まれ、呆気なく射精が始まってしまう。輸精菅が脈打ち精液を放つ快感に溺れる顔を、こんなにも近くで見られている。そう思うだけで、興奮は更に高まっていく。
ようやく射精が治まったのを確認して先輩は俺の胸から顔を上げ、にこやかな笑顔を浮かべた。
「あ、……は。こんな風になるんだぁ……、スゴいなぁ……。いっぱい出るんだね、大喜くんの「好き」ってさ」
好き。そう、なんだ。千夏先輩が好きだから、こんなにも気持ちいい。身体から「好き」が溢れて、止まらない。
もっと、もっと。
蕩けた頭でそう思ったのが伝わったのか、千夏先輩はくるりと身体を滑らせて――前後を入れ換えた。向かい合っていた顔は足の方へ、そして俺の顔の前には。
「恥ずかしいけど、さ。大喜くんには、私を全部知って欲しいから」
そこに晒されたのは、千夏先輩の下半身。まるで唇のようなオンナノコが、そこにあった。染み出ているのはきっと、興奮の証。吸い寄せられるようにそこへと向かっていく、俺の頭。
まるでキスをするように顔を密着させ、俺はそれでも止まれない。そのまま舌を突き入れ、内側へと進んでいく。
甘く酸っぱい、独特の味。鼻先に感じるのは、千夏先輩の秘密の匂い。俺だけが知っている、他の誰もきっと知ることの無いもの。
でもまだ足りない、もっともっと知りたい。千夏先輩の全てが欲しい、俺の事も全て知って欲しい。
だから、もっと。この先へ、進みたい。
その想いを込めて、俺は更に舌を動かし続けた。
「じゃ、あ……。そろそろ、ね……」
大きく足を開いて、千夏先輩は更に両手でオンナノコを割り拡げた。舐めている時には見えなかったサーモンピンクの内側は粘液にまみれ、物欲しげに蠢いて見えた。ここに、入るんだ。俺はそれを、許されたんだ。
――と。最後に残っていた理性が、ほんの少しだけ俺にブレーキをかけてくれた。このまましてはいけない、そう警鐘を鳴らして。
「あ、……ゴム、付けないと……」
そうだ、それは必要なはずだ。愛してるからこそ、必要なんだ。ベッドサイドに置いていた包みをとろうと、伸ばした手はしかし。
「良いよ。……私は大喜くんを愛したい、大喜くんの子供が欲しい。一生一緒にいたいし、死に水もとって上げたい。私は大喜くん以外に、誰もほしくない」
その瞳は快楽に蕩けて尚覚悟に燃え、灼熱色の輝きを失ってはいない。そうだ、俺は千夏先輩に
ならば――俺は今から、この人に人生を捧げよう。どんな事になろうと、この人を一生愛すると誓う。
俺の全ては、千夏先輩の物だ。
「……はい。今は出来ないけど、俺が卒業したら結婚しましょう」
そう宣言しながら俺は腰を進め、柔らかい肉の裂け目へと自分自身を押し当てる。
そのままゆっくりと押し広げるように侵入していくと、半分くらいが入った辺りで千夏先輩の眉間に一瞬シワが寄り「い……っ」僅かに声が漏れ出る。女子は最初痛みがあるとは聞くけど、きっとこれが「そう」なんだろう。愛する人の身体に取り返しがつかない傷を刻んだ罪悪感と、愛する人を
そもそもの物理的な刺激も凄まじい、全体を柔らかな鑢で擦られているよう。こんなにも、スゴいのか。オンナノコって、ここまで情熱的なのか。その上不規則に内側が締め付けたり緩めたり、その動きも激しすぎる。
「あのっ、先……輩、中……っ。これ、わざと、です……かっ」
「ん、えー……分かんない、よぉ……。お腹の中、大……喜くんで、いっぱい……だし……」
お互い意識の外で、相手を責め立ててるんだろうか。もしそうなら――それこそスゴいことだ。考えるより先に、相手を愛そうとしてるんだから。
そしてそれは加速し続けるもののようで、無意識のうちに俺たちは激しく腰を打ち付けあい、口からは呻くように愛を垂れ流していく。
永遠にこのままでいたい、ずっとずっと繋がってたい。
でもその思いは、本能に押し流されてしまう。
「……ぁ、出……ます、このまま……!」
「う……ん、いい、よっ、全部……注いで……!」
その一言が、楔になった。
ドクンと激しく鼓動が脈打ち、全身を貫く程強烈な射精感が駆け抜けていく。薄れていく意識の中ではっきりとイメージ出来るのは、千夏先輩の内側の様子。俺の精液が千夏先輩の子宮へと迸り、その奥の奥まで充たしていく。勿論そんな簡単な構造ではないんだろうけど、でもそうなって欲しい。
魂まで抜け出ていくような激しい射精に身を任せ、俺は幸福感に包まれながら目を閉じる。
これからもずっと、愛している。きっとずっと、永遠に。その思いだけを、胸に込めて。
「じゃあ、またね」
何度も交わり続けた熱い一夜が終わり、千夏先輩は寝不足のまま家を出る。それは変えられない事だから、何も言ったりはしない。
お互いにするべき事がある、まだ一緒にはなれない。今度会うのは次の春、俺が卒業してからだ。それはあのあと交わした、俺たちの新しい約束。
もしかしたらその時には、
まあ、大丈夫だろう。だって、俺たちなんだから。
きっと必ず、俺たちは幸福になる。と言うか、そうなるに決まってる。こんなに人を愛して幸せで無かったら、それこそ大変だよ。
遠ざかる背中を見送り、俺は決意と共に拳を振り上げた。
「さて、と。まずはインターハイだな」
次に会うまで、とにかく頑張っていかないと。無様な姿じゃ格好悪いから。
さぁ――気張っていくか。俺たちの未来のために。
結局まあ結婚はしそうですよね❤️